説明

波形鋼板耐震壁、及び該波形鋼板耐震壁を有する建物

【課題】波形鋼板耐震壁のせん断座屈を抑制することを目的とする。
【解決手段】対向する波形鋼板18、20は、谷部18B、20Bを突き合わせた状態で接合されており、面外剛性が相対的に小さくなる谷部18B、20Bに補剛リブ24、26が設けられている。従って、波形鋼板耐震壁10のせん断座屈耐力を効率的に増加することができると共に、波形鋼板耐震壁10のせん断座屈を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波形鋼板耐震壁、及び該波形鋼板耐震壁を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
耐震壁としては、鋼板を波形形状に折り曲げた波形鋼板を用いた波形鋼板耐震壁が知れている(例えば、特許文献1)。また、複数の波形鋼板を架構に取り付け、対向する波形鋼板同士をボルトで接合した耐震壁(又は制振壁)が知られている(例えば、特許文献2)。
【0003】
ここで、特許文献2の耐震壁(又は制振壁)では、対向する波形鋼板をボルトで接合することにより、各波形鋼板の板厚を薄くしている。これにより、波形鋼板の折り曲げ加工を容易化し、波形鋼板の製作コストを削減している。しかしながら、複数の波形鋼板を対向させた場合、面外剛性が相対的に小さくなる部分ができる場合がある。例えば、特許文献2のように、対向する波形鋼板を左右対称に配置した場合、凸部同士が接近する部分では、対向する波形鋼板の間隔が狭くなり、面外剛性が相対的に小さくなる。このように面外剛性が相対的に小さくなる部分では、他の部分と比較してせん断座屈し易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−264713号公報
【特許文献2】特開2008−031633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事実を考慮し、波形鋼板耐震壁のせん断座屈を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の波形鋼板耐震壁は、柱と水平部材からなる架構に取り付けられ、対向する波形鋼板と、対向する前記波形鋼板を接合する接合手段と、前記波形鋼板の外面の谷部から該波形鋼板の面外方向へ突出する補剛部材と、を備えている。
【0007】
上記の構成によれば、対向する波形鋼板が接合手段によって接合されている。また、波形鋼板の外面の谷部、即ち、対向する波形鋼板の対向面と反対側の面にある谷部から補剛部材が突出している。
【0008】
ここで、谷部では、他の部位と比較して対向する波形鋼板の間隔が狭くなり、面外変形に対する断面2次モーメント、及び面外剛性が小さくなる。本発明では、このように面外剛性が相対的に小さくなる谷部に補剛部材を設け、面外剛性を付与することにより、波形鋼板耐震壁のせん断座屈耐力を増加している。従って、波形鋼板耐震壁のせん断座屈が抑制される。
【0009】
請求項2に記載の波形鋼板耐震壁は、請求項1に記載の波形鋼板耐震壁において、前記谷部同士が対向している。
【0010】
上記の構成によれば、対向する波形鋼板の外面の谷部同士が対向している。このように谷部同士が対向する部位では、他の部位と比較して対向する波形鋼板の間隔が狭くなり、面外変形に対する断面2次モーメント、及び面外剛性が小さくなる。従って、谷部同士が対向する部位に補剛部材を設けることにより、波形鋼板耐震壁のせん断座屈耐力を効率的に増加させることができる。従って、波形鋼板耐震壁のせん断座屈が抑制される。
なお、補剛部材は、対向する波形鋼板の少なくとも一方の谷部から突出していれば良い。
【0011】
請求項3に記載の建物は、請求項1又は請求項2に記載の波形鋼板耐震壁を有している。
【0012】
上記の構成によれば、請求項1又は請求項2に記載の波形鋼板耐震壁を有することにより、建物の耐震性能、制振性能を向上することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記の構成としたので、波形鋼板耐震壁のせん断座屈を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係る波形鋼板耐震壁が取り付けられた架構を示す、立面図である。
【図2】図1の1−1線断面図である。
