説明

波面センサ

【課題】面光源や複数の点光源等、一点とみなせない光源からの波面に対しても計測を行うことができる波面センサを提供する。
【解決手段】入射瞳Pに入った被測定光波面は半透鏡3で第1の光路L1と第2の光路L2とに分岐され、第1の光路L1を進む波面W1は第1の光路差補償部材7を透過し、第2の光路L2を進む波面W2は第2の光路差補償部材8を透過する。これら波面W1及びW2は、シェアリング量Sだけ互いに位置をずらした状態で半透鏡6により再度混合され、干渉計測面Mに干渉縞を形成する。この干渉縞の強度分布が光検出器9によって測定され、波面計測部10で被測定光波面の形状が測定される。被測定光波面の到来方向に起因して傾斜した状態で干渉計測面Mに至る波面W1’と波面W2’との間に発生する光路差は、これら波面W1’及びW2’がそれぞれ第1の光路差補償部材7及び第2の光路差補償部材8を透過する際に事前に補償される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、波面センサに係り、特にシェアリング干渉法を利用して光波の波面を計測するセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
光波の干渉現象を利用した干渉計は、光の波長以上の精度で非接触計測が可能なため、高精度の計測に広く用いられている。
例えば、特許文献1には、被測定光波面を2つの光路に分岐して互いに位置をずらし、これらの波面を再度混合させて、その干渉縞から被測定光波面の形状を測定するシェアリング干渉計が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−77413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、2つの光路に分岐した波面を再度混合させて干渉計測面で干渉縞(干渉後の強度)を観察する際に、2つの光路における干渉計測面までの伝播光路差が被測定光波面の到来方向に依存して変化することが知られている。したがって、被測定光波面が到来する方向ごとに異なった干渉状態が形成されることとなり、一点とみなせない光源からの波面や、機器の振動などにより一点とみなせる大きさ以上に動いてしまう点光源からの波面に対しては、互いに異なった干渉状態の光が干渉計測面で合成されてしまうため、干渉縞の観察による波面形状の測定を行うことができないという問題点があった。
この発明はこのような問題点を解消するためになされたもので、面光源や複数の点光源等、一点とみなせない光源からの波面や、一点とみなせる大きさ以上に動いてしまう点光源からの波面に対しても計測を行うことができる波面センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係る波面センサは、被測定光波面を2つの光路に分岐して互いに位置をずらし、これらの波面を再度混合させて干渉計測面に形成された干渉縞から被測定光波面の形状を測定する波面センサにおいて、2つの光路に分岐された波面をそれぞれ一旦結像させて再度コリメートすることにより被測定光波面の入射角度に依存して発生する光路差を除去するための光路差補償部材を2つの光路上にそれぞれ配置し、2つの光路における干渉計測面までの伝播光路差が被測定光波面の入射角度に関わらずに一定となるようにしたものである。
なお、それぞれの光路差補償部材が対応する光路に対して所定角度だけ傾斜して配置されたレンズを有し、2つの光路に対してレンズが互いに逆方向に傾斜するように双方の光路差補償部材を配置することが好ましい。
