説明

注入管及びグラウト注入方法

【課題】 改良対象地盤内に流体を注入する際、薬剤が地上へ漏出することを防止し、従来の注入一工程毎に注入管をステップアップする作業工程等を繰り返す必要がなく、吐出口を注入管の長手方向の任意の間隔で複数個配設した場合においても、流体がどの吐出口からも外周の全方位へ面状状態で吐出して、流体を短時間で効率的に改良対象地盤内に注入することができ、流体の注入施工時間が飛躍的に短縮される、注入管及びこの注入管を用いたグラウト注入方法を提供する。
【解決手段】 外管の外周面には、外管流路と連通し、かつ環状弾性体を用いることなく構成された、第一の環状スリット吐出口5と、内管流路と連通し、環状弾性体を用いることなく構成された、かつ複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6とを、長手方向の任意の間隔で配設した注入管1などにより、課題を達成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良及び土壌改良に使用することが可能である注入管及びこの注入管を用いたグラウト注入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
わが国は、地盤条件の悪い軟弱地盤が多いため、たとえ軟弱地盤の上であっても建設工事をやむなく行なわなければならない場合が少なくなく、近年では、特に、耐震対策としての砂質地盤の液状化防止対策が重要視されている。また、平成7年の阪神・淡路大震災を契機に、耐震基準が改訂され、既存構造物の直下やその付近の液状化対策なども緊急の課題とされている。
【0003】
液状化対策としては、例えば、a.締固めにより砂地盤の密度を増大させるサンドコンパクションパイル工法、振動棒工法、重錘落下締固め工法等、b.セメント、薬剤などにより固結させる深層混合処理工法、生石灰パイル工法、注入固化工法、c.液状化しない別の材料に置換する砕石置換方法、d.発生した間隙水圧の消散を図るグラベルドレーン工法、各種ドレーン工法等が挙げられる。
【0004】
ここで、既設構造物の直下やその付近、空頭制限のある場所などのような大型施工機械を使用することができない施工条件下における液状化対策としては、注入固化工法が最適である。
【0005】
注入固化工法で使用される薬剤(グラウト剤)は、対象地盤が砂質土であるという関係上、砂質土層の土粒子間の間隙部(間隙水)に浸透し易い性質が要求されるため、現在使用されている薬剤は、第一に水溶液型であること、第二に粘性が低く浸透性が高いこと、第三に浸透範囲を延ばすため緩結性であること、第四に硬化薬剤を使用する場合には超微粒子であること、第五に注入された材料が劣化せずに恒久性であること等の性質を備えている。
【0006】
上述した性質を備えた薬剤を、改良対象地盤としての砂質土へ浸透注入することにより改良対象地盤を固化する方法としては、概ね、イ)特許文献1に示されたダブルパッカー工法、ロ)浸透固化処理工法、ハ)特許文献2に示された超多点注入工法、ニ)多段マルチパッカー工法などが挙げられる。
【0007】
イ)ダブルパッカー工法は、(1)φ100mm前後のケーシングを用いて所定深度まで削孔した後、(2)注入パイプを挿入してシールグラウトを孔内へ充填し、(3)孔内へ環状ゴムに覆われた吐出口を有する注入用外管を挿入して外管を建て込んで、ケーシングを引き抜き、(4)外管の中ヘパッカーつきの内管を挿入した後、一次注入(CB液)を行って地盤の均一化を図り、(5)一次注入完了後、内管のパッカーを膨張させ、内管から外管を介し、浸透注入(二次注入:毎分5〜10リットル)を行う。
【0008】
ロ)浸透固化処理工法は、(1)φ100mm前後のケーシングを用いて所定深度まで削孔した後、(2)特殊ストレーナ及び布製スリーブパッカーを装着した注入用外管を孔内に建て込んで、ケーシングを引き抜き、(3)布製スリープ膨潤・パッカーを形成した後、管内ヘダブルパッカーを装着した吐出口を有する注入装置を挿入し、(4)特殊ストレーナ部から注入(毎分5〜15リットル)する。
【0009】
ハ)超多点注入工法は、(1)φ100mm前後のケーシングを用いて所定深度まで削孔した後、(2)注入パイプを挿入し、シール剤を孔内へ注入して、ケーシングを引き抜き、(3)注入深度を夫々変えた細い多点注入用ホース(10本程度)束を孔内へ挿入し、(4)前記(1)〜(3)の手順を繰り返して多点注入用ホース束を設置し、(5)1ポイント毎分2〜4リットルの注入速度で、1ユニット32連ポイントの同時注入を行う。
