説明

波長変換装置及びその波長変換方法及び単一光子発生装置

【課題】量子ドットと共振器の結合系におけるパーセル効果とフォトニックバンドギャップ効果を用いることで、波長変換を実現する装置および波長変換方法および単一光子発生装置を提供する。
【解決手段】
本発明の波長変換装置は、フォトニック結晶微小共振器と、量子ドットとを有する波長変換装置であって、前記フォトニック結晶微小共振器の共振器モード電場振幅は、最大値の略半分以上である領域に前記量子ドットが位置し、前記フォトニック結晶共振器は、少なくとも1つの直線偏光モードを有し、入力光は、前記量子ドットの光学遷移のうち、前記フォトニック結晶微小共振器と共鳴していない光学遷移の波長を持ち、出力光は、前記量子ドットの光学遷移のうち、前記フォトニック結晶微小共振器と共鳴し、かつ同一の直線偏光によって実現される光学遷移の波長を持つことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子暗号通信分野等で用いられる波長変換装置及びその波長変換方法及び単一光子発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子情報化社会の浸透に伴い、情報通信技術に関する研究が盛んであり、その進展は著しい。電子化された情報は複製が容易で劣化もしないため、情報通信では盗聴や複製に対する安全性が常に問題となる。公開鍵暗号や秘密鍵暗号等の現在の暗号方式は、古典計算機では解読に膨大な時間がかかるために実効的に破られないとされているが、これは計算機の能力に立脚した条件付の安全性であり、原理的に破られないわけではない。
【0003】
これに対して、より安全性の高い情報通信技術として量子暗号通信が注目を集めている。量子暗号は量子力学の物理法則に基づいて、原理的に安全性が保障されるシステムである。情報は量子力学的な2自由度(偏光状態や位相状態など)として、例えば単一の光子に付与される。単一光子は、その量子状態を破壊することなく読み出したり複製したりすることができないため、通信経路上で第三者が盗聴や改ざんしようとすれば直ちに検知できる。
【0004】
単一光子発生源としては、InAs自己形成量子ドット(非特許文献1)、ダイヤモンド結晶中の窒素欠陥色中心(非特許文献2)、CdSeコロイド量子ドット(非特許文献3)などを用いることが考えられる。
【0005】
量子暗号通信に用いられる光子の伝送経路としては、現行の情報ネットワークの根幹である光ファイバーを用いることが最も現実的である。従って単一光子の波長は、光ファイバーの伝送損失の少ない通信波長帯(1.3−1.55μm)であることが望ましい。しかしながら、上記の単一光子源からの光の波長は通信波長帯とは異なるのが一般的であるので、長距離伝送を考慮すると通信波長帯に波長変換するのが望ましい。
【0006】
単一光子の波長変換装置としては、非線形光学結晶による周波数上方(下方)変換が知られている。この方法では、図16に示すように入力光(単一光子)とポンプ光を同一伝播方向に重ねて非線形光学媒体に入射する。結晶中で起こる和(差)周波変換の結果として、通信波長帯の出力光子が出射される。
【0007】
また、単一光子レベルの微弱信号光の切り分けについては、プリズムと分光器を用いる方法やLiNbO偏波変調器と偏光ビームスプリッターを用いる方法(特許文献1)などが知られている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2004/095124号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】P.Michler et al.,‘A Quantum Dot Single−Photon Turnstile’,Science 290,2282(2000).
【非特許文献2】C.Kurtsiefer et al.,‘Stable Solid−state Source of Single Photons’,Physical Review Letters 85,290(2000).
【非特許文献3】X.Brokmann et al.,‘Highly efficient triggered emission of single photons by colloidal CdSe/ZnS nanocrystals’, Applied Physics Letters 85,712(2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図16に示したような技術で波長変換を行う際には、入力光と共に入力光より遥かに強いポンプ光を非線形光学結晶に入射する必要がある。このポンプ光は信号光と伝播方向が同一であるため、信号光を単一光子として使うためには信号光の波長のみを切り出す必要がある。しかし、これは一般に容易ではない。
【0011】
また、単一光子レベルの微弱信号光の切り分けについては、プリズムと分光器を用いる方法やLiNbO偏波変調器と偏光ビームスプリッターを用いる方法(特許文献1)では、ポンプ光が極僅かでも信号光に混入してしまうと単一光子としての性質が悪化してしまうため、厳密な光学系の設計と調整が必要となる。また、プリズムや光学フィルターを複数個重ねた場合、変換後の光子のロスにつながるため、単一光子の取り出し効率が低下する。
【0012】
[発明の目的]
