説明

活性成分の経皮投与のための製剤及びイオントフォレシス装置

本発明は、イオントフォレシス装置、及び有効成分、特に、ヒトインスリンの経皮放出のための有効成分を含む組成物に関する。膵臓のグリコーゲン分解を阻害し血糖を低下させるホルモンであるインスリンが、経皮吸収経路を介した糖尿病の治療のための最も重要な医薬品として入手できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性成分、特に、ヒトインスリンの経皮送達のための製剤及びイオントフォレシス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血糖を低下させ、グリコーゲン分解を阻害する膵臓のホルモンであるインスリンは、脂肪及び蛋白質の代謝の機能障害、並びに、肝臓、心臓血管系及び神経系への損傷を伴う相対的な又は絶対的なインスリンの欠乏に起因する糖処理異常である糖尿病を治療するための最も重要な薬剤である。
【0003】
その化学的性質故に、インスリンはペプチドであり、従って、必然的にインスリンの破壊につながるであろう蛋白質分解プロセスが起こらない非経口経路を介してのみ投与できる。消化管を介した投入は不適切である。その導入以来、とりわけ、比較的経済的に、そして患者自身によってそれが実施できるので、皮下注射がインスリンに対する好ましい投与経路として広まってきた。感染リスクの他にも、所謂、針恐怖症に悩まされている患者に対しては更なる問題がある。従ってここ10年間において、インスリンに対する他の送達選択肢ための探索がなされてきた。ついに、2003年において、肺吸収経路に対するインスリン吸入システムが提案されたが、このシステムは、その導入後非常に早く市場から再び撤退させられた。最近、継続的に、多くの研究活動の対象になってきた別の経路は、経皮吸収経路である。例えば、5700ダルトンで、それがあまりにも高い分子量を有するというその物理化学的性質のせいで、インスリン分子は皮膚透過障壁を横切ることができないため、所謂Transfersomes(登録商標)の形態にあるリポソーム製剤を用いて、インスリンを皮膚を通して血液系内にもたらすための試みがなされてきた[非特許文献1]。
【0004】
Transfersomes(登録商標)は特別な脂質小胞(vesicle)、つまり一つ又はそれ以上の脂質二重層から成る、ナノメーター範囲における閉じられた中空球体であり、ここで高度に精製されたリン脂質としてのレシチンが球状膜の基本構造ブロック又は基本骨格を形成する。それらの構造的に関連するリポソームと比較すると、Transfersomes(登録商標)は、高い膜柔軟性、従って強いリポソーム変形能を有し、そのことがそれら自身よりももっと非常に小さな孔内をそれらが透過することさえ可能ならしめると思われる。球状Transfersomes(登録商標)の内部、及び膜自体の内部の両者に薬剤物質を詰め込むことができるので、Transfersomes(登録商標)は一種の「シャトル」として、皮膚又は経皮輸送経路に対する興味ある薬剤呈示形態を示す。
【0005】
しかしながら、従来の医薬薬剤と比べて、リポソーム又はTransfersomes(登録商標)が実際に向上された有効成分の皮膚透過をもたらすかどうかは、専門家の文献においてかなり論争され、そしてまた時々、反証の攻撃も受ける。例えば、[非特許文献2]における著者らは、特に、蛋白質インスリン、成長ホルモン又はシクロスポリン等の大きな親水性分子が、Transfersomes(登録商標)を用いて皮膚内に透過できないことを示している。transfersome状の製剤中に封入されたインスリンを用いた我々自身のインビトロの透過研究では、「シャトル」効果の如何なる証拠も生み出すことができなかった;皮膚の下のアクセプター部分(Franz拡散セル)においても又は皮膚自身においても、測定可能な痕跡量のインスリンも見出せなかった(質量分光法)。出願人の会社によって実施された、経皮投与のためにリポソームで調製されたインスリンを用いたヒトの臨床研究で、否定的な結果が示された[非特許文献3]故に、[非特許文献1]における著者らによる主張も疑問視されるべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】DE4447287C1
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】G.Cevc/(Drug Delivery across the skin).Exp. Opin. Invest. Drugs 6,p.1887-1937(1997)
【非特許文献2】H. Schreier,J. Bouwstra/(Liposomes and niosomes as topical drug carriers:dermal and transdermal drug delivery).J. Contr. Rel.30,p.1-155(1994)