【0010】
ニ)多段マルチパッカー工法は、(1)ケーシングを用いて所定深度まで削孔した後、(2)特殊注入パッカーとストレーナ構造の多段式注入孔を有する注入管を建て込んで、ケーシングを引き抜き、(3)パッカー注入剤を注入し、外周布地から外部地盤にパッカー注入剤が浸透して、シール効果を保持した後、(4)超微粒子系グラウト剤を用い、毎分20〜30リットルの注入速度で浸透注入を図る。
【特許文献1】特開平9−111747号公報
【特許文献2】特開平7−300849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、改良対象地盤内へ注入した時点では、薬剤は、非硬化状態であって、注入管に設けられた吐出口から逸走して地上に漏出しやすいため、上述したいずれの方法も、薬剤を改良対象地盤内へ注入する時点で薬剤が地上に漏出することを防止する種々の工夫が必要となる。即ち、上述したいずれの方法も、例えば、本来の目的である改良対象地盤内へ薬剤を注入する作業を行う前に、ケーシングパイプを用いて削孔した後、孔内にシール剤(セメント・ベントナイト液)を充填するか又は直接孔内ヘパッカーを装着した注入管若しくは注入ホース等を挿入した後、パッカー効果を保持する必要があるため、作業工程が増加してしまうことから、注入固化工法において、多大な時間と費用がかかることになる。
【0012】
また、上述したいずれの方法も、注入管に設けられた吐出口の形状は、ストレーナの微細穴又は細孔であるため、注入管の軸方向と直角方向の一箇所の数孔又は注入管の軸方向と水平方向の数点という、特定方向のみに薬剤が吐出することから、吐出圧力による薬剤の指向性が限定され、吐出された薬剤の改良対象地盤への受入面積が小さくなり、浸透効率が低く、薬剤を注入するために多くの時間が必要となる。それ故、改良対象地盤への薬剤の受入抵抗、即ち改良対象地盤への浸透速度は、薬剤の性質、土質条件はもちろんのこと、改良対象地盤への薬剤の受入面積、注入手段である注入管に設けられた吐出口の構造及び面積も重要な要素となる。即ち、従来用いられている注入管の吐出口は、いずれも特定の一方向であり、吐出口付近に存在する改良対象地盤への薬剤の受入面積が少ないため、吐出口1箇所当りの浸透速度も必然的に小さくなり、薬剤の注入施工時間がどうしても多くなってしまうという問題点がある。
【0013】
一方、注入管の吐出口を注入管の長手方向の任意の間隔で複数個配設した場合には、上方の吐出口と下方の吐出口とでは圧力が均等にならないため、上方の吐出口から吐出される流体(薬剤、圧縮空気など)の吐出量と下方の吐出口から吐出される流体の吐出量はかなり大きな違いが生じ、すべての注入管の吐出口から均等に外周の全方位へ面状状態で吐出しなくなるという問題点があり、注入管の吐出口がゴムなどの弾性体を用いて構成されているときは、一カ所の吐出口から流体が吐出すると、弾性体を押し広げる力によって圧力が抜けた状態となり、流体を吐出した吐出口より下方に位置する吐出口の圧力は急激に低下するため、流体を吐出することが不可能になるという重大な問題点がある。それ故、従来は、注入一工程毎に注入管をステップアップする作業工程又はパッカー形成後に注入する作業工程を繰り返して行う必要があった。
【0014】
本発明の目的とするところは、改良対象地盤内に流体(薬剤、圧縮空気など)を注入する際、薬剤が地上へ漏出することを防止して、例えば、注入固化工法における時間及び費用の節約が可能となり、従来の注入一工程毎に注入管をステップアップする作業工程又はパッカー形成後に注入する作業工程を繰り返す必要がなく、吐出口を注入管の長手方向の任意の間隔で複数個配設した場合においても、流体がどの吐出口からも外周の全方位へ面状状態で吐出して、流体を短時間で効率的に改良対象地盤内に注入することができ、流体の注入施工時間が飛躍的に短縮される、注入管及びこの注入管を用いたグラウト注入方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
