説明

流体噴射装置、流体噴射装置を用いた医療器具

【課題】耐久性が高く、噴射能力が高い流体噴射装置を実現する。
【解決手段】流体噴射装置1は、容積が変更可能な流体室80と、流体室80に流体を供給する流体供給ポンプ10と、流体室80に連通し流体を噴射する噴射管90と、貯留液体100を密閉収容する液体貯留室30と、貯留液体100を加熱するマイクロヒーター25と、流体室80と液体貯留室30との間を区画し、貯留液体100の熱膨張/収縮に応じて流体室80の容積を変更する可撓性を有するダイアフラム40と、を有する。マイクロヒーター25で貯留液体100を加熱すると、貯留液体100が膨張してダイアフラム40を変形させて流体室80の容積を急激に縮小し、流体を噴射管90の先端から液滴としてパルス状に噴射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置と、この流体噴射装置を用いた医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電素子を伸張させてダイアフラムを変形し、ダイアフラムの変形により流体室の容積を周期的に縮小して流体室内の内部圧力を高め、流体をパルス状に噴射する流体噴射装置というものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、液体貯留室内に充填した液体を加熱及び冷却を交互に行うサーモモジュールと、サーモモジュールの加熱/冷却によって液体の膨張または収縮に対応して直線方向に往復運動する駆動部と、を有し、駆動部の往復動作によって吸排液する送液ポンプというものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−82202号公報
【特許文献2】特開2002−371955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、圧電素子によりダイアフラムを変形させて流体室の容積を縮小し、流体室内の圧力を高めて流体を噴射させる構造である。このような構造では、ダイアフラムを固定する周縁部と、圧電素子が押圧する部分との間に変形可能部をもたせることが必要である。ここで、流体室の圧力を高めていくと、この圧力によって変形可能部が圧電素子側に変形することが予測される。このような変形があると、流体室内の圧力がこの変形分だけ低下し、流体を強く噴射させることができなくなることが考えられる。
【0006】
また、上述のような変形可能部の変形に伴う圧力低下を抑制するためには、変形可能部の寸法を小さくすることで可能であるが、変形可能部の寸法を小さくすると、ダイアフラムが変形する際に圧電素子により押圧される部分と、ダイアフラムを固定する周縁部との間に応力集中が発生し、長時間にわたってダイアフラムを繰り返し変形させると、ダイアフラムが破損してしまうことが考えられる。
【0007】
特許文献2では、加熱/冷却手段としてペルチェ素子を用いて液体の膨張と収縮を行っている。従って、一つの素子で加熱と冷却を行うことから液体を低温状態から高温状態に、高温状態から低温状態に短時間で切り換えることは困難であり、例えば、短周期で流体をパルス状に噴射させる流体噴射装置には適合しにくいという課題を有する。冷却のために冷却手段を専用に用意することも考えられるが、流体噴射装置を小型化することが困難となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]本適用例に係る流体噴射装置は、容積が変更可能な流体室と、前記流体室に流体を供給する流体供給部と、前記流体室に連通し流体を噴射する噴射管と、貯留液体を密閉収容する液体貯留室と、前記貯留液体を加熱する加熱手段と、前記流体室と前記液体貯留室との間を区画し、前記貯留液体の熱膨張/収縮に応じて前記流体室の容積を変更する可撓性を有する隔壁と、を有することを特徴とする。
【0010】
本適用例によれば、流体室の容積を変更するのに液体貯留室内の貯留液体の膨張と収縮とを利用して行う。液体貯留室内の貯留液体は加熱手段による加熱によって膨張し内部圧力が上昇する。内部圧力はパスカルの原理で隔壁を含む液体貯留室を画成する壁を同じ圧力で押圧する。従って、可撓性を有する隔壁には、等分布圧力(等分布荷重に置き換えられる)が加えられて流体室の容積を縮小する方向に隔壁が変形する。よって、隔壁に発生する応力は等分布応力となるので局所的な応力集中が発生せず、長時間にわたって隔壁を繰り返し変形させても応力集中に起因する破損がなく、耐久性を向上させることができる。
