説明

流体制御弁

【課題】
流体の流動を制御する流体制御弁において、弁の作動システムおよび密閉構造が簡単な流体制御弁を提供することを課題とする。
【解決手段】
進退可能な隔壁20の一方側に流体が流入する流入口11と流出する流出口12とを有し隔壁20に流体の圧力を作用させる弁室10A、他方側に隔壁20に調節可能な押圧力を作用させる圧力室10B、が形成されるハウジング10と、隔壁20に支持され、流出口12を開閉する作動弁42と、を有し、弁室10Aの流入口11から流入する流体の圧力と圧力室10Bの押圧力の圧力差により隔壁20が進退され作動弁42を開閉し流体の流動を制御する流体制御弁100とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の圧力により弁を開閉し、流体の流動を制御する流体制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関の出力及び燃費性能向上のため、シリンダブロックの冷却水出口に配設され、冷却水が開弁温度以上になったとき開弁し冷却水をシリンダヘッドから流出するシリンダブロックの水温制御サーモスタットと、水温制御サーモスタットと並列に併設され、高負荷時に開弁し冷却水を水温制御サーモスタットを迂回して循環させる負荷制御バルブを備えた水冷式エンジンの冷却装置が開示されている。
【0003】
負荷制御バルブは、負圧式アクチュエータを有し、負圧式アクチュエータの進退自在なダイヤフラムに固定されたシャフトが、シリンダブロックを貫通し、シャフトと一体の弁がシリンダブロックの冷却通路を開閉する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−162716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の水冷式エンジンの冷却装置は、弁が負圧式アクチュエータにより進退されるため、負圧源が必要となり、弁の作動システムが複雑となる問題がある。また、シリンダブロックに対して進退自在なシャフトを水密的に密閉する構造が必要となり、密閉構造が複雑化する問題がある。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、弁の作動システムおよび密閉構造が簡単な流体制御弁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の技術的課題を解決するために本発明にて講じられた第1の技術的手段は、進退可能な隔壁の一方側に流体が流入する流入口と流出する流出口とを有し前記隔壁に前記流体の圧力を作用させる弁室、他方側に前記隔壁に調節可能な押圧力を作用させる圧力室、が形成されるハウジングと、前記隔壁に支持され、前記流出口を開閉する弁と、を有し、前記弁室の前記流入口から流入する前記流体の圧力と前記圧力室の押圧力の圧力差により前記隔壁が進退され前記弁を開閉し流体の流動を制御する流体制御弁としたことである。
【0008】
第2の技術的手段は、第1の技術的手段において、前記弁は、前記隔壁に相対的に進退可能に支持されると共に前記流出口を閉じる方向に付勢される流体制御弁としたことである。
【0009】
第3の技術的手段は、第1または第2の技術的手段において、前記流入口から流入する流体が所定圧力以下のとき、流体の圧力変動によって前記弁が開閉することを抑制するスライド機構が設けられることである。
【0010】
第4の技術的手段は、第3の技術的手段において、前記流入口から流入する流体が所定圧力より大きいとき、前記弁を開方向に案内するストッパ機構が設けられることである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によると、流入口から流入する流体の圧力と圧力室の押圧力の圧力差により、弁が開閉されるため、弁の作動システムが簡単なシステムとなる。また、弁は隔壁に支持され弁室のみに配設できる構造となるため、密閉構造が不要となる。
【0012】
請求項2の発明によると、流体の圧力変動による隔壁の進退方向の移動が吸収されると共に弁が流出口を閉じる方向に付勢されるため、流体の圧力変動により弁が開弁することを防止できる。
【0013】
請求項3の発明によると、スライド機構が設けられることにより、流体の圧力変動によって、意図しない弁の開閉を抑制できる。
【0014】
請求項4の発明によると、ストッパ機構が設けられることにより、スライド機構が設けられていても、流体の圧力変動が所定圧力より大きければ弁を開方向に案内する。従って、例えば流入口から流入する流体の圧力が急激に上昇した際には、弁が開き、流体を循環させることができる。よって、流体の温度を均一化でき、内燃機関等の発熱体から発生する熱を流体が吸熱できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例に係る内燃機関冷却システムを示す概略図。
【図2】本発明に係る流体制御弁の閉弁状態を示す概略図。
【図3】本発明に係る流体制御弁の開弁状態を示す概略図。
【図4】本発明に係る流体制御弁の制御フローを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図1乃至図4に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施例の流体制御弁100が搭載されるエンジン冷却回路Cを示す概略図である。図2は、本発明の実施例を示す流体制御弁100の閉弁状態を示す概略図である。図3は、本発明の実施例を示す流体制御弁100の開弁状態を示す概略図である。