この場合、それぞれの光路差補償部材が、結像レンズとコリメータレンズとを有するように構成することができる。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、分岐した2つの光路上に被測定光波面の入射角度に依存して発生する光路差を除去するための光路差補償部材をそれぞれ配置することにより、2つの光路における干渉計測面までの伝播光路差を被測定光波面の入射角度に関わらずに一定とするので、互いに異なった方向から到来する被測定光波面でも干渉計測面において同一の干渉状態が得られる。このため、一点とみなせない光源からの波面や、一点とみなせる大きさ以上に動いてしまう点光源からの波面に対しても、同一の干渉状態の光が干渉計測面で合成されることとなり、干渉縞の観察による波面の計測が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に実施の形態1に係る波面センサの構成を示す。入射瞳Pの次に半透鏡3が配置され、入射瞳Pから半透鏡3に至る光路がこの半透鏡3により第1の光路L1と第2の光路L2とに分岐される。半透鏡3を透過する第1の光路L1上には第1の平面鏡4が配置され、半透鏡3で反射する第2の光路L2上には第2の平面鏡5が配置されている。第1の平面鏡4によって反射された第1の光路L1と第2の平面鏡5によって反射された第2の光路L2とが交差する位置に半透鏡6が配置され、この半透鏡6により第1の光路L1と第2の光路L2が互いにシェアリング量Sだけ位置をずらした状態で再び結合される。さらに、半透鏡6の次に干渉計測面Mが規定されている。なお、入射瞳PはXY面内に規定され、Z軸は、入射瞳Pでの軸上光の進行方向とする。また、干渉計測面MはX’Y’面内に規定され、第1の光路L1に対して第2の光路L2が+X’方向にシェアリング量Sだけずらした状態で結合されるものとする。また、Z’軸は、干渉計測面Mでの軸上光の進行方向とする。
【0008】
また、第1の光路L1上には半透鏡3と第1の平面鏡4との間に第1の光路差補償部材7が配置され、第2の光路L2上には第2の平面鏡5と半透鏡6との間に第2の光路差補償部材8が配置されている。これら第1の光路差補償部材7及び第2の光路差補償部材8は、入射瞳Pへの被測定光波面の入射角度に依存して発生する光路差を除去するためのものである。
第1の光路差補償部材7は、半透鏡3の前方で且つ第1の光路L1の光軸に対して角度φだけ傾斜させて配置された結像レンズ7aと、結像レンズ7aに対して平行に配置されたコリメータレンズ7bとを有している。これらの結像レンズ7aとコリメータレンズ7bは、共通の焦点距離Fを有し、互いにそれらの光軸上で距離2・Fだけ隔てるように配置されている。
第2の光路差補償部材8は、第2の平面鏡5の前方で且つ第2の光路L2の光軸に対して角度−φだけ傾斜させて配置された結像レンズ8aと、結像レンズ8aに対して平行に配置されたコリメータレンズ8bとを有している。これらの結像レンズ8aとコリメータレンズ8bは、それぞれ第1の光路差補償部材7の結像レンズ7a及びコリメータレンズ7bと同一の焦点距離Fを有し、互いにそれらの光軸上で距離2・Fだけ隔てるように配置されている。
【0009】
さらに、干渉計測面Mには干渉縞の強度分布を測定するための光検出器9が配置され、この光検出器9に波面計測部10が接続されている。光検出器9は、例えばCCDから形成され、波面計測部10は、光検出器9で得られた測定データに基づいて被測定光波面の形状を求めるもので、例えばコンピュータから形成される。
また、第2の平面鏡5には、この第2の平面鏡5の配置位置及び角度を移動させることにより光路L1及びL2の間に任意の相対的な光路差を生じさせる移動装置11が接続されている。
【0010】
