説明

波形記録装置

【課題】測定対象信号を適切なサンプリング周期で記録させる。
【解決手段】測定対象信号S1を基準サンプリング周期Tsでサンプリングして基準波形データDwsを出力するA/D変換部2と、基準波形データDwsのうちから記録サンプリング周期(サンプリングクロックSck1)に同期して入力される基準波形データDwsを記録波形データDwmとして記憶部5に記録させる処理部3とを備え、処理部3は、記録サンプリング周期以上の長さの比較周期(比較クロックSck2)毎に、比較周期に含まれる基準波形データDwsの最大値Dmax1と最小値Dmin1との基準波形差分値Ddif1を検出し、比較周期に含まれる記録波形データDwmの最大値Dmax2と最小値Dmin2との記録波形差分値Ddif2を検出し、基準波形差分値Ddif1を記録波形差分値Ddif2で除算した除算値Ddivが閾値を超えるときに報知処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象信号をサンプリングしてその信号波形を示す波形データを記録する波形記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の波形記録装置として、下記特許文献1に開示されたアナログ信号処理装置が知られている。このアナログ信号処理装置は、アナログ回路、処理部、データ収集メモリ、スレーブASICを内蔵するアナログ入力ユニットを備えている。
【0003】
このアナログ信号処理装置では、アナログ回路が、入力されたアナログ信号を所定のサンプリング周期でディジタルデータにA/D変換する。処理部は、アナログ回路から出力されるディジタルデータに対して演算を行い、サンプリング周期毎のディジタル値を出力して、データ収集メモリに順次記憶させる。また、処理部は、所定数のディジタル値がデータ収集メモリに記憶された時点で、すなわち、サンプリング周期と所定数との積に相当する時間が経過した時点で、データ収集メモリに記憶された所定数のディジタル値を読み出してスレーブASICに転送する。スレーブASICは、CPUユニットとアナログ入力ユニットとのバス通信を司る通信インターフェイスを含み、処理部から転送されたディジタル値をCPUユニットに出力する。
【0004】
具体的には、処理部は、ディジタル値演算部、サンプリング周期設定部、温度補正実行部、温度補正指令部および記憶部を有する。この場合、ディジタル値演算部は、アナログ回路から与えられたディジタルデータにオフセット補正およびゲイン補正を施してサンプリング周期ごとのディジタル値を出力する。サンプリング周期設定部は、CPUユニットからの指令にしたがってサンプリング周期を設定する。サンプリング周期は、アプリケーションに応じて適切な時間間隔が設定される。制御対象(測定対象)からのアナログ信号の変化が比較的緩やかなアプリケーションではサンプリング周期を長く設定することができ、逆に制御対象からのアナログ信号が急激に変化するようなアプリケーションでは、サンプリング周期を短く設定する必要がある。ただし、アナログ回路でのA/D変換の処理に要するサンプリング単位時間より短いサンプリング周期を設定することはできない。ユーザは、CPUユニットに接続されるコンピュータ等のユーザーインターフェイスを用いて適切なサンプリング周期を指定することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−165737号公報(第5−7頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記の波形記録装置としてのアナログ信号処理装置には、以下の解決すべき課題が存在している。すなわち、この波形記録装置では、ユーザがサンプリング周期を指定する構成のため、ユーザによって指定されたサンプリング周期が測定対象信号としてのアナログ信号に対して適切なサンプリング周期とならない状況が生じるおそれがある。また、ユーザはこのような状況が生じていることを確認することができないため、この波形記録装置には、ユーザが指定したサンプリング周期によっては、測定対象信号を正確に記録できないという解決すべき課題が存在している。
【0007】
