説明

洗剤で使用される改変された正味の特性を有する複数置換プロテアーゼ変異体

【課題】天然に生じるまたは組換え非ヒトプロテアーゼのDNA配列に由来する新規プロテアーゼ変異体を開示する。
【解決手段】変異体プロテアーゼは、一般には、天然に生じるまたは組換えプロテアーゼをコードする前駆体DNA配列をイン・ビトロ修飾して、前駆体プロテアーゼのアミノ酸配列中に複数のアミノ酸残基の置換を生じさせることによって得られる。置換がその位置の電荷を前駆体プロテアーゼと比較してより負にまたはより少ない正にして、かくして、プロテアーゼ変異体が前駆体プロテアーゼよりも低い洗剤濃度系でより効果的であるように、1以上の残基位置におけるアミノ酸置換を有するプロテアーゼ変異体を提供する。また、置換がその位置の電荷を前駆体プロテアーゼと比較してより正にまたはより少ない負にして、かくして、プロテアーゼ変異体が前駆体プロテアーゼよりも高い洗剤濃度系でより効果的であるように、1以上の残基位置におけるアミノ酸置換を有するプロテアーゼ変異体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、ここに引用して本明細書に一体化させる1998年10月23日に出願された米国特許出願第08/956,323号、1998年10月23日に出願された米国特許出願第08/956,564号、および1998年10月23日に出願された米国特許出願第08/956,324号の一部継続出願である。
【背景技術】
【0002】
セリンプロテアーゼ類はカルボニルヒドロラーゼの亜群である。それらは広い範囲の特異性および生物学的機能を有する多様なクラスの酵素を含む(非特許文献1)。その機能的多様性にも拘わらず、セリンプロテアーゼの触媒装置は、少なくとも2つの酵素の遺伝的に区別されるファミリー;1)スブチリシンおよび2)哺乳動物キモトリプシン−関連および相同細菌セリンプロテアーゼ(例えば、トリプシンおよびS. gresius トリプシン)によってアプローチされてきた。セリンプロテアーゼのこれらの2つのファミリーは、触媒の顕著に似たメカニズムを示す(非特許文献2)。 さらに、一次構造は関連しないが、これらの2つの酵素ファミリーの三次構造は、セリン、ヒスチジンおよびアスパルテートよりなるアミノ酸の保存された触媒トリアドを一緒にする。
【0003】
スブチリシンは、かなり種々のBacillus種および他の微生物から大量に分泌されるセリンプロテアーゼ(ほぼMW27,500)である。スブチリシンの蛋白質配列は、Bacillusの少なくとも9つの異なる種から決定されてきた(非特許文献3)。Bacillus amyloliquefaciens, Bacillus licheniformisおよびB. lentusのいくつかの天然変異体からのスブチリシンの三次元結晶学構造が報告されている。これらの研究は、スブチリシンは哺乳動物セリンプロテアーゼと遺伝的には無関係であるが、それは同様の活性部位構造を有する。スブチリシンを含有する共有結合したペプチド阻害剤(非特許文献4)または生産された複合体(非特許文献5)のX−線結晶構造は、スブチリシンの活性部位および推定基質結合裂け目に関する情報を提供してきた。加えて、非常に多数の速度論および化学的修飾研究がスブチリシンにつき報告されており;非特許文献6;非特許文献3(前掲)、ならびに、スブチリシンの残基222におけるメチオニンの側鎖が過酸化水素によってメチオニンスルホキシドに変換され(非特許文献7)、広範な部位−特異的突然変異誘発が行われた(非特許文献8)という少なくとも1つの報告がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Stroud.R. Sci.Amer., 131:74-88
【非特許文献2】Kraut, J. (1977), Annu. Rev. Biochem., 46:331-358
【非特許文献3】Markland, F.S.ら (1983),Hoppe-Seyler’s Z. Physiol. Chem. 364:1537-1540
【非特許文献4】Robertus, J.D.ら (1972), Biochemistry, 11:2439-2449
【非特許文献5】Robertus, J. D.ら, (1976), J. Biol. Chem., 251:1097-1103
【非特許文献6】Svendsen, B. (1976), Carisbera Res. Commun., 41:237-291
【非特許文献7】Stauffer, D.C.ら (1965), J. Biol. Chem. 244:5333-5338
【非特許文献8】WellsおよびEstell (1988) TIBS 13:291-297
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
洗剤組成物で使用されるプロテアーゼ変異体の開発における通常の論点は、プロテアーゼ変異体が使用される種々の洗剤組成物を含めた洗剤条件である。例えば、異なる領域で使用される洗剤処方は、洗浄水に存在するそれらの関連成分の異なる濃度を有する。例えば、欧州洗剤システムは、典型的には、洗浄水における約4500−5000ppmの洗剤成分を有し、他方、日本洗剤システムは、典型的には、洗浄水中にほぼ667ppmの洗剤成分を有する。北米においては、特に米国においては、洗剤システムは、典型的には、洗浄水中に存在する約975ppmの洗剤成分を有する。驚くべきことに、低い洗剤濃度系、高い洗剤濃度系、および/または中程度の洗剤濃度系で使用されるならびに全ての3つのタイプの洗剤濃度で使用されるプロテアーゼ変異体を合理的にデザインする方法が開発された。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1以上の残基位置のアミノ酸の置換が前駆体プロテアーゼと比較して、その位置における電荷がより負にまたはより少ない正になるように改変し、かくして、プロテアーゼ変異体が前駆体プロテアーゼよりも低い洗剤濃度系でより効果的であるように、該置換を含有するプロテアーゼ変異体を提供するのが本発明の目的である。低い洗剤濃度系は、洗浄水中に存在する約800ppm未満の洗浄成分を有する洗浄系である。
【0007】
1以上の残基位置のアミノ酸の置換が前駆体プロテアーゼと比較して、その位置における電荷がより正にまたはより少ない負になるように改変し、かくして、プロテアーゼ変異体が前駆体プロテアーゼよりも高い洗剤濃度系でより効果的であるように、該置換を含有するプロテアーゼ変異体を提供するのが本発明のもう1つの目的である。高い洗剤濃度系は、洗浄水中に存在する約2000ppmより大の洗浄成分を有する洗浄系である。
【0008】
1以上の残基位置のアミノ酸の置換が前駆体プロテアーゼと比較して、その位置における電荷がより正にまたはより少ない負になるように改変し、かくして、プロテアーゼ変異体が前駆体プロテアーゼよりも中程度の洗剤濃度系でより効果的であるように、該置換を含有するプロテアーゼ変異体を提供するのが本発明のもう1つの目的である。中程度の洗剤濃度系は、洗浄水中に存在する約800ppmおよび約2000ppmの間の洗浄成分を有する系である。