【非特許文献3】LTS Clinical Study Eutra CT Nr.:2004-004043-21
【非特許文献4】Y.N. Kalia et al./Advanced Drug Delivery Reviews 56 (2004) 619-658
【非特許文献5】R.R. Burnette/(Iontophoresis,in:Transdermal Drug Delivery - Developmental Issues and Research Initiatives),(Eds.)J. Hadgraft and R.H. Guy, Marcel Dekker,New York,247-292 1989)
【非特許文献6】L. Langkjaar et al./(Iontophoresis of monomeric insulin analogues In vitro:Effects of insulin charge across skin pre-treatment).J.controlled Release 51:p.42-56(1998)
【非特許文献7】C. Herkenne et al./「(In vivo Methods for the Assessment of Topical Drug Bioavailability):Pharm. Res.,Vol.25,No.1,p.87-103(2008)
【非特許文献8】A. Bangham/(Diffusion of Univalent ions across the lamellae of swollen phospholipids):J Mol Biol 13(1):238-252(1965)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は従来技術の不利な点を克服し、そしてペプチド又は蛋白質、特に大きな親水性分子、例えば成長ホルモン又はシクロスポリン、及び特に、蛋白質インスリンを経皮投与に適する方法で、効果的に、かつまた経済的にも利用可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、イオントフォレシス装置、及び有効成分を含む製剤を含むキットであって、ここで有効成分を含む製剤が、リポソーム又はミセルの形をして、そしてペプチド又は蛋白質のグループからの有効成分を含有する閉じられた中空体を含有するキットによって達成される。
【発明の効果】
【0010】
なおさら驚くべきことに、本発明において、荷電された医薬品物質に対して経皮透過を増大させる最も効果的な方法としてのイオントフォレシスは、インスリンに対して正確には適用できないものの、「電気的駆動力」を用いて、例えば、イオントフォレシスによって、リポソームで封入されたインスリンを皮膚内に透過させ、又は皮膚を通して透過させることによって、例えば、製剤中にリポソームでカプセル化されたインスリンが経皮吸収経路に近づくことができることを示すことができた[非特許文献4]。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
インスリンの等電点(等電点=その点で電荷が平衡である、つまり、両性電解質のアニオンの濃度がカチオンの濃度に等しいpH)はpH5.4で存在する;つまり、pH<5.4ではインスリン分子が正電荷を帯び(=カチオン)、一方、pH>5.4ではそれが負に荷電される(=アニオン)。皮膚においてはpH勾配があるため、ここで皮膚表面上ではpHが5.2であり、皮膚を通して内部の又は血管の方向により深く動く時に、生理学的なpHの7.4に連続して近づき、インスリン分子は経皮透過経路の過程でその電荷の状態を必然的に変えることになる。そのことによる結果が経皮経路の輸送ブロックであり、そしてインスリンは皮膚側に投与された有効成分の部分の方向に再び移行して戻りさえするであろう。
【0012】
インスリン中のpHが4.0に設定されたと仮定すると、もし、インスリン上の活性電極が正電極(=陽極)として接続されているならば、インスリンはカチオンとして存在し、そして最初は皮膚内に透過し得るであろう。
【0013】
しかしながら、皮膚におけるpH勾配のために、等電点がpH5.4に存在する故に、インスリン分子は最初、中性になり、次いで実際にはもっともっと負に荷電されるようになる。従って、皮膚を通した透過の意味では、イオントフォレシスの電動の駆動力はもはや働かくことができない;逆に、エレクトロマイグレーションの法則に従えば、現在、負に荷電されているインスリンは再び正電極の方向に、従って有効成分のリザーバーに移行して戻らなければならないであろう。
【0014】
