説明

洗浄剤組成物

【課題】従来の洗浄剤と同等或いはそれ以上の洗浄能力を備えながらも、環境負荷が少なく且つ安全性が高い洗浄剤であって、ハンドスプレー用として好適に使用可能な洗浄剤組成物を提供すること。
【解決手段】ハンドスプレー用洗浄剤組成物であって、エタノールを10〜30重量%と、HLBが11〜14であるショ糖脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルを0.1〜5重量%と、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種以上を0.5〜10重量%と、水を含む洗浄剤組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品添加物としても使用可能な安全性の高い界面活性剤を含む洗浄剤組成物であって、洗浄剤組成物中の界面活性剤の濃度が、少ないにも関わらず高い洗浄力を備えるハンドスプレー用の洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洗浄剤において洗浄性、泡立ち(即ち、起泡性)等を高めるために界面活性剤が用いられている。洗浄剤の洗浄力を高める第1の方法として、洗浄剤に含まれる界面活性剤の濃度を高くする方法が採用されている。この方法により得られる洗浄剤は、確かに洗浄力は優れているが、界面活性剤を多く含むという理由から排水されると、水を汚染し、例えば海や川に流れると水中生物を死に至らしめたり、下水処理場や河川等での水質汚染の原因となったりするという問題を有していた。
洗浄剤の洗浄力を高める第2の方法としては、少量でも洗浄性に優れた界面活性剤を含む方法がある。このような界面活性剤は、少量でも高い洗浄力を付与することから、洗浄剤によく利用されているが過って口に入った場合には、人体への負荷が懸念されるという問題を有している。従って、このような界面活性剤は、特に台所まわりのような口に入れるもの、或いはこれと接触するものに使用する洗浄剤としては不適である。
【0003】
即ち、第1と第2の方法は、環境に負荷を与えるという点、および人体への負荷を与えるという点を考慮すると、いずれも理想的な方法とはいえない。
【0004】
特許文献1には、グリセリン脂肪酸エステルを含む洗浄剤組成物が開示されている。この洗浄剤組成物は、上記第2の方法でいう界面活性剤を含まないという点においては、人体への負荷が少なく、安全性は高いが、グリセリン脂肪酸エステルを最大10重量%含むものもあり、水質汚染を引き起こすという問題を有していた。さらに、この洗浄剤は低温安定性が悪く、低温時にゲル化する。また、非常に粘性の高い洗浄剤であるため、例えばハンドスプレーの形態で使用できない。従って、使用可能な場所が非常に狭く制限されている。
特許文献2には、グリセリン脂肪酸エステルを含む洗浄剤組成物が開示されている。この洗浄剤は低温安定性が悪く、低温時にゲル化する。また、粘性が高い液体であり、洗浄剤の使用形態が制限され、例えばハンドスプレー用の洗浄剤としては使用できない。
【0005】
一方で、洗浄剤をハンドスプレー形態とする場合には、十分な起泡性を備えることが必要となる。洗浄剤の泡は、洗浄剤が、ハンドスプレーにより斜面部や垂直面部の汚れ部分に対して噴射された後、汚れ部分に泡が留まり、これにより、洗浄剤が汚れ部分に浸透して汚れを落とすことができるからである。従って、ハンドスプレー形態の洗浄剤の起泡性は、その洗浄力に特に大きな影響を及ぼす。
【特許文献1】特開2005−60563号公報
【特許文献2】特開平2−173100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記問題に鑑みて、食品添加物として使用されるような安全性の高い界面活性剤、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、或いはグリセリン脂肪酸エステルを使用して、少量で高い洗浄力が付与でき、環境負荷の極めて少ない優れた洗浄剤を見出した。食品添加物として使用され得るショ糖脂肪酸エステル、或いはグリセリン脂肪酸エステルを水溶液に混合して洗浄剤とした時、HLBが低い程高い起泡性を付与できることを見出した。即ち、ショ糖脂肪酸エステル又はグリセリン脂肪酸エステルである化合物の起泡性を比べたとき、HLBが14以下である化合物が高い起泡性を付与することを見出した。
【0007】
一方で、上記のような界面活性剤は、HLBが低い程、水溶性が低くなる。従って、例えば、界面活性剤と水を混合してハンドスプレー用洗浄剤を調製する際は、高いHLBを有する界面活性剤を使用しなければならず、これにより一定の起泡性を確保しようとすると、多量含まれなければならない。
