洗濯廃液の処理方法
【課題】非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液の蒸発濃縮時の発泡を抑制できる洗濯廃液の処理方法を提供する。
【解決手段】次亜塩素酸供給装置45の次亜塩素酸貯蔵タンク46内の次亜塩素酸水溶液を、次亜塩素酸供給管47を通して、洗濯廃液収集タンク2内の非イオン界面活性剤、および洗濯時に衣類から溶出した高級脂肪酸、高級アルコールおよび汗(塩分)を含む洗濯廃液に添加する。洗濯廃液内で高級脂肪酸等により生成された発泡成分が次亜塩素酸によって分解される。この発泡成分が分解された洗濯廃液が加熱器7に導かれて加熱され、濃縮缶5に供給される。このようにして、洗濯廃液が蒸発濃縮される。
【解決手段】次亜塩素酸供給装置45の次亜塩素酸貯蔵タンク46内の次亜塩素酸水溶液を、次亜塩素酸供給管47を通して、洗濯廃液収集タンク2内の非イオン界面活性剤、および洗濯時に衣類から溶出した高級脂肪酸、高級アルコールおよび汗(塩分)を含む洗濯廃液に添加する。洗濯廃液内で高級脂肪酸等により生成された発泡成分が次亜塩素酸によって分解される。この発泡成分が分解された洗濯廃液が加熱器7に導かれて加熱され、濃縮缶5に供給される。このようにして、洗濯廃液が蒸発濃縮される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯廃液の処理方法に係り、特に、原子力プラントおよび核燃料再処理施設等の放射性物質取り扱い施設で発生する洗濯廃液の処理に適用するのに好適な洗濯廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核燃料物質等の放射性物質を取り扱う放射性物質取り扱い施設では、放射線管理区域を設定し、放射性物質による汚染防止、放射性物質の拡散防止、作業者が受ける放射線量の抑制、および放射線管理等の放射線防護手法が適用されている。放射線管理区域内で作業を行う作業者が、放射線管理区域専用の作業着を着用し、点検および工事等に従事することも、放射性物質取り扱い施設における放射線防護の一つである。
【0003】
作業者が着用する、手袋、下着、靴下および作業着等の衣類は、放射性物質取り扱い施設(例えば、原子力プラント)内で洗濯され、放射性物質で汚染されていないことを確認した上で、再使用される。一方、作業着等を洗濯したときに発生する廃液(以下、洗濯廃液と言う)は、放射性物質を含んでいる可能性があるため、原子力プラントが設置された原子力発電所内で処理し、放射性物質を含んでいないことを確認した後、環境に排水され、あるいは、原子力発電所内で再利用される。
【0004】
洗濯廃液の処理方法としては、濃縮缶を用いて洗濯廃液を蒸発濃縮する方法が知られている。この蒸発濃縮法の一例が特開平11−319890号公報に記載されている。ろ過器を通過した洗濯廃液は、紫外線酸化反応器を経て蒸発濃縮器に送られ、蒸発濃縮される。蒸発濃縮器は、洗濯廃液を加熱して洗濯廃液に含まれた水分を蒸発させ、洗濯廃液を濃縮する。蒸発によって発生した蒸気は凝縮され、凝縮水として再利用される(または環境に排水される)。蒸発濃縮器で濃縮された放射性核種を含む洗濯廃液は、セメント等で固化される。蒸発濃縮器で洗濯廃液を濃縮する際に生じる発泡を抑制するために、特開平11−319890号公報に記載された蒸発濃縮法では、蒸発濃縮器に洗濯廃液を供給する前に、洗濯廃液を紫外線反応器に供給し、紫外線反応器内で洗濯廃液に過酸化水素またはオゾンを添加してこの洗濯廃液に紫外線を照射する。紫外線反応器内で洗濯廃液に対してそのような処理を行うことにより、洗濯廃液に含まれた発泡因子が脱離され、TOC成分の一部が酸化分解される。このように紫外線酸化処理された洗濯廃液は、蒸発濃縮器での蒸発濃縮における発泡を抑制する。
【0005】
「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行(2007年6月11日発行)は、32頁に、界面活性剤の種類として、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤および両性界面活性剤を記載している。「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行、pp53−56(2007年6月11日発行)は、さらに、高級脂肪酸および高級アルコール結合したエステル化合物は、非イオン系の界面活性剤として作用する可能性を有することも記載している。
【0006】
浦野博水、研究紹介1「たんぱく質汚れに対する次亜塩素酸イオンの洗浄力」、岡山県工業技術センター・技術情報・No.469、2頁(平成18年3月15日発行)の図1は、次亜塩素酸(HClO)の解離状態を示している。水溶液中の次亜塩素酸が、水溶液のpHにより、塩素(Cl2)、次亜塩素酸(HClO)及び次亜塩素酸イオン(ClO−)の形態をとることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−319890号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行、p32、pp53−56及びpp77−79(2007年6月11日発行)
【非特許文献2】浦野博水、研究紹介1「たんぱく質汚れに対する次亜塩素酸イオンの洗浄力」、岡山県工業技術センター・技術情報・No.469、2頁(平成18年3月15日発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
蒸発濃縮器である濃縮缶において、洗濯廃液の蒸発濃縮処理が繰り返されると、濃縮缶内で、洗剤成分、衣類から溶出した有機物および作業者の汗、皮脂等の成分が濃縮される。洗濯には一般に水道水を使用するため、洗濯廃液は一定量の塩素を含んでいる。さらに、洗濯廃液は、衣類から溶出した作業者の汗等に含まれる塩素を含んでいるため、一般的には数100〜200ppm以上の塩素イオンを含んでいる。塩素濃度が高くなると、濃縮缶の構造材の腐食が進んで濃縮缶の劣化が生じるため、一般的に、濃縮缶内の塩素濃度が所定値(10000ppm)以下になるように管理して運転される。
【0010】
特開平11−319890号公報に記載されたように、洗濯廃液に、金属配管等の金属部材に対して腐食性の高いオゾンまたは過酸化水素を添加した場合には、オゾンまたは過酸化水素を含む洗濯廃液と接触する金属製の配管及び機器の内面が、洗濯廃液に含まれるオゾンまたは過酸化水素によって腐食する可能性がある。
【0011】
ここで、洗濯廃液の蒸発濃縮処理に際して、濃縮缶内において水質によっては泡が生成する場合がある。泡の生成が大きくなると、濃縮缶内の空隙が泡で満たされ、さらに泡が成長すると、泡が濃縮缶で発生した蒸気に含まれるミストを除去するデミスタにまで達する。この場合、洗濯廃液が泡となってデミスタに移行してしまう。デミスタへ移行した泡(廃液)は、デミスタ底部配管より、再び洗濯廃液収集タンクへ回収されるが、濃縮缶からデミスタへの移行量が大きく、洗濯廃液の供給が間に合わずに、濃縮缶内の水位が制御レベルを逸脱して低下することで濃縮運転が継続できない事例が経験されている。このため、予め発泡性の少ない洗剤(例えば、非イオン界面活性剤を含む洗剤)を使用する等、濃縮缶内において発泡が生じないよう配慮されている。しかしながら、衣類からの溶出物あるいは、作業衣に付着した汚れ成分により、洗濯廃液の発泡性が大きく変化し、洗濯廃液処理装置の稼動に支障をきたすことを回避できる新たな洗濯廃液の処理方法が望まれている。
【0012】
本発明の目的は、非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液の蒸発濃縮時の発泡を抑制できる洗濯廃液の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液に次亜塩素酸を含有させ、次亜塩素酸により洗濯液に含まれる界面活性成分を分解し、界面活性成分が分解された前記洗濯廃液を蒸発濃縮することにある。
【0014】
発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液に次亜塩素酸を含有させるので、洗濯時に洗濯廃液に含まれた高級脂肪酸および高級アルコールを基に洗濯廃液内で生成される発泡成分を次亜塩素酸によって分解することができる。このため、非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液の蒸発濃縮時における発泡を著しく抑制することができる。
【0015】
好ましくは、次亜塩素酸を含有する洗濯廃液の生成が、洗濯廃液に次亜塩素酸を添加することによって行われることが望ましい。
【0016】
好ましくは、次亜塩素酸を含有する洗濯廃液の生成が、電解装置を用いて洗濯廃液を電解して洗濯廃液中で塩素イオンより次亜塩素酸を生成することによって行われることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液を蒸発濃縮する際に発生する発泡を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置の構成図である。
【図2】洗濯廃液の沸騰時における発泡の測定方法を示す説明図である。
【図3】高級脂肪酸の発泡性の測定結果を示す説明図である。
【図4】高級脂肪酸ナトリウム塩の発泡性の測定結果を示す説明図である。
【図5】洗濯廃液の発泡性を確認する発泡性試験装置の構成図である。
【図6】過酸化水素の添加量による発泡時間の変化を示す説明図である。
【図7】次亜塩素酸の添加量による発泡時間の変化を示す説明図である。
【図8】次亜塩素酸の化学形態とpHの関係を示す説明図である。
【図9】洗濯廃液の電解を行う電解装置の一例の構造の概要図である。
【図10】図9の電解装置で生成された次亜塩素酸を含み、この次亜塩素酸の濃度が異なる3種類の洗濯廃液(試験液)に対して、図5の発泡性試験装置で行った発泡性確認の実験結果を示す説明図である。
【図11】洗濯廃液の電解を行う、カチオン樹脂膜を有する電解装置の一例の構造の概要図である。
【図12】図11の電解装置で生成された次亜塩素酸を含む洗濯廃液(試験液)に対して、図5の発泡性試験装置で行った発泡性確認の実験結果を示す説明図である。
【図13】図11の電解装置で生成された次亜塩素酸を含む洗濯廃液(試験液)に対して行った発泡性確認の実験結果を示し、電解装置の陽極室のpHによる、60分以上発泡しない状態になるまでの処理時間の変化を示す特性図である。
【図14】図11の電解装置においてカチオン樹脂膜をアニオン樹脂膜に替えた構成で生成された次亜塩素酸を含む洗濯廃液(試験液)に対して行った発泡性確認の実験結果を示し、電解装置の陽極室のpHによる、60分以上発泡しない状態になるまでの処理時間の変化を示す特性図である。
【図15】本発明の他の実施例である実施例2の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置の構成図である。
【図16】本発明の他の実施例である実施例3の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、洗濯廃液に含まれる発泡成分を特定するために、放射性物質取り扱い施設である原子力プラント内で使用される、作業員の衣類から溶出する成分を分析した。衣類の付着成分をメタノールにより溶解・抽出し、その後、ガスクロマトグラフ−質量分析法により分析した。この結果、衣類にはステアリン酸およびパルチミン酸等の高級脂肪酸類、およびオクタコサノール、トリアコンタノール等の高級アルコール類の成分、さらには高級脂肪酸と高級アルコール結合したエステル化合物も検出した。同時に、洗剤中には、ナトリウム塩が含まれていることも確認した。
【0020】
衣類から検出された高級脂肪酸およびナトリウムにより生成する高級脂肪酸ナトリウム塩は、アニオン系の界面活性剤(石鹸)として作用し、発泡性を加速する性質を有する(「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行、pp77−79参照)。また、高級脂肪酸と高級アルコール結合したエステル化合物は、非イオン系の界面活性剤として作用する可能性を有する(「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行、pp53−56参照)。
【0021】
発明者らは、上記の分析結果および「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行に記載された情報に基づいて、洗濯に用いる洗剤自身が発泡性を有していない場合であっても、洗濯時に衣類から溶出した高級脂肪酸および高級アルコールが洗濯廃液内で、アニオン系の界面活性剤および非イオン系の界面活性剤を生成することにより、濃縮缶内内で蒸発濃縮時において、発泡が生じることを新たに見出した。ただし、非イオン系の界面活性剤は、アニオン系及界面活性剤に比べ相対的に発泡性は低くなっている。
【0022】
発明者らは、この新たな知見に基づいて、洗濯廃液の蒸発濃縮時における発泡を抑制する対策を検討した。この結果、発明者らは、次亜鉛素酸を含む洗濯廃液を蒸発濃縮することにより、濃縮缶内における発泡を抑制できることを発見した。
【0023】
上記の新たな知見を得た具体的な検討結果を以下に説明する。
【0024】
発明者らは、最初に、衣類に付着している高級脂肪酸とナトリウムの混合により、発泡成分が生成されることの確認を行った。高級脂肪酸として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸およびステアリン酸を用いた。ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸およびステアリン酸のそれぞれの約100ppm水溶液が100ml準備され、水酸化ナトリウムがそれぞれの水溶液に添加され、それぞれの水溶液(試験液)のpHが約11.8に調整された。発明者らは、これらの試験液の発泡性を、図2に示す試験装置を用いて確認した。pH調整後の一種類の試験液(例えば、ラウリン酸)を500mlのビーカーに移し、このビーカーを電気コンロ上で置いた。そして、ビーカー内の試験液を、電気コンロにより加熱して沸騰させた。試験液が発泡性を有する場合には、ビーカー内の試験液の上部に泡の層が形成される。試験液の容積とこの沸騰により生成される泡の容積の合計を発泡容積と定義し、試験液の沸騰性を示す指標とした。pH調整後の他の三種類の試験液を500mlの別々のビーカーに入れ、それぞれのビーカー内の試験液を電気コンロにより加熱し、試験液を沸騰させた。それぞれの試験液について発泡性を確認した。
【0025】
この4種類の高級脂肪酸に対する発泡性を確認した実験結果を、図3に示す。高級脂肪酸と水酸化ナトリウムを添加したそれぞれの試験液は、発泡性を示し、かつ分子量が大きな高級脂肪酸ほど発泡容積が増加する結果を示した。ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸およびステアリン酸の順に、発泡容積が大きくなった。
【0026】
