説明

流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、薄膜蒸発器、または短経路蒸発器を用いて発酵ブロスからアルコールを精製するための方法

重質溶媒の添加、精製されるアルコールの蒸発、ならびに重質溶媒流およびスクレーピングによる結晶化塩の機械的な取り出しを、流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、薄膜蒸発器、または短経路蒸発器上で行うことを含んでなる、発酵ブロスからアルコールを精製するための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵ブロスからのアルコールの精製に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物発酵によるアルコールの製造は多くの利点を有する。例えば、発酵によるブタノール、1,3‐プロパンジオール、および1,2‐プロパンジオールの製造が公知である。発酵媒体中の原料出発物質はグリセロールであってよい。特に、クロストリジウム(clostridium)によるグリセロールの発酵による1,3‐プロパンジオールの合成が報告されている。グリセロールの発酵による1,3‐プロパンジオールの合成では、石油生成物を用いた化学合成と比較して、製造コストが大きく低減される。
【0003】
発酵によるアルコールの生成は、有機酸の生成を伴うことが多い。従って、微生物発酵による1,3‐プロパンジオールの生成は、その他の生成物または副生物、特にアセトン、または酸もしくは酢酸塩の形態の酸の共生成を伴う場合がある。
【0004】
従って、発酵によって生成したアルコールは、発酵ブロスから精製する必要がある。アルコールに加えて、発酵ブロスには価値のある副生物が含まれる場合があり(例えばアセトンまたは酢酸塩)、これらもブロスから精製することができる。しかし、発酵ブロスには、通常、水、有機不純物、無機塩、および有機塩などの不純物または不要の副生物も含まれる。
【0005】
具体的に1,3‐プロパンジオールのケースでは、1,3‐プロパンジオールの着色および臭気の原因となる有機不純物が見られる場合が多い。このような不純物は同定されていないが、1,3‐プロパンジオールの分解によって発生し得る可能性がある。従って、1,3‐プロパンジオールの生成および精製の過程でこのような分解を回避する必要がある。
【0006】
発酵ブロスからのアルコール精製の過程で直面する1つの主要な問題は、塩の除去である。このような塩は、通常は塩化ナトリウムおよび塩化カルシウムであるが、アンモニウム塩およびリン酸塩も存在する。これらの塩は、除去されない場合、アルコール精製の過程で析出してしまう。
【0007】
1,3‐プロパンジオールを発酵ブロスから精製するための種々の方法が報告されており、特に、特許文献1、特許文献2、特許文献3、および特許文献4である。
【0008】
特許文献5には、1,3‐プロパンジオールの発酵生成が記載されている。バイオマスを除去した後、種々の技術を用いて1,3‐プロパンジオールが精製される。水、低沸点成分、および高沸点成分は蒸発によって除去することができる。
【0009】
塩に関しては、イオン交換樹脂の使用(特許文献6)、電気透析(非特許文献1、2)、および析出‐ろ過(特許文献7)などの種々の技術により、精製方法の上流で塩を除去することが提案されていることが中でも注目すべきである。
【0010】
非特許文献3は、生物学的に生成された1,3‐プロパンジオールおよび2,3‐ブタンジオールの下流処理に関する。このレビュー論文では、蒸発、液‐液抽出、および蒸留技術を含む種々の技術が議論されている。非特許文献3は、蒸留の前に脱塩および脱プロトン化が必要であることを認めている。提案されている方法の1つとしては、エタノールの添加によって塩およびタンパク質の析出を誘発し、次にこれらをさらなる精製の前に除去するというものである。
【0011】
特許文献8には、発酵ブロスからアルコールを精製するための方法が記載されている。これらの方法では、濃縮された発酵ブロスへグリセロールを添加することによって、蒸留カラムの底部での塩の結晶化を防いでいる。グリセロールの添加により、精製プロセスの最後まで塩が液相に保持される。このプロセスの主たる欠点は、塩の溶解に要するグリセロールの量が非常に多くなる場合があり、これが精製コストの上昇につながるということである。
【0012】
特許文献9もまた、生物学的に生成された1,3‐プロパンジオールの精製に関する。精製プロセスは、ろ過、イオン交換精製、および少なくとも2つの蒸留カラムを含んでなる蒸留手順を含んでなる。塩は、イオン交換樹脂を用いてプロセスの開始時に除去される。主たる問題点は、イオン交換樹脂の付着汚れであり、これはろ過された発酵ブロスの不純物が大量であることに起因する。イオン交換は効率的な技術であるが、この技術を塩含有量の高い溶液に適用する場合、樹脂の再生が必要であることから運転コストが非常に高くなる。大量の不純物に起因するイオン交換樹脂の付着汚れ、および高い塩含有量に起因する短時間での飽和はいずれも、樹脂の再生および/または交換が頻繁に必要となることから、運転コストの上昇をもたらす。
【0013】
特許文献10は、液‐液抽出に基づく発酵ブロスからの1,3‐プロパンジオールの回収のためのプロセスを開示している。液‐液抽出は、有機溶媒中での1,3‐プロパンジオールの抽出に依存している。1,3‐プロパンジオールが水よりも高い親和性を溶媒に対して有するように適切な溶媒が選択される。しかし、制限因子は、1,3‐プロパンジオールの親水性が非常に高く、従って効率的に1,3‐プロパンジオールを抽出するには大量の溶媒が必要であることである。
【0014】
従ってこれらの技術のいずれからも満足な結果が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】欧州特許第1218327号
【特許文献2】米国特許第7056439号
【特許文献3】欧州特許第1103618号
【特許文献4】国際公開第2004/101479号
【特許文献5】米国特許第5254467号
【特許文献6】国際公開第2004101479号
【特許文献7】米国特許第6,361,983号
【特許文献8】国際公開第2009/068110号
【特許文献9】国際公開第2004/101479号
【特許文献10】米国特許第2004/0222153号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Gong et al., Desalination 191 (2006) 193-199
【非特許文献2】Gong et al., Desalination 191 (2004) 169-178
【非特許文献3】Zhi-Long Xiu and An-ping Zeng, Appl. Microbiol. Biotechnol., 78:917-926, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、1,3‐プロパンジオールなどのアルコールを発酵ブロスから精製するための新規な方法を提案する。本発明の方法は、さらなるアルコールの精製の前に、発酵ブロスの効率的な脱塩を提供する。
【0018】
本発明の方法は、精製工程の過程でのアルコールの分解を阻止することが有利である。
【0019】
本発明の方法は、発酵ブロスへの重質溶媒(heavy solvent)の添加に基づいており、ここで、重質溶媒は、発酵によって生成したアルコールの沸点よりも高い沸点を有する。本発明に従う方法では、重質溶媒の添加後、発酵ブロスが流下液膜式蒸発器(falling film evaporator)、拭き取り膜式蒸発器(wiped film evaporator)、または短経路蒸発器(short path evaporator)に投入され、ここで、アルコールは蒸発され、塩は結晶化して、重質溶媒によって取り出される。重質溶媒の添加は、蒸留物中の所望の生成物の高い収率と共に塩の機械的な取り出しをもたらし、従って、精製されるアルコールを含有する発酵ブロスから塩が初期の段階で除去されることになる。