本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、測定対象信号をより適切なサンプリング周期で記録させ得る波形記録装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく請求項1記載の波形記録装置は、入力した測定対象信号を基準サンプリング周期でサンプリングして当該測定対象信号の信号波形を示す基準波形データを出力するA/D変換部と、前記A/D変換部から出力される前記基準波形データのうちから設定された周期であって前記基準サンプリング周期以上の長さの記録サンプリング周期に同期して入力される当該基準波形データを記録波形データとして取得して記憶部に記録させる記録処理を実行する処理部とを備えている波形記録装置であって、前記処理部は、前記記録サンプリング周期以上の長さに予め規定された比較周期毎に、当該比較周期に含まれる前記基準波形データにおける波形値の最大値と最小値との基準波形差分値を検出する第1差分検出処理と、前記比較周期毎に、当該比較周期に含まれる前記記録波形データにおける波形値の最大値と最小値との記録波形差分値を検出する第2差分検出処理と、前記比較周期毎に、前記基準波形差分値を前記記録波形差分値で除算して得られる除算値と予め規定された1以上の値の閾値とを比較して、当該除算値が当該閾値を超えるときに予め規定された情報を報知する報知処理とを実行する。
【0009】
また、請求項2記載の波形記録装置は、請求項1記載の波形記録装置において、前記処理部は、前記比較周期を前記記録サンプリング周期と同一に規定して、前記第1差分検出処理、前記第2差分検出処理および前記報知処理を実行する。
【0010】
また、請求項3記載の波形記録装置は、請求項1または2記載の波形記録装置において、表示装置を備え、前記処理部は、前記記録波形データによって表される前記測定対象信号についての前記信号波形を前記表示装置に表示させる表示処理を実行すると共に、前記報知処理において前記情報の内容を前記表示装置に表示させて報知する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の波形記録装置では、処理部が、比較周期毎に、比較周期に含まれる基準波形データにおける波形値の最大値と最小値との基準波形差分値を検出する第1差分検出処理、比較周期に含まれる記録波形データにおける波形値の最大値と最小値との記録波形差分値を検出する第2差分検出処理、および基準波形差分値を記録波形差分値で除算して得られる除算値が閾値を超えるときに予め規定された情報を報知する報知処理を実行する。
【0012】
したがって、この波形記録装置によれば、ユーザに対して、ユーザが設定した記録サンプリング周期でのサンプリングでは、測定対象信号の信号波形の一部に取りこぼしが生じたり、この取りこぼしに起因したエイリアシングが発生したりしている可能性が高いことを確実に認識させることができる。また、これにより、ユーザに対して、現在の記録サンプリング周期よりも短い周期を記録サンプリング周期として設定させるように報知させることもできるため、測定対象信号をより短い適切な長さの記録サンプリング周期でサンプリングして、測定対象信号の信号波形を正確に記録させることができる。
【0013】
また、請求項2記載の波形記録装置によれば、記録サンプリング周期毎に、つまり、より短い周期で、記録サンプリング周期の適・不適を判別することができ、この結果、ユーザに対して、測定対象信号をサンプリングする記録サンプリング周期が適切でないことを一層迅速に認識させて、適正な記録サンプリング周期に設定させることができる。また、測定対象信号の信号波形についての取りこぼしの検出精度を高めることができる。
【0014】
また、請求項3記載の波形記録装置によれば、記録サンプリング周期が不適切であると判別したときに、その旨が表示装置に表示されることから、ユーザが測定対象信号についての信号波形を観測しつつ、現在の記録サンプリング周期が不適切であるか否かを確認することができる。このため、記録サンプリング周期が不適切であることをユーザに対して確実に認識させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】波形記録装置1の構成図である。
【図2】波形記録装置1の動作を説明するための波形図である。
【図3】波形記録装置1の他の動作を説明するための波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、波形記録装置1の実施の形態について説明する。
【0017】
まず、波形記録装置1の構成について、図1,2を参照して説明する。
【0018】
波形記録装置1は、図1に示すように、A/D変換部2、処理部3、操作部4、記憶部(記録部)5および出力部6を備え、入力した測定対象信号S1をサンプリングしてその信号波形を示す波形データにA/D変換して、記録波形データDwmとして記録(記憶)する。なお、測定対象信号S1は、交流信号、直流信号および直流信号に交流信号が重畳した信号のいずれであってもよい。
【0019】
