説明

波長選択スイッチ

【課題】光入出力部の数が増加した場合であっても、分散素子の小型化を実現できる波長選択スイッチを提供すること。
【解決手段】本発明にかかる波長選択スイッチは、波長多重された光を入力または出力可能な複数のポートを備え、ポートによりそれぞれ構成される複数のポート群からなる光入出力部と、複数のポート群からの光を所定面近傍において少なくとも一部重複させる第1の光学系と、所定面の近傍に配置され、光入出力部から入力された波長多重された光をそれぞれの信号波長に分離する光分散手段と、信号波長に分離された光を集光させる集光要素と、集光要素により集光された光のスポットが同一軸上に配列するように、集光要素により集光されたそれぞれの信号波長光を偏向可能な第1の偏向部材と、第1の偏向部材により偏向された信号波長光を波長ごとに所望の方向に偏向可能な第2の偏向部材とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は光通信網のノードにおいて周波数ごとの経路切り替えに用いられる波長選択スイッチに関する。波長選択スイッチの構成としては、例えば、特許文献1に示すようなMEMSプロセスにより作製されるミラーアレイ(MEMSミラーアレイ)により周波数ごとの光信号を任意の出力部へと切り替えるものがある。
【0003】
また、波長選択スイッチの構成として、1つの波長選択スイッチで切り替えることが可能な経路の数(ポート数)を有していることが挙げられる。近年、この経路の数が例えば20を超えるような大きい(多ポート)波長選択スイッチが市場に出始めている。
【0004】
波長選択スイッチは、波長多重された光を入出力することができる光入出力部を備えている。そして、光入出力部は、複数のポートにより構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−310244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の波長選択スイッチの構成では、ポート数に比例して光入出力部の並ぶ方向に高さが増加する。その結果、波長選択スイッチを構成する光学素子も大型化する。
ここで、波長選択スイッチを構成する光学素子のうち、特に回折格子のような分散素子は大型化に伴うコスト増に大きな影響を与える。
【0007】
本発明は、光入出力部の数が増加した場合であっても、分散素子の小型化を実現できる波長選択スイッチを提供する事を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の波長選択スイッチは、波長多重された光を入力または出力可能な複数のポートを備え、ポートによりそれぞれ構成される複数のポート群からなる光入出力部と、
複数のポート群からの光を所定面近傍において少なくとも一部重複させる第1の光学系と、
所定面の近傍に配置され、光入出力部から入力された波長多重された光をそれぞれの信号波長に分離する光分散手段と、
信号波長に分離された光を集光させる集光要素と、
集光要素により集光された光のスポットが同一軸上に配列するように、集光要素により集光されたそれぞれの信号波長光を偏向可能な第1の偏向部材と、
第1の偏向部材により偏向された信号波長光を波長ごとに所望の方向に偏向可能な第2の偏向部材と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかる波長選択スイッチは、分散素子(光分散手段)の高さで規定されている装置の大きさを小さくできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1実施形態の波長選択スイッチにおける構成と光線を示す側面図である。
【図2】第1実施形態の波長選択スイッチにおける構成と光線を示す上面図である。
【図3】(a)は第1実施形態の波長選択スイッチにおける光路を詳細に説明する側面図である。(b)は分散素子近傍を拡大して示す図である。
【図4】第1実施形態の波長選択スイッチにおける構成の斜視図である。
【図5】第1実施形態の波長選択スイッチにおけるMEMSミラー上の光スポットの形状を示す図である。
【図6】第2実施形態の波長選択スイッチにおける構成と光線を示す側面図である。
【図7】第2実施形態の波長選択スイッチにおける構成と光線を示す上面図である。
【図8】従来の波長選択スイッチにおける構成と光線を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、波長選択スイッチの実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
すなわち、実施形態の説明に当たって、例示のために特定の詳細な内容が多く含まれるが、これらの詳細な内容に色々なバリエーションや変更を加えても、本発明の範囲を超えない。従って、以下で説明する本発明の例示的な実施形態は、権利請求された発明に対して、一般性を失わせることなく、また、何ら限定をすることもなく、述べられたものである。
【0012】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態の波長選択スイッチ100を側面からみた構成を示している。図2は、波長選択スイッチ100を上面からみた構成を示している。
【0013】
本実施形態の波長選択スイッチ100は入力部および出力部としての複数の入出力ポート10と、分散素子15と、分散された波長ごとに光を集光する集光要素としての集光レンズ16と、光路結合部としての光路結合素子17と、波長ごとに独立に偏向可能な複数の反射光学素子を有する光偏向部材としてのMEMSミラーアレイ18とを有している。
【0014】
更に波長選択スイッチ100は、レンズアレイ11と、第1レンズ12aと、第2レンズ12bと、第3レンズ13と、第4レンズ14とを有している。
【0015】
入出力ポート10は、ファイバアレイで構成されている。波長多重された光を入力または出力可能な複数のポート、例えば10個のポート10a〜10jを備えている。複数のポートは、光入出力部に対応する。
第1レンズ12aと、第2レンズ12bは、複数のポート10a〜10jからの光を所定面近傍において少なくとも一部重複させる。第1レンズ12aと、第2レンズ12bは、第1の光学系に対応する。
分散素子15は、所定面の近傍に配置され、第1レンズ12aと、第2レンズ12bから入力された波長多重された光をそれぞれの信号波長に分離する。分散素子15は、光分散手段に対応する。
集光レンズ16は、信号波長に分離された光を集光させる。集光レンズ16は、集光要素に対応する。
光路結合素子17は、集光レンズ16により集光された光のスポットが同一軸上に配列するように、集光レンズ16により集光されたそれぞれの信号波長光を偏向可能である。光路結合素子17は、第1の偏向部材に対応する。
光路結合素子17としては、例えば、プリズムを用いることができる。さらに、光線を屈折する素子であればプリズムに限られず、その他の光学素子を用いることができる。
ここで、光のスポットが同一軸上配列することが望ましい。しかしながら、実用上は、同一軸上に限られず、ある程度の許容幅の範囲に入っていれば良い。
そして、MEMSミラーアレイ18は、光路結合素子17により偏向された信号波長光を波長ごとに所望の方向に偏向可能である。MEMSミラーアレイ18は、第2の偏向部材に対応する。
【0016】
さらに、詳細な説明を以下に続ける。本実施形態における入出力ポート10は、例えば10a〜10jの第1方向に等間隔に並んだ10のポートより構成されている。そして、9つの入力ポート10a〜10iと1本の出力ポート10jとして機能する。
【0017】
入出力ポート10のポート数、入力ポートと出力ポートの並び等はこの状態で限定されるものではない。特に入出力ポート10のポート数に関しては、説明のために少数のものを意図的に示している。
【0018】
多ポートの波長選択スイッチ100としてのポート数としては、例えばCバンド(ITUで規定される)帯域で100GHzの周波数間隔を用いるものではチャネル数に応じた数量から50個程度までである。また、ポート数は、50GHzの周波数間隔を用いるものではチャネル数に応じた数量から100個程度までの需要が考えられる。
【0019】
入出力ポート10の第1方向に対するピッチPを、P=125 (μm)とすると、ポート10aとポート10jの中心間隔は、(式1)より、125×(10−1)÷2×2=1125 (μm)となる。ここで、Nは入出力ポートの総数を意味する。
【0020】
【数1】