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、HLBが特定の範囲であるショ糖脂肪酸エステル又はグリセリン脂肪酸エステルを水とエタノールと混合すると、少量の界面活性剤で高い起泡性を備えることを実現することにより、ハンドスプレー用洗浄剤として好適に使用可能な本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、ハンドスプレー用洗浄剤組成物であって、エタノールを10〜30重量%と、HLBが11〜14であるショ糖脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルを0.1〜5重量%と、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種以上を0.5〜10重量%と、水を含む洗浄剤組成物に関する。
請求項2に係る発明は、前記炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種以上が電気分解された電解液を用いることを特徴とする請求項1に記載の洗浄剤組成物に関する。
請求項3に係る発明は、多価アルコールを含まないことを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄剤組成物に関する。
請求項4に係る発明は、有機酸塩0.1〜5重量%を、さらに含むことを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の洗浄剤組成物に関する。
請求項5に係る発明は、食品添加物のみを添加することにより製造される洗浄剤組成物であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の洗浄剤組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の洗浄剤組成物は、食品添加物として認められた安全性の高い界面活性剤を使用しているため、人体への負荷が少ない、つまり安全性が高い洗浄剤組成物である。
本発明の洗浄剤組成物は、従来の洗浄剤と同等或いはそれ以上の洗浄力を備えながらも、洗浄剤に含まれる界面活性剤の量が少ないため、極めて環境負荷が少ない。
本発明の洗浄剤組成物は、その安全性が高いため、使用対象が制限されない。詳細には、台所まわりにある口に入るもの、或いはこれと接触するものの汚れを落とすために好適に使用される。
本発明の洗浄剤組成物は、高い起泡性を有するため、斜面部や垂直面部の汚れに対して洗浄剤組成物を噴射すると、汚れ部分に泡が留まり、好適に汚れを落とすことができる。
さらに、本発明の洗浄剤組成物において、全ての成分が食品添加物に認められた物質、及び自然界で分解され易い物質により構成されているので、極めて安全性が高い洗浄剤組成物となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書でいう「起泡性」とは、ハンドスプレーで噴射したときに生じる泡が、その形態を維持しようとする性質であり、「洗浄性」とは、油汚れを下地から取る性質をいう。さらに、本明細書でいう「洗浄力」とは、「起泡性」と「洗浄性」の両者を備えることにより得られる、ハンドスプレーで油汚れを落とした場合を想定した際の能力を意味する。
【0012】
本発明の洗浄剤組成物は、必須成分として、(A)エタノールと、(B)HLBが11〜14であるショ糖脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルと、(C)炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種以上と、(D)水を含む。
これら(A)乃至(D)の成分は、いずれも食品添加物に認められているものが使用される。尚、本明細書でいう「食品添加物」とは、食品衛生法によって食品への添加が認められた、比較的毒性が低く安全性の高い成分をいう。
【0013】
(A)エタノールは、洗浄剤組成物中10〜30重量%含有される。この理由は、10重量%未満の場合、起泡性が低下し所望する洗浄性が得られず、更に貯蔵安定性、低温安定性が悪くなるからであり、30重量%を超えると起泡性が低下し所望する程度の洗浄性が得られないので、いずれの場合も好ましくないからである。上記(A)成分は、当業者が一般的に入手できるものを使用すればよいが、好ましくは発酵エタノールを使用する。発酵エタノールは食品添加物として認められた安全性が高い成分であり、更に自然界で分解され易い物質である。
【0014】
(B)HLBが11〜14であるショ糖脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルは、洗浄剤組成物中0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%、更に好ましくは1〜2重量%含有される。この理由は、0.1重量%未満の場合、充分な起泡性、洗浄性が得られず、5重量%を超えると環境および人体への負荷が大きくなり、また貯蔵安定性、低温安定性及び拭き取り性が悪くなり、いずれの場合も好ましくないからである。