【0011】
また、流体室には流体供給部から常温もしくは低温の流体が供給される。流体室と貯留液体室とは、隔壁によって区画されていることから流体供給部から流体室に供給される流体によって、液体貯留室内の貯留液体を、隔壁を介して冷却することが可能であり、冷却手段を専用に備える必要がない。従って、小型の流体噴射装置を実現できるという効果もある。
【0012】
[適用例2]上記適用例に係る流体噴射装置は、前記隔壁がダイアフラムであることが好ましい。
【0013】
隔壁としてダイアフラムを用いる場合、薄いシート状のダイアフラムは、液体貯留室内の貯留液体の体積変化に追従しやすいことから、貯留液体の膨張/収縮による流体室の容積の変更を効率よく行うことができる。
【0014】
また、前述したように、可撓性を有するダイアフラムには、等分布荷重が加えられ、発生する応力は等分布応力となるので局所的な応力集中が発生せず、耐久性をより向上させることができる。
【0015】
[適用例3]上記適用例に係る流体噴射装置は、前記ダイアフラムの前記液体貯留室側の略中央に補強部材が固着されていることが望ましい。
【0016】
ダイアフラムに補強部材を設けることにより、ダイアフラムの変形量は補強部材が存在する領域ではほぼ一定となる。従って、補強部材が固着された領域では、流体室内の流路の断面積がほぼ一定となるため渦流や圧力損失等が発生しにくく、流体の流動が阻害されにくくなる。
【0017】
このような構造では、特許文献1にように、ダイアフラムを固定する周縁部と、補強部材が存在する部分との間に変形可能部をもたせることが必要であり、流体室の容積をダイアフラムによって縮小して流体室内の圧力を高めていくと、この圧力によって変形可能部が液体貯留室側に変形することが予測される。このような変形があると、流体室内の圧力がこの変形分だけ低下し、流体を強く噴射させることができなくなることが考えられる。しかし、パスカルの原理によって、液体貯留室内のすべての領域で同じ大きさの圧力が発生するため、ダイアフラムの変形可能部の液体貯留室側への変形が抑制される。よって、このような変形に起因する流体室内の圧力低下がなく、流体を強く噴射させることができる。
【0018】
[適用例4]上記適用例に係る流体噴射装置は、前記流体室が前記隔壁からなる管構造を有していることが好ましい。
【0019】
流体室の容積を変更して流体を噴射させる構造では、流体室内に気泡が存在すると容積を縮小した際に気泡が収縮してしまい流体室内を所定の圧力にすることができない。流体の流路に突起部や隅部などの流体流動を変化させる部分があると、その部分に気泡が発生しやすいことが知られている。本適用例では、流体室が管構造であることから、流体室と噴射管とを直線的に連通させることができ、流体室及び噴射管の流路内で気泡の発生を抑制することができる。
また、平坦部分を持たないような管構造であっても、隔壁に発生する応力は等分布応力となるので局所的な応力集中が発生せず、長時間にわたって隔壁を繰り返し変形させても応力集中に起因する破損がなく、耐久性を向上させることができる。
【0020】
[適用例5]本適用例に係る医療器具は、容積が変更可能な流体室と、前記流体室に流体を供給する流体供給部と、前記流体室に連通し流体を噴射する噴射管と、貯留液体を密閉収容する液体貯留室と、前記貯留液体を加熱する加熱手段と、前記流体室と前記液体貯留室との間を区画し、前記貯留液体の熱膨張/収縮に応じて前記流体室の容積を変更する可撓性を有する隔壁と、を有する流体噴射装置を用いたことを特徴とする。
【0021】
上記各適用例に記載の流体噴射装置は、流体を微小液滴にしてパルス状に高速で噴射することが可能である。このような流体噴射は、生体組織の切除・切開をする場合に、血管等の細管組織を温存できるなど、手術具として、また細管組織を損傷しない洗浄具等の医療器具とてして有効である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態1に係る手術具としての流体噴射装置を例示する構成説明図。
【図2】第1実施例に係る圧力発生部及び噴射管を示す断面図。
【図3】第2実施例に係る圧力発生部及び噴射管を示す断面図。
【図4】ダイアフラムの変形状態を示す部分断面図であり、(a)は第1実施例の構造、(b)は第2実施例の構造。
