説明

流体噴出装置

【課題】流体の噴出態様を容易かつ低コストに変更、調整可能な流体噴出装置を提供する。
【解決手段】主にノズル2と、ノズル2の噴出口2aに対峙する障壁3と、ノズル噴出口2aの両側に位置し、ノズル2の下流側に向けて延びる一対の側壁4、5とで流体噴出装置1を構成する。また、一対の側壁4、5の側壁長さDを変更可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴出装置に関し、特に振動を伴った噴流を発生可能な流体噴出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の噴出現象を利用した工業用デバイスは、種々の分野で利用されている。その中でも、特に振動を伴う噴流を利用したものの適用が検討され、あるいは実際に使用されている。
【0003】
例えば、スリット状の流体噴流でエアカーテンを噴出形成することで制御空間と外界との遮断を行い、当該制御空間内の雰囲気を維持、制御するものとして、エア噴流の流路を千鳥状に配置し、この流路の交差部において流れの周期振動を生じることにより、エアカーテンの安定化を図ったものが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、エアダクトや煙突、水道管等の管壁に付着する汚れを、内部流体の流れにより防止あるいは自動除去する目的で、管壁の内周面に、一の平行流路要素群と他の平行流路要素群とが同一平面上で交差し、合流と分流とが連続した流路を、多数の凸部により形成したものが提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0005】
また、ガスコンロやヘアドライヤなど、受熱体を一部に集中することなく、均一でしかも短時間で加熱あるいは冷却できるように構成されたものとして、熱媒体流入口と熱媒体流出口とを有し、熱媒体流入口と熱媒体流出口との間に、複数の柱状体が綾状に配設されると共に、各柱状体間に網状の流路が形成されたノズル本体を備えた熱媒体送給装置が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【特許文献1】特開2000−130411号公報
【特許文献2】特開2001−219132号公報
【特許文献3】特開2001−29121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらは、何れもネットワーク状に設けた流路の交差部において、その流れ方向に対して直交する方向に周期的振動を生じる、いわゆるフリップ・フロップ現象を利用したものである。これにより、特段の機械的可動部を設けることなく、流体の噴出方向を周期的に変動可能としている。
【0007】
しかしながら、これら流体噴出装置における流体の噴出態様、例えば噴出方向などは、予め複雑に形成されたネットワーク状流路の構造、具体的には各流路間の交差角に依存するため、用途に合わせて、その噴出態様を変更、調整することは容易ではない。また、複雑かつ細緻なネットワーク流路構造を形成する必要があるため、そのコストも高騰する。
【0008】
以上の事情に鑑み、本発明では、流体の噴出態様を容易かつ低コストに変更、調整可能な流体噴出装置を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、ノズルと、ノズルの噴出口に対峙する障壁と、ノズル噴出口の両側に位置し、ノズル下流側に向けて延びる一対の側壁とを有する流体噴出装置を提供する。
【0010】
本発明は、ノズルの下流側に障壁および一対の側壁を設けることでノズルから噴出される流体が自励的に振動し、またその噴出態様は障壁や一対の側壁により形成されるノズル下流側の空間形状に大きく影響を受ける、との本発明者らの知見に基づき創出されたものである。これによれば、その構成は非常に単純でかつ最小限の構成要素で済む。また、流体の噴出態様も、障壁や一対の側壁で形成されるノズル下流側空間の形状のみで容易に変更あるいは調整可能となる。従って、非常に低コストに噴流の振動を可能とする流体噴出装置を提供することができる。
【0011】
特に、本発明では、本発明者らの、側壁長さが噴流振動の振れ幅(偏向角ともいう)および発振周波数を大きく左右するとの発見に基づき、一対の側壁の長さを、ノズル噴出口の開口幅の2.5倍以上3.8倍以下とした構成、さらには、一対の側壁の長さを変更可能とした構成を提案する。
【0012】