【図3】(A)は図2の2−2線断面図であり、(B)は図2の3−3線断面図である。
【図4】比較例としての波形鋼板耐震壁が取り付けられた架構を示す、立面図である。
【図5】図4の4−4線断面図である。
【図6】図5の5−5線断面図である。
【図7】(A)及び(B)は、第1実施形態に係る補剛部材の変形例を示す、図2に相当する断面図である。
【図8】第1実施形態に係る波形鋼板耐震壁の変形例を示す、立面図である。
【図9】(A)〜(C)は、第1実施形態に係る接合手段の変形例を示す、図2に相当する断面図である。
【図10】(A)及び(B)は、第1実施形態に係る波形鋼板耐震壁の変形例を示す、図2に相当する断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る波形鋼板耐震壁の要部を示す、分解斜視図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る波形鋼板耐震壁を示す、図2に相当する断面図である。
【図13】図12の9−9線断面図である。
【図14】第1、第2実施形態に係る波形鋼板の変形例を示す、断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
先ず、第1実施形態について説明する。
【0017】
図1〜図3には、第1実施形態に係る波形鋼板耐震壁10が取り付けられた架構12が示されている。架構12は、鉄筋コンクリート造の左右の柱14と、鉄筋コンクリート造の上下の梁16(水平部材)とから構成されたラーメン構造とされている。柱14及び梁16には、主筋及びせん断補強筋が適宜埋設されている。なお、図2の符号32、34は、梁16に埋設された主筋、せん断補強筋である。
【0018】
図1及び図2に示されるように、波形鋼板耐震壁10は、対向する2枚の波形鋼板18、20と、これらの波形鋼板18、20の外周を囲む枠体22を備えている。各波形鋼板18、20は鋼板を折り曲げ加工して形成されており、波形鋼板18は山部18Aと谷部18Bが交互に繰り返す波形形状とされ、波形鋼板20は山部20Aと谷部20Bが交互に繰り返す波形形状とされている。これらの波形鋼板18、20は同一の波形形状とされており、突き合わされた谷部18Bと谷部20Bとを溶接することにより一体化され、折り筋を横(折り筋の向きを水平方向)にして架構12の構面に配置されている。波形鋼板18、20の材料としては、普通鋼(例えば、SM490、SS400等)や低降伏点鋼(例えば、LY225等)等が用いられる。
【0019】
なお、本実施形態では、波形鋼板耐震壁10を正面視したときに、波形鋼板18、20の外面が落ち込む部分(凹む部分)を谷部18B、20Bとし、落ち込まない部分(凹まない部分)を山部18A、20Aとしている。また、波形鋼板18、20を対向させた場合に、各々の波形鋼板18、20から互いに接近する方向へ突出する部分を谷部18B、20Bとし、各々の波形鋼板18、20から互いに離間する方向へ突出する部分を山部18A、20Aとしても良い。
【0020】
各波形鋼板18、20の外面の谷部18B、20B、即ち、対向する波形鋼板18、20の対向面と反対側の面にある谷部18B、20Bには、面外方向(図2において、矢印A方向)へ向かって突出する補剛リブ(補剛部材)24、26がそれぞれ設けられている。補剛リブ24、26は台形状の鋼板で、谷部18B、20Bを横切る(波形鋼板18、20の折り筋と直交する方向に延びる)ように組み合わされ、当該谷部18B、20Bの外面に溶接されている。この補剛リブ24、26によって谷部18B、20Bに面外剛性が付与され、谷部18B、20Bが面外方向へはらみ出す面外変形が抑制されている。
【0021】
ここで、前述したように波形鋼板18、20は同じ構成であるため、以下波形鋼板18について詳説し、波形鋼板20の説明は適宜省略する。
【0022】
図1に示されるように、補剛リブ24は、一つの谷部18Bに対して波形鋼板18の折り筋方向(矢印B方向)に間隔を空けて複数(図1では、2つ)設けられている。これにより、谷部18Bが折り筋方向(矢印B方向)に3つの区画に仕切られ、山部18Aと比較して、各区画の折り筋方向(矢印B方向)の座屈長Lが短くなっている。また、隣接する谷部18Bの補剛リブ24は、波形鋼板耐震壁10を正面視したときに、直線上に配列されている。波形鋼板20についても、波形鋼板18と同様の配置で補剛リブ26が設けられている。
