説明

活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物

【課題】環境汚染が少なく、かつエネルギー線感度が高く、短時間で実用的な塗膜強度を得る水性の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(a)重合性不飽和基およびアリール環状スルホニウム双性イオンを含有する芳香族エポキシ樹脂誘導体と(b)光重合開始剤を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線、特に紫外線照射によって硬化する水性の樹脂組成物であり、さらには水性でありながら硬化後は疎水性の塗膜となる水性樹脂組成物であり、耐久性の優れた塗料、印刷用インキ、インクジェット記録用インキ、フォトレジスト、接着剤、コーティング材などのバインダーとして有用な活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
活性エネルギー線硬化性の樹脂組成物は、実質的に有機溶剤を含有していないため、塗工、印刷での使用時の作業環境の安全性と衛生性に優れている。さらに、硬化速度が速く、生産性向上と省エネルギーの観点から有利のため、無公害の塗料、インキ、コーティング材用の樹脂組成物として期待されており、従来の有機溶剤系塗料、インキ、コーティング材に代わって徐々にその実用化の領域が広がっている。
【0003】
しかし、従来の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、概して高粘度であるので、塗工粘度やレオロジー特性の調節のために、多量の反応性希釈剤を使用するか、又は有機溶剤を併用することで対処されているのが現状である。反応性希釈剤を多量に使用した場合には、皮膚刺激、過敏性障害や硬化性低下、硬度などの硬化物物性低下などの問題を招き、また、有機溶剤を併用する場合には大気汚染や火災の危険性が高くなり、また労働衛生上好ましくない。
【0004】
活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物は、上に述べた従来の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の欠点である高粘度、安全性と衛生性の問題を一挙に解決するとともに、塗膜の総合的性能向上、原材料のコスト削減が図れるため、近年特に注目されている。
【0005】
活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物としてこれまで提案されているものとしては、1.水溶性樹脂型、2.エマルジョン型、3.コロイダルディスパージョン型、4.強制乳化型などがある。塗料やコーティング材としては、エマルジョン型やディスパージョン型が使用され、これらの中で代表的な素材としては、上記2のタイプの属するウレタンアクリレートディスパージョンが挙げられる。このウレタンアクリレートディスパージョンは、他の水溶性樹脂型、エマルジョン型、強制乳化型に比べると、塗工適性、塗膜性能が総合的に優れている。フォトレジストとしては、解像性や現像性などの要求を満たすために、水溶性樹脂型が用いられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術による活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物においては、水性化(水溶化、水分散化)のために必須である酸性基の塩を含有し、それらの塩は活性エネルギー線硬化後にも組成物中に存在しているために、得られる硬化塗膜の耐水性、耐薬品性などの耐久性が不十分であるという問題がある。本発明の目的は、従来技術では達成が困難である、活性エネルギー線の照射による硬化後に優れた耐久性を与える、活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、重合性不飽和基およびアリール環状スルホニウム双性イオンを含有する芳香族エポキシ樹脂誘導体と光重合開始剤を必須成分とする光重合性樹脂組成物を用いることによって、従来達成できなかった課題を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
アリール環状スルホニウム双性イオンは、本来親水性であるが、活性エネルギー線照射により重合反応を起こして水不溶化すると同時に、イオン性を失うために疎水性に変化することが知られている。すなわち、親水性が疎水性に変化し、更に架橋構造を形成する性質を有している。特公平1−57778、特表2000−502463、米国特許4118297に開示されている。しかし、アリール環状スルホニウム双性イオンを含有する感光性のエポキシ樹脂誘導体についての報告はこれまでなく、本発明の活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物は新規な材料である。
【0009】