【0021】
集光レンズ16は、その光軸AX16が第1方向におけるポート10aとポート10jの中心近傍を通るように配置されているとする。入出力ポート10における光軸AX16からの光学系高さYは562.5(μm)となる。また、入出力ポート10のうち、入力ポート10a〜10eは第1のグループを構成し、入力ポート10f〜10i及び出力ポート10jは第2のグループを構成している。
なお、このような入出力ポート10のグループ分けは、本実施形態のような2つのグループに限定されない。例えば、入出力ポート10を、3つ以上のグループに分けた構成でも良い。
【0022】
本実施形態のように、複数のポート群は、2つのポート群からなることが望ましい。これにより、波長選択スイッチ100の構成をシンプルにしつつ製造しやすい構成とすることができる。
【0023】
本実施形態における波長選択スイッチ100の動作を、入力ポート10aから入力され、光学系に出射される波長多重された光の振る舞いを用いて以下に説明する。なお、図1では、入力ポート10aのみに対して、光が入力されている様子を簡略化して示している。しかしながら、実際はこれに限られず、複数の入力ポートに、波長多重された光が入力されても良い。
【0024】
入力ポート10aから入力された光は、レンズアレイ11へ入射する。
レンズアレイ11は、複数のファイバアレイで構成されている入出力ポート10のそれぞれのポートに対応したレンズを有している。レンズアレイ11は、入射した光を、コリメート光へ変換する。コリメートされた光は、第1レンズ12aに入射する。
【0025】
ここで、第1レンズ12aの光軸AX12aと、集光レンズ16の光軸AX16との第1方向に沿った距離Yは、第1のグループに属する入出力ポートの数をnとしたとき、(式2)を満足することが望ましい。
【0026】
【数2】