すなわち、上記構成は、ノズル下流側の空間形状を決定する各構成要素の形状寸法のうち、後述する実験結果から、一対の側壁長さが変化した場合に、特に、側壁長さがノズル噴出口の開口幅の2.5倍以上3.8倍以下の大きさとなる場合に噴流の振動特性が大きく変化する点に着目してなされたものである。かかる構成によれば、噴流振動時の偏向角やその周期(発振周波数)を、供給流体の圧力や流速を変更することなく制御することが可能となる。特に、偏向角を広範に制御可能な点が従来構成と比べて効果的な点である。
【0013】
もちろん、側壁長さ以外の寸法、例えば一対の側壁の対向間隔や、ノズル噴出口と障壁との対峙距離も噴流の振動特性に影響することから、これら対向間隔や対峙距離を変更可能とする構成を採ることもできる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、流体の噴出態様を容易かつ低コストに変更、調整可能な流体噴出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図1および図2に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る流体噴出装置の一例を示す。同図に係る流体噴出装置1は、ノズル2と、ノズル2の噴出口2aに対峙する障壁3と、噴出口2aの両側に位置し、ノズル2の下流側に向けて延びる一対の側壁4、5とを備える。この実施形態では、障壁3を一側面に有する正方形柱6が、ノズル2や側壁4、5と共に、容器7内に収容配置されている。また、流体供給源としてのメインタンク8がノズル2の上流側に配設されている。なお、同図中、参照番号9および10はそれぞれノズル2へ送り込む流体をの流量を調整するためのコントロールバルブとフローメータを、11および12はそれぞれノズル2より噴出された流体を回収し、メインタンク8へと流体を還流させるためのサブタンクとポンプを示している。
【0017】
図2は、流体噴出装置1のうち、本発明の特徴点に係る構成部分を平面的に見た図である。詳述すると、側壁4、5は、ノズル2の噴出口2aを含む平面2bから延びており、その内側面4a、5aと平面2bとは直交している。噴出口2aは、この実施形態では高さ方向(紙面垂直方向)に延びるスリット形状をなしている。また、障壁3は、ノズル2の流れ軸方向に直交した状態で噴出口2aと対峙している。ここで、同図中、bはノズル噴出口2aの開口幅、cは障壁3の幅寸法(ここでは正方形柱6の一辺の長さ)、Dは一対の側壁4、5の長さ、Bは側壁4、5間の対向間隔、そしてdはノズル噴出口2aと障壁3との対峙距離をそれぞれ示している。
【0018】
上記構成の流体噴出装置1において、流体供給源(メインタンク)8よりノズル2に送り込まれた流体は、ノズル噴出口2aを通過して、障壁3に衝突する。この場合、図2に示す構成を採ることにより、障壁3へと衝突した流体が、側壁4、5のうち何れか一方の側に偏向すると共に、周期的にその偏向方向を変え、全体として発振する。そのため、かかる構成によれば、噴流発振のための機械的可動部を特に設けることなく、非常に単純かつ最小限の構成要素でもって周期的な噴流発振を発生させることができる。また、その噴出態様を、障壁3や一対の側壁4、5で形成されるノズル2の下流側空間の形状を変更するだけで容易に変更、調整することができる。
【0019】
また、ノズル2下流側の空間形状を決定する各構成要素の形状寸法のうち、一対の側壁4、5の長さDを変更可能とすることで、噴流発振時の偏向角やその周波数を、供給流体の圧力や流速を変更することなく制御することが可能となる。特に、後述するが、側壁4、5の長さDを、ノズル噴出口2aの開口幅bの2.5倍以上3.8倍以下とした場合に偏向角や振動数の変動が顕著となる。
【0020】
以下、実際に各構成要素の形状寸法を変化させた場合における流体の噴出態様を観察、評価した結果について述べる。具体的には、側壁長さDを変化させた場合の図2に示す流れ場における流速を測定することで、噴流の振動特性、ここではストローハル数Stを評価した。また、供給流体に蛍光色でコーティングした粒子を流体に混入し、同粒子の流れ挙動特性を計測、評価することで流れ場における流れの可視化を行った。
【0021】
今回の実験では、特に側壁長さDに焦点を絞って当該寸法が噴流の振動特性に及ぼす影響を調べるため、側壁長さDのみを変化させて実験を行った。実験条件を下記の表1に示す。ここで、側壁長さDをはじめ上記各形状寸法パラメータは長さスケールとしての開口幅bで無次元化している。ノズル噴出口2aの高さhは装置の二次元性を確保するため、h/b=10で固定した(表1を参照)。また、流れの可視化のため、ノズル2や障壁3、側壁4、5および容器7を、透明なアクリル板で形成した。今回の実験では、噴出させる流体として水を用いた。レイノルズ数Re(=U・b/ν)は3段階(5.0×10、8.0×10、1.0×10)に変化させて実験を行った。ここで、Uは噴流の空間平均流速(U≒8.0×10−2m/sとした)であり、今回の実験ではノズル2出口付近の値で代表した。なお、νは水の動粘性係数である。
