説明

波長変換部材および発光デバイス

【課題】演色性に優れ、しかも全光束値の高い発光デバイスを得ることが可能な波長変換部材を提供する。
【解決手段】無機蛍光体粉末と、平均粒子径D50が100μm以下である蛍光ガラス粉末とを含有する混合粉末の焼結体からなることを特徴とする波長変換部材。蛍光ガラス粉末が、波長300〜500nmの励起光を照射することにより、波長400〜800nmの蛍光を発することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色LED等の発光デバイスの構成部材として用いられる波長変換部材およびそれを用いた発光デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白色LEDは高効率および高信頼性を有する白色光源として注目されており、微小電力型光源として既に実用化されているものもある。白色LEDとしては、例えば青色LED素子を、黄色の無機蛍光体粉末と透明樹脂との混合物で被覆モールドしたものがある。ここで、青色LEDから照射された青色光は、その一部は無機蛍光体粉末により黄色光に変換され、他はそのまま透過することにより、黄色光と青色光が合成されて白色光として外部に取り出される。
【0003】
白色LEDの他の例として、紫外〜近紫外の光を発するLED素子を、赤色(R)、緑色(G)および青色(B)の無機蛍光体粉末と無色透明樹脂との混合物で被覆モールドしたものがある。当該白色LEDは3原色の無機蛍光体粉末を使用するため演色性が高く、また無機蛍光体粉末の配合比を適宜変更することにより発光色の色合いを容易に調整できるため、蛍光ランプに代わる照明として注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、無機蛍光体粉末を樹脂やガラスのマトリクス中に分散させたもの以外に、ガラス自体が蛍光を発する蛍光ガラスも蛍光体材料として提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−179644号公報
【特許文献2】特開平10−167755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、無機蛍光体粉末はその種類によっては発光強度が低いものがあり、所望の発光色が得られても、全光束値が低いという問題がある。そこで、無機蛍光体粉末の配合量を増やすことで発光強度を高める方法が考えられるが、その場合、無機蛍光体粉末自身の光吸収(濃度消光)が大きくなり、依然として所望の全光束値を得ることは困難である。
【0007】
一方、蛍光ガラスは励起光に対して高い透過率を有するため、励起光の大半が波長変換されずにそのまま外部に透過してしまう。したがって、蛍光ガラスは発光強度が非常に低く、照明用途に使用するために必要な全光束値が得られないという問題がある。
【0008】
以上に鑑み、本発明は、演色性に優れ、しかも全光束値の高い発光デバイスを得ることが可能な波長変換部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、無機蛍光体粉末と、平均粒子径D50が100μm以下である蛍光ガラス粉末とを含有する混合粉末の焼結体からなることを特徴とする波長変換部材に関する。
【0010】
既述の通り、一般に、無機蛍光体粉末にはその種類によっては発光強度が低いものがある。そこで、本発明では、無機蛍光体粉末に対し蛍光ガラスを組み合わせることにより、無機蛍光体粉末による発光強度の不足を補うことができ、結果として全光束値の高い発光デバイスを得ることができる。
【0011】
なお、従来の蛍光ガラスはバルク状で使用するのが一般的であったが、この場合、既述の通り、励起光の大半が波長変換されずにそのまま外部に透過してしまい、十分な発光強度が得られないといった問題があった。一方、本発明では、粉末状の蛍光ガラスと無機蛍光体粉末を含有する混合粉末の焼結体からなるため、各蛍光ガラス粉末の間、あるいは、蛍光ガラス粉末と無機蛍光体粉末の間における粒界において、励起光が散乱しやすい構造となっている。それにより、無機蛍光体粉末および蛍光ガラスに対する励起光の照射効率が高まり、全光束値の高い波長変換部材を得ることが可能となる。特に、本発明では、蛍光ガラス粉末の平均粒子径D50を100μm以下に限定しているため、各粉末間における粒界の総面積が大きくなり、励起光の散乱効果が得られやすい。
【0012】
第二に、本発明の波長変換部材は、蛍光ガラス粉末が、波長300〜500nmの励起光を照射することにより、波長400〜800nmの蛍光を発することが好ましい。
【0013】
なお本発明において、「波長○〜○nmの励起光(蛍光)」とは、該当する波長範囲に発光ピークを有する励起光(蛍光)をいう。