【0023】
対向する波形鋼板18、20の折り筋方向(矢印B方向)の両端部には、鋼製の縦取付フランジ22Aが設けられている。この縦取付フランジ22Aは板状に形成され、対向する波形鋼板18、20の縦辺に沿ってそれぞれ溶接されている。また、波形鋼板18、20の折り筋と直交する方向(矢印C方向)の両端部には、鋼製の横取付フランジ22Bが設けられている。この横取付フランジ22Bは板状に形成され、対向する波形鋼板18、20の横辺によってそれぞれ溶接されている。また、縦取付フランジ22Aの端部と横取付フランジ22Bの端部は溶接で接合されており、これらの縦取付フランジ22A及び横取付フランジ22Bによって、対向する波形鋼板18、20の外周を囲む枠体22が構成されている。また、これらの縦取付フランジ22A、横取付フランジ22Bによって、波形鋼板耐震壁10の断面形状が閉断面(ボックス断面)とされている(図2参照)。
【0024】
縦取付フランジ22A及び横取付フランジ22Bには、せん断力伝達手段としてのスタッド30が突設されている。これらのスタッド30を柱14及び梁16に埋設することにより、対向する波形鋼板18、20が架構12に取り付けられると共に、スタッド30を介して波形鋼板18、20と架構12との間でせん断力が伝達可能となっている。
【0025】
なお、縦取付フランジ22Aと柱14、横取付フランジ22Bと梁16の接合方法は、上記したものに限らない。例えば、スタッドが立設された接合用プレートを柱14及び梁16にそれぞれ埋設し、この接合用プレートに縦取付フランジ22A及び横取付フランジ22Bを溶接又はボルト等で接合しても良い。また、エポキシ樹脂等の接着剤により、縦取付フランジ22Aと柱14、横取付フランジ22Bと梁16を接着接合しても良い(接着工法)。更に、縦取付フランジ22A及び横取付フランジ22Bは板状に限らず、H形鋼、L形鋼、T形鋼、チャネル鋼等でも良い。
【0026】
次に、第1実施形態の作用について説明する。
【0027】
風や地震等によって架構12に外力が作用すると、架構12に取り付けられた各波形鋼板18、20にせん断力が伝達され、各波形鋼板18、20がせん断変形する。これにより、波形鋼板18、20が外力に抵抗して耐震性能を発揮する。また、外力に対して波形鋼板18、20が降伏するように設計することで、鋼材の履歴エネルギーによって振動エネルギーが吸収され、制振性能を発揮する。
【0028】
ここで、波形鋼板18、20のせん断変形が進むと、波形鋼板18、20が面外方向(図2の矢印A方向)へはらみ出し、せん断座屈する恐れがある。特に、谷部18B、20Bが対向する部位では、山部18A、20Aが対向する部位と比較して、面外剛性が小さくなるため、せん断座屈し易くなる。
【0029】
具体的には、図3(A)に示されるように、波形鋼板18、20の山部18A、20Aが対向する部位では、対向する波形鋼板18、20の間隔が広くなり、中立軸Xから各波形鋼板18、20の中心軸O、O’までの距離yが大きくなる。また、接合された波形鋼板18、20に平面保持仮定が成立するものとすると、山部18A、20Aが対向する部位では中立軸X回りの断面2次モーメントが大きくなり、面外剛性が相対的に大きくなる。
【0030】
なお、対向する波形鋼板18、20のX軸回りの断面2次モーメンIは式(1)によって求められる。
I=(I+A×y)×2 ・・・(1)
ただし、
:波形鋼板の中心軸O(又は中心軸O’)回りの断面2次モーメント
A :波形鋼板の断面積
y :中立軸Xから波形鋼板の中心軸までの距離
である。
【0031】
これに対して、図3(B)に示されるように、波形鋼板18、20の谷部18B、20Bが対向する部位では、波形鋼板18、20の間隔が狭くなり、中立軸Xから各波形鋼板18、20の中心軸O、O’までの距離y(図3(B)では不図示)が小さくなる。従って、谷部18B、20Bが対向する部位では、山部18A、20Aが対向する部位と比較して中立軸X回りの断面2次モーメントが小さくなり、面外剛性が相対的に小さくなる。そこで、本実施形態では、面外剛性が相対的に小さくなる谷部18B、20Bに補剛リブ24、26を設け、当該谷部18B、20Bに面外剛性を付与している。従って、波形鋼板耐震壁10全体のせん断座屈耐力を効率的に増加することができる。
【0032】
