説明

流体噴射装置

【課題】噴射ヘッドを上下動させることなくキャッピングを行う。
【解決手段】噴射ヘッドの下方に回転部材を設け、この部材の外周面に、プラテンとキャップ部材とを設けておく。流体噴射時はプラテンを噴射ヘッドに向けておく。噴射しない間は、キャップ部材を噴射ヘッドに向けた後、キャップ部材を移動させ、噴射ヘッドにキャップ部材を当接させてキャッピングを行う。こうすれば、噴射ヘッドを移動させることなく、噴射ヘッドをキャッピングすることができる。従って、噴射ヘッドが長尺になっても、大掛かりな機構を用いて噴射ヘッドを上下動させる必要がないので、流体噴射装置の構造を簡素なものとすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被噴射媒体上に流体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるインクジェットプリンターでは、印刷媒体上にインクを噴射することで画像を印刷する。インクを噴射する位置や噴射量は極めて精度良く制御することが可能であるため、高画質な画像を印刷することができる。また、このような技術を利用して、各種の機能材料を含んだ流体を基板上に噴射することにより、電極やセンサーなどの各種機能部品を形成することも提案されている。
【0003】
こうした流体噴射装置では、被噴射媒体(印刷媒体)上で噴射ヘッドを往復動(主走査)させながら、被噴射媒体(印刷媒体)の位置を少しずつ移動(副走査)させることによって流体を噴射することが一般的であるが、その一方で、噴射ヘッドは移動させずに被噴射媒体(印刷媒体)だけ少しずつ移動(副走査)させて流体を噴射する方法も提案されている(たとえば、特許文献1、特許文献2)。尚、本明細書中では、前者の噴射方式を「シリアル噴射方式」と呼び、後者の噴射方式を「ライン噴射方式」と呼ぶことにする。
【0004】
何れの噴射方式を採用した場合でも、流体の噴射中は、被噴射媒体が噴射ヘッドから遠ざからないように被噴射媒体を背面側から支えておくことが望ましく、流体を噴射していない間は、流体が変質しないように噴射ヘッドにキャップを押し当てて、噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルを封止しておくことが望ましい。噴射ヘッドを主走査させるシリアル噴射方式では、被噴射媒体が搬送される領域には被噴射媒体を支えるための部材(プラテン)を設け、被噴射媒体が搬送される領域外には噴射ヘッドに押し付けられるキャップ部材を設けることで、これら2つの要請を比較的容易に実現することができる。一方、噴射ヘッドを固定したまま流体を噴射するライン噴射方式では、噴射ヘッドと向かい合わせの位置に回転体を設け、この回転体の外表面にプラテンとキャップ部材とを設ける技術が提案されている(特許文献3)。この提案の技術によれば、流体を噴射する際にはプラテンが噴射ヘッド側に向くように回転体を回転させ、流体を噴射しない間はキャップ部材が噴射ヘッドの側に向くように回転体を回転させることで、噴射ヘッドを主走査させなくても、上述した2つの要請を実現することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−071495号公報
【特許文献2】特開2002−103597号公報
【特許文献3】特許第3752692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、提案されている技術では、キャップ部材を噴射ヘッドに押し付けるためには、噴射ヘッドを降下させなければならないという問題がある。すなわち、ライン噴射方式では、被噴射媒体の幅よりも長い噴射ヘッドが用いられ、このような長尺の噴射ヘッドを降下させることはそれほど容易なことではない。加えて、被噴射媒体に流体を噴射するために噴射ヘッドを元の位置まで上昇させる際にも、噴射ヘッドが長尺になると、被噴射媒体までの距離が、噴射ヘッドの両端で違いが出ないように噴射ヘッドを上昇させることも容易ではない。その結果、噴射ヘッドを降下および上昇させるための機構が大掛かりになってしまう。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、長尺の噴射ヘッドを上下動させることなく、キャップ部材を噴射ヘッドの押し当てることが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の流体噴射装置は次の構成を採用した。すなわち、
