説明

流体噴射ヘッド及び流体噴射装置

【課題】ノズル基板を保護でき、且つ、流体を効率よく加熱して噴射できる流体噴射ヘッド及びそれを備えた流体噴射装置を提供する。
【解決手段】インクを噴射するノズル開口23が形成されたノズル基板22と、インクを加熱するヒーター30とを備える記録ヘッド4であって、ノズル基板22と接触して設けられ、ノズル基板22を保護する所定の機能を有するヘッドカバー40を有し、ヒーター30は、ヘッドカバー40及びノズル基板22を介してインクを加熱するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を加熱して噴射する流体噴射ヘッド及び流体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高粘度の流体を安定して噴射させるために、流体を加熱して粘度を低下させる加熱装置を備える流体噴射ヘッドが知られている。
このような流体噴射ヘッドを備える装置として、特許文献1には、流路板上に伝熱部材を介して加熱するヒーターを有し、該伝熱部材がノズルプレート(ノズル基板)上にも延長して設けられた記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−266705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、流体噴射ヘッドでは、噴射によりノズル基板に付着してしまったインク等(流体)を、ゴム製のワイプ部材等で定期的にクリーニングする処理を行っているが、ワイピングされるワイプ部材とノズル基板の縁部とが衝突すると、ワイプ部材の劣化を早めることとなるため、ノズル基板の縁部を被覆する等の物理的保護が必要となる場合がある。また、ノズル基板は、例えば、流体噴射対象である記録紙が静電気を帯びてしまっていた場合に、その静電気の影響を受けると、流体噴射ヘッド内部に設けられた駆動IC等の電子部品の静電破壊等を発生させる虞があるため、電気的保護が必要となる場合がある。
【0005】
本発明は、上記課題点を考慮してなされたもので、ノズル基板を保護でき、且つ、流体を効率よく加熱して噴射できる流体噴射ヘッド及びそれを備えた流体噴射装置を提供することを目的としている。また、別の目的は、ノズル基板を電気的に保護できる流体噴射ヘッド及びそれを備えた流体噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、流体を噴射するノズル開口が形成されたノズル基板と、上記流体を加熱する加熱装置とを備える流体噴射ヘッドであって、上記ノズル基板と接触して設けられ、上記ノズル基板を保護する所定の機能を有する保護部材を有し、上記加熱装置は、上記保護部材及び上記ノズル基板を介して上記流体を加熱するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、ノズル基板と接触して保護する保護部材を熱伝導媒体としても活用し、加熱装置により発生する熱を、流体と直接的に接するノズル基板に伝熱させることで流体を加熱することができる。
【0007】
また、本発明においては、上記ノズル開口が複数設けられ、上記ノズル開口毎に形成された流体流路のそれぞれが接続される流体貯溜室を有し、上記ノズル基板は、上記流体貯溜室の一部を形成しているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、各ノズル開口のそれぞれに分岐する前段階の流体貯溜室に貯溜される流体を、ノズル基板を介して一括的に加熱することができる。したがって、流体貯溜室から各流体流路に流体が分岐した後の温度のバラツキが生じ難く、それに伴って流体の粘度も一定に調節することができ、流体の噴射特性も向上させることができる。
【0008】
また、本発明においては、上記保護部材を覆う断熱部材を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、断熱部材で保護部材を保温することで熱損失を低減させることができ、加熱の効率化を図ることができる。
【0009】
また、本発明においては、上記保護部材は、上記ノズル基板を電気的に接地させるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、ノズル基板の電位を接地電位にすることができ、駆動IC等の電子部品の静電破壊等の虞を解消することができる。
【0010】