【図5】実施形態2に係る圧力発生部及び噴射管を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明で参照する図は、図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺は実際のものとは異なる模式図である。
(実施形態1)
【0024】
図1は、実施形態1に係る手術具としての流体噴射装置を例示する構成説明図である。よって、以下で説明する流体は生理食塩水である。図1において、流体噴射装置1は、流体を収容する流体供給容器2と、流体供給手段としての流体供給ポンプ10と、流体供給ポンプ10から供給される流体を高圧流に変換させる圧力発生部20と、圧力発生部20に連通する噴射管90と、から構成されている。圧力発生部20と流体供給ポンプ10と流体供給容器2とは流体供給チューブ4によって接続されている。
【0025】
圧力発生部20は、容積が変更可能な流体室80と、貯留液体100を密閉収容する液体貯留室30と、流体室80と液体貯留室30とを区画する隔壁としてのダイアフラム40と、液体貯留室30の内部に配設される加熱手段としてのマイクロヒーター25と、を有している。なお、圧力発生部20の詳細構造は、図2を参照して説明する。
【0026】
なお、液体貯留室30内部に収容される貯留液体100は、熱膨張率が大きく、温度変化に対する膨張率がほぼ一定の膨張収縮液が用いられることが望ましい。
【0027】
噴射管90は、圧力発生部20の内部に形成される流体室80に連通し、先端部には流路が縮小された噴射開口部96を有するノズル95が挿着されている。
(第1実施例)
【0028】
次に、図2を参照して圧力発生部20の第1実施例について説明する。
図2は、第1実施例に係る圧力発生部及び噴射管を示す断面図である。圧力発生部20は、流体供給ポンプ10から流体供給チューブ4を介して流体室80に流体を供給する入口流路81と、流体室80の容積を変化させるダイアフラム40と、流体室80に連通する出口流路82と、貯留液体100を収容する液体貯留室30と、液体貯留室30内に配設される加熱手段としてのマイクロヒーター25と、から構成されている。
【0029】
ダイアフラム40は、シート状円盤の金属薄板からなり、下ケース50と上ケース70によって密着固定されている。下ケース50のダイアフラム40と対向する開口部は底板60によって密閉されている。ダイアフラム40と下ケース50と底板60によって形成される空間が液体貯留室30である。マイクロヒーター25は、底板60の内側に配設されており、図示しないリード線で外部のコントローラーと接続されている。
【0030】
マイクロヒーター25は、図示は省略するが、金属シースと発熱体との間を高純度の無機絶縁物で充填した発熱部と、防湿処理をしたスリーブとリード線とからなり、早いレスポンスで熱を供給、遮断することができるものを選択する。マイクロヒーター25は、底板60を貫通して、発熱部が液体貯留室30内に突出するように配設される。従って、底板60、下ケース50及び上ケース70は、熱伝導率が低い材料を選択することが望ましい。
【0031】
流体室80には入口流路81が形成され、入口流路81は流体供給チューブ4が接続されている。また、流体室80の略中央部には出口流路82が開口され、出口流路82には接続流路91を有する噴射管90が接続されている。噴射管90の先端には流路が縮小された噴射開口部96を有するノズル95が挿着されている。
上ケース70と下ケース50とは、それぞれ対向する面において接合され一体化している(図2ではダイアフラム40を介在させている)。
【0032】
次に、図1、図2を参照して流体の流動について説明する。流体供給容器2に収容された流体は、流体供給ポンプ10によって吸引され、一定の圧力で流体供給チューブ4及び入口流路81を介して流体室80に供給される。ここで、マイクロヒーター25に電力が供給されるとマイクロヒーター25が発熱して貯留液体100を加熱する。貯留液体100は加えられた熱による温度上昇に伴い膨張する。
【0033】
貯留液体100の膨張によってダイアフラム40が流体室80側に変形し、流体室80の容積を急激に縮小する。流体室80内の圧力は、急速に上昇して数十気圧に達する。このとき、入口流路81から流体が流体室80へ流入する流量の減少量よりも、出口流路82から吐出される流体の増加量の方が大きいため接続流路91内に流体が高速で吐出される。この吐出の際の圧力変動が噴射管90内を伝播して、先端の噴射開口部96からパルス化された微小液滴が高速で噴射される。
【0034】