すなわち、本発明は、重合性不飽和基およびアリール環状スルホニウム双性イオンを含有する芳香族エポキシ樹脂誘導体と光重合開始剤を必須成分とすることを特徴とする活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の活性エネルギー線硬化性組成物は、親水性基であるアリール環状スルホニウム双性イオンを含有するために、水溶性または自己乳化性を有している。そして、アリール環状スルホニウム双性イオンは活性エネルギー線照射により疎水性基に変換するために、得られた硬化塗膜には親水性基がないか、又は少なく、又架橋構造を形成するために、耐水性、耐摩耗性に優れた塗膜を形成することができる。このため環境汚染の少ない有用な水性バインダー組成物とすることができ、産業界に寄与すること大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における重合性不飽和基およびアリール環状スルホニウム双性イオンを含有する芳香族エポキシ樹脂誘導体は、芳香族エポキシ樹脂に、エポキシ基と付加反応することができる官能基とアリール環状スルホニウム双性イオンを含有する化合物またはその前駆体、およびエポキシ基と付加反応することができる官能基と重合性不飽和基を含有する化合物を反応させることにより得ることができる。エポキシ基と付加反応することができる官能基としては、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基などが挙げられる。このうち、カルボキシル基が好ましい。
【0012】
本発明において使用される芳香族エポキシ樹脂として、ビスフェノルA、ビスフェノールF、ビスフェノルSなどの芳香族ビスフェノールのジグリシジルエーテル化物またはこれらジグリシジルエーテル化物と上記ビスフェノルとの重合体、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールフェノールノボラック型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレートまたはそれらの核ハロゲン化物などが挙げられる。また、これらのエポキシ樹脂を芳香族または脂肪族カルボン酸などで部分的に変性したものも使用できる。
【0013】
上記芳香族エポキシ樹脂は、樹脂中のエポキシ基含有量が樹脂に対して0.1モル/kgであることが反応性の点から好ましく、また該樹脂の分子量は特に制限はないが、レジストなどの塗膜の指触乾燥の点から重量平均分子量が約500以上、また塗装作業性の観点から重量平均分子量が約5000以下であることが好ましい。
【0014】
本発明において使用されるエポキシ基と付加反応することができる官能基とアリール環状スルホニウムイオンを含有する化合物として、カルボン酸とアリール環状スルホニウムイオンを含有する化合物が挙げられる。また、カルボン酸と、アリール環状スルホニウムイオン前駆体を含有する化合物と芳香族エポキシ樹脂を反応させた後に双性イオン化することにより芳香族エポキシ樹脂にアリール環状スルホニウムイオンを導入できる。
【0015】
本発明において使用されるアリール環状スルホニウムイオンは下記構造式で示される。
【化1】

(式中、Arは置換または未置換芳香族基であり、XおよびYは独立に置換または未置換メチレン基であり、nは1または2である。)
この式中、Arは芳香族系中に6〜18個の炭素原子を有する置換または未置換の芳香族炭素環式または複素環式基(例えばフェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、ピレニル、クリセニル、トリフェニル、ベンズアントリルおよびビフェニル)である。好ましくは、Arは置換または未置換のフェニルまたはナフチル基である。
【0016】
本発明において使用されるエポキシ基と付加反応することができる官能基とアリール環状スルホニウムイオン前駆体を含有する化合物として3−(S−テトラヒドロチオフェニウムクロリド)−4−ヒドロキシフェニル酢酸(化合物1)、2−(S−テトラヒドロチオフェニウムクロリド)−5−ヒドロキシフェニル酢酸、3−(3−(S−テトラヒドロチオフェニウムクロリド)−4−ヒドロキシフェニル))プロピオン酸(化合物2)、2−(3−(S−テトラヒドロチオフェニウムクロリド)−4−ヒドロキシフェニル))プロピオン酸などが挙げられる。例えば、3−(S−テトラヒドロチオフェニウムクロリド)−4−ヒドロキシフェニル酢酸は、4−ヒドロキシフェニル酢酸をテトラヒドロチオフェン1−オキシドおよび塩化水素と反応させるか、又はテトラヒドロチオフェンおよび塩素と反応させることによって合成できる。双性イオン化は、適当なイオン交換樹脂で処理するか、またはナトリウムメトキシドを使用して中和することにより容易に得られる。
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
本発明のアリール環状スルホニウム双性イオンの量は、自己乳化性または水溶解性および硬化塗膜の耐久性や光感度を考慮すると、乾燥重量に対して、0・03〜2モル/kg、好ましくは0.05〜1.5モル/kg、さらに好ましくは0.1〜1.5モル/kgである。