また、本発明においては、上記ノズル基板には、複数の上記ノズル開口で形成されるノズル列が複数列形成されており、上記保護部材は、上記ノズル列が形成されているノズル面を覆い、且つ、上記ノズル列の各列に沿うように形成された開口部を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、ノズル面の被覆面積を大きくできるため、ノズル基板をより衝撃等から保護できると共に、ノズル基板の全面に偏り無く加熱装置の熱を伝熱することができる。
【0011】
また、本発明においては、上記流体の温度を検出する温度検出装置と、上記温度検出装置の検出結果に基づいて、上記加熱装置の駆動を制御する制御装置とを有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、流体の温度を所望の温度にすることができるため、流体の粘度を精度良く調節し、所望の粘度で流体を噴射させることができる。
【0012】
また、本発明においては、上記温度検出装置は、上記保護部材の温度に基づいて、上記流体の温度を検出するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、流体に直接触れることなく、外部から流体の温度を検出することができる。
【0013】
また、本発明においては、上記加熱装置の発熱部は、上記ノズル基板を支持するケース部材と上記保護部材との間に挟持されており、上記ケース部材と上記保護部材との間を液密にして上記発熱部をシールするシール部材を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、発熱部を液密にシールすることができるため、ノズル基板がワイプ部材によりワイピングされた際に、ノズル基板と保護部材との接触部位から毛細管現象により流体が染みあがり、ケース部材と上記保護部材との間に挟持された発熱部まで到達して温度上昇を阻害することを防止することができる。
【0014】
また、本発明においては、上記加熱装置の発熱部は、上記ノズル基板を支持するケース部材と上記保護部材との間に挟持されており、上記ケース部材から離間する方向の上記保護部材の開きを当接して係止する係止部材を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、保護部材の広がりを防止できるため、保護部材と発熱部とが密に接触でき、また、保護部材の位置決めもされ組立が容易になる。
【0015】
また、本発明においては、上記係止部材は、上記保護部材を覆う断熱部材に設けられているという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、一つの部材で保護部材を保温し、且つ、保護部材の広がりを防止できる。このため、部品点数の増加を抑制できる。
【0016】
また、本発明においては、流体噴射ヘッドから所定の対象物に向けて流体を噴射する流体噴射装置であって、上記流体噴射ヘッドとして、上記に記載の流体噴射ヘッドを備える流体噴射装置を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、ノズル基板を保護でき、且つ、流体を効率よく加熱して噴射できる流体噴射ヘッドを備えた流体噴射装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態における流体噴射装置の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態における記録ヘッドを示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態における記録ヘッドを示す分解図である。
【図4】本発明の実施の形態における記録ヘッドを示す断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態における記録ヘッドを示す斜視図である。
【図6】本発明の第2実施形態における記録ヘッドを示す分解図である。
【図7】本発明の第2実施形態におけるヒーターとヘッドカバーと断熱板との組合せの状態を示す斜視図である。
【図8】本発明の第2実施形態における記録ヘッドを示す部分断面図である。
【図9】本発明の別実施形態における記録ヘッドを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の流体噴射ヘッド及び流体噴射装置を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る流体噴射装置の一例を示す斜視図である。
本実施形態に係る流体噴射装置は、インク等の流体を噴射する流体噴射装置である。流体噴射装置の一例として、記録ヘッドの噴射口から記録媒体にインクを噴射して、その記録媒体に対する記録を実行するインクジェット式記録装置を用いて説明する。
