説明

流体動圧軸受装置及びその製造方法

【課題】高強度であり、且つ、フランジ部が軸部に対して高精度に固定されたハブ一体軸を有する流体動圧軸受装置を提供する。
【解決手段】ハブ一体軸9を金属で形成すると共に、軸部2の下端面2cを研削し、この研削された軸部2の下端面2cフランジ部11aの上側端面11a1を当接させた状態で、軸部2とフランジ部11aとを固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体動圧軸受装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体動圧軸受装置は、軸受部材の内周面と軸部の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用により、軸部を相対回転自在に支持するものである。流体動圧軸受装置は、優れた回転精度および静粛性を有するため、例えば、各種ディスク駆動装置(HDDの磁気ディスク駆動装置や、CD−ROM等の光ディスク駆動装置等)のスピンドルモータ用、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ用、あるいはプロジェクタのカラーホイールモータ用として好適に使用されている。
【0003】
例えば特許文献1に示されている流体動圧軸受装置は、軸部、及び、軸部の一端から外径に突出したハブ部とを一体に有する樹脂製のハブ一体軸と、軸部の他端に固定されたフランジ部と、内周に軸部が挿入された軸受部材(軸受スリーブ及びハウジング)とを備える。ハブ部には、ディスク搭載面が形成される。ハブ一体軸が回転すると、軸部の外周面と軸受部材の内周面との間にラジアル軸受隙間が形成されると共に、ハウジングの上端面とハブ部の下側端面との間、及び、フランジ部の上端面と軸受スリーブの下端面との間にそれぞれスラスト軸受隙間が形成され、これらのラジアル軸受隙間及びスラスト軸受隙間の油膜に生じる動圧作用で、ハブ一体軸が回転自在に支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−263168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の流体動圧軸受装置では、ハブ一体軸が樹脂で形成されているため、十分な強度が得られない恐れがある。特に、HDDのディスク駆動装置に組み込まれる流体動圧軸受装置では、HDDの高容量化の要求に応えるべくハブ部に複数枚のディスクが搭載されることもあり、樹脂製のハブ一体軸では搭載されるのディスクの負荷に耐えられない恐れがある。
【0006】
また、上記のようにハブ部と軸部とを一体に形成した場合、ハブ部とフランジ部との軸方向間に軸受部材を配するために、別途形成したフランジ部を軸部の端部に固定する必要がある。このとき、フランジ部の軸部に対する相対的な位置決め精度(例えば直角度)が悪いと、フランジ部が軸方向に振れながら回転するため、回転トルクの増大を招く恐れがある。特に、フランジ部がスラスト軸受隙間に面する場合、フランジ部に振れまわりが生じるとスラスト方向の支持力が低下する恐れがある。このため、フランジ部は軸部に対して精度良く固定する必要がある。
【0007】
本発明の解決すべき課題は、高強度なハブ一体軸を有し、且つ、ハブ一体軸の軸部に対してフランジ部が高精度に固定された流体動圧軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた本発明は、軸部、及び、軸部の一端から外径に突出し、軸方向と直交する回転体搭載面が形成されたハブ部とを一体に有する金属製のハブ一体軸と、軸部の他端に固定されたフランジ部と、内周に軸部が挿入された軸受部材と、軸部の外周面と軸受部材の内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で軸部をラジアル方向に支持するラジアル軸受部とを備えた流体動圧軸受装置において、軸部の他端面が研削された面であり、この他端面とフランジ部の一端面とを当接させた流体動圧軸受装置を提供する。
【0009】
このように、ハブ一体軸を金属で形成することで、ハブ一体軸、特にハブ部の強度を高めることができる。また、ハブ一体軸の軸部の他端面を研削して高精度に仕上げ、この高精度な他端面にフランジ部の一端面を当接させた状態させることにより、フランジ部を軸部に対して高精度に位置決めすることができるため、フランジ部の振れ回りを防止できる。特に、フランジ部の一端面がスラスト軸受隙間に面する場合、フランジ部の振れ回りを防止することでスラスト方向の支持力を高めることができる。