【0020】
塩の除去に続いて、例えば蒸留などの種々の技術を用いてアルコールをさらに精製してよい。残留不純物は、イオン交換または吸着によってさらに除去してよいが、これらの技術は、さらに高度の最終品質を得るための仕上げ技術として用いられるものである。塩および大量の不純物が予め除去されているため、イオン交換樹脂または固体吸着剤の付着汚れは低減される。
【0021】
本発明に従う方法により、簡便で、安価で、容易に工業化されるプロセスを用いて、発酵ブロスからのアルコール精製の過程で効率的に塩を除去することが可能となることが有利である。
【0022】
グリセロールは、アルコール精製のための方法において、アルコールの生成のためと、重質溶媒としての両方に用いられることが有利である。従って、アルコールの精製後に回収されたグリセロールは、発酵によるアルコールの生成のためにリサイクルしてよい。
【0023】
好ましい態様では、本発明は、グリセロールの発酵によって得られた1,3‐プロパンジオールの精製に関する。
【0024】
本発明の方法は、精製の過程における1,3‐プロパンジオールの分解を防止することが有利である。
【0025】
本発明に従う方法は、1,3‐プロパンジオールの着色および臭気の原因となる不純物の発生を防止することが有利である。
【0026】
本発明の別の利点によると、本発明の方法は収率を改善する。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、発酵ブロスからアルコールを精製するための方法に関し、その方法は以下の工程:
a)発酵ブロスを浄化して、アルコールを含有する水溶液を得る工程、
b)この水溶液に溶媒を添加して溶媒の比率を少なくとも10重量%とする工程であって、この溶媒が、精製されるアルコールの沸点よりも高い沸点を有する、工程、
c)溶媒を含有するこの水溶液を、流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、薄膜蒸発器(thin film evaporator)、または短経路蒸発器に供給して、精製されるアルコールを蒸発させ、溶媒によって結晶化塩を取り出す工程、
d)アルコールを回収する工程、
を含んでなる。
【0028】
好ましくは、培養ブロスから精製されるアルコールは1,3‐プロパンジオールである。
【0029】
好ましくは、工程a)の発酵ブロスの浄化は、ろ過によって行われる。
【0030】
より好ましくは、ろ過は、連続精密ろ過、限外ろ過、および/またはナノろ過工程からなる。
【0031】
好ましい態様では、本発明の方法は、工程a)で得られたアルコールを含有する水溶液からの水の除去を含んでなる。
【0032】
好ましくは、本発明に従う方法の工程b)において、溶媒を添加して、水溶液に対する比率を少なくとも10重量%とし、より好ましくは、水溶液に対する比率を10重量%から20重量%の範囲とする。
【0033】
水溶液に添加される溶媒は、グリセロールであることが有利である。
【0034】
好ましい態様では、溶媒は、親水性溶媒であり、工程c)では、アルコールを含有する蒸発生成物、ならびに親水性溶媒、塩、および残留アルコールを含有する底部生成物(bottom product)が得られる。
【0035】
好ましくは、底部生成物に含有される親水性溶媒および残留アルコールがリサイクルされる。
【0036】
好ましい態様では、親水性溶媒および残留アルコールのリサイクルは、以下の工程:
‐ 親水性溶媒、塩、および残留アルコールを含有する底部生成物へ疎水性溶媒を添加して、疎水性溶媒の比率を少なくとも5重量%とする工程であって、疎水性溶媒が、親水性溶媒の沸点よりも高い沸点を有する、工程、
‐ 前述の工程の生成物を、流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、または短経路蒸発器に供給し、親水性溶媒および残留アルコールを蒸発させ、結晶化塩を疎水性溶媒で取り出す工程であって、親水性溶媒、残留アルコール、および疎水性溶媒を含有する蒸発生成物が得られる、工程;
‐ 蒸発生成物をデカントして(decanting)、親水性溶媒および残留アルコールを含んでなる第一相と、ならびに疎水性溶媒を含んでなる第二相とを得る工程;
‐ 親水性溶媒および残留アルコールを含んでなる第一相をリサイクルする工程、
を含んでなる。
【0037】
疎水性溶媒は、底部生成物に対して50重量%から200重量%の範囲の比率となるように添加されることが有利である。
【0038】
疎水性溶媒は、ナタネ油メチルエステル(RME)からなることが好ましい。
【0039】
本発明の方法は、工程d)で回収されたアルコールのさらなる精製を含んでよい。
【0040】
好ましくは、アルコールのさらなる精製は、精製されるアルコールよりも低い沸点を有する生成物および/または共沸混合物を蒸留によって除去することと、精製されるアルコールよりも高い沸点を有する生成物および/または共沸混合物を蒸留によって除去することとを含んでなる。
【0041】
アルコールのさらなる精製は、蒸発によって水を除去することを含んでなることが有利である。
【0042】
アルコールのさらなる精製は、イオン交換および/または吸着を含んでなることが有利である。
【0043】
1つの態様では、本発明は、発酵ブロスからアルコールを精製するための方法に関し、その方法は:
a)発酵ブロスをろ過して、アルコールを含有する水溶液を得る工程、
b)工程a)で得られた水溶液が少なくとも5%の比率で重質溶媒を既に含んでいない場合、この水溶液に重質溶媒を添加する工程、
c)流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、または短経路蒸発器上にて、精製されるアルコールを蒸発させ、重質溶媒によって結晶化塩を取り出し、アルコールの精製および回収を行う工程、
を含んでなる。
【0044】
別の態様では、本発明は、発酵ブロスからアルコールを精製するための方法に関し、その方法は、以下の工程:
a)発酵ブロスをろ過して、アルコールを含有する水溶液を得る工程、
b)この水溶液から水を除去する工程、
c)所望により、前工程で得られた水溶液が少なくとも5%の比率で重質溶媒を既に含んでいない場合、この水溶液に重質溶媒を添加する工程、
d)流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、または短経路蒸発器上にて、精製されるアルコールを蒸発させ、重質溶媒によって結晶化塩を取り出す工程、
e)アルコールの精製および回収を行う工程、
を含んでなる。
【0045】
別の態様では、本発明は精製方法に関し、その方法は少なくとも以下の工程:
a)発酵ブロスをろ過して、アルコールを含有する水溶液を得る工程、
b)この水溶液から水を除去する工程、
c)所望により、前工程で得られた水溶液が少なくとも5%の比率で重質溶媒を既に含んでいない場合、この水溶液に重質溶媒を添加する、工程、
d)流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、または短経路蒸発器上にて、精製されるアルコールを蒸発させ、重質溶媒によって結晶化塩を取り出す工程、
e)蒸留によって精製されるアルコールよりも低い沸点を持つ生成物、および最終的には共沸混合物を除去する工程、
f)蒸留によって精製されるアルコールよりも高い沸点を持つ生成物、および最終的には共沸混合物を除去する工程、
g)アルコールの精製および回収を行う工程、
を含んでなる。
【0046】
好ましくは、本発明に従う方法では、発酵ブロスのろ過は、連続精密ろ過、限外ろ過、および/またはナノろ過工程からなる。
【0047】
好ましくは、水は蒸発によって水溶液から除去される。
【0048】
好ましい態様では、培養ブロスから精製されるアルコールは、1,3‐プロパンジオールである。
【0049】
水溶液に添加される重質溶媒は、グリセロールであることが有利である。
【0050】
好ましくは、グリセロールは、水溶液に対して100重量%までの比率で添加され、好ましくは、水溶液に対して5重量%、10重量%、から20重量%の範囲の比率である。