また、比較例として、一枚の波形鋼板302を用いた波形鋼板耐震壁300を図4〜図6に示す。この波形鋼板耐震壁300は波形鋼板302と枠体304を備え、左右の柱306と上下の梁308からなる架構310の構面に取り付けられている。波形鋼板302には、折り筋方向(矢印B方向)に所定の間隔を空けて複数(図4では、3つ)の補剛リブ312が設けられている。各補剛リブ312は波形鋼板302の上下方向に延びると共に、その両端部が波形鋼板302の上下の端部に設けられた横取付フランジ304Bに接合されている。
【0033】
比較例のように波形鋼板302の下端部から上端部に渡って補剛リブ312を設けると、波形鋼板302と補剛リブ312との溶接長さが長くなり、補剛リブ312の取り付け作業に手間がかかる。特に、オフィス、商業施設、物流倉庫等に代表される階高の高い建物では、波形鋼板耐震壁300の高さや幅の増加に伴って、波形鋼板302が座屈し易くなる。従って、補剛リブ312の必要板厚、必要数量が増加し、補剛リブの取り付け作業が煩雑化すると共に、材料コストが増加してしまう可能性がある。
【0034】
これに対して、本実施形態では、対向する波形鋼板18、20の谷部18B、20Bを突き合わせて接合することにより、山部18A、20Aが対向する部位の波形鋼板18、20の間隔を広げて断面2次モーメントを大きくする一方で、断面2次モーメントが相対的に小さくなる谷部18B、20Bに補剛リブ24、26を設ける部位を集約させている。従って、補剛リブ24、26の必要板厚、必要数量を低減することができる。よって、補剛リブ24、26の取り付け作業の手間が低減されると共に、材料コストを削減することができる。
【0035】
更に、本実施形態では、対向する波形鋼板18、20の谷部18B、20Bを接合したことにより、地震等の外力に対して、波形鋼板18、20が協同して抵抗する。従って、一枚当たりの波形鋼板18、20が負担する耐力が小さくなるため、図4〜図6に示す波形鋼板302(比較例)と比較して、波形鋼板18、20の板厚を薄くすることができる。そのため、例えば、波形鋼板18、20の板厚を比較例の波形鋼板302の半分(1/2)にすることにより、波形鋼板18、20の材料コストを比較例の波形鋼板302と同程度に抑えつつ、補剛リブ24、26の必要板厚、必要数量を低減することができる。また、一枚当たりの波形鋼板18、20の板厚を薄くすることにより、波形鋼板18、20の折り曲げ加工が容易となるため、波形鋼板18、20の製作コストを削減することができる。
【0036】
なお、第1実施形態では、補剛リブ24、26が山部18A、20Aよりも面外方向外側(矢印A方向)へ突出しないようにしたが、これに限らない。補剛リブ24、26は、波形鋼板耐震壁10に求められるせん断座屈耐力に応じて適宜設ければ良く、例えば、図7(A)に示されるように、補剛リブ24、26の幅(突出量)を小さくしても良いし、図7(B)に示されるように、補剛リブ24、26の幅(突出量)を大きくし、山部18A、20Aよりも面外方向外側(図2において、矢印A方向)へ突出させても良い。
【0037】
また、一枚の波形鋼板18、20に対する補剛リブ24、26の数量や配置も適宜変更可能であり、例えば、図8に示されるように、千鳥状に補剛リブ24を配置しても良い。なお、波形鋼板18の外周部は、柱14及び梁16によって拘束されるため、波形鋼板18の中央部と比較してせん断座屈し難い。従って、補剛リブ24は、波形鋼板18の中央部に設けることが望ましい。更に、図示を省略するが、対向する波形鋼板18、20の間で、補剛リブ24、26の配置を変えても良いし、対向する波形鋼板18、20の一方にのみ補剛リブ24、26を設けても良い。
【0038】
更に、第1実施形態では、対向する波形鋼板18、20の谷部18B、20Bを溶接で接合したがこれに限らない。例えば、図9(A)に示されるように、突き合わされた谷部18B、20Bを貫通するボルト36(接合手段)及びナット38(接合手段)で接合しても良い。この場合、図9(B)に示されるように、対向する谷部18B、20Bの間にスペーサ40を設けても良い。これにより、対向する波形鋼板18、20の間隔が広くなるため、谷部18B、20B及び山部18A、20Aの断面2次モーメントが大きくなる。更に、対向する波形鋼板18、20は、突き合わされた谷部18B、20Bに限らず、対向する山部18A、20Aで接合しても良い。例えば、図9(C)に示されるように、対向する山部18A、20Aの間の空間に配置された長ナット42に、軸方向両側から波形鋼板18、20を貫通するボルト44をねじ込むことにより、波形鋼板18、20を接合しても良い。なお、図9(C)に示す構成では、波形鋼板18、20の谷部18B、20B同士を接触させたが、図9(D)に示されるように、長ナット42の長さを長くして対向する波形鋼板18、20の間隔を広げることにより谷部18B、20B同士の間に隙間を設けても良い。更に、当該隙間にスペーサ(図9(B)におけるスペーサ40等)を設けても良い。