【0010】
また、上記の流体動圧軸受装置が、軸受部材の一端面とハブ部の一端面との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用でハブ一体軸をスラスト方向一方に支持する第1のスラスト軸受部と、軸受部材の他端面とフランジ部の一端面との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用でハブ一体軸をスラスト方向一方に支持する第2のスラスト軸受部とを備える場合、ハブ部の一端面はスラスト軸受隙間に面するため、研削を施して高精度に仕上げておくことが望ましい。また、この場合、軸受部材の両端面がスラスト軸受隙間に面するため、軸受部材の両端面間の軸方向寸法L1と、ハブ部の一端面とフランジ部の一端面(すなわち軸部の他端面)との間の軸方向寸法L2との差(L2−L1)によってスラスト軸受隙間の大きさが設定される(図2参照)。そこで、ハブ部の一端面と軸部の他端面とを同じ砥石で同時研削すれば、これらの面の間の軸方向寸法L2を高精度に設定することができ、スラスト軸受隙間の精度向上が図られる。
【0011】
また、軸部の外周面はラジアル軸受隙間に面するため、研削を施して高精度に仕上げておくことが望ましい。この場合、軸部の外周面と他端面とを同じ砥石で同時研削すれば、軸部の外周面に対する他端面の面精度を精度良く設定できるため、軸部の外周面に対するフランジ部の一端面の面精度(例えば振れ精度)を高めることができる。
【0012】
また、ハブ部の回転体搭載面の面精度が悪いと回転体の回転精度が低下するため、研削を施して高精度に仕上げておくことが望ましい。この場合、研削により高精度に仕上げられた回転体搭載面(あるいは回転体搭載面と同時研削された面)を基準として軸部の外周面を研削すれば、軸部の外周面の面精度をさらに高めることができる。また、これにより、軸部の外周面に対する回転体搭載面の相対的な位置精度(例えば振れ精度)を高めることができるため、回転体の回転精度を高めることができる。
【0013】
ハブ一体軸は、例えば、金属板の塑性加工により軸部及びハブ部を一体成形した素形材に研削仕上げを施して形成することができる。このように、ハブ一体軸を塑性加工で形成することで、形成が容易化される。特に、金属板の塑性加工で素形材を形成することで、例えばブロック状のブランク材から素形材を形成する場合と比べて塑性加工による変形量を抑えることができるため、素形材の寸法精度が高められ、研削仕上げの加工量を低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明のハブ一体軸は、ハブ一体軸を金属で形成することで強度を高めることができる。また、軸部の他端面を研削し、この面にフランジ部を当接させることで、フランジ部を軸部に対して高精度に固定することができるため、フランジ部の振れ回りを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】HDDのスピンドルモータを示す断面図である。
【図2】上記スピンドルモータに組み込まれた本発明の実施形態に係る流体動圧軸受装置の断面図である。
【図3】上記流体動圧軸受装置の軸受スリーブの断面図である。
【図4】上記軸受スリーブの上面図である。
【図5】上記軸受スリーブの下面図である。
【図6】(a)〜(e)は、金属板を塑性加工して、軸部及びハブ部を一体に有する素形材を成形する工程を示す断面図である。
【図7】素形材に研削仕上げを施す様子を示す断面図である。
【図8】素形材に研削仕上げを施す様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1に、例えば2.5インチHDDのディスク駆動装置に用いられるスピンドルモータを示す。このスピンドルモータは、本発明の一実施形態に係るハブ一体軸9を回転自在に支持する流体動圧軸受装置1と、流体動圧軸受装置1が取り付けられたブラケット6と、半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5とを備えている。ステータコイル4はブラケット6に取り付けられ、ロータマグネット5はハブ一体軸9にヨーク10を介して取り付けられる。ハブ一体軸9には、回転体としてのディスクDが所定の枚数(図示例では1枚)保持される。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、これによりハブ一体軸9及びディスクDが一体となって回転する。
