説明

活性酸素種包接物質の合成方法及び活性酸素種包接物質

【課題】 特定の化合物を出発物質として、特定の条件で処理することにより、比表面積が高く、しかも活性酸素種をこれまでにないほど多量に包接した活性酸素種包接物質が得られる合成方法及び該活性酸素種包接物質を提供すること。
【解決手段】 本発明は、カルシウムアルミネートゲルを、酸素分圧104Pa以上、水蒸気分圧102Pa以下の条件下で、800℃〜1150℃の温度範囲で加熱処理することを特徴とする活性酸素種包接物質の合成方法であり、800℃以下の温度から、酸素分圧を104Pa以上、水蒸気分圧102Pa以下に保ち、800℃〜1150℃の温度範囲まで昇温して加熱処理することを特徴とする該活性酸素種包接物質の合成方法である。さらに、前記合成方法により合成した活性酸素種包接物質であり、前記活性酸素種包接物質を含有した触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素種を包接する物質の合成方法、特に、比表面積が高く、多量に活性酸素種を包接する物質の合成方法及び該合成方法で合成した活性酸素種包接物質に関する。
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【背景技術】
【0002】
近年、活性酸素種を多量に包接する化合物が見出され、酸化触媒やイオン伝導体、固体電解質燃料電池用電極などへの利用が期待されている(特許文献1参照)。
この方法は、カルシウムアルミネート系化合物の1種である12CaO・7Al2O3を、酸素分圧104Pa以上、水蒸気分圧102Pa以下の条件下で、1200℃以上、1415℃未満で加熱処理することにより、活性酸素種を1020cm-3以上に高濃度に包接させるものであった。
【特許文献1】特開2002−3218号公報
【0003】
しかしながら、この方法で得られる活性酸素種包接化合物は、その比表面積が小さく、例えば、触媒用途へ用いる場合においては、充分なものではなかった。これは、CaO原料とAl2O3原料を所定の割合で混合して熱処理した12CaO・7Al2O3は、焼成反応により粒成長を起し低比表面積となるためである。
そこで、高比表面積にするため上記12CaO・7Al2O3を機械的に粉砕することが行われているが、触媒用途などに利用できるほどの高い比表面積を持つものを得ることは不可能であり、BET比表面積で表して、せいぜい2m2/g程度であった。
例えば、触媒用途などに用いるには、少なくともその比表面積は5m2/g以上が必要であり、好ましくは10m2/g以上、より好ましくは20m2/g以上が望まれる。
【0004】
また、従来の活性酸素種包接化合物の活性酸素(O2-、O-)包接量は、多くても5×1020cm-3程度であり、従来の方法では、焼成温度1200℃以上が必要であった。そのため、エネルギー原単位や炭素排出量原単位の観点からは必ずしも環境負荷の小さい合成方法ではなかった。
今日では、触媒用途などにも利用可能な、より比表面積の高い、しかもより多くの活性酸素種を包接し、さらにより低温で合成できる環境負荷の小さい合成方法の開発が強く求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、鋭意努力を重ねた結果、特定の化合物を出発物質として、特定の条件で処理することにより、比表面積が高く、しかも活性酸素種をこれまでにないほど多量に包接した活性酸素種包接物質が得られること、さらにその物質を800℃程度の熱処理温度でも得ることが可能となること等を知見し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、カルシウムアルミネートゲルを、酸素分圧104Pa以上、水蒸気分圧102Pa以下の条件下で、800℃〜1150℃の温度範囲で加熱処理することを特徴とする活性酸素種包接物質の合成方法であり、800℃以下の温度から、酸素分圧を104Pa以上、水蒸気分圧102Pa以下に保ち、800℃〜1150℃の温度範囲まで昇温して加熱処理することを特徴とする該活性酸素種包接物質の合成方法である。さらに、前記合成方法により合成した活性酸素種包接物質であり、前記活性酸素種包接物質を含有した触媒である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の活性酸素種包接物質の合成方法により、比表面積が高く、しかも活性酸素種をこれまでにないほど多量に包接した活性酸素種包接物質が得られ、さらに、その物質を800℃程度の熱処理温度でも得ることが可能となる。