尚、以下の説明では、そのインクジェット式記録装置の一例として、記録媒体である記録紙(対象物)にインクの滴を吐出(噴射)して、その記録紙に対する記録を実行するインクジェットプリンターについて説明する。
【0020】
図1に示すように、インクジェットプリンター1は、インクにより記録紙に対する記録を実行する記録ユニット2と、記録紙を搬送する記録紙搬送機構3とを備えている。
記録ユニット2は、インクを噴射する記録ヘッド(流体噴射ヘッド)4と、記録ヘッド4を支持しながら移動可能なキャリッジ5と、記録ヘッド4及びキャリッジ5と対向する位置に配置され、インクが噴射される記録紙を支持するプラテン6とを含む。
【0021】
インクジェットプリンター1は、キャリッジ5を移動するモータ等を含むキャリッジ駆動装置7と、キャリッジ5の移動を案内するキャリッジガイド部材とを備えている。
キャリッジ5は、キャリッジガイド部材に案内されながら、キャリッジ駆動装置7によって、主走査方向に移動する。記録紙は、記録紙搬送機構3により、記録ユニット2に対して、主走査方向と交差する副走査方向に移動する。
【0022】
また、インクジェットプリンター1は、記録紙を収容する給紙カセット9を備えている。
給紙カセット9は、インクジェットプリンター1の本体の背面側に、着脱可能に設けられている。給紙カセット9は、積層された複数の記録紙を収容可能に設けられている。
【0023】
記録紙搬送機構3は、給紙カセット9の記録紙を搬出するための給紙ローラと、給紙ローラを駆動するモータ等を含む給紙ローラ駆動装置10と、記録紙の移動を案内する記録紙ガイド部材11と、給紙ローラに対して搬送方向の下流側に配置されている搬送ローラと、搬送ローラを駆動する搬送ローラ駆動装置と、記録ユニット2に対して搬送方向の下流側に配置されている排出ローラとを有している。
【0024】
給紙ローラは、給紙カセット9に積層されている複数の記録紙のうち、最も上側に配置されている記録紙をピックアップし、給紙カセット9より搬出可能に構成されている。給紙カセット9の記録紙は、記録紙ガイド部材11に案内されながら、給紙ローラ駆動装置10によって駆動する給紙ローラによって、搬送ローラに送られる。搬送ローラに送られた記録紙は、搬送ローラ駆動装置によって駆動する搬送ローラにより、搬送方向の下流側に配置された記録ユニット2に搬送される。
【0025】
記録ユニット2のプラテン6は、記録ヘッド4及びキャリッジ5と対向する位置に配置され、記録紙の下面を支持する。記録ヘッド4及びキャリッジ5は、プラテン6の上方に配置されている。記録紙搬送機構3は、記録ユニット2による記録動作と連動して、記録紙を副走査方向に搬送する。記録ユニット2で記録された記録紙は、排出ローラを含む記録紙搬送機構3によって、インクジェットプリンター1の正面側から排出される。
【0026】
また、インクジェットプリンター1は、インクカートリッジのインクをキャリッジ5の記録ヘッド4に供給するインク供給チューブ12を備えている。インクカートリッジのインクは、インク供給針を介してインク供給路に供給され、そのインク供給路より、インク供給チューブ12を介して、キャリッジ5の記録ヘッド4に供給される。
また、インクジェットプリンター1は、記録ヘッド4をメンテナンス可能なメンテナンス装置13を備えている。
【0027】
メンテナンス装置13は、キャッピング装置14及びワイピング装置15を含む。ワイピング装置15は、記録ヘッド4と対向可能なワイプ部材44を備えている。ワイピング装置15は、ワイプ部材44を用いて、残留したインク等、記録ヘッド4の噴射面(ノズル面)17(後述)に付着している異物を拭き取ったり、払ったりすることができる。
メンテナンス装置13は、キャリッジ5及び記録ヘッド4のホームポジションに配置されている。ホームポジションは、キャリッジ5の移動領域内であって、記録ユニット2による記録動作が実行される記録領域の外側の端部領域に設定されている。
電源が切断されている間、あるいは長時間に亘って記録動作が実行されない場合、キャリッジ5及び記録ヘッド4は、ホームポジションに配置される。また、記録ヘッド4には温度計が接続され、記録ヘッド4の温度を計測可能に構成されている。
【0028】
次に、本実施形態における記録ヘッド4の構成について、図2〜図4を参照して説明する。
図2は、本実施形態に係る記録ヘッド4を示す斜視図である。図3は、記録ヘッド4の分解図である。図4は、記録ヘッド4の断面図である。
記録ヘッド4は、図3に示すように、ヘッド本体20と、ヒーター(加熱装置)30と、ヘッドカバー(保護部材)40と、断熱板(断熱部材)50とが順に重なって形成されている。