【0027】
同様に、第2レンズ12bの光軸AX12bと、集光レンズ16の光軸AX16との第1方向に沿った距離をY2bとする。距離Y2bは(式3)を満足することが望ましい。
【0028】
【数3】

【0029】
第1レンズ12aの光軸AX12aと、集光レンズ16の光軸AX16との第1方向に沿った距離Yは、(式2)より125×(10−5)÷2 =312.5 (μm)となっている。
【0030】
また、第1レンズ12aと、第2レンズ12bとは、それぞれ等しい焦点距離を有している。さらに、第1レンズ12aと、第2レンズ12bとは、集光レンズ16の光軸AX16に対し、第1方向について光軸AX16から距離Yだけ離れている対称な位置に配されている。
【0031】
次に、入力ポート10a〜10i、及び出力ポート10jから光を入射した場合を考える。上述した第1のグループに属するポートから出射した光は、各々のポートに対応して配置されているマイクロレンズ11を通過する。透過した光は、第1レンズ12aの光学的作用を受ける。また、第2のグループに属するポートから出射した光は、各々のポートに対応して配置されているレンズアレイ11を通過する。透過した光は、第2レンズ12bの光学的作用を受ける。
【0032】
図1において、さらに説明を続ける。入力ポート10aを出射した光の説明に戻る。第1レンズ12aに入射した光は、第1レンズ12aと第3レンズ13によって集光される。第1レンズ12aは、焦点距離f1を有する。第3レンズ13は焦点距離f3を有する。
【0033】
第3レンズ13は、図2において矢印で示す第2方向にのみ屈折力を有するシリンドリカルレンズである。集光位置での光のビーム形状は、第3レンズ13を配置することで、図4に示すような、第2方向の径よりも第1方向の径が大きい楕円のビーム形状となる。この時の第1方向のビームの幅をS11、第2方向のビームの幅をS21としている。
【0034】
図1に戻って説明を続ける。第1レンズ12aと第3レンズ13による集光位置は、第1のグループに属するポートのそれぞれから光を出射した際に、各々のポートからの光が交わる位置に略一致する。集光位置での入力ポート10aの光が進む方向と、第1レンズ12aの光軸とのなす角度はβ1aで表される。
【0035】
入力ポート10aの中心位置と第1レンズ12aの光軸との第1方向に関する距離をYとする。距離Yが大きくなればなるほど、その入射角度β1aは大きくなる。距離Y、入射角度β1aは、それぞれ(式4)、(式5)で表される。
【0036】
【数4】

【0037】
第1レンズ12aと第3レンズ13とにより集光された光は、集光位置を通過すると発散光となる。発散光は、第4レンズ14に入射する。第4レンズ14は、焦点距離f4を有している。光が第4レンズ14に入射する位置は、第1レンズ12aの光軸から第1方向に沿って距離Yだけ離れた位置である(図3(a)参照)。距離Yは(式6)より求められる。
【0038】
【数5】

【0039】
ここで、第4レンズ14の第1方向の有効径を考える。
第1レンズ12aの光軸AX12aと、入出力ポートの第1のグループの各々のポートの中心座標の範囲の中央とは、一致しているとする。入力ポート10aと入力ポート10eから入力された光は、第4レンズ14上において、第1レンズ12aの光軸AX12aからの距離が等しく(距離Y)なる位置に入射する。
【0040】
図3(a)からも容易に分かるように、第4レンズ14へ、これら2つの光線が入射する位置は、第1レンズ12aの光軸AX12aからの距離は等しく、入射位置の方向は第1レンズ12aの光軸AX12aに対してそれぞれ逆となる。
【0041】
入出力ポート10のうちの第1のグループの入力ポート10a〜10eに入力された光のうち、図の第1方向の正の方向に対して最も大きな値(角度)で入射するのは入力ポート10eに入力された光となる。
【0042】
入力ポート10eから出射した光の第4レンズ14への入射位置と、第4レンズ14の光軸との第1方向の距離をYとすると、距離Yは(式7)で与えられる。
【0043】
【数6】