次に、この実施の形態1に係る波面センサの動作について説明する。入射瞳Pに入った被測定光波面は、Z方向に進行して半透鏡3で第1の光路L1と第2の光路L2とに分岐される。第1の光路L1を進む波面W1は、第1の光路差補償部材7の結像レンズ7a及びコリメータレンズ7bを透過した後、第1の平面鏡4で反射して半透鏡6へと向かう。一方、第2の光路L2を進む波面W2は、第2の平面鏡5で反射した後、第2の光路差補償部材8の結像レンズ8a及びコリメータレンズ8bを透過して半透鏡6へと向かう。第1の光路L1を進む波面W1と第2の光路L2を進む波面W2は、シェアリング量Sだけ互いに横方向に位置をずらした状態で半透鏡6により再度混合され、干渉計測面Mに至る。干渉計測面Mには、入射瞳Pが再結像されるが、第1の光路L1による瞳像G1に対して第2の光路L2による瞳像G2がシェアリング量Sだけ+X’方向に位置をずらして重なるように構成されており、これにより第1の光路L1を進む波面W1と第2の光路L2を進む波面W2とが横ずれした状態で干渉して干渉計測面Mに干渉縞を形成する。
【0011】
この干渉縞の強度分布が干渉計測面Mに配置された光検出器9によって測定され、この強度分布が波面計測部10に送られて被測定光波面の形状が測定される。
なお、移動装置11で第2の平面鏡5の配置位置や角度を移動させることにより、被測定光波の波長をλとして、第1の光路L1と第2の光路L2との間の光路差をλ/4、λ/2、3λ/4などとずらした状態の干渉縞を干渉計測面Mに形成し、光検出器9で測定されたこの干渉縞の強度分布をも使用して波面計測部10で被測定光波面の形状を測定することもできる。
【0012】
ここで、光軸上に沿って被測定光波面が入射瞳Pに入射したときには、図2に示されるように、第1の光路L1を経た波面W1と第2の光路L2を経た波面W2が共に干渉計測面Mに垂直に進むため、この干渉計測面Mに至る際にこれら波面W1及びW2の間に光路差を生じることはない。しかしながら、被測定光波面が光軸に対して傾斜した方向から入射瞳Pに入射したために第1の光路L1を経た波面W1’と第2の光路L2を経た波面W2’の進行方向がX’Z’面内でZ’軸から+X’方向に角度θだけ光軸から傾いて干渉計測面Mに至ると、光路差補償部材のない場合には、第2の光路L2を経た波面W2’は第1の光路L1を経た波面W1’よりも光路長Aだけ先を進んでおり、第1の光路L1における波面W1’の光路長が第2の光路L2における波面W2’の光路長に対してAだけ長いことがわかる。このとき生じる光路差Aは、
A=S・sinθ ・・・(1)
と表される。ただし、Sは、第1の光路L1と第2の光路L2との間のシェアリング量である。
【0013】
このように、被測定光波面の到来方向すなわち入射瞳Pへの入射角度に起因して干渉計測面Mに至る際に波面W1’と波面W2’との間に光路差Aが発生するが、第1の光路L1上に配置されている第1の光路差補償部材7と第2の光路L2上に配置されている第2の光路差補償部材8の作用によってこの光路差Aが事前に補償されることとなる。以下、この補償作用について詳述する。
【0014】
図3に示されるように、第1の光路差補償部材7において、結像レンズ7aとコリメータレンズ7bは、互いに平行に配置されると共にそれらの光軸上で距離2・Fだけ隔てて配置されているので、共通の焦平面Q1を有している。ただし、実際には、レンズの収差のために、結像レンズ7a及びコリメータレンズ7bはそれぞれ湾曲した等光路長面Q1a及びQ1bを有し、入射瞳P上の中心点P0から光路長が等しい点を焦平面Q1で見ると、入射瞳Pへの入射角度に依存して焦平面Q1からずれることとなる。このため、入射瞳P上の中心点P0から焦平面Q1までの、レンズの軸上光を基準とした光路長の増加分Δr1は、結像レンズ7aへの入射角度αの関数J(α)として表すことができる。
Δr1=J(α)
【0015】
結像レンズ7aの光軸は、第1の光路L1に対して角度φだけ傾斜しているので、入射瞳Pに角度θで入射した光の結像レンズ7aへの入射角度は(θ−φ)となり、光路長の増加分Δr1は、
Δr1=J(θ−φ)
と表される。
焦平面Q1からコリメータレンズ7bによって入射瞳Pが再結像される干渉計測面Mまでの光路が、入射瞳Pから焦平面Q1までの光路と対称的であるとすると、互いに光路長の増加分Δr1が等しくなり、入射瞳P上の中心点P0から第1の光路L1を通って干渉計測面Mに再結像された瞳の中心点M0にまで至る光路長の増加分ΔR1は、