次に、100ppmの高級脂肪酸のナトリウム塩水溶液、すなわち、100ppmのラウリン酸ナトリウム水溶液、100ppmのパルチミン酸ナトリウム水溶液および100ppmのステアリン酸ナトリウム水溶液をそれぞれ調整した。この調整により、ラウリン酸ナトリウム水溶液のpHは8.2に、パルチミン酸ナトリウム水溶液のpHは9.0に、ステアリン酸ナトリウム水溶液のpHは9.5になった。図2に示す試験装置を用いてこれらの水溶液(試験液)に対して発泡性を確認する実験を、ラウリン酸等と同様に行った。これらの発泡性を確認する実験結果を図4に示す。100ppmのラウリン酸ナトリウムを含む試験液は、発泡容積が120mlとほとんど発泡しなかった。これに対して、100ppmのパルチミン酸ナトリウムを含む試験液および100ppmのステアリン酸ナトリウムを含む試験液の各発泡容積は500ml以上となり、図3に示した高級脂肪酸と水酸化ナトリウム混合液(発泡容積:500ml以上)とほぼ同様の発泡性を示した。
【0027】
これらの試験結果により、洗濯により衣類から溶出する高級脂肪酸等の成分が、洗剤に含まれるナトリウムと反応し界面活性を示すことが、洗濯廃液の発泡性を増加させている原因であることを確認することができた。
【0028】
次に、発明者らは、洗濯廃液が沸騰した際に生じる発泡現象を抑制するために界面活性剤を分解する方法について実験を行ない検討した。
【0029】
試験液(洗濯廃液の模擬液)の発泡性を、図5に示す発泡試験装置を用いて評価した。具体的には、容量1Lの試験液をステンレス製容器に入れ、IHヒータにより加熱して沸騰させた。試験液が発泡性を有する場合には、発生した泡が、ステンレス製容器から、約500mmの高さの発泡観測管内を上昇し、最終的には、冷却器内の冷却管を経由して冷却器の下方に置かれた受け容器(図示せず)に達する。試験液の発泡性は、試験液がステンレス製容器内で沸騰を開始してから発生した泡が受け容器に到達するまでに要する時間で評価した。
【0030】
試験液は、原子力発電所にて使用されている非イオン性の界面活性剤を主成分とする洗剤(商品名:エマルゲンMS−110、花王株式会社製)を250ppm含む洗剤液に、ステアリン酸ナトリウムを50ppm添加して調整した。さらに、酸化剤として30%の過酸化水素水溶液および30ppmの次亜塩素酸水溶液を添加し、発泡を抑制できる酸化剤の添加量を確認した。
【0031】
その結果を図6に示した。図6に示すように、1Lの試験液に対して30%の過酸化水素溶液を約40ml(容積比率として約4%)添加することにより、蒸発濃縮時において試験液(洗濯廃液)の発泡を抑制できるとの結果を得た。なお、図6に示した「↑」は、60分以上発泡現象が生じなかったことを意味している。後述の各図に記載された「↑」も同じ意味である。さらに、図7に示すように、1Lの試験液に対して3ppmの次亜塩素酸水溶液を150ml(容積比率として約15%)添加することにより、洗濯廃液の発泡を抑制できるとの結果を得た。しかし、次亜塩素酸水溶液を添加したケースでは、次亜塩素酸が界面活性剤との反応により分解した後に生成される塩素イオンの濃度が、次亜塩素酸の添加量に比例して増加した。この結果、塩素イオン濃度の増加に応じて蒸発濃縮時の減容率が低下することから、更なる改善の余地があると考えられた。
【0032】
そこで、発明者らは、試験液に新たな塩化物を添加せずに、洗濯廃液に含まれる塩素イオンから電解法により次亜塩素酸を生成し、界面活性剤の分解に適用することを検討した。
【0033】
塩素イオンを含む水溶液を直流の電流を通電して電解すると、(1)式から(3)式の反応により陽極に次亜塩素酸が生成できることが知られている。ここでは、洗濯廃液に塩素イオンとナトリウムイオンが共存しているとして、下記の反応式を示す。陽極(+)では(1)式の反応が生じ、陰極(−)では(2)式の反応が生じ、液中においては(3)式の反応が生じる。
【0034】
2Cl− → Cl2+2e− …(1)
2Na++2H2O +2e−→ 2NaOH+H2 …(2)
Cl2+2NaOH → NaClO+NaCl+H2O …(3)
(1)式から(3)式をまとめると(4)式になる。
【0035】
NaCl+H2O → NaClO+H2 …(4)
さらに、次亜塩素酸は、有機物が存在すると(5)式に示すように酸化剤として作用して有機物を分解する作用を有する。ここでは、有機物をCmHnとして表している。
【0036】
CmHn+(2m+n)NaClO → (2m+n)NaCl+nH2O+mCO2↑ …(5)
また、浦野博水、研究紹介1「たんぱく質汚れに対する次亜塩素酸イオンの洗浄力」、岡山県工業技術センター・技術情報・No.469、2頁に示された水溶液のpHによる水溶液中の次亜塩素酸の形態変化を図8に示す。図8に示すように、水溶液中の次亜塩素酸は、水溶液のpHにより塩素(Cl2)、次亜塩素酸(HClO)および次亜塩素酸イオン(ClO−)の形態をとることが知られている。これに基づいて、発明者らは、電解で塩素を生成するとともに洗濯廃液のpHを調整することにより、洗濯廃液に含まれる界面活性成分の処理効率を向上させることかできると考えた。
【0037】
このような考えに基づいて、発明者らは、模擬洗濯廃液を用いて電解法による界面活性剤の分解実験を行った。この分解実験では、次亜塩素酸を含む試験液を作り、図5に示した発泡試験装置を用いて、この次亜塩素酸を含む試験液の発泡性、すなわち、その試験液に含まれる界面活性成分の分解度合いを確認した。
【0038】
この界面活性成分の分解実験に用いた試験液は、水道水に原子力発電所にて使用されている非イオン界面活性剤を主成分とする洗剤(商品名:エマルゲンMS−110、花王株式会社製)を250ppm含む洗濯液で、作業着を洗濯して調整した。試験液の塩素イオン濃度は、水道水に含まれる塩素濃度約10ppmが共存した。実際の洗濯廃液は、水道水の塩素に加えて作業者の汗等を含むため、100ppm以上の塩素イオンが含まれる。このため、試験液の塩素イオン濃度を、10ppm、60ppmおよび110ppmの3種類に調整した。塩素イオン濃度10ppmの試験液は、塩素濃度が10ppmの水道水に非イオン界面活性剤を主成分とする上記洗剤250ppmを添加してNaClを添加しないで作成した。塩素イオン濃度60ppmの試験液は、塩素濃度が10ppmの水道水に非イオン界面活性剤を主成分とする上記洗剤250ppmおよびNaCl50ppmを添加して作成した。塩素イオン濃度110ppmの試験液は、塩素濃度が10ppmの水道水に非イオン界面活性剤を主成分とする上記洗剤250ppmおよびNaCl100ppmを添加して作成した。
【0039】
これらの試験液のそれぞれにおいて電解装置を用いて次亜塩素酸を生成した。この電解装置は、図9に示すように、電解槽50および直流電源58を有する。電解槽50は、内部に陽極及び陰極を設置している。非イオン界面活性剤を含む上記した試験液が充填される容器51が、ポンプ52が設けられた試験液供給管53によって電解槽50に接続される。電解槽50に接続された戻り管54が容器51に接続される。直流電源58が陽極および陰極に接続される。
【0040】
電解電圧10Vが、直流電源58から電極面積が150cm2である陽極および陰極に印加されている。まず、上記した非イオン界面活性剤を主成分とする洗剤250ppmおよび塩素イオン濃度10ppmを含む1000mlの試験液(第1試験液)が、容器57内に充填される。ポンプ52の駆動により容器51内の試験液が、300ml/minで試験液供給管53を通して電解槽50に供給される。電解槽50内では試験液の電解が行われ、ナトリウムイオンが陰極に集まり塩素イオンが陽極に集まる。塩素イオンが集まる陽極付近でこの塩素イオンより次亜塩素酸が生成される。なお、洗剤には、不純物または添加剤としてNaが含まれる。電解槽50内の試験液が戻り管54により容器51に戻される。このようにして、次亜塩素酸を含む第1試験液が作られる。第1試験液と同様に、上記した非イオン界面活性剤を主成分とする洗剤250ppmおよび塩素イオン濃度60ppmを含む1000mlの試験液(第2試験液)、および上記した非イオン界面活性剤を主成分とする洗剤250ppmおよび塩素イオン濃度110ppmを含む1000mlの試験液(第3試験液)を用いて、電解装置内で、次亜塩素酸を含む第2および第3試験液がそれぞれ作られる。
【0041】
次亜塩素酸を含む第1、第2および第3試験液を、1Lずつ、順番に、図5に示した発泡試験装置のステンレス製容器に入れ、前述した試験液の発泡性を確認する実験と同様に、IHヒータにより加熱して沸騰させ、試験液がステンレス製容器内で沸騰を開始してから発生した泡が受け容器に到達するまでに要する時間により、第1、第2および第3試験液のそれぞれの発泡性、すなわち、各試験液に含まれる界面活性成分の分解度合いを確認した。
【0042】
この実験で得られた各試験液の発泡性の結果を、図10に示す。容器51と電解槽50の間を試験液が循環する循環時間が長くなると、次亜塩素酸の発生量が増えるため、各試験液の発泡性が抑制された。図10は、各試験液で循環時間(分解時間)が長くなると発泡時間)が長くなることを示しており、発泡時間が長いほど、発泡しにくくなる。試験液の塩素イオン濃度が高いほど、すなわち、第1試験液よりも第3試験液で電解電流が増加し、60分沸騰継続後も発泡しない状態に至るまでの界面活性成分の分解時間が短縮された。電解電流が増加すると、次亜塩素酸を生成する(1)式及び(2)式の反応が活発に行われる。このため、試験液の塩素イオン濃度が高いほど、次亜塩素酸の発生量が多くなる。図10に示されるように、塩素イオン濃度が高いほど、発泡時間が60分以上(沸騰60分以上でも発泡しない状態)になるまでに必要な分解時間が少なくなる。図10に示す実験結果によれば、電解によって陽極表面に到達した塩素イオンから次亜塩素酸が生成され、この次亜塩素酸によって試験液に含まれる界面活性成分が分解・消滅されることが分かった。さらに、試験液に含まれる界面活性成分が分解される処理時間(界面活性成分の分解時間)は、試験液の塩素イオン濃度に依存することも明らかになった。なお、各試験液のpHは、9〜10の範囲にあり電解槽50で生成された次亜塩素酸の多くは、比較的安定な次亜塩素酸イオン(HClO−)として存在したものと推定される。
【0043】
次に、発明者らは、試験液のpHを変えて次亜塩素酸の化学形態を変化させた場合における発泡抑制の時間短縮の効果を確認する実験を行った。この実験に用いる試験装置として、図11に示す電解装置を用いた。この電解装置は、内部にカチオン樹脂膜(陽イオン交換膜)を設置した電解槽50Aおよび直流電源58を有している。電解槽50A内には、をカチオン樹脂膜で仕切られた、陽極を設置した陽極室および陰極を設置した陰極室が形成されている。直流電源58が陽極および陰極に接続される。試験液が充填される容器51が、ポンプ52が設けられた試験液供給管53によって電解槽50Aに接続されて陽極室に連絡される。陽極室に連絡される戻り管54が容器51に接続される。ポンプ55を設けた試験液供給管56が電解槽50に接続されて陰極室に連絡され、陰極室に連絡された戻り管57が容器51に接続される。
【0044】
電解電圧10Vが、直流電源58から電極面積が150cm2である陽極および陰極に印加されている。水道水に非イオン界面活性剤を主成分とする前述の洗剤250ppmおよびNaCl50ppmを添加して作成された試験液(塩素イオン濃度:60ppm)を、容器51内に1000ml充填した。容器51内の試験液が、ポンプ52の駆動により150ml/minで、試験液供給管53を通して電解槽50A内の陽極室に供給される。容器51内の試験液が、ポンプ55の駆動により150ml/minで、試験液供給管56を通して電解槽50A内の陰極室に供給される。陽極室内の試験液は戻り管54によって容器51に戻され、陰極室内の試験液は戻り管57によって容器51に戻される。電解槽50A内では、陽極室で発生したナトリウムイオンがカチオン樹脂膜を通過して陰極室に移行し、陰極室で発生した塩素イオンがカチオン樹脂膜を通過して陽極室に移行する。塩素イオンが集まる、陽極室内の陽極付近で塩素イオンより次亜塩素酸が生成される。次亜塩素酸が生成される陽極室内の試験液のpHは、約4.5の弱酸性を示した。このpHの酸性側へのシフトは、陽極室に供給された試験液に含まれるカチオン成分(主にナトリウムイオン)が、カチオン樹脂膜を通過して陰極室に移行した結果として生じた。
【0045】
また、図9に示す電解装置を用いて試験液の電解を行った。この電解装置において、電解電圧10Vが、直流電源58から陽極および陰極に印加されている。水道水に非イオン界面活性剤を主成分とする前述の洗剤250ppmおよびNaCl50ppmを添加して作成された試験液(塩素イオン濃度:60ppm)を、図11に示す電解装置と同様に、容器51内に1000ml充填した。ポンプ52及び55を駆動し、容器51内の試験液を300ml/min(図11に示す電解装置で陽極室および陰極室にそれぞれ供給される試験液の合計流量)でカチオン樹脂膜が設置されていない電解槽50に供給する。電解槽50内で、前述したように、塩素イオンが集まる陽極付近で塩素イオンにより次亜塩素酸が生成される。次亜塩素酸を含む試験液が容器51に戻される。
【0046】
上記したように、図11の電解装置による電解によって得られた次亜塩素酸を含む試験液(便宜的に、カチオン樹脂膜あり試験液という)および図9の電解装置による電解によって得られた次亜塩素酸を含む試験液(便宜的に、カチオン樹脂膜なし試験液という)を、別々に、1Lずつ、図5に示す発泡試験装置のステンレス製容器に入れ、カチオン樹脂膜あり試験液およびカチオン樹脂膜なし試験液の発泡実験を別々に行った。
【0047】
カチオン樹脂膜あり試験液およびカチオン樹脂膜なし試験液のそれぞれの発泡実験の実験結果を図12に示した。カチオン樹脂膜あり試験液において試験液の発泡時間が60分以上に達する界面活性成分の分解時間が、カチオン樹脂膜なし試験液におけるその時間の約1/2に短縮された。カチオン樹脂膜を用いていない図9に示す電解装置に比べてカチオン樹脂膜を有する図12に示す電解装置では、陽極室への塩素イオンの濃縮が生じるため電解電流当りの次亜塩素酸の生成効率が向上し、Naイオンの陰極室への移動による陽極室内のpHの低下が生じるため、生成した次亜塩素酸が安定に存在できる。このため、洗濯廃液に含まれる界面活性成分(発泡成分)を効率的に分解消滅することができ、上記したように界面活性成分の分解時間を短縮できる。
【0048】
この結果に基づいて、発明者らは、次亜塩素酸を含むカチオン樹脂膜あり試験液の作成時に図11の電解装置の陽極室のpHが約4.5であり、図9の電解装置で作成された次亜塩素酸を含むカチオン樹脂膜なし試験液のpHが9〜10であるので、次亜塩素酸を含む試験液のpHが酸性側にシフトすることによって、界面活性成分の分解時間を短縮できる、すなわち、界面活性成分の分解を促進できるという新たな知見を見出した。
【0049】
さらに、発明者らは、図11に示す電解装置を用いて次亜塩素酸を含む試験液でpHが異なる試験液を作成し、これらの試験液の発泡性を確認する実験を行った。水道水に非イオン界面活性剤を主成分とする前述の洗剤250ppmおよびNaCl50ppmを添加して作成された試験液(塩素イオン濃度:60ppm)を、容器51内に1000ml充填した。電解電圧10Vが、直流電源58から電極面積が150cm2である陽極および陰極に印加されている状態で、その試験液を電解槽50Aの陰極室に150ml/minで供給し、陽極室への試験液の供給流量を調節(減少)して陽極室出口での試験液のpHを調節した。このようにして作成された、次亜塩素酸を含んでpHが異なる各試験液を用いて図5に示す発泡試験装置により発泡性を確認する実験を行った。