マイクロヒーター25への電力供給を遮断するとマイクロヒーター25は発熱を停止する。この際、流体室80には流体供給ポンプ10から流体が供給される。供給される流体は常温または冷却されており、ダイアフラム40を介して貯留液体100を冷却する。すると、貯留液体100は体積が縮小し、ダイアフラム40は自身の弾性力で初期状態(変形しない状態)に復元し、流体室80の容積を大きくする。このとき、流体室80は瞬間的に真空に近い低圧状態となるため、入口流路81から流体が流入する。よって、ダイアフラム40は、冷却媒体となることから熱伝導率が高いものを選択することがより好ましい。
【0035】
従って、マイクロヒーター25への電力供給と遮断を数十Hz周期で繰り返すことにより、貯留液体100の熱膨張/収縮によって液滴を数十Hzのパルス流として噴射開口部96から噴射する。なお、本実施形態では、貯留液体100を熱膨張させていたが、マイクロヒーター25により貯留液体100を一時的に気化させて、熱膨張させても構わない。また、貯留液体100を加熱したことにより、貯留液体100に溶存する空気が発生し、そのまま液体貯留室30内に残る場合がある。その場合、空気の圧縮の分だけ内部圧力上昇が妨げられるので、貯留液体100は、できる限り空気が溶存していないものを用いることが好ましい。
【0036】
なお、入口流路側の合成イナータンスを出口流路側の合成イナータンスよりもはるかに大きく設定しておけば、流体室80の容積が縮小されて高圧状態になっても、流体の入口流路側への逆流はなく、出口流路側に流体は流動する。よって、入口流路側及び出口流路側に逆止弁を設けなくてもよい。
(圧力発生部の第2実施例)
【0037】
次に、圧力発生部の第2実施例について図面を参照して説明する。本実施例は、ダイアフラムに補強部材を設けていることに特徴を有する。よって、前述した第1実施例(図2、参照)との相違箇所を中心に説明する。なお、共通部分には第1実施例(図2、参照)と同じ符号を附している。
図3は、第2実施例に係る圧力発生部及び噴射管を示す断面図である。ダイアフラム40には、補強部材45が固着されている。
【0038】
補強部材45は、ダイアフラム40の外周固定部から内側の平面積よりも小さい平面積を有する板状部材であって、ダイアフラム40の剛性よりも大きい剛性を有している。また、補強部材45は、ダイアフラム40の液体貯留室30側の略中央に固着されている。
【0039】
従って、第1実施例、第2実施例によれば、流体室80の容積を変更するのに液体貯留室30内の貯留液体100の熱膨張/収縮を利用して行う。貯留液体100はマイクロヒーター25による加熱によって膨張し液体貯留室30内の内部圧力を上昇させる。内部圧力はパスカルの原理でダイアフラム40を含む液体貯留室30を画成する壁を同じ圧力で押圧する。従って、可撓性を有するダイアフラム40には、等分布圧力(等分布荷重に置き換えられる)が加えられて流体室80の容積を縮小する方向に変形する。よって、ダイアフラム40に発生する応力は等分布応力となるので局所的な応力集中が発生せず、長時間にわたってダイアフラム40を繰り返し変形させても応力集中に起因する破損がなく、耐久性を向上させることができる。
【0040】
また、流体室80には流体供給ポンプ10から常温もしくは低温の流体が供給される。流体室80と液体貯留室30とは、ダイアフラム40によって区画されていることから流体供給ポンプ10から流体室80に供給される流体によって、貯留液体100を隔壁を介して冷却することが可能であり、冷却手段を専用に備える必要がない。従って、小型の流体噴射装置を実現できるという効果もある。
【0041】
隔壁としてダイアフラム40を用いる場合、薄いシート状のダイアフラム40は、貯留液体100の熱膨張/収縮に伴う体積変化に追従しやすいことから、貯留液体100の膨張及び収縮による流体室80の容積の変更を効率よく行うことができる。
【0042】
また、ダイアフラム単体構造の場合(図2、参照)、可撓性を有するダイアフラム40には、等分布荷重が加えられ、発生する応力は等分布応力となるので局所的な応力集中が発生せず、耐久性をより向上させることができる。
【0043】
なお、第1実施例のように隔壁としてダイアフラム単体で用いる場合と、第2実施例のように補強部材を付加して用いる場合とがある。そこで、ダイアフラム単体の場合と、補強部材を用いる場合のそれぞれの特徴について図面を参照して説明する。