【0014】
第三に、本発明の波長変換部材は、蛍光ガラス粉末が、波長300〜440nmの励起光を照射することにより、波長400〜800nmの蛍光を発することが好ましい。
【0015】
励起光が可視光である場合と異なり、励起光が波長300〜440nmの紫外〜近紫外の光である場合は、可視光ではないため、励起光が蛍光体成分の波長変換に消費されずに波長変換部材外部に透過してしまうと、その光のエネルギーは全光束値の向上には寄与しない。一方、既述の通り、本発明の波長変換部材は、励起光を蛍光ガラス粉末または無機蛍光体粉末に効率よく照射させることが可能なため、外部にそのまま透過する励起光を極力低減することができる。そのため、本発明の波長変換部材は、特に励起光が波長300〜440nmの紫外〜近紫外である発光デバイスに適用した場合に、全光束値を向上させる効果を享受しやすいと言える。
【0016】
第四に、本発明の波長変換部材は、蛍光ガラス粉末が、ガラス組成として、MnO、AgO、CuO、SnOおよびLn(LnはSm、Eu、Pr、NdまたはTb)のいずれか1種類以上を含有することが好ましい。
【0017】
第五に、本発明の波長変換部材は、蛍光ガラス粉末が、ガラス組成として、モル%で、SiO 30〜80%、B 0〜40%、MgO 0〜20%、CaO 0〜30%、SrO 0〜20%、BaO 0〜40%、LiO+NaO+KO 0〜20%、Al 0〜20%、ZnO 0〜20%およびMnO+AgO+CuO+SnO+Ln(LnはSm、Eu、Pr、NdまたはTb)0.01〜20%を含有することが好ましい。
【0018】
第六に、本発明の波長変換部材は、蛍光ガラス粉末が、ガラス組成として、モル%で、SnO 35〜80%、P 5〜40%、B 0〜30%およびMnO+AgO+CuO+Ln(LnはSm、Eu、Pr、NdまたはTb)0.01〜20%を含有することが好ましい。
【0019】
第七に、本発明の波長変換部材は、無無機蛍光体粉末が、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、希土類硫化物、アルミン酸塩化物またはハロリン酸塩化物からなることが好ましい。
【0020】
第八に、本発明の波長変換部材は、無機蛍光体粉末を0.1〜30質量%含有することが好ましい。
【0021】
第九に、本発明の波長変換部材は、JIS K7105に準拠して測定した平行光線透過率が10%以下、かつ、ヘイズが80%以上であることが好ましい。
【0022】
第十に、本発明は、前記いずれかの波長変換部材、および、波長変換部材に励起光を照射する発光素子を備えてなることを特徴とする発光デバイスに関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の波長変換部材を用いれば、励起光を照射した際に高い発光強度が得られるため、発光デバイスの全光束値を高めることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の波長変換部材は、無機蛍光体粉末と蛍光ガラス粉末を含有する混合粉末の焼結体からなる焼結体からなる。
【0025】
蛍光ガラス粉末は、自ら蛍光を発することにより無機蛍光体粉末の発光強度の不足を補うとともに、無機蛍光体粉末を安定に保持するための媒体としての役割もある。
【0026】
蛍光ガラス粉末の発光特性としては、例えば波長300〜500nmの励起光を照射することにより、波長400〜800nmの蛍光を発するものであることが好ましい。より具体的には、波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射することにより、波長400〜800nmの蛍光(例えば、青色(波長440〜480nm)、緑色(波長500〜540nm)、黄色(波長540〜595nm)または赤色(波長600〜700nm))を発するものや、波長440〜480nmの青色の励起光を照射することにより、波長400〜800nmの蛍光を発するもの等が挙げられる。
【0027】
蛍光ガラス粉末に使用できるガラスとしては、例えばSiO系ガラス、SnO−P系ガラス、TeO系ガラスおよびBi系ガラス等が挙げられる。蛍光ガラス粉末は、蛍光イオン成分として、ガラス組成中にMnO、AgO、CuO、SnOおよびLn(LnはSm、Eu、Pr、NdまたはTb)のいずれか1種類以上を含有するものであることが好ましい。
【0028】
SiO系ガラスとしては、例えば、ガラス組成として、モル%で、SiO 30〜80%、B 0〜40%、MgO 0〜20%、CaO 0〜30%、SrO 0〜20%、BaO 0〜40%、LiO+NaO+KO 0〜20%、Al 0〜20%、ZnO 0〜20%およびMnO+AgO+CuO+SnO+Ln(LnはSm、Eu、Pr、NdまたはTb)0.01〜20%を含有するものであることが好ましい。ガラス組成をこのように限定した理由を以下に説明する。
