説明

波長安定化装置及び方法

【課題】省電力化を図って半導体レーザを波長安定化する。
【解決手段】波長安定化装置1は、モニタ温度測定手段14、温度記憶部20、温度補正制御部30を具備する。モニタ温度測定手段14は、半導体レーザ11、ペルチェ素子12が密封容器15内に密封収容された光モジュール10周辺の温度をモニタ温度T0 として測定する。温度記憶部20は、測定対象ガス固有の吸収線波長Wと一致する測定光を半導体レーザ11から出射するための発振温度となる波長安定化温度Tを複数記憶する。温度補正制御部30は、モニタ温度T0 と複数の波長安定化温度Tそれぞれとの差分の絶対値に基づいて最適な波長安定化温度Tを選択し、半導体レーザ11の発振温度を当該選択された波長安定化温度Tになるように、ペルチェ素子12に対する通電電流値を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば都市ガスや化学プラント等の配管の劣化等に伴うガス漏洩を検出する際に、ガスの赤外線吸収特性を利用して光学的にガスを検知するバッテリー動作のガス検知装置に用いられる波長安定化装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばメタン、二酸化炭素、アセチレン、アンモニア等の気体には、分子の回転や構成原子間の振動等に応じて特定波長の光を吸収する吸収帯があることが既に知られている。この吸収帯を利用したガス検知装置では、所定距離(この距離によって測定光路長が確定される)隔てて光源部と受光部とを配置し、光源部の半導体レーザにより周波数変調されたレーザ光を測定対象ガスを含む雰囲気中に通し、その透過光を受光部の光検出器で受光し、このときの出力信号から測定対象ガスのガス濃度を測定している。
【0003】
ここで、受光部の出力信号から検出される変調周波数の基本波位相敏感検波信号(以下、1f信号と略称する)には、半導体レーザの電流変調による強度変調に起因する大きなオフセットが生じるため、微小なガス濃度を高感度で測定するには、1f信号に比べてオフセットのかなり小さい2倍波位相敏感検波信号(以下、2f信号と略称する)が用いられる。
【0004】
実際にガス濃度を測定するにあたっては、測定ガス吸収線に合わせた波長の測定光が測定ガス雰囲気中を通ると、被測定ガスにより測定光が吸収され、ガス濃度光路長積に応じた強度で変調周波数の2倍の周波数の強度変化(2f信号成分I2f)による2f信号が生成される。そして、この2f信号の強度変化と元の変調周波数である1f信号の強度変化(1f信号成分I1f)の比I2f/I1fの値は、ガス濃度光路長積に比例するので、この値に係数をかければガス濃度になる。
【0005】
ところで、この種の従来のガス検知装置として、下記特許文献1には、測定対象のガス濃度を測定する測定光を、測定対象ガスを含む雰囲気中に出射し、その雰囲気中を透過した透過光を受光してガス濃度を測定する携帯型のガス濃度測定装置が開示されている。
【0006】
特許文献1に開示されたガス濃度測定装置51は、図4に示すように、一面に開口穴52を有する有底筒型形状の筐体53と、筐体53の後端側に位置して筐体53を把持する把持部54とを備えている。筐体53内には、半導体レーザユニット55が組み込まれるとともに、筐体53内の中心軸線上の奥部に受光器56が配置される。半導体レーザユニット55は、測定雰囲気のガスを検知するための測定光を出射する半導体レーザを含む半導体レーザモジュール57と、レーザポインタ58と、合波手段59とからなる。筐体53の開口穴52には、測定光の出射に伴う測定雰囲気からの反射測定光を受光器56に集光する集光レンズ60が固設される。レーザポインタ58は、逆V字状の支持部材61によって筐体53の集光レンズ60後方に固定され、測定光の出射位置を確認するための可視光をガイド光として出射している。合波手段59は、筐体53の集光レンズ60後方で受光器56の光軸L−L上に配置され、測定光とガイド光とを受光器56の光軸L−L上で合波して集光レンズ60の中央のガラス窓62から出射している。
【0007】