本発明の目的は、このような課題に鑑みて創案されたもので、装置の複雑化や大型化を招くことなく容易に入力出力光子を切り分けられる波長変換装置および波長変換を伴う単一光子の生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の波長変換装置は、フォトニック結晶微小共振器と、量子ドットとを有する波長変換装置であって、前記フォトニック結晶微小共振器の共振器モード電場振幅は、最大値の略半分以上である領域に前記量子ドットが位置し、前記フォトニック結晶共振器は、少なくとも1つの直線偏光モードを有し、入力光は、前記量子ドットの光学遷移のうち、前記フォトニック結晶微小共振器と共鳴していない光学遷移の波長を持ち、出力光は、前記量子ドットの光学遷移のうち、前記フォトニック結晶微小共振器と共鳴し、かつ同一の直線偏光によって実現される光学遷移の波長を持つことを特徴としている。
【0014】
本発明の単一光子発生装置は、フォトニック結晶微小共振器と、量子ドットとを有する単一光子発生装置であって、前記フォトニック結晶微小共振器の共振器モード電場振幅は、最大値の略半分以上である領域に前記量子ドットが位置し、前記フォトニック結晶共振器は、少なくとも1つの直線偏光モードを有し、入力光は、前記量子ドットの光学遷移のうち、前記フォトニック結晶微小共振器と共鳴していない光学遷移の波長を持つことを特徴としている。
【0015】
本発明の波長変換方法は、量子ドットの光学遷移のうち、フォトニック結晶微小共振器と共鳴していない光学遷移の波長を持つ入力光を、少なくとも1つの直線偏光モードを有し共振器モード電場振幅は、最大値の略半分以上である領域に前記量子ドットが位置するフォトニック結晶微小共振器に入射することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、装置の複雑化や大型化を招くことなく容易に入力出力光子を切り分けられる波長変換装置および波長変換を伴う単一光子の生成装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第一の実施形態の波長変換装置の断面図である。
【図2】第二の実施形態の波長変換装置の断面図である。
【図3】第三の実施形態の波長変換装置の上面図である。
【図4】量子ドット中の電子及び正孔エネルギー準位の概念図である。
【図5】ゼロ磁場下での量子ドット中の負荷電励起子状態と電子スピン状態のエネルギーダイアグラムである。
【図6】静磁場下での量子ドット中の負荷電励起子状態と電子スピン状態のエネルギーダイアグラムである。
【図7】量子ドット中の3準位と、対応する光学遷移を示す図である。
【図8】(a)はフォトニック結晶共振器と半導体基材に埋め込まれた量子ドットの概念図である。(b)は図8(a)のフォトニック結晶共振器と量子ドットのa−a’間の断面図である。
【図9】(a)はゼロ磁場下での、フォトニック結晶共振器のV偏光モードと、量子ドットの負荷電励起子再結合発光のスペクトルの模式図である。(b)は静磁場下での、フォトニック結晶共振器のV偏光モードと、量子ドットの負荷電励起子再結合発光(H偏光、V偏光)のスペクトルの模式図である。
【図10】高次準位のエネルギーダイアグラムと、対応するスペクトルの概念図である。
【図11】本実施例における波長変換装置の上面図である。
【図12】本実施例における共振器を示す電子顕微鏡写真である。
【図13】本実施例における共振器と結合した荷電励起子再結合発光のスペクトルである。
【図14】本実施例におけるHanbury Brown Twiss相関測定系の概念図である。
【図15】本実施例における光子相関測定結果である。
【図16】非線形光学結晶を用いた一般的な波長変換装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
[第一の実施形態]
第一の実施形態の波長変換装置の断面図を図1に示す。図1において、本実施形態の波長変換装置1は、フォトニック結晶微小共振器11と、フォトニック結晶微小共振器11を形成する半導体基材12中に埋め込まれた量子ドット13とを有する。
フォトニック結晶微小共振器11は、少なくとも1つの直線偏光モードを有する。
【0020】
量子ドット13は、フォトニック結晶微小共振器11の共振器モード電場振幅が最大値の略半分以上である領域に位置していればよい。好ましくは、単一の量子ドットが共振器モードの電場振幅最大値(つまり腹の部分)に存在している状況がよい。
【0021】
波長変換装置の入力光14の波長は、量子ドット13の光学遷移のうちフォトニック結晶微小共振器11の直線偏光モードと共鳴していない第1の光学遷移の波長とする。この第1の光学遷移は、好ましくは微小共振器11の直線偏光モードと直交する直線偏光によって実現される状況がよい。波長変換装置の出力光15の波長は、量子ドット13の光学遷移のうち、前記フォトニック結晶微小共振器と共鳴していて、かつ同一の直線偏光によって実現される第2の光学遷移の波長である。
【0022】
この構成により、入力光子によって波長変換装置内の量子ドット中に形成された励起子状態は、微小共振器と略共鳴した第2の光学遷移で再結合発光することができる。第2の光学遷移は共振器と略共鳴しているために、パーセル効果によって促進される。一方で第1の光学遷移による再結合発光は、共鳴していないために抑制される。従って、入力光子によって第1の光学遷移を介して作られた励起子状態は、選択的に共振器と共鳴している第2の光学遷移の波長で発光することになる。即ち、入力波長から出力波長へ波長変換される。