【0029】
SiOはガラス骨格を形成する成分である。SiOの含有量は30〜80%、特に40〜60%であることが好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、化学的耐久性が低下する傾向にある。一方、SiOの含有量が多すぎると、焼結温度が高くなって、無機蛍光体粉末が熱により劣化しやすくなる。
【0030】
は溶融温度を低下させて溶融性を改善する効果が大きい成分である。また、ガラスの分相を促進させる効果を有する。ガラスが分相構造を有していると、後述するように、励起光が散乱しやすくなり、全光束値が向上する効果が期待できる。Bの含有量は0〜40%、5〜35%、特に10〜30%であることが好ましい。Bの含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0031】
MgOは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。MgOの含有量は0〜20%、特に0.1〜15%であることが好ましい。MgOの含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0032】
CaOは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。CaOの含有量は0〜30%、特に3〜25%であることが好ましい。CaOの含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0033】
SrOは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。SrOの含有量は0〜20%、特に0.1〜15%であることが好ましい。SrOの含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0034】
BaOは溶融温度を低下させて溶融性を改善するとともに、無機蛍光体粉末との反応を抑制する成分である。BaOの含有量は0〜40%、特に5〜30%であることが好ましい。BaOの含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0035】
LiO、NaOおよびKOは軟化点を低下させる効果がある。これらの成分を積極的に添加することにより、焼結温度を低下させることができ、無機蛍光体粉末の熱劣化を抑制することが可能となる。LiO+NaO+KOの含有量は0〜20%、0.1〜15%、1〜10%、特に2〜8%であることが好ましい。LiO+NaO+KOの含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0036】
なお、各成分の含有量の好ましい範囲は以下の通りである。
【0037】
LiOの含有量は0〜20%、0.1〜10%、1〜7%、特に2〜5%であることが好ましい。
【0038】
NaOの含有量は0〜20%、0〜10%、特に0〜2%であることが好ましい。
【0039】
Oの含有量は0〜20%、0〜15%、0〜5%、特に0〜2%であることが好ましい。
【0040】
Alは化学的耐久性を向上させるための成分である。Alの含有量は0〜20%、特に1〜18%であることが好ましい。Alの含有量が多すぎると、溶融温度が高くなって溶融性が低下しやすくなる。
【0041】
ZnOは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。ZnOの含有量は0〜20%、特に1〜18%であることが好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0042】
MnO、AgO、CuO、SnOおよびLn(LnはSm、Eu、Pr、NdまたはTb)はいずれもガラス中で蛍光を発するための蛍光イオンとなる成分である。MnO+AgO+CuO+SnO+Lnの含有量は0.01〜20%、特に0.1%〜15%であることが好ましい。MnO+AgO+CuO+SnO+Lnの含有量が少なすぎると、十分な発光強度が得られにくい。一方、MnO+AgO+CuO+SnO+Lnの含有量が多すぎると、濃度消光により発光強度が低下する傾向がある。
【0043】
また、上記成分以外にも、溶融性を改善したり、軟化点を低下させるために、Pを5%まで、さらに、化学的耐久性を向上させるためにTa、TiO、Nb、Gd、La、Y、CeO、Sb、Bi、TeOまたはZrOを合量で15%まで添加してもよい。
【0044】
SnO−P系ガラスとしては、ガラス組成として、モル%で、SnO 35〜80%、P 5〜40%、B 0〜30%およびMnO+AgO+CuO+Ln(LnはSm、Eu、Pr、NdまたはTb)0.01〜20%を含有するものが好ましい。