また、特許文献1のガス濃度測定装置を含む従来のガス検知装置では、半導体レーザユニットの波長安定化を図るため、半導体レーザモジュール57の温度を検出し、この検出した温度が所定の温度になるように半導体レーザモジュール57に設けられたペルチェ素子への印加電圧または電流を制御している。これにより、半導体レーザモジュール57の動作温度や環境温度に左右されることなく、測定光の発振波長をガスの吸収線波長に合せて安定化している。
【特許文献1】特開2005−106521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した特許文献1に開示されるガス濃度測定装置を含め、従来のガス検知装置としては、ガス検知作業の効率化を図るため、動作電源として電池を使用し、装置を携帯して持ち歩くことができ、何時でもガス検知が行えるバッテリー動作の装置も知られている。そして、この種の装置に具備される半導体レーザは、使用環境温度が常温(25〜30℃)のときに、最も波長安定化に要する消費電力が小さくなるように測定対象ガスの吸収線波長と半導体レーザの発振波長とが一致するような仕様で作製されている。
【0009】
しかしながら、半導体レーザの発振波長は温度に極めて敏感(約0.1nm/ ℃のシフト量)であり、且つ、ガス検知作業は様々な環境下で行われている。このため、使用環境温度の影響による半導体レーザの発振波長変動を補正するべく、装置駆動前や駆動中において使用環境温度の影響により変化した半導体レーザの発振温度を所定温度に補正(波長安定化処理)して、測定光の波長安定化を図っている。
【0010】
ところが、上記のような携帯型のガス検知装置を用いてガス検知作業を行う場合、実際の使用環境温度の温度範囲が幅広く(例えば−20〜50℃)、また電源として電池を使用しているため、使用環境温度が常温から大きく離れている場所で作業した場合に波長安定化処理に対する消費電力が増大して電池を消耗し、動作時間が短くなるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、半導体レーザの波長安定化処理時における消費電力を抑え、動作時間への影響を低減することができる波長安定化装置及び方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載された波長安定化装置は、ガスの赤外線吸収特性を利用して光学的にガスを検知するガス検知装置に用いられる波長安定化装置において、
測定光を出射する半導体レーザ11と、発熱又は吸熱して前記半導体レーザの発振温度を所定温度に調整するペルチェ素子12とが密封容器15内に密封収容された光モジュール10と、
前記密封容器近傍に設置され、前記光モジュール周辺の温度をモニタ温度T0 として測定するモニタ温度測定手段14と、
前記測定対象ガス固有の吸収線波長Wと一致する測定光を前記半導体レーザから出射するための発振温度となる複数の波長安定化温度Tを記憶する温度記憶部20と、
前記モニタ温度と前記複数の波長安定化温度それぞれとの差分の絶対値に基づいて最適な前記波長安定化温度を選択し、前記半導体レーザの発振温度を当該選択された波長安定化温度になるように前記ペルチェ素子に対する通電電流値を制御する温度補正制御部30と、
を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載された波長安定化装置は、請求項1記載の波長安定化装置において、
前記温度補正制御部30は、前記モニタ温度T0 と前記複数の波長安定化温度Tとの各々の差分の中に同値があるときに、前記ペルチェ素子12を発熱させる方の波長安定化温度を選択することを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載された波長安定化方法は、請求項1記載の波長安定化装置を用いた波長安定化方法であって、
前記モニタ温度測定手段14によって前記光モジュール10近傍のモニタ温度T0 を測定するステップと、
該測定したモニタ温度と前記温度記憶部20に記憶された複数の波長安定化温度Tそれぞれとの差分を算出するステップと、
該算出された各差分の絶対値の中で最小となる値を選択するステップと、
該選択された値を算出した際に用いた波長安定化温度を前記半導体レーザ11の発振温度として設定するステップと、