ΔR1=2・Δr1=2・J(θ−φ) ・・・(2)
となる。
【0016】
同様に、図4に示されるように、第2の光路差補償部材8において、結像レンズ8aとコリメータレンズ8bは、互いに平行に配置されると共にそれらの光軸上で距離2・Fだけ隔てて配置されているので、共通の焦平面Q2を有している。ただし、実際には、レンズの収差のために、結像レンズ8a及びコリメータレンズ8bはそれぞれ湾曲した等光路長面Q2a及びQ2bを有し、入射瞳P上の中心点P0から光路長が等しい点を焦平面Q2で見ると、入射瞳Pへの入射角度に依存して焦平面Q2からずれることとなる。このため、入射瞳P上の中心点P0から焦平面Q2までの、レンズの軸上光を基準とした光路長の増加分Δr2は、結像レンズ8aへの入射角度αの関数J(α)として表すことができる。
Δr2=J(α)
【0017】
結像レンズ8aの光軸は、第2の光路L2に対して角度(−φ)だけ傾斜しているので、入射瞳Pに角度θで入射した光の結像レンズ8aへの入射角度は(θ+φ)となり、光路長の増加分Δr2は、
Δr2=J(θ+φ)
と表される。
焦平面Q2からコリメータレンズ8bによって入射瞳Pが再結像される干渉計測面Mまでの光路が、入射瞳Pから焦平面Q2までの光路と対称的であるとすると、互いに光路長の増加分Δr2が等しくなり、入射瞳P上の中心点P0から第2の光路L2を通って干渉計測面Mに再結像された瞳の中心点M0にまで至る光路長の増加分ΔR2は、
ΔR2=2・Δr2=2・J(θ+φ) ・・・(3)
となる。
【0018】
したがって、被測定光波面が光軸に対して傾斜した方向から入射瞳Pに入射したために、それぞれ角度θだけ光軸から傾いて第1の光路L1を進行する波面W1’と第2の光路L2を進行する波面W2’との間には、式(2)と(3)から、第1の光路差補償部材7及び第2の光路差補償部材8を配置したことにより、以下の光路差Bが生じることがわかる。
B=ΔR1−ΔR2
=2・J(θ−φ)−2・J(θ+φ) ・・・(4)
【0019】
一般に、レンズの収差により等光路長面が湾曲した場合の入射瞳上の中心点から焦平面までの光路長の増加分を示す関数J(α)は、2次以上の偶数次のαの多項式で表すことができる。すなわち、
J(α)=aα+bα+・・・ ・・・(5)
となる。
ここで、関数J(α)が2次式で表されるものとすると、式(4)及び(5)から、
B=2・a(θ−φ)−2・a(θ+φ)
=2・a(θ−2θφ+φ)−2・a(θ+2θφ+φ
=−8・aθφ ・・・(6)
と表される。なお、比例定数aは、使用する結像レンズ7a、8a及びコリメータレンズ7b、8bのパラメータとして既知であるものとする。
【0020】
この光路差Bは、光路差補償部材における、第2の光路L2を進行する波面W2’の光路長に対する第1の光路L1を進行する波面W1’の光路長の差分を表しており、式(1)で表される干渉計測面Mに波面が傾斜して至る際に生じる光路差Aとは逆に、波面W1’の光路長を波面W2’の光路長より短くするものを採用する。そこで、光路差Aと光路差Bの絶対値を波長以下の誤差でほぼ等しい値にすれば、光路差Aが補償されることになる。
【0021】
すなわち、
A≒−B
とすればよい。言い換えると、光路差Aと光路差Bとを加算した全体の光路差Cをほぼ0とすればよい。
A+B=C≒0
式(1)と(6)を用いると、
S・sinθ−8・aθφ≒0 ・・・(7)
と表される。
角度θの絶対値が小さい場合には、
sinθ≒θ
と近似することができるので、式(7)は、
S−8・aφ≒0
と表される。
このとき、
φ=S/(8・a) ・・・(8)
となる。
【0022】