従って、高比表面積や多くの活性酸素種が必要な用途への展開が可能となり、さらに、環境負荷を低減することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明で言う活性酸素種包接物質とは、一般的に12CaO・7Al2O3と呼ばれるカルシウムアルミネート系化合物を含む物質を総称するものである。本発明の活性酸素種包接物質は、12CaO・7Al2O3(以下、C12A7という)を含んでいれば良く、その他のカルシウムアルミネート系化合物が混在していても何ら差し支えない。
【0010】
カルシウムアルミネート系化合物とは、CaOとAl2O3を主体とする化合物を総称するものであり、その具体例としては、CaO・Al2O3、12CaO・7Al2O3・CaF2、12CaO・7Al2O3・CaCl2、3CaO・Al2O3(以下、C3Aという)、3CaO・3Al2O3・CaSO4などであり、これらが混在する場合がある。
また、カルシウムアルミネートの他にも、4CaO・Al2O3・Fe2O3、6CaO・2Al2O3・Fe2O3、6CaO・Al2O3・2Fe2O3などのカルシウムアルミノフェライト類、ダイカルシウムシリケート2CaO・SiO2、ランキナイト3CaO・2SiO2、ワラストナイトCaO・SiO2などのカルシウムシリケート類、ゲーレナイト2CaO・Al2O3・SiO2などのカルシウムアルミノシリケート類、及び遊離石灰などが混在する場合もある。
【0011】
本発明では、カルシウムアルミネートゲルを出発物質としてC12A7を含む活性酸素種包接物質を得ることを特徴とする。
本発明のカルシウムアルミネートゲルとは、CaOとAl2O3を主成分とする非晶質性の水和物を総称するものであり、特に限定されるものではない。カルシウムアルミネートゲルは、通常、20m2/g以上の比表面積を有するが、生成条件を変えることで比表面積を制御することができる。
カルシウムアルミネートゲルは、加熱すると脱水・分解し、700〜800℃程度でC12A7を形成し、得られるC12A7を主体とする活性酸素種包接物質の比表面積は、出発物質のカルシウムアルミネートゲルの比表面積に依存することを本発明者らは見出した。
【0012】
カルシウムアルミネートゲルを得る方法としては、例えば、特開2000−302438号公報に開示されている方法が挙げられ、代表的例として、水酸化カルシウムとアルミン酸ナトリウムを有機化合物の存在下で加水分解させる方法などを挙げることができる。
上記方法にてカルシウムアルミネートゲルを合成する際の温度は25℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。25℃を超えると3CaO・Al2O3・6H2Oが生成する場合がある。3CaO・Al2O3・6H2Oはカルシウムアルミネートゲルと比べ非常に比表面積が小さい。また、得られるC12A7の純度も低くなるため好ましくない。
なお、比表面積の高いカルシウムアルミネートゲルを得るために、より低い温度で反応させることが好ましく、また、水酸化物イオン濃度の高い条件下で反応させることが好ましい。このため、アルミン酸ナトリウム以外に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属塩を使用することができる。
【0013】
本発明の活性酸素種包接物質の合成方法によって得られる活性酸素種包接物質の比表面積は、出発物質のカルシウムアルミネートゲルの比表面積に依存する。そのため、出発物質のカルシウムアルミネートゲルの比表面積は高いものほど好ましい。
本発明の活性酸素種包接物質の合成方法において、カルシウムアルミネートゲルの比表面積は20m2/g以上が好ましく、30m2/g以上がより好ましく、50m2/g以上がさらに好ましい。
【0014】
カルシウムアルミネートゲルを工業的に得る場合、不純物が含まれることがある。その具体例として、SiO2、Fe2O3、MgO、TiO2、MnO、Na2O、K2O、Li2O、S、フッ素、塩素、P2O5、及びB2O3などが挙げられる。
【0015】
また、カルシウムアルミネートゲル以外の結晶性のカルシウムアルミネート系水和物として、例えば、CaO・Al2O3・10H2O、2CaO・Al2O3・8H2O、3CaO・Al2O3・6H2O、4CaO・Al2O3・nH2O、4CaO・Al2O3・CO3・11H2Oなどがわずかに共存する場合もある。