【0051】
好ましくは、添加されるグリセロールは、グリセロールからいずれのアニオンをも除去するために、強アニオン交換樹脂による予備処理を受ける。本発明の方法では、アルコールを回収した後にグリセロールが回収されることが有利である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】1,3‐プロパンジオールよりも揮発性の低い溶媒を添加して、流下液膜式蒸発器または拭き取り膜式蒸発器にて結晶化塩を機械的に取り出すことで1,3‐プロパンジオールを精製するための方法。
【図2】1,3‐プロパンジオールよりも揮発性の低い溶媒を添加して、流下液膜式蒸発器または拭き取り膜式蒸発器にて結晶化塩を機械的に取り出すことで1,3‐プロパンジオールを精製するための方法。
【図3】1,3‐プロパンジオールよりも揮発性の低い親水性溶媒を添加して、流下液膜式蒸発器または拭き取り膜式蒸発器にて結晶化塩を機械的に取り出すことにより、および第二の蒸発工程で親水性溶媒をリサイクルすることにより、1,3‐プロパンジオールを精製するための方法。
【図4】1,3‐プロパンジオールよりも揮発性の低い水溶性溶媒を添加して、流下液膜式蒸発器または拭き取り膜式蒸発器にて結晶化塩を機械的に取り出すことにより、および所望によりイオン交換および/または吸着工程によって微量の汚染物残渣を除去することにより、1,3‐プロパンジオールを精製するための方法。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明は従って、発酵ブロスからのアルコールの精製に関する。「アルコール」とは、少なくとも1つのアルコール官能基を有する分子を意味する。好ましくは、精製されるアルコールはジオールまたは重質アルコールである。「重質アルコール」という用語は、水よりも揮発性が低いか、または水よりも沸点が高いアルコールを意味する。
【0054】
好ましくは、アルコールは、1‐ブタノール、1,3‐プロパンジオール,および1,2‐プロパンジオール、または水よりも揮発性が低いその他のいずれかのアルコールから選択される。より好ましくは、本発明は、発酵ブロスからの1,3‐プロパンジオールの精製に関する。
【0055】
発酵によるアルコールの生成に用いられる原料物質はグリセロールであることが有利である。
【0056】
従って、中でも注目すべきは、本発明は、発酵ブロスからの1,3‐プロパンジオールの精製に関する。1,3‐プロパンジオールは、例えば、グリセロールの発酵による生成が可能である。そのような発酵は、アセトン、酢酸ナトリウム、および酢酸アンモニウムの共生成をもたらす。発酵後に得られた発酵ブロスは、通常、水、1,3‐プロパンジオール、グリセロール、カルボン酸型の無機および有機塩を含有する。回収すべき価値のある生成物は、1,3‐プロパンジオールおよびアセトン(または、酸もしくは酢酸塩の形態の酸)である。アセトンは、二酸化炭素による溶液のストリッピング、または蒸留などの公知の技術に従って回収することができる。
【0057】
主たる問題点は、1,3‐プロパンジオールなどの発酵によって生成されたアルコールを、その発酵ブロスに含有されている無機および有機塩から分離することである。
【0058】
その他のプロセスによって生成されたアルコールとは対照的に、発酵によって生成されたアルコールは、高濃度の有機および無機塩を含有する。
【0059】
「塩」という用語は、発酵ブロス中に存在するいかなる無機または有機塩をも意味し、主たる無機塩としては、Na、K、Cl、SO2−、およびPO3−などのイオンが挙げられる。
【0060】
本発明は、アルコールの発酵生成後の発酵ブロスから塩を除去するための方法に関する。本発明の方法はまた、無機および有機塩の除去後のアルコールのさらなる精製にも関する。
【0061】
本発明の別の目的は、無機および/または有機塩を含有する水溶液からのアルコールの効率的な精製である。
【0062】
蒸留および蒸発などの技術による、発酵ブロスからのアルコール、例えば1,3‐プロパンジオールの精製は、無機および有機塩の結晶化を引き起こし、これがアルコールのさらなる精製の障害となる。アルコールのさらなる精製の前に発酵ブロスから無機および有機塩を除去するための様々な試みが行われてきた。蒸留法では、蒸留カラムの底部における塩の結晶化が一般的な問題であり、イオン交換などのその他の方法では、発酵ブロス中に存在する無機塩および有機塩の量が多いことから、イオン交換樹脂の付着汚れが短時間で発生してしまう。
【0063】
本発明の目的は、代表的には、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、アンモニウム、およびリン酸塩からのアルコールの分離である。
【0064】
好ましい態様では、本発明は、発酵ブロスからのアルコールの精製に関する。
【0065】
第一の態様では、本発明は、発酵ブロスからアルコールを精製するための方法に関し、その方法は、以下の工程:
a)発酵ブロスを浄化して、アルコールを含有する水溶液を得る工程、
b)この水溶液に溶媒を添加して溶媒の比率を少なくとも10重量%とする工程であって、この溶媒は、精製されるアルコールの沸点よりも高い沸点を有する、工程、
c)溶媒を含有するこの水溶液を、流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、薄膜蒸発器に供給する工程、
d)または短経路蒸発器に供給して、精製されるアルコールを蒸発させ、溶媒によって結晶化塩を取り出す工程、
e)アルコールを回収する工程、
を含んでなる。
【0066】
発酵は、所望により、発酵ブロスへ塩基を添加することで停止してもよい。塩基は、例えば、ソーダ、カリ、またはアンモニアの形態で、微生物活性を停止することを目的として添加される。達するpHは7.5から14である。
【0067】
アルコール精製法の第一の工程は、不溶性成分、中でも注目すべきは、大分子、バイオマス、タンパク質、およびすべての懸濁粒子を除去するための発酵ブロスの浄化からなる。好ましくは、分子量が200Daを超えるすべての分子が浄化によって除去される。発酵ブロスの浄化には、都合の良いいずれの方法を用いてもよい。
【0068】
好ましい態様では、発酵ブロスの浄化は、ろ過によって行われる。「ろ過」とは、膜分離法を意味する。ろ過は、連続精密ろ過、限外ろ過、およびナノろ過工程からなることが有利である。好ましくは、浄化工程は、精密ろ過および限外ろ過からなる。より好ましくは、浄化工程は、精密ろ過からなる。
【0069】
発酵ブロスの浄化後、アルコールのさらなる精製の前に水を除去してよい。水溶液からの水の除去には、適切ないずれの方法を適用してもよい。好ましくは、水は蒸発によって除去される。
【0070】
精製法は、発酵ブロスの浄化によって得られた水溶液に重質溶媒を添加する工程をさらに含む。「重質溶媒」という用語は、水溶液から精製されるアルコールよりも揮発性が低いかまたは沸点が高い溶媒を意味する。あるいは、重質溶媒は、発酵ブロスに直接添加される。例えば、発酵によるアルコールの生成にグリセロールが用いられる場合、発酵工程の過程で過剰のグリセロールを直接添加してよい。その後、過剰のグリセロールが、アルコール精製の過程で重質溶媒の役割を担う。
【0071】
水溶液から精製されるアルコールの沸点よりも高い沸点を持ついずれの溶媒を用いてもよい。この溶媒は、親水性溶媒でも、または疎水性溶媒でもよい。
【0072】
好ましくは、本発明の方法で用いられる溶媒は、アルコール、脂肪酸アルキルメチル(もしくはエチル)エステル、植物油、または炭化水素から選択される。好ましくは、脂肪酸アルキルエステルは、脂肪酸メチルエステルである。
【0073】
アルコールは、グリセロール、トリメチロールプロパン、1,4‐ブタンジオール、1,2,6へキサントリオールなどのポリオールから選択される。好ましいアルコールはグリセロールである。
【0074】
脂肪酸アルキルエステルは、好ましくは、ステアリン酸、ミリスチン酸、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、もしくはラウリン酸のアルキルエステル、またはこれらの混合物から選択される。エステルを構成するアルキル基は、好ましくは、メチル、エチル、またはブチル基から選択される。