【0009】
1以上の残基位置のアミノ酸の置換が前駆体プロテアーゼと比較して、その位置における電荷がより負にまたはより少ない正になるように改変し、かくして、プロテアーゼ変異体が前駆体プロテアーゼよりも中程度の洗剤濃度系でより効果的であるように、該置換を含有するプロテアーゼ変異体を提供するのが本発明のもう1つの目的である。中程度の洗剤濃度系は、洗浄水中に存在する約800ppmおよび約2000ppmの間の洗浄成分を有する系である。
【0010】
かかるプロテアーゼ変異体をコードするDNA配列、ならびにかかるDNA配列を含有する発現ベクターを提供するのがさらなる目的である。
【0011】
かかるベクターで形質転換した宿主細胞、ならびにかかるDNAを発現して、プロテアーゼ変異体を細胞内または細胞外で生産することができる宿主細胞を提供するのがなおさらなるもう1つの目的である。
【0012】
さらに、本発明のプロテアーゼ変異体を含む洗浄組成物が提供される。
【0013】
加えて、本発明のプロテアーゼ変異体を含む動物飼料が提供される。
【0014】
また、本発明のプロテアーゼ変異体を含むテキスタイルの処理用の組成物が提供される。
【0015】
さらに、a)1以上の残基位置でアミノ酸を置換し、ここで、該置換は、その位置における電荷を、前駆体プロテアーゼと比較して、より正にまたはより少ない負になるように改変し;
b)1以上の残基位置でアミノ酸を置換し、ここで、該置換は、その位置における電荷を、前駆体プロテアーゼと比較して、より負にまたはより少ない正になるように改変し;
c)該変異体をテストして、前駆体プロテアーゼと比較して、高い、中程度および低い洗剤濃度系でのその有効性を測定し;次いで、
d)前駆体プロテアーゼよりも低い、中程度および高い洗剤濃度系でより効果的なプロテアーゼ変異体を生じさせるのに必要なだけ工程a)−c)を反復する各工程を含み、ここに、工程a)およびb)はいずれの順序で行うこともできることを特徴とする、前駆体プロテアーゼよりも低い、中程度および高い洗剤濃度でより効果的なプロテアーゼ変異体を生産する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、Bacillus amyloliquefaciens スブチリシンの遺伝子の部分的制限地図を示す。
【図2】Bacillus amyloliquefaciens スブチリシンのDNAおよびアミノ酸配列を示す。
【図3】図2の続きである。
【図4】図3の続きである。
【図5】Bacillus amyloliquefaciens (BPN)およびBacillus lentus(野生型)からのスブチリシンの間での保存されたアミノ酸残基を示す。
【図6】4つのスブチリシンのアミノ酸配列を示す。頂部の線はBacillus amyloliquefaciens スブチリシン(時々はスブチリシンBPNともいう)からのスブチリシンのアミノ酸配列を表す。第2の線はBacillus subtilisからのスブチリシンのアミノ酸配列を示す。第3の線はB. lichenformisからのスブチリシンのアミノ酸配列を示す。第4の線はBacillus lentusからのスブチリシン(PCT WO89/06276ではスブチリシン309ともいう)のアミノ酸配列を示す。記号*はスブチリシンBPNと比較した特異的アミノ酸残基の不存在を示す。
【図7】図6の続きである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
前記したごとく、ある種の地理はある種の洗浄条件を有し、それ自体、異なるタイプの洗剤を使用する。例えば、日本は低い洗剤濃度系を使用し、他方、欧州は高い洗剤濃度系を使用する。前記したごとく、米国は中程度の洗剤濃度系を使用する。我々は、異なるプロテアーゼ変異体がこれらの異なる洗剤処方で最適に実行することを見いだした。しかしながら、これらの観察の結果、全ての3つのタイプの洗剤でよく働くであろうプロテアーゼを見いだすのは不可能であると予測されるであろう。驚くべきことに、これは成立しない。低い洗剤濃度系または高い洗剤濃度系または中程度の洗剤濃度でさえ使用されるプロテアーゼ変異体ならびに全ての3つの洗剤濃度系で働くプロテアーゼ変異体を合理的にデザインする方法が開発された。
【0018】
我々は、低い洗剤濃度系でより効果的なプロテアーゼ変異体を生産するには、正に荷電した残基を負に荷電した残渣または中性残基でおよび/または中性残渣を負に荷電した残基で置き換える必要があることを見いだした。対照的に、我々は、高い洗剤濃度系でより効果的なプロテアーゼ変異体を生産するには、負に荷電した残基を正に荷電したまたは中性の残基でおよび/または中性残基を正に荷電した残基で置き換える必要があることを見いだした。さらに、我々は、低い洗剤濃度系および/または高い洗剤濃度系で有用なプロテアーゼ変異体の多くが中程度の洗剤濃度系で効果的であることを見いだした。これらの効果をバランスすることによって、低い洗剤濃度系、低いおよび中程度の洗剤濃度系、中程度のおよび高い洗剤濃度系、高い洗剤濃度系、または全ての3つの洗剤濃度系でよく働くプロテアーゼ変異体を生産することが可能である。
【0019】
酸性または塩基性機能を持ついずれかのイオン化可能アミノ酸側鎖の静電的荷電が水溶液中で採るのは、pHの関数である。平衡プロセスにおいて酸性残基GluおよびAspは、pH3および6の間の解離によってプロトンを失い、それにより、負の電荷を獲得する。同様に、His、LysおよびArgは、各々、pH5および8、pH8.5および11.5、およびpH11および14の間で、徐々に脱プロトンし、それにより、正の電荷を失う。Tyr OHのプロトンは、pH8.5および11.5の間で解離が増大し、それにより、Tyrは負の電荷を獲得する。カルボキシ末端での解離の範囲はpH1ないし4であり、負の電荷を生じ、アミノ末端ではそれはpH8ないし11であり、正の電荷の喪失を伴う。ここに所与のアミノ酸側鎖についての解離範囲は、多くの蛋白質についての平均値であるが、それらはいくつかの蛋白質における通常ではない構造立体配置によって影響されることが知られている。
【0020】
全ての電荷の累積効果は、蛋白質が所与のpHで正味の正のまたは負の電荷を有するか否かを決定する。正および負の電荷が等しく効果的であり、静電気的に中性の状態を蛋白質に運ぶpHは等電点(pI)と呼ばれる。蛋白質は、pHがシフトする場合、またはイオン化可能側鎖残基を持つアミノ酸が付加されるまたは除去される場合、電荷を喪失するかまたは獲得するであろう。正味の正の電荷の増加は、所与のpHで負に荷電した残基を非荷電または正に荷電した残基で置き換えることによって達成することができ、それは、各々、+1および+2の形式的電気の変化に至る。非荷電側鎖残基を所与のpHでプロトン化された残基で置き換えることによって、形式的電荷は+1となろう。同様に、正味の負の電荷は、正に荷電したまたは非荷電側鎖を観察のpHにおいて負に荷電した側鎖で置き換えることによって増加させることができ、各々、−1および−2だけ負の電荷の形式的増加を獲得する。
【0021】