図4は、ダイアフラムの変形状態を示す部分断面図であり、(a)は第1実施例の構造、(b)は第2実施例の構造を模式的に表している。なお、図示する破線矢印は、流体の流れを表している。
【0044】
まず、ダイアフラム単体の変形状態について説明する。可撓性を有するダイアフラム40には、パスカルの原理で全体に同じ大きさの圧力P1が加えられる。この際、流体室80の内部全体に同じ大きさの圧力P2が発生する。よって、ダイアフラム40は図示するように中央部が凸になるように滑らかに変形し、局所的な応力集中が発生せず、耐久性をより向上させることができる。
【0045】
次に、補強部材45を用いた第2実施例の変形状態について説明する。補強部材45は、ダイアフラム40よりも剛性を大きくしているので補強部材45が固着された領域ではダイアフラム40は変形せず、上ケース70のダイアフラム40との対向面にほぼ平行に変形する。
【0046】
従って、ダイアフラム40を固定する周縁部と、補強部材45が存在する部分との間に変形可能部41をもたせることが必要であり、流体室80の容積をダイアフラム40によって縮小して流体室80内の圧力を高めていくと、この圧力によって変形可能部41が液体貯留室30側に変形することが予測される。このような変形があると、流体室80内の圧力P2がこの変形分だけ低下し、流体を強く噴射させることができなくなることが考えられる。しかし、パスカルの原理によって、液体貯留室30内のすべての領域で圧力P1が発生しているので、ダイアフラム40の変形可能部41が液体貯留室30側に変形しにくい。よって、このようなダイアフラム40の変形に起因する流体室80内の圧力低下がなく、流体を強く噴射させることができる。
【0047】
また、ダイアフラム40に補強部材45を設けることにより、ダイアフラム40の変形量は補強部材が存在する領域ではほぼ一定となる。従って、この領域における流体室80内の流路の断面積がほぼ一定となるため渦流や圧力損失等が発生しにくく、流体の流動が阻害されにくくなるという効果がある。
(実施形態2)
【0048】
次に、実施形態2に係る流体噴射装置について図面を参照して説明する。前述した実施形態1が隔壁としてダイアフラムを用いていることに対して、実施形態2は、流体室が管構造を有する隔壁から構成されていることを特徴としている。なお、実施形態1と同じ機能要素には同じ符号を附している。
図5は、実施形態2に係る圧力発生部を示す断面図である。圧力発生部20は、接続流路91と管構造の流体室85とが直線状に連通する噴射管90と、流体室85の外周を取り囲む液体貯留室31とから構成されている。
【0049】
噴射管90は、一方の端部にノズル95を有し、他方の端部には流体供給チューブ4が接続されている。そして、長さ方向の中間部に薄肉部が形成されている。この薄肉部が管状の可撓性を有する隔壁92であって、隔壁92によって囲まれた空間が流体室85である。隔壁92は、貯留液体100の膨張によって内側に変形可能で、貯留液体100の収縮によって形状が復元する程度の剛性を有する。
【0050】
流体室85より先端方向は出口流路を兼ねる接続流路91であって、噴射開口部96が開口されたノズル95が挿着されている。また、流体室85から他方の端部に至る範囲には入口流路81が開設されている。ここで、入口流路側の合成イナータンスは、接続流路側(出口流路側)の合成イナータンスよりも大きくなるよう、長さ、内径が設定されている。
【0051】
流体室85の周囲には液体貯留室31が設けられている。液体貯留室31は、圧力容器部51と蓋体52と隔壁92によって囲まれた空間によって形成されている。圧力容器部51と蓋体52は、噴射管90に圧入されると共に、互いに固着されて液体貯留室31を密閉している。液体貯留室31には貯留液体100が密閉収容されている。
【0052】
また、液体貯留室31には実施形態1と同様なマイクロヒーター25が配設されている。マイクロヒーター25は、圧力容器部51を貫通して、発熱部が液体貯留室31内に突出するように配設される。従って、圧力容器部51、蓋体52は、熱伝導率が低い材料を選択することが望ましい。
【0053】
本実施形態による流体噴射は、貯留液体100の熱膨張/収縮によって行われる点で実施形態1と同じ考え方を踏襲できる。流体は、流体供給ポンプ10によって一定の圧力で流体供給チューブ4及び入口流路81を介して流体室85に供給される。ここで、マイクロヒーター25に電力が供給されるとマイクロヒーター25が発熱して貯留液体100を加熱する。貯留液体100は加えられた熱による温度上昇に伴い膨張する。
【0054】