注入管の吐出口から薬剤を改良対象地盤内に注入する場合、注入管の吐出口から吐出する薬剤の単位時間当たりの吐出量は、薬剤の改良対象地盤内への浸透速度によって制限されることになるが、本発明の発明者は、薬剤の改良対象地盤内への受入面積を増大させることにより、薬剤の改良対象地盤内への浸透速度が増加し、注入管の吐出口から吐出する薬剤の単位時間当たりの吐出量が従来の数倍となることに着目し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明の注入管は、外管と内管を同心状に配列した注入部材と、該注入部材の先端に設置した無水用掘削刃とを備えた注入管であって、前記外管の外周面には、前記外管の内側と前記内管の外側とから形成される外管流路と連通し、かつ環状弾性体を用いることなく構成された、第一の環状スリット吐出口と、前記内管の内側に形成される内管流路と連通し、かつ環状弾性体を用いることなく構成された、複数個の第二の環状スリット吐出口とを、前記注入管の長手方向の任意の間隔で配設したことを特徴とする。
【0017】
本発明の注入管において、前記第一の環状スリット吐出口は、前記外管流路の先端と接続し、前記外管流路の先端より下方に配置される複数の導入管と、該複数の導入管の各々と接続する複数の第一の接続通路と、該複数の第一の接続通路のすべてと接続する一つの第一の環状空隙部とを介して、前記外管流路と連通する構成を採用することができる。
【0018】
本発明の注入管において、前記第二の環状スリット吐出口は、前記内管流路の外周面に配置された複数の第二の接続通路と、該複数の第二の接続通路のすべてと接続する一つの第二の環状空隙部とを介して、前記内管流路と連通する構成を採用することができる。
【0019】
本発明の第一のグラウト注入方法は、前記注入管を用いて無水状態で改良対象地盤内の所定深度まで穿孔した後、前記複数個の第二の環状スリット吐出口から同時にグラウト剤を前記注入管の外周の全方位へ面状状態で吐出することを特徴とする。
【0020】
また、吐出圧力をもってグラウト剤を改良対象地盤内に浸透させる場合において、改良対象地盤中の地下水(間隙水)をグラウト剤で押し出して排除しつつ、間隙水とグラウト剤とを置換するグラウト注入方法では、グラウト剤を改良対象地盤中の土粒子間に浸透させる際、地下水(土粒子間の間隙水)によるグラウト剤の受入抵抗(浸透抵抗)が発生するため、このグラウト剤の受入抵抗によってグラウト剤の改良対象地盤内への浸透速度が制限されるが、本発明の発明者は、グラウト剤の代わりに圧縮空気を用いたとしても、間隙水を排除することが可能であることに着眼し、改良対象地盤内からグラウト剤の受入抵抗の発生原因となる間隙水を圧縮空気を用いて排除した後、改良対象地盤内にグラウト剤を注入することにより、改良対象地盤内のグラウト剤の受入抵抗がより低下し、その結果、改良対象地盤内へのグラウト剤の浸透速度がより増加して、改良対象地盤中にグラウト剤をより効率的に浸透注入させることができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
即ち、本発明の第二のグラウト注入方法は、外管と内管を同心状に配列した注入部材と、該注入部材の先端に設置した無水用掘削刃とを備え、該外管の外周面には、該外管の内側と該内管の外側とから形成される外管流路と連通し、かつ環状弾性体を用いることなく構成された、第一の環状スリット吐出口と、該内管の内側に形成される内管流路と連通し、かつ環状弾性体を用いることなく構成された、複数個の第二の環状スリット吐出口とを、長手方向の任意の間隔で配設した注入管を用いたグラウト注入方法であって、前記注入管を用いて無水状態で改良対象地盤内の所定深度まで穿孔した後、前記注入部材と外周地盤とが密着した状態で、前記内管流路に圧縮空気を送り込み、前記複数個の第二の環状スリット吐出口から同時に圧縮空気を前記注入管の外周の全方位へ面状状態で吐出して、改良対象地盤中の間隙水を該圧縮空気により押し出して排出し、その後、前記外管流路に圧縮空気を送り込み、前記第一の環状スリット吐出口から圧縮空気を前記注入管の外周の全方位へ面状状態で吐出すると共に、前記内管流路にグラウト剤を送り込み、前記複数個の第二の環状スリット吐出口から同時にグラウト剤を前記注入管の外周の全方位へ面状状態で吐出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の注入管を用い、例えば、注入管に設けられた第一の環状スリット吐出口から圧縮空気を吐出させると共に、注入管に設けられた複数個の第二の環状スリット吐出口から薬剤を改良対象地盤内に浸透注入した場合には、注入管に設けられた第一の環状スリット吐出口の外周の全方位にエアーカーテンが形成され、注入管に設けられた複数個の第二の環状スリット吐出口から吐出された薬剤が注入管に設けられた第一の環状スリット吐出口の外周方向から上方に吐出しにくくなり、薬剤の地上への漏出を効果的に防止することができるという利点がある。