前記(B)成分のHLBについては11〜14であり、好ましくは12〜14であり、更に好ましくは12〜13である。この理由は、11未満であると水溶性が低いため水に溶解せず沈殿し、貯蔵安定性、低温安定性が悪く、14を超えると起泡性が低く、貯蔵安定性、低温安定性が悪く、いずれの場合も好ましくないからである。
尚、ショ糖脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルは食品添加物として認められた安全性が高い物質である。
【0015】
尚、本明細書でいう「HLB」とはHydrophile-Lipophile Blanceの略であり、非イオン界面活性剤の親水性と疎水性とのバランスを表す数値である。非イオン界面活性剤の親水性が疎水性に比べてどれくらい大きいか、非イオン界面活性剤が水に溶けるかどうか等の非イオン界面活性剤の性能(水溶性等)を表現する数値である。非イオン性界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェノールエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノードアミド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン等が例示される。HLBを求める手法としては、グリフィン法とデイビス法があるが、本発明でいうHLBとはグリフィン法で求めた値をいう。グリフィン法ではHLBを0〜20の値で表し、数値が大きいほど水溶性が高いとされている。
ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖と脂肪酸のエステルである。ショ糖脂肪酸エステルに用いられる脂肪酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。
ショ糖脂肪酸エステルとしては、カプロン酸ショ糖脂肪酸エステル、カプリル酸ショ糖エステル、カプリン酸ショ糖エステル、ラウリン酸ショ糖エステル、ミリスチン酸ショ糖エステル、パルミチン酸ショ糖エステル、ステアリン酸ショ糖エステル、オレイン酸ショ糖エステル、リノール酸ショ糖エステル等が挙げられる。
グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンと脂肪酸のエステルである。グリセリン脂肪酸エステルには、グリセリンが単体である場合のモノグリセリン脂肪酸エステルと、グリセリンの平均重合度が2以上である場合のポリグリセリン脂肪酸エステルとがある。ポリグリセリン脂肪酸エステルには、ジグリセリン脂肪酸エステル、トリグリセリン脂肪酸エステル、テトラグリセリン脂肪酸エステル、ペンタグリセリン脂肪酸エステル、ヘキサグリセリン脂肪酸エステル、ヘプタグリセリン脂肪酸エステル、オクタグリセリン脂肪酸エステル、ノナグリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
グリセリン脂肪酸エステルに用いられる脂肪酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。
モノグリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノカプロン酸エステル、グリセリンモノカプリル酸エステル、グリセリンモノカプリン酸エステル、グリセリンモノラウリン酸エステル、グリセリンモノミリスチン酸エステル、グリセリンモノミリスチン酸エステル、グリセリンモノパルミチン酸エステル、グリセリンステアリン酸エステル、グリセリンモノオレイン酸エステル、グリセリンモノリノール酸エステル等が挙げられる。
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ジグリモノカプリレート、トリグリセリンモノカプリレート、テトラグリセリンモノカプリレート、ペンタグリセリンモノカプリレート、ヘキサグリセリンモノカプリレート、ヘプタグリセリンモノカプリレート、オクタグリセリンモノカプリレート、ノナグリセリンモノカプリレート、デカグリセリンモノカプリレート、ジグリモノラウレート、トリグリセリンモノラウレート、テトラグリセリンモノラウレート、ペンタグリセリンモノラウレート、ヘキサグリセリンモノラウレート、ヘプタグリセリンモノラウレート、オクタグリセリンモノラウレート、ノナグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノラウレート、ジグリモノステアレート、トリグリセリンモノステアレート、テトラグリセリンモノステアレート、ペンタグリセリンモノステアレート、ヘキサグリセリンモノステアレート、ヘプタグリセリンモノステアレート、オクタグリセリンモノステアレート、ノナグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノステアレート、ジグリモノオレート、トリグリセリンモノオレート、テトラグリセリンモノオレート、ペンタグリセリンモノオレート、ヘキサグリセリンモノオレート、ヘプタグリセリンモノオレート、オクタグリセリンモノオレート、ノナグリセリンモノオレート、デカグリセリンモノオレート等が挙げられる。