低い洗剤濃度系は、約800ppm未満の洗剤成分が洗浄水に存在する洗剤を含む。日本の洗剤は、典型的には、低い洗剤濃度系であると考えられる。というのは、それらは洗浄水中の存在するほぼ667ppmの洗剤成分を有するからである。
【0022】
中程度の洗剤濃度は、約800ppmおよび約2000ppmの間の洗剤成分が洗浄水に存在する洗剤を含む。北米洗剤は、一般に、中程度の洗剤濃度であると考えられる。というのは、それらは、洗浄水中に存在するほぼ975ppmの洗剤成分を有するからである。ブラジルは、典型的には、洗浄水に存在するほぼ1500ppmの洗剤成分を有する。
【0023】
高い洗剤濃度系は、約2000ppmより大の洗剤成分が洗浄水に存在する洗剤を含む。欧州の洗剤は、一般に、高い洗剤濃度系であると考えられる。というのは、それらは、洗浄水中にほぼ4500−5000ppmの洗剤成分を有するからである。
【0024】
ラテンアメリカの洗剤は、一般に、高いセッケン泡のホスフェートビルダー洗剤であり、ラテンアメリカで使用される洗剤の範囲は、中程度および高い洗剤濃度双方に入るであろう。というのは、それらは、洗浄水中に1500ppmないし6000ppmの洗剤成分の範囲だからである。前記したごとく、ブラジルは、典型的には、洗浄水中に存在するほぼ1500ppmの洗剤成分を有する。しかしながら、他のラテンアメリカ国に限定されず、他の高いセッケン泡ホスフェートビルダー洗剤地理は、洗浄水中に存在する約6000ppmまでの洗剤成分の高い洗剤濃度系を有し得る。
【0025】
前記に徴すれば、世界中の典型的な洗浄溶液中の洗剤の濃度は、約800ppm未満(「低い洗剤濃度の地理」)、例えば、日本における約667ppmから、約800ppmおよび約2000ppmの間(「中程度の洗剤濃度地理」)、例えば、米国における約975ppmおよびブラジルにおける約1500ppmまで、約2000ppmより大(「高い洗剤濃度地理」)、例えば、欧州における約4500ないし約5000ppmおよび高いセッケン泡ホスフェートビルダー地理における約6000ppmの範囲であることは明らかである。
【0026】
典型的な洗浄溶液の濃度は経験的に決定される。例えば、米国においては、典型的な洗浄マシーンは、約64.4L容量の洗浄容量を保持する。従って、洗浄溶液内で約975ppmの洗剤の濃度を得るためには、約62.79gの洗剤組成物が64.4Lの洗浄溶液に添加されなければならない。この量は、洗浄を入れた測定カップを用いて消費者によって洗浄水に測定される典型的量である。
【0027】
プロテアーゼは、一般的には、蛋白質またはペプチドのペプチド結合を切断するように作用するカルボニルヒドロラーゼである。本明細書で用いるごとく、「プロテアーゼ」は、天然に生じるプロテアーゼまたは組換えプロテアーゼを意味する。天然に生じるプロテアーゼはα−アミノアシルペプチドヒドロラーゼ、ペプチジルアミノ酸ヒドロラーゼ、アシルアミノヒドロラーゼ、セリンカルボキシペプチダーゼ、メタロカルボキシペプチダーゼ、チオールプロテイナーゼ、カルボキシプロテイナーゼおよびメタロプロテイナーゼを含む。セリン、メタロ、チオールおよび酸性プロテアーゼ、ならびにエンドおよびエキソ−プロテアーゼが含まれる。
【0028】
本発明は、変異体のアミノ酸配列がそれに由来する前駆体カルボニルヒドロラーゼと比較して、異なる蛋白質分解活性、安定性、基質特異性、pHプロフィールおよび/または効率特徴を有する天然に生じるカルボニルヒドロラーゼ(プロテアーゼ変異体)であるプロテアーゼ酵素を含む。具体的には、かかるプロテアーゼ変異体は、前駆体プロテアーゼの複数のアミノ酸残基の異なるアミノ酸での置換により生じる、天然では見いだされないアミノ酸配列を有する。前駆体プロテアーゼは天然に生じるプロテアーゼまたは組換えプロテアーゼであり得る。
【0029】
ここに有用なプロテアーゼ変異体は、指名されたアミノ酸残基位置における19の天然に生じるL−アミノ酸のいずれかの置換を含む。かかる置換はいずれかの前駆体スブチリシン(原核生物、真核生物、哺乳動物等)でなすことができる。本出願を通じて、共通の1文字−および3文字暗号によって種々のアミノ酸を引用する。かかる暗号はDale, M.W. (1989), Molecular Genetics of Bacteria, John Wiley & Sons, Ltd., Appendix Bで確認される。
【0030】
ここに有用なプロテアーゼ変異体は、好ましくは、Bacillus subtilisinに由来する。より好ましくは、プロテアーゼ変異体はBacillus lentus subtilisin および/またはsubtilisin309に由来する。
【0031】
スブチリシンは、一般的には、蛋白質またはペプチドのペプチド結合を切断するように作用する細菌または菌類プロテアーゼである。本明細書で用いるごとく、「スブチリシン」は天然に生じるスブチリシンまたは組換えスブチリシンを意味する。一連の天然に生じるスブチリシンは種々の微生物種によって生産され、しばしば分泌されることが知られている。このシリーズのメンバーのアミノ酸配列は全く相同というのではない。しかしながら、このシリーズのスブチリシンは、同一または類似のタイプの蛋白質分解活性を呈する。このクラスのセリンプロテアーゼは、それらをキモトリプシン関連クラスのセリンプロテアーゼから区別する触媒トリアドを規定する共通のアミノ酸配列を保有する。スブチリシンおよびキモトリプシン関連セリンプロテアーゼは、共に、アスパルテート、ヒトチジンおよびセリンを含む触媒トリアドを共に有する。スブチリシン関連プロテアーゼにおいて、アミノ末端からカルボキシ末端に向けて読んだこれらのアミノ酸の相対的順序は、アスパルテート−ヒトチジン−セリンである。キモトリプシン関連プロテアーゼにおいて、しかしながら、相対的順序はヒトチジン−アスパルテート−セリンである。かくして、ここにスブチリシンは、スブチリシン関連プロテアーゼの触媒トリアドを有するセリンプロテアーゼをいう。その例は限定されるものではないが図6および7で確認されるスブチリシンを含む。一般的には、かつ本発明の目的では、プロテアーゼにおけるアミノ酸のナンバリングは、図1−4に提示された成熟Bacillus amyloliquefaciens スブチリシン配列に帰属される番号に対応する。
【0032】
「組換えスブチリシン」または「組換えプロテアーゼ」とは、スブチリシンまたはプロテアーゼをコードするDNA配列が修飾されて、天然に生じるアミノ酸配列における1以上のアミノ酸の置換、欠失または挿入をコードする変異体(または突然変異体)DNA配列を生じるスブチリシンまたはプロテアーゼをいう。かかる修飾を生じる、本明細書に開示されているものと組み合わせることができる適当な方法は米国特許RE34,606号、米国特許第5,204,015号および米国特許第5,185,258号、米国特許第5,700,676号、米国特許第5,801,038号および米国特許第5,763,257号に開示されているものを含む。
【0033】