【0050】
この実験結果を図13に示した。図13から、pHが3〜6までの次亜塩素酸を含む試験液では、60分以上沸騰しても発泡しない状態になるまでの処理時間が、約300分まで短縮された。しかし、pHが6を越える次亜塩素酸を含む試験液では、pHの低下と共に電解電流の増加は生じたが、60分以上沸騰しても発泡しない状態になるまでの処理時間が短縮されなかった。これは、界面活性成分の分解・消滅の速度が、陽極室に存在する塩素イオン濃度により制限されていると考えられる。
【0051】
一方、陽極室に供給された塩素イオンはカチオン樹脂膜により陰極室への移動が制限されるため、カチオン樹脂膜を使用した場合には、陰極室では塩素イオンの濃縮が生じない。よって、さらに、活性成分の分解時間を短縮するためには、pHの調整に加え、陽極および陰極に印加する電解電圧を変更して電流を増加させ、陽極室の塩素イオン濃度を増加することが有効である。
【0052】
発明者らは、pHの調節効果と塩素イオンの濃縮効果を期待し、電解槽にカチオン樹脂膜の替りにアニオン交換膜を設置してこのアニオン樹脂膜により陽極室および陰極室を形成し、陰極室および陽極室それぞれに試験液を供給した。両電極室への試験液の供給量は、それぞれの供給ポンプの流量を設定し変更した。
【0053】
電極面積150cm2、電解電圧10Vの電解条件の電解槽に、60ppmの塩素イオンを含む試験液1000mlから、両極室へ各々150ml/min(流量の合計が300ml/min)で電解槽供給した。また、電解層の出口水は、再び試験液容器に戻し循環した。その際の陽極室のpHは約7を示し、60分以上沸騰しても発泡しない状態になるまでの処理時間が、約450分まで短縮された。さらに、陽極室への塩素イオンの濃縮を加速するため、電解電流と陰極質への試験液の供給量を電解電流に比例させて増加することにより、陽極室出口水のpHを酸性側に調整した。その結果、図13に示すように、陽極質のpHの低下(塩素イオン濃度の濃縮)に伴い60分以上沸騰しても発泡しない状態になるまでの処理時間が短縮され、塩素イオン濃縮の効果が得られた。なお、陽極室出口水pHが2の場合の60分以上沸騰しても発泡しない状態になるまでの処理時間は200分となり、pH3の際の150分よりも増加した。この現象は、図9に示したpHと次亜塩素酸の存在形態の変化より、pHが約3よりさらに低下すると次亜塩素酸は塩素ガス(Cl2)となり、次亜塩素酸として存在する比率が減少することが原因していると推定される。塩素ガスの毒性より、ガスの発生は作業環境の悪化に至る可能性を有する。よって、本発明者らは、次亜塩素酸の酸化反応を高い状態に維持するために、処理時間の短縮および安全性の面より、陽極室のpHを3から6の範囲に調整することが有効と判断した。
【0054】
以下、本発明を実施例で具体的に説明する。
【実施例1】
【0055】
本発明の好適な一実施例である実施例1の洗濯廃液の処理方法を、図1を用いて説明する。本実施例の洗濯廃液の処理方法は、前述した第1の方法である。
【0056】
まず、本実施例の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置1を、図1を用いて説明する。洗濯廃液処理装置1は、洗濯廃液収集タンク2、濃縮缶5、加熱器7、デミスタ10、復水器11および次亜塩素酸供給装置45を備えている。
【0057】
加熱器7は胴体内に複数の伝熱管(図示せず)を設置している。濃縮缶5は、底部に接続される濃縮液供給管15によって加熱器7に接続され、各伝熱管に連絡される。ポンプ6が濃縮液供給管15に設けられる。加熱器7に接続されて各伝熱管に連絡される濃縮液戻り管16が、濃縮缶5に接続される。ボイラー(図示せず)に接続された蒸気管19が加熱器19の胴体に接続される。洗濯廃液収集タンク2は、底部に接続されてポンプ3および開閉弁4が設けられた廃液供給管14によって、ポンプ6の下流で濃縮液供給管15に接続される。開閉弁8が設けられる濃縮液排出管17が、濃縮液供給管15と濃縮液貯蔵タンク9を連絡する。濃縮液貯蔵タンク9に接続された濃縮液排出管18が乾燥粉体固化装置(図示せず)に接続される。
【0058】
次亜塩素酸供給装置45は、次亜塩素酸貯蔵タンク46、ポンプ48および次亜塩素酸供給管47を有する。次亜塩素酸貯蔵タンク46に接続された次亜塩素酸供給管47が、洗濯廃液収集タンク2に接続される。開閉弁49およびポンプ48が次亜塩素酸供給管47に設けられる。
【0059】
デミスタ10が、蒸気排出管20によって濃縮缶5に接続され、配管23によって洗濯廃液収集タンク2に接続される。蒸気排出管21が、デミスタ10と復水器11を接続し、復水器11内に設けられた複数の伝熱管(図示せず)に連絡される。復水器11に接続されて各伝熱管に連絡された凝縮水供給管22が、凝縮水貯蔵タンク12に接続される。復水器11の胴体には、冷却器(図示せず)に接続された配管25が接続される。
【0060】
洗濯廃液処理装置1を用いて行われる本実施例の洗濯廃液の処理方法について、説明する。放射性物質取り扱い施設である原子力プラントの定期検査時において、原子力プラントの保守点検作業および補修作業に従事した作業員の作業着等の衣類は、この原子力プラントに対して設けられた洗濯装置(図示せず)で非イオン界面活性剤を含む洗剤を用いて洗濯される。この洗濯により、非イオン界面活性剤、および洗濯時に作業着等の衣類から溶出した高級脂肪酸、高級アルコールおよび汗(塩分)を含む洗濯廃液が発生する。高級脂肪酸、高級アルコールおよび塩分(ナトリウム塩)を含む洗濯廃液が、洗濯装置から配管13を通して洗濯廃液収集タンク2に導かれ、貯蔵される。
【0061】
次亜塩素酸を例えば30ppm含む次亜塩素酸水溶液が次亜塩素酸貯蔵タンク46内に貯蔵されている。開閉弁49が開いてポンプ48が駆動されると、次亜塩素酸水溶液が、次亜塩素酸貯蔵タンク46から次亜塩素酸供給管47を通して洗濯廃液収集タンク2に供給される。この次亜塩素酸水溶液は洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液に混合される。次亜塩素酸水溶液は、洗濯廃液収集タンク2内に存在する洗濯廃液の次亜塩素酸の濃度が洗濯廃液の発泡成分を分解する十分な濃度になるように、洗濯廃液に添加される。洗濯廃液に含まれる発泡成分の濃度は、衣類の汚れ度合いに依存するため、洗濯の時期によりまちまちである。このため、洗濯廃液の、発泡成分を分解する十分な次亜塩素酸濃度は、洗濯廃液収集タンク2からサンプリングした洗濯廃液の発泡性を、図5に示したような発泡試験装置を用いて予め確認することによって選定すると良い。洗濯廃液に添加された次亜塩素酸は、高級脂肪酸および高級アルコールとナトリウム塩(ナトリウムイオン)の反応により洗濯廃液内で生成される界面活性成分を分解する。
【0062】
さらに、次亜塩素酸を添加した、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡性を確認するため、まず、次亜塩素酸水溶液を添加した後の洗濯廃液を洗濯廃液収集タンク2からサンプリングする。サンプリングした洗濯廃液の発泡性を、図5に示す発泡試験装置(または図2に示す試験装置)を用いて確認する。サンプリングした洗濯廃液をステンレス製容器に入れ、IHヒータにより加熱して沸騰させる。このサンプリングした洗濯廃液の発泡性は、洗濯廃液がステンレス製容器内で沸騰を開始してから発生した泡が冷却器の下方に置かれた受け容器に到達するまでに要する時間に基づいて行われる。洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡が抑制できたことが発泡試験装置によって確認されたとき、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液が、蒸発濃縮される。また、発泡試験装置の試験結果に基づいて洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡性がまだ残っていると判定されたときには、次亜塩素酸供給装置45によって次亜塩素酸水溶液を洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液に添加し、洗濯廃液の次亜塩素酸濃度を増加させる。その後、再び、洗濯廃液収集タンク2からサンプリングした洗濯廃液の、発泡試験装置による発泡性の確認試験を行う。洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡時間が所定時間に減少するまで、次亜塩素酸の洗濯廃液収集タンク2への添加、洗濯廃液収集タンク2からの洗濯廃液のサンプリング、およびサンプリングした洗濯廃液の発泡性の確認試験が繰り返えされる。
【0063】
洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡時間が所定時間まで低減されたとき、開閉弁4を開いてポンプ3を駆動し、洗濯廃液収集タンク2内の、次亜塩素酸、非イオン界面活性剤、高級脂肪酸、高級アルコールおよび塩分を含む洗濯廃液を、廃液供給管14および濃縮液供給管15を通して加熱器7に供給する。開閉弁8は閉じている。
【0064】
次亜塩素酸により界面活性成分が分解された洗濯廃液が、加熱器7の伝熱管内で、ボイラーから蒸気管19を通して加熱器7の胴体内に供給される蒸気によって加熱され、温度が例えば100℃以上に上昇する。加熱器7で加熱された洗濯廃液が濃縮液戻り管16によって濃縮缶5に導かれる。加熱された洗濯廃液が、濃縮缶5内で蒸発し、濃縮される。ポンプ6が駆動されるので、濃縮缶5内の濃縮液が濃縮液供給管15を通して加熱器7に供給される。蒸発缶5内の濃縮液は、濃縮液供給管15および濃縮液戻り管16により、濃縮缶5と加熱器7の間を循環する。濃縮缶5内での洗濯廃液の蒸発量に見合った洗濯廃液の量を、洗濯廃液収集タンク2から加熱器7に供給することにより、濃縮缶5内の洗濯廃液の水位をほぼ一定に保ちながら連続的に洗濯廃液の濃縮処理を行う。
【0065】
濃縮缶5と加熱器7の間を循環する濃縮液の一部は、濃縮液供給管15から、開いている開閉弁17および濃縮液排出管17を通って濃縮液貯蔵タンク9に導かれる。濃縮液貯蔵タンク9内の次亜塩素酸、非イオン界面活性剤、高級脂肪酸および高級アルコールを含む濃縮液は、濃縮液排出管18を通して乾燥粉体固化装置に送られ、ドラム管内に充填されてセメントにより固化される。
【0066】
濃縮缶5内で洗濯廃液の蒸発により生成された蒸気は、蒸気排出管20によってデミスタ10に供給される。この蒸気に含まれるミスト成分が、デミスタ10で除去される。デミスタ10で除去されたミスト成分は、配管23によって洗濯廃液収集タンク2に導かれる。デミスタ10から排気された蒸気は、蒸気排出管21を通して復水器11の各伝熱管内に供給される。冷却器から配管25により復水器11の胴体内に冷却水が供給されるので、伝熱管内の蒸気が、この冷却水によって冷却されて凝縮する。蒸気の凝縮によって生成された凝縮水は、凝縮水供給管22により凝縮水貯蔵タンク12に供給され、凝縮水貯蔵タンク12内に貯蔵される。凝縮水貯蔵タンク12内の凝縮水は、凝縮水排出管24で脱塩器等の浄化装置に送られて浄化され、原子力プラントで再利用水として利用される。
【0067】
本実施例は、次亜塩素酸供給装置45によって非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液に次亜塩素酸水溶液を添加するので、次亜塩素酸が洗濯廃液に含まれる界面活性成分を分解する。本実施例では、洗剤自身が発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいるが、洗濯廃液が洗濯物(衣類等)から溶出した高級脂肪酸および高級アルコールを基に洗濯廃液内で発泡成分(界面活性成分)が生成される。次亜塩素酸はこの発泡成分(界面活性成分)を分解する。このため、洗濯廃液に含まれる発泡成分(界面活性成分)が減少し、発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液の蒸発濃縮時における発泡を著しく抑制することができる。
【0068】
本実施例は、後述の実施例2及び3のように電解装置を用いる場合に比べ、洗濯廃液処理装置がコンパクトになり、さらに、消費電力が少なくなる。また、次亜塩素酸を洗濯廃液に添加する本実施例は、洗濯廃液に過酸化水素またはオゾンを添加する特開平11−319890号公報に比べて、濃縮缶5、加熱器7、廃液供給管14及び濃縮液供給管15等の洗濯廃液処理装置の金属製の構成部材の腐食を低減することができる。
【実施例2】
【0069】
本発明の他の実施例である実施例2の洗濯廃液の処理方法を、図15を用いて説明する。
【0070】
本実施例の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置1Aを、図15を用いて説明する。洗濯廃液処理装置1Aは、洗濯廃液処理装置1において次亜塩素酸供給装置45の替りに電解装置26および戻り管34を備えた構成を有する。洗濯廃液処理装置1Aの他の構成は洗濯廃液処理装置1と同じである。
【0071】
洗濯廃液処理装置1Aの洗濯廃液処理装置1と異なっている部分について説明する。電解装置26は、電解槽44、陽極28、陰極30および直流電源32を有する。陽極28および陰極30が電解槽44内に設置され、直流電源32が陽極28および陰極30にそれぞれ接続される。開閉弁36が設けられて電解槽44に接続された配管35が、ポンプ3と開閉弁4の間で廃液供給管14に接続される。電解槽44に接続された戻り管34が洗濯廃液収集タンク2に接続される。
【0072】
洗濯廃液処理装置1Aを用いて行われる本実施例の洗濯廃液の処理方法について、実施例1と異なる部分を説明する。直流電源32から陽極28および陰極30に電圧が印加されており、開閉弁4が閉じて開閉弁36が開いている。ポンプ3が駆動されて洗濯廃液収集タンク2内の高級脂肪酸、高級アルコール、塩分及び非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液が廃液供給管14および配管29を通って電解槽44内に供給される。電解槽44内の洗濯廃液は、戻り配管34を通って洗濯廃液収集タンク2に戻される。配管13により洗濯廃液収集タンク2に導かれる洗濯廃液の組成は、実施例1と同じである。
【0073】
直流電源32より陽極28および陰極30に電圧が印加され、電解槽44では、洗濯廃液の電解が行われる。この電解によって、電解槽44内ではナトリウムイオンが陰極に集まり塩素イオンが陽極に集まる。塩素イオンが集まる陽極付近でこの塩素イオンより次亜塩素酸が生成される。次亜塩素酸を含む洗濯廃液が、戻り配管34を通して洗濯廃液収集タンク2に戻される。次亜塩素酸を含む洗濯廃液が、洗濯廃液収集タンク2と電解槽44の間で循環される。このように洗濯廃液が循環する間に、洗濯廃液が電解装置26によって電解され、洗濯廃液の次亜塩素酸濃度が徐々に増大する。この次亜塩素酸は、高級脂肪酸および高級アルコールとナトリウム塩(ナトリウムイオン)の反応により洗濯廃液内で生成される界面活性成分を分解する。