【0029】
ヘッド本体20は、ケース部材21と、ノズル基板22とで形成される。ノズル基板22は、インクを噴射するノズル開口23が、複数のノズル列24を成すように所定のピッチで複数個形成されている噴射面17を有する構成となっている。また、本実施形態のノズル基板22は、例えばステンレス鋼等の金属で形成された熱伝導性を有する板状の部材である。一方のケース部材21は、例えば合成樹脂等から形成され、内部に所望のインク収納空間を形成する箱状の部材である。
【0030】
ヘッド本体20は、図4に示すように、インク供給路と連通するインク取入口25と、インク取入口25から取り入れたインクを貯溜する共通インク室(流体貯溜室)26と、共通インク室26から各ノズル開口23毎に分岐して設けられた個別インク室(流体流路)27と、各個別インク室27毎に設けられた圧電素子28とを有する構成となっている。
共通インク室26は、インクを個別インク室27を介して各ノズル開口23毎に分岐する前段階で一括的に貯溜するものであり、ケース部材21が形成する凹部にノズル基板22が蓋をする形で接合されることにより、所望のインク収納空間を形成する構成となっている。すなわち、本実施形態の共通インク室26の一面(一部)は、熱伝導性を有するノズル基板22で構成されることとなる。
【0031】
個別インク室27は、各ノズル開口23に対応するようにそれぞれ設けられる。それら個別インク室27は、共通インク室26とそれぞれが接続され、共通インク室26からインクの供給を受ける構成となっている。なお、ノズル基板22は、個別インク室27に、個別インク室27を形成するキャビテイ基板を介して熱を伝える構成を取っている。
圧電素子28は、所定の駆動周波数を有する電気信号により駆動することで個別インク室27の内部容量を変化させて個別インク室27に満たされたインクの液圧を制御することによって、ノズル開口23からインクを吐出させる構成となっている。
【0032】
ヘッドカバー40は、図2及び図3に示すように、本実施形態では、ノズル基板22と同様に、例えば、ステンレス鋼等の熱伝導性及び導電性を有する金属板で成型されており、ノズル基板22の噴射面17の縁部を被覆すると共に、ノズル開口23を露出させる構成となっている。そして、ヘッドカバー40の一部が、図4に示すように、ノズル基板22と縁部にて接触するように取り付けられる。
このようなヘッドカバー40は、ヘッド本体20のフランジ部20aに複数のネジ部材で取り付けられ、フランジ部20aを介してインクジェットプリンター1本体に電通する不図示のアースラインに電気的に接続される。これにより、ヘッドカバー40が接地電位に調整される構成となっている。
【0033】
ヒーター30は、図3に示すように、ヘッド本体20の側面に沿って成型されており、ヘッド本体20とヘッドカバー40との間においてそれらに挟持され、互いにそれぞれと接触して設けられる。ヒーター30は、本実施形態では、例えば電熱性を有する部材から構成され、端部31、32がインクジェットプリンター1本体に電気的に接続され給電を受け発熱する構成となっている。
このようなヒーター30は、ヘッド本体20の外部に設置されヘッドカバー40及びノズル基板22を介してヘッド本体20の内部のインクを加熱することにより、ヘッド本体20内部に設置する場合と比べて、設置空間の制限を受けずに所望の発熱量や発熱面積を確保できる構成となっている。
断熱板50は、ヘッドカバー40の側面を覆うように成型された矩形の枠体形状を有しており、ヘッドカバー40から外気への熱放射を抑制し、保温効果を高める構成となっている。このような断熱板50は、ヘッドカバー40に沿うように嵌め込まれる。
【0034】
続いて、上記構成の記録ヘッド4のインクを加熱して噴射する動作について説明する。
先ず、ヒーター30は、端部31、32により電通され、インクの粘度を調整する所望の温度で発熱することとなる。例えば、高粘度インクがUVインクである場合、40℃〜50℃で発熱するのが好ましい。なお、ヒーター30で発生した熱は、図4に示すように、ヒーター30と接触するヘッドカバー40に伝熱される。
【0035】
ヘッドカバー40は、ヒーター30から伝熱された熱を、接触するノズル基板22に伝熱させる。ここで、断熱板50は、ヘッドカバー40から外気への伝熱を遮断し、ヘッドカバー40を保温することとなる。
なお、ヘッドカバー40は、ノズル基板22の縁部を、図1に示すワイピング装置15によるワイプ部材44との衝撃から保護するだけでなく、ノズル基板22の噴射面17と接触することにより、ノズル基板22とインクジェットプリンター1本体のアースラインとを電気的に接続し、ノズル基板22の電位を接地電位に調整する。したがって、記録紙が発生する静電気が、ノズル基板22を通じて駆動回路等を破壊する静電破壊や、圧電素子28の電気信号に重畳する誤作動等の不具合を防止できる。