A/D変換部2は、A/D変換器(不図示)を備えて構成されて、入力した測定対象信号S1を予め規定された基準サンプリング周期Ts(例えば、内部クロックSckの周期(例えば25nsのサンプリング周期))でサンプリングして、測定対象信号S1の信号波形を示す波形データ(基準波形データ)Dwsに変換して処理部3に出力する。
【0020】
処理部3は、一例として、FPGA(Field Programmable Gate Array )で構成された第1処理部3a、およびCPUで構成された第2処理部3bを備えている。第1処理部3aは、一例として、第1最大値検出部11(以下、「最大値検出部11」ともいう)、第1最小値検出部12(以下、「最小値検出部12」ともいう)、第1差分検出部13(以下、「差分検出部13」ともいう)、データ抽出部14、第2最大値検出部15(以下、「最大値検出部15」ともいう)、第2最小値検出部16(以下、「最小値検出部16」ともいう)、第2差分検出部17(以下、「差分検出部17」ともいう)、および除算値算出部18を備えている。
【0021】
この場合、最大値検出部11は、A/D変換部2から出力される基準波形データDwsを入力すると共に、第2処理部3bから出力される比較クロックSck2(比較周期Tc(図2参照))に同期して、比較クロックSck2の1周期(つまり、比較周期Tc)内での基準波形データDwsについての最大値Dmax1を検出する。また、最大値検出部11は、比較周期Tcに同期(例えば、最大値Dmax1の検出が完了した比較周期Tcの終期に同期)して、検出した最大値Dmax1を差分検出部13に出力する。
【0022】
最小値検出部12は、基準波形データDwsを入力すると共に、比較クロックSck2に同期して(比較周期Tc毎に)、比較クロックSck2の1周期(つまり、比較周期Tc)内での基準波形データDwsについての最小値Dmin1を検出する。また、最小値検出部12は、比較周期Tcに同期(例えば、最小値Dmin1の検出が完了した比較周期Tcの終期に同期)して、つまり、最大値検出部11による最大値Dmax1の出力タイミングと同一タイミングで、検出した最小値Dmin1を差分検出部13に出力する。
【0023】
差分検出部13は、比較クロックSck2に同期して(比較周期Tc毎に)、最大値検出部11から出力される最大値Dmax1と最小値検出部12から出力される最小値Dmin1との差分値(=Dmax1−Dmin1)である基準波形差分値Ddif1を検出して除算値算出部18に出力する(第1差分検出処理)。
【0024】
データ抽出部14は、A/D変換部2から出力される基準波形データDwsを入力すると共に、この基準波形データDwsのうちから、第2処理部3bから出力されるサンプリングクロックSck1の1周期(記録サンプリング周期Tm(図2参照))に同期して入力される基準波形データDwsを抽出(取得)して、記録波形データDwmとして出力する。つまり、データ抽出部14は、基準サンプリング周期Tsの基準波形データDwsを間引いて、記録サンプリング周期Tmの記録波形データDwmとして出力する。
【0025】
最大値検出部15は、データ抽出部14から出力される記録波形データDwmを入力すると共に、比較クロックSck2に同期して、比較クロックSck2の1周期(つまり、比較周期Tc)内での記録波形データDwmについての最大値Dmax2を検出する。また、最大値検出部15は、比較周期Tcに同期(例えば、最大値Dmax2の検出が完了した比較周期Tcの終期に同期)して、検出した最大値Dmax2を差分検出部17に出力する。
【0026】
最小値検出部16は、記録波形データDwmを入力すると共に、比較クロックSck2に同期して(比較周期Tc毎に)、比較クロックSck2の1周期(比較周期Tc)内での記録波形データDwmについての最小値Dmin2を検出する。また、最小値検出部16は、比較周期Tcに同期(例えば、最小値Dmin2の検出が完了した比較周期Tcの終期に同期)して、つまり、最大値検出部15による最大値Dmax2の出力タイミング(最大値検出部11による最大値Dmax1の出力タイミングでもある)と同一タイミングで、検出した最小値Dmin2を差分検出部17に出力する。
【0027】
差分検出部17は、比較クロックSck2に同期して(比較周期Tc毎に)、最大値検出部15から出力される最大値Dmax2と最小値検出部16から出力される最小値Dmin2との差分値(=Dmax2−Dmin2)である記録波形差分値Ddif2を検出して除算値算出部18に出力する(第2差分検出処理)。
【0028】
除算値算出部18は、比較クロックSck2に同期して(比較周期Tc毎に)、差分検出部13から出力される基準波形差分値Ddif1および差分検出部17から出力される記録波形差分値Ddif2を入力すると共に、基準波形差分値Ddif1を記録波形差分値Ddif2で除算した除算値Ddivを算出して、第2処理部3bに出力する。