そこで、第1の光路差補償部材7において、結像レンズ7a及びコリメータレンズ7bの光軸を第1の光路L1の光軸に対して角度φ=S/(8・a)だけ傾斜させて配置し、第2の光路差補償部材8において、結像レンズ8a及びコリメータレンズ8bの光軸を第2の光路L2の光軸に対して角度−φ=−S/(8・a)だけ傾斜させて配置することにより、互いに異なった方向から到来する被測定光波面でも干渉計測面Mにおいて、ほぼ同一の干渉状態を得ることができる。このため、面光源や複数の点光源等、一点とみなせない光源からの波面や、機器の振動などにより一点とみなせる大きさ以上に動いてしまう点光源からの波面に対しても、同一の干渉状態の光が干渉計測面Mで合成されることとなり、光検出器9で測定された干渉縞の強度分布に基づいて波面計測部10で被測定光波面の形状を求めることが可能となる。
【0023】
なお、光路差補償部材7及び8をそれぞれ角度φ及び−φだけ傾斜することで、光路差補償部材7及び8を通過してコリメートされた光がそれぞれ平行光とみなせなくなる場合には、結像レンズ7aとコリメータレンズ7bの間隔2・F及び結像レンズ8aとコリメータレンズ8bの間隔2・Fを微調整し、光路差補償部材7及び8を通過してコリメートされた光がそれぞれ平行光とみなせるようにすることが好ましい。
また、波面W1’及びW2’の進行方向が、図1、図3及び図4に示した角度θとは逆方向に傾いた場合でも、同様に、その傾きに起因して発生する光路差が第1の光路差補償部材7及び第2の光路差補償部材8の作用によって事前に補償され、干渉計測面Mにおいてほぼ同一の干渉状態を得ることができる。
なお、上記の説明では、レンズの収差により等光路長面が湾曲した場合の入射瞳上の中心点から焦平面までの光路長の増加分を示す関数J(α)が2次式で表されるものとしたが、4次以上の偶数次の多項式で表されるものとしても、同様にして、全体の光路差Cが入射角度θの値に関わらずにほぼ一定値0となるような結像レンズ7a、8a及びコリメータレンズ7b、8bの傾斜角度φを求めることができる。
【0024】
ここで、シェアリング量S=100μm、結像レンズ7a、8aまたはコリメータレンズ7b、8bにおける光路長の増加分を示す関数J(α)の比例定数a=500μm、第1の光路差補償部材7及び第2の光路差補償部材8の光軸からの傾斜角度φ及び−φの絶対値を0.025radとして、入射瞳Pに入射した被測定光波面の入射角度θを+X方向及び−X方向に種々変化させたときの、干渉計測面Mに至る際に生じる光路差A、第1の光路差補償部材7及び第2の光路差補償部材8により生じる光路差B、光路差Aと光路差Bとを加算した全体の光路差Cをそれぞれシミュレートした結果を図5に示す。なお、図5における横軸はθ(rad)、縦軸は光路差(μm)である。入射角度θの値に応じて光路差Aが変化し、その光路差Aを補償するように光路差Bが変化している様子が示されている。光路差Aと光路差Bとを加算した全体の光路差Cは入射角度θの値に関わらずにほぼ一定値0となっている。
【0025】
図5の光路差を表す縦軸を200倍に拡大したグラフを図6に示す。全体の光路差Cは入射角度θの値に応じて変化しているが、−0.15≦θ≦+0.15(rad)(角度θの絶対値≦約8.6度)の範囲において±60nm以下の値である。シェアリング量Sが100μmで光路差補償部材がない場合に、光路差Aを±60nm以下に抑えるには、式(1)からA=S・sinθであるので、
−0.00006≦0.1・sinθ≦0.00006
すなわち、
−0.0006≦sinθ≦0.0006
でなければならず、このように角度θの絶対値が小さい場合には、
sinθ≒θ
であるので、およそ、
−0.0006≦θ≦0.0006(rad)
となり、光路差補償部材を採用することによって、同じ光路差が発生する角度範囲が約250倍も広くなっていることがわかる。
【0026】
なお、上記の例では式(8)を満たす傾斜角度φを用いたが、第1の光路差補償部材7及び第2の光路差補償部材8の光軸からの傾斜角度φ及び−φを微調整すれば、さらに広い角度範囲で光路差補償を行うことが可能となる。
また、±60nm以下を光路差C及び光路差Aの許容量として、光路差補償部材を採用したときと採用しないときの光路差補償を行い得る角度範囲を比較したが、光路差C及び光路差Aの許容量を変えると、それに応じて光路差補償を行い得る角度範囲は変化する。