【0018】
エンジン冷却回路Cは、図1に示すように、エンジン1、ポンプ2、ラジエータ3、サーモスタット4、車室ヒータ5及び流体制御弁100から構成される。冷却水(流体)は、エンジン1により駆動されるポンプ2によりエンジン冷却回路C内を循環する。
【0019】
流体制御弁100及び車室ヒータ5は、エンジン1からポンプ2に連通するヒータ回路(流体通路)C1中に配設されている。車室ヒータ5による車室内の暖房が要求される、又は冷却水が所定の温度になると流体制御弁100が開弁し、冷却水が車室ヒータ5を循環する。
【0020】
ラジエータ3及びサーモスタット4は、エンジン1からポンプ2に連通するラジエータ回路C2に配設されている。エンジン1の始動後、冷却水が所定の温度になるとサーモスタット4が開弁し、冷却水がラジエータ3を循環する。
【0021】
図2、図3の流体制御弁100は、進退可能な隔壁20に区分され、一方側に弁室10Aと他方側に圧力室10Bが形成されるハウジング10を有する。弁室10Aは、冷却水(流体)が流入する流入口11と流出する流出口12とを有し、隔壁20に冷却水の圧力を作用させる。圧力室10Bは、隔壁20に調節可能な押圧力を作用させる。
【0022】
ハウジング10は、一端が開口した有底円筒で開口部に鍔が形成されたハット状の2つの部材が、それぞれの鍔10a、10bの間に隔壁20を挟み対向して結合された両端が閉じた有底円筒である。ハウジング10は、弁室10A側の周壁に流入口11、端面(底部)の中央に流出口12が形成され、圧力室10B側端面(底部)の外周側に開閉可能な調節弁30が連結される。流入口11はエンジン1に連結され、流出口12は車室ヒータ5に連結される。
【0023】
隔壁20は、外縁部21aをハウジング10の鍔10a、10bに挟持され気密的に支持される円盤状の弾性体21と、円盤状の底部22aと底部22aから圧力室10B方向に起立する筒部22bからなるカップ状の剛体22を有する。剛体22および弾性体21は、剛体22の底部22aと弾性体21が密着し、結合されている。弾性体21は、円盤状のゴム部材であってもよい。
【0024】
隔壁20は、弁室10Aに流入する冷却水の隔壁20に作用する圧力と調節弁30の開閉により変化する圧力室10B内の圧力および後述する付勢部材60の付勢力により隔壁20を押圧する押圧力との圧力差に基づき弾性体21が変形し、円筒状ハウジング10の中心軸方向に進退(移動)する。調節弁30は、電磁弁であってもよい。
【0025】
隔壁20の弁室10A側には、剛体22の中央から弾性体21を貫通して流出口12方向に延出する軸22cが固定されている。軸22cは、流出口12側端部に軸22cの径より大きい径を有する端末部22dが形成されている。軸22cの端末部22dと隔壁20との間には、端末部22dの径より大きい径を有する円板部22eが形成されている。軸22aは、ハウジング10に固定される軸受け13に進退自在に支持されている。
【0026】
軸22cの端末部22dの周囲には、軸22cおよび端末部22dに対して軸方向に相対的に移動(進退)可能である弁体40が配設されている。軸22cおよび端末部22dと弁体40によりスライド機構S1が構成される。
【0027】
弁体40は、端末部22dを囲う円筒部41、円筒部41の流出口12側端部に円筒部41の径より大きい径を有し流出口12を開閉する作動弁42および隔壁20側に軸22cが挿通され端末部22dと係合する係合部43から構成される。作動弁42の進退方向に垂直な投影面積は、隔壁20の進退方向に垂直な投影面積より小さい。端末部22dと係合部43によりストッパ機構S2が構成される。
【0028】
作動弁42の外縁部42aと円板部22eとの間には、それぞれに係止され弁体40を流出口12方向に付勢する弾性部材50が配設されている。
【0029】
流体圧が小さく別途規定される圧力以下(所定圧力以下)の場合、図2に示すように、スライド機構S1および弾性部材50の付勢力により、冷却水の圧力変動による隔壁20の進退方向の移動が吸収されると共に作動弁42が流出口12方向に付勢され、流出口12は閉塞されている。
【0030】
流体圧が大きい(所定圧力より大きい)場合、図3に示すように、隔壁20が圧力室10B側に退行し、ストッパ機構S2および弾性部材50により、弁体40は隔壁20に対して相対的に移動せず、作動弁42により流出口12の開放される。
【0031】
隔壁20の圧力室10B側には、隔壁20の剛体22とハウジング10の端面との間にそれぞれに係止され隔壁20を弁室10A方向に付勢する付勢部材60が配設されている。剛体22の筒部22bは、付勢部材60が径方向に移動し付勢力が変化しないよう付勢部材60の位置を保持する。
【0032】
圧力室10Bは、大気に連通される調節弁30の開閉により内部の圧力が調節される。なお、調節弁30は、負圧に連通されていてもよい。
【0033】
調節弁30が閉弁の場合、図2に示すように、圧力室10Bは密閉され、圧力室10B内の圧力および付勢部材60の付勢力が隔壁20を押圧する押圧力と弁室10A内の流体が隔壁20に作用する圧力が拮抗し隔壁20の進退方向の位置が保持される。なお、調節弁30が故障により閉弁し、例えばエンジン1が別途規定される回転数以上になり流体圧が高くなった場合、作動弁42は開弁され冷却水が循環され、エンジン1は冷却される。
【0034】