【0029】
第2処理部3bは、クロック生成処理、記録処理、表示処理および報知処理を実行する。クロック生成処理では、第2処理部3bは、内部クロックSckを分周することにより、操作部4から入力したサンプリング設定データDcycで示される記録サンプリング周期TmのサンプリングクロックSck1を生成して出力する。また、第2処理部3bは、このクロック生成処理において、内部クロックSckを分周することにより、サンプリングクロックSck1のn(1以上の整数)倍の周期(比較周期)の比較クロックSck2を生成して出力する。本例では、この数値nは予め例えば1に規定されているため、第2処理部3bは、サンプリングクロックSck1と同期し、かつ同一の長さの周期の比較クロックSck2を生成して出力する。
【0030】
記録処理では、第2処理部3bは、サンプリングクロックSck1の1周期(記録サンプリング周期Tm)毎に、データ抽出部14から出力される記録波形データDwmを取得して、記憶部5に記録させる。表示処理では、第2処理部3bは、記憶部5に記録されている記録波形データDwmに基づいて測定対象信号S1の波形を後述するように一例として表示装置で構成された出力部6に表示させる。
【0031】
報知処理では、第2処理部3bは、比較クロックSck2に同期して(比較周期Tc毎に)除算値算出部18から出力される除算値Ddivと予め規定された閾値(1以上の数。例えば、数値「1.2」)とを比較して、除算値Ddivが閾値を超えるときに、記録サンプリング周期Tmが不適切であると判別して、記録サンプリング周期Tmが不適切であるとの旨を予め規定された情報として報知する。本例では、第2処理部3bは、報知処理において記録サンプリング周期Tmが不適切であると判別したときに、表示処理においてその旨(一例として、記録サンプリング周期Tmが不適切であることを示す報知マークM(例えば、「記録サンプリング周期がNG」の文字))を測定対象信号S1の信号波形Wと共に出力部6に表示させる。
【0032】
操作部4は、例えば操作キー(図示せず)を複数備え、操作された操作キーによって指定された記録サンプリング周期Tmを示すサンプリング設定データDcycを第2処理部3bに出力する。記憶部5は、RAMなどの半導体メモリや、HDD(Hard disk drive)で構成されて、記録波形データDwmなどを記録する。
【0033】
出力部6は、一例として、液晶ディスプレイなどの表示装置で構成されて、測定対象信号S1の信号波形W、および報知マークMを画面に表示する。なお、表示装置に代えて、外部装置(外部記憶媒体などの外部記憶装置を含む)とのインターフェース回路で出力部6を構成して、この外部装置に測定対象信号S1の信号波形W、および報知マークMを出力することもできる。
【0034】
次に、波形記録装置1の動作について図面を参照して説明する。なお、第2処理部3bに対して、操作部4を介してサンプリングクロックSck1の記録サンプリング周期Tmを内部クロックSckの周期の4倍に設定する旨のサンプリング設定データDcycが予め入力されているものとする。また、測定対象信号S1は、一例として、正弦波信号であるものとする。
【0035】
この状態において、波形記録装置1では、第2処理部3bが、クロック生成処理を実行することにより、内部クロックSckに基づいて、サンプリング設定データDcycで設定された周期でサンプリングクロックSck1(記録サンプリング周期Tm)および比較クロックSck2(比較周期Tc)を生成して出力する。
【0036】
A/D変換部2は、図2に示すように、入力している測定対象信号S1を内部クロックSck(基準サンプリング周期Ts)に同期してサンプリングして、図1に示すように、基準波形データDwsに変換して出力する。
【0037】
第1処理部3aでは、データ抽出部14が、基準波形データDws(図2において、記号○および記号□を付したデータ)を入力すると共に、この基準波形データDwsのうちからサンプリングクロックSck1の1周期(記録サンプリング周期Tm)に同期して入力される基準波形データDws(図2において、記号□を付したデータ)を抽出(取得)して、記録波形データDwmとして出力する。これにより、図2に示すポイントP0,P4,P8,P12,・・・での基準波形データDwsが、データ抽出部14によって記録波形データDwmとして抽出されて出力される。
【0038】