【0018】
流体動圧軸受装置1は、図2に示すように、軸部2及びハブ部3を有するハブ一体軸9と、ハブ一体軸9を回転自在に支持する軸受部材とで構成される。本実施形態では、軸受部材が、内周にハブ一体軸9の軸部2を挿入した軸受スリーブ8と、内周に軸受スリーブ8を保持する有底筒状のハウジング7とで構成される。ハブ一体軸9の軸部2の下端には、抜け止め部材11が設けられる。尚、以下では、説明の便宜上、軸方向でハウジング7の開口側を上側、閉塞側を下側とする。
【0019】
ハブ一体軸9は金属で形成され、例えば鉄系金属、特にステンレス鋼で形成される。本実施形態のハブ一体軸9は、金属板の塑性加工(プレス加工)で成形された素形材に研削仕上げを施してなる。ステンレス鋼は一般に延性が乏しいため、ステンレス鋼の中でも比較的延性に富んだフェライト系(例えば、SUS430)を使用することが好ましい。また、延性を高めるために、ステンレス鋼のCの含有量を0.2%以下とすることが好ましく、同じ目的でステンレス鋼にTiを重量比で0.05%以上配合することが好ましい。この他、例えば一般構造用鋼、アルミ合金、あるいはチタン合金等でハブ一体軸9を形成することもできる。尚、ハブ一体軸9は塑性加工に限らず、例えば旋削等の機械加工で形成することもできる。
【0020】
軸部2は、ハブ一体軸9の軸心に設けられ、外径が2〜4mm程度に設定される。軸部2は、凹凸の無いストレートな円筒面状の外周面2aと、軸心に設けられた軸方向穴2bとを有する。軸方向穴2bは、軸部2を軸方向に貫通して設けられ、その内周面にネジ溝が形成される。
【0021】
軸部2の外周面2aに、表面硬化処理又はコーティング処理、あるいはこれらの双方を施してもよい。表面硬化処理としては、例えば真空焼入れ、真空浸炭処理、真空窒化処理、ガス軟窒化処理、あるいはイオン窒化処理等による表面硬化処理が挙げられる。コーティング処理としては、例えば無電解Niめっき、DLC、TiN、TiAlN、あるいはTiCによるコーティング処理が挙げられる。尚、ハブ一体軸9をステンレス鋼で形成する場合、上記のようにCの含有量を0.2%以下とすると、焼入れによる硬化処理が困難となるため、真空焼入れ以外の表面効果処理、あるいはコーティング処理を施すことが好ましい。尚、表面処理やコーティング処理は、軸部2の外周面2aだけでなく、他の領域、例えばスラスト軸受隙間に面するハブ部3の円盤部3aの下側端面3a1に施しても良い。あるいは、軸部2の外周面2aの耐摩耗性が十分であれば、表面効果処理やコーティング処理を省略してもよい。
【0022】
ハブ部3は、軸部2の上端部から外径に延び、軸方向と直交する回転体搭載面を備えている。本実施形態のハブ部3は、ハウジング7の開口部を覆う円盤部3aと、円盤部3aの外周部から軸方向下方に延びた円筒部3bと、円筒部3bの下端部からさらに外径に延びた鍔部3cとで構成され、鍔部3cの上側端面に回転体搭載面としてのディスク搭載面3dが形成される。円筒部3bの外周面には、ディスク嵌合面3eが形成される。ディスクDをディスク嵌合面3eに嵌合すると共にディスク搭載面3dの上に載置し、この状態で図示しないクランパによってディスクDの上面を押さえてディスク搭載面3d上に押し付けることにより、ディスクDがハブ部3に保持される。尚、軸部2の軸方向穴2bの上部は、クランパを固定するためのネジ穴として機能する。
【0023】
ハブ一体軸9は、所定の箇所が研削された面となっている。本実施形態では、図2に点線で示す箇所、すなわち、ディスク搭載面3d、ディスク嵌合面3e、円盤部3aの上側端面3a2の外周部、円盤部3aの下側端面3a1の内周部、軸部2の外周面2a、及び軸部2の下端面2cが、研削面である。上記のうち、ディスク搭載面3d、ディスク嵌合面3e、円盤部3aの上側端面3a2の外周部は一つの砥石で同時研削されている。これらの研削面を基準として、円盤部3aの下側端面3a1の内周部、軸部2の外周面2a、及び軸部2の下端面2cとが一つの砥石で同時研削されている。
【0024】
抜け止め部材11は金属あるいは樹脂で形成され、円盤形状のフランジ部11aと、フランジ部11aの軸心から上方に延びた固定部11bとを有する。固定部11bの外周にはネジ溝が形成され、軸部2の軸方向穴2bの内周面に形成されたネジ穴の下端にネジ固定される。フランジ部11aは軸部2の外周面2aよりも外径に突出し、その上側端面11a1が軸部2の下端面2cと当接している。フランジ部11aは、軸受スリーブ8の下側端面8cとハウジング7の底部7bの上側端面7b1との軸方向間に配される。軸部2の下端に固定されたフランジ部11aと軸受スリーブ8とが軸方向で係合することにより、軸部2の軸受スリーブ8からの抜け止めが行われる。