逆の場合、つまり、インスリンが負に荷電されるように、インスリンの上方の活性電極が負電極(=陰極)として接続され、そしてインスリン製剤のpHが7に等しいか少し大きい(pH>8.5を超えると皮膚刺激が生じる)ときにおいては、移行又は輸送の条件は類似している;インスリン分子は既に中性物質として最も外側の皮膚層である角質層中に存在し、そして、それ以上透過できないであろう。イオントフォレシスを用いる物質輸送のためには、輸送されるべき有効成分が荷電されることが必須である。ペプチドの場合、イオントフォレシス用の経皮候補として適する唯一のものは、その等電点がpH<4.0又は>8.0に存在するものである[非特許文献4]。
【0015】
本発明の場合、一方では、リポソームで封入されたインスリンが、それが封じられていてそして従って電気的に遮蔽されている故に、経皮透過経路の過程においてその電荷状態に如何なる変化を経ないということで、他方では、それがおそらく、実際の輸送機構に関与するイオントフォレシスのエレクトロマイグレーション(荷電された粒子の、それらの反対に荷電された電極に向かう移行)でなく、むしろ皮膚に電場をかける時に付随する現象又は副産物として生じるプロセスである、所謂、電気透過であるということで、この問題は克服される。個々の皮膚層において水含有量が異なるために、電場がかけられた時に、皮膚の透過性を増す電位勾配が形成され、そしてそれが皮膚を通した液流の形成につながる。これは次に、荷電されなくとも、電気的に中性な分子、例えばリポソームインスリンがイオントフォレシス中により大きい程度で皮膚内に透過できる理由である[非特許文献5]。
【0016】
イオントフォレシスを使用しただけでは、皮膚において生じるプロテアーゼによる蛋白質分解的破壊反応が重要な役割を演じるため、インスリン又はインスリン類似体の経皮経路も非常に困難ならしめ、そして治療上の意義もない[非特許文献6]。図2は、例えば、Ultra-Turrax処理によって粉砕されたヒト皮膚サンプルにおける、皮膚に属するプロテアーゼの効果の下でのインスリンの分解を示す。8時間後に、事実上、インスリンがもはや検出できない。従って、その経皮吸収経路の過程において、特に、ペプチド切断プロテアーゼによる攻撃に抗することを含み、インスリンを保護することが重要である。リポソームは、水系の内部を有する一つ又は数個の同心脂質二重層、所謂、脂質小胞から成る球状又は卵型の構造体を意味することを意図する。
【0017】
リポソームの形状は結局、本発明の主題に対して重要でなく、そして球状形から著しく異なってもよい。本発明との関連で、リポソーム及びミセルは、イオントフォレシスを用いて皮膚内に透過できる又は皮膚を通して透過できる中空体を意味することを意図する。中空体の直径は、好ましくは、25ナノメーターから1マイクロメーターの範囲にある。それらの安定性故に、100から300ナノメーターの直径を有するものが好ましく使用される。
【0018】
上述のTransfersomes(登録商標)は、本発明との関連で、経皮投与に対する有効成分を含む特定の製剤として同様に好適であり、そして本出願においてはリポソームの用語の下に含まれる。例えば、Transfersomes(登録商標)の製造は、[特許文献1]において特定されており、その開示内容はこの記述の一部である。リポソームは従来、適切な脂質を水溶液中に懸濁させることによって生産される。例えば、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン又はホスファチジルセリン(ケファリン)がこのために使用される。この混合物を超音波で処理すると、ほぼ同じ大きさの閉じられたリポソームの分散体になる。例えば、そのようなリポソームもエタノール/脂質溶液を水で早く混合することによって製造される。もし、脂質が細い針を通して水溶液中に注入されると、約50ナノメーターの直径を有する丸いリポソームが得られる。
【0019】
別の方法(フィルム法)は、ロータリーエバポレーターを用いて、丸底フラスコの内壁上に均一で透明な脂質フィルムを製造することにある。フィルムが適切な緩衝溶液中に溶解された後、異なるサイズの多重膜リポソームが自然発生的に製造される。もし、得られた多重膜リポソーム分散液が圧力下で、例えば、定められた孔サイズを有するポリカーボネート膜を通して繰り返し押し出されると、均一なサイズ分布によって特徴付けられる単一又はオリゴラメラ状のリポソームが得られる。これらの方法は当業者には公知である。
【0020】
更に驚くべきことに、インスリン又はインスリン類似体が、イオン性又はノニオン性界面活性剤を用いたミセル形成を通して封じられていることによるイオントフォレシスを用いて、経皮吸収経路に近づくことができることを確立することが可能となってきた。ミセルとは、通常は、分子間力によって秩序付けられる構造を有するコロイドの大きさのオーダー(会合コロイド)を有するより大きなユニットを形成するための個々の分子の配置を意味することを意図している。
