説明

洗浄組成物

(i)〜(iv)を含む組成物:(i)10〜25重量%の1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、好ましくは16〜24重量%の1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、(ii)62〜70重量%のトランス−ジクロロエチレン、好ましくは63〜68重量%のトランス−ジクロロエチレン、(iii)10〜21重量%のノナフルオロメトキシブタン、好ましくは11〜17重量%のノナフルオロメトキシブタン、(iv)1〜4重量%のノナフルオロエトキシブタン、好ましくは2〜4重量%のノナフルオロエトキシブタン。上記組成物の洗浄剤、溶剤、脱脂剤、およびフラックス除去剤または乾燥剤としての使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象はハロゲン化炭化水素をベースにした洗浄組成物にある。
【背景技術】
【0002】
1,1,2−トリクロロ−1,2,2,−トリフルオロエタン(F113)は非常に多様な固体(金属部品、ガラス、プラスチック、複合材料)の表面を洗浄、脱脂するために工業的に広く用いられている。これらの固体表面は不純物、特に有機物に由来する不純物の残留物を無くすか、少なくともできるだけ低くする必要がある。F113は使用材料に対して攻撃的でない性質を有するのでこの用途に特に適している。この化合物は特にプリント回路の製造分野ではんだ接合品質を良くするための物質(フラックスとよばれる)の残留物を除去するために使用されている。この除去操作は当該業界では「フラックス除去」とよばれている。
【0003】
重金属部品の脱脂や、高品質・高精度機械部品、例えばジャイロスコープや軍用機器、航空宇宙機器または医療用機器の洗浄でのF113の利用も挙げることができる。一般に、F113は種々の用途での洗浄能力を改良するために他の有機溶剤(例えばメタノール)と組み合わせて使用される。
【0004】
さらに、F113は特に光学分野でも用いられる。光学分野では水分を含まない表面すなわち測定方法(Karl Fisher法)で水が検知できない痕跡量でしか存在しない表面を必要とする。F113は光学分野の表面の乾燥(または脱湿)操作で疎水性界面活性剤と組み合わせて用いられる。
【0005】
しかし、F113は成層圏オゾン層を攻撃または破壊する疑いがあるクロロフルオロカーボン(CFC)の一種であるため、F113ベースの組成物の使用は現在禁止されている。
【0006】
オゾン層を破壊するまたは温室効果を増大させる問題がないF113の代替物を提供するために様々な解決策が提案されている。各化合物の温室効果はそのGWP(地球温暖化係数)で定量化される。このGWPではその分子による固有放射線吸収効果だけでなく、大気中での分子の寿命(または所定時間、一般には1世紀の間の濃度)も考慮する。このGWPは基準気体のCO2に対する相対値で示される。
【0007】
特許文献1(米国特許第US−P−6770614号明細書)には1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(365mfc)、トランス−ジクロロエチレン(tDCE)、エーテル、例えばノナフルオロメトキシブタン(HFE7100)またはノナフルオロエトキシブタン(HFE7200)と、メチラールおよびアルコールとを含むF113代替組成物が記載されている。
【0008】
ペンタフルオロブタンの量は20〜55重量%、好ましくは25〜50重量%であると記載されている。トランス−ジクロロエチレンの量は40〜70重量%、好ましくは53〜62重量%であると記載されている。エーテルの量は20%以下、好ましくは5〜15重量%以下であると記載されている。メチラールおよび/またはアルコールの最低限の量は明示されていないが、実施例からメチラールの量は約1重量%で、アルコール(イソプロパノール)の量も約1重量%であることがわかる。この文献の組成物には引火性であるという欠点がある。
【0009】
特許文献2(国際特許第WO−A−00/36046号公報)にはごく一般的なペンタフルオロペンタンとフッ素化エーテルと任意成分の有機溶剤との混合物が記載されている。有機溶剤としては、塩素化溶剤、例えばトランスジクロロエチレンも使用できる。
【0010】
特許文献3(国際特許出願第WO−A−0056833号公報)の対象はペンタフルオロブタンと、トランス−ジクロロエチレンと、ノナフルオロメトキシブタンとの混合物から成る洗浄組成物にある。提案されている量(重量%)は1〜98/1〜64/1〜75である。この組成物の例としては(重量%で)35%のペンタフルオロブタンと、64%のトランス−ジクロロエチレンと、1%のノナフルオロメトキシブタンとを含む混合物が挙げられる。
上記の特許文献3の継続出願である特許文献4(米国特許出願第US20050267006号明細書)ではペンタフルオロブタンと、トランス−ジクロロエチレンと、ノナフルオロメトキシブタンと、イソプロパノールとの四元混合物が請求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第US−P−6770614号明細書