【0023】
第1の光学遷移と第2の光学遷移は好ましくは互いに直交する直線偏光の光学選択則に従うため、偏光子を用いることにより入力出力光子を容易に切り分けることができる。そのため、装置の複雑化や大型化を招くことなく容易に入力出力光子を切り分けられる波長変換装置および波長変換を伴う単一光子の生成装置を提供することが出来る。
【0024】
[第二の実施形態]
第二の実施形態では、フォトニック結晶共振器として2次元スラブ型フォトニック結晶共振器を利用した例について、また、量子ドットの光学遷移として荷電励起子の再結合発光過程を利用した例について詳しく説明する。
【0025】
本実施形態で用いる波長変換装置の構造について図2、3を参照しながら説明する。図2は、本実施形態の波長変換装置の断面図である。図2において、波長変換装置2は、土台となる半導体基材21と半導体緩衝層22と半導体犠牲層23及び半導体スラブ層24とから構成される。半導体スラブ層24は、その中心に半導体量子ドット層25を内包している。この波長変換装置断面の方向をz軸方向27とする。
【0026】
スラブ層24は、半導体犠牲層23によって中空に保持されている構造が好ましい。
【0027】
一般に、光子の伝播する物質中に周期的な屈折率分布がある場合、ちょうど半導体結晶中の伝導電子にとっての周期ポテンシャルと同様に、ブラッグ多重反射の条件を満たした時のみ光子の散乱が建設的に干渉する。その結果、伝導の許される波長帯域と禁制となる波長帯域が生じる。後者の、光子の伝播が禁じられたいわば光の絶縁体帯域は、特にフォトニックバンドギャップと呼ばれている。また、このような周期的な屈折率分布を持つ物質は、光子伝播に対するバンド構造を有することから伝導電子に対する「結晶」になぞらえて「フォトニック結晶」と呼ばれている。本実施形態では2次元スラブ層24に対して周期的に空気円孔26を設けることでフォトニック結晶を作製している。このようなフォトニック結晶を特に2次元スラブ型フォトニック結晶と呼んでいる。
【0028】
半導体量子ドット層25は、半導体スラブ層24中に埋め込まれている。量子ドットの組成としては、InSb(バルクのバンドギャップ=0.17eV)、InAs(0.36eV)、GaSb(0.73eV)、InP(1.35eV)、GaN(3.4eV)、SiGe(0.8eV)、CdTe(1.44eV)、CdSe(1.74eV)、CdS(2.42eV)、ZnO(3.3eV)等の様々な大きさのバンドギャップを持つ半導体が知られている。量子ドットの発光波長は、そのバルク組成のバンドギャップと、量子ドットのサイズや量子閉じ込めの深さ等で決まる。例えば、InAs量子ドットなら典型的には900−1300nmの近赤外線領域で発光し、CdSe量子ドットなら470−670nmの可視光領域で発光する。実施例ではInAs量子ドットを用いたが、それに限定されるものではなく目的に応じて好適な波長を持つ材料を選択することが出来る。この量子ドットを含む半導体スラブ層24については、ドナーまたはアクセプターのドーピング、あるいは共振器面直方向への電界印加等の手法により量子ドット中に荷電励起子が生成されやすい状況を用意する。
【0029】
次に、図3に本実施形態で用いる波長変換装置の上面図を示す。図3を用いて、本実施形態で用いるフォトニック結晶微小共振器について詳しく説明する。尚、本実施形態で用いるフォトニック結晶共振器のタイプは特に限定されないが、共振器モードの少なくとも1つは直線偏光モードであるとする。ここではH1型と呼ばれるフォトニック結晶共振器を例に説明を続ける。本実施形態のフォトニック結晶は、図3に示すような半導体スラブ層31と周期的円孔32から成る。このようなフォトニック結晶に対して、周期構造を乱した微小領域(例えば円孔が1つだけ欠けた部分33)に光を局在させることができる。これがフォトニック結晶微小共振器である。微小共振器の共鳴波長は、周期的円孔32の大きさと三角格子の格子定数34を適切な設計にすることによって、フォトニックバンドギャップ内の好適な波長を選択することが出来る。この点欠陥共振器は、H軸36方向の直線偏光(H偏光)とV軸37方向の直線偏光(V偏光)の2つの偏光モードを持つ。2つの偏光モードの共鳴波長差は、点欠陥の最近接円孔35位置の三角格子点からの微小シフト量を調節することによって、縮退させることも意図的に縮退を解くこともできる。
【0030】
本実施形態の動作について、まず量子ドットのエネルギー準位について説明する。量子ドットは、電子や正孔をそのド・ブロイ波長程度の小さな領域に3次元的に閉じ込める箱である。したがって、電子や正孔のエネルギー準位は連続状態を取ることができず、ちょうど現実の原子のポテンシャル中の電子準位のように、量子化された離散的なエネルギー準位をとる。これを模式的に示したのが図4である。
【0031】
図4は、量子ドット中の電子及び正孔エネルギー準位の概念図である。各電子準位41及び各正孔準位42には、同じスピンを持つ電子43及び正孔44が2個入ることはできない(一般的にパウリの排他率と呼ばれている)。したがって、各電子準位41及び各正孔準位42には、それぞれ最大で電子及び正孔が2個(スピンの異なる電子対または正孔対)まで入る。さらに、電子及び正孔を付け加える際にはより高次の準位に入る。これは電子または正孔の殻構造と呼ばれ、現実の原子との対応から最低準位から順にs殻、p殻、…と名前がつけられている。
【0032】