前記半導体レーザの発振温度を前記設定された波長安定化温度と一致するように前記ペルチェ素子12に対する通電電流値を制御するステップと、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光モジュール近傍のモニタ温度に応じて、測定対象ガス固有の複数の吸収線波長の中から消費電力の最も少ない波長安定化温度を選択して半導体レーザの発振温度を補正制御することができる。これにより、装置の動作時間への影響を低減し、駆動電源である電池の省電力化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら具体的に説明する。図1は本発明に係る波長安定化装置の構成を説明するための概略ブロック図であり、図2は本発明に係る波長安定化装置を採用したガス検知装置で検知するメタンの吸収線波長を示す説明図であり、図3は本発明に係る波長安定化装置の処理動作を説明するためのフローチャート図である。
【0017】
本発明に係る波長安定化装置は、図2に示すようなガスの赤外線吸収特性を利用して例えば都市ガスや化学プラント等のガス配管の劣化等に伴うガス漏洩を光学的に検知するバッテリー動作の携帯型ガス検知装置に採用される。そして、本発明に係る波長安定化装置では、半導体レーザから出射される測定光の発振波長を測定対象ガス固有の吸収線波長に補正する際に、最も消費電力の少ない吸収線波長に補正することにより装置の動作時間への影響を低減し、駆動電源である電池の省電力化を図っている。
【0018】
図1に示すように、本例の波長安定化装置1は、光モジュール10と、半導体レーザ11の波長を安定化するための波長安定化温度を記憶する温度記憶部20と、半導体レーザ11の温度制御を行うための温度補正制御部30とを備えて概略構成される。以下、各構成についてそれぞれ詳細に説明する。
【0019】
光モジュール10は、半導体レーザ11と、ペルチェ素子12と、LD温度測定手段13と、モニタ温度測定手段14とが密封容器15内に密封収容され、モジュール化して構成されている。
【0020】
半導体レーザ11は、半導体の再結合発光を利用したレーザであり、本例ではペルチェ素子12上に基板16を介して設けられている。半導体レーザ11は、不図示の半導体駆動電流源から通電電流が通電されると、測定対象ガスを検知するための所定波長のレーザ光(測定光)を出射する。
【0021】
ペルチェ素子12は、異種の金属の接合部に電流を流すと、片方の金属からもう片方へ熱が移動するというペルチェ効果(Peltier effect)を利用した板状の半導体素子であり、光モジュール10内に実装されている。ペルチェ素子12は、温度補正制御部30の制御により通電される電流に応じて吸熱又は発熱を行い、半導体レーザ11の温度を所定温度に調整している。
【0022】
LD温度測定手段13は、例えばサーミスタや白金薄膜温度センサ等の温度の変化により抵抗値が変化することを利用した温度センサで構成されている。LD温度測定手段13は、光モジュール10内における半導体レーザ11近傍に実装(本例ではペルチェ素子12上に基板16を介して実装)され、半導体レーザ11の温度と同期するペルチェ素子12の温度を測定している。LD温度測定手段13は、ペルチェ素子12の温度を測定し、この測定した温度をLD温度として温度補正制御部30に出力している。
【0023】
モニタ温度測定手段14は、LD温度測定手段13と同様にサーミスタ等の温度センサで構成される。モニタ温度測定手段14は、光モジュール10周辺の温度を測定するため、密封容器15近傍に設置されている(本例では密封容器15内の所定箇所に設置)。モニタ温度測定手段14は、光モジュール10周辺の温度をモニタ温度T0 として温度補正制御部30に出力している。
【0024】
温度記憶部20は、例えばROM、RAMなどの半導体メモリからなる記憶メモリを備え、測定対象ガス固有の吸収線波長Wと一致する測定光を半導体レーザ11から出射するための発振温度となる複数の波長安定化温度T(T1 〜Tn )を記憶している。この複数の波長安定化温度T(T1 〜Tn )は、測定対象となるガス固有の吸収線波長W(測定対象ガスの検知において、波長吸収率及びスペクトラム特性に優れ、且つ、水蒸気等の他のガス分子による光吸収による影響が少ない吸収線波長)の光を半導体レーザ11から出射するための発振温度(ペルチェ素子12の設定温度)が好ましい。