【0045】
SnOはガラス骨格を形成するとともに、軟化点を低下させる成分である。また、ガラス中で蛍光を発するための発光イオンとなる成分である。SnOの含有量は35〜80%、特に40〜75%であることが好ましい。SnOの含有量が少なすぎると、軟化点が上昇する傾向にあり、また、耐候性が低下する傾向にある。一方、SnOの含有量が多すぎると、ガラス中にSnに起因する失透ブツが析出して透過率が低下する傾向にあり、結果として、波長変換部材部材の発光強度が低下しやすくなる。また、ガラス化しにくくなる。
【0046】
はガラス骨格を形成する成分である。Pの含有量は5〜40%、特に10〜30%であることが好ましい。Pの含有量が少なすぎると、ガラス化しにくくなる。一方、Pの含有量が多すぎると、軟化点が上昇したり、耐候性が著しく低下する傾向にある。
【0047】
は耐候性を向上させる成分であるとともに、ガラスの分相を促進させるための成分である。また、ガラスを安定化させる効果もある。Bの含有量は0〜30%、特に1〜25%であることが好ましい。Bの含有量が多すぎると、耐候性が低下しやすくなる。また、軟化点が上昇する傾向がある。
【0048】
MnO、AgO、CuOおよびLn(LnはSm、Eu、Pr、NdまたはTb)はいずれもガラス中で蛍光を発するための蛍光イオンとなる成分である。MnO+AgO+CuO+Lnの含有量は、0.01〜20%、特に0.1%〜15%であることが好ましい。MnO+AgO+CuO+Lnの含有量が少なすぎると、十分な発光強度が得られにくくなる。一方、MnO+AgO+CuO+Lnの含有量が多すぎると、濃度消光により発光強度が低下する傾向がある。
【0049】
また上記成分以外にも、ガラスの溶融性を改善したり、軟化点を低下させるために、CaO、MgO、SrOまたはBaOを合量で10%まで、またLiO、NaOまたはKOを合量で10%まで添加することができる。他にも、ガラスの化学的耐久性を向上させるために、Al、ZrO、ZnO、Ta、TiO、Nb、Gd、Bi、TeOまたはLaを合量で15%まで添加してもよい。
【0050】
蛍光ガラス粉末の平均粒子径D50は100μm以下であり、50μm以下であることが好ましい。蛍光ガラス粉末の平均粒子径D50が大きすぎると、各蛍光ガラス粉末の間や、蛍光ガラス粉末と無機蛍光体粉末との間における粒界が少なくなり、励起光の散乱が小さくなるため、全光束値が低下する傾向がある。一方、蛍光ガラス粉末の平均粒子径D50の下限については特に限定されないが、小さすぎる場合は、焼成時に気泡の発生量が多くなるため、0.1μm以上、特に1μm以上であることが好ましい。波長変換部材中に気泡が多く含まれると発光色にバラツキが生じて色ズレの原因となる。また、散乱損失が大きくなり、全光束値が低下する傾向がある。さらに、水分が部材内部に浸入しやすくなり化学的耐久性が低下するおそれがある。好ましい気孔率は2%以下、特に1%以下である。
【0051】
蛍光ガラス粉末は、熱処理を行うことにより、少なくとも一部が結晶化または分相した構造を有してもよい。当該構造を有することにより、励起光の散乱が大きくなって、蛍光ガラスまたは無機蛍光体粉末に対する励起光の照射効率が高まり、結果として発光強度を向上させることが可能となる。
【0052】
本発明において使用可能な無機蛍光体粉末としては、一般に市場で入手できるものであれば特に限定されない。例えば、YAG等のガーネット系酸化物、その他の酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、希土類硫化物、アルミン酸塩化物またはハロリン酸塩化物等からなるものが挙げられる。
【0053】
上記無機蛍光体粉末の中でも、波長300〜500nmに励起帯を有し波長380〜780nmの蛍光を発するもの、特に青色、緑色、黄色または赤色に発光するものを用いることが好ましい。
【0054】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると青色の発光を発する無機蛍光体粉末としては、Sr(POCl:Eu2+、(Sr,Ba)MgAl1017:Eu2+、(Sr,Ba)MgSi:Eu2+等が挙げられる。
【0055】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると緑色の蛍光を発する無機蛍光体粉末としては、SrAl:Eu2+、SrGa:Eu2+、SrBaSiO:Eu2+、CdS:In、CaS:Ce3+、Y(Al,Gd)12:Ce2+、CaScSi12:Ce3+、SrSiOn:Eu2+、ZnS:Al3+,Cu、CaS:Sn2+、CaS:Sn2+,F、CaSO:Ce3+,Mn2+、LiAlO:Mn2+、BaMgAl1017:Eu2+,Mn2+、ZnS:Cu,Cl、CaWO:U、CaSiOCl:Eu2+、Sr0.2Ba0.7Cl1.1Al3.45:Ce3+,Mn2+、BaMgSi:Eu2+、BaSiO:Eu2+、BaLiSi:Eu2+、ZnO:S、ZnO:Zn、CaBa(POCl:Eu2+、BaAl:Eu2+等が挙げられる。