【0021】
特に、界面活性剤分子としては、例えば、脂肪酸、胆汁酸、硫酸アルキル、脂肪族アルコールスルファート、脂肪族アルコールエーテルスルファート、スルホスクシナート、α−オレフィンスルホナート、イセチオナート、アルカン及びアルキルベンゼンスルホナート、サポニン、第四級アンモニウム塩、特に好ましくは、ドデシル硫酸ナトリウム又はコール酸ナトリウムが、ミセル形成分子と見なされ得る。
【0022】
ノニオン性界面活性剤と見なされ得る例は、ポリエチレングリコールエーテル、フェノールエトキシラート及びアルキロールアミド、特に好ましくは、オクチルフェノール−ポリ(エチレングリコールエーテル)10である。ミセル形成分子は、それらが分子中に疎水性炭化水素及び親水性の基を含有する点で区別される。球状又は棒状のミセルを形成する場合、形成される会合内での選択的吸着のせいで他の分子が組み込まれ得て、次いでこれらは石鹸の例におけるように、水(親水性相)に対する油滴(親油性相)のように、濡れた状態にできて、従って水中に相溶できる。
【0023】
効果的なミセルを形成のために、選択された界面活性剤は、それらの所謂、臨界ミセル形成に対応する量で使用されねばならない。インスリン又はインスリン類似体の場合、一方では、ヒトの皮膚を通したイオントフォレシス輸送プロセスに対して好ましくない等電点を除去するために、分子中の電荷は被覆されるか又はマスクされ、そして他方では、インスリン分子は、皮膚に属するプロテアーゼによる蛋白質分解的崩壊に抗してそれを囲む界面活性剤分子の外側の保護外皮によって保護される。
【0024】
有効成分を含む製剤は、例えば、溶液、軟膏、ペースト、フォーム又はゲルの形態をしている。有効成分を含有する中空体の他に、それは脂質、水、アルコール、ゲル化剤、乳化剤、安定剤及び強化剤等の他の補助成分を含有してもよい。製剤は、異なる有効成分を有する、有効成分を含有する中空体の部分も含有してもよい。このように、例えば、即効性のインスリン又はインスリン類似体、及び長期効果を有するインスリン又はインスリン類似体を一つの投与中に投与できる。
【0025】
イオントフォレシス及びリポソーム及び/又はミセル形成の薬品の組合せによってのみ、ホルモン効果又はホルモンのような効果を発揮する一つ又は複数のペプチド又は一つ又は複数の蛋白質、特にインスリン又はインスリン類似体を、十分な治療投与に対して経皮的に有効にできる。本発明によると、少なくとも10国際単位又は少なくとも350μgのインスリンが好ましくは生物学的に利用可能である。含有量は、透過の終了後に、皮膚中の残留含有量を用いて(HPLC)インビトロで、又は血漿定量、又は血糖レベルの定量を用いて直接的にインビボで求められる。
理想的にはその製剤は、5時間の期間に亘るその経皮経過の間もまだ、その最初の有効成分の含有量の少なくとも50%を含む。ここで、含有量は再び、事前抽出の後、皮膚中の残留含有量を用いて(HPLC)インビトロで求められ、ここでインビトロはインビボに対するモデルを表す。
【0026】
インスリン又はインスリン類似体の経皮投与の他に、本発明は、300から1,000,000(ダルトン)の平均分子量Mwを有するそれらの誘導体又は共役物を含む、ホルモン効果又はホルモンのような効果(ペプチドホルモン)を発揮する、生理学的に高活性のペプチドの投与に対しても同様に適している。一般に、ペプチドホルモンは、オリゴ−及びさらにしばしばポリペプチド(100個までのアミノ酸を有する)、そして時々、実際にはより高い分子量の蛋白質(プロテオホルモン)である。ペプチド及び蛋白質の有効成分は遊離の酸又は塩基として使用され得る。
【0027】
有効成分は3000Daより小さな平均分子量を有し得る。そのような有効成分の例は、特に、アバレリックス、アンジオテンシンII、アニズラフンギン、アンチド、アルギプレッシン、アザリン及びアザリンB、ボンベシン拮抗薬、ブラジキニン、ブセレリン、セトロレリックス、シクロスポリンA、デスモプレッシン、デチレリックス、エンケファリン(ロイシン−、メチオニン−)、ガニレリックス、ゴナドレリン、ゴセレリン、成長ホルモン分泌促進剤、ミカフンギン、ナファレリン、ロイプロリド、ロイプロレリン、オクトレオチド、オルンチド、オキシトシン、ラモレリックス、セクレチン、ソマトトロピン、テルリプレッシン、テトラコサクチド、テベレリックス、トリプトレリン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(チロリベリン)、甲状せん刺激ホルモン、バソプレッシンである。
【0028】
有効成分は3000から10,000Daの平均分子量を有し得る。そのような有効成分の例は、特に、カルシトニン、コルチコトロピン、エンドルフィン、上皮成長因子、グルカゴン、インスリン、ノボリン、副甲状腺ホルモン、リラキシン、プロ−ソマトスタチン、サケセクレチンである。