【0025】
具体的に測定対象ガスがメタンの場合には、図2に示すように、メタン固有の最適な吸収線波長WとしてW1(1650.95nm)、W2(1653.72nm)の2つがある。この場合、温度記憶部20は、この吸収線波長W1、W2の何れかの波長に合せた測定光を半導体レーザ11から出射させるため、W1の波長の光を出射するときのペルチェ素子12の設定温度である波長安定化温度T1 :0℃と、W2の波長の光を出射するときのペルチェ素子12の設定温度である波長安定化温度T2 :30℃とをそれぞれ記憶している。
【0026】
温度補正制御部30は、測定対象ガスの吸収線波長Wと一致する測定光を半導体レーザ11から出射するため、半導体レーザ11の発振温度が温度記憶部20から選択された波長安定化温度Tになるようにモニタ温度T0 に応じて温度補正制御している。
【0027】
この温度補正制御部30による半導体レーザ11の温度補正制御では、まずモニタ温度測定手段14からモニタ温度T0 を取得する。そして、モニタ温度測定手段14から取得したモニタ温度T0 と温度記憶部20に記憶された波長安定化温度T(T1 〜Tn )との差分であるΔT(ΔT1 〜ΔTn :ΔT1 =T0 −T1 、ΔT2 =T0 −T2 、…、ΔTn =T0 −Tn )を算出し、この算出したΔT(ΔT1 〜ΔTn )の各値が0未満であるか否かを判別する(ΔT1 〜ΔTn <0)。
【0028】
このとき、算出したΔT1 〜ΔTn の中に0未満の値があった場合は、このΔTに対して所定係数m(0<m<1)を重み付けしてΔTm(ΔT1 m〜ΔTn m)とする。これは、加熱時よりも冷却時の方がペルチェ素子12の消費電流が多いため、ΔTが同じ温度差(差分)であった際に、ペルチェ素子12を加熱する側の波長安定化温度Tを選択するために行われる処理である。なお、係数mは、検出するモニタ温度T0 の検出精度(桁数)によって適宜設定される。
【0029】
そして、ΔT(ΔT1 〜ΔTn )、ΔTm(ΔT1 m〜ΔTn m)それぞれの値の絶対値の中で最小となる値を選択する。その後、選択した値を算出した際に用いた波長安定化温度Tを半導体レーザ11の発振温度(ペルチェ素子12の設定温度)として設定し、この設定された波長安定化温度Tと半導体レーザ11の発振温度とが一致するように、LD温度測定手段13からのLD温度に基づきペルチェ素子12に対する通電電流値を制御する。
【0030】
次に、上述した本例の波長安定化装置1の処理動作について説明する。オペレータは、まず電源を投入して波長安定化装置1を起動する。起動後、半導体レーザ11から出射する測定光の発振波長を安定化するため、モニタ温度測定手段14によって光モジュール10近傍のモニタ温度T0 を測定する(ST1)。そして、測定したモニタ温度T0 と温度記憶部20に記憶された波長安定化温度T(T1 〜Tn )との差分であるΔT(ΔT1 〜ΔTn )を算出し(ST2)、この算出したΔT(ΔT1 〜ΔTn )がそれぞれ0未満であるか否かの判別を行う(ST3)。
【0031】
ΔT(ΔT1 〜ΔTn )が0未満と判別したときは(ST3−Yes)、このΔT(ΔT1 〜ΔTn )に対して係数mを重み付けしてΔTm(ΔT1 m〜ΔTn m)とし(ST4)、ST5へ移行する。
【0032】
一方、ΔT(ΔT1 〜ΔTn )が0以上と判別したときには(ST3−No)、係数mの重み付けをぜずにST5へ移行する。
【0033】
次に、ST5では、ΔT(ΔT1 〜ΔTn )、ΔTm(ΔT1 m〜ΔTn m)それぞれの値の絶対値の中で最小となる値を選択する。そして、最小となる値を選択すると、この選択した値を算出した際に用いた波長安定化温度Tを半導体レーザ11の発振温度(ペルチェ素子12の設定温度)として設定する(ST6)。この設定後、設定された波長安定化温度Tと半導体レーザ11の発振温度とが一致するように、LD温度測定手段13からのLD温度に基づきペルチェ素子12に対する通電電流値を制御し(ST7)、半導体レーザ11から出射する測定光の発振波長を波長安定化温度Tの吸収線波長に安定化させる。
