説明

洗剤用酵素顆粒の連続的製造方法

【課題】 造粒中の壁面への付着物発生が抑制された、洗剤用酵素顆粒の効率的な連続的製造方法を提供する。
【解決手段】 洗剤用酵素粉末を、水溶性核物質および融点或いは軟化点が25〜90℃の水溶性有機バインダーと共に、攪拌転動造粒機により攪拌しながら該水溶性有機バインダーの融点或いは軟化点以上に加熱後、次いで冷却し、乾式造粒する洗剤用酵素顆粒の連続的製造方法において、最初に水溶性核物質のみを仕込み、攪拌しながら攪拌転動造粒機を該水溶性有機バインダーの融点或いは軟化点以上に加熱後、次いで他の原料を仕込み、造粒する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は洗剤用酵素顆粒の効率的な連続的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衣料用の粉末洗剤には、その洗浄力をより高めるために各種の酵素が配合されている場合が多い。この酵素は洗剤が使用される洗濯時に水中に溶解して効果を発揮する。従って粉末洗剤が製造されてから使用にいたるまでの期間、粉末洗剤中で酵素はできるだけ失活せずに機能を保持し続けることが必要である。そのためには酵素成分と洗剤成分あるいは外気との接触をできるだけ最小にしなければならない。また安全性の面から、製造時の作業者や使用時の消費者が酵素との接触をできるだけ避ける必要もある。そのために通常、酵素は粉末洗剤に配合する際には造粒物として配合されている。
【0003】
洗剤配合用酵素造粒物およびその製造方法に関しては、従来より種々検討がなされてきており、特許文献1に記載の手法、即ち洗剤用酵素粉末を、水溶性核物質および水溶性有機バインダーと共に、攪拌転動造粒機により攪拌しながら加熱後、次いで冷却し、乾式造粒する手法がある。
また、特許文献2では、円筒型横型攪拌造粒装置において粉体を造粒装置の内容体積の5%以上投入し、フルード数(流体に作用する重力と慣性力の比で表される無次元量)が2.5以上の条件で造粒機内を攪拌することを特徴とする清掃方法を提案している。
【0004】
更に、特許文献3では、造粒物を空気輸送する際の配管等への付着を改善するために、ゼオライト、二酸化珪素、ベントナイト等の無機微粉末を付着防止剤として添加する方法を提案している。
また、洗剤を撹拌造粒する際に、装置内壁や底部の隙間への洗剤凝塊物付着を防止するために、特許文献4では、予め特定割合のゼオライト微粉末と二酸化珪素粉末を攪拌造粒の底部に添加する方法を提案している。
【特許文献1】特公平4−82040号公報
【特許文献2】特開平11−169699号公報
【特許文献3】特開平8−283799号公報
【特許文献4】特開平7−133498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の方法によれば、製造時の酵素の失活が少なく、粒径分布が狭い洗剤用酵素顆粒が得られるが、その後の検討により、製造工程上、若干の問題点が見出された。
即ち、特許文献1に記載の方法は、洗剤用酵素粉末を、塩化ナトリウム等の水溶性核物質およびポリエチレングリコール等の融点或いは軟化点が35〜70℃の水溶性有機バインダーと共に、攪拌転動造粒機により攪拌しながら該水溶性有機バインダーの融点或いは軟化点以上に加熱後、次いで冷却し、必要に応じてポリエチレングリコールや非イオン性界面活性剤と色素や染料をコーティングして乾式造粒するものであるが、造粒中に壁面に付着物が発生する。このような付着物は特にコーティング時に付着・成長し易い。このような付着物が発生すると次ロットでジャケットでの伝熱性が悪くなり、特にコーティング時に冷却が不能になるといったことがおき、出来高、配合組成の振れが生じ、最終製品の品質に問題が出るおそれがあった。特に、この問題は大量の酵素顆粒を連続的に製造する場合に顕著となる。この問題を解決するためには、一定時間間隔で、壁面の付着物の主成分である水溶性有機バインダー(ポリエチレングリコール等)を掻き取ったり、全解体作業の後、水洗浄を行うことや、溶剤等で造粒機内を洗浄することが考えられるが、多大な労力を必要とし煩雑であり効率的な方法とは言えない。
【0006】