また、最大値検出部11は、基準波形データDwsを入力すると共に、比較クロックSck2(比較周期Tc)に同期して、比較クロックSck2の1周期(比較周期Tc)内での基準波形データDwsについての最大値Dmax1を検出して差分検出部13に出力する。また、最小値検出部12は、基準波形データDwsを入力すると共に、比較クロックSck2に同期して、比較クロックSck2の1周期(比較周期Tc)内での基準波形データDwsについての最小値Dmin1を検出して差分検出部13に出力する。
【0039】
差分検出部13は、比較クロックSck2に同期して(比較周期Tc毎に)、最大値Dmax1と最小値Dmin1との差分値(=Dmax1−Dmin1)である基準波形差分値Ddif1を検出して除算値算出部18に出力する。
【0040】
一方、最大値検出部15は、記録波形データDwmを入力すると共に、比較クロックSck2に同期して、比較クロックSck2の1周期(比較周期Tc)内での記録波形データDwmについての最大値Dmax2を検出して差分検出部17に出力する。また、最小値検出部16は、記録波形データDwmを入力すると共に、比較クロックSck2に同期して(比較周期Tc毎に)、比較クロックSck2の1周期(比較周期Tc)内での記録波形データDwmについての最小値Dmin2を検出して差分検出部17に出力する。差分検出部17は、比較クロックSck2に同期して(比較周期Tc毎に)、最大値Dmax2と最小値Dmin2との差分値(=Dmax2−Dmin2)である記録波形差分値Ddif2を検出して除算値算出部18に出力する。
【0041】
除算値算出部18は、比較クロックSck2に同期して(比較周期Tc毎に)、差分検出部13から出力される基準波形差分値Ddif1および差分検出部17から出力される記録波形差分値Ddif2を入力すると共に、基準波形差分値Ddif1を記録波形差分値Ddif2で除算した除算値Ddivを算出して、第2処理部3bに出力する。
【0042】
次に、除算値算出部18から第2処理部3bに出力される除算値Ddivについて説明する。
【0043】
まず、本例のように、記録サンプリング周期Tmが比較周期Tcと等しい場合(同一長で、同期している場合)には、記録波形データDwmについては、図2に示すように、比較周期Tcの始期(例えば、比較周期Tc(1)ではポイントP0)および終期(例えば、比較周期Tc(1)ではポイントP4)の2ポイントにのみ存在する状態となっている。このため、この2ポイントでの記録波形データDwmのいずれか一方が、常に比較周期Tc内での最大値Dmax2となり、いずれか他方が常に最小値Dmin2となる。
【0044】
これに対して、基準サンプリング周期Tsの長さは比較周期Tcよりも短いことから、基準波形データDwsについては、比較周期Tcの始期および終期の2ポイントだけでなく、これら2つのポイントの間にも存在する状態となっている。このため、基準波形データDwsについての最大値Dmax1および最小値Dmin1となる各ポイントは、比較周期Tc内での測定対象信号S1の信号波形の波形形状により、その存在位置が変化する。
【0045】
具体的には、図2に示す各比較周期Tcのうちの1番目、6番目および7番目の比較周期Tc(1),Tc(6),Tc(7)のように、測定対象信号S1の信号波形が徐々に低下または上昇する場合(比較周期Tc内に極大点や極小点が存在しない場合)には、比較周期Tcの始期(例えば、比較周期Tc(1)ではポイントP0)での基準波形データDwsおよび記録波形データDwmが、この比較周期Tc内での最大値Dmax1,Dmax2および最小値Dmin1,Dmin2の一方となり、かつ比較周期Tcの終期(例えば、比較周期Tc(1)ではポイントP4)での基準波形データDwsおよび記録波形データDwmが、この比較周期Tc内での最大値Dmax1,Dmax2および最小値Dmin1,Dmin2の他方となる。このため、このような比較周期Tcでは、両最大値Dmax1,Dmax2が共に等しく、かつ両最小値Dmin1,Dmin2が共に等しくなるため、基準波形差分値Ddif1および記録波形差分値Ddif2も等しくなる結果、除算値Ddivは数値「1」となる。
【0046】
一方、図2に示す各比較周期Tcのうちの2番目、3番目、4番目および5番目の比較周期Tc(2),Tc(3),Tc(4),Tc(5)のように、比較周期Tc内に極大点や極小点が1または複数存在する場合には、基準波形データDwsについては、極大点に位置しているポイントまたは極大点近傍に位置しているポイントでの基準波形データDwsのうちの最大のものが最大値Dmax1となり、極小点に位置しているポイントまたは極小点近傍に位置しているポイントでの基準波形データDwsのうちの最小のものが最小値Dmin1となる。このため、基準波形データDwsについての基準波形差分値Ddif1は、比較周期Tcの始期および終期に位置している2つのポイントのいずれか一方が最大値Dmax2となり、いずれか他方が最小値Dmin2となる記録波形データDwmについての記録波形差分値Ddif2とは異なる値となる。したがって、除算値Ddivは数値「1」を超える値となる。