【0044】
従って、第4レンズ14の第1方向の正側に関する有効径CA14は、(式8)で与えられる。
【0045】
【数7】

【0046】
ここで、図8に示すような従来の波長選択スイッチの構成を用いた場合、入出力ポートに入力された光のうち、第1方向の負の方向(図8の紙面において下側に向かう方向)に対して最も大きな値で入射する位置Y5_norと、第4レンズ14の第1方向の負側に関する有効径CA14_norとは、それぞれ、(式9)、(式10)で与えられる。ここでS14は第4レンズ14上における第1方向の光の直径である。
【0047】
【数8】

【0048】
従って、(式8)及び(式10)の両辺の差分を算出すると、従来構成との有効径が比較できる((式11)を参照)。
【0049】
【数9】

【0050】
(式11)からf>fの条件においては、(式11)は正の値をとる。このため、本実施形態の構成における第4レンズ14の有効径は、従来の波長選択スイッチにおいて対応するレンズの有効径よりも、小さくすることが出来ることが分かる。
【0051】
第4レンズ14に入射した光は、第1方向と第2方向とにおいて、それぞれ異なる径を有する平行光としてコリメートされ、分散素子15の方向に出射される。
図3(a)に示すように、第4レンズ14を出射した光は、分散素子15に対して、第1方向に角度ε11、第2方向に角度α(図2参照)だけそれぞれ傾いて入射する。
【0052】
入出力ポート10の第1のグループ、第2のグループに属するポートからの光は、それぞれのグループごとに第1方向に略同一の角度で分散素子15に入射することになる。これは、第4レンズ14が前述の第3レンズ13を通過後の集光位置から焦点距離fだけ離れた位置に配されていることによる。
【0053】
第1のグループに属する入力ポート、例えばポート10aからの光と、第2のグループに属する入力ポート、例えばポート10fからの光とは、第1方向に関して、それぞれ異なる方向から分散素子15に入射する。この場合、それぞれの光線が集光レンズ16の光軸AX16と第1方向に成す角度を角度ε11、角度ε12とする。このとき、ε11=ε12となり、角度の大きさは略等しくなっている。ここで、例えば、各角度ε11、ε12の大きさは、光軸AX16に平行な軸を基準として、その大きさを定義する。
【0054】
このように、複数のポート群を構成する各ポート群から出射される光の分散素子15(光分散手段)への入射角度は、それぞれ等しい。
【0055】
ここで、「角度が等しい」とは、略等しい状態を含んでいる。
どの程度、厳密に等しいかは、ユーザが求めるスペックに依存する。すなわち、仮に角度εが等しくないとき、ミラーアレイ上のスポット位置が、ミラー中心位置から第2方向にずれてしまう。この結果、透過帯域幅が狭くなる。
このため、ユーザが必要とするスペック(透過帯域幅)がそれほど高くなければ、両角度が多少等しくなくても許容される。
【0056】
分散素子15は、第4レンズ14でコリメートされた光を、第1方向とは異なる第2方向に波長に応じて角度分散する。つまり、分散素子15に入射する波長多重された光は、各波長に応じて第2方向に拡がる領域で、且つ異なった角度α2a〜α2eの角度範囲の間で進行する。分散素子15として回折格子を考えた場合、その角度は(式12)で表される。
【0057】
【数10】