【0039】
また、波形鋼板18、20の波形形状も適宜変更可能である。例えば、図10(A)に示される波形鋼板48、50のように、山部48A、50Aよりも谷部48B、50Bを小さくし、断面2次モーメントが相対的に小さくなる部位を少なくしても良い。これにより、谷部48B、50Bに設ける補剛リブ52、54のサイズが小さくなるため、更に補剛リブ52、54の材料コストを削減することができる。
【0040】
また、図10(B)に示されるように、対向する一方の波形鋼板48の山部48A、谷部48Bと、他方の波形鋼板50の谷部50B、山部50Aと、をそれぞれ突き合わせても良い。この構成では、山部48Aと谷部50B、又は谷部48Bと山部50Aとが接触する部位で波形鋼板48、50の間隔が狭くなり、断面2次モーメントが相対的に小さくなる。従って、谷部48B、50Bに補剛リブ52、54をそれぞれ設けることにより、せん断座屈耐力を効率的に増加することができる。
【0041】
次に、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同じ構成のものは同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0042】
図11〜図13に示されるように、第2実施形態に係る波形鋼板耐震壁60では、対向する谷部18B、20Bを貫通する補剛リブ62(補剛部材、接合手段)によって波形鋼板18、20が接合されている。
【0043】
各波形鋼板18、20の谷部18B、20Bには、波形鋼板18、20の折り筋と直交する方向へ延びる長孔64がそれぞれ形成されている。これらの長孔64には矩形の補剛リブ62が貫通されており、補剛リブ62の端部が谷部18B、20Bから面外方向外側(図12において、矢印A方向)へ突出している。波形鋼板18、20は間隔を空けて対向され、補剛リブ62と溶接によって接合されている。
【0044】
次に、第2実施形態の作用について説明する。
【0045】
図13に示されるように、対向する波形鋼板18、20を間隔を空けて対向させることにより、山部18A、20Aが対向する部位だけでなく、谷部18B、20Bが対向する部位の断面2次モーメントも大きくなる。従って、谷部18B、20Bが対向する部位の面外剛性が大きくなり、波形鋼板耐震壁60全体のせん断座屈耐力を増加する。よって、波形鋼板耐震壁60の耐震性能、制振性能を向上させることができる。
【0046】
また、補剛リブ62の端部を各波形鋼板18、20の谷部18B、20Bから面外方向外側(矢印A方向)へ突出させたことにより、断面2次モーメントが相対的に小さくなる谷部18B、20Bに更に面外剛性が付与されている。従って、波形鋼板耐震壁60のせん断座屈耐力を効率的に増加させることができる。
【0047】
また、対向する波形鋼板18、20の断面2次モーメントは、前述したように、中立軸Xから波形鋼板18、20の中心軸O、O’までの距離の二乗に比例して大きくなる(式(1)参照)。従って、補剛リブ62を長くし、対向する波形鋼板18、20の間隔を広げることにより、波形鋼板耐震壁60のせん断座屈力を飛躍的に増加することができる。この際、補剛リブ62の端部に波形鋼板18、20を接合することにより、対向する波形鋼板18、20の間隔を効率良く広げることができる。
【0048】
なお、本実施形態では、対向する谷部18B、20Bにそれぞれ長孔64を形成したが、谷部18B、20Bの一方にのみ長孔64を形成しても良い。この場合、長孔64がない谷部18B、20Bと補剛リブ62の端部とは、谷部18B、20Bの内面に補剛リブ62の端部を突き当て、溶接等により接合すれば良い。
【0049】
また、上記第1、第2実施形態では、2枚の波形鋼板を対向させた場合を例に説明したが、3枚以上の波形鋼板を対向させても良い。この場合、断面2次モーメントが相対的に小さくなる部位に補剛リブを設けることにより、上記と同様の効果を得ることができる。