【0075】
ヒマシ油、ナタネ油、パーム油、または亜麻仁油などの植物油もまた、本発明の方法における溶媒として用いてよい。好ましいのは、ナタネ油のメチル、エチル、またはブチルエステルである。
【0076】
最も好ましくは、水溶液へ添加される溶媒はグリセロールである。
【0077】
好ましくは、例えばグリセロールなどの溶媒は、水溶液に対して少なくとも5重量%、10重量%、20重量%、30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、90重量%から100重量%の比率となるように添加される。例えばグリセロールなどの重質溶媒は、水溶液に対して10から40重量%の範囲の比率となるように添加されることが好ましく、例えばグリセロールなどの重質溶媒は、水溶液に対して10重量%から30重量%の範囲、好ましくは10重量%から20重量%の範囲の比率となるように添加されることがさらにより好ましい。
【0078】
ある態様では、溶媒は、発酵の過程での出発物質として用いられる。発酵の過程で溶媒が消費された後、さらに溶媒を添加してアルコールの精製を行う。添加される溶媒の量は、発酵ブロス中に残留する溶媒の量に応じて調節される。発酵ブロス中に存在する残留溶媒の量は、溶媒の消費率に依存する。しかし、発酵後、溶液は、通常、10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは2%未満の溶媒を含有する。
【0079】
溶媒、特にグリセロールは、溶解した状態の塩化ナトリウム、ならびにその他のイオンを含有する場合がある。従って、溶媒を予め前処理して、イオンの一部を、好ましくはアニオン交換樹脂によってアニオンを除去することが有利であり得る。
【0080】
溶媒を水溶液に添加後、水溶液は、流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、薄膜蒸発器、または短経路蒸発器へ供給される。
【0081】
蒸発生成物は、アルコールのほとんどを含有している。好ましくは、蒸発生成物は、アルコールの少なくとも75%、80%、90%、または少なくとも95%を含有する。
【0082】
蒸発生成物は、通常、主に水、アルコール、および少量の溶媒を含んでなり、さらにある程度の液体不純物も含んでなる場合もある。底部生成物は塩を含有し;このような塩は、アルコールの蒸発の際に結晶化しており、溶媒流およびスクレーパによって蒸発器から機械的に取り出される。アルコールを含有する水溶液に対して少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%の比率での溶媒の存在下で行われるこの蒸発工程の間に、ほとんどの無機および有機塩が除去される。通常、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、アンモニウム塩、リン酸塩、およびその他の塩が、この工程でアルコールから分離される。底部生成物もまた、重質溶媒を含有しており、蒸発されなかったある程度の残留アルコールも含む場合がある。残留アルコールの量は、通常、水溶液のアルコールの10%未満、好ましくは5%未満である。
【0083】
好ましい態様では、アルコールは1,3‐プロパンジオールであり、溶媒はグリセロールである。そのような態様では、流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、薄膜蒸発器、または短経路蒸発器を通過させることで、通常は、水、アセトン、1,3‐プロパンジオール、および少量のグリセロールの蒸発が引き起こされる。蒸発生成物は、ある程度の不純物も含んでよい。
【0084】
蒸発は、大気圧下で行われ、より有利には真空下で行われる。好ましくは、蒸発は、減圧下で行われ、好ましくは、0.1から200mbar、より好ましくは1から50mbarである。加熱温度は、アルコールの蒸発収率が最大となるように設定される。
【0085】
1,3‐プロパンジオールの精製の場合、温度は、50℃から250℃、好ましくは100℃から150℃に設定される。
【0086】
本発明では、溶媒と共に塩を機械的に取り出すことが可能であるいずれの蒸発器を用いてもよい。蒸発器底部の塩を取り出すのに必要とする溶媒の量は、蒸発器の技術、および/または蒸発器が機械的に攪拌される蒸発器である場合はワイパー(wiper)の技術に大きく依存する。本発明の好ましい態様では、流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、薄膜蒸発器、または短経路蒸発器が用いられる。最も好ましくは、蒸発器底部の塩を取り出すのに必要とする溶媒の量を最小限に抑えるために、拭き取り膜式蒸発器、薄膜蒸発器、または短経路蒸発器が用いられる。
【0087】
真空、すなわち減圧蒸発を用いることが有利である。運転圧力を下げることでアルコールの沸点が大きく低下する。従って、アルコールの分解が防止される。
【0088】
連続蒸発工程が良好に行われると、蒸発生成物中のアルコールの高収率、および塩を効率的に取り出すのに十分な液体底部生成物の両方が得られる。アルコールを含有する水溶液中の重質溶媒の含有量が低すぎる場合は、確実に塩を取り出すためにアルコールの一部が液体底部生成物として失われるか、または液体底部生成物が、塩による付着汚れを防止するのに十分ではないことになる。蒸発生成物中のアルコールの高収率、および重質溶媒による塩の効率的な取り出しの両方を得るために、蒸発の前に十分な重質溶媒が添加される。
【0089】
蒸発の前に十分な溶媒が添加される場合、水溶液中に存在するアルコールの100%を蒸発させることが可能である。しかし、これには著しい量の重質溶媒の蒸発も必要となるため、好ましくない。
【0090】
蒸発生成物はアルコールのほとんどを含有しているが、底部生成物中の残留アルコールの一部を回収することが好ましい。蒸発器の底部生成物中の残留アルコールの量は、水溶液中のアルコールの少なくとも1%、2%、5%、または10%であってよい。蒸発後の底部生成物中に存在するこの残留アルコールもまた、下記で述べるように回収してよい。この方法により、100%に近いアルコールが2つの連続蒸発工程で回収される。最初の蒸発工程でアルコールの100%未満が蒸発されるという事実により、底部生成物中に残留する不純物で蒸発アルコールが汚染されることも回避される。
【0091】
当業者であれば、上述のような適切な蒸発を可能とするための溶媒の量を設定することができるであろう。
【0092】
適切な蒸発器中にて重質溶媒を用いて塩を機械的に取り出すことで除去した後、アルコールを蒸発生成物から回収し、さらに精製してよい。アルコールのさらなる精製は、公知のアルコール精製技術のいずれに従って行ってもよく、特に蒸留である。トッピングおよびストリッピングの両方を行うことが有利である。
【0093】
所望される場合は、最高の最終生成物品質を得るために、仕上げ工程としてイオン交換工程および/または吸着工程をさらに蒸留手順に含めてもよい。このような方法は、当業者に公知であり、文献に報告されている。
【0094】
本発明の方法の別の所望の工程は、精製の間のpHをpH>7に調節することである。pHを上昇させることにより、酸を分離してイオンとして除去することができる。
【0095】
好ましい態様では、本発明に従う方法はまた、精製されるアルコールを含有する蒸発生成物の濃縮につながる水の除去も含んでなる。水は、当業者に公知の種々の技術で除去することができる。
【0096】
好ましくは、水は蒸発によって除去される。好ましくは、蒸発は減圧下にて、好ましくは1から50mbar、より好ましくは1から30mbarにて行われる。温度は、水の5から90%が蒸発するように設定される。好ましくは、温度は、水の70、80から90%が蒸発するように設定される。このような運転条件下では、水の蒸発の過程で有機酸(酢酸および酪酸)などの軽質不純物も除去される。
【0097】