【0058】
ここで、mは回折次数、dは分散素子15を構成する回折格子のピッチ、λは波長を示している。上述したように角度ε11=ε12の関係が略成立することから、第1のグループに属する入出力ポート10からの光と、第2のグループに属する入出力ポート10からの光とに関して、同一波長成分は同一方向に分散される。
【0059】
角度ε11≠ε12の場合、(式12)からも分かるように、第1のグループに属する入出力ポート10からの光と、第2のグループに属する入出力ポート10からの光とは、同一波長成分は同一方向に分散されない。そして、MEMSミラーアレイ18上で第2方向に沿って異なる位置に入射することになる。
【0060】
一般に、波長選択スイッチにおいては、ITUにより定められる周波数を中心として周波数(波長)方向に広く均一な透過特性が求められる。MEMSミラーを用いた波長選択スイッチにおいては、波長によって第2方向に沿って異なる位置に集光することで、波長によって各MEMSミラーからの光ビームのスポットのけられ量が異なる。この結果、波長選択スイッチの透過特性が不均一となる。
【0061】
第1のグループ及び第2のグループに属する入出力ポート10からの光が、分散素子15から異なる角度で分散するということは、このような透過特性の均一性を維持できる波長域を狭めることになる。すなわち、波長選択スイッチとしての特性の劣化を意味する。これに対して、本実施形態においては、角度ε11=ε12となる構成をとることにより、このような特性劣化を低減できる。
【0062】
図2において、分散光が伝播する様子は、簡略化して5つの波長のみ図示している。分散素子15に入射する波長多重された光は、各波長に応じて第2方向に沿って異なった角度で進行する。
【0063】
本実施形態では、分散素子15としては、図1のような透過型の分散素子を示しているが、反射型の分散素子や回折格子以外の分散素子でもよい。例えば反射型回折格子、イマージョングレーティング、プリズム等を用いても良い。また、分散素子15は1つの分散素子で構成されている必要はなく、2つ以上の分散素子を組み合わせて分散素子15として機能させても良い。
【0064】
次に、分散素子15の第1方向に沿った有効径について説明する。図3(a)において、入力ポート10aから出射した光の分散素子15への入射位置と、第1レンズ12aの光軸AX12aと、の第1方向に沿った距離(大きさ)をYで表す。また、入力ポート10aから出射した光の分散素子15への入射位置と、集光レンズ16の光軸AX16と、の第1方向に沿った距離をYで表す。このとき、YとYは、それぞれ(式13)、(式14)で与えられる。
【0065】
【数11】

【0066】
入力ポート10eから入力された光は、上述のように、第4レンズ14上において、第1レンズ12aの光軸AX12aからの距離が、入力ポート10aから入力された光の場合と等しく(距離Y)なる位置に入射する。
【0067】
また、入力ポート10eから出射された光は、第4レンズ14から出射した後、入力ポート10aからの光と平行に進行する。このため、入力ポート10eから出射された光に関しては、分散素子15上での第1方向の入射位置と、第4レンズ14の光軸との距離も、入力ポート10aからの光のそれと等しく、距離Yとなる(ただし、当該光軸からの方向と、角度の方向はそれぞれ逆である)。
【0068】
換言すると、第4レンズ14(第2の光学系)は、第1レンズ12a、第2レンズ12b(第1の光学系)と分散素子15(光分散手段)との間の光路内に配置されている。そして、第4レンズ14は、複数のポート群を構成する各ポート群からの光の主光線をそれぞれ平行にする。さらに、分散素子15(光分散手段)は、第4レンズ14(第2の光学系)からの光をそれぞれの信号波長に分離する。
【0069】
この構成により、入出力ポート10の各グループからの光は、効率的に重畳して分散素子15へ入射する。
ここで、「平行」とは、厳密な平行状態に加えて、略平行の状態でも良い。厳密に平行である程度、すなわち平行度の許容範囲は、ユーザが求めるスペックに依存する。すなわち、仮に平行でない場合、ミラーアレイ上のスポット位置が、ミラー中心位置からずれてしまう。このため、透過帯域幅が狭くなってしまう。
このため、ユーザが必要とするスペック(透過帯域幅)がそれほど高くなければ、平高度が多少等しくなくても許容される。
【0070】
第2のグループに属する入出力ポートについても同様の説明、考え方を適用できる。本実施形態の場合は、第1のグループ属する入出力ポートの数と第2のグループに属する入出力ポートの数が等しい。このため、結局、分散素子15の第1方向の負側に関する有効径CA15は、(式15)で与えられる。ここでS15は分散素子15上における第1方向の光の直径である。
図3(b)は、分散素子15近傍を拡大して示している。
【0071】
【数12】

【0072】
従来の波長選択スイッチの構成を用いた場合、分散素子15の第1方向の負側に関する有効径CA15norは、(式16)で与えられる(図8参照)。
【0073】
【数13】