【0050】
また、上記第1、第2実施形態では、対向する波形鋼板18、20の形状、大きさを同じにしたが、これに限らない。例えば、対向する波形鋼板18、20を異なる波形形状にしても良い。また、対向する一方の波形鋼板18、20を普通鋼で構成し、対向する他方の波形鋼板18、20を低降伏点鋼で構成しても良い。
【0051】
更に、上記第1、第2実施形態では、対向する波形鋼板18、20の外周に一つの枠体22を設けたが、2つの波形鋼板18、20に別々の枠体を設けても良い。また、波形鋼板耐震壁10、60は上下の梁16又は左右の柱14に接合されていれば良い。この場合、波形鋼板耐震壁10、60と、接合されない梁16又は柱14との間に隙間や開口を設けても良い。隙間や開口を設けることにより、設備配線・配管等の設備開口や、出入り口を設けることができる。なお、波形鋼板耐震壁10、60と左右の柱14とを接合しない場合は、波形鋼板耐震壁10、60が間柱として機能する。即ち、波形鋼板耐震壁10、60は耐震間柱としても使用することができる。
【0052】
また、図2に示されるように、波形鋼板18、20の上下の端部は、各波形鋼板18、20の中心軸から外れた位置で上下の梁16に接合されているが、これ限定されない。例えば、図2に示したように、波形鋼板18、20の中心軸の片側で上下の梁16と接合しても良いし、中心軸を挟んで波形鋼板18、20の上端部と下端部が互い違いになるように、中心軸の両側で上下の梁16と接合しても良い。更に、中心軸上で、波形鋼板18、20と梁16とを接合しても良い。なお、ここで云う波形鋼板18、20の中心軸とは、山部と谷部の中間にある仮想の軸である。更に、図14(A)〜図14(D)に示すような断面形状の波形鋼板18、20を用いても良い。また、補剛リブ24、26の形状も板状に限らず、L形鋼やT形鋼等を用いても良い。
【0053】
また、架構12を構成する柱14及び梁16は、鉄筋コンクリート造に限らず、鉄骨鉄筋コンクリート造、プレストレスコンクリート造、鉄骨造、CFT造、更には現場打ち工法、プレキャスト工法等の種々の工法を用いることができる。また、梁16に替えてコンクリートスラブ又は小梁等に鋼製耐震壁を取り付けても良い。
【0054】
更に、第1、第2実施形態に係る波形鋼板耐震壁10、60は、建物の一部に用いても良いし、建物の全てに用いても良い。また、耐震構造や免震構造等の種々の新築建物、改築建物に適用することができる。これらの波形鋼板耐震壁10、60を設置することにより、耐震性能、制振性能が向上された建物を構築することができる。
【0055】
以上、本発明の第1、第2の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、第1、第2の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0056】
10 波形鋼板耐震壁
12 架構
14 柱
16 梁(水平部材)
18 波形鋼板
18B 谷部
20 波形鋼板
20B 谷部
24 補剛リブ(補剛部材)
26 補剛リブ(補剛部材)
36 ボルト(接合手段)
38 ナット(接合手段)
40 スペーサ
42 長ナット(接合手段)
44 ボルト(接合手段)
48 波形鋼板
48B 谷部
50 波形鋼板
50B 谷部
52 補剛リブ(補剛部材)
60 波形鋼板耐震壁
62 補剛リブ(補剛部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と水平部材からなる架構に取り付けられ、対向する波形鋼板と、
対向する前記波形鋼板を接合する接合手段と、
前記波形鋼板の外面の谷部から該波形鋼板の面外方向へ突出する補剛部材と、
を備える波形鋼板耐震壁。
【請求項2】
前記谷部同士が対向している請求項1に記載の波形鋼板耐震壁。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の波形鋼板耐震壁を有する建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−127279(P2011−127279A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283918(P2009−283918)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】