【0025】
フランジ部11aの上側端面11a1は、後述する第2のスラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間に面するスラスト軸受面として機能する。軸部2の下端面2cは研削により高精度な平坦面に仕上げられているため、フランジ部11aの上側端面11a1は軸部2の下端面2cの全面と良好に密着し、これにより、軸部2に対してフランジ部11aを高精度に位置決めすることができる。また、フランジ部11aの上側端面11a1と軸部2の下端面2cとを全周で密着させることにより、軸部2の軸方向穴2bへの潤滑油の侵入を抑えることができるため、ハウジング7の内部に満たされた潤滑油が軸方向穴2bを介して外部に漏れだす恐れを低減できる。
【0026】
軸受スリーブ8は、金属や樹脂で円筒状に形成され、本実施形態では、例えば銅を主成分とする焼結金属で形成される。軸受スリーブ8の内周面8aには、図3に示すように、ラジアル動圧発生部として、例えば軸方向に離隔した2つの領域にヘリングボーン形状の動圧溝8a1,8a2がそれぞれ形成される(クロスハッチングは丘部)。図示例では、上側の動圧溝8a1は軸方向非対称に形成されており、具体的には、軸方向中央部mより上側の領域の軸方向寸法X1が、下側の領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている(X1>X2)。下側の動圧溝8a2は軸方向対称に形成されている。軸受スリーブ8の外周面8dには、軸方向溝8d1が軸方向全長にわたって形成され、例えば3本の軸方向溝8d1が円周方向に等配される。
【0027】
軸受スリーブ8の上側端面8b及び下側端面8cには、図4及び図5に示すように、それぞれスラスト動圧発生部として、例えばポンプインタイプのスパイラル形状の動圧溝8b1,8c1が形成される(クロスハッチングは丘部)。軸受スリーブ8の外周面8dには、軸方向溝8d1が形成される。軸方向溝8d1の本数は任意であり、例えば3本の軸方向溝8d1が円周方向等間隔に配される。
【0028】
ハウジング7は、金属や樹脂で形成され、本実施形態では例えば樹脂の射出成形で形成される。ハウジング7は、図2に示すように、側部7a及び底部7bを一体に有する有底円筒状に形成される。側部7aの内周面7a1は、ストレートな円筒面状に形成され、軸受スリーブ8の外周面8dが隙間接着、圧入、接着剤介在下の圧入等により固定される。側部7aの外周面の上端には、図2に示すように、上方に向かって漸次拡径するテーパ状のシール面7a3が形成される。このシール面7a3は、ハブ部3の円筒部3bの内周面3b1との間に、上方に向けて半径方向寸法が漸次縮小した環状のシール空間Sを形成する。シール空間Sは、ハブ一体軸9の回転時、ハブ部3の円盤部3aの下側端面3a1とハウジング7の上端面7a2との間の隙間を介して、第1のスラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間の外径側、及び、軸方向溝8d1の上端と連通している。このシール空間Sの毛細管力により、ハウジング7の内部に充満された潤滑油の漏れ出しを防止する。
【0029】
上記の部材からなる流体動圧軸受1は、以下のようにして組み立てることができる。まず、軸受スリーブ8の内周にハブ一体軸9の軸部2を挿入し、この状態で軸部2の軸方向穴2bの下端に抜け止め部材11の固定部11bをネジ固定して仮アッシ品を構成する。このとき、フランジ部11aの上側端面11a1と軸部2の下端面2cとを当接させることにより、フランジ部11aの軸部2に対する位置決めが行われる。この仮アッシ品の状態で、ハブ部3の円盤部3aの下側端面3a1とフランジ部11aの上側端面11a1との間の軸方向寸法L2が決定されるため、この軸方向寸法L2と、軸受スリーブ8の両端面8b,8c間の軸方向寸法L1との差により、第1及び第2スラスト軸受部T1,T2のスラスト軸受隙間の合計量が設定される。
【0030】