本実施形態では、基底準位として電子または正孔のどちらか1つのみが量子ドット中に存在す場合を考える。ここでは、電子の場合を例として説明を続けるが、正孔の場合でも一般性を失わない。ゼロ磁場下での関連する準位の模式図を、図5に示す。電子が1つ存在する状態(電子スピン状態)51と、そこに電子正孔対を付け加えた電子2つと正孔1つから成る負荷電励起子状態52を考える。ここで、図4の縦軸は“電子から見たエネルギー”であるのに対して、図5の縦軸は“複数個の電子や正孔からなる励起子(複合粒子)のエネルギー”である。図5中の|→>は、図3における面内H軸36方向のスピンを持つ電子を表す(電子スピンH軸成分sがs=+1/2。上向き電子スピンとする)。|←>は、|→>と逆向きのスピンの電子である(電子スピンH軸成分sがs=−1/2。下向き電子スピンとする)。また、|←→>は、H軸方向において逆向きのスピンを持つ電子対を表す。同様に、|⇒>はH軸方向のスピンを持つ重い正孔である(ホールスピンH軸成分shhがshh=+3/2)。電子スピン状態51と負荷電励起子状態52は、共に奇数個のキャリアからなるため、ゼロ磁場ではクラマースの定理によりそれぞれ2重縮退している。
【0033】
ここで、基板面内H軸方向に静磁場Bを印加した状況を考える。静磁場下での量子ドット中の負荷電励起子状態と電子スピン状態のエネルギーダイアグラムを図6に示す。各電子スピン状態は、ゼーマン効果によってgμBsだけエネルギーシフトする。ここではgは電子の有効g因子、μはボーア磁子、Bは外部磁場の大きさを表す。従って、図5における電子スピン状態51は、図6に示すように下向き電子スピン状態|←>61と、上向き電子スピン状態|→>62に|g|μBだけゼーマン分裂して2重縮退が解ける。負荷電励起子状態52も同様に、strion=−3/2の負荷電励起子状態63とstrion=+3/2の負荷電励起子状態64に分裂する。ただしstrionは負荷電励起子状態のスピンH軸成分、とした。
【0034】
このとき、励起(入力)光の伝播方向と出力光の取り出し方向を、静磁場Bと垂直でかつz軸方向に選んだ状況(Voigt配置)を考える。図7に3準位と対応する光学遷移図を示す。図7のように下向き電子スピン状態71と負荷電励起子状態72の間の光学遷移73は、光学選択則によりH偏光となるのに対して、上向き電子スピン状態74と負荷電励起子状態72の間の光学遷移75はV偏光となる。本実施形態では、このΛ形3準位系を波長変換に応用する。
【0035】
次に、フォトニック結晶微小共振器と、半導体スラブ層中に埋め込まれた単一の量子ドット中の負荷電励起子状態の組み合わせを考える。図8(a)にフォトニック結晶共振器の上面図を、図8(b)に図8(a)のa−a‘断面図を示す。
【0036】
共振器のモード体積と量子ドットの面密度を適切に調整すると、共振器81の共振器モードの電場振幅が最大値の略半分以上である領域に、複数個でなく単一の量子ドット82のみが存在する状況を実現できる。量子ドットの発光波長は主にドットの材料やサイズ等の成長(作製)条件で決まる。フォトニック結晶共振器81の共鳴波長をドットの荷電励起子の再結合発光波長と一致するように設計すれば、共振器と量子ドット中の励起子再結合発光が共鳴していて、かつ共振器モードの電場との重なりの大きな系を提供できる。このような系では量子ドット周囲の光学状態密度が高いために、励起子再結合発光の発光レートが増強される(一般的にパーセル効果と呼ばれている)。
【0037】
以上、本実施形態では、2次元フォトニック結晶のフォトニックバンドギャップ帯域において、共振器面内方向への光の伝播禁制となる。従って、フォトニック結晶微小共振器(および該共振器と結合した量子ドット)の光の励起と取り出し方向は共振器面内と垂直のz軸方向に限定されるため、基板面内に静磁場を印加した場合、Voigt配置が自然に実現される。ここで、励起光を−z方向に、出力光を+z方向に選べることに注目する。このことは、この系を波長変換装置として適用した際には、ポンプ光と信号光の伝播方向が逆転しているために背景技術におけるポンプ光と信号光の切り分けの問題が軽減されることを意味する。
【0038】
また、フォトニック結晶共振器の共鳴波長とゼロ磁場中での量子ドット中の(負荷電)励起子の発光波長が一致している状況を仮定したが、本実施形態のより好ましい形態では、ゼロ磁場下では両者に僅かに差がある状況を利用する。共振器モードの共鳴波長とゼロ磁場での負荷電励起子の電子正孔再結合の発光波長はどちらが短波長側でも構わないが、ここでは共振器モードが短波長側にある状況を例に説明する。
【0039】
このような状況下での発光スペクトルの概念図を図9(a)、図9(b)に示す。図9(a)、図9(b)において、V偏光の共振器モード91は、例えばスラブ層の半導体基材のエネルギーギャップよりも短波長の励起光で強く励起した際に明瞭な輝線として観測される。しかし、以後で説明するような共鳴励起の手法においてはその限りでないため、V偏光の共振器モード91を点線で示す。図9(a)において、負荷電励起子状態と電子スピン状態は前述の通りゼロ磁場ではそれぞれ縮退しているため、前者と後者の間の光学遷移による再結合発光の輝線は波長λの単一の輝線92としてスペクトル上に現れる。
【0040】