本発明では、HLBが11〜14であるショ糖脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルであればとくに制限はないが、安定性の点で特にHLBが11〜14であるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることが好ましい。更に好ましくは、ヘキサグリセリンモノオレート、デカグリセリンモノオレート、ヘキサグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノラウレート、ヘキサグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノステアレートが使用される。
【0016】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは下式(化1)のような構造をしている。
【0017】
【化1】

【0018】
上式(化1)中のnはグリセリンの平均重合度であり、好ましくは6〜10であり、更に好ましくは8〜10である。
上式(化1)中のRは水素原子または脂肪酸である。Rは好ましくは、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸である。
【0019】
(C)炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種以上は、洗浄剤組成物中0.5〜10重量%含有される。この理由は、0.5重量%未満の場合充分な洗浄性が得られないからであり、10重量%を超えると洗浄剤組成物中に溶解せず沈殿したり、トリガーが詰まったりするからハンドスプレー用の洗浄剤組成物としては不適であり、いずれの場合も好ましくないからである。尚、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素ナトリウムは食品添加物として認められた、安全性が高い物質である。
【0020】
前記炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種以上は、洗浄剤組成物中で電気分解された電解液を用いていてもよい。このような電解液は、当業者により一般的に知られている方法で調製されればよい。その一例としては、水電解の方法と同じ方法により得られるものである。具体的には、例えば、まず、HDP(高密度ポリエチレン樹脂)やPVC(ポリ塩化ビニール樹脂)等の電解槽を用意し、その電解槽に電極としてチタンに白金メッキしたものを陽極、陰極に用い、この陽極と陰極との間に陽極液と陰極液との混入防止用にPP(ポリプロピレン樹脂)製の不織布を隔膜としてセットする。次に、この電解槽に0.5〜10重量%の炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種以上の水溶液を電解液として所定量満たし、その後上記電極間に所定の直流電流を流して電気分解する。その結果、電解液は陰極側で還元されて得られる。またその電気伝導度は100mS/m以上であることが好ましい。
【0021】
この実施形態の場合、本発明の洗浄剤組成物に含まれる(C)炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種以上、及び(D)水の一部又は全量として、前述の電気分解をした電解液を使用してもよい。
本発明の洗浄剤組成物に電解液が使用された場合、その電気分解の程度は、例えば、pH、電気伝導度、或いはイオン量を測定することにより確認できる。炭酸水素ナトリウムを電気分解した電解液が使用された場合は、例えば、pH10.4以上を示し、また電気伝導度は650mS/mを示す。
【0022】
本発明の洗浄剤組成物はpH8〜12、好ましくはpH9〜11であり、更に好ましくはpH10〜11である。任意のpHに設定するために、(C)成分(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素ナトリウム)の組み合わせ、或いは、これらの含有比率を調整して、洗浄剤組成物に溶解しても良い。或いは、任意のpHに設定するために、(C)成分を電気分解した電解液を用いても良い。電解液のpHは、電解時間によって任意に調整することができる。前述のpHを有する洗浄剤組成物は、特に親水性の汚れに対する洗浄性が高いため優れる。
【0023】
(D)水は、本発明の洗浄剤組成物の残部として含まれる。従って、その含量は特に限定されないが、上記(A)乃至(C)(或いは、(A)乃至(C)と、以下に示す任意の成分等)が夫々必要量含まれて組成物全体が100%となるよう配合される。