このとき、ハブ一体軸9の軸部2の下端面2cとハブ部3の円盤部3aの下側端面3a1とは同じ砥石で同時研削された面であるため、これらの間の軸方向寸法は高精度に設定されている。従って、軸部2の下端面2cにフランジ部11aの上側端面11a1を当接させることで、フランジ部11aの上側端面11a1とハブ部3の円盤部3aの下側端面3a1との軸方向寸法L2が高精度に設定される。一方、軸受スリーブ8は、成形性に優れた焼結金属で形成されるため、両端面8b,8cの間の軸方向寸法L1は高精度に設定される。従って、これらの軸方向寸法の差(L2−L1)で設定される第1及び第2スラスト軸受部T1,T2のスラスト軸受隙間の合計量が高精度に設定される。
【0031】
こうして、スラスト軸受隙間が設定された仮アッシ品の軸受スリーブ8をハウジング7の内周に挿入し、軸受スリーブ8の外周面8dをハウジング7の内周面7a1に固定する。そして、軸受スリーブ8の内部気孔を含めたハウジング7の内部の空間に潤滑油を充満させることにより、図2に示す流体動圧軸受装置1が完成する。このとき、油面はシール空間Sの内部に保持される。
【0032】
ハブ一体軸9が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部2の外周面2aとの間にラジアル軸受隙間が形成される。そして、ラジアル動圧発生部(動圧溝8a1,8a2)により上記ラジアル軸受隙間に満たされた潤滑油の圧力が高められ、この圧力(動圧作用)によりハブ一体軸9をラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部R1,R2が構成される。
【0033】
これと同時に、ハブ部3の円盤部3aの下側端面3a1と軸受スリーブ8の上側端面8bとの間、及び、フランジ部11aの上側端面11a1と軸受スリーブ8の下側端面8cとの間にそれぞれスラスト軸受隙間が形成される。そして、スラスト動圧発生部(動圧溝8b1,8c1)により各スラスト軸受隙間に満たされた潤滑油の圧力が高められ、この圧力(動圧作用)によりハブ一体軸9をスラスト方向一方(持ち上げる方向)に回転自在に非接触支持する第1のスラスト軸受部T1と、ハブ一体軸9をスラスト方向他方(押し下げる方向)に回転自在に非接触支持する第2のスラスト軸受部T2とが構成される。
【0034】
このとき、軸受スリーブ8の外周面8dに形成された軸方向溝8d1により、潤滑油が流通可能な連通路が形成される。この連通路により、ハウジング7の内部に満たされた潤滑油に局部的な負圧が発生する事態を防止できる。特に本実施形態では、図3に示すように、軸受スリーブ8の内周面8aに形成された上側の動圧溝8a1が軸方向非対称な形状に形成されているため、ハブ一体軸9の回転に伴ってラジアル軸受隙間の潤滑油が下方に押し込まれ、上記の連通路を介して潤滑油が循環し、これにより局部的な負圧の発生を確実に防止できる。
【0035】
以下、ハブ一体軸9の製造方法について説明する。
【0036】
ハブ一体軸9は、金属板を塑性加工して軸部2及びハブ部3を一体に有する素形材を形成する素形材成形工程と、この素形材の所定箇所に研削仕上げを施す研削仕上げ工程とを経て形成される。
【0037】
(1)素形材成形工程
素形材形成工程では、まず、図6(a)に示すように、鉄系材料、例えばステンレス鋼、特にTiを0.5%以上含んだフェライト系ステンレス鋼からなる金属板20を準備する。例えば、本実施形態のような2.5インチHDDのスピンドルモータ用のハブ一体軸9の場合、金属板の厚さは1mm程度とされる。
【0038】
そして、図6(b)に示すように、冷間の塑性加工(深絞り加工)により金属板20の軸心を下方に突出させ、軸部21を成形する。このとき、図示しない金型で軸部21を押し込んで突出させるため、軸部21の軸心には軸方向穴21aが成形される。
【0039】
次に、図6(c)に示すように、冷間の塑性加工(プレス加工)により軸部21の周囲にハブ部22を成形する。具体的には、軸部21から外径に延びる円盤部22aと、円盤部22aの外径端から下方に延びる円筒部22bと、円筒部22bの下端から外径に延びる鍔部22cとが成形される。このとき、鍔部22cの上側端面22c1の内径端には、環状の凹部(逃げ部)22c10が同時に成形される。
【0040】
その後、図6(d)に示すように、軸部21の先端部(下端部)を切断除去し、軸方向穴21aを軸部21の下端に開口させる。これと共に、軸部21の軸方向穴21aの内周面にネジ溝を形成する。
【0041】
最後に、図6(e)に示すように、ハブ部22の鍔部22cと金属板20とを切り離し、軸部21及びハブ部22を有する素形材30を金属板20から分離する。
【0042】