また、基板H軸方向に静磁場を印加すると、図6で説明したように各電子スピン状態は、下向き電子スピン状態と上向き電子スピン状態にゼーマン分裂する。そのため、図9(a)における負荷電励起子状態の再結合発光による輝線92も、図9(b)に示すように、H偏光の光学遷移(波長λ1)による発光再結合輝線93と、V偏光の光学遷移(波長λ2)による発光再結合輝線94に分裂する。一方で、共振器の共鳴波長は共振器の幾何学的形状と半導体スラブ層の屈折率によって決まっているので、静磁場の影響を受けない。よって、図9(b)に示すように、V偏光の輝線94(波長λ2)が共振器のV偏光モード91と重なる、すなわち略共鳴するように静磁場を印加すると、V偏光での発光再結合はパーセル効果によって促進される。それに対して、H偏光での発光再結合(輝線93)は共振器モードと波長が一致せず、フォトニックバンドギャップ効果によって抑制される。
【0041】
以上の状況から、同一の励起状態(負荷電励起子状態)から2つ基底状態(電子スピン状態)への発光再結合のレートはもはや同等ではなく、波長λ2での発光再結合(輝線94)が著しく顕著になる。
【0042】
以上では、本実施形態で利用する量子準位とフォトニック結晶微小共振器との関係性を説明した。続いて、単一光子の波長変換を行う場合の波長変換装置を説明する。入力の単一光子の波長は、前記波長λ1より短波長のバンド間励起でもよいが、最も好ましくは、図7に示したような光学遷移73に対応した波長λ1がよい。この場合、まずH偏光の光学遷移73によって負荷電励起子状態72が励起される。負荷電励起子状態72からの発光再結合は前述のように、共振器と共鳴しているV偏光の波長λ2での発光再結合(図9(b)における輝線94)が優勢となる。これによって波長λ1から波長λ2への波長変換を実現するがことできる。
【0043】
出力光子を波長フィルターで切り出すことで、さらに高効率に取り出すことが可能となる。本実施の形態では、入出力波長とその直線偏光が1対1に対応しているという特徴を利用して、V偏光の偏光子を適用することによって波長フィルターより高効率に切り出すことができる。例えばグラン・トムソンプリズムを用いた偏光子は偏光子と同一直線偏光の出力光に対しては90%近い透過率を持ち、かつ雑音光(偏光子と垂直偏光)に対しては消光比10^−5以下でカットできることが知られている。これによって、より信号/雑音比の高い波長変換装置を提供できる。
【0044】
[第三の実施形態]
第二の実施形態では、最も好ましい例として入力波長がλ1の共鳴励起の場合について波長変換装置の説明をしてきた。第三の実施形態では、波長変化量のより大きな波長変換を行う場合について言及する。
【0045】
波長変化量を大きくする方法としては、出力光より短波長の入力光で、量子ドットの高次準位あるいは、さらに高エネルギーのバンド間を励起するケースを考えればよい。ここでは簡単のため、量子ドットの高次準位を励起する場合を例に説明する。ゼロ磁場でのエネルギーダイアグラムと、対応する発光スペクトルの概略図を図10に示す。
【0046】
入力光101(波長λ3)によって、基底状態である電子スピン状態102から励起状態(例えば、s殻に電子1つ、p殻に電子正孔対が存在するような状態)103が作られる。励起状態103は(典型的にはピコ秒オーダーの)極短い時間で、負荷電励起子状態104にエネルギー緩和する。その後、負荷電励起子状態104は電子スピン状態102へ波長λで発光再結合する(図9に(a)おける輝線92)。この波長λと図9(a)における共振器モード91が共鳴するように共振器を設計することで、光学遷移105による発光再結合がパーセル効果によって促進される。よって、励起状態103から基底状態102への緩和は、光学遷移105が優勢となる。
【0047】
以上のようにして、波長λ3からλへの、波長変化量の大きい波長変換が実現される。なお、この形態での入力波長は前述の例のp殻に電子正孔対を励起した状態に限らず、たとえばより高い準位のd殻に電子正孔対を生成した場合や、半導体基材(例えば実施例では後述のGaAs)の格子振動を介したラマン散乱の場合等でも構わない。
【0048】
格子振動を介した場合についてもう少し説明する。一般に、半導体基材に固有の格子振動のエネルギーをEphとしたとき、入力光のエネルギーEinに対してEin−Ephの光が散乱されて出てくる(ストークス・ラマン散乱と呼ばれている)。このとき、Ein−Ephが励起子(複合粒子)状態の発光再結合エネルギーEと一致していると、このラマン散乱はより顕著になる。このことは見方を変えれば、E+Ephのエネルギーの光子を入力すると、エネルギーE+Ephの仮想的な励起状態からラマン散乱を介してエネルギーEで再結合して発光する出力光子に効率的に波長変換できることを意味している。
【0049】
以上のように、本実施形態によれば出力波長λに対して入力波長は1つに限らず、より入力波長の自由度の高い波長変換装置を提供できる。また、上記の波長変化量の大きな波長変換は、1.55mm帯あるいは1.3mm帯の通信波長帯の(単一)光子へ波長変換する用途にも好適である。すなわち、前記光学遷移105の波長が通信波長帯にあるような量子ドットを選択することで、より短波長の入力光子から通信波長帯の長波長への波長変換が可能となる。
【0050】
[第四の実施形態]
第一乃至第三の実施形態では入力光子は単一光子である必要はないが、説明の簡略化のために単一光子を念頭において言及してきた。これに対して本実施形態では、あえて入力光子が単一光子でない場合に着目すると、波長変換を伴った単一光子の発生装置に適用できることを説明する。
【0051】