好ましくは、アルコールのさらなる精製は蒸留技術によって行われる。精製されるアルコールよりも低い沸点を持つ生成物および精製されるアルコールよりも高い沸点を持つ生成物の蒸留による除去は、当業者に公知の従来の技術に従って行われる。好ましくは、蒸留工程は、75mbar未満の圧力で行われる。トッピングの過程で、精製されるアルコールよりも低い沸点を持つ生成物の中でも注目すべきは、水および有機酸である。ストリッピングの過程で、精製されるアルコールよりも高い沸点を持つ生成物の中でも注目すべきは、重質溶媒、精製されるアルコールよりも揮発性の低い溶媒画分、および前の蒸発工程で除去されなかった残留塩である。
【0098】
塩のほとんどが除去された後、当業者に公知の技術を用いて精製を行ってよい。種々の精製工程を種々の順番で行ってよく、追加の精製工程を行って最終生成物の純度を向上させてよい。
【0099】
ある態様では、イオン交換工程および/もしくは吸着を、異なる蒸留工程の間、または最終蒸留工程の後に行ってよい。これらの技術は、最高の生成物品質を得るための最終仕上げ工程として用いられる。
【0100】
上記で考察したように、イオン交換は、種々の溶液から塩を除去するための効率的な技術である。しかし、高濃度の塩の除去は、イオン交換樹脂の頻繁な再生または交換を必要とし、高運転コストにつながる。
【0101】
本発明の方法では、大半の有機および無機塩は、アルコールの蒸発過程における結晶化と溶媒による塩の取り出しによって除去される。
【0102】
イオン交換を用いて、主に残留イオン性不純物を除去することができる。従って、樹脂の付着汚れが低減され、それによってイオン交換樹脂の頻繁な再生および/または交換が回避されて高運転コストが防がれる。本発明の方法では、いわゆるイオン交換樹脂を、その他の不純物の除去のためにさらに用いてよい。例えば、イオン交換樹脂は、種々の有機不純物の吸着のために用いてよい。
【0103】
イオン交換は、公知の技術であり、適切ないずれの樹脂を用いて行ってよい。好ましい態様では、イオン交換樹脂は、強アニオン交換樹脂、弱アニオン交換樹脂、強カチオン交換樹脂、および弱カチオン交換樹脂、または公知の混床式イオン交換樹脂を例とするこれらの混合物から選択される。イオン交換工程は、上述のイオン交換樹脂のいずれの組み合わせによる処理からなってよい。
【0104】
アルコールのさらなる精製は、固体吸着剤上における不純物の吸着をさらに含んでよい。「吸着」という用語は、固体吸着剤の表面上への不純物の集積を意味する。この吸着工程によって不純物の除去が可能となり、不純物は化学的または物理的吸引力によって固体吸着剤と結合する。
【0105】
本発明の方法では、活性炭またはその他の固体吸着剤を用いて、着色形成または臭気形成不純物を精製されたアルコールから除去する。上記で考察したように、イオン交換樹脂をそのような不純物の吸着に用いてもよい。好ましい態様では、吸着および/またはイオン交換は蒸留の後に行われ、それによって固体吸着剤の付着汚れが低減されてコストが最小限に抑えられる。
【0106】
好ましい態様では、イオン交換工程および/または吸着工程は、蒸留手順の最後に行われ、蒸留アルコールから純粋アルコールが生成される。用いられる樹脂または吸着剤によっては、樹脂もしくは固体吸着剤の分解を防止し、および/または粘度を低下させ、それによって物質移動係数および吸着係数を上昇させるために、蒸留アルコールへ水を添加する必要があり得る。この段階では、水は1から100%、より好ましくは10から20%の範囲の比率で添加する必要があり得る。
【0107】
好ましい態様では、蒸発生成物からアルコールが回収された後、重質溶媒が底部生成物から回収される。溶媒は、回収され、再生され、次に精製プロセスまたは発酵プロセスへとリサイクルされる。溶媒回収の別の利点は、第一の蒸発工程で蒸発しなかった残留アルコールが回収およびリサイクルされ、それによってプロセス全体のアルコール回収率が向上することである。溶媒は、適切ないかなる方法に従って回収してもよく、続いて精製法にてリサイクルしてよい。好ましくは、溶媒は、ろ過、蒸留によって、または揮発性の低い溶媒による別の流下液膜式蒸発もしくは薄膜蒸発工程を用いることによって回収される。
【0108】
好ましくは、第一の蒸発工程で用いられる溶媒は、グリセロールなどの親水性溶媒である。流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、薄膜蒸発器、または短経路蒸発器で行われるこの第一の蒸発工程により、塩の大半を除去することができる。蒸発後、アルコールのほとんどを含有する蒸発生成物、ならびに親水性溶媒、塩、および蒸発されなかったある程度の残留アルコールを含有する底部生成物が得られる。第一の蒸発工程で親水性溶媒を用いた場合、疎水性溶媒を底部生成物に添加することにより、および流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、薄膜蒸発器、または短経路蒸発器にて第二の蒸発工程を行うことにより、親水性溶媒および残留アルコールを回収し、プロセスへリサイクルすることができることが有利である。
【0109】
好ましい態様では、本発明の方法は、以下の工程:
‐ 親水性溶媒、塩、および残留アルコールを含有する底部生成物へ疎水性溶媒を添加して、疎水性溶媒の比率を少なくとも5重量%とする工程であって、疎水性溶媒が、親水性溶媒の沸点よりも高い沸点を有する、工程、
‐ 前述の工程の生成物を、流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、薄膜蒸発器、または短経路蒸発器に供給し、親水性溶媒および残留アルコールを蒸発させ、結晶化塩を疎水性溶媒で取り出す工程であって、親水性溶媒、残留アルコール、および疎水性溶媒を含有する蒸発生成物が得られる、工程;
‐ 蒸発生成物をデカントして、親水性溶媒および残留アルコールを含んでなる第一相と、疎水性溶媒を含んでなる第二相とを得る工程;
‐ 親水性溶媒および残留アルコールを含んでなる第一相をリサイクルする工程、
をさらに含んでなる。
【0110】
底部生成物からの親水性溶媒および残留アルコールの回収には、親水性溶媒よりも揮発性の低いいずれの疎水性溶媒を用いてもよい。
【0111】
疎水性溶媒としては、好ましくはステアリン酸、ミリスチン酸、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸、パルミチン酸、もしくはラウリン酸のアルキルエステル、またはこれらの混合物から選択されるアルキルエステルが挙げられる。エステルを構成するアルキル基は、好ましくは、メチル、エチル、またはブチル基から選択される。疎水性溶媒は、ナタネ油メチルエステル(RME)からなることが有利である。
【0112】
好ましくは、疎水性溶媒は、底部生成物に対して少なくとも5重量%の比率となるように、好ましくは、底部生成物に対して50重量%から200重量%の範囲の比率となるように添加される。
【0113】
親水性溶媒および残留アルコールの底部生成物からの回収には、底部生成物に対して5%から500%の範囲の比率となるように疎水性溶媒が添加される。好ましくは、疎水性溶媒は、少なくとも5%、10%、20%、50%、100%、200%、300%、400%、または少なくとも500%の比率となるように添加される。より好ましくは、重質溶媒は、底部生成物に対して50%から200%の範囲の比率で添加される。
【0114】
蒸発の際、疎水性溶媒の一部が蒸発する場合がある。蒸発生成物は、親水性溶媒、残留アルコール、および疎水性溶媒を含有する。上述のように、残留アルコールは、発酵ブロスに最初に存在するアルコールの少量部分である。同様に、第二の蒸発工程の間に蒸発する場合がある疎水性溶媒は、疎水性溶媒の少量部分である。
【0115】
好ましくは、親水性溶媒および残留アルコールは、デカンテーションによって疎水性溶媒から容易に分離される。そこで、疎水性溶媒は、凝縮された蒸気からリサイクルされる。親水性溶媒および残留アルコールを含んでなる第一相と、ならびに重質溶媒を含んでなる第二相とが得られる。
【0116】
親水性溶媒および残留アルコールを含んでなるこの第一相は、プロセスへとリサイクルされる。特に、リサイクルされた生成物(親水性溶媒およびアルコール)を、上述した方法の工程b)において浄化された発酵ブロスへ溶媒として添加してよい。