【0023】
本発明の注入管を用い、例えば、改良対象地盤内に流体を注入した場合には、注入管の長手方向の任意の間隔に配設した複数個の第二の環状スリット吐出口から同時に注入管の外管の外周の全方位へ面状状態で流体を吐出することができ、この吐出された流体が、吐出圧力をもって、改良対象地盤中の間隙水を押し出しながら、注入管の外周方向の全方位へ波紋状に拡散し、注入管の軸方向と垂直方向のみならず、注入管の軸方向と水平方向へ立体的に拡大していくため、従来実現できなかった、同一時間内の注入管に対する立体的な施工が可能となり、改良対象地盤への流体の受入面積が増加する結果、改良対象地盤内への浸透速度が増大して、流体の注入施工時間として重要な要素となる注入管からの単位時間当たりの流体の吐出量も従来工法の数倍となり、流体を改良対象地盤内に短時間で効率的に注入させることができ、流体の注入施工時間が飛躍的に短縮されるという利点がある。なお、本発明の注入管を用いることにより、従来の仮設用に用いられてきた薬液注入工法のゲルタイムの長い浸透注入においても、薬剤の注入時間を大幅に短縮することができ、より経済的な施工が可能になるという利点もある。
【0024】
本発明の第一のグラウト注入方法を用い、例えば、改良対象地盤内の所定深度まで穿孔した注入管に設けられた複数個の第二の環状スリット吐出口から同時にグラウト剤のみを注入管の外周の全方位へ面状状態で吐出した場合には、グラウト剤が土粒子間の間隙水と置き換わって間隙水を排出しつつ、注入管に設けられた複数個の第二の環状スリット吐出口から同時にグラウト剤が注入管の外周の全方向へ面状状態で吐出していくため、改良対象地盤内のグラウト剤の受入抵抗が低下し、その結果、改良対象地盤内へのグラウト剤の浸透速度が増加して、地下水のある在来地盤に注入する従来の方法と比較し、改良対象地盤内に短時間で効率的にグラウト剤を浸透注入させることができ、グラウト剤の注入施工時間が飛躍的に短縮されるという利点がある。
【0025】
また、本発明の第二のグラウト注入方法を用いることより、改良対象地盤内の所定深度まで穿孔した注入管に設けられた複数個の第二の環状スリット吐出口から同時に注入管の外周の全方位へ面状状態で吐出した圧縮空気が、土粒子間の間隙水と置き換わって間隙水を排出し、グラウト剤の受入抵抗が小さくなった後、注入管に設けられた複数個の第二の環状スリット吐出口から同時にグラウト剤が注入管の外周の全方向へ面状状態で吐出していくため、改良対象地盤内のグラウト剤の受入抵抗がより低下し、その結果、改良対象地盤内へのグラウト剤の浸透速度がより増加して、地下水のある在来地盤に注入する従来の方法と比較し、改良対象地盤内により短時間で効率的にグラウト剤を浸透注入させることができ、グラウト剤の注入施工時間がさらに飛躍的に短縮されるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本発明の注入管1は、注入部材2と、注入部材2の先端に設置した無水用掘削刃7とを備える(図1)。
【0027】
注入部材2は、外管3と内管4とを同心状に配列した二重管構造となっている。注入部材2は、外周面に第一の環状スリット吐出口5を配置した第一の注入部材2aと、第一の注入部材2aの下方に位置し、外周面に複数個の第二の環状スリット吐出口6を配置した第二の注入部材2bとから構成される。なお、注入部材2は、第一の注入部材2aと第二の注入部材2bとを螺着して形成したものであってもよく(図1,図4)、一体形成したものであってもよい。また、第二の注入部材2bは、一個の第二の環状スリット吐出口6を配置した第二の注入部材の一部分2cを二個以上螺着して形成したものであってもよく(図1,図4)、一つの部材に複数個の第二の環状スリット吐出口6を配置して形成したものであってもよい。
【0028】