【0019】
本発明において使用される重合性不飽和基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、イタコネート基、マレエート基、フマレート基、クロトネート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、桂皮酸基、ビニル基、アリル基などがあげられる。エポキシ基と付加反応することができる官能基と重合性不飽和基を含有する化合物として、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸モノアルキルエステル、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、アリルアルコール、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドまた、エポキシ樹脂中に水酸基がある場合には、水酸基と付加反応できる例えばイソシアネート基および重合性不飽和基含有化合物も利用できる。例えば、アクリロイロキシエチルイソシアネート、メタクリロイロキシエチルイソシアネートなどを例示できる。
【0020】
本発明の重合性不飽和基の量は、硬化性の観点から樹脂固形分に対して、0.3〜10モル/kgが好ましく、0.5〜5モル/kgがより好ましい。0.3モル/kgより少ないと、樹脂の硬化が不十分となり、逆に10モル/kgより多くなると、機械的物性が低下する傾向にあるので好ましくない。
【0021】
本発明において使用される光重合開始剤としては、活性エネルギー線の照射によって、ビニル重合を開始できる機能を有する物質であれば特に制限されるものではない。具体例としては、2,2−ジメトキシ−ジフェニルメタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、1−[4−2−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、鉄アレン錯体、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、2−イソプロピリチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントンなどが挙げられるが、特にこれらに限定されるわけではない。
【0022】
光重合開始剤の配合量は、活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物の乾燥重量に対して、0〜10重量%であることが好ましい。
【0023】
本発明の活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物は、必要に応じて分子内に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物を配合することができる。
【0024】
分子内に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物としては、一般に紫外線硬化性の塗料、インキ、レジストなどで使用されている(メタ)アクリレート系オリゴマーなどが使用できる。これらの中で好ましいものは、トリメチロールプロマンのプロピレンオキサイド3モル付加物のトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロマンのエチレンオキサイド3モル付加物のトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ジアリルフタレートなどの不飽和オリゴマー、不飽和ポリエステルなどが挙げられるが特にこれらに限定されるわけではない。
【0025】
分子内に2個以上の不飽和二重結合を有する化合物の配合量は、活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物の乾燥重量に対して、0〜50重量%であることが好ましい。
【0026】
本発明活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物は、更に密着性、硬度などの特性を向上する目的で必要に応じて、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、酸化ケイ素粉、微粉状ケイ素、無定形シリカ、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルムニウム、雲母粉などの公知の無機充填剤が使用できる。その使用量は、本発明の組成中の0〜60重量%が好ましく、特に好ましくは5〜40重量%である。
【0027】