「非ヒトスブチリシン」およびそれらをコードするDNAは、多くの原核生物および真核生物から得ることができる。原核生物の適当な例は、E. coliまたはPseudomonasのごときグラム陰性生物およびMicrococcusまたはBacillusのごときグラム陽性細菌を含む。スブチリシンおよびそれらの遺伝子がそれから得ることができる真核生物の例はSaccharomyces cerevisiaeのごとき酵母、Aspergillus sp.のごとき菌類を含む。
【0034】
「プロテアーゼ変異体」は、「前駆体プロテアーゼ」のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を有する。前駆体プロテアーゼは天然に生じるプロテアーゼおよび組換えプロテアーゼを含む。プロテアーゼ変異体のアミノ酸配列は、前駆体アミノ酸配列の1以上のアミノ酸の置換、欠失または挿入によって前駆体プロテアーゼアミノ酸配列に「由来」する。かかる修飾は、前駆体プロテアーゼ酵素それ自体の操作よりもむしろ前駆体プロテアーゼのアミノ酸配列をコードする「前駆体DNA配列」のものである。前駆体DNA配列のかかる操作についての適当な方法は、ここに開示される方法、ならびに当業者に知られた方法(例えば、EP 0 328299、WO89/06279および既に引用された米国特許および出願参照)。
【0035】
これらのアミノ酸位置番号は、図1−4に呈された成熟Bacillus amyloliquefaciens スブチリシン配列に帰属されるものをいう。しかしながら、本発明は、この特定のスブチリシンの突然変異に限定されず、Bacillus amyloliquefaciens スブチリシンにおける特定の同定される残基と「同等である」位置におけるアミノ酸残基を含有する前駆体プロテアーゼに拡大される。本発明の好ましい具体例において、前駆体プロテアーゼはBacillus lentusスブチリシンであり、前記リストのものに対応するB. Lentusにおける同等のアミノ酸残基位置で置換がなされる。
【0036】
前駆体プロテアーゼの残基(アミノ酸)位置は、もし、Bacillus amyloliquefaciens スブチリシンに存在する特別の残基または部分と相同(すなわち、いずれかの一次または三次構造における位置に対応する)または類似する(すなわち、化学的に組み合わせる、反応するまたは相互作用する同一または同様の機能的能力を有する)ならば、Bacillus amyloliquefaciensスブチリシンの残基と同等である。
【0037】
一次構造に対する相同性を確立するには、前駆体プロテアーゼのアミノ酸配列をBacillus amyloliquefaciens スブチリシン一次配列、特に配列が知られているスブチリシンにおける変異体であることが知られている残基の組と直接的に比較する。例えば、ここに図5は、B. amyloliquefaciens スブチリシンおよびB. lentusスブチリシンの間で保存された残基を示す。保存された残基を整列させ、整列を維持するのに必要な挿入および欠失を可能とした後(すなわち、任意の欠失および挿入を通じて保存された残基の排除を回避し)、Bacillus amyloliquefaciens スブチリシンの一次配列における特定のアミノ酸と同等の残基が規定される。保存された残基の整列は、好ましくは、かかる残基の100%を保存すべきである。しかしながら、保存された残基の75%より大または50%と少ない整列もまた同等の残基を規定するのに適当である。触媒トリアドAsp32/His64/Ser221の保存は維持されるべきである。Siezenら(1991) Protein Eng. 4(7):719−737は、非常に多数のセリンプロテアーゼの整列を示す。Siezenらはスブチラーゼまたはスブチラーゼ−様セリンプロテアーゼとしてのグループ分けに言及する。
【0038】
例えば、図6および7において、Bacillus amyloliquefaciens、Bacillus subtilis、Bacillus licheniformis (carisbergenis)およびBacillus lentusからのスブチリシンのアミノ酸配列を整列させて、アミノ酸配列の間の相同性の最大量を提供する。これらの配列の組合せは、各配列に含有される保存された多数の残基があることを示す。これらの保存された残基(BPN’およびB. lentusの間)は図5に確認される。
【0039】
これらの保存された配列は、かくして、好ましいBacillus lentusスブチリシンと高度に相同である、Bacillus lentusからのスブチリシンのごとき他のスブチリシンにおけるBacillus amyloliquefaciens (1989年7月13日に公開されたPCT公開番号WO89/06279)、ここに好ましいプロテアーゼ前駆体酵素、またはPB92というスブチリシン(EP 0 328 299)の対応する同等のアミノ酸残基を規定するのに用いることができる。これらのスブチリシンのあるもののアミノ酸配列は、保存された残基の最大相同性を生じるBacillus amyloliquefaciens スブチリシンの配列と共に図6および7で整列される。分かるように、Bacillus amyloliquefaciens スブチリシンと比較してBacillus lentusの配列には多数の欠失がある。かくして、例えば、他のスブチリシンにおけるBacillus amyloliquefaciens スブチリシンでのVal165についての同等のアミノ酸はB. lentusおよびB. licheniformisについてのイソロイシンである。
【0040】
「同等の残基」は、その三次構造がX−線結晶解析によって決定されている前駆体プロテアーゼについての三次構造のレベルでの相同性を決定することによっても定義される。同等の残渣は、前駆体プロテアーゼおよびBacillus amyloliquefaciens スブチリシンの特定のアミノ酸残基の主要鎖原子の2以上の原子座標(N上のN、CA上のCA、C上のCおよびO上のO)が0.13nm以内にあり、好ましくは、整列後に0.1nmであるものと定義される。整列は、最良のモデルが、Bacillus amyloliquefaciens スブチリシンに対して問題のプロテアーゼの非水素蛋白質原子の原子座標の最大重複を与えるように配位させ位置付けされた後に達成される。最良のモデルは、最高の利用可能な分解における実験的解析データについての最低のR因子を与える結晶モデルである。
【0041】
R因子=Σh|Fo(h)|−|Fc(h)|
Σh|Fo(h)|
Bacillus amyloliquefaciens スブチリシンの特異的残基に類似して機能的な同等の残基は、それらが、定義されたおよびBacillus amyloliquefaciens スブチリシンの特異的残基に帰属される方法で、蛋白質構造、基質結合または触媒作用を改変し、修飾しまたはそれに寄与するような立体配座を採り得る前駆体プロテアーゼのアミノ酸と定義される。さらに、それらは、所与の残基の主要鎖原子は相同位置を占めることを基礎とした同等の基準を満足できないが、残基の側鎖原子の少なくとも2つの原子座標はBacillus amyloliquefaciens スブチリシンの対応する側鎖原子の0.13nm以内にある程度まで類似の位置を占める(それにつき三次構造がX−線結晶解析によって得られている)前駆体プロテアーゼの残基である。Bacillus amyloliquefaciens スブチリシンの三次元構造の座標はEPO公開番号0 251 446(米国特許第5,182,204号に対応、引用によりその開示を本明細書に一体化させる)に記載されており、前記で概説したように使用して、三次構造のレベルにつき同等の残基を決定することができる。