このように素形材30を金属板20から形成することで、素形材30の肉厚はおおよそ均一になっている。具体的には、軸部21の径方向の肉厚、ハブ部22の円盤部22aの軸方向の肉厚、円筒部22bの径方向の肉厚、及び、鍔部22cの軸方向の肉厚が、おおよそ均一になっている。詳しくは、上記の塑性加工により絞られて軸方向に延びる箇所(軸部21及び円筒部22b)の肉厚は、軸方向と直交する方向の面(円盤部22a及び鍔部22c)の肉厚よりも若干薄くなっている。例えば、1mm程度の金属板20を用いて素形材30を形成する場合、円盤部22a及び鍔部22cの肉厚が約0.8mmであるのに対し、軸部21及び円筒部22bの肉厚は約0.5mmとなる。すなわち、本実施形態では、金属板20から素形材30を得るときの肉厚の変化量が50%以下となっている。このように、金属板20からの変形量が比較的小さいことで、素形材30を精度良く塑性加工することができる。
【0043】
(2)研削仕上げ工程
上記のようにして成形した素形材30の所定箇所に、研削仕上げが施される。尚、図7及び図8に示す研削仕上げ工程では、素形材30の軸方向を水平にして加工を行っているが、素形材30の各部位には上記と同様の名称を付している。
【0044】
まず、素形材30のハブ部22の所定箇所に研削仕上げが施される。具体的には、図7に示すように、素形材30の軸部21の軸方向穴21aに回転センタ41、42を装着して素形材30を回転自在に支持すると共に、ハブ部22の鍔部22cの下側端面22c2をバッキングプレート43で支持する。そして、バッキングプレート43を回転駆動して素形材30を軸部21を中心に回転させ、この状態でアンギュラ砥石44を素形材30に接触させる。詳しくは、アンギュラ砥石44の砥面44a,44b,及び44cを、鍔部22cの上側端面22c1(ディスク搭載面に相当)、円筒部22bの外周面22b1(ディスク嵌合面に相当)、及び、円盤部22aの上側端面22a1の外周部に当接させ、これらの面を同時研削する。このとき、鍔部22cの上側端面22c1の内径端に逃げ部22c10が設けられているため、アンギュラ砥石44の砥面44a及び44bを、鍔部22cの上側端面22c1及び円筒部22bの外周面22b1に密着させることができる。
【0045】
次に、図8に示すように、ハブ部22の研削仕上げ面(図中に点線で示す)を基準として、軸部21の外周面21b及び下端面21cと、ハブ部22の円盤部22aの下側端面22a2(スラスト軸受隙間に面する領域)とに研削仕上げを施す。例えば、ハブ部22の円盤部22aの上側端面22a1の外周部をマグネットチャック51で吸着支持すると共に、円筒部22bの外周面22b1をシュー52で摺動支持する。この状態で、マグネットチャック51を回転駆動して素形材30を軸部21を中心に回転させ、アンギュラ砥石53を素形材30に接触させる。詳しくは、アンギュラ砥石53の砥面53a,53b,及び53cを、軸部21の外周面21b、軸部21の下端面21c、及び円盤部22aの下側端面22a2の内周部にそれぞれ当接させ、これらの面を同時研削する。以上により、軸部2及びハブ部3を有するハブ一体軸9(図2参照)が完成する。
【0046】
以上のように、ハブ一体軸9の軸部2の外周面2a(ラジアル軸受面)、円盤部3aの下側端面3a1の内周部(第1のスラスト軸受部T1のスラスト軸受面)、及び、軸部2の下端面2cに研削仕上げを施すことで、これらの面が高精度に仕上げられ、ラジアル軸受部及び第1のスラスト軸受部T2による支持力が高められる。また、高精度に仕上げられた軸部2の下端面2cにフランジ部11aの上側端面11a1(第2のスラスト軸受部T2のスラスト軸受面)を当接させることで、フランジ部11aの位置決め精度が向上し、フランジ部11aの振れ回りが抑えられる。
【0047】
また、ハブ一体軸9の軸部2の外周面2a、円盤部3aの下側端面3a1の内周部、及び、軸部2の下端面2cを同時研削することで、これらの面の相対的な位置精度が高精度に設定される。これにより、軸部2の外周面2a(ラジアル軸受面)に対する、円盤部3aの下側端面3a1の内周部(第1のスラスト軸受部T1のスラスト軸受面)、及び、軸部2の下端面2cに当接するフランジ部11aの上側端面11a1(第1のスラスト軸受部T1のスラスト軸受面)の相対的な位置精度が高精度に設定される。これにより、ハブ一体軸9の回転時におけるハブ部3やフランジ部11aの振れ回りがより確実に抑えられ、ハブ一体軸9の回転精度を高めることができる。例えば、本実施形態のように軸径が2〜4mm程度である場合、上記の方法でハブ一体軸9を形成すれば、ハブ一体軸9のラジアル軸受面に対する各スラスト軸受面の振れ精度を高めることができ、例えばラジアル軸受面に対する第1のスラスト軸受部T1のスラスト軸受面の振れ精度を4μm以下、ラジアル軸受面に対する第2のスラスト軸受部T2のスラスト軸受面の振れ精度を5μm以下に設定することができる。換言すれば、これらの条件を満たしていれば、ハブ一体軸9の軸部2の外周面2a、円盤部3aの下側端面3a1の内周部、及び、軸部2の下端面2cが同じ砥石で同時研削されていると推定することができる。