流体を噴射する噴射ノズルが設けられた噴射ヘッドを用いて、被噴射媒体上に流体を噴射する流体噴射装置であって、
前記被噴射媒体を搬送することにより、該被噴射媒体の前記噴射ヘッドに対する相対位置を変更する媒体搬送手段と、
前記被噴射媒体の搬送経路を挟んで前記噴射ヘッドと向き合う位置に設けられ、該被噴射媒体の搬送方向と交差する方向を軸として回転可能に構成されるとともに、搬送される該被噴射媒体を背面側から支える媒体支持部材と、前記噴射ヘッドに当接することで前記噴射ノズルの周囲に閉空間を形成するキャップ部材とが、互いに回転方向に位置を異ならせて形成された回転部材と、
前記媒体支持部材または前記キャップ部材が前記噴射ヘッドと向き合う位置まで、前記回転部材を回転させる回転部材回転手段と、
前記キャップ部材が前記噴射ヘッドと向き合った状態で、該キャップ部材を該回転部材に対して摺動させることにより、該噴射ヘッドに対する該キャップ部材の当接あるいは離間を行うキャップ部材駆動手段と
を備えることを要旨とする。
【0009】
このような本発明の流体噴射装置においては、媒体支持部材が噴射ヘッドに向き合う位置まで回転部材を回転させることで、被噴射媒体の背面側を媒体支持部材で支えながら、被噴射媒体上に流体を噴射することができる。また、流体の噴射が終了したら、回転部材を回転させて、キャップ部材を噴射ヘッドに向き合わせた後、キャップ部材を摺動させて噴射ヘッドに当接させることにより、噴射ノズルの周囲に閉空間を形成することができる。
【0010】
このようにすれば、噴射ヘッドを移動させることなく、被噴射媒体に流体を噴射するとともに、流体を噴射しない間は噴射ヘッドをキャッピングすることができる。従って、噴射ヘッドが長尺になっても、大掛かりな機構を用いて噴射ヘッドを上下動させる必要がないので、流体噴射装置の構造を簡素なものとすることが可能となる。
【0011】
上述した本発明の流体噴射装置においては、回転部材の内側に、回転部材と同軸にカム軸を設けておき、そのカム軸を回転させることによって、キャップ部材を摺動させることとしてもよい。
【0012】
こうすれば、キャップ部材を摺動させる機構を簡素な構造とすることができる。また、カム軸を用いれば、高い信頼性を保持したまま、精度良くキャップ部材を摺動させることが可能となる。
【0013】
また、回転部材と同軸にカム軸を組み込んだ本発明の流体噴射装置においては、回転部材およびカム軸を次のようにして駆動しても良い。先ず、順回転あるいは逆回転の何れの方向にも回転して駆動力を発生可能な駆動力発生手段を設けておく。そして、駆動力発生手段を順回転させた場合には、回転部材回転手段を介して回転部材に駆動力を伝達し、逆回転させた場合には、キャップ部材駆動手段を介してカム軸に駆動力を伝達するようにしてもよい。
【0014】
こうすれば、1つの駆動力発生手段を備えるだけで、回転部材あるいはカム軸を選択的に回転させることができる。その結果、回転部材とカム軸とが同軸に組み込まれていることとも相俟って、流体噴射装置をコンパクトに構成することが可能となる。
【0015】
また、カム軸を用いてキャップ部材を摺動させる本発明の流体噴射装置においては、次のようにしてもよい。先ず、キャップ部材を保持するキャップ保持部材を、回転部材に対して摺動可能に設ける。また、キャップ部材は、キャップ保持部材に対して摺動可能な状態で、バネ部材を介してキャップ保持部材に取り付けておく。そして、カム軸によってキャップ保持部材を摺動させ、その力をバネ部材によってキャップ部材に伝えることによって、キャップ部材を摺動させるようにしてもよい。
【0016】
こうすれば、たとえキャップ部材が長尺になって、カム軸から受ける力が場所によって不均一になった場合でも、キャップ部材が噴射ヘッドに当接する力は、ほぼ均一に保っておくことが可能となる。
【0017】
また、上述した本発明の流体噴射装置においては、回転部材の回転軸から見て噴射ヘッドと異なる方向に、キャップ部材が当接されることでキャップ部材との間に閉空間を形成する蓋部材を設けることとしてもよい。
【0018】