【表1】

【0022】
流速を、UDM(Ultrasonic Doppler Method)を用いて測定した。今回の実験では、正方形柱6の側面付近における流速を測定した。図1中、13はトランスデューサ等を備えたUDM分析装置を示す。測定した流速の時間変動(波形)をFFT(高速フーリエ変換)することで、周波数成分のスペクトル分布を得た。ここで、得られた周波数スペクトルのうち最も高いピークを示した周波数を噴流の主発振周波数fとした。これにより、噴流のストローハル数St(=f・b/U)を求めた。
【0023】
ノズル2下流側の空間における流れ場を、蛍光色でコーティングしたポリエチレン粒子を流体に混入することで可視化した。可視化した流れをPIV(Particle Image Velocimetry:微粒子映像による速度測定法)システムにより解析することで、各計測ポイントにおける速度ベクトルを算出した。図1中、14はYAGレーザー、ハイスピードカメラ等からなるPIVシステムを示す。また、本実験では相互相関法を用いて解析を行った。実験条件は表1と同様である。
【0024】
図3は、レイノルズ数Reを3段階(Re=5.0×10、8.0×10、1.0×10)に変化させて、かつ側壁長さDと開口幅bとの比D/bを変化させた場合(D/b=0、1.3、2.5、3.8、5、6.3、7.5、8.8、10、15、20、25、30、35、42)に得られたストローハル数Stを示す。0≦D/b<2.5においては、明確な主発振周波数fが見られなかった。表1に示すような寸法関係であれば、噴流は、10−1以上のストローハル数を伴って噴流発振を生じる可能性があるが、今回の実験では、そのような高い発振周波数は見られなかった。
【0025】
2.5≦D/b≦3.8においては、明確な主発振周波数fを確認することができた。この場合のストローハル数Stはおおよそ3×10−3であった。図4は、D/b=2.5において測定された流速の時間変動波形である。これを見る限り、噴流は一定の周期性を伴って振動していることがわかる。
【0026】
5≦D/b≦8.8においては、明確な主発振周波数fを確認することはできなかった。
【0027】
D/b≧10においては、再び明確な主発振周波数fを確認することができた。この場合のストローハル数Stは約5×10−3であった。この結果から、ストローハル数の値は、D/bに対して独立していることがわかる。図5は、D/b=20のときの流速の時間変動波形である。これを見る限り、D/b=2.5の場合と同様、噴流は正確な周期性を伴って振動していることがわかる。また、流速Uが同じであっても、側壁長さDを変更することで、主発振周波数fが大きく変化することがわかる。
【0028】
次に、側面長さDを異ならせた場合(D/b=0、2.5、5、8.8、10、20の6種類)の流れ場を観察した。ここでは、時間平均ではなく、瞬間的に得た、渦度分布でもって評価を行った。また、図3に示す結果より、本実験ではレイノルズ数Reが振動特性に及ぼす影響は無視できるものと見なし、Re=1.0×10の場合における流れ場の観察結果について言及する。
【0029】
図6に、D/b=0のときの流れ場、すなわち側壁4、5がない状態での流れ場(渦度分布図)を示す。同図より、流れはほぼ定常的であり、流体の乱れもほとんど見られない。噴流は対称的に二方向に分かれ、そのときの噴出角度(偏向角)は約60°であった。
【0030】
図7(a)〜(d)は、D/b=2.5のときの流れ場を示す。この場合、噴流は周期的に振動したので、t=0/4・T、1/4・T、2/4・T、3/4・Tのときの流れ場をそれぞれ示す。ここで、Tは噴流振動の周期である。何れの時刻においても、噴流は二方向に分かれることはなかったが、一方の側には偏向した。偏向角は、D/bの場合とそれほど変わらない大きさ(60°)であった。
【0031】
図8および図9に、それぞれD/b=5、8.8の場合の流れ場(渦度分布図)を示す。図8に示すように、D/b=5においては、噴流は二方向に分かれることなく、一方の側壁の側に偏向した状態が定常的に見られた。この場合の偏向方向は、噴流開始時、偶然的に選択されるものである。偏向角は90°程度の大きさであった。その一方で、図9に示すように、D/b=8.8においては、噴流が二方向に分かれた状態が定常的に見られた。偏向角はかなり小さく、45°程度であった。
【0032】