【0048】
また、上記のように、高精度に加工されたハブ部22の研削仕上げ面を基準として、軸部21の外周面21bに研削仕上げを施すことで、ハブ一体軸9の軸部2の外周面2a(ラジアル軸受面)を高精度に加工することができる。特に、ディスク搭載面3dに相当する鍔部22cの上側端面22c1と同時研削されたハブ部22の円盤部22aの上側端面22a1を基準として、軸部21の外周面21bを研削することで、ハブ一体軸9の軸部2の外周面2aに対するディスク搭載面3dの面精度が高精度に設定される。その結果、例えば、軸部2の外周面2aに対するディスク搭載面3dの振れ精度は5μm以下に設定され、ディスクDの回転精度が高められる。また、本実施形態では、ディスク嵌合面3eに相当する円筒部22bの外周面22b1を基準として軸部21の外周面21bを研削することで、軸部2の外周面2aに対するディスク嵌合面3eの同軸度は5μm以下に設定される。換言すれば、軸部2の外周面2aに対するディスク搭載面3d及びディスク嵌合面3eの寸法精度が上記の範囲内であれば、軸部2の外周面2aが、ディスク搭載面3d及びディスク嵌合面3e(あるいはこれらの面と同時研削された面)を基準として研削仕上げされていると推定することができる。尚、振れ精度及び同軸度の定義は、JIS B 0021:1998による。
【0049】
尚、本実施形態では、軸部21の外周面21bを研削する際に、鍔部22cの上側端面22c1を直接支持するのではなく、円盤部22aの上側端面22a1の外周部をマグネットチャック51で支持している。円盤部22aの上側端面22a1の外周部と、鍔部22cの上側端面22c1とは同時研削されているため、これらの面の平行度は極めて高精度に設定される。従って、円盤部22aの上側端面22a1の外周部をマグネットチャック51で支持することで、鍔部22cの上側端面22c1を間接的に基準とすることができる。もちろん、可能であれば、鍔部22cの上側端面22c1をマグネットチャック51で吸着支持し、この面を直接的に基準としてもよい。
【0050】
また、研削仕上げを施したハブ一体軸9の軸部2の外周面2aに、必要に応じて表面硬化処理あるいはコーティング処理を施してもよい。表面硬化処理あるいはコーティング処理を、上記の研削仕上げ工程に先立って行えば、研削による疵を抑えることができる。また、上記の研削仕上げ工程の後にコーティング処理を施せば、研削による疵をコーティングで覆うことができる。また、表面硬化処理及びコーティング処理の双方を施してもよく、例えば軸部2の外周面2aに表面硬化処理を施した後、上記の研削仕上げ工程を行い、さらにこの面にコーティング処理を施してもよい。
【0051】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0052】
上記の実施形態では、軸部2の下端面2cにフランジ部11aがネジ固定されているが、これに限らず、例えば溶接や接着、溶着により固定することもできる。この場合、軸部2の下端面2cとフランジ部11aの上側端面11a1との間の隙間を接着剤等で完全に封止すれば、軸部2の軸方向穴2bを介した油漏れを確実に防止できる。
【0053】
また、上記の実施形態では、軸受スリーブ8の上側端面8bとハブ部3の円盤部3aの下側端面3a1との間に第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間が形成されているが、これに限られない。例えば、ハウジング7の上端面7a2とハブ部3の円盤部3aの下側端面3a1との間に第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間を形成してもよい。この場合、円盤部3aの下側端面3a1の外周部に研削が施される。
【0054】