【0047】
例を挙げて説明すると、2番目の比較周期Tc(2)のように、測定対象信号S1の極小点が存在するものの、この極小点近傍に位置するポイント5での基準波形データDwsについての最小値Dmin1と、このポイント5に隣接する比較周期Tcの始期(ポイント4)での記録波形データDwmについての最小値Dmin2とは、相違するもののその違いが僅かであり、かつこれらの最小値Dmin1,Dmin2と、比較周期Tcの終期(ポイント8)での基準波形データDwsおよび記録波形データDwmについての最大値Dmax1,Dmax2との差分が大きい場合(例えば、差分が測定対象信号S1の振幅に近い場合)には、基準波形差分値Ddif1と記録波形差分値Ddif2とは相違するものの、両差分値Ddif1,Ddif2の差分を記録波形差分値Ddif2で除算した値(つまり、除算値Ddivにおける数値「1」を超える値(Ddiv−1))は小さくなる可能性が高まる。つまり、除算値Ddivは、数値「1」を超える値となるものの、閾値以下の値となる可能性が高まる。この場合、この比較周期Tc(2)では、除算値Ddivは数値「1」を超える値となるものの、閾値以下の値となる。3番目の比較周期Tc(3)についても、極性が逆になる点を除き、2番目の比較周期Tc(2)と同様であるため、説明を省略するが、除算値Ddivは数値「1」を超える値となるものの、閾値以下の値となる。
【0048】
これに対して、5番目の比較周期Tc(5)のように、測定対象信号S1の極大点または極小点(この場合には極小点)が存在し、かつ基準波形データDwsについての基準波形差分値Ddif1および記録波形データDwmについての記録波形差分値Ddif2が共に小さい場合には、両差分値Ddif1,Ddif2の差分が小さい場合であっても、この差分を記録波形差分値Ddif2で除算した値(つまり、除算値Ddivにおける数値「1」を超える値(Ddiv−1))は大きくなる可能性が高まる。つまり、除算値Ddivは、閾値を超える値となる可能性が高まる。この場合、この比較周期Tc(5)では、除算値Ddivは、数値「1」を大きく超えて、閾値を上回る値となる。
【0049】
また、4番目の比較周期Tc(4)のように、測定対象信号S1にノイズ(図2では、発明の理解を容易にするため、誇張して表記している)の重畳に起因した極大点または極小点(この場合には極大点)が存在している場合には、基準波形データDwsについての基準波形差分値Ddif1を記録波形データDwmについての記録波形差分値Ddif2で除算した除算値Ddivは、数値「1」を大きく超えて、閾値を上回る値となる可能性が高い。この場合、この比較周期Tc(4)では、ノイズのレベルが大きく、これに伴い基準波形差分値Ddif1も大きくなるため、除算値Ddivは数値「1」を超え、かつ閾値を上回る値となる。また、この例のように、ノイズが測定対象信号S1における比較周期Tcの中間の部位に重畳しているときには、ノイズ部分での基準波形データDwsが記録波形データDwmから欠落した状態となっている。
【0050】
第2処理部3bは、記録処理を実行して、サンプリングクロックSck1の1周期(記録サンプリング周期Tm)毎に、データ抽出部14から出力される記録波形データDwmを取得して、記憶部5に記録させる。これにより、操作部4を介して設定した記録サンプリング周期Tmでサンプリングされた基準波形データDws、すなわち記録波形データDwmの記憶部5への記録が行われる。また、第2処理部3bは、記録処理と並行して、表示処理を実行して、記憶部5に記録されている記録波形データDwmを読み出しつつ、読み出した記録波形データDwmに基づいて測定対象信号S1の信号波形Wを表示装置で構成された出力部6に表示させる。
【0051】
また、第2処理部3bは、記録処理および表示処理と並行して、報知処理を実行する。この報知処理では、第2処理部3bは、比較クロックSck2に同期して(比較周期Tc毎に)除算値算出部18から出力される除算値Ddivと予め規定された閾値(本例では一例として、数値「1.2」)とを比較して、除算値Ddivが閾値を超えるときに、記録サンプリング周期Tmが不適切であると判別して、予め決められた情報としてその旨を、表示装置で構成された出力部6に表示させて報知する。
【0052】