【0074】
洗濯廃液収集タンク2と電解槽44の間での洗濯廃液の循環が所定時間行われた後、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡性を確認するため、まず、洗濯廃液を洗濯廃液収集タンク2からサンプリングする。サンプリングした洗濯廃液の発泡性を、図5に示す発泡試験装置(または図2に示す試験装置)を用いて確認する。サンプリングした洗濯廃液をステンレス製容器に入れ、IHヒータにより加熱して沸騰させる。このサンプリングした洗濯廃液の発泡性は、洗濯廃液がステンレス製容器内で沸騰を開始してから発生した泡が冷却器の下方に置かれた受け容器に到達するまでに要する時間に基づいて行われる。洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡が抑制できたことが発泡試験装置によって確認されたとき、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液が、蒸発濃縮される。また、発泡試験装置の試験結果に基づいて洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡性がまだ残っていると判定されたときには、さらに、洗濯廃液収集タンク2と電解槽44の間で洗濯廃液を循環させ、電解装置26による電解によって次亜塩素酸を生成し、洗濯廃液の次亜塩素酸濃度を増大させる。その後、再び、洗濯廃液収集タンク2からサンプリングした洗濯廃液の、発泡試験装置による発泡性の確認試験を行う。洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡時間が所定時間に減少するまで、洗濯廃液収集タンク2と電解槽44の間での洗濯廃液の循環、洗濯廃液収集タンク2からの洗濯廃液のサンプリング、およびサンプリングした洗濯廃液の発泡性の確認試験が繰り返えされる。
【0075】
洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡時間が所定時間まで低減されたとき、開閉弁4を開いて開閉弁36を閉じ、洗濯廃液収集タンク2内の界面活性成分が分解された洗濯廃液を、駆動しているポンプ3によって昇圧し、廃液供給管14および濃縮液供給管15を通して加熱器7に供給する。開閉弁8は閉じている。加熱器7で加熱された洗濯廃液が濃縮缶5に供給される。
【0076】
本実施例においても、実施例1と同様に、洗濯廃液が加熱器7及び濃縮缶5を循環する間に蒸発濃縮され、洗濯廃液に含まれた高級脂肪酸、高級アルコールおよび非イオン界面活性剤が濃縮される。濃縮缶5から排出されたこれらの成分を含む濃縮液が、濃縮液貯蔵タンク9に導かれる。濃縮缶5で発生した蒸気は、実施例1と同様に、デミスタ10を通って復水器11で凝縮される。復水器11から排出された凝縮水が、凝縮水貯蔵タンク12に集められる。
【0077】
本実施例は、電解装置26により洗濯廃液内に次亜塩素酸を生成するため、この次亜塩素酸が洗濯廃液に含まれる界面活性成分を分解する。本実施例では、洗剤自身が発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいるが、洗濯廃液が洗濯物(衣類等)から溶出した高級脂肪酸および高級アルコールを基に洗濯廃液内で発泡成分(界面活性成分)が生成される。次亜塩素酸はこの発泡成分(界面活性成分)を分解する。このため、洗濯廃液に含まれる発泡成分(界面活性成分)が減少し、発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液の発泡を著しく抑制することができる。本実施例は、実施例1のように、次亜塩素酸水溶液を洗濯廃液に添加しないので、放射性廃液の発生量を減少させることができる。
【実施例3】
【0078】
本発明の他の実施例である実施例3の洗濯廃液の処理方法を、図16を用いて説明する。
【0079】
本実施例の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置1Bを、図16を用いて説明する。洗濯廃液処理装置1Bも、実施例で用いる洗濯廃液処理装置1Aと同様に、電解装置を設けている。洗濯廃液処理装置1Bは、洗濯廃液処理装置1Aにおいて電解装置26を電解装置26Aに替えた構成を有する。洗濯廃液処理装置1Bの他の構成は洗濯廃液処理装置1Aと同じである。
【0080】
洗濯廃液処理装置1Aの洗濯廃液処理装置1と異なっている部分について説明する。電解装置26Aは、実施例2で用いる電解装置26にカチオン樹脂膜(陽イオン交換膜)31を設けた構成を有する。電解装置26Aは、電解槽44、カチオン樹脂膜31、陽極28、陰極30および直流電源32を有する。電解槽44内に設けられたカチオン樹脂膜31が、電解槽44内を陽極室27および陰極室29に仕切っている。陽極28が陽極室27内に設置され、陰極30が陰極室29内に設置される。弁38および開閉弁40が設けられた配管41が、ポンプ3と開閉弁4の間で廃液供給管14に接続される。この配管41が、電解槽44に接続されて陽極室27に連絡される。弁38と開閉弁40の間で配管41に接続された配管42が、電解槽44に接続されて陰極室29に連絡される。弁39が配管42に設けられる。洗濯廃液収集タンク2に接続された戻り管34が、電解槽44に接続されて陽極室27に連絡される。電解槽44に接続されて陰極室29に連絡される配管37が戻り管34に接続される。pH計33が戻り管34と配管37の接続点よりも上流で戻り管34に設けられる。
【0081】
洗濯廃液処理装置1Bを用いて行われる本実施例の洗濯廃液の処理方法について、実施例2と異なる部分を説明する。開閉弁4が閉じられており、開閉弁40および弁38,39が開いている。ポンプ3が駆動されており、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液が、廃液供給管14および配管41を介して陽極室27に供給され、さらに、配管42を介して陰極室に供給される。直流電源32から陽極28および陰極30に電圧が印加されている。陽極室27で発生したナトリウムイオンがカチオン樹脂膜31を通過して陰極室29に移行し、陰極室29で発生した塩素イオンがカチオン樹脂膜31を通過して陽極室27に移行する。塩素イオンが集まる、陽極室27内の陽極28付近でその塩素イオンより次亜塩素酸が生成される。次亜塩素酸を含む洗濯廃液が、戻り管34を通して洗濯廃液収集タンク2に戻される。ナトリウムイオン濃度が増加した陰極室29内の洗濯廃液が、配管37に排出され、戻り管34に流入して陽極室27から排出された次亜塩素酸を含む洗濯廃液に混合され、洗濯廃液収集タンク2に供給される。洗濯廃液は、洗濯廃液収集タンク2と陽極室27の間、および洗濯廃液収集タンク2と陰極室29の間を循環する。陽極室27内で生成された次亜塩素酸は、洗濯廃液と共に洗濯廃液収集タンク2に導かれ、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液と混合され、洗濯廃液に含まれる界面活性成分と反応する。この界面活性成分が次亜塩素酸によって分解される。
【0082】
陽極室27から排出された洗濯廃液で陰極室29から排出された洗濯廃液と混合される前の洗濯廃液のpH(陽極室27のpH)が、pH計33で計測される。制御装置(図示せず)は、陽極室27のpHを次亜塩素酸の高い反応効率が得られる3〜6の範囲になるように、pH計33の計測値に基づいて弁38および39のそれぞれの開度を制御し、陽極室27への洗濯廃液の供給流量および陰極室29への洗濯廃液の供給流量をそれぞれ調節する。その制御装置は、pH計33の計測値に基づいて、陽極室のpHがpH設定値(pH3〜6の範囲内の例えば4.5)になるように、弁38および39のそれぞれの開度を調節する。また、陽極室27および陰極室29のそれぞれに供給する洗濯廃液の流量制御のみで陽極室27のpHの調整が困難な場合には、制御装置は、直流電源32を制御して、陽極28および陰極30に印加する電圧を調節し、陽極室のpHを設定値に調節する。
【0083】
前述のように循環している洗濯廃液を、この洗濯廃液の発泡性を確認するため、洗濯廃液収集タンク2から適宜サンプリングする。サンプリングした洗濯廃液の発泡性を、図5に示す発泡試験装置(または図2に示す試験装置)を用いて確認する。サンプリングした洗濯廃液をステンレス製容器に入れ、IHヒータにより加熱して沸騰させる。このサンプリングした洗濯廃液の発泡性は、洗濯廃液がステンレス製容器内で沸騰を開始してから発生した泡が冷却器の下方に置かれた受け容器に到達するまでに要する時間に基づいて行われる。洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡が抑制できたことが発泡試験装置によって確認されたとき、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液が、蒸発濃縮される。また、発泡試験装置の試験結果に基づいて洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡性がまだ残っていると判定されたときには、さらに、洗濯廃液収集タンク2と電解槽44の間で洗濯廃液を循環させ、電解装置26による電解によって次亜塩素酸を生成し、洗濯廃液の次亜塩素酸濃度を増大させる。その後、再び、洗濯廃液収集タンク2からサンプリングした洗濯廃液の、発泡試験装置による発泡性の確認試験を行う。洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡時間が所定時間に減少するまで、洗濯廃液収集タンク2と電解槽44の間での洗濯廃液の循環、洗濯廃液収集タンク2からの洗濯廃液のサンプリング、およびサンプリングした洗濯廃液の発泡性の確認試験が繰り返えされる。
【0084】
洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡時間が所定時間まで低減されたとき、開閉弁4を開いて開閉弁40を閉じ、洗濯廃液収集タンク2内の界面活性成分が分解された洗濯廃液を、駆動しているポンプ3によって昇圧し、廃液供給管14および濃縮液供給管15を通して加熱器7に供給する。開閉弁8は閉じている。加熱器7で加熱された洗濯廃液が濃縮缶5に供給される。
【0085】
本実施例においても、実施例1と同様に、洗濯廃液が加熱器7及び濃縮缶5を循環する間に蒸発濃縮され、洗濯廃液に含まれた高級脂肪酸、高級アルコールおよび非イオン界面活性剤が濃縮される。濃縮缶5から排出されたこれらの成分を含む濃縮液が、濃縮液貯蔵タンク9に導かれる。濃縮缶5で発生した蒸気は、実施例1と同様に、デミスタ10を通って復水器11で凝縮される。復水器11から排出された凝縮水が、凝縮水貯蔵タンク12に集められる。
【0086】
本実施例は、電解装置26を用いた実施例2と同様に、電解装置26Aで生成された次亜塩素酸により洗濯廃液に含まれる界面活性成分が分解される。本実施例でも、洗剤自身が発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいるが、洗濯廃液が洗濯物(衣類等)から溶出した高級脂肪酸および高級アルコールを基に洗濯廃液内で発泡成分(界面活性成分)が生成される。次亜塩素酸はこの発泡成分(界面活性成分)を分解する。このため、洗濯廃液に含まれる発泡成分(界面活性成分)が減少し、発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液の発泡を著しく抑制することができる。
【0087】
本実施例は、pH計33で計測されたpHに基づいて陽極室27のpHを3〜6の範囲内の値、例えば、4.5に制御されるので、陽極室27内で次亜塩素酸の高い反応効率を得ることができる。
【0088】
本実施例は、電解槽44内にカチオン樹脂膜31を設けているので、図12に示すように、電解槽44内にカチオン樹脂膜31を設けていない電解装置26を用いた実施例2に比べて、洗濯廃液に含まれる界面活性成分の分解時間を短縮することができる。
【0089】
電解装置26Aの電解槽44に設けたカチオン樹脂膜31をアニオン樹脂膜に替えてもよい。この場合には、アニオン樹脂膜が電解槽44内を仕切って陽極28が設置された陽極室27および陰極30が設置された陰極室29を形成する。陽極室27および陰極室29に洗濯廃液が供給され、陽極28および陰極30に通電されている状態で、実施例3と同様に、陽極室28内で次亜塩素酸が生成される。アニオン樹脂膜を設けた場合にも、実施例3で生じる各効果を得ることができる。電解槽44内にアニオン樹脂膜を設けた電解装置を用いることによって、電解槽44内にカチオン樹脂膜31を設けた電解装置26を用いた場合に比べて、洗濯廃液に含まれる界面活性成分の分解時間をさらに短縮することができる(図13および図14参照)。
【符号の説明】
【0090】
1,1A,1B…洗濯廃液処理装置、2…洗濯廃液収集タンク、5…濃縮缶、7…加熱器、9…濃宿液貯蔵タンク、10…デミスタ、11…復水器、12…凝縮水貯蔵タンク、26,26A…電解装置、27…陽極室、28…陽極、29……陰極室、30…陰極、31…カチオン樹脂膜(陽イオン交換膜)、32…直流電源、44…電解槽、45…次亜塩素酸供給装置、46…次亜塩素酸貯蔵タンク、47…次亜塩素酸供給管。
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯廃液の処理方法に係り、特に、原子力プラントおよび核燃料再処理施設等の放射性物質取り扱い施設で発生する洗濯廃液の処理に適用するのに好適な洗濯廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核燃料物質等の放射性物質を取り扱う放射性物質取り扱い施設では、放射線管理区域を設定し、放射性物質による汚染防止、放射性物質の拡散防止、作業者が受ける放射線量の抑制、および放射線管理等の放射線防護手法が適用されている。放射線管理区域内で作業を行う作業者が、放射線管理区域専用の作業着を着用し、点検および工事等に従事することも、放射性物質取り扱い施設における放射線防護の一つである。
【0003】
作業者が着用する、手袋、下着、靴下および作業着等の衣類は、放射性物質取り扱い施設(例えば、原子力プラント)内で洗濯され、放射性物質で汚染されていないことを確認した上で、再使用される。一方、作業着等を洗濯したときに発生する廃液(以下、洗濯廃液と言う)は、放射性物質を含んでいる可能性があるため、原子力プラントが設置された原子力発電所内で処理し、放射性物質を含んでいないことを確認した後、環境に排水され、あるいは、原子力発電所内で再利用される。
【0004】