また、上記の実施形態では、図7及び図8に示すように、素形材30のハブ部22のディスク搭載面(鍔部22cの上側端面22c1)及びディスク嵌合面(円筒部22bの外周面22b1)に研削仕上げを施し、これらの面(あるいはこれらと同時研削された面)を基準として軸部21の外周面21bに研削仕上げを施しているが、これに限られない。例えば、研削仕上げを施したディスク搭載面のみを基準として、軸部21の外周面21bに研削仕上げを施してもよい。
【0055】
また、上記の実施形態では、潤滑流体が潤滑油である場合を示しているが、これに限らず、例えば磁性流体や空気等の流体を使用することも可能である。
【0056】
また、上記の実施形態では、本発明に係るハブ一体軸9をHDDのスピンドルモータ用の流体動圧軸受装置に組み込んだ例を示しているが、これに限られない。例えば、ポリゴンスキャナモータ用の流体動圧軸受装置や、カラーホイールモータ用の流体動圧軸受装置に本発明のハブ一体軸を適用することもできる。
【符号の説明】
【0057】
1 流体動圧軸受装置
2 軸部
3 ハブ部
3d ディスク搭載面
3e ディスク嵌合面
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
6 ブラケット
7 ハウジング
8 軸受スリーブ
9 ハブ一体軸
10 ヨーク
11 抜け止め部材
11a フランジ部
11b 固定部
20 金属板
21 軸部
22 ハブ部
30 素形材
41 回転センタ
43 バッキングプレート
44 アンギュラ砥石
51 マグネットチャック
52 シュー
53 アンギュラ砥石
D ディスク
R1,R2 ラジアル軸受部
T1 第1のスラスト軸受部
T2 第2のスラスト軸受部
S シール空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部、及び、軸部の一端から外径に突出し、軸方向と直交する回転体搭載面が形成されたハブ部とを一体に有する金属製のハブ一体軸と、軸部の他端に固定されたフランジ部と、内周に軸部が挿入された軸受部材と、軸部の外周面と軸受部材の内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で軸部をラジアル方向に支持するラジアル軸受部とを備えた流体動圧軸受装置において、
軸部の他端面が研削面であり、この他端面にフランジ部の一端面を当接させた流体動圧軸受装置。
【請求項2】
フランジ部の一端面がスラスト軸受隙間に面する請求項1の流体動圧軸受装置。
【請求項3】
軸受部材の一端面とハブ部の一端面との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用でハブ一体軸をスラスト方向一方に支持する第1のスラスト軸受部と、軸受部材の他端面とフランジ部の一端面との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用でハブ一体軸をスラスト方向他方に支持する第2のスラスト軸受部とをさらに備えた請求項2の流体動圧軸受装置。
【請求項4】
ハブ部の一端面と軸部の他端面とが同時研削された面である請求項3の流体動圧軸受装置。
【請求項5】
軸部の外周面と他端面とが同時研削された面である請求項1〜4何れかの流体動圧軸受装置。
【請求項6】
研削された回転体搭載面あるいは回転体搭載面と同時研削された面を基準として、軸部の外周面が研削された請求項1〜5何れかの流体動圧軸受装置。
【請求項7】
ハブ一体軸が、金属板の塑性加工により軸部及びハブ部を一体成形した素形材に研削仕上げを施して形成されたものである請求項1〜6何れかの流体動圧軸受装置。
【請求項8】
軸部、及び、軸部の一端から外径に突出し、軸方向と直交する回転体搭載面が形成されたハブ部とを一体に有するハブ一体軸と、軸部の他端に固定されたフランジ部と、内周に軸部が挿入された軸受部材と、軸部の外周面と軸受部材の内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で軸部をラジアル方向に支持するラジアル軸受部とを備えた流体動圧軸受装置を製造するための方法であって、
軸部の他端面に研削を施し、この他端面にフランジ部の一端面を当接させた状態で、フランジ部を軸部に固定する流体動圧軸受装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−107645(P2012−107645A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254933(P2010−254933)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】