図2に示す例では、上記したように、各比較周期Tc(1)〜Tc(7)のうちの比較周期Tc(4)および比較周期Tc(5)での各除算値Ddivが閾値を超える状態となる。このため、第2処理部3bは、比較周期Tc(4)および比較周期Tc(5)での各除算値Ddivを入力し、閾値との比較を完了した時点で、現状での記録サンプリング周期Tmが不適切であると判別して、表示処理においてその旨(一例として、記録サンプリング周期Tmが不適切であることを示す報知マークM)を測定対象信号S1の信号波形Wと共に出力部6に表示させて、報知する。
【0053】
この際に、第2処理部3bは、波形記録装置1のユーザに対して報知マークMの表示を確実に認識させ得るように、一例として少なくとも数秒〜十数秒程度は、出力部6に報知マークMを連続して表示させる。
【0054】
次に、波形記録装置1が、図3に示す信号波形の測定対象信号S1についての記録波形データDwmを記録する動作について説明する。この例では、図2の場合と異なり、測定対象信号S1にノイズは重畳していないが、記録サンプリング周期Tmに対して測定対象信号S1の周期が短い状態となっている。
【0055】
この状態では、第2処理部3bが記憶部5に記録させた記録波形データDwmにおいて、エイリアシング(記録波形データDwmとして、図3において破線で示すように、実存しない遅い周期の信号を示すデータが等価的に記録される現象)が発生する。しかしながら、この場合には、基準波形データDwsについての基準波形差分値Ddif1と、記録波形データDwmについての記録波形差分値Ddif2との差が大きくなるため、除算値Ddivは数値「1」を超え、かつ閾値を上回る値となる。このため、第2処理部3bは、エイリアシングの発生を検出して上記のようにして、その旨(記録サンプリング周期Tmが不適切であることを示す報知マークM)を報知する。
【0056】
このように、この波形記録装置1では、第1処理部3aが、記録サンプリング周期Tm以上の長さに予め規定された比較周期Tc(上記例では、記録サンプリング周期Tmと同一周期)毎に、比較周期Tcに含まれる基準波形データDwsにおける波形値の最大値Dmax1と最小値Dmin1との基準波形差分値Ddif1を検出すると共に、記録波形データDwmにおける波形値の最大値Dmax2と最小値Dmin2との記録波形差分値Ddif2を検出し、第2処理部3bが、比較周期Tc毎に、基準波形差分値Ddif1を記録波形差分値Ddif2で除算した除算値Ddivを算出して閾値と比較して、除算値Ddivが閾値を超えるときに記録サンプリング周期Tmが不適切であると判別してその旨を示す報知マークMを予め規定された情報として表示させる。
【0057】
したがって、この波形記録装置1によれば、ユーザに対して、図2の比較周期Tc(4)での測定対象信号S1の信号波形のように、ユーザが設定した記録サンプリング周期Tmでのサンプリングでは、測定対象信号S1の信号波形の一部に取りこぼし(ノイズ部分でサンプリングされた基準波形データDwsの記録波形データDwmからの欠落)が生じたり、図3に示す測定対象信号S1の信号波形ように、測定対象信号S1の信号波形についての取りこぼしに起因したエイリアシングが発生したりしている可能性が高いことを確実に認識させることができる。また、これにより、ユーザに対して、現在の記録サンプリング周期Tm(この例では、基準サンプリング周期Tsが25nsであるため、その4倍の100ns)よりも短い周期(例えば、75nsや50nsなどの周期)を記録サンプリング周期Tmとして設定させるように報知させることもできるため、測定対象信号S1をより短い適切な長さの記録サンプリング周期Tmでサンプリングして、測定対象信号S1の信号波形を正確に記録させることができる。
【0058】
また、この波形記録装置1では、第1処理部3aが、比較周期Tcを記録サンプリング周期Tmと同一に規定して、基準波形差分値Ddif1を検出する第1差分検出処理、記録波形差分値Ddif2を検出する第2差分検出処理、および報知マークMを表示させる報知処理を実行する。この場合、比較周期Tcを記録サンプリング周期Tmの倍数(2倍、3倍、・・・)に規定することも可能であるが、比較周期Tcを記録サンプリング周期Tmと同一に規定することにより、第2処理部3bが、記録サンプリング周期Tm毎に、つまり、より短い周期で、記録サンプリング周期Tmの適・不適を判別することができ、この結果、ユーザに対して、測定対象信号S1をサンプリングする記録サンプリング周期Tmが適切でないことを一層迅速に認識させて、適正な記録サンプリング周期Tmに設定させることができる。
【0059】