本発明においては必要に応じて、着色顔料や染料などの色材を使用できる。着色顔料としては、次のものを挙げることができる。イエロー顔料としては、ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、55、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、128、138、139、150、151、154及び180などを挙げることができる。マゼンタ顔料としては、ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57:1、57(Sr)、57:2、122、123、168、184、202、238等を挙げることができる。シアン顔料としては、ピグメントブルー1、2、3、13、15、16、22、60、及びバットブルー4及び60等を挙げることができる。また黒顔料としてはカーボンブラックを好適に用いることができる。
【0028】
染料としては、カチオン性の染料を好適に用いることが次のものを挙げることができる。本発明における塩基性染料としてはアクリジン系、メチン系、ポリメチン系、アゾ系、アゾメチン系、キサンテン系、チオキサンテン系、オキサジン系、チオキサジン系、トリアリルメタン系、シアニン系、アントラキノン系、フタロシアニン系等公知の塩基性染料を用いることができる。特にプロセスカラ−の三原色用としては、イエロ−としてC.I.Basic Yellow 11、12、13、21、23、24、33、40、51、54、63、71、87が、マゼンタとしてC.I.Basic Red 13、14、45、19、26、27、34、35、36、38、39、42、43、45、46、50、51、52、53、56、59、63、65、66、71、C.I.Basic Violet 7、11、14、15、16、18、19、20、28、29、30、33、34、35、36、38、39、41、44が、シアンとしてC.I.Basic Blue 3、22、33、41、45、54、63、65、66、67、75、77、85、87、88、109、116が好ましく用いられる。
【0029】
色材の特殊な例として、染料にて着色されたポリマーの微粒子を用いることが出来る。より具体的には カチオン染料にて染着されたアニオン基含有ポリマーの微粒子、酸性染料、直接染料で染着されたカチオン基含有ポリマー、あるいは油性染料、分散染料などで着色されたポリマー粒子を用いることが可能である。
【0030】
更にハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ターシャル−ブチルカテコール、ピロガロール、フェノチアジンなどの重合禁止剤、アスベスト、オルベン、ベントン、モンモリロナイトなどの公知の増粘剤、シリコーン系、フッ素系、高分子系などの消泡剤および又は、レベリング剤、イミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系、シランカップリング剤などの密着性付与剤のような公知の添加剤を用いることができる。また、他の光重合性オリゴマー類の強制分散体、二重結合含有の水性アクリル樹脂及び他の水性ウレタン樹脂、水性アクリル樹脂などの公知のバインダー樹脂を適宜の範囲で混合して使用できる。
【0031】
本発明の組成物の媒体は基本的には水である。さらに、水に必要に応じて水溶性有機化合物を添加して得られる水性媒体を好適に用いることができる。水溶性有機化合物は、主に、組成物に不揮発性を与え、粘度を低下させ、かつ被塗布基材への組成物の濡れ性を確保するために用いられるものであり、かかる目的に適合するものであれば利用できる。なお、被塗布基材が非吸収性である場合は、水性媒体は水のみで形成するか、または水溶性有機溶媒を用いる場合では、水性媒体の蒸発が容易か、あるいは水性媒体全てが硬化膜中に取り込まれるものであることが好ましい。
【0032】
水溶性有機化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、セプタノール、C8以上の高級アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジメチルスルホキシド、ダイアセトンアルコール、グリセリンモノアリルエーテル、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール300、チオジグリコール、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルフォラン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ネオペンチルグリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、β−ジヒドロキシエチルウレア、ウレア、アセトニルアセトン、ペンタエリスリトール、1,4−シクロヘキサンジオール、ヘキシレングリコール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、グリセリンモノアセテート、グリセリンジアセテート、グリセリントリアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノール、1,2−シクロヘキサンジオール、1−ブタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−ヘキセン−2,5−ジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