洗濯廃液の処理方法としては、濃縮缶を用いて洗濯廃液を蒸発濃縮する方法が知られている。この蒸発濃縮法の一例が特開平11−319890号公報に記載されている。ろ過器を通過した洗濯廃液は、紫外線酸化反応器を経て蒸発濃縮器に送られ、蒸発濃縮される。蒸発濃縮器は、洗濯廃液を加熱して洗濯廃液に含まれた水分を蒸発させ、洗濯廃液を濃縮する。蒸発によって発生した蒸気は凝縮され、凝縮水として再利用される(または環境に排水される)。蒸発濃縮器で濃縮された放射性核種を含む洗濯廃液は、セメント等で固化される。蒸発濃縮器で洗濯廃液を濃縮する際に生じる発泡を抑制するために、特開平11−319890号公報に記載された蒸発濃縮法では、蒸発濃縮器に洗濯廃液を供給する前に、洗濯廃液を紫外線反応器に供給し、紫外線反応器内で洗濯廃液に過酸化水素またはオゾンを添加してこの洗濯廃液に紫外線を照射する。紫外線反応器内で洗濯廃液に対してそのような処理を行うことにより、洗濯廃液に含まれた発泡因子が脱離され、TOC成分の一部が酸化分解される。このように紫外線酸化処理された洗濯廃液は、蒸発濃縮器での蒸発濃縮における発泡を抑制する。
【0005】
「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行(2007年6月11日発行)は、32頁に、界面活性剤の種類として、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤および両性界面活性剤を記載している。「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行、pp53−56(2007年6月11日発行)は、さらに、高級脂肪酸および高級アルコール結合したエステル化合物は、非イオン系の界面活性剤として作用する可能性を有することも記載している。
【0006】
浦野博水、研究紹介1「たんぱく質汚れに対する次亜塩素酸イオンの洗浄力」、岡山県工業技術センター・技術情報・No.469、2頁(平成18年3月15日発行)の図1は、次亜塩素酸(HClO)の解離状態を示している。水溶液中の次亜塩素酸が、水溶液のpHにより、塩素(Cl2)、次亜塩素酸(HClO)及び次亜塩素酸イオン(ClO−)の形態をとることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−319890号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行、p32、pp53−56及びpp77−79(2007年6月11日発行)
【非特許文献2】浦野博水、研究紹介1「たんぱく質汚れに対する次亜塩素酸イオンの洗浄力」、岡山県工業技術センター・技術情報・No.469、2頁(平成18年3月15日発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
蒸発濃縮器である濃縮缶において、洗濯廃液の蒸発濃縮処理が繰り返されると、濃縮缶内で、洗剤成分、衣類から溶出した有機物および作業者の汗、皮脂等の成分が濃縮される。洗濯には一般に水道水を使用するため、洗濯廃液は一定量の塩素を含んでいる。さらに、洗濯廃液は、衣類から溶出した作業者の汗等に含まれる塩素を含んでいるため、一般的には数100〜200ppm以上の塩素イオンを含んでいる。塩素濃度が高くなると、濃縮缶の構造材の腐食が進んで濃縮缶の劣化が生じるため、一般的に、濃縮缶内の塩素濃度が所定値(10000ppm)以下になるように管理して運転される。
【0010】
特開平11−319890号公報に記載されたように、洗濯廃液に、金属配管等の金属部材に対して腐食性の高いオゾンまたは過酸化水素を添加した場合には、オゾンまたは過酸化水素を含む洗濯廃液と接触する金属製の配管及び機器の内面が、洗濯廃液に含まれるオゾンまたは過酸化水素によって腐食する可能性がある。
【0011】
ここで、洗濯廃液の蒸発濃縮処理に際して、濃縮缶内において水質によっては泡が生成する場合がある。泡の生成が大きくなると、濃縮缶内の空隙が泡で満たされ、さらに泡が成長すると、泡が濃縮缶で発生した蒸気に含まれるミストを除去するデミスタにまで達する。この場合、洗濯廃液が泡となってデミスタに移行してしまう。デミスタへ移行した泡(廃液)は、デミスタ底部配管より、再び洗濯廃液収集タンクへ回収されるが、濃縮缶からデミスタへの移行量が大きく、洗濯廃液の供給が間に合わずに、濃縮缶内の水位が制御レベルを逸脱して低下することで濃縮運転が継続できない事例が経験されている。このため、予め発泡性の少ない洗剤(例えば、非イオン界面活性剤を含む洗剤)を使用する等、濃縮缶内において発泡が生じないよう配慮されている。しかしながら、衣類からの溶出物あるいは、作業衣に付着した汚れ成分により、洗濯廃液の発泡性が大きく変化し、洗濯廃液処理装置の稼動に支障をきたすことを回避できる新たな洗濯廃液の処理方法が望まれている。
【0012】
本発明の目的は、非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液の蒸発濃縮時の発泡を抑制できる洗濯廃液の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液に次亜塩素酸を含有させ、次亜塩素酸により洗濯液に含まれる界面活性成分を分解し、界面活性成分が分解された前記洗濯廃液を蒸発濃縮することにある。
【0014】
発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液に次亜塩素酸を含有させるので、洗濯時に洗濯廃液に含まれた高級脂肪酸および高級アルコールを基に洗濯廃液内で生成される発泡成分を次亜塩素酸によって分解することができる。このため、非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液の蒸発濃縮時における発泡を著しく抑制することができる。
【0015】
好ましくは、次亜塩素酸を含有する洗濯廃液の生成が、洗濯廃液に次亜塩素酸を添加することによって行われることが望ましい。
【0016】
好ましくは、次亜塩素酸を含有する洗濯廃液の生成が、電解装置を用いて洗濯廃液を電解して洗濯廃液中で塩素イオンより次亜塩素酸を生成することによって行われることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液を蒸発濃縮する際に発生する発泡を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置の構成図である。
【図2】洗濯廃液の沸騰時における発泡の測定方法を示す説明図である。
【図3】高級脂肪酸の発泡性の測定結果を示す説明図である。
【図4】高級脂肪酸ナトリウム塩の発泡性の測定結果を示す説明図である。
【図5】洗濯廃液の発泡性を確認する発泡性試験装置の構成図である。
【図6】過酸化水素の添加量による発泡時間の変化を示す説明図である。
【図7】次亜塩素酸の添加量による発泡時間の変化を示す説明図である。
【図8】次亜塩素酸の化学形態とpHの関係を示す説明図である。
【図9】洗濯廃液の電解を行う電解装置の一例の構造の概要図である。
【図10】図9の電解装置で生成された次亜塩素酸を含み、この次亜塩素酸の濃度が異なる3種類の洗濯廃液(試験液)に対して、図5の発泡性試験装置で行った発泡性確認の実験結果を示す説明図である。
【図11】洗濯廃液の電解を行う、カチオン樹脂膜を有する電解装置の一例の構造の概要図である。
【図12】図11の電解装置で生成された次亜塩素酸を含む洗濯廃液(試験液)に対して、図5の発泡性試験装置で行った発泡性確認の実験結果を示す説明図である。
【図13】図11の電解装置で生成された次亜塩素酸を含む洗濯廃液(試験液)に対して行った発泡性確認の実験結果を示し、電解装置の陽極室のpHによる、60分以上発泡しない状態になるまでの処理時間の変化を示す特性図である。
【図14】図11の電解装置においてカチオン樹脂膜をアニオン樹脂膜に替えた構成で生成された次亜塩素酸を含む洗濯廃液(試験液)に対して行った発泡性確認の実験結果を示し、電解装置の陽極室のpHによる、60分以上発泡しない状態になるまでの処理時間の変化を示す特性図である。
【図15】本発明の他の実施例である実施例2の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置の構成図である。
【図16】本発明の他の実施例である実施例3の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、洗濯廃液に含まれる発泡成分を特定するために、放射性物質取り扱い施設である原子力プラント内で使用される、作業員の衣類から溶出する成分を分析した。衣類の付着成分をメタノールにより溶解・抽出し、その後、ガスクロマトグラフ−質量分析法により分析した。この結果、衣類にはステアリン酸およびパルチミン酸等の高級脂肪酸類、およびオクタコサノール、トリアコンタノール等の高級アルコール類の成分、さらには高級脂肪酸と高級アルコール結合したエステル化合物も検出した。同時に、洗剤中には、ナトリウム塩が含まれていることも確認した。
【0020】
衣類から検出された高級脂肪酸およびナトリウムにより生成する高級脂肪酸ナトリウム塩は、アニオン系の界面活性剤(石鹸)として作用し、発泡性を加速する性質を有する(「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行、pp77−79参照)。また、高級脂肪酸と高級アルコール結合したエステル化合物は、非イオン系の界面活性剤として作用する可能性を有する(「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行、pp53−56参照)。
【0021】
発明者らは、上記の分析結果および「界面活性剤入門」、藤本武彦著、三洋化成工業(株)発行に記載された情報に基づいて、洗濯に用いる洗剤自身が発泡性を有していない場合であっても、洗濯時に衣類から溶出した高級脂肪酸および高級アルコールが洗濯廃液内で、アニオン系の界面活性剤および非イオン系の界面活性剤を生成することにより、濃縮缶内内で蒸発濃縮時において、発泡が生じることを新たに見出した。ただし、非イオン系の界面活性剤は、アニオン系及界面活性剤に比べ相対的に発泡性は低くなっている。
【0022】
発明者らは、この新たな知見に基づいて、洗濯廃液の蒸発濃縮時における発泡を抑制する対策を検討した。この結果、発明者らは、次亜鉛素酸を含む洗濯廃液を蒸発濃縮することにより、濃縮缶内における発泡を抑制できることを発見した。
【0023】
上記の新たな知見を得た具体的な検討結果を以下に説明する。
【0024】
発明者らは、最初に、衣類に付着している高級脂肪酸とナトリウムの混合により、発泡成分が生成されることの確認を行った。高級脂肪酸として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸およびステアリン酸を用いた。ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸およびステアリン酸のそれぞれの約100ppm水溶液が100ml準備され、水酸化ナトリウムがそれぞれの水溶液に添加され、それぞれの水溶液(試験液)のpHが約11.8に調整された。発明者らは、これらの試験液の発泡性を、図2に示す試験装置を用いて確認した。pH調整後の一種類の試験液(例えば、ラウリン酸)を500mlのビーカーに移し、このビーカーを電気コンロ上で置いた。そして、ビーカー内の試験液を、電気コンロにより加熱して沸騰させた。試験液が発泡性を有する場合には、ビーカー内の試験液の上部に泡の層が形成される。試験液の容積とこの沸騰により生成される泡の容積の合計を発泡容積と定義し、試験液の沸騰性を示す指標とした。pH調整後の他の三種類の試験液を500mlの別々のビーカーに入れ、それぞれのビーカー内の試験液を電気コンロにより加熱し、試験液を沸騰させた。それぞれの試験液について発泡性を確認した。
【0025】
この4種類の高級脂肪酸に対する発泡性を確認した実験結果を、図3に示す。高級脂肪酸と水酸化ナトリウムを添加したそれぞれの試験液は、発泡性を示し、かつ分子量が大きな高級脂肪酸ほど発泡容積が増加する結果を示した。ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸およびステアリン酸の順に、発泡容積が大きくなった。
【0026】
次に、100ppmの高級脂肪酸のナトリウム塩水溶液、すなわち、100ppmのラウリン酸ナトリウム水溶液、100ppmのパルチミン酸ナトリウム水溶液および100ppmのステアリン酸ナトリウム水溶液をそれぞれ調整した。この調整により、ラウリン酸ナトリウム水溶液のpHは8.2に、パルチミン酸ナトリウム水溶液のpHは9.0に、ステアリン酸ナトリウム水溶液のpHは9.5になった。図2に示す試験装置を用いてこれらの水溶液(試験液)に対して発泡性を確認する実験を、ラウリン酸等と同様に行った。これらの発泡性を確認する実験結果を図4に示す。100ppmのラウリン酸ナトリウムを含む試験液は、発泡容積が120mlとほとんど発泡しなかった。これに対して、100ppmのパルチミン酸ナトリウムを含む試験液および100ppmのステアリン酸ナトリウムを含む試験液の各発泡容積は500ml以上となり、図3に示した高級脂肪酸と水酸化ナトリウム混合液(発泡容積:500ml以上)とほぼ同様の発泡性を示した。
【0027】
これらの試験結果により、洗濯により衣類から溶出する高級脂肪酸等の成分が、洗剤に含まれるナトリウムと反応し界面活性を示すことが、洗濯廃液の発泡性を増加させている原因であることを確認することができた。
【0028】
次に、発明者らは、洗濯廃液が沸騰した際に生じる発泡現象を抑制するために界面活性剤を分解する方法について実験を行ない検討した。
【0029】
試験液(洗濯廃液の模擬液)の発泡性を、図5に示す発泡試験装置を用いて評価した。具体的には、容量1Lの試験液をステンレス製容器に入れ、IHヒータにより加熱して沸騰させた。試験液が発泡性を有する場合には、発生した泡が、ステンレス製容器から、約500mmの高さの発泡観測管内を上昇し、最終的には、冷却器内の冷却管を経由して冷却器の下方に置かれた受け容器(図示せず)に達する。試験液の発泡性は、試験液がステンレス製容器内で沸騰を開始してから発生した泡が受け容器に到達するまでに要する時間で評価した。
【0030】
試験液は、原子力発電所にて使用されている非イオン性の界面活性剤を主成分とする洗剤(商品名:エマルゲンMS−110、花王株式会社製)を250ppm含む洗剤液に、ステアリン酸ナトリウムを50ppm添加して調整した。さらに、酸化剤として30%の過酸化水素水溶液および30ppmの次亜塩素酸水溶液を添加し、発泡を抑制できる酸化剤の添加量を確認した。
【0031】
その結果を図6に示した。図6に示すように、1Lの試験液に対して30%の過酸化水素溶液を約40ml(容積比率として約4%)添加することにより、蒸発濃縮時において試験液(洗濯廃液)の発泡を抑制できるとの結果を得た。なお、図6に示した「↑」は、60分以上発泡現象が生じなかったことを意味している。後述の各図に記載された「↑」も同じ意味である。さらに、図7に示すように、1Lの試験液に対して3ppmの次亜塩素酸水溶液を150ml(容積比率として約15%)添加することにより、洗濯廃液の発泡を抑制できるとの結果を得た。しかし、次亜塩素酸水溶液を添加したケースでは、次亜塩素酸が界面活性剤との反応により分解した後に生成される塩素イオンの濃度が、次亜塩素酸の添加量に比例して増加した。この結果、塩素イオン濃度の増加に応じて蒸発濃縮時の減容率が低下することから、更なる改善の余地があると考えられた。
【0032】