また、特許文献2のような単なるシェアーにより掻き落とそうとする方法だけでは、固化した水溶性有機バインダー(ポリエチレングリコール等)を掻きとるのは容易でなく、シェアーを大きくし過ぎると折角作った造粒物が粉砕されてしまうといった問題点がある。更に、特許文献3又は4のような流動性改良剤による効果は、造粒物が形成されると共に効果が失われてしまい、付着が起きやすいコーティング時には既に効果が失われてしまう可能性があり、連続的に造粒した場合には、品質の低下と共に冷却効果が期待できない。
【0007】
そこで、本発明は、連続的に造粒物を製造する際に、壁面への付着物発生が抑制された、洗剤用酵素顆粒の効率的な連続的製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが検討した結果、特許文献1に記載の方法において、最初に水溶性核物質のみを仕込み、攪拌しながら攪拌転動造粒機のジャケットを該水溶性有機バインダーの融点或いは軟化点以上に加熱することにより、予め造粒機内を洗浄した場合、水溶性有機バインダーが溶解し、水溶性核物質により掻き取られ、次いで他の原料を仕込み、造粒することにより、品質に優れた洗剤用酵素顆粒が得られることを見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は、洗剤用酵素粉末を、水溶性核物質および融点或いは軟化点が25〜90℃の水溶性有機バインダーと共に、攪拌転動造粒機により攪拌しながら該水溶性有機バインダーの融点或いは軟化点以上に加熱後、次いで冷却し、乾式造粒する洗剤用酵素顆粒の連続的製造方法において、最初に水溶性核物質のみを仕込み、攪拌転動造粒機を該水溶性有機バインダーの融点或いは軟化点以上に加熱後、次いで他の原料を仕込み、造粒することを特徴とする洗剤用酵素顆粒の連続的製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、原料成分である洗剤用酵素粉末、水溶性核物質、融点或いは軟化点が25〜90℃の水溶性有機バインダーとしては、特公平4−82040号公報等に記載の各種公知の物質を用いることができる。
【0010】
本発明において、洗剤用酵素粉末としては、洗剤へ配合して効果を発揮する酵素であれば特に制限されないが、プロテアーゼ、エステラーゼ、カルボヒドラーゼから選ばれる1種または2種以上が好ましく用いられる。プロテアーゼの具体例としては、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、ケラチナーゼ、エラスターゼ、スプリシチン、パパイン、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ等を挙げることができる。エステラーゼの具体例としては、ガストリックリパーゼ、パンクレアチックリパーゼ、植物リパーゼ類、ホスホリパーゼ類、コリンエステラーゼ類、ホスホターゼ類等が挙げられる。カルボヒドラーゼとしては、セルラ−ゼ、マルターゼ、サッカラーゼ、アミラーゼ、ペクチナーゼ、α−及びβ−グリコシダーゼ等が挙げられる。酵素顆粒中の酵素の含有量は特に制限はないが、洗剤に配合して使用する際の効果から考えて一般には0.01〜30重量%が好ましく、より好ましくは1〜30重量%である。
【0011】
本発明において、水溶性核物質としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、芒硝、炭酸ソーダ、砂糖等を挙げることができる。特に、水溶性有機バインダーが軟化する条件でも機械的強度が高く、吸湿せず、粘着性がない等により掻き取り効果が高い点から塩化ナトリウムが好ましい。また、水溶性核物質は、平均粒子径が200〜1200μm、更に350〜850μm、特に425〜700μmであることが、掻き取り効果が高い点から好ましい。更に、粒子径が200μm以下のものが10質量%以下、更に5質量%以下、特に3質量%以下であることが好ましく、また、粒子径1200μm以上のものが5質量%以下、更に3質量%以下、特に1質量%以下であることが、粒度分布の狭い造粒物が得られること、掻き取り効果の点から好ましい。また、水溶性核物質は平均粒子径が350〜850μmの範囲内のものが85質量%以上、更に425〜700μmの範囲内のものが80質量%以上であることが同様の点から好ましい。
【0012】