本発明組成物は、必要な成分を水性媒体中に配合することで調製することができる。各成分の混合順序は特に限定されないが、混合は速やかに不均一な状態を長く保持することなく行うことが好ましい。
【0034】
本発明組成物は、ハケ塗り、スプレー塗装、カーテンコート、で一夫コート、スピンコート、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷等の定法により塗膜化可能である。処理装置としては、これら塗布機に活性エネルギー線照射装置を装着した構造のものが好適に利用できる。
【0035】
活性エネルギー線は、塗布部を出た被塗布機剤の塗布面に上部あるいは下部から照射される。透明な被塗布基材の場合は必要に応じて上下両方からの照射も効果的である。塗布から照射エリアへの時間間隔は、組成物に含まれる水分の量により調整できることが必要である。また塗布エリアから活性エネルギー線照射装置との間に、加熱乾燥を行う機構を設置することも可能である。
【0036】
照射装置に用いる活性エネルギー線源としては、水銀の蒸気圧が点灯中で1〜10Paであるような、いわゆる低圧水銀ランプ、あるいはそれ以上の圧力を有する高圧水銀ランプ、さらに高い圧力の超高圧水銀灯、蛍光体が塗布された水銀灯、レーザー、蛍光管、冷陰極管、その他の放電管等を用いることができ、特に水銀ランプが実用上好ましい。水銀ランプの活性エネルギー線領域の発光スペクトルは184〜450nmの範囲であり、組成物中の活性エネルギー線重合性化合物を効率的に反応させるのに適している。水銀ランプには、メタルハライドランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、クセノンフラッシュランプ、ディープUVランプ、UVレーザーなどが実用化されており、発光波長領域としては上記範囲を含むので、電源サイズ、入力強度、ランプ形状などに応じて適宜選択して用いることができる。光源は、硬化型組成物の吸収波長との適性を考慮して選択することが好ましい。
【0037】
必要な活性エネルギー線強度は、紫外部のエネルギー総量が1〜1000mW/cm2程度のものがより良好な重合速度を得る上で望ましい。照射時間は0.1〜100秒の範囲が実用的である。積算照射量が不足していると固着した組成物の被塗布基材への付着力が十分に出ない場合があり、必要な積算照射量を考慮して照射処理を行うのが好ましい。組成物を活性エネルギー線で硬化させて被塗布基材に固着させることで、良好な定着、擦過性、耐水性などが得られる。それとともに、被塗布基材自体のカール、コックルなどの変形も抑制され、取扱性、保存性を向上させることが可能となる。
【0038】
(作用)
本発明活性エネルギー線硬化性組成物は、親水性基であるアリール環状スルホニウム双性イオンを含有するために、自己乳化性を有し、安定な水分散体となる。しかも、アリール環状スルホニウム双性イオンは活性エネルギー線照射により疎水性基に変換して架橋し、また光重合による架橋も起こるために、得られた硬化塗膜には親水性基がないか又は少なく、かつ強固な架橋構造を形成するので、耐水性、耐摩耗性に優れた塗膜を形成することができる。また、塗膜をパターン露光した場合、非露光部は親水性のままなので、水で現像できるフォトレジストとしても有用である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【0040】
3−(S−テトラヒドロチオフェニウムクロリド)−4−ヒドロキシフェニル酢酸(化合物1)を例にして、エポキシ基と付加反応することができる官能基とアリール環状スルホニウムクロリド(双性イオン前駆体)を含有する化合物の合成を合成例1で説明する。他の化合物も同様の方法で容易に合成できる。
【0041】
合成例1
化合物1の合成
3g(0・1モル)の4−ヒドロキシ酢酸を20mlの無水メタノール中に溶解させ、溶液を0℃に冷却した。そして、塩化水素ガスを30分間通気し、メタノール10ml中のテトラヒドロチオフェン2.1gを徐々に加えた。この時溶液の温度を0℃に保った。その溶液にさらに塩化水素ガスを1時間通気した。得られた生成物を水中に析出させ、ろ過し、そして乾燥して化合物1を得た。
【0042】
合成例2
芳香族エポキシ樹脂誘導体1の合成
エポキシ樹脂EOCN−104S(日本化薬社製クレゾールノボラック樹脂、分子量1300、エポキシ当量220)220g、アクリル酸43g、化合物1を110g、テトラブチルアンモニウムブロミド2.9g、ハイドロキノン0.3gをエチレングリコールモノブチルエーテル153gの入ったフラスコ中に入れ、溶解させた後、110℃で5時間加熱して樹脂酸価0.5の芳香族エポキシ樹脂誘導体1を含有する溶液を得た。さらに1700mlのテトラヒドロフランで希釈し、あらかじめOH型に処理した強塩基型陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA400J)を加えて約1日攪拌した。陰イオン交換樹脂をろ別し、このろ液を60mmHg以上の真空度でエバポレーションし、さらに水を加えて固形分25%になるように希釈して芳香族エポキシ樹脂誘導体1溶液を得た。