【0117】
流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、薄膜蒸発器、または短経路蒸発器でのこの第二の蒸発工程の後、疎水性溶媒および塩が蒸発器の底部で回収される。疎水性溶媒は、蒸発器の底部で回収された生成物を水で洗浄して水相中の塩を回収し、続いて2つの液体相を分離することでリサイクルされることが有利である。塩が取り除かれた疎水性溶媒が、次にプロセスへとリサイクルされる。
【0118】
図1 1,3‐プロパンジオールよりも揮発性の低い溶媒を添加して、流下液膜式蒸発器または拭き取り膜式蒸発器にて結晶化塩を機械的に取り出すことで1,3‐プロパンジオールを精製するための方法。(1)精密ろ過。(2)限外ろ過。(3)ナノろ過。(4)水の蒸発。(5)溶媒の添加。(6)流下液膜または拭き取り膜での蒸発であって、1,3‐プロパンジオール、軽質生成物、および重質生成物の一部が気相中に回収され、一方、塩は、蒸発器中で結晶化し、溶媒流およびスクレーピング(scraping)によって蒸発器の底部にて機械的に取り出される。(7)トッピング:蒸留による軽質不純物の除去。(8)ストリッピング:蒸留による重質不純物の除去。
【0119】
図2 1,3‐プロパンジオールよりも揮発性の低い溶媒を添加して、流下液膜式蒸発器または拭き取り膜式蒸発器にて結晶化塩を機械的に取り出すことで1,3‐プロパンジオールを精製するための方法。(1)水の蒸発。(2)溶媒の添加。(3)流下液膜または拭き取り膜での蒸発:1,3‐プロパンジオール、軽質生成物、および重質生成物の少量部分が気相中に回収され、一方、塩は、蒸発器中で結晶化し、溶媒流およびスクレーピングによって蒸発器の底部にて機械的に取り出される。(4)トッピング。(5)ストリッピング。
【0120】
図3 1,3‐プロパンジオールよりも揮発性の低い親水性溶媒を添加して、流下液膜式蒸発器または拭き取り膜式蒸発器にて結晶化塩を機械的に取り出すことにより、および第二の蒸発工程で親水性溶媒をリサイクルすることにより、1,3‐プロパンジオールを精製するための方法:(1)親水性溶媒と1,3‐プロパンジオールを含有する塩に富む混合物(a)との混合。親水性溶媒を、新しい生成物(b)とリサイクル蒸気(k)の両方に近接させる。(2)流下液膜または拭き取り膜での蒸発:1,3‐プロパンジオール、軽質生成物、および重質生成物の少量部分が蒸留物(d)中に回収され、一方、塩は、蒸発器中で結晶化し、親水性溶媒流およびスクレーピングによって蒸発器の底部にて機械的に取り出される(e)。(3)塩に富む流(e)と親水性溶媒よりも揮発性の低い疎水性重質溶媒との混合。疎水性溶媒を、新しい生成物(f)とリサイクル流(g)および(h)との両方に近接させる。(4)流下液膜または拭き取り膜での蒸発:残留1,3‐プロパンジオールおよび親水性溶媒が蒸留物(j)中に回収され、一方、塩は、蒸発器中で結晶化し、疎水性溶媒流およびスクレーピングによって蒸発器の底部にて機械的に取り出される(l)。(5)疎水性溶媒(g)、および残留1,3‐プロパンジオールと親水性溶媒との混合物(k)の両方をリサイクルするための、2つの液体相の分離。(6)疎水性溶媒から塩および親水性不純物を回収するための水(m)の添加。(7)塩を除去した疎水性溶媒流(h)のリサイクルのため、および水性流(o)によるプロセスからの塩の除去のための、混合流(n)の2つの液体相の分離。
【0121】
図4 1,3‐プロパンジオールよりも揮発性の低い水溶性溶媒を添加して、流下液膜式蒸発器または拭き取り膜式蒸発器にて結晶化塩を機械的に取り出すことにより、および所望によりイオン交換および/または吸着工程によって微量の汚染物残渣を除去することにより、1,3‐プロパンジオールを精製するための方法:(1)発酵浄化。(2)水の蒸留。(3)溶媒の添加。(4)流下液膜または拭き取り膜式での蒸発であって、1,3‐プロパンジオール、軽質生成物、および重質生成物の一部が気相中に回収され、一方、塩は、蒸発器中で結晶化し、溶媒流およびスクレーピングによって蒸発器の底部にて機械的に取り出される。(5)所望により、残留イオン性不純物および/または着色形成不純物の除去のために、イオン交換樹脂、活性炭、またはその他の固体吸着剤上にて行ってよい、イオン交換および/または吸着工程。(6)トッピング。(7)所望される場合は、残留イオン性不純物および/または着色形成不純物の除去のために、イオン交換樹脂、活性炭、またはその他の固体吸着剤上にて行ってよい、イオン交換および/または吸着工程。(8)ストリッピング。(9)所望により、残留イオン性不純物および/または着色形成不純物の除去のために、イオン交換樹脂、活性炭、またはその他の固体吸着剤上にて行ってよい、イオン交換および/または吸着工程。
【実施例】
【0122】
これらの実施例は、本発明の好ましい態様を示すものであるが、単に説明のためだけに提供される。
【0123】
実施例1
1,3‐プロパンジオール(PDO)を含有するろ過発酵ブロス(A1)を、以下の実験の出発物質として用いた。
【0124】
発酵ブロスのろ過は、以下の2工程からなっていた。
1.カットオフ0.22μmの精密ろ過。
2.カットオフ30kDの限外ろ過。
【0125】
限外ろ過の透過物をHPLCで分析し、結果を表1に報告する。
【0126】
表1:精密ろ過および限外ろ過を行ったPDO発酵ブロスの組成(混合物A1)
【表1】

【0127】
(A1)ろ過発酵ブロスをまず蒸発によって濃縮した。(A1)ろ過発酵ブロス(27kg)をサーモサイフォン式蒸発器に充填した。運転時の塔頂圧は130mbarであった。溶液の71.9重量%が蒸発した。塔頂生成物の水分含有量は99重量%よりも高かった。(B1)濃縮混合物中におけるPDO分率は20.6重量%であった。従って、PDOの収率は95.8重量%であった。
【0128】
第二の蒸発工程については、40mbarから30mbarまでの圧力で運転を行い:濃縮生成物(B1)を、40℃から70℃までの温度で加熱した。3.18kgのB1が蒸発した。最終蒸発物分率(最初の混合物(A1)の重量パーセント)は83.9重量%であった。(C1)最終濃縮生成物のPDO分率は34.0重量%であった。従って、第二の蒸発工程におけるPDOの収率は95.2重量%であった。
【0129】
このレベルの濃度では、塩の結晶化は発生しない。
【0130】
次に、グリセロール(310g)を(C1)最終濃縮生成物(4.34kg)に添加して、グリセロールの重量分率を15%とした。グリセロールは、シグマ‐アルドリッチから購入し(純度99%−GC分析)、さらなる精製を行わずに用いた。得られた(D1)グリセロールに富む混合物を、内部冷却管を有する実験用拭き取り薄膜式蒸発器(wiped thin film evaporator)に供給した。運転圧は1mbarに設定した。加熱温度は125℃に設定した。
【0131】
PDOのほとんどの部分を含む価値のある化合物が蒸発した。結晶化塩の堆積は、蒸発器壁のスクレーピングおよびグリセロールの連続流によって防止した。塩、重質化合物、およびグリセロールの大部分が、底部生成物中に回収された。(E1)蒸留物の回収質量は3.1kgであった。(E1)蒸留物中のPDOの重量分率は42.4%であった。従って、上述の塩除去工程におけるPDOの収率は94.7%であった。
【0132】
(E1)蒸留物のイオン分析結果を表2に報告する。
【0133】
表2:蒸留物中のイオン種の定量分析(E1混合物)
【表2】

【0134】
表2に報告した数値から、塩の除去効率が99%という高さであったことが確認される。
【0135】
次に、混合物(E1)を、40mbarから30mbarまでの圧力下で加熱した。加熱温度は、30〜40℃に設定した。溶液の36.8重量%が蒸発した。(F1)残渣中のPDOの重量分率は69.0%であった。従って、PDOの収率は99%という高さであった。
【0136】