【0034】
なお、上述した動作説明では、測定光の波長の安定化処理を装置の起動後に行っているが、起動後の動作中でも例えばオペレータによる割込みの指示入力(例えばスイッチやキー操作など)によって選択的に行うことができる。また、事前の設定によって周期的に行うことも可能である。
【0035】
このように、上述した波長安定化装置1は、半導体レーザ11が収容された光モジュール10の温度をモニタ温度T0 として測定し、この測定したモニタ温度T0 から測定対象ガス固有の複数の吸収線波長Wの波長安定化温度Tを差分してΔTを算出する。そして、この算出した複数のΔTの絶対値の中から最小のΔTを選択し、この選択したΔTを算出した際に用いた波長安定化温度Tを半導体レーザ11の発振温度として設定し、この設定された波長安定化温度Tと半導体レーザ11の発振温度とが一致するように、LD温度測定手段13からのLD温度に基づいてペルチェ素子12に対する通電電流値を制御し、半導体レーザ11から出射する測定光の発振波長を波長安定化温度Tの吸収線波長に安定化させる。
【0036】
これにより、測定したモニタ温度T0 に応じて測定対象ガス固有の複数の吸収線波長Wの中から消費電力の最も少ない波長安定化温度Tを選択して半導体レーザ11の発振温度を補正制御することができる。その結果、装置の動作時間への影響を低減し、駆動電源である電池の省電力化を図ることができる。
【0037】
以下、上述した本発明の波長安定化装置について実施例1〜3によって具体的に説明する。なお、実施条件としては、測定対象ガスとして吸収線波長W1(1650.95nm)、W2(1653.72nm)を持つメタンを使用し、吸収線波長W1の波長安定化温度T1 を0℃、吸収線波長W2の波長安定化温度T2 を30℃、係数mを0.99とし、モニタ温度T0 を実施例1では−10℃、実施例2では15℃、実施例3では25℃としてそれぞれ説明する。
【0038】
(実施例1)
装置起動後、モニタ温度T0 (T0 =−10℃)を測定する。次に、モニタ温度T0 と温度記憶部20に記憶された波長安定化温度T(T1 、T2 )との差分であるΔT1 、ΔT2 を算出し(ΔT1 =−10、ΔT2 =−40)、ΔT1 、ΔT2 が0未満であるか否かを判別する。このとき、ΔT1 、ΔT2 共に0未満であるため、ΔT1 、ΔT2 のそれぞれに係数mを重み付けする(ΔT1 m=−9.9、ΔT2 m=−39.6)。
【0039】
そして、算出したΔT1 m、ΔT2 mの絶対値のうち値が小さい方のΔTであるΔT1 mを選択し、このΔT1 mを算出した際に用いた波長安定化温度T1 の0℃を半導体レーザ11の発振温度とする。そして、半導体レーザ11の発振温度(LD温度)が設定された波長安定化温度T1 になるように、LD温度測定手段13からのLD温度に基づいてペルチェ素子12の通電電流値を制御し、測定光の発振波長を波長安定化温度T1 の吸収線波長W1(1650.95nm)に安定化させる。
【0040】
(実施例2)
装置起動後、モニタ温度T0 (T0 =15℃)を測定する。次に、モニタ温度T0 と温度記憶部20に記憶された波長安定化温度T(T1 、T2 )との差分であるΔT1 、ΔT2 を算出し(ΔT1 =15、ΔT2 =−15)、ΔT1 、ΔT2 が0未満であるか否かを判別する。このとき、ΔT2 が0未満であるため、係数mを重み付けする(ΔT1 =15、ΔT2 m=−14.85)。
【0041】
そして、算出したΔT1 、ΔT2 mの絶対値のうち値が小さい方のΔTであるΔT2 mを選択し、このΔT2 mを算出した際に用いた波長安定化温度T2 の30℃を半導体レーザ11の発振温度とする。そして、半導体レーザ11の発振温度(LD温度)が設定された波長安定化温度T2 になるように、LD温度測定手段13からのLD温度に基づいてペルチェ素子12の通電電流値を制御し、測定光の発振波長を波長安定化温度T2 の吸収線波長W2(1653.72nm)に安定化させる。
【0042】
(実施例3)