【0029】
有効成分は10,000より大きな平均分子量を有し得る。そのような有効成分の例は、特に、インターフェロン(α、β、γ)、インターロイキン(IL1、IK2)、成長ホルモン、エリスロポエチン、腫瘍壊死因子(TNFα、β)、レラキシン、エンドルフィン、ドルナーゼα、卵胞刺激ホルモン(FSH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、(HCG)、ヒト成長ホルモン放出因子(hGRF)、黄体形成ホルモン(LH)、又は上皮成長因子である。
【0030】
本発明を、表1、図1〜4及び実施例0〜4を用いて以下に更に説明する。
【0031】
表1は全てのインビトロ透過結果のまとめを含む。
本発明に記載のシステムのインビトロ透過の測定は、インビトロ皮膚モデルのヒトの皮膚全体上で(図1a及び1b)、イオントフォレシスの代表として構成された改良Franz拡散セルを用いて行われた。全ての場合において使用されたアクセプター媒体は、pHが7.4に調節され、そして32℃の恒温に保たれた0.025モルのHEPES緩衝溶液であった(HEPES:2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸)。
【0032】
図1aは、イオントフォレシス及びリポソーム又はミセル状薬品の組合せ使用を用いた、ヒトインスリンの経皮投与のためのインビトロ実験配置を表す。図1bは、投与中に生じた電気透過の効果を表す。
【0033】
参照番号:
(1)陽極及び陰極(活性電極及び背後電極)としてのAg/AgCl電極。
(2)リポソーム又はミセルの形態をした陽極及び陰極の黄体(verum)室。
(3)有効成分を含まない、陽極及び陰極の電解質室。
(4)陽極又は陰極における黄体部に対する導電率向上剤としての電解質層。
(5)有効成分を摂取するための投与フリ−ス付き自己接着接続リング。
(6)ヒトの皮膚の上方部分(事前損傷なしの角質層を有する表皮)。
(7)ヒトインスリンを含有する、電気的に中性又は電気的に陰性に荷電されたリポソーム又はミセル。
(8)それを用いてインスリンを含有するリポソームが初めて通過移行又は透過できる、イオントフォレシスの副次効果である電気透過から生じる液体流。
(9)経皮投与された有効成分を系統的に輸送し去るための毛細血管を有する真皮。
【0034】
使用された電源は従来、500μA/皮膚吸収表面cm2の一定電流強度の出力に調整されたDC発電機(ドイツ、MainhausenのHameg、Hameg製のHM 7042-5)であった。米国、Chattanooga、NAImco製の全表面Ag/AgCl電極が電極材料として使用された。背後電極(陰極及び陽極)の電解質リザーバーは、0.9重量%のNaClを補足されたヒドロキシプロピルセルロースの2%強度の溶液から成り、それが不織布ポリエステルフリース(ドイツ、Neuwied、Lohmann & Rauscher製のParamol N 260-300P)から成るフリース上に3g/30cm2の表面密度で塗布された。対応するインスリン製剤約200mgが、陽極又は陰極のリザーバーにおける背後電極の同じフリース上に塗布され、ここで陽極及び陰極としての構成は、対応する中空体の電荷によって決定付けられている。皮膚上で固定する目的で、端部は、ポリオレフィン(3M製のタイプ1779)でできた自己接着性泡リングから成っている。全ての実験において透過時間又はイオントフォレシス処理は5時間であった;Transfersomesの場合、電極の極性は2.5時間後にそれぞれ逆転された。セルの間の接触は、ブリッジとしての銀線によって確立した。
【0035】
透過終了後、皮膚を最初にはさみを用いて複数の小さな部分に切断して、引き続き特定のHPLC法を用いてインスリンを検査するために、次いで塩酸/70%エタノール中で5時間、振動しながら抽出することによって、皮膚は残留インスリン含有量の測定にかけられた。インスリンが、実際に、ヒトの皮膚の皮膚透過障壁である角質層を横切っていたことを示すために、皮膚サンプルからインスリンを抽出する前に、所謂「テープ剥離」[非特許文献7]を用いて角質層を除去することによって、残留含有量を求めるために皮膚を調製した。使用された解析方法の選択性及び検出されたインスリンの検証に焦点を当てるために、インビトロ透過実験を、黄体及びプラセボのサンプル(如何なる有効成分をも有しない同じ薬剤)を用いて各々行った。
【0036】
図2は、リポソーム又はミセル形成によってプロテアーゼに抗して保護されるインスリンのもっとより低い破壊と比較して、単離されたインスリン、つまり、リポソーム又はミセルで封入していないインスリン、の蛋白質分解的崩壊プロセスを示す。