本発明において、融点或いは軟化点が25〜90℃の水溶性有機バインダーとしては、ポリエチレングリコール、或いはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン・アルキルエーテル等の非イオン性界面活性剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。中でもポリエチレングリコールが、造粒物の溶解性の点から好ましい。また、融点或いは軟化点は、25〜90℃、更に30〜80℃、特に35〜70℃であることが、保存中の造粒物のケーキングの抑制、造粒物の溶解性、造粒時の酵素失活抑制の点から好ましい。
【0013】
本発明において、乾式造粒とは、バインダーとして水を使用しない造粒法をいう。この場合、造粒機中の水分量は0〜10質量%、更に0〜5質量%、特に0〜3質量%とすることが、造粒中の酵素失活抑制の点から好ましい。
【0014】
本発明においては、水溶性核物質のみを仕込んだ後に、攪拌転動造粒機を水溶性有機バインダーの融点或いは軟化点以上に加熱することが必要であるが、具体的には40〜120℃、更に50〜100℃、特に60〜90℃とすることが、造粒での操作性、造粒時の酵素失活抑制の点から好ましい。また、加熱するのは攪拌転動造粒機、及び仕込んだ物質を含めた全体でも良いが、作業効率、エネルギー効率の点から、攪拌転動造粒機の内壁面が加熱されれば十分である。具体的には、攪拌転動造粒機のジャケットを該水溶性有機バインダーの融点或いは軟化点以上に加熱すべく、上記温度範囲の蒸気、又は温水をジャケットに流通させることが好ましい。
【0015】
本発明においては、最初に水溶性核物質のみを仕込むことが必要である。攪拌する際の条件は、核物質が破壊されず、高い掻き取り効果を発揮する点から15m/秒以内、更に2〜10m/秒、特に3〜8m/秒の攪拌速度とすることが好ましい。また、攪拌時間は10分以内、更に1〜8分、特に2〜5分とすることが同様の点から好ましい。
【0016】
また、本発明において乾式造粒に使用される攪拌転動造粒機は、攪拌羽根を備えた主攪拌軸を内部の中心に有し、更に混合を補助し粗大粒子の発生を抑制するための補助攪拌軸を一般的には主攪拌軸と直角方向に壁面より突出させている。このような構造を有する攪拌転動造粒機としては、主攪拌軸が垂直に設置されているものとしてはヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株))、ハイスピードミキサー(深江工業(株))、バーチカルグラニュレーター((株)パウレック)等が挙げられ、主攪拌軸が水平に設置されているものとしてはレディゲミキサー(松坂技研(株))、プローシェアミキサー(太平洋機工(株))等が挙げられ、本発明においてはいずれでもよい。
【0017】
本発明において、連続的製造方法とは、1回目の造粒の後、造粒機を洗浄することなく、次の造粒を続けて行う操作のことをいう。
【0018】
本発明の特徴は、上記原料成分を用いた洗剤用酵素顆粒の連続的製造方法において、最初に水溶性核物質のみを仕込み、攪拌転動造粒機のジャケットを該水溶性有機バインダーの融点或いは軟化点以上に加熱後、攪拌して予め造粒機内を洗浄することにある。このような手法の採用により、壁面に付着した水溶性有機バインダーが溶解し、水溶性核物質により掻き取られ、洗浄されるという効果がある。次いで他の原料を仕込み、通常の方法、即ち、水溶性有機バインダーの融点或いは軟化点以上に加熱後、次いで冷却し、乾式造粒するという方法により洗剤用酵素顆粒を連続的に製造することができる。
【実施例】
【0019】
原料の調製
〔酵素粉末〕
微生物寄託番号が微工研菌寄第1138号のバチルス(Bacillus)属に属する菌より培養採取されたアルカリセルラーゼの水溶液に塩化カルシウムと芒硝を添加して、並流式噴霧乾燥機で乾燥し、酵素粉末とした。塩化カルシウムと芒硝の量は、酵素粉末全体に対して、各々0.5質量%、48質量%である。
〔水溶性核物質〕
平均粒子径が610μmで、200μm以下の粒子が3質量%、1200μm以上の粒子が0質量%の塩化ナトリウムを用いた。
〔配合組成〕
酵素粉末11質量%、水溶性核物質55質量%、水溶性有機バインダーとしてのポリエチレングリコール(PEG6000)5質量%、芒硝24質量%、酸化チタン5質量%となるように配合した。
【0020】
比較例1
ハイスピードミキサーFS−10J(深江工業(株))に上記原料を10kg投入し、ジャケットに蒸気を流しながら、攪拌翼先端速度8m/秒で混合攪拌した。内容物の温度を80℃まで昇温後、攪拌翼先端速度を4m/秒に下げ、ジャケットに水を通水し、ミキサー内にAirを吹き込んで冷却した。内容物の温度が50℃になったときに、予め85℃で溶融しておいたPEG0.5kg、酸化チタン0.5kg、シアニンブルー0.1kgを混合し、これをスプレーすることによりコーティングを行い造粒した。内容物の温度が50℃まで冷却した後に内容物を抜き出した。