また、比較周期Tcを記録サンプリング周期Tmに対して長くし過ぎると、比較周期Tcの期間内に含まれる記録波形データDwmの数が増加するため、図3に示すような信号波形の測定対象信号S1については、その信号波形の一部に取りこぼしが生じている場合であっても、基準波形差分値Ddif1と記録波形差分値Ddif2との差分が小さくなり、測定対象信号S1の信号波形の取りこぼし(さらには、これに起因したエイリアシングの発生)を検出できない場合も生じる。このため、測定対象信号S1の信号波形についての取りこぼしの検出精度を高める点からも、比較周期Tcについては、記録サンプリング周期Tmと同一に規定するのが好ましい。
【0060】
また、この波形記録装置1では、表示装置を備えた出力部6を備え、第2処理部3bは、記録波形データDwmによって表される測定対象信号S1についての信号波形を表示装置に表示させる表示処理を実行すると共に、記録サンプリング周期Tmが不適切であると判別したときに、その旨(報知マークM)を出力部6(表示装置)に表示させて報知する報知処理を実行する。したがって、この波形記録装置1によれば、ユーザが測定対象信号S1についての信号波形を観測しつつ、報知マークMの表示の有無(現在の記録サンプリング周期が不適切であるか否か)を確認することができるため、記録サンプリング周期Tmが不適切であることをユーザに対して確実に認識させることができる。
【0061】
なお、上記の波形記録装置1では、第1処理部3aおよび第2処理部3bで処理部3を構成しているが、ハードウェア(この例ではFPGA)で構成されている第1処理部3aをソフトウェアで実現することもできる。この場合には、そのソフトウェアを有する第2処理部3bのみで処理部3を構成することもできる。また、上記の波形記録装置1では、閾値を固定としているが、操作部4を介して閾値を第2処理部3bに入力して、数値「1」以上の任意の数値に変更可能とする構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0062】
1 波形記録装置
2 A/D変換部
3 処理部
4 操作部
Ddif1 基準波形差分値
Ddif2 記録波形差分値
Ddiv 除算値
Dmax1,Dmax2 最大値
Dmin1,Dmin2 最小値
Dws 基準波形データ
Dwm 記録波形データ
S1 測定対象信号
Tc 比較周期
Tm 記録サンプリング周期
Ts 基準サンプリング周期
S5 第2同期信号
Sck1 サンプリングクロック
Sck2 比較クロック
V1 交流電圧
V2 検波出力電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力した測定対象信号を基準サンプリング周期でサンプリングして当該測定対象信号の信号波形を示す基準波形データを出力するA/D変換部と、
前記A/D変換部から出力される前記基準波形データのうちから設定された周期であって前記基準サンプリング周期以上の長さの記録サンプリング周期に同期して入力される当該基準波形データを記録波形データとして取得して記憶部に記録させる記録処理を実行する処理部とを備えている波形記録装置であって、
前記処理部は、
前記記録サンプリング周期以上の長さに予め規定された比較周期毎に、当該比較周期に含まれる前記基準波形データにおける波形値の最大値と最小値との基準波形差分値を検出する第1差分検出処理と、
前記比較周期毎に、当該比較周期に含まれる前記記録波形データにおける波形値の最大値と最小値との記録波形差分値を検出する第2差分検出処理と、
前記比較周期毎に、前記基準波形差分値を前記記録波形差分値で除算して得られる除算値と予め規定された1以上の値の閾値とを比較して、当該除算値が当該閾値を超えるときに予め規定された情報を報知する報知処理とを実行する波形記録装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記比較周期を前記記録サンプリング周期と同一に規定して、前記第1差分検出処理、前記第2差分検出処理および前記報知処理を実行する請求項1記載の波形記録装置。
【請求項3】
表示装置を備え、
前記処理部は、前記記録波形データによって表される前記測定対象信号についての前記信号波形を前記表示装置に表示させる表示処理を実行すると共に、前記報知処理において前記情報の内容を前記表示装置に表示させて報知する請求項1または2記載の波形記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−44634(P2013−44634A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182423(P2011−182423)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】