【0036】
ノズル基板22は、ヘッドカバー40から伝熱された熱を、ノズル開口23、共通インク室26や個別インク室27等のヘッド本体20内に貯溜された各インクに伝熱する。ここで、ノズル基板22は、共通インク室26の一面を形成しているため、直接、共通インク室26内に貯留されたインクに、ヒーター30の熱を伝熱することができる。また、共通インク室26の熱が伝わる面積は、個別インク室27の熱が伝わる面積より大きいため、インクを一括的に加熱することができる。したがって、圧電素子28の駆動周波数が変動した場合や、複数のノズル開口23から選択的にインクを噴射させる場合等、個別インク室27を流通するインクの流速が変化しても、分岐する前段階で予めインクを一定に加熱することにより、分岐後、各個別インク室27でのインクの温度のバラツキが生じ難く、安定してインクを噴射することができる。
【0037】
そして、共通インク室26にて一定温度に加熱され、粘度を一定に調整されたインクは、各個別インク室27に供給された後、個別インク室27に設けられた圧電素子28の駆動によりノズル開口23から噴射され、記録紙に付着することとなる。
【0038】
したがって、上述した本実施形態によれば、インクを噴射するノズル開口23が形成されたノズル基板22と、インクを加熱するヒーター30とを備える記録ヘッド4であって、ノズル基板22と接触して設けられ、ノズル基板22を保護する所定の機能を有するヘッドカバー40を有し、ヒーター30は、ヘッドカバー40及びノズル基板22を介してインクを加熱するという構成を採用することによって、ノズル基板22と接触して外的要因から保護するヘッドカバー40を熱伝導媒体としても活用し、ヒーター30により発生する熱を、インクと直接的に接するノズル基板22に伝熱させることでインクを効率よく加熱することができる。
したがって、本実施形態では、ノズル基板22を保護でき、且つ、インクを効率よく加熱して噴射できる記録ヘッド4及びそれを備えたインクジェットプリンター1を提供することができる。
【0039】
また、本実施形態においては、ノズル開口23が複数設けられ、ノズル開口23毎に形成された個別インク室27のそれぞれが接続される共通インク室26を有し、ノズル基板22は、共通インク室26の一面を形成しているという構成を採用することによって、各ノズル開口23のそれぞれに分岐する前段階のインクを、ノズル基板22を介して一括的に加熱することが容易にできる。したがって、共通インク室26から各個別インク室27にインクが分岐した後の温度のバラツキが生じ難く、インクの粘度も一定に調節することができ、インクの噴射特性も向上させることができる。
【0040】
また、本実施形態においては、ヘッドカバー40を覆う断熱板50を有するという構成を採用することによって、ヘッドカバー40からの熱損失を低減させることができ、加熱の効率化を図ることができる。
【0041】
また、本実施形態においては、ヘッドカバー40は、ノズル基板22を電気的に接地させるという構成を採用することによって、伝熱の機能と共に、ノズル基板の電位を接地電位にすることができ、駆動IC等の電子部品の静電破壊等の懸念を解消することができる。
【0042】
また、本実施形態においては、記録ヘッド4を備えるインクジェットプリンター1を採用することによって、ノズル基板22を保護でき、且つ、インクを効率よく加熱して噴射できるインクジェットプリンター1が得られる。
【0043】
(第2実施形態)
続いて、本発明の第2実施形態について図5〜図8を参照して説明する。なお、以下の説明では、上記第1実施形態と構成を同じくする部材には同一の符号を付し、その説明は割愛する。
図5は、第2実施形態に係る記録ヘッド4を示す斜視図である。図6は、記録ヘッド4の分解図である。図7は、ヒーター30とヘッドカバー40と断熱板50との組合せの状態を示す斜視図である。図8は、ノズル列24と直交する方向の記録ヘッド4の部分断面図である。
【0044】
第2実施形態と第1実施形態との主な相違点は、(1)ケース部材21とヘッドカバー40との間に挟持されたヒーター(発熱部)30をシール部材60で液密にシールした点(図8参照)と、(2)ヘッドカバー40のケース部材21から離間する方向の開きを当接して係止する係止爪(係止部材)51を設けた点(図5〜図7参照)である。
【0045】