【0042】
置換につき同定される残基のいくつかは保存された残基であり、他方、他のものはそうではない。保存されない残基の場合は、1以上のアミノ酸の置換は、天然で見いだされないものに対応しないアミノ酸配列を有する変異体を生じる置換に限定される。保存された残基の場合には、かかる置換の結果、天然に生じる配列はもたらされないはずである。本発明のプロテアーゼ変異体は、プロテアーゼ変異体の成熟形ならびにかかるプロテアーゼ変異体のプロ−およびプレプロ−形態を含む。プレプロ−形態は好ましい構築である。というのは、これは、プロテアーゼ変異体の発現、分泌および成熟を容易とするからである。
【0043】
「プロ配列」とは、除去される結果、プロテアーゼの「成熟」形態が出現するプロテアーゼの成熟形態のN−末端部分に結合したアミノ酸の配列をいう。多くの蛋白質分解酵素は、翻訳プレ酵素産物として天然で見いだされ、翻訳後プロセッシングの不存在下では、このようにして発現される。プロテアーゼ変異体を生産するための好ましいプロ配列は、Bacillus amyloliquefaciens スブチリシンの水性プロ配列であるが、他のプロテアーゼプロ配列も使用することができる。
【0044】
「シグナル配列」または「プレ配列」は、プロテアーゼのN−末端部分にまたはプロテアーゼの成熟またはプロ形態の分泌に参画できるプロプロテアーゼのN−末端部分に結合したアミノ酸のいずれの配列もいう。シグナル配列のこの定義は機能的なものであり、天然条件下でプロテアーゼの分泌の実行に参画するプロテアーゼ遺伝子のN−末端部分によってコードされた全てのアミノ酸配列を含むことを意味する。本発明は、ここに定義されたプロテアーゼ変異体の分泌を実行するためにかかる配列を利用する。1つの可能なシグナル配列は、Bacillus lentus (ATCC 21536)からのスブチリシンのシグナル配列の残りに融合したBacillus subtilisスブチリシンからのシグナル配列の最初の7つのアミノ酸残基を含む。
【0045】
プロテアーゼ変異体の「プレプロ」形態は、プロテアーゼのアミノ末端に作動可能に連結されたプロ配列およびプロ配列のアミノ末端に作動可能に連結された「プレ」または「シグナル」配列を有するプロテアーゼの成熟形態よりなる。
【0046】
「発現ベクター」とは、適当な宿主中の当該DNAの発現が可能な適当な制御配列に作動可能に連結されたDNA配列を含有するDNA構築体をいう。かかる制御配列は、転写を行うためのプロモーター、かかる転写を制御するための所望のオペレーター配列、適当なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列および転写および翻訳の終止を制御する配列を含む。ベクターはプラスミド、ファージ粒子、または単純に可能なゲノムインサートでよい。一旦適当な宿主に形質転換されたならば、ベクターは宿主ゲノムとは独立して複製、機能でき、あるいはある場合には、ゲノム自体に組み込まれ得る。本明細書では、「プラスミド」および「ベクター」は、時々、相互交換可能に使用される。というのは、プラスミドは現在ではベクターの最も通常に使用される形態だからである。しかしながら、本発明は、同等の機能を供し、当該分野で知られているまたは知られるようになった発現ベクターの他の形態を含むことを意図する。
【0047】
本発明で使用される「宿主細胞」は、一般に、好ましくは米国特許RE34,606号に開示されている方法によって操作されて、それらを酵素的に活性なエンドペプチダーゼを分泌できないようにしている原核生物または真核生物宿主である。プロテアーゼを発現するための好ましい宿主細胞は、酵素的に活性な中性プロテアーゼおよびアルカリ性プロテアーゼ(スブチリシン)において欠乏しているBacillus 株BG2036である。株BG2036の構築は米国特許第5,264,356号に詳細に記載されている。プロテアーゼを発現するための他の宿主細胞は、Bacillus subtilis 1168(引用して、その開示を本明細書に一体化させる米国特許RE34,606号および米国特許第5,264,366号にも開示されている)ならびにB. licheniformis, B. lentus等のごときいずれかの適当なBacillus 株を含む。
【0048】
宿主細胞は、組換えDNA技術を用いて構築されたベクターで形質転換またはトランスフェクトする。かかる形質転換宿主細胞は、プロテアーゼ変異体をコードするまたは所望のプロテアーゼ変異体を発現するベクターを複製できる。発現されると、プロテアーゼ変異体のプレ−またはプレプロ−形態をコードするベクターの場合、かかる変異体は、典型的には、宿主細胞から宿主細胞培地に分泌される。
【0049】
2つのDNA領域の間の関係を記載する場合に「作動可能に連結した」とは、単に、相互に機能的に関連することを意味する。例えば、プレ配列は、もし当該シグナル配列の切断に最も恐らくは関与する蛋白質の成熟形態の分泌に関与するシグナル配列としてそれが機能すれば、ペプチドに作動可能に連結している。プロモーターは、もしそれが配列の転写を制御すれば、コード配列に作動可能に連結している;リボソーム結合部位は、もしそれが翻訳を可能とするように位置していれば、コード配列に作動可能に連結している。
【0050】
天然に生じる前駆体プロテアーゼをコードする遺伝子は、当業者に知られている一般的方法に従って得ることができる。該方法は、一般的には、注目するプロテアーゼの領域をコードする推定配列を有する標的プローブを合成し、該プロテアーゼを発現する生物からゲノムライブラリーを調製し、次いで、プローブにハイブリダイズさせることによって、注目する遺伝子につきライブラリーをスクリーニングすることを含む。次いで、陽性的にハイブリダイズするクローンをマップし、配列決定する。
【0051】
次いで、クローン化プロテアーゼを用いて、宿主細胞を形質転換してプロテアーゼを発現させる。次いで、プロテアーゼ遺伝子を高コピー数プラスミドに連結する。このプラスミドは、それがプラスミド複製に必要なよく知られたエレメント:(もしそれが宿主によって認識されれば、すなわち転写されれば、遺伝子自身の相同プロモーターとして供給することができる)問題の遺伝子に作動可能に連結されたプロモーター、転写終止および外因性であって、プロモーター遺伝子、望ましくは、抗生物質含有培地での増殖によってプラスミド−感染宿主細胞の連続的培養維持を可能とする抗生物質耐性遺伝子のごとき選択遺伝子の内因性ターミネーター領域によって供給される(ある種の真核生物宿主細胞におけるプロテアーゼ遺伝子からの宿主によって転写されるmRNAの安定性に必要な)ポリアデニル化シグナルを含有する意味で宿主中で複製する。また、高コピー数プラスミドは、宿主用の複製起点を含有し、それにより、染色体制限なくして非常に多数のプラスミドが細胞質中で生成することを可能とする。しかしながら、複数コピーのプロテアーゼ遺伝子を宿主ゲノムに取り込むのは本明細書の範囲内のものである。これは、相同組換えに特に感受性の原核生物および真核生物によって容易とされる。