【0043】
合成例3
芳香族エポキシ樹脂誘導体2の合成
エポキシ樹脂EBPS−300(日本化薬社製変性ビスフェノールS型エポキシ樹脂、分子量530、エポキシ当量263)263g、アクリル酸43g、化合物1を110g、テトラブチルアンモニウムブロミド2.9g、ハイドロキノン0.3gをエチレングリコールモノブチルエーテル168gの入ったフラスコ中に入れ、溶解させた後、110℃で5時間加熱して樹脂酸価0.5の芳香族エポキシ樹脂誘導体2を含有する溶液を得た。さらに1700mlのテトラヒドロフランで希釈し、あらかじめOH型に処理した強塩基型陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA400J)を加えて約1日攪拌した。陰イオン交換樹脂をろ別し、このろ液を60mmHg以上の真空度でエバポレーションし、さらに水を加えて固形分25%になるように希釈して芳香族エポキシ樹脂誘導体2溶液を得た。
【0044】
合成例4
芳香族エポキシ樹脂誘導体3の合成
エポキシ樹脂エピコート828(ジャパンエポキシレジン社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量192)192g、アクリル酸43g、化合物1を110g、テトラブチルアンモニウムブロミド2.9g、ハイドロキノン0.3gをエチレングリコールモノブチルエーテル138gの入ったフラスコ中に入れ、溶解させた後、110℃で5時間加熱して樹脂酸価0.5の芳香族エポキシ樹脂誘導体3を含有する溶液を得た。さらに1700mlのテトラヒドロフランで希釈し、あらかじめOH型に処理した強塩基型陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA400J)を加えて約1日攪拌した。陰イオン交換樹脂をろ別し、このろ液を60mmHg以上の真空度でエバポレーションし、さらに水を加えて固形分25%になるように希釈して芳香族エポキシ樹脂誘導体3溶液を得た。
【0045】
合成例5
芳香族エポキシ樹脂誘導体4の合成
エポキシ樹脂BREN−S(日本化薬社製臭素化クレゾールノボラック樹脂、分子量1100、エポキシ当量280)280g、アクリル酸43g、化合物1を110g、テトラブチルアンモニウムブロミド2.9g、ハイドロキノン0.3gをエチレングリコールモノブチルエーテル175gの入ったフラスコ中に入れ、溶解させた後、110℃で5時間加熱して樹脂酸価0.5の芳香族エポキシ樹脂誘導体4を含有する溶液を得た。さらに1700mlのテトラヒドロフランで希釈し、あらかじめOH型に処理した強塩基型陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA400J)を加えて約1日攪拌した。陰イオン交換樹脂をろ別し、このろ液を60mmHg以上の真空度でエバポレーションし、さらに水を加えて固形分25%になるように希釈して芳香族エポキシ樹脂誘導体4溶液を得た。
【0046】
合成例6
芳香族エポキシ樹脂誘導体5の合成
エポキシ樹脂EOCN−104S(日本化薬社製クレゾールノボラック樹脂、分子量1300、エポキシ当量220)220g、アクリル酸43g、化合物2を115g、テトラブチルアンモニウムブロミド2.9g、ハイドロキノン0.3gをエチレングリコールモノブチルエーテルgの入ったフラスコ中に入れ、溶解させた後、110℃で5時間加熱して樹脂酸価0.5の芳香族エポキシ樹脂誘導体5を含有する溶液を得た。さらに1700mlのテトラヒドロフランで希釈し、あらかじめOH型に処理した強塩基型陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA400J)を加えて約1日攪拌した。陰イオン交換樹脂をろ別し、このろ液を60mmHg以上の真空度でエバポレーションし、さらに水を加えて固形分25%になるように希釈して芳香族エポキシ樹脂誘導体5溶液を得た。
【0047】
合成例7
芳香族エポキシ樹脂誘導体6の合成
エポキシ樹脂EOCN−104S(日本化薬社製クレゾールノボラック樹脂、分子量1300、エポキシ当量220)220g、アクリル酸43g、化合物1を110g、テトラブチルアンモニウムブロミド2.9g、ハイドロキノン0.3gをエチレングリコールモノブチルエーテル153gの入ったフラスコ中に入れ、溶解させた後、110℃で5時間加熱して樹脂酸価0.5の芳香族エポキシ樹脂誘導体6を含有する溶液を得た。さらに1340mlのテトラヒドロフランで希釈して芳香族エポキシ樹脂誘導体6溶液を得た。
【0048】
合成例8
芳香族エポキシ樹脂誘導体7の合成