【0074】
(式15)、(式16)および距離Yが距離Yより大きいことから、(式16)は常に正の値をとり、本実施形態の構成における分散素子15の大きさは従来の構成に比べ小さく出来ることがわかる。
【0075】
このように、本実施形態では、分散素子15の領域COMで光束が重畳される。このため、分散素子15を小型化できる。この結果、分散素子15の高さを小さくできる。
【0076】
さらに、図3(a)に示すように、第1のグループに属する入出力ポートからの光と、第2のグループに属する入出力ポートからの光とは、第4レンズ14の位置における領域COM、及び集光レンズ16の位置における領域COMにおいても一部の光束が重複している。
このため、第4レンズ14、集光レンズ16の小型化も図ることができる。この結果、波長選択スイッチ100の大きさを小さくできる。
【0077】
さて、分散素子15により角度分散された光は、分散光として、集光レンズ16に入射する。集光レンズ16は、焦点距離f5を有する。各分散光は、集光レンズ16から、収束光として出射される。
【0078】
分散素子15の分散起点と、集光レンズ16の主点との間隔は、焦点距離f5だけ離れている事が望ましい。ここで「分散起点」とは、分散光を逆方向に追跡したときに分散の起点となっているように見える位置を意味する。
【0079】
このようなレンズ配置をすることで、集光レンズ16から射出した各分散光は、波長ごとの第2方向の進行方向を略一致させることが出来る。また複数の分散素子を用いて分散素子15を構成する場合、分散起点は、複数の分散素子で生じる分散を1つの分散素子で生じさせたと考えた場合の分散起点となる。つまり、最終的な各分散光の分散素子15からの進行方向を逆にたどったときに交わる位置である。
【0080】
次に、集光レンズ16の第1方向の有効径について説明する。
集光レンズ16に入射する光線のうち、第1方向について最も外側を通るのは図3(a)より、入力ポート10aから出射された光である。入力ポート10aから出射した光の集光レンズ16への入射位置と、集光レンズ16の光軸AX16との第1方向の距離をYとする。距離Yは(式17)で与えられる。
【0081】
【数14】

【0082】
従って、集光レンズ16の第1方向の負側に関する有効径CA16は、(式18)で与えられる。ここでS16は集光レンズ16上における第1方向の分散光の直径である。
【0083】
【数15】

【0084】
従来の波長選択スイッチの構成を用いた場合、入出力ポートに入力された光のうち、第1方向の負の方向に対して最も大きな値で入射する位置Y8_norと、集光レンズ16の第1方向の正側に関する有効径CA16_norはそれぞれ、(式19)、(式20)で与えられる(図8参照)。
【0085】
【数16】

【0086】
従って、(式18)及び(式20)の両辺の差分を算出すると、従来構成との有効径が比較できる((式21)を参照)。
【0087】
【数17】

【0088】
このことから、本実施形態の構成における集光レンズ16の有効径は従来の波長選択スイッチより小さくすることが出来ることが分かる。
集光レンズ16を出射した分散光は、光路結合素子17(光路結合部)に入射する。光路結合素子17は入射面、出射面の少なくとも一方で、第1のグループに属する入出力ポートからの光と、第2のグループに属する入出力ポートからの光とが、通過する面が異なるように構成されている。
光路結合素子17としては、プリズムを用いることができる。また、これに限られず、屈折作用を生ずる他の光学素子を光路結合素子17として用いることもできる。
【0089】
本実施形態においては、光路結合素子17は出射面に、第1のグループに属する入出力ポートからの光が通る面17aと、第2のグループに属する入出力ポートからの光が通る面17bと、を有している。
【0090】
光路結合素子17が存在しない場合、集光レンズ16で集光された各分散光は、第1方向について、第1のグループに属する入出力ポートからの光は第2レンズ12bの光軸AX12bの延長線上に集光する。また、第2のグループに属する入出力ポートからの光は、第1レンズ12aの光軸AX12aの延長線上に集光する。このように、光路結合素子17を設けない場合、第1のグループに属する入出力ポートからの光と、第2のグループに属する入出力ポートからの光とは、それぞれ別の場所に集光する。
【0091】
光路結合素子17によって、集光レンズ16を出射した分散光は、第1のグループに属する入出力ポートからの光及び第2のグループに属する入出力ポートからの光は、共に、波長に対応したそれぞれのMEMSミラー18a〜18eにそれぞれ集光される。
【0092】
図2においてMEMSミラーは5つのみ代表して示している。しかしながら、MEMSミラーアレイ18を構成するMEMSミラーの数量はこれに限られるものではない。MEMSミラーの個数も伝播される信号の周波数間隔及び周波数帯域幅により決められる。
【0093】
また、MEMSミラーアレイ18は、複数の入力ポートからの光が第1方向に略交わる位置に配置されている。MEMSミラーアレイ18の位置での入力ポート10aからの光が進む方向と、集光レンズ16の光軸AX16とのなす角度β2a(図1参照)は理想的には(式22)より求められる。
【0094】
【数18】