図8に示すように、ヒーター30の詳細な内部構成は、給電を受けて発熱する電熱層35と、電熱層35を挟み込む一対の絶縁層36とを有する。本実施形態の電熱層35は、例えばステンレス鋼(SUS)から構成され、絶縁層36は、例えば、ポリイミド等の樹脂材からなる。このヒーター30は、ノズル基板22を支持するケース部材21とヘッドカバー40との間に挟持されている。
【0046】
先ず、相違点(1)の構成及び作用について説明する。
第1実施形態では、ノズル基板22がワイプ部材44によりワイピングされた際に、ノズル基板22とヘッドカバー40との接触部位から毛細管現象によりインクが染みあがり、ケース部材21とヘッドカバー40との間に挟持されたヒーター30まで到達して温度上昇が阻害される場合がある。具体的には、絶縁層36の貼り合わせた端面からインクがヒーター30内部に浸入してショートを引き起こす、あるいは、ヒーター30とケース部材21の間に温度センサを設けた構成において、インクがヒーター30とケース部材21の間に浸入してヒーター30の浮きを生じさせ、局所的に温度が高くなる等の現象により測定温度が変化して(ズレて)温度制御を困難にする、等の不具合が生じる場合がある。
【0047】
第2実施形態では、上記不具合を解消すべく、ケース部材21とヘッドカバー40との間を液密にしてヒーター30をシールするシール部材60を設けている。このシール部材60は、図8に示すように、ケース部材21とヘッドカバー40との間であって、絶縁層36の貼り合わせた端面に対応する位置に設けられる。本実施形態のシール部材60は、耐液性を有するシリコン接着剤を上記位置にモールドしたものである。なお、シール部材60には、ゴムパッキンのような弾性を有し液密にシールできる部材を採用してもよい。
【0048】
この構成によれば、ノズル基板22がワイプ部材44によりワイピングされた際に、ノズル基板22とヘッドカバー40との接触部位から毛細管現象により染みあがったインクは、シール部材60が液密にヒーター30をシールしているため、ヒーター30に到達する前で(上流側において)その侵入が止まることとなる(図8に示す矢印参照)。このため、ヒーター30による加熱が阻害されることなく、インクの円滑な温度上昇が可能となる。なお、これと比べて軽度であるがヘッドカバー40の外表面を伝って浸入するインクは、ヒーター30に至る前のヘッドカバー40と断熱板50との間に同様にシール部材60´を設けることで対策が可能である。
【0049】
次に、相違点(2)の構成及び作用について説明する。
上述したように、ヘッドカバー40は、ステンレス鋼等の金属材から構成されているためバネ性を有し、ある程度の変形に耐え得る。しかし、ケース部材21とヘッドカバー40との間でヒーター30を挟持するように組み立てた場合、ヘッドカバー40がヒーター30によりケース部材21から離間する方向に広げられてしまう不具合がある。その結果、ケース部材21とヘッドカバー40との間でヒーター30を密に挟持できずに熱伝導性が低下する。また、図6に示すように、第2実施形態では、ヘッドカバー40のノズル基板22に対する位置決め手段として、フランジ部20aにピン20a1を設け、ヘッドカバー40にピン20a1が挿入されるピン挿入孔42を設けているが、ピン20a1がピン挿入孔42にスムーズに挿入できない、等の不具合が生じる場合がある。
【0050】
第2実施形態では、上記不具合を解消すべく、ケース部材21から離間する方向のヘッドカバー40の開きを当接して係止する係止爪51を断熱板50に設けている。この係止爪51は、ヒーター30の端部31、32を避けた位置に対となって設けられ、且つ、ケース部材21及びヘッドカバー40をその短辺方向で挟む位置にそれぞれ設けられる。この係止爪51は、フランジ部20aと当接するヘッドカバー40の端部を引掛けることで、ヘッドカバー40の広がりを抑制する。
【0051】
この構成によれば、ヘッドカバー40の広がりを防止できるため、ヘッドカバー40とヒーター30とが密に接触でき、伝熱効率が向上する。また、図7に示すように、予め、断熱板50とヘッドカバー40とを係止爪51を介して組合せて位置決めした状態で、ヘッド本体20に取り付けることができるため、ピン20a1がピン挿入孔42にスムーズに挿入され組立を容易に行える。また、本実施形態では、断熱板50にもピン20a1が挿入するピン挿入孔52が形成されているため、断熱板50の位置決めもなされる。
なお、本実施形態では、係止爪51を断熱板50に一体成形している。この構成によれば、一つの部材でヘッドカバー40を保温でき、且つ、ヘッドカバー40の広がりを防止できる。このため、部品点数の増加を抑制できる。なお、この断熱板50は、ヘッドカバー40より硬質の材料からなることが、ヘッドカバー40の広がりを防止する観点から好ましい。