量子ドット中の電子と正孔からなる励起子複合粒子状態はパウリの排他律によって、スピン自由度まで含めた全く同じ状態はとることができない。また、ある複合粒子状態から電子や正孔を加えたり除いたり、あるいは電子または正孔を高次準位に励起したりした別の複合粒子状態は、キャリア間のクーロン相互作用や交換相互作用によってエネルギーがそれぞれ異なる。従って、ドット内の複合粒子状態と発光スペクトルは1対1に対応する。よってある波長の輝線のみに着目すれば、例えバンドギャップエネルギー以上の励起光で励起したとしても、既に生成されている励起子状態が発光再結合しない限り同一波長の輝線では再び光ることができない。以上の理由により、入力光子が単一光子でなかったとしても、出力光子の単一光子性は保証される。
【0052】
以上の量子ドットからの(波長変換を伴った)単一光子生成は量子ドット固有の性質であり、共振器とは直接関連するものではない。しかし、共振器が存在しない量子ドットのみの単一光子生成装置に比べて本実施形態で共振器が存在することには少なからぬ利点がある。例えば、パーセル効果によって発光レートが上がることで、単一光子の生成レートが上昇する。さらにフォトニックバンドギャップ効果によって出力光子の共振器面内方向への伝播が抑制されるために、相対的に共振器面内と垂直方向への出力光子の取り出し効率が上昇する。特に生成レートに関しては、本実施形態では量子ドットと共振器の結合度合い(パーセル因子)倍だけ向上するため、典型的な量子ドットの再結合発光寿命が1nsであることを勘案すると原理的にはGHzを超える生成レートにまで向上する可能性がある。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明の実施例を挙げて、本発明に基づく単一光子波長変換装置をより具体的に説明する。
【0054】
半導体基板を微細加工して作製したフォトニック結晶微小共振器の断面図を、図11に示す。半導体基材111には、GaAs基板を用いた。この基板の(100)面上に分子線ビームエピタキシー法を用いて、以下の層を積層した。まず、半導体緩衝層112として、厚さ300nmのGaAs層と、その後に犠牲層113として厚さ700nmのAlGaAs層を積層した。
【0055】
続いてスラブ層114として、厚さ165nmのGaAs層を積層した。このスラブ層について少し説明を加える。まず、下から80nmだけGaAs層を成長後に、量子ドット層115として、原子層レベルの薄いInAs層(濡れ層)を積層した。GaAsとInAsは格子定数が異なるために、その界面に格子不整合歪みのエネルギーが溜まる。そのため、ある臨界膜厚を超えたところで歪みのエネルギーを解消するようにInAsが3次元のピラミッド状構造をとる(Stranski−Krastanovモード)。この3次元微小構造が、InAsの自己形成量子ドットである。ドットの大きさや密度は成長温度や、原料の分子線の圧力や積層時間等、様々なパラメータに依存する。実施例の量子ドットの面密度は約3×10cm−2であった。
【0056】
最後に、再びGaAsを80nm積層してキャップした。以上のようにしてスラブ層を作製した。
【0057】
フォトニック結晶構造は、電子線描画およびドライエッチング、ウエットエッチングの手法により作製された。より具体的には、まず電子線描画により半径62nmの円孔および円孔欠陥を格子定数238nmの三角格子状に配置したナノパターンをレジストに転写した。これを現像した後に、塩素系ICP(Inductively Coupled Plasma)エッチングでナノパターン状の空気円孔116をGaAsスラブ層に形成した。最後に、希釈フッ酸のウエットエッチングでナノパターン直下のAlGaAs犠牲層のみを選択的に除去することで、エアブリッジ型の2次元スラブ型フォトニック結晶構造を作製した。
【0058】
実施例で作製した共振器を図12に示す。図12に示した共振器は、三角格子状に配置した円孔121のうち1つが欠けているH1型と呼ばれるフォトニック結晶微小共振器122である。前述の格子定数と円孔直径を選んだ結果、このフォトニック結晶のバンドギャップは波長にして700nm〜950nm程度に、共振器モードは920−930nm程度に存在することが確かめられた。一方、作製した量子ドットは波長900−960nm程度の近赤外線領域で励起子再結合発光した。
【0059】
量子ドットはランダムな場所に形成されるためその場所にピンポイントに共振器を作製することは困難であるが、波長は前記のように設計によって共鳴させることができる。従って、ある確率で単一の量子ドットが共振器モードの電場の腹に存在し、かつ励起子再結合の波長が共鳴しているという状況を実現できた。7Kで測定された、フォトニック結晶共振器中の量子ドット励起子のフォトルミネッセンススペクトルを図13に示す。励起光は877.5nmのピコ秒パルス発振のチタンサファイアレーザーである。この励起波長はInAs濡れ層の端ではあるが量子ドットの高次準位(p殻)に対応している。すなわち、(励起光が単一光子でないことを除けば)図10の概略図に全く相当する状況である。931.2nmに励起子再結合発光による輝線(図10の105に相応)が立っていることが分かる。すなわち、第三の実施形態に沿った表現をすれば、877.5nmから931.2nmに波長変換されている。
【0060】
この輝線について、単一光子性を確かめるためにHanbury Brown Twiss型相関計測器を用いて光子相関測定を行った。結果を示す前に、Hanbury Brown Twiss型セットアップについて図14を参照しながら簡単に説明する。本実施例の単一光子波長変換装置からの出力光141はビームスプリッター142で進路を2方向に分けられた後に、波長分解能0.25nmの回折格子分光器143で切り出されて、各々APD(Avalanche Photo Diode)で光子検出される。ビームスプリッター後の光路長は、2方向で完全に一致させている。