【0095】
また、MEMSミラーアレイ18の位置における光ビーム形状は、上述したように第2の方向の径よりも、第1方向の径のほうが大きい楕円のビーム形状である。第1方向のビーム幅をS1M、第2方向のビームをS2Mとする。それらの大きさはそれぞれ(式23)、(式24)で表される。
【0096】
【数19】

【0097】
図5は、MEMSミラー18aにおける光スポットの形状を正面から見た図である。
【0098】
MEMSミラーアレイ18は、それぞれのミラーがローカルの直交するX軸とY軸の2軸周りに回転することが可能に構成されている。X軸は第2方向、Y軸は第1方向にそれぞれ対応している。X軸に関する回転により、出力ポートと光結合させる入力ポートを分散光の波長ごとに選択することが可能である。以下では入力ポート10aからの光が出力ポート10jと光結合される状態にMEMSミラーアレイ18のそれぞれの角度が制御されているものとする。
【0099】
図1に戻って説明を行う。MEMSミラーアレイ18の各ミラーによって反射された光は、広がりを持ったビーム形状で集光レンズ16に入射する。
集光レンズ16から入出力ポート10側へ出射した分散光は、光路結合素子17の作用により、再び第1のグループに属する入出力ポートに向かう光と、第2のグループに属する入出力ポートに向かう光と、に分けられる。
【0100】
入力ポート10aからの光は、MEMSミラーアレイ18で反射された後、光路結合素子17の面17bから入射し、光路結合素子17を出射する。光路結合素子17を出射した光は、分散素子15上に統合、すなわち重複され、回折後は再び多波長成分の同一光束となる。
【0101】
実際には、異なる入力ポートから入力された波長多重光から成る各分散光は、出力ポートへ向かう波長多重された光の同一光束となる。このとき分散素子15に入出射する第1方向の角度ε12の大きさは、角度ε11の大きさと略一致している。
【0102】
分散素子15によって波長多重された光は、第4レンズ14、第3レンズ13、第2レンズ12b、の順にレンズを透過する。そして、出力ポート10jに対応したレンズアレイ11のレンズに入射し、出力ポート10jに集光される。
【0103】
このように、複数の入力ポートから出射した多波長成分の光は、波長ごとにMEMSミラーアレイ18のそれぞれのMEMSミラー18a〜18eの傾き角により選択的に出力ポートに入射させることができる。
以上のように、本実施形態において波長選択スイッチは、9×1のポート構成を有する波長選択スイッチとして機能する。
【0104】
本実施形態の波長選択スイッチ100は、分散素子15については、従来構成の波長選択スイッチに比べ第1方向に小型化が可能である。また、第4レンズ14は、(式11)が正となる条件においては、従来構成の波長選択スイッチに比べ第1方向に小型化できる。また、集光レンズ16は、(式21)が正となる条件においては、従来構成の波長選択スイッチに比べ第1方向に小型化できる。
【0105】
波長選択スイッチ全体の小型化を考えた場合、(式11)、(式21)の双方が正となるような構成をとるのが望ましい。例えばf1<f4≒f5のように構成すると、装置全体を小型化することが出来る。また、第4レンズ14と集光レンズ16とを同一レンズにより構成し、f4=f5となるようにしても良い。
【0106】
換言すると、集光レンズ16(集光要素)の焦点距離f及び第4レンズ14(第2の光学系)の焦点距離fは、第1レンズ12a、第2レンズ12b(第1の光学系)の焦点距離fよりも長いことが望ましい。
【0107】
これにより、分散素子15の領域を有効に使用できるような第4レンズ14(第2の光学系)の最低限の大きさ(径)を達成できる。これにより、波長選択スイッチ100全体の高さを小さくできる。
【0108】
以上のように、本実施形態の構成により、入出力部の増加に伴う装置の高さの増加を緩やかにし、特に分散素子の小型化を実現可能な、波長選択スイッチを提供する事が出来る。
【0109】
本実施形態の波長選択スイッチ100では光学系をレンズで構成したが、図示しない反射光学系としてもよい。
また、本実施形態の波長選択スイッチは第1レンズ12と、第2レンズ13とにより、楕円形状の径をもつ光として光学系を伝播したが、レンズは必ずしも必要ではなく、円形状の径をもつ光のまま伝播しても、本実施形態の効果を奏することができる。
また、本実施形態の波長選択スイッチは複数の入力部に対し1つの出力部をもったN×1の構成を用いて説明したが、1つの入力部に対し複数の出力部をもった1×Nの構成であっても良い。
【0110】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る波長選択スイッチ200について説明する。
図6は、第2実施形態の波長選択スイッチ200における構成と光線を示す側面図である。図7は、第2実施形態の波長選択スイッチ200における構成と光線を示す上面図である。上記第1実施形態と同じ構成には同じ参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0111】