【0052】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0053】
例えば、上記実施形態において、ヘッドカバー40は、ノズル基板22の噴射面17の縁部を被覆する形状であると説明したが、本発明は、図9に示す別実施形態のヘッドカバー40のような形状であっても良い。別実施形態におけるヘッドカバー40は、ノズル列24が形成されている噴射面17を覆い、且つ、ノズル列24の各列に沿うように形成された開口部41を有する。
このような構成を採用することによって、別実施形態のヘッドカバー40は、本実施形態と比べてノズル基板22の噴射面17の被覆面積を大きくできる。したがって、別実施形態では、ノズル基板22をより衝撃等から保護できると共に、ノズル基板22の全面に偏り無くヒーター30の熱を伝熱することができる。したがって、記録ヘッド4から安定して高粘度インクを噴射することができる効果がある。
【0054】
また、例えば、インクの温度の調節を精度よく行い、所望の粘度でインクを噴射させるため、インクの温度を検出する温度検出装置と、温度検出装置の検出結果に基づいて、ヒーター30の駆動を制御する制御装置とを有するという構成を採用しても良い。この場合、温度検出装置は、ヘッド本体20内の共通インク室26や個別インク室27等のインク収容空間内に配置することが好ましい。
なお、ヘッド本体20内の設置空間の制約を受ける場合は、温度検出装置は、ヒーター30の熱を伝熱するヘッドカバー40の温度に基づいて、インクの温度を検出するという構成であっても良い。この場合、例えば、制御装置に、実験によりヘッドカバー40の温度とインクの温度との対応値を測定し、その測定結果をテーブルデータとして予め記憶させておき、温度検出装置がヘッドカバー40の温度を検出した検出結果とテーブルデータとを対比することでインクの温度を検出するといった手段を用いてもよい。
また、温度検出装置として温度計を搭載する構成を記載したが、熱電対、サーミスタ等の温度検出素子を用いても良い。
【0055】
また、例えば、上記実施形態において、ヒーター30は、電熱性を有する部材であると説明したが、本発明は、上記構成に限定されるものではない。例えば、ヒーター30は、水や空気等の熱媒体を流通させることでインクを加熱させる構成のものを採用しても良い。
【0056】
また、例えば、ヒーター30は、それのみでインクを加熱する用い方に限定されるものではなく、例えば、共通インク室26よりも上流側でインクを加熱する第2加熱装置と協働して、インクを加熱する構成であってもよい。
【0057】
尚、上述の実施形態においては、流体噴射装置がインクジェットプリンター1である場合を例にして説明したが、インクジェットプリンターに限られず、複写機及びファクシミリ等の装置であってもよい。
【0058】
また、上述の実施形態においては、流体噴射装置が、インク等の流体(液状体)を噴射する流体噴射装置である場合を例にして説明したが、本発明の流体噴射装置は、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に適用することができる。流体噴射装置が噴射可能な流体は、流体、機能材料の粒子が分散又は溶解されている液状体、ジェル状の流状体、流体として流して噴射できる固体、及び粉体(トナー等)を含む。
【0059】
また、上述の実施形態において、流体噴射装置から噴射される流体(液状体)としては、インクのみならず、特定の用途に対応する流体を適用可能である。流体噴射装置に、その特定の用途に対応する流体を噴射可能な噴射ヘッドを設け、その噴射ヘッドから特定の用途に対応する流体を噴射して、その流体を所定の物体に付着させることによって、所定のデバイスを製造可能である。例えば、本発明の流体噴射装置(液状体噴射装置)は、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、及び面発光ディスプレイ(FED)の製造等に用いられる電極材、色材等の材料を所定の分散媒(溶媒)に分散(溶解)した流体(液状体)を噴射する流体噴射装置に適用可能である。
【0060】
また、流体噴射装置としては、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる流体を噴射する流体噴射装置であってもよい。