【0052】
該遺伝子は天然B. lentus遺伝子であり得る。別法として、天然に生じるまたは突然変異体前駆体プロテアーゼをコードする合成遺伝子を生産することができる。かかるアプローチにおいて、前駆体プロテアーゼのDNAおよび/またはアミノ酸配列が決定される。複数の重複する合成一本鎖DNA断片がしかる後に合成され、ハイブリダイゼーションおよび連結に際して、それは前駆体プロテアーゼをコードする合成DNAを生じる。合成遺伝子構築の例は、出典明示して本明細書に一体化させる米国特許第5,204,015号の実施例3に記載されている。
【0053】
一旦、天然に生じるまたは合成前駆体プロテアーゼ遺伝子がクローン化されれば、多数の修飾を行って、天然に生じる前駆体プロテアーゼの合成を超えて遺伝子の使用を増強させる。かかる修飾は、米国特許RE34,606号およびEPO公開番号第0 251 446号に開示されている組換えプロテアーゼの生産およびここに記載されたプロテアーゼ変異体の生産を含む。
【0054】
以下のカセット突然変異誘発方法を用いて、本発明のプロテアーゼ変異体の構築を容易とすることができるが、他の方法を用いることもできる。まず、該プロテアーゼをコードする天然に生じる遺伝子が得られ、全部または一部が配列決定される。次いで、該配列を、コードされた酵素における1以上のアミノ酸の突然変異(欠失、挿入または置換)を作成するのが望ましい点につきスキャンする。この点にフランキングする配列を、遺伝子の短いセグメントを、発現された場合に種々の突然変異体をコードするオリゴヌクレオチドプールで置き換えるための制限部位の存在につき評価する。かかる制限部位は、好ましくは、遺伝子セグメントの置き換えを容易とするようにプロテアーゼ遺伝子内のユニークな部位である。しかしながら、プロテアーゼ遺伝子において総じて豊富ではないいずれの便宜な制限部位も用いることができる。但し、制限消化によって生じた遺伝子断片は適当な配列において再度組み立てることができるものとする。もし制限部位が選択された点(10ないし15ヌクレオチド)から便宜な距離内の位置に存在しないならば、かかる部位は、リーディングフレームまたはコードされたアミノ酸も最終構築中で変化しないように、遺伝子中のヌクレオチドを置換することによって生成させる。所望の配列に適合させるようにその配列を変化させるための遺伝子の突然変異は、一般的に知られている方法によりM13プライマー伸長によって達成される。適当なフランキング領域を位置決定し、2つの便宜な制限部位配列に到達するのに必要な変化を評価する仕事は、遺伝暗号の縮重、遺伝子の制限酵素地図および非常に多数の異なる制限酵素によってルーチン的になされる。もし便宜なフランキング制限部位が利用できるならば、前記方法は、部位を含有しないフランキング配列に関してのみ使用する必要がある。
【0055】
一旦天然に生じるDNAまたは合成DNAがクローン化されたならば、突然変異させるべき位置にフランキングする制限部位を、同族制限酵素で消化し、複数の末端相補性オリゴヌクレオチドカセットを遺伝子に連結する。突然変異誘発はこの方法によって単純化される。何故ならば、オリゴヌクレオチドの全ては同一制限部位を有するように合成でき、制限部位を生じさせるために合成リンカーは必要ではないからである。
【0056】
本明細書中で用いるごとく、蛋白質分解活性は、活性な酵素1ミリグラム当たりのペプチド結合の加水分解の速度と定義される。蛋白質分解活性を測定するための多くのよく知られた手法が存在する(K. M. Kalisz, 「Microbibal Proteinases」, Advances in Biochemical Engineering/Biotechnology, A. Fiechterら, 1988)。修飾された蛋白質分解活性に加えて、またはその代替法として、本発明の変異体酵素はK、Kcat、Kcat/K比のごとき他の修飾された特性および/または修飾された基質特異性および/または修飾されたpH活性プロティールを有し得る。これらの酵素は、例えば、ペプチドの合成において、またはランドリー用途のごとき加水分解プロセスのために存在することが予測される特別の基質のために仕立てることができる。
【0057】
本発明の1つの態様において、当該目的は、前駆体プロテアーゼと比較して、改変された蛋白質分解活性を有する変異体プロテアーゼを確保することである。というのは、かかる活性を増大させることは(数字的に大)、酵素が標的基質により効果的に作用するように使用することを可能とするからである。また、興味あることは、前駆体と比較して、改変された熱安定性および/または改変された基質特異性を有する変異体酵素である。ある場合には、低い蛋白質分解活性が望ましく、例えば、蛋白質分解活性の減少が、(ペプチドを合成するに関して)プロテアーゼの活性が所望される場合に有用であろう。かかる合成の産物を破壊できるこの蛋白質分解活性を減少させるのが望まれるかも知れない。逆に、ある場合には、変異体酵素−対−その前駆体の蛋白質分解活性を増加させるのが望ましいであろう。加えて、アルカリ性安定性もしくは熱安定性を問わず、変異体の安定性の増加または減少(改変)が望ましいであろう。Kcat、、Kcat/Kの増加または減少は、これらの速度論パラメーターを決定するのに使用される基質に特異的である。
【0058】
本発明のもう1つの態様において、当該置換がその位置において荷電を変化させて、前駆体プロテアーゼと比較して荷電をより負にまたはより少ない正にするように、1以上の残基位置においてアミノ酸の置換を含有するプロテアーゼ変異体が前駆体プロテアーゼよりも低い洗剤濃度でより効果的であることが判明した。
【0059】
本発明のさらなる態様において、当該置換がその位置において荷電を変化させて、前駆体プロテアーゼと比較して荷電をより正にまたはより少ない負になるようにするように、1以上の残基位置においてアミノ酸の置換を含有するプロテアーゼ変異体が前駆体プロテアーゼよりも高い洗剤濃度でより効果的であることが判明した。
【0060】
さらに、本発明者らは、低い洗剤濃度系および/または高い洗剤濃度系で有用なプロテアーゼ変異体の多くもまた中程度の洗剤濃度系で効果的であることを見いだした。
【0061】
これらの置換は、好ましくは、Bacillus lentus(組換え体または天然タイプ)でなされるが、置換はBacillus プロテアーゼ、好ましくはBacillus スブチリシンでなすことができる。
【0062】
変異体プロテアーゼで得られたスクリーニング結果に基づき、Bacillus amyloliquefaciens スブチリシンにおける認識される突然変異は蛋白質分解活性、これらの酵素の効率および/または安定性およびかかる変異体酵素の清浄または洗浄効率にとって重要である。
【0063】