本実施形態は、波長選択スイッチ200の構成を、より簡易にした点において、第1実施形態と異なる。
第1レンズ12a、第2レンズ12bの代わりに、プリズム12’を用いている。プリズム12’は、複数のポート群からの光を所定面近傍において少なくとも一部重複させる。本実施形態では、入出力ポート10のうち、入力ポート10a〜10eは第1のグループを構成し、入力ポート10f〜10i及び出力ポート10jは第2のグループを構成している。
【0112】
そして、第1のグループに属するポート群からの光と、第2のグループに属するポート群からの光とは、プリズム12’により、分散素子15の領域COMにおいて重複するように屈折される。
【0113】
このように、本実施形態では、分散素子15の位置COMで光束が重畳される。このため、分散素子15を小型化できる。この結果、分散素子15の高さで規定されている波長選択スイッチ200の大きさを小さくできる。
【0114】
さらに、図6に示すように、第1のグループに属するポート群からの光と、第2のグループに属するポート群からの光とは、集光レンズ16の位置における領域COMにおいても一部の光束が重複している。
このため、集光レンズ16の小型化も図ることができる。この結果、波長選択スイッチ200の大きさを小さくできる。
【0115】
本実施形態では、上記実施形態に比較して、さらに、簡易な構成により、分散素子15の高さ方向の大きさを低減できる。この結果、分散素子15で規定される波長選択スイッチ200の大きさを小さくできる。
【0116】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、様々な変形例をとることができる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明にかかる波長選択スイッチは、光入出力部の数が増加した場合であっても、分散素子の小型化を実現できる波長選択スイッチであって、例えば光学系や通信の分野において有用である。
【符号の説明】
【0118】
100、200 波長選択スイッチ
10 入出力ポート
10a、10b、…10j ファイバ
11 レンズアレイ
12a 第1レンズ
12b 第2レンズ
13 第3レンズ
14 第4レンズ
15 分散素子
16 集光レンズ
17 光路結合素子
18 MEMSミラーアレイ
18a〜18e MEMSミラー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長多重された光を入力または出力可能な複数のポートを備え、前記ポートによりそれぞれ構成される複数のポート群からなる光入出力部と、
前記複数のポート群からの光を所定面近傍において少なくとも一部重複させる第1の光学系と、
前記所定面の近傍に配置され、前記光入出力部から入力された波長多重された光をそれぞれの信号波長に分離する光分散手段と、
前記信号波長に分離された光を集光させる集光要素と、
前記集光要素により集光された光のスポットが同一軸上に配列するように、前記集光要素により集光されたそれぞれの信号波長光を偏向可能な第1の偏向部材と、
前記第1の偏向部材により偏向された信号波長光を波長ごとに所望の方向に偏向可能な第2の偏向部材と、
を有することを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項2】
前記第1の光学系と前記光分散手段との間の光路内に配置され、前記複数のポート群を構成する各ポート群からの光の主光線を平行にする第2の光学系をさらに有し、
前記光分散手段が、前記第2の光学系からの光をそれぞれの信号波長に分離することを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
【請求項3】
前記集光要素の焦点距離及び前記第2の光学系の焦点距離は、前記第1の光学系の焦点距離よりも長いことを特徴とする請求項2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項4】
前記複数のポート群を構成する各ポート群から出射される光の前記光分散手段への入射角度は、それぞれ等しいことを特徴とする請求項2または3に記載の波長選択スイッチ。
【請求項5】
前記複数のポート群は、2つのポート群からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の波長選択スイッチ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−11718(P2013−11718A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143933(P2011−143933)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】