貯留液体100の膨張によって隔壁92が流体室85側に変形し(二点鎖線で図示)、流体室85の容積を急激に縮小し、圧力波が噴射管90内を伝播して、先端の噴射開口部96からパルス化された液体が高速で噴射される。
【0055】
マイクロヒーター25への電力供給を遮断するとマイクロヒーター25は発熱を停止する。この際、流体室85には流体供給ポンプ10から流体が供給される。供給される流体は常温または冷却されており、隔壁92を介して貯留液体100を冷却する。すると、貯留液体100は体積が縮小し、隔壁92は自身の弾性力で初期形状に復元し、流体室85の容積を大きくする。このとき、流体室85は瞬間的に真空に近い低圧状態となるため、入口流路81から流体が流入する。
【0056】
流体室の容積を変更して流体を噴射させる構造では、流体室内に気泡が存在すると容積を縮小した際に気泡が収縮して流体室内を所定の圧力にすることができない。流体の流路に突起部や隅部などの流体流動を変化させる部分があると、その部分に気泡が発生しやすいことが知られている。本実施形態では、流体室85が管構造であって、接続流路91と連続していることから、流体室85及び接続流路91の流路内に継ぎ目や突起部がなく気泡の発生を抑制することができる。
【0057】
また、接続流路91と流体室85と入口流路81とを直線的に構成することができるので、圧力発生部20を小型化することが可能で、この圧力発生部20を手で持って操作する医療器具として使用する場合に好適である。
【0058】
なお、隔壁92の構成は、図5に示すように、噴射管90と一体に形成する構造のほかに、液体貯留室31と一体で形成してもよい。具体的には、管状の隔壁92を圧力容器部51と蓋体52と一体化して液体貯留室31を形成し、噴射管90を隔壁92に挿着し、入口流路81を有する流体供給チューブ接続部を隔壁92の噴射管90とは反対側に挿着することで実現可能である。
(医療器具)
【0059】
なお、医療器具として前述した実施形態1または実施形態2の流体噴射装置を用いることが可能である。流体噴射装置1は、流体を微小液滴にしてパルス状に高速で噴射することができる。このような流体噴射は、生体組織の切除・切開する場合に、血管等の細管組織を温存できるなど手術具として、細管組織を損傷しない洗浄具等の医療器具として有効である。
【符号の説明】
【0060】
1…流体噴射装置、10…流体供給ポンプ、20…圧力発生部、25…マイクロヒーター、30…液体貯留室、40…ダイアフラム、80…流体室、81…入口流路、82…出口流路、90…噴射管、95…ノズル、100…貯留液体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容積が変更可能な流体室と、
前記流体室に流体を供給する流体供給部と、
前記流体室に連通し流体を噴射する噴射管と、
貯留液体を密閉収容する液体貯留室と、
前記貯留液体を加熱する加熱手段と、
前記流体室と前記液体貯留室との間を区画し、前記貯留液体の熱膨張/収縮に応じて前記流体室の容積を変更する可撓性を有する隔壁と、
を有することを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体噴射装置において、
前記隔壁がダイアフラムであることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の流体噴射装置において、
前記ダイアフラムの前記液体貯留室側の略中央に補強部材が固着されていることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項4】
請求項1に記載の流体噴射装置において、
前記流体室が前記隔壁からなる管構造を有していることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項5】
容積が変更可能な流体室と、前記流体室に流体を供給する流体供給部と、前記流体室に連通し流体を噴射する噴射管と、貯留液体を密閉収容する液体貯留室と、前記貯留液体を加熱する加熱手段と、前記流体室と前記液体貯留室との間を区画し、前記貯留液体の熱膨張/収縮に応じて前記流体室の容積を変更する可撓性を有する隔壁と、を有する流体噴射装置を用いたことを特徴とする医療器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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