【0016】
本発明の活性酸素種包接物質の合成方法において、カルシウムアルミネートゲルの熱処理方法としては、カルシウムアルミネートゲルを800℃以上で加熱処理することが必要であり、800℃〜1150℃の温度範囲で熱処理することが好ましく、800℃〜1000℃がより好ましい。800℃未満ではC12A7がほとんど生成しないため活性酸素種の包接量が極めて少なく、1150℃を超えると溶融してしまい活性酸素種を包接しにくくなる。また、1000℃を超えると、一部がC3Aを生成するため、C12A7の純度が低下してやや活性酸素包接量が少なくなる傾向にあるため、活性酸素種を多く包接させる観点からは、熱処理温度は800℃〜1000℃の範囲が最も好ましい。
【0017】
また、熱処理の際、酸素分圧を104Pa以上、水蒸気分圧を102Pa以下の条件下で行うことが好ましい。上記の条件で行うことにより、活性酸素種の包接量を多くすることができる。具体的には、酸素1気圧(1.01325×105Pa)の雰囲気で焼成処理を行えば、上記条件を満足することができる。
なお、熱処理の過程で昇温するが、本発明では、昇温の段階から、酸素分圧を高めておくことが望ましい。すなわち、C12A7が生成する800℃程度の温度よりも低い温度領域から酸素分圧を104Pa以上に高め、水蒸気分圧を102Pa以下に保つことが好ましい。この方法により、より多量の活性酸素種を包接することができる。
【実施例】
【0018】
以下、実験例に基づき詳細に説明する。
【0019】
実験例1
表1に示すような様々な比表面積をもつカルシウムアルミネートゲル(以下、CAゲルという)を合成した。このCAゲルを昇温速度20℃/min.で900℃(熱処理温度)まで加熱し、3時間保持した。この際、加熱開始から酸素1気圧(1.01325×105Pa)として、酸素分圧を104Pa以上、水蒸気分圧を102Pa以下に保った。得られた物質を粉末X線回折法により同定した。また、BET比表面積と活性酸素種の包接量を測定した。結果を表1に併記する。
【0020】
<使用材料>
砂糖:サッカロース(試薬1級)
CAゲルa:5%砂糖水を用いて、試薬1級の水酸化カルシウムの0.5モル/lのスラリーと試薬1級のアルミン酸ナトリウムの1モル/lの溶液を20℃で加水分解して沈殿物を生成させ、攪拌しながら、16時間反応させた。その後、固液分離してアセトンを用いて余剰水を除去し、アスピレータにて減圧乾燥した。得られたCAゲルは、CaO/Al2O3モル比(以下、C/Aモル比という)1.91、BET比表面積10.5m2/gであった。
CAゲルb:5%砂糖水を用いて、試薬1級の水酸化カルシウムの1モル/lのスラリーと試薬1級のアルミン酸ナトリウムの2モル/lの溶液を20℃で加水分解して沈殿物を生成させ、攪拌しながら、16時間反応させた。その後、固液分離してアセトンを用いて余剰水を除去し、アスピレータにて減圧乾燥した。得られたCAゲルは、C/Aモル比1.85、BET比表面積30.5m2/gであった。
CAゲルc:5%砂糖水を用いて、試薬1級の水酸化カルシウムの1モル/lのスラリーと試薬1級のアルミン酸ナトリウムの2モル/lの溶液を10℃で加水分解して沈殿物を生成させ、攪拌しながら、24時間反応させた。その後、固液分離してアセトンを用いて余剰水を除去し、アスピレータにて減圧乾燥した。得られたCAゲルは、C/Aモル比1.80、BET比表面積50.1m2/gであった。
従来法で得た活性酸素包接C12A7イ:試薬1級の炭酸カルシウム12モルと試薬1級の酸化アルミニウム7モルを混合粉砕して原料を調製し、電気炉で1350℃で3時間焼成する工程を2回繰り返して合成した。得られたC12A7を振動式ボールミルにて可能なまで粉砕した結果、ブレーン比表面積5500cm2/g、BET比表面積1m2/gであった。
従来法で得た活性酸素包接C12A7ロ:活性酸素包接C12A7イをアセトン溶媒中でさらに湿式粉砕し可能なまで微粉化した結果、BET比表面積2m2/gであった。
【0021】
<測定方法>
ブレーン比表面積:JIS R 5201「セメントの物理試験方法」の比表面積試験に準じて測定。
BET比表面積:流動法一点法により測定。測定装置はユアサアイオニクス社製「Chem-BET-3000」。
活性酸素種の包接量:電子スピン共鳴(ESR)及びラマンスペクトル法により定量。
【0022】
【表1】