【0061】
検出された光子はAPDで電気信号に変換され、相関測定器146で2つのAPDで光子を検出した時刻の相関が計測される。もし出力光子が単一光子ならば、その光子はビームスプリッター142を透過してAPD1(144)で検出されるか、またはビームスプリッター142で反射されてAPD2(145)で検出されるかのどちらかしか有り得ない。従って、同時刻でAPD1とAPD2の両方で光子を検出する事象は存在しないことになる。逆に、もし出力光子が単一光子でないならば、1つのパルス中に複数個の光子を含むため、ビームスプリッターで分離した後でもAPD144とAPD145の両方で同時刻に光子を検出する事象が有限の確率で起こることになる。
【0062】
実施例の波長変換装置の出力光子について、光子相関測定を行った結果を図15に示す。図のグラフの横軸は、2つのAPDのうち一方のAPDで光子を検出した時間を基準にしたときの、もう一方のAPDで光子を検出した時間(遅延時間t)である。縦軸には、2つの光子を検出した事象の起きた回数をとった。t=0、すなわち2つのAPDで同時刻に光子を検出した事象の頻度は、有限の遅延時間での2光子検出の事象に比べて16%ほどに抑えられていることが分かった。これは、出力光子が単一光子性を持っていることを示している。すなわち、第四の実施形態に沿った表現をすれば、波長931.2nmの単一光子の生成装置として動作している。以上の実施例では、励起をパルスレーザーで行ったが、励起が単一光子の場合も全く同様であり、単一光子の波長変換装置として動作する。
【0063】
なお、本発明を前述の実施形態及び実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、光ファイバーで伝送損失の少ない通信波長帯に波長変換、あるいは当該波長帯の単一光子を生成できるため、量子暗号通信用の(単一)光子源として適用できる。
【0065】
(付記1)
フォトニック結晶微小共振器と、量子ドットとを有する波長変換装置であって、
前記フォトニック結晶微小共振器の共振器モード電場振幅は、最大値の略半分以上である領域に前記量子ドットが位置し、
前記フォトニック結晶共振器は、少なくとも1つの直線偏光モードを有し、
入力光は、前記量子ドットの光学遷移のうち、前記フォトニック結晶微小共振器と共鳴していない光学遷移の波長を持ち、
出力光は、前記量子ドットの光学遷移のうち、前記フォトニック結晶微小共振器と共鳴し、かつ同一の直線偏光によって実現される光学遷移の波長を持つことを特徴とする、波長変換装置。
【0066】
(付記2)
前記入力光の波長の光学遷移が、光学選択則により直線偏光によって実現され、その偏光が共振器モードの直線偏光と垂直であることを特徴とする、付記1に記載の波長変換装置。
【0067】
(付記3)
前記量子ドットは基底準位として電子スピン状態またはホールスピン状態を有し、励起準位として負荷電励起子状態または正荷電励起子状態を有することを特徴とする、付記1または付記2に記載の波長変換装置。
【0068】
(付記4)
負荷電励起子状態、または正荷電励起子状態のゼロ磁場下での発光再結合波長が、前記共振器の共鳴波長と僅かに差があることを特徴とする、付記3に記載の波長変換装置。
【0069】
(付記5)
前記入力光の波長あるいは前記出力光の波長の少なくとも一方の波長が、1.55mm帯あるいは1.3mm帯の通信波長帯であることを特徴とする、付記1乃至付記4のいずれか1項に記載の波長変換装置。
【0070】
(付記6)
前記入力光が入力光子であり、前記入力光子の波長は、出力光子の再結合発光に対応する光学遷移よりエネルギーの高い光学遷移であることを特徴とする、付記1乃至付記5のいずれか1項に記載の波長変換装置。
【0071】
(付記7)
前記入力光が入力光子であり、前記入力光子の伝播方向が出力光子の伝播方向と逆であることを特徴とする、付記1乃至付記6のいずれか1項に記載の波長変換装置。
【0072】
(付記8)
前記フォトニック結晶微小共振器は、半導体スラブ層と半導体量子ドット層を有し、空気円孔が前記半導体スラブ層に周期格子状に配置され、前記周期格子を乱した微小領域を設け量子ドットとすることを特徴とする、付記1に記載の波長変換装置。
【0073】
(付記9)
フォトニック結晶微小共振器と、量子ドットとを有する単一光子発生装置であって、
前記フォトニック結晶微小共振器の共振器モード電場振幅は、最大値の略半分以上である領域に前記量子ドットが位置し、
前記フォトニック結晶共振器は、少なくとも1つの直線偏光モードを有し、
入力光は、前記量子ドットの光学遷移のうち、前記フォトニック結晶微小共振器と共鳴していない光学遷移の波長を持ち、
出力光は、単一光子であることを特徴とする、単一光子発生装置。
【0074】
(付記10)
量子ドットの光学遷移のうち、フォトニック結晶微小共振器と共鳴していない光学遷移の波長を持つ入力光を、
少なくとも1つの直線偏光モードを有し共振器モード電場振幅は、最大値の略半分以上である領域に前記量子ドットが位置するフォトニック結晶微小共振器に入射することを特徴とする、
波長変換方法。
【0075】