【特許文献2】国際特許第WO−A−00/36046号公報
【特許文献3】国際特許出願第WO−A−0056833号公報
【特許文献4】米国特許出願第US20050267006号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
金属部品の精密洗浄および/または脱脂に関して従来の組成物よりも有効で、好ましくは非引火性で、有利には機械で使用した時に非引火性を維持することができる、F113の代替物としての洗浄組成物に対するニーズが依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、(i)〜(iv)を含む組成物を提供する:
(i)10〜25重量%の1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、
(ii)62〜70重量%のトランス−ジクロロエチレン、
(iii)10〜21重量%のノナフルオロメトキシブタン、
(iv)1〜4重量%のノナフルオロエトキシブタン。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明組成物は、(i)16〜24重量%の1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン;(ii)63〜68重量%のトランス−ジクロロエチレン;(iii)11〜17重量%のノナフルオロメトキシブタンおよび(iv)2〜4重量%のノナフルオロエトキシブタンを含むのが好ましい。
【0015】
本発明組成物はアルコールまたはメチラールを含まないのが有利である。
【0016】
本発明はさらに、基本的に下記(i)〜(iv)で構成される組成物を提供する:(i)10〜25重量%の1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、(ii)62〜70重量%のトランス−ジクロロエチレン、(iii)10〜21重量%のノナフルオロメトキシブタンおよび(iv)1〜4重量%のノナフルオロエトキシブタン。
【0017】
上記組成物は下記で構成するのが好ましい:
(i)16〜24重量%の1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン;
(ii)63〜68重量%のトランス−ジクロロエチレン;
(iii)11〜17重量%のノナフルオロメトキシブタン;および
(iv)2〜4重量%のノナフルオロエトキシブタン。
【0018】
本発明の一実施例では、本発明組成物は1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、有利には0.1重量%以下のメチラールまたはアルコール以外の化合物を含む。
【0019】
本発明の別の対象は、本発明組成物の洗浄剤、溶剤、脱脂剤、フラックス除去剤または乾燥剤としての使用、好ましくは金属部品の精密洗浄および/または脱脂での使用にある。
【0020】
本発明は、上記4つの化合物を組み合わせたものを、好ましくはメチラール、特にアルコールのような化合物の非存在下で用いる。従来の複数の組成物ではアルコールの存在を必要とする。本発明で用いる「アルコール」と言う用語は特に炭素原子が6以下の直鎖または分岐鎖のアルカノールを意味する。本発明ではこのアルカノールは存在しないのが好ましい。
【0021】
本発明組成物の上記成分自体は公知であり、市販されている。用いるエーテルは例えば3M社から商品名Novec(登録商標)で入手できる。エーテルは複数の異性体、例えば1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロ−4−エトキシブタン、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−3−エトキシ−プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−エトキシ−2−(トリフルオロメチル)プロパン、1,1,1,1,2,3,3,4,4,4−ノナフルオロ−2−エトキシブタン、および、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロ−4−メトキシブタン、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−2−(トリフルオロ−メチル)−3−メトキシプロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−(トリフルオロメチル)プロパンおよび1,1,1,2,3,3,4,4,4−ノナフルオロ−2−メトキシブタンの形で入手できる。
これらの成分は当業者に公知の通常の方法で混合できる。
【0022】
本発明組成物は(i)〜(iv)を含む:
(i)10〜25重量%の1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、好ましくは16〜24重量%の1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン
(ii)62〜70重量%のトランス−ジクロロエチレン、好ましくは63〜68重量%のトランス−ジクロロエチレン
(iii)10〜21重量%のノナフルオロメトキシブタン、好ましくは11〜17重量%のノナフルオロメトキシブタン
(iv)1〜4重量%のノナフルオロエトキシブタン、好ましくは2〜4重量%のノナフルオロエトキシブタン。
【0023】
本発明組成物はアルコールまたはメチラールを含まないのが有利である。
【0024】
本発明の一実施例では、本発明組成物は1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、有利には0.1重量%以下のメチラールまたはアルコール以外の化合物を含む。
【0025】
本発明組成物は、1%以下のその他の化合物、例えば安定剤または界面活性剤をさらに含むことができる。
【0026】
安定剤は、組成物と水との接触(加水分解)または(洗浄される固体表面を形成する)軽金属との接触で生じる化学的攻撃および/または洗浄プロセスで起こり得るフリーラジカルの攻撃から組成物を守るために使用できる。ニトロアルカン(特にニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロパン)およびエーテル(1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン)が挙げられる。安定剤の量は1%以下、一般に0.1〜0.5%である。最終組成物の沸点に近い沸点を有する安定剤が好ましい。
【0027】
界面活性剤は例えば溶液の乾燥で有用である。本発明組成物と相溶性のあるそれ自体公知の任意の界面活性剤を使用できる。
【0028】
本発明組成物で使用可能な界面活性剤は、例えば下記文献に記載されている。
【非特許文献1】ウルマン(Ullman)工業化学百科辞典、第5版、1987年、第A8巻、338〜350頁。
【0029】
カチオン、アニオン、ノニオンおよび両性界面活性剤を使用できる。例えば、脂肪酸、脂肪エステル、アルキルベンゼンスルホネート、アルカンスルホネート、α−オレフィンスルホネート、α−スルホン化脂肪酸エステル(SES)、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、第4級アンモニウム化合物、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールフェニルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、脂肪アルコールポリグリコールエーテル、酸化エチレン/酸化プロピレンブロックコポリマー、アルキルベタイン、アルキルスルホベタイン、モノ−またはジアルキル燐酸のテトラアルキルアンモニウム塩、または、少なくとも一つのイミダゾリドン基を含む界面活性剤を使用できる。少なくとも一つのフッ素置換基を含む上記の界面活性剤も使用できる。特に、少なくとも一つのポリフッ素化アルキル鎖または一つのポリフッ素化芳香族置換基を含む界面活性剤も使用できる。界面活性剤の量は例えば組成物の0.05〜0.5重量%、好ましくは0.1〜0.3重量%である。
【0030】
本発明の組成物は引火性でないという利点を有する。
【0031】
本発明組成物は組成物中にメチラールまたはアルコールが存在しないか、実質的に存在しなくても、洗浄特性は優れている。
【0032】
本発明の組成物にはさらに、工業用洗浄機械での使用時に非引火性を維持するという利点がある。「洗浄機械」とは少なくとも2つのタンクを備え、その一方で洗浄組成物を沸騰させて使用する任意の機械を意味する。「使用時に非引火性を維持する」とは上記機械内に存在する洗浄組成物の蒸気が火炎と接触したときに発火しないことを意味する。
【0033】
本発明の組成物のGWP値は極めて低く、環境に優しい。
【0034】
本発明組成物はF113と同じ用途で有用である。従って、本発明組成物は固体表面の洗浄および脱脂、プリント回路のフラックス除去(フラックス残留物で汚れたプリント基板の洗浄およびフラックスの洗浄)および表面乾燥操作(固体物品表面に吸着された水を除去する乾燥剤としての使用)での使用に特に適している。これらの組成物は金属部品の精密洗浄および/または脱脂で用いるのが好ましい。処理される表面は金属、プラスチック、ガラスまたは複合材料、好ましくは金属で作ることができる。
【0035】
使用モードに関しては特に液体組成物の使用、さらにエアロゾルによる使用、洗浄および/または乾燥に適した装置での使用が挙げられる。
【0036】
本発明組成物はさらに、冷却組成物および熱伝導流体、消火組成物、推進剤、発泡剤、膨張剤、気体誘電体、重合またはモノマー媒体、支持流体、研磨剤および電力生産ユニット用流体としても有用である。