そこで、発明者らは、試験液に新たな塩化物を添加せずに、洗濯廃液に含まれる塩素イオンから電解法により次亜塩素酸を生成し、界面活性剤の分解に適用することを検討した。
【0033】
塩素イオンを含む水溶液を直流の電流を通電して電解すると、(1)式から(3)式の反応により陽極に次亜塩素酸が生成できることが知られている。ここでは、洗濯廃液に塩素イオンとナトリウムイオンが共存しているとして、下記の反応式を示す。陽極(+)では(1)式の反応が生じ、陰極(−)では(2)式の反応が生じ、液中においては(3)式の反応が生じる。
【0034】
2Cl− → Cl2+2e− …(1)
2Na++2H2O +2e−→ 2NaOH+H2 …(2)
Cl2+2NaOH → NaClO+NaCl+H2O …(3)
(1)式から(3)式をまとめると(4)式になる。
【0035】
NaCl+H2O → NaClO+H2 …(4)
さらに、次亜塩素酸は、有機物が存在すると(5)式に示すように酸化剤として作用して有機物を分解する作用を有する。ここでは、有機物をCmHnとして表している。
【0036】
CmHn+(2m+n)NaClO → (2m+n)NaCl+nH2O+mCO2↑ …(5)
また、浦野博水、研究紹介1「たんぱく質汚れに対する次亜塩素酸イオンの洗浄力」、岡山県工業技術センター・技術情報・No.469、2頁に示された水溶液のpHによる水溶液中の次亜塩素酸の形態変化を図8に示す。図8に示すように、水溶液中の次亜塩素酸は、水溶液のpHにより塩素(Cl2)、次亜塩素酸(HClO)および次亜塩素酸イオン(ClO−)の形態をとることが知られている。これに基づいて、発明者らは、電解で塩素を生成するとともに洗濯廃液のpHを調整することにより、洗濯廃液に含まれる界面活性成分の処理効率を向上させることかできると考えた。
【0037】
このような考えに基づいて、発明者らは、模擬洗濯廃液を用いて電解法による界面活性剤の分解実験を行った。この分解実験では、次亜塩素酸を含む試験液を作り、図5に示した発泡試験装置を用いて、この次亜塩素酸を含む試験液の発泡性、すなわち、その試験液に含まれる界面活性成分の分解度合いを確認した。
【0038】
この界面活性成分の分解実験に用いた試験液は、水道水に原子力発電所にて使用されている非イオン界面活性剤を主成分とする洗剤(商品名:エマルゲンMS−110、花王株式会社製)を250ppm含む洗濯液で、作業着を洗濯して調整した。試験液の塩素イオン濃度は、水道水に含まれる塩素濃度約10ppmが共存した。実際の洗濯廃液は、水道水の塩素に加えて作業者の汗等を含むため、100ppm以上の塩素イオンが含まれる。このため、試験液の塩素イオン濃度を、10ppm、60ppmおよび110ppmの3種類に調整した。塩素イオン濃度10ppmの試験液は、塩素濃度が10ppmの水道水に非イオン界面活性剤を主成分とする上記洗剤250ppmを添加してNaClを添加しないで作成した。塩素イオン濃度60ppmの試験液は、塩素濃度が10ppmの水道水に非イオン界面活性剤を主成分とする上記洗剤250ppmおよびNaCl50ppmを添加して作成した。塩素イオン濃度110ppmの試験液は、塩素濃度が10ppmの水道水に非イオン界面活性剤を主成分とする上記洗剤250ppmおよびNaCl100ppmを添加して作成した。
【0039】
これらの試験液のそれぞれにおいて電解装置を用いて次亜塩素酸を生成した。この電解装置は、図9に示すように、電解槽50および直流電源58を有する。電解槽50は、内部に陽極及び陰極を設置している。非イオン界面活性剤を含む上記した試験液が充填される容器51が、ポンプ52が設けられた試験液供給管53によって電解槽50に接続される。電解槽50に接続された戻り管54が容器51に接続される。直流電源58が陽極および陰極に接続される。
【0040】
電解電圧10Vが、直流電源58から電極面積が150cm2である陽極および陰極に印加されている。まず、上記した非イオン界面活性剤を主成分とする洗剤250ppmおよび塩素イオン濃度10ppmを含む1000mlの試験液(第1試験液)が、容器57内に充填される。ポンプ52の駆動により容器51内の試験液が、300ml/minで試験液供給管53を通して電解槽50に供給される。電解槽50内では試験液の電解が行われ、ナトリウムイオンが陰極に集まり塩素イオンが陽極に集まる。塩素イオンが集まる陽極付近でこの塩素イオンより次亜塩素酸が生成される。なお、洗剤には、不純物または添加剤としてNaが含まれる。電解槽50内の試験液が戻り管54により容器51に戻される。このようにして、次亜塩素酸を含む第1試験液が作られる。第1試験液と同様に、上記した非イオン界面活性剤を主成分とする洗剤250ppmおよび塩素イオン濃度60ppmを含む1000mlの試験液(第2試験液)、および上記した非イオン界面活性剤を主成分とする洗剤250ppmおよび塩素イオン濃度110ppmを含む1000mlの試験液(第3試験液)を用いて、電解装置内で、次亜塩素酸を含む第2および第3試験液がそれぞれ作られる。
【0041】
次亜塩素酸を含む第1、第2および第3試験液を、1Lずつ、順番に、図5に示した発泡試験装置のステンレス製容器に入れ、前述した試験液の発泡性を確認する実験と同様に、IHヒータにより加熱して沸騰させ、試験液がステンレス製容器内で沸騰を開始してから発生した泡が受け容器に到達するまでに要する時間により、第1、第2および第3試験液のそれぞれの発泡性、すなわち、各試験液に含まれる界面活性成分の分解度合いを確認した。
【0042】
この実験で得られた各試験液の発泡性の結果を、図10に示す。容器51と電解槽50の間を試験液が循環する循環時間が長くなると、次亜塩素酸の発生量が増えるため、各試験液の発泡性が抑制された。図10は、各試験液で循環時間(分解時間)が長くなると発泡時間)が長くなることを示しており、発泡時間が長いほど、発泡しにくくなる。試験液の塩素イオン濃度が高いほど、すなわち、第1試験液よりも第3試験液で電解電流が増加し、60分沸騰継続後も発泡しない状態に至るまでの界面活性成分の分解時間が短縮された。電解電流が増加すると、次亜塩素酸を生成する(1)式及び(2)式の反応が活発に行われる。このため、試験液の塩素イオン濃度が高いほど、次亜塩素酸の発生量が多くなる。図10に示されるように、塩素イオン濃度が高いほど、発泡時間が60分以上(沸騰60分以上でも発泡しない状態)になるまでに必要な分解時間が少なくなる。図10に示す実験結果によれば、電解によって陽極表面に到達した塩素イオンから次亜塩素酸が生成され、この次亜塩素酸によって試験液に含まれる界面活性成分が分解・消滅されることが分かった。さらに、試験液に含まれる界面活性成分が分解される処理時間(界面活性成分の分解時間)は、試験液の塩素イオン濃度に依存することも明らかになった。なお、各試験液のpHは、9〜10の範囲にあり電解槽50で生成された次亜塩素酸の多くは、比較的安定な次亜塩素酸イオン(HClO−)として存在したものと推定される。
【0043】
次に、発明者らは、試験液のpHを変えて次亜塩素酸の化学形態を変化させた場合における発泡抑制の時間短縮の効果を確認する実験を行った。この実験に用いる試験装置として、図11に示す電解装置を用いた。この電解装置は、内部にカチオン樹脂膜(陽イオン交換膜)を設置した電解槽50Aおよび直流電源58を有している。電解槽50A内には、をカチオン樹脂膜で仕切られた、陽極を設置した陽極室および陰極を設置した陰極室が形成されている。直流電源58が陽極および陰極に接続される。試験液が充填される容器51が、ポンプ52が設けられた試験液供給管53によって電解槽50Aに接続されて陽極室に連絡される。陽極室に連絡される戻り管54が容器51に接続される。ポンプ55を設けた試験液供給管56が電解槽50に接続されて陰極室に連絡され、陰極室に連絡された戻り管57が容器51に接続される。
【0044】
電解電圧10Vが、直流電源58から電極面積が150cm2である陽極および陰極に印加されている。水道水に非イオン界面活性剤を主成分とする前述の洗剤250ppmおよびNaCl50ppmを添加して作成された試験液(塩素イオン濃度:60ppm)を、容器51内に1000ml充填した。容器51内の試験液が、ポンプ52の駆動により150ml/minで、試験液供給管53を通して電解槽50A内の陽極室に供給される。容器51内の試験液が、ポンプ55の駆動により150ml/minで、試験液供給管56を通して電解槽50A内の陰極室に供給される。陽極室内の試験液は戻り管54によって容器51に戻され、陰極室内の試験液は戻り管57によって容器51に戻される。電解槽50A内では、陽極室で発生したナトリウムイオンがカチオン樹脂膜を通過して陰極室に移行し、陰極室で発生した塩素イオンがカチオン樹脂膜を通過して陽極室に移行する。塩素イオンが集まる、陽極室内の陽極付近で塩素イオンより次亜塩素酸が生成される。次亜塩素酸が生成される陽極室内の試験液のpHは、約4.5の弱酸性を示した。このpHの酸性側へのシフトは、陽極室に供給された試験液に含まれるカチオン成分(主にナトリウムイオン)が、カチオン樹脂膜を通過して陰極室に移行した結果として生じた。
【0045】
また、図9に示す電解装置を用いて試験液の電解を行った。この電解装置において、電解電圧10Vが、直流電源58から陽極および陰極に印加されている。水道水に非イオン界面活性剤を主成分とする前述の洗剤250ppmおよびNaCl50ppmを添加して作成された試験液(塩素イオン濃度:60ppm)を、図11に示す電解装置と同様に、容器51内に1000ml充填した。ポンプ52及び55を駆動し、容器51内の試験液を300ml/min(図11に示す電解装置で陽極室および陰極室にそれぞれ供給される試験液の合計流量)でカチオン樹脂膜が設置されていない電解槽50に供給する。電解槽50内で、前述したように、塩素イオンが集まる陽極付近で塩素イオンにより次亜塩素酸が生成される。次亜塩素酸を含む試験液が容器51に戻される。
【0046】
上記したように、図11の電解装置による電解によって得られた次亜塩素酸を含む試験液(便宜的に、カチオン樹脂膜あり試験液という)および図9の電解装置による電解によって得られた次亜塩素酸を含む試験液(便宜的に、カチオン樹脂膜なし試験液という)を、別々に、1Lずつ、図5に示す発泡試験装置のステンレス製容器に入れ、カチオン樹脂膜あり試験液およびカチオン樹脂膜なし試験液の発泡実験を別々に行った。
【0047】
カチオン樹脂膜あり試験液およびカチオン樹脂膜なし試験液のそれぞれの発泡実験の実験結果を図12に示した。カチオン樹脂膜あり試験液において試験液の発泡時間が60分以上に達する界面活性成分の分解時間が、カチオン樹脂膜なし試験液におけるその時間の約1/2に短縮された。カチオン樹脂膜を用いていない図9に示す電解装置に比べてカチオン樹脂膜を有する図12に示す電解装置では、陽極室への塩素イオンの濃縮が生じるため電解電流当りの次亜塩素酸の生成効率が向上し、Naイオンの陰極室への移動による陽極室内のpHの低下が生じるため、生成した次亜塩素酸が安定に存在できる。このため、洗濯廃液に含まれる界面活性成分(発泡成分)を効率的に分解消滅することができ、上記したように界面活性成分の分解時間を短縮できる。
【0048】
この結果に基づいて、発明者らは、次亜塩素酸を含むカチオン樹脂膜あり試験液の作成時に図11の電解装置の陽極室のpHが約4.5であり、図9の電解装置で作成された次亜塩素酸を含むカチオン樹脂膜なし試験液のpHが9〜10であるので、次亜塩素酸を含む試験液のpHが酸性側にシフトすることによって、界面活性成分の分解時間を短縮できる、すなわち、界面活性成分の分解を促進できるという新たな知見を見出した。
【0049】
さらに、発明者らは、図11に示す電解装置を用いて次亜塩素酸を含む試験液でpHが異なる試験液を作成し、これらの試験液の発泡性を確認する実験を行った。水道水に非イオン界面活性剤を主成分とする前述の洗剤250ppmおよびNaCl50ppmを添加して作成された試験液(塩素イオン濃度:60ppm)を、容器51内に1000ml充填した。電解電圧10Vが、直流電源58から電極面積が150cm2である陽極および陰極に印加されている状態で、その試験液を電解槽50Aの陰極室に150ml/minで供給し、陽極室への試験液の供給流量を調節(減少)して陽極室出口での試験液のpHを調節した。このようにして作成された、次亜塩素酸を含んでpHが異なる各試験液を用いて図5に示す発泡試験装置により発泡性を確認する実験を行った。
【0050】
この実験結果を図13に示した。図13から、pHが3〜6までの次亜塩素酸を含む試験液では、60分以上沸騰しても発泡しない状態になるまでの処理時間が、約300分まで短縮された。しかし、pHが6を越える次亜塩素酸を含む試験液では、pHの低下と共に電解電流の増加は生じたが、60分以上沸騰しても発泡しない状態になるまでの処理時間が短縮されなかった。これは、界面活性成分の分解・消滅の速度が、陽極室に存在する塩素イオン濃度により制限されていると考えられる。
【0051】
一方、陽極室に供給された塩素イオンはカチオン樹脂膜により陰極室への移動が制限されるため、カチオン樹脂膜を使用した場合には、陰極室では塩素イオンの濃縮が生じない。よって、さらに、活性成分の分解時間を短縮するためには、pHの調整に加え、陽極および陰極に印加する電解電圧を変更して電流を増加させ、陽極室の塩素イオン濃度を増加することが有効である。
【0052】
発明者らは、pHの調節効果と塩素イオンの濃縮効果を期待し、電解槽にカチオン樹脂膜の替りにアニオン交換膜を設置してこのアニオン樹脂膜により陽極室および陰極室を形成し、陰極室および陽極室それぞれに試験液を供給した。両電極室への試験液の供給量は、それぞれの供給ポンプの流量を設定し変更した。
【0053】
電極面積150cm2、電解電圧10Vの電解条件の電解槽に、60ppmの塩素イオンを含む試験液1000mlから、両極室へ各々150ml/min(流量の合計が300ml/min)で電解槽供給した。また、電解層の出口水は、再び試験液容器に戻し循環した。その際の陽極室のpHは約7を示し、60分以上沸騰しても発泡しない状態になるまでの処理時間が、約450分まで短縮された。さらに、陽極室への塩素イオンの濃縮を加速するため、電解電流と陰極質への試験液の供給量を電解電流に比例させて増加することにより、陽極室出口水のpHを酸性側に調整した。その結果、図13に示すように、陽極質のpHの低下(塩素イオン濃度の濃縮)に伴い60分以上沸騰しても発泡しない状態になるまでの処理時間が短縮され、塩素イオン濃縮の効果が得られた。なお、陽極室出口水pHが2の場合の60分以上沸騰しても発泡しない状態になるまでの処理時間は200分となり、pH3の際の150分よりも増加した。この現象は、図9に示したpHと次亜塩素酸の存在形態の変化より、pHが約3よりさらに低下すると次亜塩素酸は塩素ガス(Cl2)となり、次亜塩素酸として存在する比率が減少することが原因していると推定される。塩素ガスの毒性より、ガスの発生は作業環境の悪化に至る可能性を有する。よって、本発明者らは、次亜塩素酸の酸化反応を高い状態に維持するために、処理時間の短縮および安全性の面より、陽極室のpHを3から6の範囲に調整することが有効と判断した。
【0054】
以下、本発明を実施例で具体的に説明する。
【実施例1】
【0055】