(付記11)入力光の波長の光学遷移が半導体基材の格子振動を利用したラマン散乱であることを特徴とする、付記1乃至付記8のいずれか1項に記載の波長変換装置。
【符号の説明】
【0076】
11、122 フォトニック結晶微小共振器
12、21、111 半導体基材
13、82 量子ドット
14 入力光
15 出力光
22、112 半導体緩衝層
23、113 半導体犠牲層
24、31、114 半導体スラブ層
25、115 半導体量子ドット層
26、116、121 円孔(空気孔)
27 スラブ層と垂直方向(z軸)
32 周期的円孔
33、81 周期構造を乱した微小領域
34 三角格子の格子定数
35 点欠陥最近接円孔
36 H軸
37 V軸
41 各電子準位
42 各正孔準位
43 電子
44 正孔
51 電子スピン状態(2重縮退)
52 負荷電励起子状態(2重縮退)
53 光学遷移
61 下向き電子スピン状態(s=−1/2)
62 上向き電子スピン状態(s=+1/2)
63 負荷電励起子状態(strion=−3/2)
64 負荷電励起子状態(strion=+3/2)
71 下向き電子スピン状態
72 負荷電励起子状態
73 負荷電励起子状態−電子スピン状態間のH偏光光学遷移
74 上向き電子スピン状態
75 負荷電励起子状態−電子スピン状態間のV偏光光学遷移
83 共振器モードの電場強度
91 共振器V偏光モード
92 負荷電励起子再結合発光輝線(ゼロ磁場)
93 負荷電励起子のH偏光再結合発光輝線
94 負荷電励起子のV偏光再結合発光輝線
101 入力光
102 基底状態である電子スピン状態
103 励起状態
104 負荷電励起子状態
105 光学遷移
141 波長変換装置の出力光子
142 ビームスプリッター
143 回折格子単色光分光器
144、145 APD
146 相関測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトニック結晶微小共振器と、量子ドットとを有する波長変換装置であって、
前記フォトニック結晶微小共振器の共振器モード電場振幅は、最大値の略半分以上である領域に前記量子ドットが位置し、
前記フォトニック結晶共振器は、少なくとも1つの直線偏光モードを有し、
入力光は、前記量子ドットの光学遷移のうち、前記フォトニック結晶微小共振器と共鳴していない光学遷移の波長を持ち、
出力光は、前記量子ドットの光学遷移のうち、前記フォトニック結晶微小共振器と共鳴し、かつ同一の直線偏光によって実現される光学遷移の波長を持つことを特徴とする、波長変換装置。
【請求項2】
前記入力光の波長の光学遷移が、光学選択則により直線偏光によって実現され、その偏光が共振器モードの直線偏光と垂直であることを特徴とする、請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項3】
前記量子ドットは基底準位として電子スピン状態またはホールスピン状態を有し、励起準位として負荷電励起子状態または正荷電励起子状態を有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の波長変換装置。
【請求項4】
負荷電励起子状態、または正荷電励起子状態のゼロ磁場下での発光再結合波長が、前記共振器の共鳴波長と僅かに差があることを特徴とする、請求項3に記載の波長変換装置。
【請求項5】
前記入力光の波長あるいは前記出力光の波長の少なくとも一方の波長が、1.55mm帯あるいは1.3mm帯の通信波長帯であることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれかに1項に記載の波長変換装置。
【請求項6】
前記入力光が入力光子であり、前記入力光子の波長は、出力光子の再結合発光に対応する光学遷移よりエネルギーの高い光学遷移であることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の波長変換装置。
【請求項7】
前記入力光が入力光子であり、前記入力光子の伝播方向が出力光子の伝播方向と逆であることを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれかに1項に記載の波長変換装置。
【請求項8】
前記フォトニック結晶微小共振器は、半導体スラブ層と半導体量子ドット層を有し、空気円孔が前記半導体スラブ層に周期格子状に配置され、前記周期格子を乱した微小領域を設け量子ドットとすることを特徴とする、請求項1に記載の波長変換装置。
【請求項9】
フォトニック結晶微小共振器と、量子ドットとを有する単一光子発生装置であって、
前記フォトニック結晶微小共振器の共振器モード電場振幅は、最大値の略半分以上である領域に前記量子ドットが位置し、
前記フォトニック結晶共振器は、少なくとも1つの直線偏光モードを有し、
入力光は、前記量子ドットの光学遷移のうち、前記フォトニック結晶微小共振器と共鳴していない光学遷移の波長を持つことを特徴とする、単一光子発生装置。
【請求項10】
量子ドットの光学遷移のうち、フォトニック結晶微小共振器と共鳴していない光学遷移の波長を持つ入力光を、
少なくとも1つの直線偏光モードを有し共振器モード電場振幅は、最大値の略半分以上である領域に前記量子ドットが位置するフォトニック結晶微小共振器に入射することを特徴とする、
波長変換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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