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0037】
実施例1
使用時の引火性
火炎と接触する種々の組成物の挙動を、工業的に使用される洗浄機を代表する各種洗浄機で組成物を使用して測定した。使用する洗浄機はMEGブランドのものである。第1洗浄機と第2洗浄機は冷却ユニットによる冷却システムを有し、それぞれ2および3つのタンクを備える。第3洗浄機は2つのタンクを有し、水で冷却する。
[表1]の各組成物を用いて20時間運転した後に洗浄機の蓋を開けて火炎をゆっくりと入れる。3つの洗浄機で火炎が消えた場合、組成物は燃焼しないとした。3つの洗浄機の少なくとも一つで蒸気が火炎と接触して発火した場合には組成物は洗浄機内で燃焼するとした。
【0038】
【表1】

【0039】
組成物Aは本発明によるものである。組成物G、H、IおよびJは比較例の組成物である。
【0040】
実施例2
引火性
種々の洗浄組成物の引火点をSetaflash装置でASTM D 3828規格で説明されている標準条件に従って−26℃〜+50℃の温度範囲で測定した。各組成物の空気中での引火性を、これらの洗浄溶液を火炎と数センチリットルの距離に接触させて評価した。溶液が発火した場合には、火炎が存在する時間を記録する。
結果は[表2]に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
実施例3
脱脂
研磨し且つ予備洗浄した寸法が30×10mmのステンレス鋼(316L型)試験片を正確に0.1mg秤量した。この試験片の表面に少量の市販のワセリンを塗布し、油で被覆された試験片を再度秤量し、得られた重量を出発重量とする。出発材料の測定後、各試験片を室温に維持した洗浄組成物を入れたビーカー中に5分間浸漬し、次いで、空気中で5分間乾燥させる。この処理後、試験片を再度秤量し、各油の除去率を測定する。
【0043】
【表3】

【0044】
実施例4
潤滑油の脱脂
実施例1と同じ操作を行うが、航空産業で用いられる潤滑グリースを用いる。
結果は[表4]に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
実施例5
地球温暖化係数(GWP)
100年間にわたる地球温暖化係数(GWP)をGWP(CO2)=1を基準として計算した。
組成物HのGWPは670で、組成物AのGWPは476である。
【0047】
実施例6
実施例3と同じ操作を行うが、10重量%の365mfcと、69重量%のTDCEと、19重量%のHFE 7100と、2重量%のHFE 7200とを含む組成物を用いる。
液体ワセリンの除去率は98.5%である。
【0048】
実施例7
実施例4と同じ操作を行うが、実施例5に記載の組成物を用いる。
潤滑油の除去率は93.2%である。
実施例6および7で用いる組成物は引火点(ASTM D3828規格)がなく、洗浄機内で燃焼しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)〜(iv)を含む組成物:
(i)10〜25重量%の1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、
(ii)62〜70重量%のトランス−ジクロロエチレン、
(iii)10〜21重量%のノナフルオロメトキシブタン、
(iv)1〜4重量%のノナフルオロエトキシブタン、好ましくは2〜4重量%のノナフルオロエトキシブタン。
【請求項2】
1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンが16〜24重量%の比率で存在する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
トランス−ジクロロエチレンが63〜68重量%の比率で存在する請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ノナフルオロメトキシブタンが11〜17重量%の比率で存在する請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンと、トランス−ジクロロエチレンと、ノナフルオロメトキシブタンと、ノナフルオロエトキシブタンとで主として構成される請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物の洗浄剤、溶剤、脱脂剤およびフラックス除去剤または乾燥剤としての使用。

【公表番号】特表2012−505945(P2012−505945A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531534(P2011−531534)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051881
【国際公開番号】WO2010/043796
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】