本発明の好適な一実施例である実施例1の洗濯廃液の処理方法を、図1を用いて説明する。本実施例の洗濯廃液の処理方法は、前述した第1の方法である。
【0056】
まず、本実施例の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置1を、図1を用いて説明する。洗濯廃液処理装置1は、洗濯廃液収集タンク2、濃縮缶5、加熱器7、デミスタ10、復水器11および次亜塩素酸供給装置45を備えている。
【0057】
加熱器7は胴体内に複数の伝熱管(図示せず)を設置している。濃縮缶5は、底部に接続される濃縮液供給管15によって加熱器7に接続され、各伝熱管に連絡される。ポンプ6が濃縮液供給管15に設けられる。加熱器7に接続されて各伝熱管に連絡される濃縮液戻り管16が、濃縮缶5に接続される。ボイラー(図示せず)に接続された蒸気管19が加熱器19の胴体に接続される。洗濯廃液収集タンク2は、底部に接続されてポンプ3および開閉弁4が設けられた廃液供給管14によって、ポンプ6の下流で濃縮液供給管15に接続される。開閉弁8が設けられる濃縮液排出管17が、濃縮液供給管15と濃縮液貯蔵タンク9を連絡する。濃縮液貯蔵タンク9に接続された濃縮液排出管18が乾燥粉体固化装置(図示せず)に接続される。
【0058】
次亜塩素酸供給装置45は、次亜塩素酸貯蔵タンク46、ポンプ48および次亜塩素酸供給管47を有する。次亜塩素酸貯蔵タンク46に接続された次亜塩素酸供給管47が、洗濯廃液収集タンク2に接続される。開閉弁49およびポンプ48が次亜塩素酸供給管47に設けられる。
【0059】
デミスタ10が、蒸気排出管20によって濃縮缶5に接続され、配管23によって洗濯廃液収集タンク2に接続される。蒸気排出管21が、デミスタ10と復水器11を接続し、復水器11内に設けられた複数の伝熱管(図示せず)に連絡される。復水器11に接続されて各伝熱管に連絡された凝縮水供給管22が、凝縮水貯蔵タンク12に接続される。復水器11の胴体には、冷却器(図示せず)に接続された配管25が接続される。
【0060】
洗濯廃液処理装置1を用いて行われる本実施例の洗濯廃液の処理方法について、説明する。放射性物質取り扱い施設である原子力プラントの定期検査時において、原子力プラントの保守点検作業および補修作業に従事した作業員の作業着等の衣類は、この原子力プラントに対して設けられた洗濯装置(図示せず)で非イオン界面活性剤を含む洗剤を用いて洗濯される。この洗濯により、非イオン界面活性剤、および洗濯時に作業着等の衣類から溶出した高級脂肪酸、高級アルコールおよび汗(塩分)を含む洗濯廃液が発生する。高級脂肪酸、高級アルコールおよび塩分(ナトリウム塩)を含む洗濯廃液が、洗濯装置から配管13を通して洗濯廃液収集タンク2に導かれ、貯蔵される。
【0061】
次亜塩素酸を例えば30ppm含む次亜塩素酸水溶液が次亜塩素酸貯蔵タンク46内に貯蔵されている。開閉弁49が開いてポンプ48が駆動されると、次亜塩素酸水溶液が、次亜塩素酸貯蔵タンク46から次亜塩素酸供給管47を通して洗濯廃液収集タンク2に供給される。この次亜塩素酸水溶液は洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液に混合される。次亜塩素酸水溶液は、洗濯廃液収集タンク2内に存在する洗濯廃液の次亜塩素酸の濃度が洗濯廃液の発泡成分を分解する十分な濃度になるように、洗濯廃液に添加される。洗濯廃液に含まれる発泡成分の濃度は、衣類の汚れ度合いに依存するため、洗濯の時期によりまちまちである。このため、洗濯廃液の、発泡成分を分解する十分な次亜塩素酸濃度は、洗濯廃液収集タンク2からサンプリングした洗濯廃液の発泡性を、図5に示したような発泡試験装置を用いて予め確認することによって選定すると良い。洗濯廃液に添加された次亜塩素酸は、高級脂肪酸および高級アルコールとナトリウム塩(ナトリウムイオン)の反応により洗濯廃液内で生成される界面活性成分を分解する。
【0062】
さらに、次亜塩素酸を添加した、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡性を確認するため、まず、次亜塩素酸水溶液を添加した後の洗濯廃液を洗濯廃液収集タンク2からサンプリングする。サンプリングした洗濯廃液の発泡性を、図5に示す発泡試験装置(または図2に示す試験装置)を用いて確認する。サンプリングした洗濯廃液をステンレス製容器に入れ、IHヒータにより加熱して沸騰させる。このサンプリングした洗濯廃液の発泡性は、洗濯廃液がステンレス製容器内で沸騰を開始してから発生した泡が冷却器の下方に置かれた受け容器に到達するまでに要する時間に基づいて行われる。洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡が抑制できたことが発泡試験装置によって確認されたとき、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液が、蒸発濃縮される。また、発泡試験装置の試験結果に基づいて洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡性がまだ残っていると判定されたときには、次亜塩素酸供給装置45によって次亜塩素酸水溶液を洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液に添加し、洗濯廃液の次亜塩素酸濃度を増加させる。その後、再び、洗濯廃液収集タンク2からサンプリングした洗濯廃液の、発泡試験装置による発泡性の確認試験を行う。洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡時間が所定時間に減少するまで、次亜塩素酸の洗濯廃液収集タンク2への添加、洗濯廃液収集タンク2からの洗濯廃液のサンプリング、およびサンプリングした洗濯廃液の発泡性の確認試験が繰り返えされる。
【0063】
洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡時間が所定時間まで低減されたとき、開閉弁4を開いてポンプ3を駆動し、洗濯廃液収集タンク2内の、次亜塩素酸、非イオン界面活性剤、高級脂肪酸、高級アルコールおよび塩分を含む洗濯廃液を、廃液供給管14および濃縮液供給管15を通して加熱器7に供給する。開閉弁8は閉じている。
【0064】
次亜塩素酸により界面活性成分が分解された洗濯廃液が、加熱器7の伝熱管内で、ボイラーから蒸気管19を通して加熱器7の胴体内に供給される蒸気によって加熱され、温度が例えば100℃以上に上昇する。加熱器7で加熱された洗濯廃液が濃縮液戻り管16によって濃縮缶5に導かれる。加熱された洗濯廃液が、濃縮缶5内で蒸発し、濃縮される。ポンプ6が駆動されるので、濃縮缶5内の濃縮液が濃縮液供給管15を通して加熱器7に供給される。蒸発缶5内の濃縮液は、濃縮液供給管15および濃縮液戻り管16により、濃縮缶5と加熱器7の間を循環する。濃縮缶5内での洗濯廃液の蒸発量に見合った洗濯廃液の量を、洗濯廃液収集タンク2から加熱器7に供給することにより、濃縮缶5内の洗濯廃液の水位をほぼ一定に保ちながら連続的に洗濯廃液の濃縮処理を行う。
【0065】
濃縮缶5と加熱器7の間を循環する濃縮液の一部は、濃縮液供給管15から、開いている開閉弁17および濃縮液排出管17を通って濃縮液貯蔵タンク9に導かれる。濃縮液貯蔵タンク9内の次亜塩素酸、非イオン界面活性剤、高級脂肪酸および高級アルコールを含む濃縮液は、濃縮液排出管18を通して乾燥粉体固化装置に送られ、ドラム管内に充填されてセメントにより固化される。
【0066】
濃縮缶5内で洗濯廃液の蒸発により生成された蒸気は、蒸気排出管20によってデミスタ10に供給される。この蒸気に含まれるミスト成分が、デミスタ10で除去される。デミスタ10で除去されたミスト成分は、配管23によって洗濯廃液収集タンク2に導かれる。デミスタ10から排気された蒸気は、蒸気排出管21を通して復水器11の各伝熱管内に供給される。冷却器から配管25により復水器11の胴体内に冷却水が供給されるので、伝熱管内の蒸気が、この冷却水によって冷却されて凝縮する。蒸気の凝縮によって生成された凝縮水は、凝縮水供給管22により凝縮水貯蔵タンク12に供給され、凝縮水貯蔵タンク12内に貯蔵される。凝縮水貯蔵タンク12内の凝縮水は、凝縮水排出管24で脱塩器等の浄化装置に送られて浄化され、原子力プラントで再利用水として利用される。
【0067】
本実施例は、次亜塩素酸供給装置45によって非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液に次亜塩素酸水溶液を添加するので、次亜塩素酸が洗濯廃液に含まれる界面活性成分を分解する。本実施例では、洗剤自身が発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいるが、洗濯廃液が洗濯物(衣類等)から溶出した高級脂肪酸および高級アルコールを基に洗濯廃液内で発泡成分(界面活性成分)が生成される。次亜塩素酸はこの発泡成分(界面活性成分)を分解する。このため、洗濯廃液に含まれる発泡成分(界面活性成分)が減少し、発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液の蒸発濃縮時における発泡を著しく抑制することができる。
【0068】
本実施例は、後述の実施例2及び3のように電解装置を用いる場合に比べ、洗濯廃液処理装置がコンパクトになり、さらに、消費電力が少なくなる。また、次亜塩素酸を洗濯廃液に添加する本実施例は、洗濯廃液に過酸化水素またはオゾンを添加する特開平11−319890号公報に比べて、濃縮缶5、加熱器7、廃液供給管14及び濃縮液供給管15等の洗濯廃液処理装置の金属製の構成部材の腐食を低減することができる。
【実施例2】
【0069】
本発明の他の実施例である実施例2の洗濯廃液の処理方法を、図15を用いて説明する。
【0070】
本実施例の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置1Aを、図15を用いて説明する。洗濯廃液処理装置1Aは、洗濯廃液処理装置1において次亜塩素酸供給装置45の替りに電解装置26および戻り管34を備えた構成を有する。洗濯廃液処理装置1Aの他の構成は洗濯廃液処理装置1と同じである。
【0071】
洗濯廃液処理装置1Aの洗濯廃液処理装置1と異なっている部分について説明する。電解装置26は、電解槽44、陽極28、陰極30および直流電源32を有する。陽極28および陰極30が電解槽44内に設置され、直流電源32が陽極28および陰極30にそれぞれ接続される。開閉弁36が設けられて電解槽44に接続された配管35が、ポンプ3と開閉弁4の間で廃液供給管14に接続される。電解槽44に接続された戻り管34が洗濯廃液収集タンク2に接続される。
【0072】
洗濯廃液処理装置1Aを用いて行われる本実施例の洗濯廃液の処理方法について、実施例1と異なる部分を説明する。直流電源32から陽極28および陰極30に電圧が印加されており、開閉弁4が閉じて開閉弁36が開いている。ポンプ3が駆動されて洗濯廃液収集タンク2内の高級脂肪酸、高級アルコール、塩分及び非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液が廃液供給管14および配管29を通って電解槽44内に供給される。電解槽44内の洗濯廃液は、戻り配管34を通って洗濯廃液収集タンク2に戻される。配管13により洗濯廃液収集タンク2に導かれる洗濯廃液の組成は、実施例1と同じである。
【0073】
直流電源32より陽極28および陰極30に電圧が印加され、電解槽44では、洗濯廃液の電解が行われる。この電解によって、電解槽44内ではナトリウムイオンが陰極に集まり塩素イオンが陽極に集まる。塩素イオンが集まる陽極付近でこの塩素イオンより次亜塩素酸が生成される。次亜塩素酸を含む洗濯廃液が、戻り配管34を通して洗濯廃液収集タンク2に戻される。次亜塩素酸を含む洗濯廃液が、洗濯廃液収集タンク2と電解槽44の間で循環される。このように洗濯廃液が循環する間に、洗濯廃液が電解装置26によって電解され、洗濯廃液の次亜塩素酸濃度が徐々に増大する。この次亜塩素酸は、高級脂肪酸および高級アルコールとナトリウム塩(ナトリウムイオン)の反応により洗濯廃液内で生成される界面活性成分を分解する。
【0074】
洗濯廃液収集タンク2と電解槽44の間での洗濯廃液の循環が所定時間行われた後、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡性を確認するため、まず、洗濯廃液を洗濯廃液収集タンク2からサンプリングする。サンプリングした洗濯廃液の発泡性を、図5に示す発泡試験装置(または図2に示す試験装置)を用いて確認する。サンプリングした洗濯廃液をステンレス製容器に入れ、IHヒータにより加熱して沸騰させる。このサンプリングした洗濯廃液の発泡性は、洗濯廃液がステンレス製容器内で沸騰を開始してから発生した泡が冷却器の下方に置かれた受け容器に到達するまでに要する時間に基づいて行われる。洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡が抑制できたことが発泡試験装置によって確認されたとき、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液が、蒸発濃縮される。また、発泡試験装置の試験結果に基づいて洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡性がまだ残っていると判定されたときには、さらに、洗濯廃液収集タンク2と電解槽44の間で洗濯廃液を循環させ、電解装置26による電解によって次亜塩素酸を生成し、洗濯廃液の次亜塩素酸濃度を増大させる。その後、再び、洗濯廃液収集タンク2からサンプリングした洗濯廃液の、発泡試験装置による発泡性の確認試験を行う。洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡時間が所定時間に減少するまで、洗濯廃液収集タンク2と電解槽44の間での洗濯廃液の循環、洗濯廃液収集タンク2からの洗濯廃液のサンプリング、およびサンプリングした洗濯廃液の発泡性の確認試験が繰り返えされる。
【0075】
洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡時間が所定時間まで低減されたとき、開閉弁4を開いて開閉弁36を閉じ、洗濯廃液収集タンク2内の界面活性成分が分解された洗濯廃液を、駆動しているポンプ3によって昇圧し、廃液供給管14および濃縮液供給管15を通して加熱器7に供給する。開閉弁8は閉じている。加熱器7で加熱された洗濯廃液が濃縮缶5に供給される。
【0076】
本実施例においても、実施例1と同様に、洗濯廃液が加熱器7及び濃縮缶5を循環する間に蒸発濃縮され、洗濯廃液に含まれた高級脂肪酸、高級アルコールおよび非イオン界面活性剤が濃縮される。濃縮缶5から排出されたこれらの成分を含む濃縮液が、濃縮液貯蔵タンク9に導かれる。濃縮缶5で発生した蒸気は、実施例1と同様に、デミスタ10を通って復水器11で凝縮される。復水器11から排出された凝縮水が、凝縮水貯蔵タンク12に集められる。
【0077】