【0024】
以下、本発明の洗浄剤組成物に含まれる任意成分について説明する。尚、本発明の洗浄剤組成物に含まれる任意成分として、好ましくは食品添加物に認められた安全性の高い物質が採用される。
【0025】
本発明の洗浄剤組成物には洗浄性を向上させる目的で(E)有機酸塩を含んでもよい。その含有量は、洗浄剤組成物中0.1〜5重量%含有される。この理由は、0.1重量%未満の場合、洗浄性を向上させる効果がなく、5重量%を超えると洗浄剤組成物中に溶解せず沈殿するためハンドスプレー用の洗浄剤組成物としては不適であるから、いずれの場合も好ましくないからである。
【0026】
前記有機酸塩としては、たとえば、酒石酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酒石酸カリウム、グルコン酸カリウム、クエン酸カリウム、安息香酸カリウムが挙げられるが、これらのうち、酒石酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム及び/又は安息香酸ナトリウムが好適に使用される。酒石酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酒石酸カリウム、グルコン酸カリウム、クエン酸カリウム、及び安息香酸カリウムは食品添加物として認められた安全性が高い物質である。
【0027】
本発明の洗浄剤組成物には、上記必須成分である(A)〜(D)成分、並びに任意成分である(E)成分に加え、本発明の効果を妨げない範囲で、所望により、増粘剤、研磨剤、殺菌剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、香料、染料、ハイドロトロープ剤等を適宜配合することができる。
【0028】
本発明の洗浄組成物は、25℃での粘度が1000mPa・s以下であることが好ましく、500mPa・s以下であることが更に好ましく、100mPa・s以下であることが更に好ましい。洗浄組成物の粘度が1000mPa・s以上であれば、トリガーが詰まるからハンドスプレー用の洗浄剤組成物としては不適である。尚、粘度の測定方法については、当業者が一般的に取り得る方法にて測定すれば良い。
【0029】
本発明の洗浄剤組成物は、一般に用いられる配合槽及び攪拌機を有する混合設備を使用して、定法により製造することができる。
【0030】
本発明の洗浄剤組成物の使用形態について説明する。
本発明の洗浄剤組成物は、貯蔵安定性、低温安定性、及び起泡性がいずれも高いため、ハンドスプレーの形態として、使用対象面へ泡状又は霧状に噴射(スプレー)して使用することができる。
例えば、洗浄剤の貯蔵安定性、低温安定性が低い場合、気温の変化によって洗浄剤はゲル化したり、沈殿物が析出したりする。このような洗浄剤をハンドスプレーの形態で噴射(スプレー)して使用すると、そのトリガーが詰まる原因になり、使用できない。また、洗浄剤の起泡性が低いと、ハンドスプレーにより斜面や垂直面に対し噴射すると、すぐに洗浄剤が垂れてしまい、結果、充分な洗浄力が得られない。
即ち、本発明の洗浄剤組成物は、貯蔵安定性、低温安定性、及び起泡性がいずれも良好なため、上記の問題を引き起こすことなく、好適にハンドスプレーの形態として使用可能である。
本発明の洗浄剤組成物の使用対象面は、特に限定はされず、台所まわり、シンク、調理器具、食器、窓ガラス、家電製品、照明器具、家具類、トイレ、サッシ、鏡、洗面台、換気扇、レンジ、冷蔵庫、レンジフード、湯沸器、壁面(タイル面、化粧合板、ビニール壁紙)等のプラスチック、金属、ガラス、おもちゃ等あらゆる対象に好適に使用することができる。特に口に入るものを使用する場所で好適に使用することができる。尚、本発明でいう「ハンドスプレー用洗浄剤組成物」とは、トリガー式で洗浄剤を噴射(スプレー)する、例えば、プラスチック等の容器に洗浄剤を充填し、トリガーの噴出部より泡状又は霧状に噴射(スプレー)して対象面の汚れを洗浄する洗浄剤組成物をいう。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の洗浄剤組成物を、実施例を用いてより詳細に説明する。
本発明の洗浄剤組成物の起泡性、洗浄性、貯蔵安定性及び低温安定性を以下の方法により評価した。
[本発明の洗浄剤組成物の製造]
本発明の洗浄剤組成物である実施例1〜13、及び比較例1〜10を製造するために使用した原料は、それぞれ図1〜2に示す。図中、各原料の同列に示される数字は配合量(重量%)を示す。
【0032】
図中のエタノールとしては、エチルアルコール(日本アルコール販売株式会社)を使用した。
【0033】
図中のグリセリン脂肪酸エステル(HLB10)としてテトラグリセリンモノラウレート(坂本薬品工業株式会社/ML−310)を使用した
グリセリン脂肪酸エステル(HLB11)として、ヘキサグリセリンモノオレート(坂本薬品工業株式会社/MO−5S)を使用した。