第一の環状スリット吐出口5は、環状弾性体を用いることなく構成される。第一の環状スリット吐出口5のスリット幅は、例えば、外管3の直径を40mmとした場合には、0.3〜1mmが好ましい。第一の環状スリット吐出口5は、例えば、外管流路3aの先端と接続し、内管4の外周に90度間隔で四方向に配置され、内管4の長手方向に延びる四本の導入管11,11,11,11と、四本の導入管11,11,11,11の各々の下方先端付近から長手方向と垂直に突設した四つの第一の接続通路12,12,12,12と、四つの第一の接続通路12,12,12,12のすべてと接続した一つの第一の環状空隙部13と、第一の環状空隙部13の上端13aとを介して、外管流路3aと連通する(図2(a),同(c))。
【0029】
注入部材2の外管流路3aに、例えば、圧縮空気を圧送すると、圧縮空気は、外管流路3aから、四本の導入管11,11,11,11、四つの第一の接続通路12,12,12,12を経て、一つの第一の環状空隙部13に送られ、第一の環状空隙部13の上端13aと接続された第一の環状スリット吐出口5から注入管1の外周の全方位へ面状状態で吐出し、後述するエアーカーテン5aを形成する。
【0030】
なお、第一の環状空隙部13が存在するため、注入部材2の外管流路3aに圧送した流体は、第一の環状スリット吐出口5から注入管1の外周の全方位へ面状状態5aで吐出するようになる。
【0031】
第二の環状スリット吐出口6も、環状弾性体を用いることなく構成される。第二の環状スリット吐出口6のスリット幅は、例えば、外管3の直径を40mmとした場合には、0.3〜1mmが好ましい。第二の環状スリット吐出口6は、例えば、内管4と接続し、内管4の外周面に90度間隔で配置され、内管4の軸方向と垂直方向へ延びる四つの第二の接続通路21,21,21,21と、四つの第二の接続通路21,21,21,21のすべてと接続する一つの第二の環状空隙部22と、第二の環状空隙部22の下端22aとを介して、内管流路4aと連通する(図3(a),同(c))。
【0032】
注入部材2の内管流路4aに流体を圧送すると、流体は、内管流路4aから、四つの第二の接続通路21,21,21,21を経て、一つの第二の環状空隙部22に送られ、第二の環状空隙部22の下端22aと接続された第二の環状スリット吐出口6から注入管1の外周の全方位へ面状状態6aで吐出する。
【0033】
なお、例えば、複数個の第二の環状空隙部22,22,22,22,22が存在するため、注入部材2の内管流路4aに圧送した流体は、複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6の各々から同時に、注入管1の外周の全方位へ面状状態6a,6a,6a,6a,6aで吐出するようになる。
【0034】
注入管1を用いて改良対象地盤内に注入する流体としては、特に限定されないが、例えば、グラウト剤、中和剤、圧縮空気などが挙げられ、グラウト剤、圧縮空気が好ましい。
【0035】
なお、注入管1を用いて流体を改良対象地盤内に注入するためには、例えば、図7に示すような、ボーリングマシン31、注入管理装置32、グラウトミキサー33、グラウトポンプ34、注入流量・圧力記録計35、コンプレッサー36及び発電機37を備えた流体注入システム30を注入管1に接続する必要がある。
【0036】
本発明の第一のグラウト注入方法は、例えば、注入管1を用いて無水状態で改良対象地盤内の所定深度まで穿孔した後、複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6の各々から同時にグラウト剤を注入管1の外周の全方位へ面状状態6a,6a,6a,6a,6aで吐出するものである。
【0037】
本発明の第一のグラウト注入方法では、ボーリングマシン31を用いて改良対象地盤内の所定深度まで直接削孔して、注入管1を改良対象地盤内に設置した後、例えば、注入管1の内管流路4aにグラウト剤を圧送して、グラウト剤を注入管1に設けられた複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6の各々から同時に注入管1の外周の全方位へ面状状態6a,6a,6a,6a,6aで吐出する(図5)。このとき、複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6の各々から同時に吐出されたグラウト剤は、改良対象地盤中の間隙水を押し出しながらグラウト剤と間隙水が置換されつつ、グラウト剤が浸透注入されるため、従来の方法よりグラウト剤を効率的に改良対象地盤内に浸透注入させることが可能となる。