【0056】
波長440〜480nmの青色の励起光を照射すると緑色の蛍光を発する無機蛍光体粉末としては、SrAl:Eu2+、SrGa:Eu2+、SrBaSiO:Eu2+、CdS:In、CaS:Ce3+、Y(Al,Gd)12:Ce2+、CaScSi12:Ce3+、SrSiOn:Eu2+等が挙げられる。
【0057】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると黄色の蛍光を発する無機蛍光体粉末としては、ZnS:Eu2+、Ba(POCl:U、SrWO:U、CaGa:Eu2+、SrSO:Eu2+,Mn2+、ZnS:P、ZnS:P3−,Cl、ZnS:Mn2+等が挙げられる。
【0058】
波長440〜480nmの青色の励起光を照射すると黄色の蛍光を発する無機蛍光体粉末としては、Y(Al,Gd)12:Ce2+、Ba(POCl:U、CaGa:Eu2+、SrSiO:Eu2+が挙げられる。
【0059】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると赤色の蛍光を発する無機蛍光体粉末としては、CaS:Yb2+,Cl、GdGa12:Cr3+、CaGa:Mn2+、Na(Mg,Mn)LiSi10:Mn、ZnS:Sn2+、YAl12:Cr3+、SrB13:Sm2+、MgSrSi:Eu2+,Mn2+、α−SrO・3B:Sm2+、ZnS−CdS、ZnSe:Cu,Cl、ZnGa:Mn2+、ZnO:Bi3+、BaS:Au,K、ZnS:Pb2+、ZnS:Sn2+,Li、ZnS:Pb,Cu、CaTiO:Pr3+、CaTiO:Eu3+、Y:Eu3+、(Y、Gd):Eu3+、CaS:Pb2+,Mn2+、YPO:Eu3+、CaMgSi:Eu2+,Mn2+、Y(P、V)O:Eu3+、YS:Eu3+、SrAl:Eu3+、CaYAlO:Eu3+、LaOS:Eu3+、LiW:Eu3+,Sm3+、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(POCl:Eu2+,Mn2+、BaMgSi:Eu2+,Mn2+等が挙げられる。
【0060】
波長440〜480nmの青色の励起光を照射すると赤色の蛍光を発する無機蛍光体粉末としては、ZnS:Mn2+,Te2+、MgTiO:Mn4+、KSiF:Mn4+、SrS:Eu2+、CaS:Eu2+、Na1.230.42Eu0.12TiSi11、Na1.230.42Eu0.12TiSi13:Eu3+、CdS:In,Te、CaAlSiN:Eu2+、CaSiN:Eu2+、(Ca,Sr)Si:Eu2+、Eu等が挙げられる。
【0061】
無機蛍光体粉末の平均粒子径D50は、1〜50μm、特に5μm〜25μmであることが好ましい。無機蛍光体粉末の平均粒子径D50が小さすぎると、発光強度が低下しやすくなる。一方、無機蛍光体粉末の平均粒子径D50が大きすぎると、発光色が不均一になる場合がある。
【0062】
励起光や発光の波長域に合わせて、複数の無機蛍光体粉末を混合して用いてもよい。例えば、紫外域の励起光を照射して白色光を得る場合は、青色、緑色、赤色(さらに、必要に応じて黄色)の蛍光を発する無機蛍光体粉末を混合して使用すればよい。
【0063】
なお、蛍光ガラス粉末は、通常1.5〜2程度の屈折率(nd)を有するのに対し、無機蛍光体粉末も1.5〜2.4程度といった幅広い屈折率を有する。蛍光ガラス粉末と無機蛍光体粉末の組み合わせは、いろいろな可能性があるが、蛍光ガラス粉末と無機蛍光体粉末の屈折率差が大きい場合(例えば0.05以上、特に0.1以上)、両者の界面での散乱が大きくなり、発光強度が大きくなりやすい。なお、本発明の波長変換部材においては、既述の通り、各粉末間に多くの粒界が形成されているため、蛍光ガラス粉末と無機蛍光体粉末の屈折率差が小さい場合(例えば0.05未満)であっても、所望の発光強度を達成することは容易である。
【0064】
波長変換部材における無機蛍光体粉末の含有量は0.1〜30質量%、1〜30質量%、特に2〜20質量%であることが好ましい。無機蛍光体粉末の含有量が少なすぎると、発光強度が不十分となり、白色光が得られにくくなる。一方、無機蛍光体粉末の含有量が多すぎると、無機蛍光体粉末自身の光吸収(濃度消光)が大きくなり、発光強度が低下する傾向がある。また、気孔が発生しやすくなり、緻密な構造が得られにくい。
【0065】