【0037】
図3及び4は、例として、インスリン製剤に対する、ここでは実施例1に対する、透過研究からの黄体及びプラセボサンプルのHPLCクロマトグラムを示す。プラセボサンプルにおいては、インスリンの保持時間範囲内でピークが見られなかった:従ってインスリンとして同定されたピークは実際に、図4におけるクロマトグラム(対応するインスリン標準サンプルのHPLCクロマトグラム)、及び標準及び黄体のサンプルのUVスペクトル(ここでは図として示されていない)比較によって追加的に確認されたインスリンである。同じことが本発明の別の実施例に対しても実証できており、その理由を、例として一度述べただけである。
【0038】
図3は、0.01M塩酸/70%エタノール中に溶解された、ヒトの皮膚全体の残留含有量のインスリン−リポソームクロマトグラム(発光)を示し、ここで黄体(1)及びプラセボ(2)を表わされている。
【0039】
図4は、0.01モル塩酸/70%エタノール中に溶解された、ヒトの皮膚全体の残留含有量のインスリン標準物及びインスリン−リポソームのクロマトグラム(発光)を示し、ここで、インスリン標準希釈物、SD3、c=11.01μg/ml(1)及び黄体(2)が表されている。
【0040】
【表1】

【0041】
この結果は、少なくとも本発明の実施例1〜3に対して、100<cm2の許容できるTTSサイズを有するタイプ1の糖尿病に対して、経皮治療を行うことが可能であることを示す。特に、インスリンの欠乏又は低下したインスリン効果に起因する慢性の代謝疾患(糖尿病)の治療に対して、本発明の主題を用いてすぐれた治療が実行できる。
【0042】
インスリン又はインスリン類似体の経皮投与方法は、以下の工程によって特徴付けられる:
a.閉じられた中空体中にインスリン又はインスリン類似体を含有する有効成分を含み、ここで、中空体中がリポソーム又はミセルの形態をしている製剤を生産すること;
b.イオントフォレシス装置と共に皮膚上へ製剤を投与すること;
c.イオントフォレシスを行うこと。
【0043】
図2は、インビトロヒトの皮膚材料との接触時間の関数としての、インスリンの蛋白質分解を示す。Ultra-Turrax分散装置を用いて粉砕されたインビトロヒト皮膚パッチ(24cm2)と共に、定められた含有量を有するインスリン緩衝溶液が撹拌によって、8時間に亘って接触された後のインスリンの崩壊に及ぼす皮膚に属するプロテアーゼの影響が明らかに見ることができる。ミセル状インスリンサンプル(ミセルを形成するノニオン性界面活性剤としてのTriton X-100(登録商標))における崩壊は、もっとゆっくりと起こる;ここで、インスリンの含有量は、8時間の接触時間後であっても、50%よりまだもっと多い。この図において:
A 参照溶液を示す。
B、C 封入していないインスリンを示す。
D ミセル的に封入されたインスリンを示す。
【0044】
インビトロ透過又は吸収の研究に対して、上述の通り、実際の技術的実施態様として、原則として同じシステムが使用できる。例えば、種々のサイズ(1.5〜4cm2)で選択的に入手可能であり、自己接着性であり、そして有効成分の製剤の摂取のためにポリエステルフリースが供される、米国、Chattanooga、NAImco製の全表面Ag/AgCl電極が電極材料として使用される。有効成分を含有する製剤がイオントフォレシス装置の陽極部分又は陰極部分のどちらかの中に置かれる。
【0045】
背後電極(陰極又は陽極)の電解質リザーバーは、例えば、再び0.9質量%の塩化ナトリウムを補足されたヒドロキシプロピルセルロースの2%強度の溶液から成り、それがNAImco(登録商標)電極の投与フリース内に/上に3グラム/30cm2の表面密度で投与される。例えば、NAImco製のイオントフォレシス投与キット(「ionto+plus HI-Performance」)の対応する電極[「分散性」(戻り)電極]も背後電極として使用され得る。これらには既に、緩衝物を含有する導電性及び自己接着性のポリマーが備わっている。透過時間又はイオントフォレシス処理は好ましくは5時間を超えるべきではない。もし、外部で電気的に中性である中空体が使用される場合、好ましくは、電極の極性はイオントフォレシスの半分が経過した後に逆転される。リポソーム及びミセルをノニオン性界面活性剤と一緒に使用する場合、それゆえに、5時間の投与中、2.5時間後に電極は各々再ポーリングされる。
【0046】
電流強度が調節又は制御された電流供給源として、NAImco製と同様の対応する装置が使用される:タイプ参照「id3薬品送達装置」、これはそのサイズ故に、例えば上腕又は手首の上方でフック及びループ固定具を用いて固定される。電極は、バナナジャケット接続部を有する従来のケーブルを用いて電流発生装置に接続される。
【0047】
実施例1:オキシコール酸ナトリウムを用いたミセル状製剤の製造