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置、トナーなどの粉体を例とする固体を噴射するトナージェット式記録装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1…インクジェットプリンター(流体噴射装置)、4…記録ヘッド(流体噴射ヘッド)、17…噴射面(ノズル面)、21…ケース部材、22…ノズル基板、23…ノズル開口、24…ノズル列、26…共通インク室(流体貯溜室)、27…個別インク室(流体流路)、30…ヒーター(加熱装置、発熱部)、40…ヘッドカバー(保護部材)、41…開口部、50…断熱板(断熱部材)、51…係止爪(係止部材)、60…シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴射するノズル開口が形成されたノズル基板と、前記流体を加熱する加熱装置とを備える流体噴射ヘッドであって、
前記ノズル基板と接触して設けられ、前記ノズル基板を保護する所定の機能を有する保護部材を有し、
前記加熱装置は、前記保護部材及び前記ノズル基板を介して前記流体を加熱すること特徴とする流体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記ノズル開口が複数設けられ、前記ノズル開口毎に形成された流体流路のそれぞれが接続される流体貯溜室を有し、
前記ノズル基板は、前記流体貯溜室の一部を形成していることを特徴とする請求項1に記載の流体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記保護部材を覆う断熱部材を有することを特徴とする請求項1または2に記載の流体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記保護部材は、前記ノズル基板を電気的に接地させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の流体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記ノズル基板には、複数の前記ノズル開口で形成されるノズル列が複数列形成されており、
前記保護部材は、前記ノズル列が形成されているノズル面を覆い、且つ、前記ノズル列の各列に沿うように形成された開口部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の流体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記流体の温度を検出する温度検出装置と、
前記温度検出装置の検出結果に基づいて、前記加熱装置の駆動を制御する制御装置とを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の流体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記温度検出装置は、前記保護部材の温度に基づいて、前記流体の温度を検出することを特徴とする請求項6に記載の流体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記加熱装置の発熱部は、前記ノズル基板を支持するケース部材と前記保護部材との間に挟持されており、
前記ケース部材と前記保護部材との間を液密にして前記発熱部をシールするシール部材を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の流体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記加熱装置の発熱部は、前記ノズル基板を支持するケース部材と前記保護部材との間に挟持されており、
前記ケース部材から離間する方向の前記保護部材の開きを当接して係止する係止部材を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の流体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記係止部材は、前記保護部材を覆う断熱部材に設けられていることを特徴とする請求項9に記載の流体噴射ヘッド。
【請求項11】
流体噴射ヘッドから所定の対象物に向けて流体を噴射する流体噴射装置であって、
前記流体噴射ヘッドとして、請求項1〜10のいずれか一項に記載の流体噴射ヘッドを備えることを特徴とする流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−262543(P2009−262543A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65715(P2009−65715)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】