本発明のプロテアーゼ変異体の多くは種々の洗剤組成物またはシャンプーもしくはローションのごとき個人のケア処方を処方するのに有用である。多数の公知化合物が、本発明のプロテアーゼ突然変異体を含む組成物で有用な適当な界面活性剤である。これらは、Barry J. Andersonに対する米国特許第4,404,128号およびJiri Floraらに対する米国特許第4,261,868号に開示されているごときノニオン、アニオン、カチオンまたは両性洗剤を含む。適当な洗剤処方は、(先に出典明示して本明細書に一体化させる)米国特許第5,204,015号の実施例7に記載されているものである。該技術は、清浄組成物として使用することができる異なる処方に馴染み深い。典型的な清浄組成物に加えて、本発明のプロテアーゼ変異体は天然または野生型プロテアーゼが使用されるいずれかの目的で使用することができる。かくして、これらの変異体は、例えば、棒もしくは液体セッケン適用、ディッシュケア処方、コンタクトレンズ清浄溶液もしくは製品、ペプチド加水分解、廃物処理、テキスタイル適用において、蛋白質生産における融合−切断酵素として使用することができる。本発明の変異体は、(前駆体と比較して)洗剤組成物における増強された性能を含むことができる。本明細書で用いるごとく、洗剤における増強された性能は、標準的な洗浄サイクル後に通常の評価によって測定して、ガラスまたは血液のごときある種の酵素感受性汚染の清浄の増大と定義される。
【0064】
本発明のプロテアーゼは、約0.01ないし5重量%(好ましくは0.1%ないし0.5重量)のレベルで6.5および12.0の間のpHを有する公知の粉末化よび液体洗剤に処方することができる。これらの洗剤清浄組成物は、公知のプロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、リパーゼまたはエンドグリコシダーゼのごとき他の酵素、ならびにビルダーおよび安定化剤を含むこともできる。
【0065】
本発明のプロテアーゼの通常の清浄組成物への添加は、いずれの特別な使用制限も生じない。換言すれば、洗剤に適したいずれの温度およびpHも、該pHが前記範囲内であって、該温度が記載されたプロテアーゼの変性温度未満である限り本発明の組成物で適当である。加えて、本発明のプロテアーゼは、再度、単独またはビルダーおよび安定化剤と組み合わせて、洗剤なくして清浄組成物で使用することができる。
【0066】
また、本発明は、本発明のプロテアーゼ変異体を含有する清浄組成物に関する。該清浄組成物は、さらに、清浄組成物で通常使用されるある種の添加剤を含有することができる。これらは、限定されるものではないが、ブリーチ、界面活性剤、ビルダー、酵素およびブリーチ触媒から選択することができる。いずれの添加剤が組成物に含有されるのに適するかは当業者に容易に明らかであろう。本明細書で供するリストは、断じて、それに尽きるものではなく、適当に添加剤の例としてのみ採用することができる。また、組成物中の酵素および他の成分、例えば、界面活性剤に適合する添加剤を使用するに過ぎないことは当業者に容易に明らかであろう。
【0067】
存在する場合、清浄組成物に存在する添加剤の量は約0.01ないし99.9%、好ましくは約1%ないし95%、より好ましくは約1%ないし約80%である。
【0068】
本発明の変異体プロテアーゼは、例えば、米国特許第5,612,055号;米国特許第5,314,692号および第5,147,642号に記載された動物飼料添加物の一部のごとき動物飼料に含めることができる。
【0069】
本発明の1つの態様は、本発明の変異体プロテアーゼを含むテキスタイルの処理用の組成物である。該組成物は、例えば、RD216,934号;EP 134,287;US4,533,359;およびEP344,259のごとき刊行物に記載されている絹または羊毛を処理するのに使用することができる。
【0070】
以下のものは例として提示され、請求の範囲の限定として解釈されるべきではない。
【実施例】
【0071】
(実施例1)
当該分野でよく知られた方法を用い、非常に多数のプロテアーゼ変異体を生産し、精製した。全ての突然変異はBacillus lentus GG36スブチリシンでなした。
【0072】
「An improved method of assaying for a preferred enzyme and/or preferred detergent composition」、米国特許第80/066,796号に記載されているミクロスウォッチアッセイを用い、生産されたプロテアーゼ変異体を、2つのタイプの洗剤および洗浄条件における性能につきテストした。
【0073】
表1−13はアッセイした変異体プロテアーゼおよび2つの異なる性能におけるテスト結果をリストする。全ての値は表に目下最初のプロテアーゼに対する比較として与える(すなわち、1.32の値は、表中の最初の変異体の100%に対して、当該株の132%を放出する能力を示す)。
【0074】
A欄は変異体の電荷の差異を示す。B欄については、洗剤は、ガロン当たり3グレインの混合されたCa2+/Mg2+硬度を含有する溶液中の0.67g/lの濾過されたAriel Ultra (Procter & Gamble, Cincicati, オハイオ州, 米国)であり、0.3ppmの酵素を25℃の各ウェルで用いた(低濃度洗剤系)。C欄については、洗剤は、ガロン当たり15グレインの混合されたCa2+/Mg2+硬度を含有する溶液中の3.38g/lの濾過されたAriel Ultra (Procter & Gamble, Cincicati, オハイオ州, 米国)であり、0.3ppmの酵素を40℃の各ウェルで用いた(高濃度洗剤系)。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

【表12】

【表13】

【0075】
(実施例2)
実施例1に記載したごとく、以下のプロテアーゼ変異体を作成し、テストした。
【0076】
表14における変異体は、両タイプの置換;B. lentus GG36と比較して、電荷をより負にまたはより少ない正にするようにある位置における電荷を変化させる置換、および電荷をより正にまたはより少ない負にするようにある位置における電荷を変化させる置換、ならびに所与の残基位置における電荷に影響しない中性置換を有するプロテアーゼ変異体である。これは、低い洗剤濃度系(A欄;0.67g/lの濾過されたAriel Ultra (Procter & Gamble, Cincicati, オハイオ州, 米国)、ガロン当たり3グレインの混合されたCa2+/Mg2+硬度を含有する溶液中、0.3ppmの酵素を25℃の各ウェルで用いた)および低い洗剤濃度系(B欄;3.38g/lの濾過されたAriel Futur (Procter & Gamble, Cincicati, オハイオ州, 米国)、ガロン当たり15グレインの混合されたCa2+/Mg2+硬度を含有する溶液中、0.3ppmの酵素を40℃の各ウェルで用いた)の双方における標準よりも良好な性能のプロテアーゼ変異体を生じさせる。
【表14】

【0077】
他の実施態様