これと同時に、例えば、注入管1の外管流路3aに圧縮空気を圧送して、圧縮空気を注入管1に設けられた第一の環状スリット吐出口5から注入管1の外周の全方位へ面状状態5aで吐出する(図5)。このとき、注入管1の外周の全方位にエアーカーテン5aが形成される(図5)ため、エアーカーテン5aの下方にある複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6の各々から吐出されたグラウト剤のうち、改良対象地盤内への浸透速度を超えて吐出されたグラウト剤は、複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6から矢示6bの方向に進み、グラウト剤の逸走が発生するが、逸走したグラウト剤は、圧縮空気によるエアーカーテン5aのエアー圧力により、第一の環状スリット吐出口5の外周方向から上方への逸走が遮断され(図5)、地上への漏出が効果的に防止される。
【0038】
注入管1に接続する注入管理装置32としては、例えば、圧縮空気の流路に接続された配管部分に、圧縮空気のフィルタ、減圧弁制御用ハンドル及び圧力計が装着された、一体型のフィルタレギュレータを接続し、フィルタレギュレータの一端に、圧縮空気の単位時間当たりの吐出風量が制御可能となるコントローラを接続して、更にコントローラの吐出側に圧縮空気の単位時間当たりの吐出風量を感知するセンサーヘッドと、圧縮空気の単位時間当たりの吐出風量の数値及び積算吐出風量の数値をデジタル表示するデジタルアンプを装備した圧縮空気管理装置と、圧縮空気管理装置より上流の配管部分に、流路切替弁、コック及び切替ハンドルが一体となった流路切替部材を必要個数取り付け、グラウト剤の流路に接続された配管部分を接続して連通させ、注入管1の内管流路4aに圧送する圧縮空気とグラウト剤の切替がハンドル操作により可能となる流路切替装置を配備したものが挙げられるが、注入管1の環状スリット吐出口6への吐出圧力並びに注入管1の環状スリット吐出口6から吐出する流体の単位時間当たりの吐出量の制御を可能にすると共に、注入管1の内管流路4aに圧送する流体を切替可能とするものであれば、特に限定されない。
【0039】
グラウト剤の注入施工の際は、例えば、複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6の各々におけるグラウト剤の吐出圧力及び単位時間当たりのグラウト剤の吐出量を注入流量圧力記録計で確認しつつ、第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6の各々におけるグラウト剤の吐出圧力及び単位時間当たりのグラウト剤の吐出量に応じ、注入管理装置32の圧力制御ハンドル及びスピードコントローラ等を操作して、第一の環状スリット吐出口5における圧縮空気の最適な吐出圧力及び単位時間当たりの圧縮空気吐出量を調整する。
【0040】
なお、流路切替装置の流路切替ハンドルを操作することにより、注入管1の内管流路4aにも圧縮空気を圧送することもできるため、例えば、注入管1に設けられた複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6の各々から同時に圧縮空気を注入管1の外周の全方位へ面状状態6a,6a,6a,6a,6aで吐出させることも可能である。
【0041】
本発明の第二のグラウト注入方法は、例えば、注入管1を用いて無水状態で改良対象地盤内の所定深度まで穿孔した後、注入部材2と外周地盤とが密着した状態で、内管流路4aに圧縮空気を送り込み、複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6の各々から同時に圧縮空気を注入管1の外周の全方位へ面状状態6a,6a,6a,6a,6aで吐出して、改良対象地盤中の間隙水を圧縮空気により押し出して排出し、その後、外管流路3aに圧縮空気を送り込み、第一の環状スリット吐出口5から圧縮空気を注入管1の外周の全方位へ面状状態5aで吐出すると共に、内管流路4aにグラウト剤を送り込み、複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6の各々から同時にグラウト剤を注入管1の外周の全方位へ面状状態6a,6a,6a,6a,6aで吐出するものである。