調節弁30が開の場合、図3に示すように、圧力室10Bは大気に連通し、隔壁20には弁室10Aの圧力が作用し付勢部材60の付勢力に抗して圧力室10B方向に移動(退行)する。
【0035】
次に、本実施例の作動について説明する。
【0036】
エンジン1の始動後ポンプ2が作動し、エンジン1内を冷却水が循環し、循環する冷却水が弁室10A内に流入する。弁室10A内は、冷却水の流入により流体圧が発生する。
【0037】
エンジン1始動直後は、図2に示すように、調節弁30が閉弁され、圧力室10Bは密閉され、弁室10A内の流体の圧力と圧力室10B内の圧力および付勢部材60の付勢力による押圧力が拮抗し、隔壁20は進退せず保持される。また、弁体40は弾性部材50により流出口12方向に付勢される。これにより、作動弁42は流出口12を閉塞している。このとき、流体の圧力変動による隔壁20の進退方向の移動が発生する場合、スライド機構S1により吸収され、作動弁42は流出口12を閉塞する。
【0038】
車室ヒータ5による車室内の暖房が要求された場合、図3に示すように、調節弁30が開弁され、圧力室10Bは大気と連通する。付勢部材60の付勢力は、弁室内10Aの圧力より小さく、隔壁20は圧力室10B方向に移動(退行)する。このとき、ストッパ機構S2および弾性部材50により、隔壁20の軸22cの端末部22dと弁体40の係合部43が係合し、作動弁42を圧力室10B方向に移動させ開弁する。作動弁42の開弁により、エンジン1から車室ヒータ5へ冷却水が送水される。
【0039】
また、冷却水の温度が70℃より高くなった場合、エンジン1を保護するため、調節弁30が開弁され、圧力室10Bは大気と連通する。この場合も車室ヒータ5による車室内の暖房が要求された場合と同様に作動弁42が開弁し、エンジン1から車室ヒータ5へ冷却水が送水される。
【0040】
次に、本実施例の制御を図4に基づいて説明する。
【0041】
図4は、本発明に係る流体制御弁100の制御フローを示すフロー図である。
【0042】
この制御は、車室ヒータ5による車室内の暖房が要求された場合および冷却水の温度が70℃より高くなった場合、車室ヒータ5に冷却水を流通させる。
【0043】
先ず、ステップ1(S1)では、エンジン1のイグニッションがONか否かを判定する。YESの場合はステップ2へ進む。NOの場合は制御フローを終了する(END)。ステップ2(S2)では、エンジンが運転中か否かを判定する。YESの場合はステップ3へ進む。NOの場合は制御フローを終了する(END)。ステップ3(S3)では、車室ヒータ5の作動要求が有か否かを判定する。YESの場合はステップ5(S5)へ進み調節弁30を開弁し、流出口12を開放し冷却水を車室ヒータ5に循環させ、制御フローを終了する(END)。NOの場合はステップ4(S4)へ進む。ステップ4(S4)では、冷却水温度が70℃より高いか否かを判定する。YESの場合はステップ5(S5)へ進み調節弁30を開弁し、流出口12を開放し冷却水を車室ヒータ5に循環させ、制御フローを終了する(END)。NOの場合はステップ6(S6)へ進み調節弁30を閉弁し、流出口12を閉塞し冷却水を車室ヒータ5に循環せず、制御フローを終了する(END)。
【0044】
以上、本発明によれば、流入口12から流入する冷却水の圧力と圧力室10Bの押圧力の圧力差により、作動弁42が開閉されるため、作動弁42の作動システムが簡単なシステムとなる。また、作動弁42は隔壁20に支持され弁室10Aのみに配設できる構造となるため、密閉構造が不要となる。また、冷却水の圧力変動による隔壁20の進退方向の移動が吸収されると共に作動弁42が流出口12を閉じる方向に付勢されるため、冷却水の圧力変動により作動弁12が開弁することを防止できる。
【符号の説明】
【0045】
10・・・ハウジング
10A・・・弁室
10B・・・圧力室
11・・・流入口
12・・・流出口
20・・・隔壁
42・・・作動弁(弁)
100・・・流体制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
進退可能な隔壁の一方側に流体が流入する流入口と流出する流出口とを有し前記隔壁に前記流体の圧力を作用させる弁室、他方側に前記隔壁に調節可能な押圧力を作用させる圧力室、が形成されるハウジングと、
前記隔壁に支持され、前記流出口を開閉する弁と、を有し、
前記弁室の前記流入口から流入する前記流体の圧力と前記圧力室の押圧力の圧力差により前記隔壁が進退され前記弁を開閉し流体の流動を制御する流体制御弁。
【請求項2】
請求項1において、
前記弁は、前記隔壁に相対的に進退可能に支持されると共に前記流出口を閉じる方向に付勢される流体制御弁。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記流入口から流入する流体が所定圧力以下のとき、流体の圧力変動によって前記弁が開閉することを抑制するスライド機構が設けられる流体制御弁。
【請求項4】
請求項3において、
前記流入口から流入する流体が所定圧力より大きいとき、前記弁を開方向に案内するストッパ機構が設けられる流体制御弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−226544(P2011−226544A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95995(P2010−95995)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】