装置起動後、モニタ温度T0 (T0 =25℃)を測定する。次に、モニタ温度T0 と温度記憶部20に記憶された波長安定化温度T(T1 、T2 )との差分であるΔT1 、ΔT2 を算出し(ΔT1 =25、ΔT2 =−5)、ΔT1 、ΔT2 が0未満であるか否かを判別する。このとき、ΔT2 が0未満であるため、係数mを重み付けする(ΔT1 =25、ΔT2 m=−4.95)。
【0043】
そして、算出したΔT1 、ΔT2 mの絶対値のうち値が小さい方のΔTであるΔT2 mを選択し、このΔT2 mを算出した際に用いた波長安定化温度T2 の30℃を半導体レーザ11の発振温度とする。そして、半導体レーザ11の発振温度(LD温度)が設定された波長安定化温度T2 になるように、LD温度測定手段13からのLD温度に基づいてペルチェ素子12の通電電流値を制御し、測定光の発振波長を波長安定化温度T2 の吸収線波長W2(1653.72nm)に安定化させる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る波長安定化装置の構成を説明するための概略ブロック図である。
【図2】本発明に係る波長安定化装置を採用したガス検知装置で検知するメタンの吸収線波長を示す説明図である。
【図3】本発明に係る波長安定化装置の処理動作を説明するためのフローチャート図である。
【図4】従来の携帯型ガス検知装置の構成を説明するための概略構成図である。
【符号の説明】
【0045】
1 波長安定化装置
10 光モジュール
11 半導体レーザ
12 ペルチェ素子
13 LD温度測定手段
14 モニタ温度測定手段
15 密封容器
16 基板
20 温度記憶部
30 温度補正制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの赤外線吸収特性を利用して光学的にガスを検知するガス検知装置に用いられる波長安定化装置において、
測定光を出射する半導体レーザ(11)と、発熱又は吸熱して前記半導体レーザの発振温度を所定温度に調整するペルチェ素子(12)とが密封容器(15)内に密封収容された光モジュール(10)と、
前記密封容器近傍に設置され、前記光モジュール周辺の温度をモニタ温度(T0 )として測定するモニタ温度測定手段(14)と、
前記測定対象ガス固有の吸収線波長(W)と一致する測定光を前記半導体レーザから出射するための発振温度となる複数の波長安定化温度(T)を記憶する温度記憶部(20)と、
前記モニタ温度と前記複数の波長安定化温度それぞれとの差分の絶対値に基づいて最適な前記波長安定化温度を選択し、前記半導体レーザの発振温度が当該選択された波長安定化温度になるように前記ペルチェ素子に対する通電電流値を制御する温度補正制御部(30)と、
を備えたことを特徴とする波長安定化装置。
【請求項2】
前記温度補正制御部(30)は、前記モニタ温度(T0 )と前記複数の波長安定化温度(T)との各々の差分の中に同値があるときに、前記ペルチェ素子(12)を発熱させる方の波長安定化温度を選択することを特徴とする請求項1記載の波長安定化装置。
【請求項3】
請求項1記載の波長安定化装置を用いた波長安定化方法であって、
前記モニタ温度測定手段(14)によって前記光モジュール(10)近傍のモニタ温度(T0 )を測定するステップと、
該測定したモニタ温度と前記温度記憶部(20)に記憶された複数の波長安定化温度(T)それぞれとの差分を算出するステップと、
該算出された各差分の絶対値の中で最小となる値を選択するステップと、
該選択された値を算出した際に用いた波長安定化温度を前記半導体レーザ(11)の発振温度として設定するステップと、
前記半導体レーザの発振温度が前記設定された波長安定化温度と一致するように前記ペルチェ素子(12)に対する通電電流値を制御するステップと、
を含むことを特徴とする波長安定化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−309583(P2008−309583A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156567(P2007−156567)
【出願日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】