【0042】
本発明の第二のグラウト注入方法では、まず、ボーリングマシン31を用いて改良対象地盤内の所定深度まで直接削孔して、注入管1を改良対象地盤内に設置した後、注入部材2と外周地盤とが密着した状態で、注入管1に接続した上述の注入管理装置32に配備された流路切替装置のハンドルを切り替える操作を行い、例えば、注入管1の内管流路4aに圧縮空気を圧送して、圧縮空気を注入管1に設けられた複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6の各々から同時に注入管1の外周の全方位へ面状状態6a,6a,6a,6a,6aで吐出する(図6(a))。このとき、注入管1に設けられた複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6の各々から同時に吐出された圧縮空気は、改良対象地盤内の間隙水を押し出して排出するため、改良対象地盤内の間隙水が少なくなり、グラウト剤の受入抵抗が小さくなる(図6(b))。
【0043】
その後、圧縮空気の内管流路4aへの送気弁を閉鎖してから、流路切替装置のハンドルを切り替える操作を行い、例えば、注入管1の内管流路4aにグラウト剤を送圧して、グラウト剤を複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6の各々から同時に注入管の外周の全方位へ面状状態6a,6a,6a,6a,6aで吐出する(図6(c))。これにより、グラウト剤の受入抵抗が小さくなった改良対象地盤内へグラウト剤が注入されるため、浸透速度の増加が図られ、地下水のある在来地盤に注入する従来の方法よりグラウト剤をさらに効率的に改良対象地盤内に浸透注入させることが可能となる。
【0044】
これと同時に、例えば、注入管1の外管流路3aに圧縮空気を圧送して、圧縮空気を第一の環状スリット吐出口5から注入管1の外周の全方位へ面状状態5aで吐出する(図6(c))。これにより、第一の環状スリット吐出口5から吐出された圧縮空気はエアーカーテン5aを形成する(図6(c))ため、エアーカーテン5aの下方にある複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6の各々から吐出されたグラウト剤のうち、改良対象地盤内への浸透速度を超えて吐出されたグラウト剤は、複数個の第二の環状スリット吐出口6,6,6,6,6から矢示6bの方向に進み、グラウト剤の逸走が発生するが、逸走したグラウト剤は、圧縮空気によるエアーカーテン5aのエアー圧力により、第一の環状スリット吐出口5の外周方向から上方への逸走が遮断され(図6(c))、第一の環状スリット吐出口5から上方に逸走しにくくなり、地上への漏出が効果的に防止される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の注入管及びこの注入管を用いたグラウト注入方法は、例えば、耐震対策としての砂質地盤の液状化防止対策、公害対策としての汚染土壌の改良、恒久性・高強度が必要とされる既設構造物の直下やその付近の基礎地盤の改良、既設護岸・岸壁の荷役施設・擁壁等の基礎地盤の改良及び大型施工機械の使用が不可能な場所の地盤改良などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の注入管の一実施形態の概略を示す斜視図である。
【図2】(a)本発明の注入管に用いる第一の注入部材の一例の概略を示す斜視図、(b)同第一の注入部材のA−A面の断面図、(c)同第一の注入部材のB−B面の断面図である。
【図3】(a)本発明の注入管に用いる第二の注入部材の一例の概略を示す斜視図、(b)同第二の注入部材のC−C面の断面図、(c)同第二の注入部材のD−D面の断面図である。
【図4】本発明の注入管の他の一実施形態の一部を分解した様子を示す斜視図である。
【図5】本発明の第一のグラウト注入方法を実施した場合における注入の形態の一態様を説明する図である。
【図6】本発明の第二のグラウト注入方法を実施した場合において、(a)第二の環状スリット吐出口から同時に圧縮空気を吐出する時点における形態の一態様を説明する概略図、(b)第二の環状スリット吐出口から圧縮空気を吐出し終わった時点における形態の一態様を説明する概略図、(c)第二の環状スリット吐出口から同時にグラウト剤を吐出する時点における形態の一態様を説明する概略図である。