【0027】
上述したシミュレーションにおけるシェアリング量Sと、結像レンズ7a、コリメータレンズ7b、結像レンズ8a及びコリメータレンズ8bのパラメータとを同じくして、入射瞳Pに入射した被測定光波面の入射角度θを二次元的にXY方向に種々変化させたときの、全体の光路差Cをシミュレートした結果を図7に示す。入射光の進行方向をXZ平面及びYZ平面へ投影したときの角度θx及びθyに対する光路差Cの値が示されている。なお、図7は、図6と同様に縦軸の光路差Cが大きく拡大され、±0.15μmの範囲で示されている。
光路差Cは、入射角度θx及びθyの値に応じて変化しているが、−0.15≦θx≦+0.15(rad)、−0.15≦θy≦+0.15(rad)の範囲において±0.11μm以下の値であり、高精度に波面の光路差が補償されて、干渉状態が変わらず、波面計測が可能となることがわかる。
【0028】
実施の形態2
上述した実施の形態1の波面センサにおいては、半透鏡6で反射した第1の光路L1と半透鏡6を透過した第2の光路L2を互いにシェアリング量Sだけ位置をずらした状態で結合させたが、半透鏡6を透過した第1の光路L1と半透鏡6で反射した第2の光路L2も互いにシェアリング量Sだけ位置をずらした状態で結合させることができる。そこで、この実施の形態2では、図8に示されるように、第1の光路L1を進んで半透鏡6を透過した波面W1と第2の光路L2を進んで半透鏡6で反射した波面W2とにより入射瞳Pが再結像される位置に干渉計測面Maが規定され、この干渉計測面Maに光検出器9aが配置されている。そして、干渉計測面Mに配置されている光検出器9と干渉計測面Maに配置された光検出器9aの双方に波面計測部10が接続されている。
双方の光検出器9及び9aにより得られた干渉縞の強度分布に基づいて波面計測部10が被測定光波面の形状を測定する。
【0029】
ここで、干渉計測面MaはX’’Y’’面内に規定され、第1の光路L1に対して第2の光路L2が+X’’方向にシェアリング量Sだけずらした状態で結合されるものとする。また、Z’’軸は、干渉計測面Maでの軸上光の進行方向とする。
干渉計測面Maには、第1の光路L1を進んで半透鏡6を透過した波面W1と第2の光路L2を進んで半透鏡6で反射した波面W2とにより入射瞳Pが再結像されるが、第1の光路L1による瞳像G1aに対して第2の光路L2による瞳像G2aがシェアリング量Sだけ+X’’方向に位置をずらして重なるように構成され、干渉計測面Mに形成される干渉縞に対して明暗が反転した干渉縞が干渉計測面Maに同時に得られることとなる。このため、2つの波面W1とW2の位相差のほかに、2つの波面W1とW2の光の強度の合計、すなわち、瞳面Pにおける光の強度を、2つの干渉計測面M及びMaにおける強度の和から求めることができ、波面計測部10で波面を算出する際に、瞳面の明るさの変化による誤差を減らすことが可能となる。
【0030】
実施の形態1及び2で用いられた結像レンズ7a、コリメータレンズ7b、結像レンズ8a及びコリメータレンズ8bの材質としては、光透過性を有するガラス、結晶、樹脂、プラスチック等、各種のものを用いることができる。
また、結像とコリメートを行い得る光学系であれば、レンズの代わりに凹面鏡等の反射鏡を使用して同様の効果を得ることもできる。さらに、結像とコリメートのうち、一方をレンズにより、他方を反射鏡により行ってもよい。
【0031】
また、この発明は、シェアリング干渉法を用いているので、2つの光路の位置をずらした方向の波面の微分(差分)量のみが計測される。このため、2次元の波面形状を測定する場合には、被測定光波面を2つに分岐して2つの波面センサで互いに異なる2方向の波面の微分(差分)量をそれぞれ計測し、それらを合わせて解析することが望ましい。