図10(a)〜(d)は、D/b=10のときの流れ場を示している。D/b=2.5の場合と同様、噴流に周期的な振動が見られたので、1周期Tの間で、t=0/4・T、1/4・T、2/4・T、3/4・Tのときの流れ場(渦度分布図)で示した。これらの図より、噴流の偏向角は、D/b=2.5の場合ほど大きくないことがわかる。また、全周期時間において、側壁4、5の間で、一対の循環流が観察された。
【0033】
図11(a)〜(d)は、D/b=20のときの流れ場を示している。D/b=10の場合と比べて側壁長さDが大きくなっているにも関わらず、その流れは、D/b=10の場合とほぼ同様であった。
【0034】
以上まとめると、側壁長さDが異なると流れの態様は大きく変化する。具体的には、所定の側壁長さD以上で(D/b≧10)、噴流は一定のストローハル数St、すなわち一定の主発振周波数fを伴って周期的に振動を生じた。側壁長さDを小さくしていくと、定常的な流れを経て、噴流は再び周期的に発振を生じた。この現象は、特に側壁長さDがノズル噴出口の開口幅bの2.5倍以上3.8以下の場合に顕著に見られた。その際の偏向角は、先の振動時(D/b≧10)と比べて大きくなった。また、ストローハル数Stは小さくなったことから、供給流体の流速を一定に維持しているにも関わらず、主発振周波数fは減少した。
【0035】
このように、本発明に係る流体噴出装置1であれば、必要最小限の構成要素で流体の振動を伴った噴出を生じることができ、また側壁長さDを変更するだけで流体の噴出態様、特に振動時の偏向角や発振周波数を制御することができる。そのため、非常に低コストで流体噴出装置を提供することが可能である。また、本発明に係る流体噴出装置であれば、機械的な可動部を設けることなく振動を伴った噴流が発生可能であるため、既述の適用例に限らず、例えば上下水など、比較的異物が混入し易い劣悪な環境下であっても高い耐久性を持って使用することができる。さらに、上述の実験結果より、本発明に係る構成であれば、流体の粘性の程度によらず噴流振動が発生可能であることから、種々の気体混合、液体混合あるいは気液混合のための装置として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る流体噴出装置の一構成例を概念的に示す斜視図である。
【図2】流体噴出装置の主要部分を平面的に見た図である。
【図3】無次元化した側壁長さとストローハル数との関係を示す図である。
【図4】側壁長さが比較的小さい場合の流速変動波形を示す図である。
【図5】側壁長さが比較的大きい場合の流速変動波形を示す図である。
【図6】側壁長さD/b=0の場合の流れ場における渦度分布図である。
【図7】(a)、(b)、(c)、(d)は何れも側壁長さD/b=2.5で、かつそれぞれ時間t=0/4・T、1/4・T、2/4・T、3/4・Tの場合の流れ場における渦度分布を示す図である。
【図8】側壁長さD/b=5の場合の流れ場における渦度分布図である。
【図9】側壁長さD/b=8.8の場合の流れ場における渦度分布図である。
【図10】(a)、(b)、(c)、(d)は何れも側壁長さD/b=10で、かつそれぞれ時間t=0/4・T、1/4・T、2/4・T、3/4・Tの場合の流れ場における渦度分布を示す図である。
【図11】(a)、(b)、(c)、(d)は何れも側壁長さD/b=20で、かつそれぞれ時間t=0/4・T、1/4・T、2/4・T、3/4・Tの場合の流れ場における渦度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 流体噴出装置
2 ノズル
2a 噴出口
3 障壁
4、5 側壁
b 開口幅
B 対向間隔
D 側壁長さ
d 対峙距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルと、ノズルの噴出口に対峙する障壁と、ノズル噴出口の両側に位置し、ノズル下流側に向けて延びる一対の側壁とを有する流体噴出装置。
【請求項2】
一対の側壁の長さを、ノズル噴出口の開口幅の2.5倍以上3.8倍以下とした請求項1記載の流体噴出装置。
【請求項3】
一対の側壁の長さを変更可能とした請求項1記載の流体噴出装置。
【請求項4】
一対の側壁の対向間隔を変更可能とした請求項1記載の流体噴出装置。
【請求項5】
ノズル噴出口と障壁との対峙距離を変更可能とした請求項1記載の流体噴出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2008−12385(P2008−12385A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183630(P2006−183630)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】