グリセリン脂肪酸エステル(HLB12)として、デカグリセリンモノオレート(理研ビタミン株式会社/ポエムJ−0381V)を使用した。
グリセリン脂肪酸エステル(HLB14)として、ヘキサグリセリンラウレート(坂本薬品工業株式会社/ML−500)を使用した
グリセリン脂肪酸エステル(HLB16)としてデカグリセリンモノカプリレート(坂本薬品工業株式会社/MCA−750)を使用した。
ショ糖脂肪酸エステル(HLB15)としてラウリン酸ショ糖エステル(第一工業製薬株式会社/L−150A)を使用した。
ショ糖脂肪酸エステル(HLB16)としてラウリン酸ショ糖エステル(第一工業製薬株式会社/L−160A)を使用した。
【0034】
図中の炭酸水素ナトリウムとして、「炭酸水素ナトリウム(キシダ化学株式会社)」を使用した。炭酸ナトリウムとして、「炭酸ナトリウム(キシダ化学株式会社)」を使用した。炭酸カリウムとして、「炭酸カリウム(キシダ化学株式会社)」を使用した。
図中で「炭酸水素ナトリウム(電気分解)」と示されるものは、炭酸水素ナトリウム水溶液中で電気分解していることを示す。
【0035】
図中のクエン酸ナトリウムとして「クエン酸ナトリウム(キシダ化学株式会社)」を使用した。グルコン酸ナトリウムとして「グルコン酸ナトリウム(キシダ化学株式会社)」を使用した。
【0036】
上記の原料を、常温または加温によって撹拌混合して実施例1〜13、及び比較例1〜10を得た。それぞれのpHを測定して図中に示す。
【0037】
[本発明の洗浄剤組成物の評価]
実施例1〜13及び比較例1〜10に対し、起泡性、洗浄性、貯蔵安定性及び低温安定性について以下の評価試験を実施した。夫々の試験を、各実施例、或いは各比較例に対し、5回ずつ行った。図中の評価と同列に示す数字は、各実施例(又は比較例)夫々における5回の試験から得られた判定基準に基づく平均点である。
【0038】
(起泡性の評価)
上記の洗浄剤組成物入りのハンドスプレーを使用して、ステンレス板の水平面に対して洗浄剤組成物を5回噴射し、泡が無くなるまでの時間を測定した。
【0039】
<判定基準>
5:31秒以上
4:21〜30秒
3:11〜20秒
2:6〜10秒
1:0〜5秒
【0040】
(洗浄性の評価)
内容物を、噴出する噴出孔を有する市販の泡タイプのハンドスプレー容器を準備した。この容器に洗浄剤組成物(実施例及び比較例)を充填した。次に、金属製板の一辺を持ち上げて斜面を形成し、予め食用油を酸化させて調製した酸化油をこの斜面に塗布した。
金属製板表面の酸化油を目がけて、洗浄剤組成物を3回噴射し、酸化油が落ちる状態を目視で観察した。
【0041】
<判定基準>
5:汚れを良好に落とすことを目視で観察できる
4:汚れをほとんど落とすことを目視で観察できる
3:汚れを大体落とすことを目視で観察できる(泡の留まる程度は、2点と4点の判定基準の間とする)
2:汚れを僅かに落とすことを目視で観察できる
1:汚れをほとんど落とすことができないことを目視で観察できる
【0042】
(貯蔵安定性の評価)
洗浄剤組成物(実施例及び比較例)を恒温機に入れて30日間静置した。この期間中、恒温機は、2℃と50℃を12時間毎に繰り返すように設定された。30日後に、外観を目視で観察した。
【0043】
<判定基準>
5:沈殿、分離、ゲル化、不純物いずれの不良も見られない。
4:沈殿、分離、ゲル化、不純物のうち全て或いはいくつかの不良が微量に見られる。
3:沈殿、分離、ゲル化、不純物のうち全て或いはいくつかの不良が少量に見られる。
2:沈殿、分離、ゲル化、不純物のうち全て或いはいくつかの不良がはっきり見られる。
1:沈殿、分離、ゲル化、不純物のうち全て或いはいくつかの不良が著しく見られる。
【0044】
(低温安定性の評価)
洗浄剤組成物(実施例及び比較例)を恒温機に入れて30日間静置した。この期間中、恒温機は、4℃に設定された。30日後に、外観を目視で観察した。
【0045】
<判定基準>
5:沈殿、分離、ゲル化、不純物いずれも見られない。
4:沈殿、分離、ゲル化、不純物のうち全て或いはいくつかの不良が微量に見られる。
3:沈殿、分離、ゲル化、不純物のうち全て或いはいくつかの不良が少量に見られる。
2:沈殿、分離、ゲル化、不純物のうち全て或いはいくつかの不良がはっきり見られる。
1:沈殿、分離、ゲル化、不純物のうち全て或いはいくつかの不良が著しく見られる。
【0046】
比較例1は、HLBが10のグリセリン脂肪酸エステルを含む。比較例2乃至6は、HLB15又は16のグリセリン脂肪酸エステル或いはショ糖脂肪酸エステルを含む。これらの合計評価点はいずれも10以下であり、洗浄剤としてうまく機能しない。HLB15又は16である界面活性剤は、いずれも起泡性が劣ることが原因で十分な洗浄効果を得ることができない。また、HLBが10のグリセリン脂肪酸エステルを含む洗浄剤は、貯蔵安定性及び低温安定性に劣り、著しく多量の沈殿物が確認された。
【0047】