最初に、以下の組成を有する、Tris/HCl緩衝溶液/グリセロール/水混合物(pH6.8)を調製した(トリス:2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオール又はアミノ−トリス(ヒドロキシメチル)メタン)。
0.5MTris/1MHCl(25.0mL)、
グリセロール(11.5mL)、
水(63.5mL)。
【0048】
次いで、オキシコール酸ナトリウム(366mg、8.5mmolに相当する)をこの混合物中に導入し、そして澄んだ溶液(溶液A)が得られるまで撹拌した。ヒトインスリン(約100mg)を続いて秤量し、10mLのメスフラスコ内に入れ、そして溶液Aで満たした。このバッチをインスリンが完全に溶解するまで、又は少なくとも1時間、室温で撹拌し、次に透過実験のために直接使用した。
【0049】
実施例2:ドデシル硫酸ナトリウムを用いたミセル状製剤の製造
オキシコール酸ナトリウムの代わりに、ドデシル硫酸ナトリウム(2g)が導入されたことが異なる以外は、本発明の実施例1と同様に製造を実施した。このバッチをインスリンが完全に溶解するまで、又は少なくとも1時間、室温で再び撹拌し、そして次に透過実験のために直接使用した。
【0050】
実施例3:Triton X-100(登録商標)を用いたミセル状製剤の製造
Triton X-100(登録商標)(323.5g、5mmol又は0.3%に相当する)がオキシコール酸ナトリウムの代わりに導入されたことが異なる以外は、本発明の実施例1と同様に製造を実施した:この場合、Triton X-100(登録商標)が最初に供される必要があり、その後それを緩衝グリセロール混合物で満たした。
更に、ヒトインスリン(100mg)の代わりに、15.4mgだけを秤量し、10mLのメスフラスコに入れ、そしてTriton X-100(登録商標)(Triton X-100(登録商標)=オクチルフェノール−ポリ(エチレングリコールエーテル)10)を含有する緩衝グリセロール混合物で満たした。このバッチをインスリンが完全に溶解するまで、又は少なくとも1時間、室温で再び撹拌し、そして次に透過実験のために直接使用した。
【0051】
実施例4:フィルム法[非特許文献8]に記載のL−α−ホスファチジルコリンを用いたリポソーム製剤の製造
最初に、L−α−ホスファチジルコリン(レシチン)(187.2mg)を10mLのメタノール中に溶解させた。続いて、この脂質原液(2.5mL)をエッペンドルフ型ピペットを用いて50mLの丸底フラスコ内に移し、次にその先端を各々の場合、エタノール(2.5mL)で更に2回洗浄した。ロータリーエバポレーター(40℃、回転レベル4〜5、メタノール臭がもはや認知できなくなるまで)中でのメタノールを抽出すると、透明な脂質フィルムが得られ、如何なる溶媒残留物をも除去するために、それを更に高真空中(p=0.05mbar)で2時間、乾燥させた。次いで、以下のように構成され、そしてインスリン0.1%を含有する緩衝溶液(2mL)を、丸底フラスコ内にピペットで加えた:
1NのNaOHでpH7.4に調整された、HEPES(10mmol)及びNaCl(150mmol)
この緩衝溶液(5mL)中に、ヒトインスリン(5mg)を1時間撹拌しながら、溶解させた。インスリンを含有する緩衝溶液を加えた丸底フラスコを、振とう機の上で毎分240回転にて一晩、振とうした。
【0052】
比較例0:ミセル及び/又はリポソームを形成せずにインスリンを含有する緩衝溶液の製造
オキシコール酸ナトリウムが導入されなかったことが異なる以外は、本発明の実施例1と同様に製造を実施した。このバッチをインスリンが完全に溶解するまで、室温で再び撹拌した。
【0053】
全てのバッチ(比較例0及び本発明の実施例1〜4)から、対応する製剤をヒトインスリンを含まないで製造し(プラセボバッチ)、そして各黄体バッチと共に、(インスリン不在コントロール又は、皮膚中の残留インスリン含有量を求めるために使用されたHPLC解析方法の選択性の実証として)イオントフォレシスインビトロ透過実験において試験した。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】aは、イオントフォレシス及びリポソーム又はミセル状薬品の組合せ使用を用いたヒトインスリンの経皮投与のためのインビトロ実験配置を示し、またbは、投与中に生じた電気透過の効果を示す。
【図2】インビトロヒトの皮膚材料との接触時間の関数としてのインスリンの蛋白質分解を示す。
【図3】ヒトの皮膚全体の残留含有量のインスリン−リポソームクロマトグラム(発光)を示す。