さらに、この発明は、シェアリング干渉法を用いているので、広帯域の光を使用する場合には、第1の光路L1と第2の光路L2の光路長が光のコヒーレンス長以下の精度で互いに等距離に調整されていることが好ましい。
【0032】
この発明は、広範囲の波面計測に適用することができ、例えば、図9に示されるように、照明用光源18からの照明光を眼球19内に照射し、その反射光をこの発明の波面センサ20で捉えることにより、角膜・眼球光学系の収差計測、視力検査、眼底カメラ・網膜検査カメラの補償光学、等に用いることができる。この場合、従来のように波面計測用の小さな参照光スポットを網膜上に形成する必要がなく、白色光からなる照明光を広く分散照射するだけで、波面センサ20内で選択した必要な範囲の光を利用して波面計測を行うことが可能となる。
【0033】
同様にして、図10に示されるように、照明用光源18からの照明光を光学素子21に照射し、その反射光を波面センサ20で捉えることにより、光学素子21の収差を計測することができる。また、図11に示されるように、外部光源18aから光学素子21に照明光を照射して、その反射光を波面センサ20で捉えることもできる。このような方法に基づいて、レンズやミラー等の検査、メガネやコンタクトレンズの性能評価が可能となる。なお、計測対象となる光学素子21に応じて、波面センサ20に反射光を入射させるために必要な光学系を追加したり、光学素子21の配置位置を変える必要がある。例えば、平行平面基板等の光透過素子を計測対象とする場合には、図10または11における光学素子21の位置に基準鏡を配置し、平行光の中に光透過素子を挿入して計測する。また、図10において凸レンズを計測対象とする場合には、光学素子21の位置に基準の凹球面鏡を配置し、凸レンズで一旦焦点を結んだ後に、基準の凹球面鏡で元の方向へ光を戻せばよい。
【0034】
ここで、照明用光源18及び外部光源18aはピンホールのような点光源である必要がなく、この波面センサ20の許容範囲で広がった光源を用いることができる。光学素子21と波面センサ20の位置関係が相対的に振動などで変化するような条件下でも、被測定波面の入射角の変化が波面センサ20の許容範囲内であれば、波面を計測することができる。
また、図12のように、大型の光学素子22を測定対象とする場合には、光学素子23を用いて照明用光源18からのビーム径を拡大することが好ましい。
さらに、図13に示されるように、光源24から発せられる光を波面センサ20に入射させて、光源24の品質検査を行うこともできる。
【0035】
さらに、この発明を天体観測補償光学装置のための波面計測として適用することにより、広範囲の天体光や黄道光のように広がった背景光を用いた波面計測が可能となり、太陽面・惑星面等の点光源が確保しにくい天体や、明るい点光源の天体はないが全体では波面計測に十分な明るさを持つ恒星の集団等、従来の波面センサではなし得なかった天体の補償光学観測を行うことができるようになる。巨大望遠鏡の補償光学において、レーザガイド星が絞り込めずに広がる場合でも、正確な波面計測が可能になる。ただし、この発明の波面センサは、波面の傾斜成分に感度を有しないセンサであるので、波面傾斜成分を測定する装置と組み合わせて用いることが好ましい。
【0036】
なお、移動装置11により第2の平面鏡5の配置位置及び角度を移動させて光路L1及びL2の間に光路差を生じさせたが、第2の平面鏡5の代わりに移動装置11により第1の平面鏡4の配置位置及び角度を移動させて光路L1及びL2の間に光路差を生じさせるように構成してもよい。
分岐した2つの波面を混合する際に、2つの波面の位相差が半波長より十分小さく、強めあう干渉と弱めあう干渉の中間の強度になるように平均の位相差を調整すれば、干渉強度と2つの波面の位相差が単調な関係になるため、分岐した光路L1とL2の相対的な光路長を固定したままで、波面形状を求めることも可能である。
【0037】
上記の実施の形態1及び2では、マッハ・ツェンダー型の干渉計を使って説明したが、2つの光路を横ずらししたシェアリング干渉計を構成できる干渉計で、且つ、光路差補償部材を設置できるものであれば、どのようなタイプの干渉計にもこの発明を適用することができる。