特許文献1(特開2005−60563号公報)及び特許文献2(特開平2−173100号公報)には、HLB15又は16であるグリセリン脂肪酸エステル(デカグリセリンモノラウレート、ヘキサグリセリンモノラウレート)或いはショ糖脂肪酸エステル(ラウリン酸ショ糖エステル)以外に、プロピレングリコールステアリン酸エステル(HLB4)、グリセリンモノカプリル酸エステル(HLB3)、ステアリン酸ソルビタンエステル(HLB5)、プロピレングリコールラウリン酸エステル(HLB4)、グリセリンモノカプリル酸エステル(HLB3)、ラウリン酸ソルビタンエステル(HLB7)等が洗浄剤に使用されている。
【0048】
HLBが低い界面活性剤は、水溶性が低く、結果として多量の多価アルコールと混合して含まざるを得ない。そして、このように多量の多価アルコールを含むと、低温安定性が悪く、またゲル化する。このような洗浄剤は、使用形態が制限され、例えばハンドスプレーの形態で使用できない。
また、HLB15又は16である界面活性剤は、起泡性を確保するために高濃度で使用されている。
【0049】
比較例7乃至10は、本発明の洗浄剤組成物の必須構成のうち、エタノールを含まないものである。これら比較例は、起泡性が劣る。また、貯蔵安定性も低温安定性も劣る。これらの合計評価点はいずれも10点であった。
【0050】
実施例1乃至13は、いずれもHLB11〜14のグリセリン脂肪酸エステルを使用して調製された。これら実施例は、起泡性、洗浄性、貯蔵安定性、低温安定性のいずれの試験においても4点以上の評価であり、総合点はいずれも19点以上である。
従って、HLB11〜14のグリセリン脂肪酸エステル或いはショ糖脂肪酸エステル、エタノール、炭酸水素ナトリウム(又は炭酸ナトリウム、炭酸カリウム)及び水を必須成分として含む本発明の洗浄剤組成物は、優れた起泡性及び洗浄力を備えるとともに、貯蔵時、特に低温時にゲル化せず低い粘性を有するから、ハンドスプレー用の洗浄剤組成物として好適に使用できる。
【0051】
実施例4乃至9は、炭酸水素ナトリウムが電気分解された電解液を用いている。これら洗浄剤組成物は、炭酸水素ナトリウムが電気分解していない場合と比較して、洗浄性に優れる。
【0052】
また、実施例8乃至13の洗浄剤組成物は、有機酸塩を更に含む。これら実施例は、有機酸塩を含まない実施例と比較して、洗浄性に優れる。
【0053】
以上のように、少なくとも、HLB11〜14のグリセリン脂肪酸エステル或いはショ糖脂肪酸エステル、エタノール、炭酸水素ナトリウム(又は炭酸ナトリウム、炭酸カリウム)及び水を必須成分として含む本発明の洗浄剤組成物は、優れた洗浄力を備えるとともに、貯蔵時、特に低温時にゲル化せず低い粘性を有するから、ハンドスプレー用の洗浄剤組成物として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】洗浄性、起泡性、貯蔵安定性及び低温安定性の評価試験における、本発明の洗浄剤組成物である実施例及び比較例の評価結果である。
【図2】洗浄性、起泡性、貯蔵安定性及び低温安定性の評価試験における、比較例の評価結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドスプレー用洗浄剤組成物であって、
エタノールを10〜30重量%と、
HLBが11〜14であるショ糖脂肪酸エステル及び/又はグリセリン脂肪酸エステルを0.1〜5重量%と、
炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種以上を0.5〜10重量%と、
水を含む洗浄剤組成物。
【請求項2】
前記炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種以上が電気分解された電解液を用いることを特徴とする請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項3】
多価アルコールを含まないことを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄剤組成物。
【請求項4】
有機酸塩0.1〜5重量%を、さらに含むことを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の洗浄剤組成物。
【請求項5】
食品添加物のみを添加することにより製造される洗浄剤組成物であることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の洗浄剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−24303(P2010−24303A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185403(P2008−185403)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000126528)株式会社アサヒペン (14)
【Fターム(参考)】