次に、バッチ真空蒸留により、(F1)残渣から純粋なPDO(>99.5%−HPLC分析)を得た。塔頂圧は1から10mbar、好ましくは5mbarに設定した。蒸留プロセスは、以下の2つの工程: 軽質成分の除去およびPDOの生成、を含んでいた。軽質成分除去の間の還流比が高いことで、除去された蒸留物中のPDO分率が確実に低下された。PDO生成の間の還流比が高いことで、塔頂生成物中の重質成分の低濃度およびPDOの高純度が確実に得られた。99.5%よりも高い純度で(HPLC分析)質量が930gであるPDOが得られた。従って、バッチ蒸留の収率は68.8%であった。
【0137】
実施例2
1,3‐プロパンジオール(PDO)(A2)を含有するろ過発酵ブロスを以下の実験の出発物質として用いた。発酵ブロスのろ過は、以下の2工程を含んでいた。
1.カットオフ0.22μmの精密ろ過。
2.カットオフ30kDの限外ろ過。
【0138】
限外ろ過の透過物をHPLCで分析し、結果を表3に報告する。
【0139】
表3:精密ろ過および限外ろ過を行ったPDO発酵ブロスの組成(混合物A2)
【表3】

【0140】
(A2)ろ過発酵ブロスをまず蒸発によって濃縮した。(A2)ろ過発酵ブロス(25kg)を、精留カラムを備えたバッチ式蒸発器に充填した。運転時の塔頂圧は500mbarであった。溶液の85重量%が蒸発した。(B2)濃縮混合物のPDO重量分率は39.1%であった。従って、PDOの収率は98%であった。
【0141】
このレベルの濃度では、塩の結晶化は発生しない。
【0142】
次に、グリセロール(760g)を(B2)濃縮生成物(3.75kg)に添加して、グリセロールの重量分率を20重量%とした。グリセロールは、シグマ‐アルドリッチから購入し(純度99%−GC分析)、さらなる精製を行わずに用いた。得られた(C2)グリセロールに富む混合物を、内部冷却管を有する実験用薄膜蒸発器に供給した。運転圧は25mbarに設定した。器壁を170℃から175℃までの温度で加熱した。
【0143】
PDOのほとんどの部分を含む価値のある化合物が蒸発した。結晶化塩の堆積は、蒸発器壁のスクレーピングおよびグリセロールの連続流によって防止した。塩、重質化合物、およびグリセロールの一部分が、底部生成物中に回収された。回収蒸留物(D2)の質量は3.5kgであった。蒸留物(D2)中のPDOの重量分率は39.7%であった。従って、上述の塩除去工程におけるPDOの収率は96.4%であった。
【0144】
実施例3
実施例2で述べた運転中に薄膜蒸発器から放出された残渣を、以下の実験の出発物質として用いる(A3)。この残渣は、主としてグリセロール、塩、および重質化合物からなっており、実施例2で述べた運転において蒸発しなかった残留1,3‐プロパンジオール(PDO)を含有する。この混合物(A3)の組成は以下に述べる通りであり、グリセロールおよびPDOの重量分率はHPLC分析で測定したものであるが、塩および重質化合物の重量分率は、最初の発酵ブロスの分析および前の精製工程の種々の濃度因子に基づいて算出される。無機塩および重質不純物(例:タンパク質分解生成物)の大部分が、混合物(A3)中において結晶化または析出した形態であることに留意することが重要である。従って、HPCL分析の結果を修正して、全混合物中におけるPDOまたはグリセロールの実際の重量分率を得た。
【0145】
表4:実施例2で述べる、薄膜蒸発器から放出された残渣の組成
【表4】

【0146】
次に、ナタネ油メチルエステル(RME)の混合物を残渣(A3)に添加して、残渣1に対してRME1.5の比率とした。得られた液‐液二相混合物(C3)を厳密に混合し、内部冷却管を有する実験用薄膜蒸発器に供給した。運転圧は1mbarに設定した。器壁を150℃から155℃までの温度で加熱した。運転の最後には、質量775gの混合物(C3)が蒸発器へ供給されていた。
【0147】
グリセロールおよびPDOのほとんどの部分を含む価値のある化合物、ならびにRME混合物の最も揮発性の高い部分が蒸発し、蒸留物(D3)中に得られた。蒸留物(D3)は疎水性RMEを含んでいたが、これは親水性PDO‐グリセロール相中に混和しないため、この2つの液体相をデカンテーションで分離する。生成した全蒸留物(D3)の質量は約310gである。デカンテーションで得られた軽質液体相は、175gのRMEからなる。デカンテーションで得られた重質液体相は、82.7重量%のグリセロールと8.9重量%のPDOとを含有する126gの混合物からなる。従って、PDOの回収収率は90%よりも高く、一方グリセロールの回収収率は約67%である。
【0148】
結晶化塩の堆積は、蒸発器壁のスクレーピングおよび器壁上のRMEの連続流によって防止した。塩、重質化合物、および残留RMEは、底部生成物(E3)中に回収された。水を底部生成物(E3)に対して3:1の比率で添加して、水相中の塩および重質親水性化合物、ならびにほぼ純粋である疎水性RME相を回収した。 両デカンテーション工程後に回収されたRMEの合計質量は、蒸発器に供給された最初の質量の97%超である。従って、その親水性相への溶解性によるRMEの喪失は無視できる程度であると判断される。
【0149】
この運転では、ほとんどすべてのPDOならびにグリセロールの70%が蒸発物の重質相中に回収されることが示された。塩および重質化合物は水性流中に移動しており、これはもはや価値のある生成物を含有しておらず、廃棄してよいものであった。PDOおよびグリセロールのほとんどの部分は塩除去流中に回収され、これは、例えば濃縮発酵ブロスからPDOを回収するために、本発明で述べる「重質溶媒」として用いることが可能である。
【0150】
実施例4
本発明で述べる蒸留プロセスによって精製された1,3‐プロパンジオール(PDO)のサンプルを以下の実験の出発物質として用いた。この蒸留PDOサンプルの分析から、99重量%超の純度であることが示されたが、例えばエステルまたは塩素化化合物のような微量の有機不純物が残留していることが示された。このような不純物は、高い残留導電率および吸光度をもたらす。
【0151】
従って、イオン交換および吸着を仕上げ
精製技術として用いて、より高い品質を得た。まず、蒸留PDOを混床式イオン交換樹脂上でのイオン交換で処理した。用いたイオン交換樹脂は、プロライト(Purolite)から購入し(混床式樹脂MB400−ジビニルベンゼン架橋ゲルポリスチレン、官能基は、40%のスルホン酸および60%の四級アンモニウムからなる)、使用前に5回洗浄した。1回の洗浄は、水:樹脂の質量比を4とする浸透水による10分間の樹脂の洗浄から構成した。
【0152】
処理の前に蒸留PDOへある程度の水を添加して樹脂の劣化を防止するが:水は、水の重量分率が20%に達するまで添加した。処理は、全混合物中における樹脂の重量分率を19%として、バッチモードで行う。
【0153】
以下の表は、測定した水和PDOの導電率および吸光度を、樹脂との接触時間の関数として示すものである。運転はバッチモードで行い、運転中、樹脂と生成物を激しく混合した。
【0154】
表5:イオン交換処理したPDOサンプルの導電率および吸光度
【表5】

【0155】
導電率の低下から、蒸留プロセスでは除去されなかった残留イオン性不純物がイオン交換処理によって除去されたことが確認された。GC分析から、着色形成有機不純物のほとんどがイオン交換処理によって除去されたことも確認された。
【0156】
イオン交換によって処理されたPDOと水との混合物を、次に、活性炭への吸着で処理する。活性炭は、CECAから購入し(GAC 1240)、いかなる前処理を行わずに使用した。吸着工程は、全混合物中における活性炭の重量分率を20%として、バッチモードで行う。
【0157】
以下の表は、測定された水和PDOの吸光度を、吸着剤との接触時間の関数として示す。
【0158】
表6:活性炭への吸着によって処理したPDOサンプルの吸光度
【表6】

【0159】
上記の結果から、いずれの構成であっても、イオン交換および活性炭への吸着によって、本発明で述べるプロセスによって得られた蒸留PDOの導電率および/または吸光度を大きく低下させることが可能であることが確認された。従って、イオン交換および吸着はいずれも、最終生成物に対して非常に高い純度を達成するために適切な技術である。
【0160】
実施例5