次に、ハイスピードミキサーに続けて上記原料を10kg投入し、上記と同様の操作にて2回目の造粒を行った。
その後、下記評価基準により、加熱後(昇温終了後装置を一旦停止した状態)、及び造粒終了後(製品を抜き出した後の状態)の造粒機内部の付着物の状態(造粒機側面上部、側面チョッパー付近)を造粒機上部より目視により評価した。また、付着によるジャケットの伝熱性の変化を評価すべく、コーティング後の冷却効率についても評価した。
【0021】
〔付着物の評価基準〕
5:全く付着物なし
4:やや付着物あり
3:付着物あり
2:付着物が多い
1:付着物が非常に多い又は全面に付着
〔冷却効率の評価基準〕
3:問題なし
2:冷却効率低下
1:冷却不能
【0022】
比較例2
比較例1で使用したのと同じ原料を同じ量ハイスピードミキサーに投入し、同じ条件で混合攪拌し、同じ条件で冷却した。内容物の温度が65℃になったときに、二酸化ケイ素粒子(カープレックスCS−5、塩野義製薬(株))50gを添加した。内容物の温度が50℃になった後は、比較例1と同じコーティング処理を行い造粒した。
【0023】
比較例3
比較例2における二酸化ケイ素粒子をゼオライト粒子(トヨビルダー、東ソー(株))に替えた以外は比較例2と同様に造粒を行った。
【0024】
比較例4
比較例1において、ハイスピードミキサーにFS−200J(深江工業(株))を使用し、これに上記原料を181.8kg投入し、コーティング処理において、予め85℃で溶融しておいたPEG4.4kg、酸化チタン4.4kg、シアニンブルー0.9kgを混合し、これをスプレーした以外は比較例1と同じ条件にて造粒を行った。
【0025】
実施例1
比較例1の造粒操作を行った後、まず塩化ナトリウムのみを5.5kg仕込み、ジャケットにの蒸気を流しながら、攪拌翼先端速度5m/秒で混合攪拌した。6分後、槽内温度93℃となった時点の造粒機内の状態を評価した。更に、比較例1と同じ造粒操作を行った後、同じ塩化ナトリウムのみの上記処理を行った。この操作を4バッチ連続して行った。
【0026】
実施例2
実施例1において、ジャケットに90℃の温水を流し、10分後、槽内温度83℃となった時点で造粒機内の状態を評価した以外は、実施例1と同様に造粒を行った。
【0027】
実施例3
比較例4の造粒操作を行った後、まず塩化ナトリウムのみを43kg仕込み、ジャケットにの蒸気を流しながら、攪拌翼先端速度5m/秒で混合攪拌した。4分後、槽内温度85℃となった時点の造粒機内の状態を評価した。更に、比較例5と同じ造粒操作を行った後、同じ塩化ナトリウムのみの上記処理を行った。この操作を4バッチ連続して行った。
【0028】
【表1】

【0029】
各実施例、及び比較例の結果を表1に示した。これによると、造粒操作を行う前に攪拌転動造粒機に予め水溶性核物質を投入し、槽内温度を水溶性有機バインダーの軟化点以上にするという処理を行った本発明方法によれば、造粒機内の付着物は少なく、また何回行っても水溶性核物質のみ仕込んだ後の撹拌により付着物は完全に除去され、成長は認められなかった。更に、槽内に付着物が少ないことから冷却効率が良く、品質の良い製品を効率的に製造可能であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗剤用酵素粉末を、水溶性核物質および融点或いは軟化点が25〜90℃の水溶性有機バインダーと共に、攪拌転動造粒機により攪拌しながら該水溶性有機バインダーの融点或いは軟化点以上に加熱後、次いで冷却し、乾式造粒する洗剤用酵素顆粒の連続的製造方法において、最初に水溶性核物質のみを仕込み、攪拌しながら攪拌転動造粒機を該水溶性有機バインダーの融点或いは軟化点以上に加熱後、次いで他の原料を仕込み、造粒することを特徴とする洗剤用酵素顆粒の連続的製造方法。
【請求項2】
水溶性核物質が塩化ナトリウムである請求項1記載の洗剤用酵素顆粒の連続的製造方法。

【公開番号】特開2007−70556(P2007−70556A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261655(P2005−261655)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】