【図7】本発明の注入管に接続する注入運用システムの一例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0047】
1 注入管
2 注入部材
2a 第一の注入部材
2b 複数個の第二の注入部材
2c 第二の注入部材の一部分
3 外管
3a 外管流路
4 内管
4a 内管流路
5 第一の環状スリット吐出口
5a エアーカーテン(面状状態)
6 第二の環状スリット吐出口
6a 面状状態
7 無水用掘削刃
11 導入管
12 第一の接続通路
13 第一の環状空隙部
13a 第一の環状空隙部の上端
21 第二の接続通路
22 第二の環状空隙部
22a 第二の環状空隙部の下端
30 流体注入システム
31 ボーリングマシン
32 注入管理装置
33 グラウトミキサー
34 グラウトポンプ
35 注入流量・圧力記録計
36 コンプレッサー
37 発電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外管と内管を同心状に配列した注入部材と、該注入部材の先端に設置した無水用掘削刃とを備えた注入管であって、
前記外管の外周面には、前記外管の内側と前記内管の外側とから形成される外管流路と連通し、かつ環状弾性体を用いることなく構成された、第一の環状スリット吐出口と、前記内管の内側に形成される内管流路と連通し、かつ環状弾性体を用いることなく構成された、複数個の第二の環状スリット吐出口とを、前記注入管の長手方向の任意の間隔で配設したことを特徴とする注入管。
【請求項2】
前記第一の環状スリット吐出口は、前記外管流路の先端と接続し、前記外管流路の先端より下方に配置される複数の導入管と、該複数の導入管の各々と接続する複数の第一の接続通路と、該複数の第一の接続通路のすべてと接続する一つの第一の環状空隙部とを介して、前記外管流路と連通することを特徴とする請求項1に記載の注入管。
【請求項3】
前記第二の環状スリット吐出口は、前記内管流路の外周面に配置された複数の第二の接続通路と、該複数の第二の接続通路のすべてと接続する一つの第二の環状空隙部とを介して、前記内管流路と連通することを特徴とする請求項1又は2に記載の注入管。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の注入管を用いて無水状態で改良対象地盤内の所定深度まで穿孔した後、前記複数個の第二の環状スリット吐出口から同時にグラウト剤を前記注入管の外周の全方位へ面状状態で吐出することを特徴とするグラウト注入方法。
【請求項5】
外管と内管を同心状に配列した注入部材と、該注入部材の先端に設置した無水用掘削刃とを備え、該外管の外周面には、該外管の内側と該内管の外側とから形成される外管流路と連通し、かつ環状弾性体を用いることなく構成された、第一の環状スリット吐出口と、該内管の内側に形成される内管流路と連通し、かつ環状弾性体を用いることなく構成された、複数個の第二の環状スリット吐出口とを、長手方向の任意の間隔で配設した注入管を用いたグラウト注入方法であって、
前記注入管を用いて無水状態で改良対象地盤内の所定深度まで穿孔した後、前記注入部材と外周地盤とが密着した状態で、前記内管流路に圧縮空気を送り込み、前記複数個の第二の環状スリット吐出口から同時に圧縮空気を前記注入管の外周の全方位へ面状状態で吐出して、改良対象地盤中の間隙水を該圧縮空気により押し出して排出し、
その後、前記外管流路に圧縮空気を送り込み、前記第一の環状スリット吐出口から圧縮空気を前記注入管の外周の全方位へ面状状態で吐出すると共に、前記内管流路にグラウト剤を送り込み、前記複数個の第二の環状スリット吐出口から同時にグラウト剤を前記注入管の外周の全方位へ面状状態で吐出することを特徴とするグラウト注入方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−169546(P2008−169546A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−840(P2007−840)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(306034664)三和地下工事株式会社 (4)
【出願人】(507006651)
【Fターム(参考)】