1.1以上の残基位置においてアミノ酸の置換を含むプロテアーゼ変異体であって、該置換が、その位置における電荷を、前駆体プロテアーゼと比較して、より負にまたはより少ない正になるように改変し、かつ当該プロテアーゼ変異体は前駆体プロテアーゼより低い洗剤濃度系でより効果的であることを特徴とするプロテアーゼ変異体。
【0078】
2.前記プロテアーゼがスブチリシンであることを特徴とする実施態様1記載のプロテアーゼ変異体。
【0079】
3.バチラス(Bacillus)スブチリシンに由来することを特徴とする実施態様1記載のプロテアーゼ変異体。
【0080】
4.バチラス・レンタス(Bacillus lentus)スブチリシンに由来する実施態様3記載のプロテアーゼ変異体。
【0081】
5.実施態様1記載のプロテアーゼ変異体をコードするDNA。
【0082】
6.実施態様5記載のDNAをコードする発現ベクター。
【0083】
7.実施態様6記載の発現ベクターで形質転換した宿主細胞。
【0084】
8.実施態様1記載のプロテアーゼ変異体を含む清浄組成物。
【0085】
9.実施態様1記載のプロテアーゼ変異体を含む動物飼料。
【0086】
10.実施態様1記載のプロテアーゼ変異体を含むテキスタイルを処理するための組成物。
【0087】
11.1以上の残基位置でアミノ酸残基の置換を含むプロテアーゼ変異体であって、該置換が、その位置における電荷を、前駆体プロテアーゼと比較して、より正にまたはより少ない負になるように改変し、かつ当該プロテアーゼ変異体は前駆体プロテアーゼよりも高い洗剤濃度系でより効果的であることを特徴とするプロテアーゼ変異体。
【0088】
12.前記プロテアーゼがスブチリシンであることを特徴とする実施態様11記載のプロテアーゼ変異体。
【0089】
13.バチラス(Bacillus)スブチリシンに由来することを特徴とする実施態様11記載のプロテアーゼ変異体。
【0090】
14.バチラス・レンタス(Bacillus lentus)スブチリシンに由来する実施態様13記載のプロテアーゼ変異体。
【0091】
15.実施態様11記載のプロテアーゼ変異体をコードするDNA。
【0092】
16.実施態様15記載のDNAをコードする発現ベクター。
【0093】
17.実施態様16記載の発現ベクターで形質転換した宿主細胞。
【0094】
18.実施態様11記載のプロテアーゼ変異体を含む清浄組成物。
【0095】
19.実施態様11記載のプロテアーゼ変異体を含む動物飼料。
【0096】
20.実施態様11記載のプロテアーゼ変異体を含むテキスタイルを処理するための組成物。
【0097】
21.高い洗浄濃度が洗浄水中で2000ppmより高いことを特徴とする実施態様1記載のプロテアーゼ変異体。
【0098】
22.前駆体プロテアーゼよりも低い、中程度および高い洗剤濃度でより効果的なプロテアーゼ変異体を生産する方法であって、
a)1以上の残基位置でアミノ酸を置換し、ここで、該置換は、その位置における電荷を、前駆体プロテアーゼと比較して、より正にまたはより少ない負になるように改変し;
b)1以上の残基位置でアミノ酸を置換し、ここで、該置換は、その位置における電荷を、前駆体プロテアーゼと比較して、より負にまたはより少ない正になるように改変し;
c)該変異体をテストして、前駆体プロテアーゼと比較して、高い、中程度および低い洗剤濃度系でのその有効性を測定し;
d)前駆体プロテアーゼよりも低い、中程度および高い洗剤濃度系でより効果的なプロテアーゼ変異体を生じさせるのに必要なだけ工程a)−c)を反復する各工程を含むことを特徴とする方法。
【0099】
23.1以上の残基位置においてアミノ酸の置換を含むプロテアーゼ変異体であって、該置換が、その位置における電荷を、前駆体プロテアーゼと比較して、より正にまたはより少ない負になるように改変し、かつ当該プロテアーゼ変異体は前駆体プロテアーゼよりも中程度の洗剤濃度系でより効果的であることを特徴とするプロテアーゼ変異体。
【0100】
24.1以上の残基位置においてアミノ酸の置換を含むプロテアーゼ変異体であって、該置換が、その位置における電荷を、前駆体プロテアーゼと比較して、より負にまたはより少ない正になるように改変し、かつ当該プロテアーゼ変異体は前駆体プロテアーゼよりも中程度の洗剤濃度系でより効果的であることを特徴とするプロテアーゼ変異体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ、洗浄水中に存在する約800ppmより低い、約800ppmと約2000ppmの間、および約2000ppmより高い濃度の洗剤成分を有する、低洗剤濃度系、中洗剤濃度系、および高洗剤濃度系でのスブチリシンの性能を改善する方法であって、
a)前駆体スブチリシンにおける1以上の位置でアミノ酸残基を置換してスブチリシン変異体を作成し、ここで、該置換は、その位置における電荷を、前駆体と比較して、より正にまたはより少ない負になるように改変し;
b)前駆体スブチリシンにおける1以上の位置でアミノ酸残基を置換してスブチリシン変異体を作成し、ここで、該置換は、その位置における電荷を、前駆体と比較して、より負にまたはより少ない正になるように改変し;
c)それぞれ、洗浄水中に存在する約800ppmより低い、約800ppmと約2000ppmの間、および約2000ppmより高い濃度の洗剤成分を有する、低洗剤濃度系、中洗剤濃度系、および高洗剤濃度系において、前記変異体をテストして、前駆体スブチリシンと比較してその効果を特定し;さらに
d)必要に応じて前記工程a)−c)を繰り返して、前駆体スブチリシンよりも、低洗剤濃度系、中洗剤濃度系および高洗剤濃度系でより効果的なスブチリシン変異体を作成する;工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記前駆体スブチリシンが、バチラス(Bacillus)スブチリシンであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記前駆体スブチリシンが、バチラス・レンタス(Bacillus lentus)スブチリシンであることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
洗浄組成物を製造する方法であって、請求項1から3いずれか1項記載の方法によりスブチリシン変異体を作成することによりスブチリシンの性能を改善し、さらに該スブチリシン変異体を、約0.01から5重量%で6.5と12.0の間のpHを有する粉末または液体洗浄組成物に処方する工程を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−183078(P2012−183078A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−138496(P2012−138496)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【分割の表示】特願2000−517091(P2000−517091)の分割
【原出願日】平成10年10月23日(1998.10.23)
【出願人】(398056506)ダニスコ・ユーエス・インコーポレーテッド (8)
【Fターム(参考)】