本実施例は、電解装置26により洗濯廃液内に次亜塩素酸を生成するため、この次亜塩素酸が洗濯廃液に含まれる界面活性成分を分解する。本実施例では、洗剤自身が発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいるが、洗濯廃液が洗濯物(衣類等)から溶出した高級脂肪酸および高級アルコールを基に洗濯廃液内で発泡成分(界面活性成分)が生成される。次亜塩素酸はこの発泡成分(界面活性成分)を分解する。このため、洗濯廃液に含まれる発泡成分(界面活性成分)が減少し、発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液の発泡を著しく抑制することができる。本実施例は、実施例1のように、次亜塩素酸水溶液を洗濯廃液に添加しないので、放射性廃液の発生量を減少させることができる。
【実施例3】
【0078】
本発明の他の実施例である実施例3の洗濯廃液の処理方法を、図16を用いて説明する。
【0079】
本実施例の洗濯廃液の処理方法に用いられる洗濯廃液処理装置1Bを、図16を用いて説明する。洗濯廃液処理装置1Bも、実施例で用いる洗濯廃液処理装置1Aと同様に、電解装置を設けている。洗濯廃液処理装置1Bは、洗濯廃液処理装置1Aにおいて電解装置26を電解装置26Aに替えた構成を有する。洗濯廃液処理装置1Bの他の構成は洗濯廃液処理装置1Aと同じである。
【0080】
洗濯廃液処理装置1Aの洗濯廃液処理装置1と異なっている部分について説明する。電解装置26Aは、実施例2で用いる電解装置26にカチオン樹脂膜(陽イオン交換膜)31を設けた構成を有する。電解装置26Aは、電解槽44、カチオン樹脂膜31、陽極28、陰極30および直流電源32を有する。電解槽44内に設けられたカチオン樹脂膜31が、電解槽44内を陽極室27および陰極室29に仕切っている。陽極28が陽極室27内に設置され、陰極30が陰極室29内に設置される。弁38および開閉弁40が設けられた配管41が、ポンプ3と開閉弁4の間で廃液供給管14に接続される。この配管41が、電解槽44に接続されて陽極室27に連絡される。弁38と開閉弁40の間で配管41に接続された配管42が、電解槽44に接続されて陰極室29に連絡される。弁39が配管42に設けられる。洗濯廃液収集タンク2に接続された戻り管34が、電解槽44に接続されて陽極室27に連絡される。電解槽44に接続されて陰極室29に連絡される配管37が戻り管34に接続される。pH計33が戻り管34と配管37の接続点よりも上流で戻り管34に設けられる。
【0081】
洗濯廃液処理装置1Bを用いて行われる本実施例の洗濯廃液の処理方法について、実施例2と異なる部分を説明する。開閉弁4が閉じられており、開閉弁40および弁38,39が開いている。ポンプ3が駆動されており、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液が、廃液供給管14および配管41を介して陽極室27に供給され、さらに、配管42を介して陰極室に供給される。直流電源32から陽極28および陰極30に電圧が印加されている。陽極室27で発生したナトリウムイオンがカチオン樹脂膜31を通過して陰極室29に移行し、陰極室29で発生した塩素イオンがカチオン樹脂膜31を通過して陽極室27に移行する。塩素イオンが集まる、陽極室27内の陽極28付近でその塩素イオンより次亜塩素酸が生成される。次亜塩素酸を含む洗濯廃液が、戻り管34を通して洗濯廃液収集タンク2に戻される。ナトリウムイオン濃度が増加した陰極室29内の洗濯廃液が、配管37に排出され、戻り管34に流入して陽極室27から排出された次亜塩素酸を含む洗濯廃液に混合され、洗濯廃液収集タンク2に供給される。洗濯廃液は、洗濯廃液収集タンク2と陽極室27の間、および洗濯廃液収集タンク2と陰極室29の間を循環する。陽極室27内で生成された次亜塩素酸は、洗濯廃液と共に洗濯廃液収集タンク2に導かれ、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液と混合され、洗濯廃液に含まれる界面活性成分と反応する。この界面活性成分が次亜塩素酸によって分解される。
【0082】
陽極室27から排出された洗濯廃液で陰極室29から排出された洗濯廃液と混合される前の洗濯廃液のpH(陽極室27のpH)が、pH計33で計測される。制御装置(図示せず)は、陽極室27のpHを次亜塩素酸の高い反応効率が得られる3〜6の範囲になるように、pH計33の計測値に基づいて弁38および39のそれぞれの開度を制御し、陽極室27への洗濯廃液の供給流量および陰極室29への洗濯廃液の供給流量をそれぞれ調節する。その制御装置は、pH計33の計測値に基づいて、陽極室のpHがpH設定値(pH3〜6の範囲内の例えば4.5)になるように、弁38および39のそれぞれの開度を調節する。また、陽極室27および陰極室29のそれぞれに供給する洗濯廃液の流量制御のみで陽極室27のpHの調整が困難な場合には、制御装置は、直流電源32を制御して、陽極28および陰極30に印加する電圧を調節し、陽極室のpHを設定値に調節する。
【0083】
前述のように循環している洗濯廃液を、この洗濯廃液の発泡性を確認するため、洗濯廃液収集タンク2から適宜サンプリングする。サンプリングした洗濯廃液の発泡性を、図5に示す発泡試験装置(または図2に示す試験装置)を用いて確認する。サンプリングした洗濯廃液をステンレス製容器に入れ、IHヒータにより加熱して沸騰させる。このサンプリングした洗濯廃液の発泡性は、洗濯廃液がステンレス製容器内で沸騰を開始してから発生した泡が冷却器の下方に置かれた受け容器に到達するまでに要する時間に基づいて行われる。洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡が抑制できたことが発泡試験装置によって確認されたとき、洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液が、蒸発濃縮される。また、発泡試験装置の試験結果に基づいて洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡性がまだ残っていると判定されたときには、さらに、洗濯廃液収集タンク2と電解槽44の間で洗濯廃液を循環させ、電解装置26による電解によって次亜塩素酸を生成し、洗濯廃液の次亜塩素酸濃度を増大させる。その後、再び、洗濯廃液収集タンク2からサンプリングした洗濯廃液の、発泡試験装置による発泡性の確認試験を行う。洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡時間が所定時間に減少するまで、洗濯廃液収集タンク2と電解槽44の間での洗濯廃液の循環、洗濯廃液収集タンク2からの洗濯廃液のサンプリング、およびサンプリングした洗濯廃液の発泡性の確認試験が繰り返えされる。
【0084】
洗濯廃液収集タンク2内の洗濯廃液の発泡時間が所定時間まで低減されたとき、開閉弁4を開いて開閉弁40を閉じ、洗濯廃液収集タンク2内の界面活性成分が分解された洗濯廃液を、駆動しているポンプ3によって昇圧し、廃液供給管14および濃縮液供給管15を通して加熱器7に供給する。開閉弁8は閉じている。加熱器7で加熱された洗濯廃液が濃縮缶5に供給される。
【0085】
本実施例においても、実施例1と同様に、洗濯廃液が加熱器7及び濃縮缶5を循環する間に蒸発濃縮され、洗濯廃液に含まれた高級脂肪酸、高級アルコールおよび非イオン界面活性剤が濃縮される。濃縮缶5から排出されたこれらの成分を含む濃縮液が、濃縮液貯蔵タンク9に導かれる。濃縮缶5で発生した蒸気は、実施例1と同様に、デミスタ10を通って復水器11で凝縮される。復水器11から排出された凝縮水が、凝縮水貯蔵タンク12に集められる。
【0086】
本実施例は、電解装置26を用いた実施例2と同様に、電解装置26Aで生成された次亜塩素酸により洗濯廃液に含まれる界面活性成分が分解される。本実施例でも、洗剤自身が発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいるが、洗濯廃液が洗濯物(衣類等)から溶出した高級脂肪酸および高級アルコールを基に洗濯廃液内で発泡成分(界面活性成分)が生成される。次亜塩素酸はこの発泡成分(界面活性成分)を分解する。このため、洗濯廃液に含まれる発泡成分(界面活性成分)が減少し、発泡性の少ない非イオン界面活性剤を含んでいる洗濯廃液の発泡を著しく抑制することができる。
【0087】
本実施例は、pH計33で計測されたpHに基づいて陽極室27のpHを3〜6の範囲内の値、例えば、4.5に制御されるので、陽極室27内で次亜塩素酸の高い反応効率を得ることができる。
【0088】
本実施例は、電解槽44内にカチオン樹脂膜31を設けているので、図12に示すように、電解槽44内にカチオン樹脂膜31を設けていない電解装置26を用いた実施例2に比べて、洗濯廃液に含まれる界面活性成分の分解時間を短縮することができる。
【0089】
電解装置26Aの電解槽44に設けたカチオン樹脂膜31をアニオン樹脂膜に替えてもよい。この場合には、アニオン樹脂膜が電解槽44内を仕切って陽極28が設置された陽極室27および陰極30が設置された陰極室29を形成する。陽極室27および陰極室29に洗濯廃液が供給され、陽極28および陰極30に通電されている状態で、実施例3と同様に、陽極室28内で次亜塩素酸が生成される。アニオン樹脂膜を設けた場合にも、実施例3で生じる各効果を得ることができる。電解槽44内にアニオン樹脂膜を設けた電解装置を用いることによって、電解槽44内にカチオン樹脂膜31を設けた電解装置26を用いた場合に比べて、洗濯廃液に含まれる界面活性成分の分解時間をさらに短縮することができる(図13および図14参照)。
【符号の説明】
【0090】
1,1A,1B…洗濯廃液処理装置、2…洗濯廃液収集タンク、5…濃縮缶、7…加熱器、9…濃宿液貯蔵タンク、10…デミスタ、11…復水器、12…凝縮水貯蔵タンク、26,26A…電解装置、27…陽極室、28…陽極、29……陰極室、30…陰極、31…カチオン樹脂膜(陽イオン交換膜)、32…直流電源、44…電解槽、45…次亜塩素酸供給装置、46…次亜塩素酸貯蔵タンク、47…次亜塩素酸供給管。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液に次亜塩素酸を含有させ、前記次亜塩素酸により前記洗濯液に含まれる界面活性成分を分解し、前記界面活性成分が分解された前記洗濯廃液を蒸発濃縮することを特徴とする洗濯廃液の処理方法。
【請求項2】
前記次亜塩素酸を含有する前記洗濯廃液の生成は、前記洗濯廃液に前記次亜塩素酸を添加することによって行われる請求項1に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項3】
前記次亜塩素酸を含有する前記洗濯廃液の生成は、電解装置により前記洗濯廃液を電解して前記洗濯廃液中で塩素イオンより前記次亜塩素酸を生成することによって行われる請求項1に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項4】
前記次亜塩素酸の生成は、前記電解装置の、内部に陽極及び陰極が設置されてイオン交換膜が設置されていない電解槽に、前記陽極及び前記陰極に通電した状態で前記洗濯液を供給することによって行われる請求項3に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項5】
前記次亜塩素酸の生成は、前記電解装置の、内部に、イオン交換膜により陽極が配置された陽極室および陰極が配置された陰極室が形成される電解槽において、前記陽極及び前記陰極に通電した状態で前記洗濯液を前記陽極室および前記陰極室にそれぞれ供給することによって行われ、前記次亜塩素酸が、前記塩素イオンが存在する前記陽極室内で生成される請求項3に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項6】
前記陽極室から排出される前記洗濯廃液のpHを計測し、前記計測されたpHに基づいて前記陽極室および前記陰極室に供給するそれぞれの前記洗濯廃液の流量を制御して前記陽極室のpHを3〜6の範囲に調節する請求項5に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項7】
前記イオン交換膜として陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜のいずれかを用いる請求項5または6に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項1】
非イオン界面活性剤を含む洗濯廃液に次亜塩素酸を含有させ、前記次亜塩素酸により前記洗濯液に含まれる界面活性成分を分解し、前記界面活性成分が分解された前記洗濯廃液を蒸発濃縮することを特徴とする洗濯廃液の処理方法。
【請求項2】
前記次亜塩素酸を含有する前記洗濯廃液の生成は、前記洗濯廃液に前記次亜塩素酸を添加することによって行われる請求項1に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項3】
前記次亜塩素酸を含有する前記洗濯廃液の生成は、電解装置により前記洗濯廃液を電解して前記洗濯廃液中で塩素イオンより前記次亜塩素酸を生成することによって行われる請求項1に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項4】
前記次亜塩素酸の生成は、前記電解装置の、内部に陽極及び陰極が設置されてイオン交換膜が設置されていない電解槽に、前記陽極及び前記陰極に通電した状態で前記洗濯液を供給することによって行われる請求項3に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項5】
前記次亜塩素酸の生成は、前記電解装置の、内部に、イオン交換膜により陽極が配置された陽極室および陰極が配置された陰極室が形成される電解槽において、前記陽極及び前記陰極に通電した状態で前記洗濯液を前記陽極室および前記陰極室にそれぞれ供給することによって行われ、前記次亜塩素酸が、前記塩素イオンが存在する前記陽極室内で生成される請求項3に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項6】
前記陽極室から排出される前記洗濯廃液のpHを計測し、前記計測されたpHに基づいて前記陽極室および前記陰極室に供給するそれぞれの前記洗濯廃液の流量を制御して前記陽極室のpHを3〜6の範囲に調節する請求項5に記載の洗濯廃液の処理方法。
【請求項7】
前記イオン交換膜として陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜のいずれかを用いる請求項5または6に記載の洗濯廃液の処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−71263(P2012−71263A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218740(P2010−218740)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】
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