また本発明の波長変換部材は、低温型石英、低温型クリストバル石、コランダム、ガーネット、正方晶ジルコニア、ガーナイトまたはコージエライト等の透光性を有するセラミック粉末を含有することができる。波長変換部材がこれらのセラミック粉末を含有することにより、励起光を散乱させる効果がより大きくなり、全光束値の高い波長変換部材が得られやすくなる。なお、励起光の散乱効果を高めるには、蛍光ガラス粉末とセラミック粉末の屈折率差が大きくなるよう組み合わせることが好ましい。具体的には、蛍光ガラス粉末とセラミック粉末の屈折率差は0.05以上、特に0.1以上であることが好ましい。
【0066】
セラミック粉末の平均粒子径D50は0.1〜30μm、特に0.2〜5μmであることが好ましい。セラミック粉末の平均粒子径D50が小さすぎると、励起光を散乱させる効果が得られにくくなる。一方、セラミック粉末の平均粒子径D50が大きすぎると、散乱損失が大きくなり、全光束値が低下する傾向がある。
【0067】
波長変換部材におけるセラミック粉末の含有量は0.1〜10質量%、特に1〜8質量%であることが好ましい。セラミック粉末の含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、セラミック粉末の含有量が多すぎると、散乱損失が大きくなり、全光束値が低下する傾向がある。
【0068】
本発明の波長変換部材は、JIS K7105に準拠して測定した平行光線(直線)透過率が10%以下、特に9%以下であることが好ましい。また、ヘイズが80%以上、特に85%以上であることが好ましい。平行光線透過率が高すぎる、または、ヘイズが低すぎる場合は、励起光の直進成分が多く、散乱効果が十分に得られていないことになり、全光束値が低くなる傾向がある。
【0069】
本発明の波長変換部材は、例えば無機蛍光体粉末と蛍光ガラス粉末を含有する混合粉末を予備成型し、所定の温度で焼成することにより焼結体とし、その後必要に応じて、研削、研磨またはリプレス等による加工を行うことにより作製することができる。
【0070】
予備成型方法は特に制限されず、プレス成形法や、射出成形法、シート成形法または押し出し成形法等の方法を採用することができる。
【0071】
焼成温度は、蛍光ガラス粉末の軟化点以上、特に軟化点+50℃以上であることが好ましい。焼成温度が低すぎると、蛍光ガラス粉末の軟化流動が不十分となり、気孔が残存しやすくなる。一方、上限は特に限定されないが、焼成温度が高すぎると、蛍光ガラス粉末と無機蛍光体粉末の反応が進行し、無機蛍光体粉末が一部消失して発光強度が低下する傾向がある。よって、焼成温度は、蛍光ガラス粉末の軟化点+100℃以下であることが好ましい。
【0072】
本発明の波長変換部材は、励起光源であるLEDチップ等の発光素子と組み合わせることにより発光デバイスとして使用することができる。本発明の波長変換部材は、LEDチップ等の発光素子上に直接接着してもよいし、発光素子を取り囲む函体上に接着して用いてもよい。また、板状の波長変換部材の下側にLEDチップを複数個設置した面発光デバイスとしてもよい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
表1および2は実施例(No.1〜4および7〜10)および比較例(No.5、6、11および12)を示している。
【0077】
まず、表に示すガラス組成となるようにガラス原料を秤量して混合し、この混合物を白金坩堝中において900〜1400℃で1時間溶融してガラス化した。溶融ガラスをフィルム状に成形し、得られたフィルム状ガラスをボールミルで粉砕した後、分級(篩あるいは空気分級)し、表に示した平均粒子径(D50)を有するガラス粉末を得た。なお、各ガラス粉末の発光色は、波長405nmの近紫外LEDにて励起した際の肉眼で観察された発光色を示している。No.5および11のガラス粉末は発光しなかった。
【0078】
次に、ガラス粉末に対し、表1および2に示した種類の無機蛍光体粉末を所定の配合割合となるように秤量した後に均一に混合し、金型を用いて加圧成形して直径1cm、厚み0.3mmのボタン状の予備成形体を作製した。なお、各無機蛍光体粉末の含有量は、配合比は、色温度3500K(温白色)が得られるように調整した。この予備成形体を表1および2に示す焼成温度で焼成し、焼結体を得た。焼結体に対して、直径8mmとなるように研削処理を施し、波長変換部材を得た。
【0079】
得られた波長変換部材について、下記の方法により、平行光線透過率、ヘイズおよび全光束値を測定した。結果を表1および2に示す。
【0080】
平均粒子径D50はレーザー回折式粒度測定機(島津製作所製 SALD−2100)を用いて測定した。
【0081】
平行光線透過率およびヘイズはJIS K7105に準拠して測定した。
【0082】