【図4】ヒトの皮膚全体の残留含有量のインスリン標準物及びインスリン−リポソームクロマトグラム(発光)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオントフォレシス装置、及び有効成分を含む製剤を含むキットであって、有効成分を含む製剤が、リポソーム又はミセルの形態をして、そしてペプチド又は蛋白質のグループからの有効成分を含有する閉じられた中空体を含有するキット。
【請求項2】
有効成分を含む製剤が溶液、軟膏、ペースト、フォーム又はゲルの形態をしている、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
製剤中の有効成分が、ペプチドホルモン又はプロテオホルモン、特にインスリン又はインスリン類似体である、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
少なくとも10国際単位又は少なくとも350μgのインスリンが生物学的に利用可能である、請求項1〜3の何れか1項に記載のキット。
【請求項5】
製剤中の一つ又は複数の有効成分の含有量が、5時間の期間に亘るその経皮的経過の間もまだ、その最初の含有量の少なくとも50%を含む、請求項1〜4の何れか1項に記載のキット。
【請求項6】
有効成分を含む製剤が、イオントフォレシス装置の陽極又は陰極部分の中に置かれている、請求項1〜5の何れか1項に記載のキット。
【請求項7】
イオントフォレシスの持続期間の持続期間が半分経過した後に、電極の極性が逆転される、請求項1〜6の何れか1項に記載のキット。
【請求項8】
活性電極及び背後電極が各々、銀及び塩化銀の混合物で被覆されているホイルから成る、請求項1〜7の何れか1項に記載のキット。
【請求項9】
活性電極及び背後電極の両方が自己接着系として構成されている、請求項1〜8の何れか1項に記載のキット。
【請求項10】
ミセルがイオン性界面活性剤でできている、請求項1〜9の何れか1項に記載のキット。
【請求項11】
イオン性界面活性剤が、脂肪酸、胆汁酸、硫酸アルキル、脂肪族アルコールスルファート、脂肪族アルコールエーテルスルファート、スルホスクシナート、α−オレフィンスルホナート、イセチオナート、アルカン及びアルキルベンゼンスルホナート、並びにサポニンを含むグループから選ばれる、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
イオン性界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウム又はコール酸ナトリウムである、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
ミセルがノニオン性界面活性剤でできている、請求項1〜9の何れか1項に記載のキット。
【請求項14】
使用されるノニオン性界面活性剤がポリエチレングリコールエーテル、フェノールエトキシラート及びアルキロールアミドを含むグループから選ばれる、請求項1〜13の何れか1項に記載のキット。
【請求項15】
ノニオン性界面活性剤がオクチルフェノール−ポリ(エチレングリコールエーテル)10
である、請求項1〜14の何れか1項に記載のキット。
【請求項16】
リポソームがホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、又はホスファチジルセリンを含むグループから選ばれる脂質でできている、請求項1〜9の何れか1項に記載のキット。
【請求項17】
以下の工程による、インスリン又はインスリン類似体の経皮投与方法:
a.閉じられた中空体中にインスリン又はインスリン類似体を含有する有効成分を含み、中空体中がリポソーム又はミセルの形態をしている製剤を製造すること;
b.イオントフォレシス装置と共に製剤を皮膚上へ投与すること;
c.イオントフォレシスを実施すること。
【請求項18】
イオントフォレシスの持続期間が半分経過した後に、電極の極性が逆転される、請求項17に記載のインスリン又はインスリン類似体の経皮投与方法。
【請求項19】
インスリンの欠乏又は低下したインスリン効果に起因する慢性的代謝障害(糖尿病)の治療のための、請求項1〜16の何れか1項に記載のキットの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−528672(P2011−528672A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519056(P2011−519056)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004919
【国際公開番号】WO2010/009808
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(300005035)エルテーエス ローマン テラピー−ジステーメ アーゲー (128)
【Fターム(参考)】