エポキシ樹脂EOCN−104S(日本化薬社製クレゾールノボラック樹脂、分子量1300、エポキシ当量220)220g、酢酸38g、化合物1を110g、テトラビチルアンモニウムブロミド1.2部、ハイドロキノン1.2部をエチレングリコールモノブチルエーテル405部の入ったフラスコ中に入れ、溶解させた後、110℃で5時間加熱して樹脂酸価0.5の芳香族エポキシ樹脂誘導体7を含有する溶液を得た。さらに1700mlのテトラヒドロフランで希釈し、あらかじめOH型に処理した強塩基型陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA400J)を加えて約1日攪拌した。陰イオン交換樹脂をろ別し、このろ液を60mmHg以上の真空度でエバポレーションし、さらに水を加えて固形分25%になるように希釈して芳香族エポキシ樹脂誘導体7溶液を得た。
【0049】
合成例9
芳香族エポキシ樹脂誘導体8の合成
エポキシ樹脂EOCN−104S(日本化薬社製クレゾールノボラック樹脂、分子量1300、エポキシ当量220)220g、アクリル酸43g、4−ヒドロキシフェニル酢酸を55g、テトラブチルアンモニウムブロミド2.9g、ハイドロキノン0.3gをエチレングリコールモノブチルエーテル153gの入ったフラスコ中に入れ、溶解させた後、110℃で5時間加熱して樹脂酸価0.5の芳香族エポキシ樹脂誘導体8を含有する溶液を得た。さらに1700mlのテトラヒドロフランで希釈し、あらかじめOH型に処理した強塩基型陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA400J)を加えて約1日攪拌した。陰イオン交換樹脂をろ別し、このろ液を60mmHg以上の真空度でエバポレーションし、さらに水を加えて固形分25%になるように希釈して芳香族エポキシ樹脂誘導体8溶液を得た。
【0050】
実施例1
芳香族エポキシ樹脂誘導体1溶液100gに光重合開始剤イルガキュアー907(チバスペシャリティーケミカル社製)を1g加えて得た溶液を、ガラス/エポキシ銅張積層板の銅箔の上にバーコーターにて乾燥膜厚10g/m2となるように塗布した後
、80℃で2分間乾燥した。この被膜を超高圧水銀灯ポリマープリンター3000(オーク社製)にて紫外線を照射して硬化させた後、30℃の水を現像液とし、2kg/cm2の水圧下で1分間現像した後も100%残膜するに要する照射エネルギーを感度とした。さらに感度の2倍の照射エネルギーで照射した硬化膜について各種試験を行った。
【0051】
実施例2〜6
芳香族エポキシ樹脂誘導体1の代わりに芳香族エポキシ樹脂誘導体2〜5の溶液を用いる他は、実施例1と同様の操作を行い、硬化膜を得て試験を行った。
【0052】
比較例1〜3
芳香族エポキシ樹脂誘導体1の代わりに芳香族エポキシ樹脂誘導体6〜8の溶液を用いる他は、実施例1と同様の操作を行い、硬化膜を得て試験を行った。
【0053】
表1に、各芳香族エポキシ樹脂誘導体の組成を示す。
【0054】
【表1】

【0055】
各試験方法は以下のとおりである。
【0056】
(1)接着性
所定量の光照射を行ったサンプルを、JISの塗膜評価方法にあるK5600−5−6付着性(クロスカット法)によるセロテープ(登録商標)剥離試験により評価した。
(2)耐水性
所定量の光照射を行ったサンプルを1時間、80℃の水に浸漬し、取り出した後に、前述の接着性試験を行い、耐水性の評価とした。
(3)耐薬品性
ジクロロメタンをガーゼにしみ込ませ、このガーゼを用いて所定量の光照射を行ったサンプルの表面を擦るラビングテストを行い、塗膜外観の変化を見た。評価結果は以下のように表記した。
評価基準;
◎:非常に良好
○:良好
△:やや悪い
×:不良
【0057】
得られた評価結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
以上の結果から、重合性不飽和基およびアリール環状スルホニウム双性イオンを含有する芳香族エポキシ樹脂誘導体と光重合開始剤を必須成分とする活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物の塗膜は、高感度であり、かつ紫外線照射により塗膜の接着性、耐水性、耐薬品性が優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物は、活性エネルギー線に対する感度が高く、水性でありながら、耐水性、接着性、耐薬品性に優れた塗膜を形成することができ、画像記録用などのインク、コーティング剤、フォトレジストなどの用途で、環境汚染の少ない有用な水性バインダー組成物として利用が期待できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)重合性不飽和基およびアリール環状スルホニウム双性イオンを含有する芳香族エポキシ樹脂誘導体と(b)光重合開始剤を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−193587(P2006−193587A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−5190(P2005−5190)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】