1,2‐プロパンジオール(MPG)を含有するろ過発酵ブロス(A1)を、以下の実験の出発物質として用いた。
【0161】
発酵ブロスのろ過は、カットオフ0.65μmの精密ろ過からなっていた。
【0162】
精密ろ過の透過物をHPLCで分析し、結果を表7に報告する。
【0163】
表7:精密ろ過MPG発酵ブロスの組成(混合物A1)
【表7】

【0164】
(A1)ろ過発酵ブロスをまず蒸発によって濃縮した。(A1)ろ過発酵ブロス(51.0kg)をサーモサイフォン式蒸発器に充填した。運転時の塔頂圧は120mbarであった。溶液の91.5重量%が蒸発した。塔頂生成物は主として水からなっており、0.36重量%のMPGを含有していた。(B1)濃縮混合物中におけるMPG分率は42.1重量%であった。従って、MPGの収率は80.8重量%であった。
【0165】
このレベルの濃度では、塩の結晶化は発生しない。
【0166】
次に、グリセロールを(B1)濃縮生成物に添加して、グリセロールの重量分率を20重量%とした。グリセロールは、シグマ‐アルドリッチから購入し(純度99%−GC分析)、さらなる精製を行わずに用いた。得られた(C1)グリセロールに富む混合物を、内部冷却管を有する実験用拭き取り薄膜式蒸発器に供給した。運転圧は50mbarに設定した。加熱温度は130℃から150℃までに設定した。
【0167】
MPGのほとんどの部分を含む価値のある化合物が蒸発した。結晶化塩の堆積は、蒸発器壁のスクレーピングおよびグリセロールの連続流によって防止した。塩、重質化合物、およびグリセロールの大部分が、底部生成物中に回収された。(D1)蒸留物の回収質量は1.06kgであり、供給質量に対する蒸留物の比は64.3%であった。(D1)蒸留物中のMPGの重量分率は50.8%であった。従って、上述の塩除去工程におけるMPGの収率は97.0%であった。
【0168】
塩と重質不溶性不純物とが、上述の蒸発工程によって発酵ブロスから効率的に除去された。次に、蒸発物(D1)を、圧力レベル10から70mbar、および加熱温度80から120℃での連続蒸留工程によって処理し、ほぼ純粋であるMPGを得た。表7に報告される不純物の痕跡がまったくない、純度99%超(HPLCにより測定)の3つのサンプルを作製した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵ブロスからアルコールを精製するための方法であって、以下の工程:
a)前記発酵ブロスを浄化して、前記アルコールを含有する水溶液を得る工程、
b)前記水溶液に溶媒を添加して溶媒の比率を少なくとも10重量%とする工程であって、前記溶媒が、精製される前記アルコールの沸点よりも高い沸点を有する、工程、
c)前記溶媒を含有する前記水溶液を、流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、薄膜蒸発器、または短経路蒸発器に供給して、精製される前記アルコールを蒸発させ、および前記溶媒によって結晶化塩を取り出す工程、
d)前記アルコールを回収する工程、
を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記培養ブロスから精製される前記アルコールが、1,3‐プロパンジオールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)における前記発酵ブロスの浄化が、ろ過によって行われる、請求項1または2に記載の発酵ブロスからアルコールを精製するための方法。
【請求項4】
ろ過が、連続精密ろ過、限外ろ過、および/またはナノろ過工程からなる、請求項3に記載の発酵ブロスからアルコールを精製するための方法。
【請求項5】
工程a)で得られた前記アルコールを含有する前記水溶液からの水の除去をさらに含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発酵ブロスからアルコールを精製するための方法。
【請求項6】
工程b)において、溶媒を添加して、前記水溶液に対する比率を10重量%から20重量%の範囲とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の発酵ブロスからアルコールを精製するための方法。
【請求項7】
工程b)において前記水溶液に添加される前記溶媒がグリセロールである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の発酵ブロスからアルコールを精製するための方法。
【請求項8】
前記溶媒が親水性溶媒であり、工程c)において、前記アルコールを含有する蒸発生成物と、親水性溶媒、塩、および残留アルコールを含有する底部生成物とが得られる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の発酵ブロスからアルコールを精製するための方法。
【請求項9】
前記底部生成物中に含有される前記親水性溶媒および残留アルコールがリサイクルされる、請求項8に記載の発酵ブロスからアルコールを精製するための方法。
【請求項10】
前記親水性溶媒および残留アルコールのリサイクルが、以下の工程:
‐ 親水性溶媒、塩、および残留アルコールを含有する前記底部生成物へ疎水性溶媒を添加して、疎水性溶媒の比率を少なくとも5重量%とする工程であって、前記疎水性溶媒が、前記親水性溶媒の沸点よりも高い沸点を有する、工程;
‐ 前述の工程の生成物を、流下液膜式蒸発器、拭き取り膜式蒸発器、薄膜蒸発器、または短経路蒸発器に供給し、前記親水性溶媒および残留アルコールを蒸発させ、結晶化塩を前記疎水性溶媒で取り出す工程であって、親水性溶媒、残留アルコール、および疎水性溶媒を含有する蒸発生成物が得られる、工程;
‐ 蒸発生成物をデカントして、前記親水性溶媒および残留アルコールを含んでなる第一相と、前記疎水性溶媒を含んでなる第二相とを得る工程;
‐ 前記親水性溶媒および残留アルコールを含んでなる第一相をリサイクルする工程、
を含んでなる、請求項9に記載の発酵ブロスからアルコールを精製するための方法。
【請求項11】
前記疎水性溶媒が、前記底部生成物に対して50重量%から200重量%の範囲の比率となるように添加される、請求項10に記載の発酵ブロスからアルコールを精製するための方法。
【請求項12】
前記疎水性溶媒が、ナタネ油メチルエステル(RME)からなる、請求項10または11に記載の発酵ブロスからアルコールを精製するための方法。
【請求項13】
工程d)で回収された前記アルコールをさらに精製する工程を含んでなる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の発酵ブロスからアルコールを精製するための方法。
【請求項14】
前記アルコールのさらなる精製が、精製される前記アルコールの沸点よりも低い沸点を有する生成物および/または共沸混合物を蒸留によって除去することと、精製される前記アルコールの沸点よりも高い沸点を有する生成物および/または共沸混合物を蒸留によって除去することとを含んでなる、請求項13に記載の発酵ブロスからアルコールを精製するための方法。
【請求項15】
前記アルコールのさらなる精製が、蒸発による水の除去を含んでなる、請求項13または14に記載の発酵ブロスからアルコールを精製するための方法。
【請求項16】
前記アルコールのさらなる精製が、イオン交換および/または吸着を含んでなる、請求項13〜15のいずれか一項に記載の発酵ブロスからアルコールを精製するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−504404(P2012−504404A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529565(P2011−529565)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062818
【国際公開番号】WO2010/037843
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(505311917)メタボリック エクスプローラー (26)
【Fターム(参考)】