【0023】
表1より、本発明の合成方法によれば、高比表面積で活性酸素種を多く包接した活性酸素種包接物質が得られることが判る。
【0024】
実験例2
実験例1のCAゲルbを使用し、熱処理温度を表2に示すように変化したこと以外は、実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0025】
【表2】

【0026】
表2より、本発明の合成方法によれば、高比表面積で活性酸素種を多く包接した活性酸素種包接物質が得られることが判る。
【0027】
実験例3
実験例1のCAゲルの代わりに下記のカルシウムアルミネート水和物を使用したこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0028】
<使用材料>
2CaO・Al2O3・8H2O:試薬1級の水酸化カルシウムの1モル/lのスラリーと試薬1級のアルミン酸ナトリウムの1モル/lの溶液を20℃で加水分解して沈殿物を生成させ、攪拌しながら、16時間反応させた。その後、固液分離してアセトンを用いて余剰水を除去し、アスピレータにて減圧乾燥した。得られた2CaO・Al2O3・8H2O(以下、C2AH8という)のBET比表面積は、9.3m2/gであった。
3CaO・Al2O3・6H2O:試薬1級の水酸化カルシウムの2モル/lのスラリーと試薬1級のアルミン酸ナトリウムの1モル/lの溶液を20℃で加水分解して沈殿物を生成させ、攪拌しながら、16時間反応させた。その後、固液分離してアセトンを用いて余剰水を除去し、50℃で乾燥した。得られた3CaO・Al2O3・6H2O(以下、C3AH6という)のBET比表面積は、1.2m2/gであった。
4CaO・Al2O3・13H2O:CaO・Al2O3と試薬1級の水酸化カルシウムをCaOとAl2O3のモル比が4対1となるように配合して水/粉体比100%で28日間水和させた。得られた4CaO・Al2O3・13H2O(以下、C4AH13という)のBET比表面積は、4.1m2/gであった。
【0029】
【表3】

【0030】
表3より、本発明の合成方法によれば、高比表面積で活性酸素種を多く包接した活性酸素種包接物質が得られることが判る。
【0031】
実験例4
実験例1のCAゲルbを使用し、酸素分圧を高める温度のタイミングを表4に示すように変化したこと以外は、実験例1と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0032】
【表4】

【0033】
表4より、本発明の合成方法によれば、高比表面積で活性酸素種を多く包接した活性酸素種包接物質が得られることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の活性酸素種を包接する物質の合成方法によれば、比表面積が非常に高く、活性酸素種の包接量も多い活性酸素種を包接する物質が得られ、また、従来よりも低い熱処理温度で合成でき、エネルギー原単位が小さく環境負荷の小さい合成方法であるため、高比表面積で高活性が要求される触媒などの分野に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネートゲルを、酸素分圧104Pa以上、水蒸気分圧102Pa以下の条件下で、800℃〜1150℃の温度範囲で加熱処理することを特徴とする活性酸素種包接物質の合成方法。
【請求項2】
800℃以下の温度から、酸素分圧を104Pa以上、水蒸気分圧102Pa以下に保ち、800℃〜1150℃の温度範囲まで昇温して加熱処理することを特徴とする請求項1に記載の活性酸素種包接物質の合成方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の合成方法により合成した活性酸素種包接物質。
【請求項4】
請求項3に記載の活性酸素種包接物質を含有した触媒。

【公開番号】特開2006−96571(P2006−96571A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281091(P2004−281091)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】