波長変換部材の全光束値は次のようにして測定した。校正された積分球内で、200mAの電流で点灯した波長405nmの近紫外LEDによって波長変換部材を励起し、光ファイバーを通じてその発光を小型分光器(オーシャンオプティクス製 USB−4000)に取り込み、制御PC上に発光スペクトル(エネルギー分布曲線)を得た。得られた発光スペクトルから全光束値を算出した(なお、色温度も当該発光スペクトルから算出した)。
【0083】
表1および2から明らかなように、実施例である試料No.1〜4および7〜10の波長変換部材は、平行光線透過率が8.0%以下と小さく、ヘイズが87.4%以上と大きく、全光束値が13lm以上と大きかった。
【0084】
一方、比較例である試料No.5および11の波長変換部材は、ガラス粉末中に蛍光イオンが入っていないため、全光束値がそれぞれ6lmおよび8lmと小さかった。No.6および12の波長変換部材は、蛍光ガラス粉末の平均粒子径D50がそれぞれ145μmおよび180μmと大きいため、平行光線透過率がそれぞれ16.0%および21.2%と大きく、ヘイズがそれぞれ72.8%および75.8%と小さく、全光束値が8lmおよび5lmと小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の波長変換部材は、LED用途に限られるものではなく、レーザーダイオード等のようにハイパワーの励起光を光源とする発光デバイスに用いることも可能である。また、白色以外のLEDの構成部材としても使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機蛍光体粉末と、平均粒子径D50が100μm以下である蛍光ガラス粉末とを含有する混合粉末の焼結体からなることを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
蛍光ガラス粉末が、波長300〜500nmの励起光を照射することにより、波長400〜800nmの蛍光を発することを特徴とする請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
蛍光ガラス粉末が、波長300〜440nmの励起光を照射することにより、波長400〜800nmの蛍光を発することを特徴とする請求項2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
蛍光ガラス粉末が、ガラス組成として、MnO、AgO、CuO、SnOおよびLn(LnはSm、Eu、Pr、NdまたはTb)のいずれか1種類以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項5】
蛍光ガラス粉末が、ガラス組成として、モル%で、SiO 30〜80%、B 0〜40%、MgO 0〜20%、CaO 0〜30%、SrO 0〜20%、BaO 0〜40%、LiO+NaO+KO 0〜20%、Al 0〜20%、ZnO 0〜20%およびMnO+AgO+CuO+SnO+Ln(LnはSm、Eu、Pr、NdまたはTb)0.01〜20%を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項6】
蛍光ガラス粉末が、ガラス組成として、モル%で、SnO 35〜80%、P 5〜40%、B 0〜30%およびMnO+AgO+CuO+Ln(LnはSm、Eu、Pr、NdまたはTb)0.01〜20%を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項7】
無機蛍光体粉末が、酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、希土類硫化物、アルミン酸塩化物またはハロリン酸塩化物からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項8】
無機蛍光体粉末を0.1〜30質量%含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項9】
JIS K7105に準拠して測定した平行光線透過率が10%以下、かつ、ヘイズが80%以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の波長変換部材、および、波長変換部材に励起光を照射する発光素子を備えてなることを特徴とする発光デバイス。

【公開番号】特開2013−55269(P2013−55269A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193537(P2011−193537)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】