この他、この発明の波面センサは、レーザビーム制御用の波面計測に適用することもできる。
さらに、この発明は、干渉計測面において2つの波面を互いに傾けることにより多数の干渉縞を形成して波面計測を行う方法にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の実施の形態1に係る波面センサの構成を示す図である。
【図2】波面が干渉計測面に至る状態を示す図である。
【図3】波面が第1の光路差補償部材を透過する状態を示す図である。
【図4】波面が第2の光路差補償部材を透過する状態を示す図である。
【図5】実施の形態1に係る波面センサにおいて被測定光波面の入射角度を一次元的に変化させたときの光路差をシミュレートした結果を示すグラフである。
【図6】図5の縦軸を拡大したグラフである。
【図7】実施の形態1に係る波面センサにおいて被測定光波面の入射角度を二次元的に変化させたときの光路差をシミュレートした結果を示すグラフである。
【図8】実施の形態2に係る波面センサの構成を示す図である。
【図9】この発明の波面センサを眼球光学系の収差計測に適用した状態を示す図である。
【図10】この発明の波面センサを光学素子の収差計測に適用した状態を示す図である。
【図11】この発明の波面センサを光学素子の収差計測に適用した状態を示す図である。
【図12】この発明の波面センサを光学素子の収差計測に適用した状態を示す図である。
【図13】この発明の波面センサを光源の品質検査に適用した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
3,6 半透鏡、4 第1の平面鏡、5 第2の平面鏡、7 第1の光路差補償部材、8 第2の光路差補償部材、9,9a 光検出器、10 波面計測部、11 移動装置、18 照明用光源、18a 外部光源、19 眼球、20 波面センサ、21〜23 光学素子、24 光源、7a,8a 結像レンズ、7b,8b コリメータレンズ、P 入射瞳、L1 第1の光路、L2 第2の光路、W1,W2,W1’,W2’ 波面、M,Ma 干渉計測面、G1,G2,G1a,G2a 瞳像、S シェアリング量、θ 被測定光波面の入射角度、φ 光路差補償部の傾斜角度、A,B,C 光路差。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定光波面を2つの光路に分岐して互いに位置をずらし、これらの波面を再度混合させて干渉計測面に形成された干渉縞から被測定光波面の形状を測定する波面センサにおいて、
前記2つの光路に分岐された波面をそれぞれ一旦結像させて再度コリメートすることにより被測定光波面の入射角度に依存して発生する光路差を除去するための光路差補償部材を前記2つの光路上にそれぞれ配置し、前記2つの光路における干渉計測面までの伝播光路差が被測定光波面の入射角度に関わらずに一定となるようにしたことを特徴とする波面センサ。
【請求項2】
それぞれの前記光路差補償部材は、対応する光路に対して所定角度だけ傾斜して配置されたレンズを有し、
前記2つの光路に対して前記レンズが互いに逆方向に傾斜するように双方の前記光路差補償部材が配置される請求項1に記載の波面センサ。
【請求項3】
それぞれの前記光路差補償部材は、結像レンズとコリメータレンズとを有する請求項2に記載の波面センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−150813(P2009−150813A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330023(P2007−330023)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【Fターム(参考)】