こうすれば、流体を噴射していない間も、キャップ部材を蓋部材に当接させておくことで、キャップ部材内に付着した流体が変質することを抑制することが可能となる。
【0019】
また、上述した本発明の流体噴射装置においては、次のようにしても良い。先ず、洗浄液が溜められた洗浄液溜まりを、回転部材の下方に設けておく。そして、キャップ部材が洗浄液溜まりと向き合う位置まで回転部材を回転させた後、キャップ部材を突き出させて、洗浄液溜まり内の洗浄液にキャップ部材を浸沈させてもよい。
【0020】
こうすれば、たとえ、キャップ部材内に付着した流体が変質してしまった場合でも、洗浄液で洗い流すことで、キャップ部材内に付着した流体を除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】印刷媒体上にインクを噴射して画像を印刷するラインプリンターを例に用いて本実施例の液体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。
【図2】ラインプリンターに搭載された回転ユニットの外観形状を示した斜視図である。
【図3】回転ユニットのケース部分の構造を示した断面図である。
【図4】ヘッドユニットの底面に設けられた噴射ヘッドにキャップ部材を押し当てて噴射ヘッドをキャッピングする様子を示した説明図である。
【図5】ケースおよびカム軸を回転させるためのギアユニットの構成を示した説明図である。
【図6】駆動モーターを駆動してカム軸あるいはケースを回転させる様子を示した説明図である。
【図7】噴射ヘッドをキャッピングしていない間はラインプリンターの本体側に設けられた蓋部材にキャップ部材を押し付けている様子を示した説明図である。
【図8】ケースの下方に設けられた洗浄液溜まり内にキャップ部材を浸沈させる様子を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.装置構成:
B.キャッピング機構:
C.変形例:
【0023】
A.装置構成 :
図1は、印刷媒体上にインクを噴射して画像を印刷するラインプリンター1を例に用いて本実施例の液体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。ラインプリンター1は、図示されているように大まかには箱型の外形形状をしており、上面には、モニターパネル2や、ユーザーが操作するための操作パネル3などが設けられている。また、向かって右側面には、印刷された印刷用紙が排出される排紙口6が設けられている。
【0024】
ラインプリンター1の内部には、各種の機能を実行する複数のユニットあるいは部品が搭載されている。先ず、ラインプリンター1のほぼ中央の位置には、印刷媒体にインクを噴射するヘッドユニット30が設けられている。ヘッドユニット30の内部には、インクを収納したインクカートリッジが搭載されており、ヘッドユニット30の底面側(印刷媒体に向かい合う側)には、インクを噴射する噴射ヘッドなどが搭載されている。インクカートリッジ内のインクは噴射ヘッドに供給されて、噴射ヘッドから印刷媒体に向けて噴射される。
【0025】
ヘッドユニット30の下方には、長尺の回転ユニット40が設けられている。回転ユニット40の構造については後述するが、回転ユニット40には、画像の印刷時に印刷媒体を背面側から支えるプラテンや、インクの乾燥を防ぐために噴射ヘッドに押し付けられるキャップ部材などが、略筒状のケースの外周面に設けられている。そして、ケースを回転させて、プラテンを噴射ヘッドの側に向ければ、回転ユニット40をプラテンとして機能させることができ、また、キャップ部材を噴射ヘッドの側に向ければ、回転ユニット40のキャップを噴射ヘッドに押し当てて、噴射ヘッド内のインクの乾燥を防ぐことが可能となっている。この点については、後ほど詳しく説明する。
【0026】
図1の紙面上で、回転ユニット40の左方には、印刷媒体が装填される給紙カセット10が設けられており、給紙カセット10の印刷媒体が、給紙ローラー20によって取り出されて、ヘッドユニット30と回転ユニット40との間の部分に搬送される。そして、回転ユニット40のプラテンに支えられた状態でヘッドユニット30の下面を通過する際に、噴射ヘッドからインクが噴射されて画像が印刷される。図1では、印刷媒体の搬送経路が太い破線で示されている。こうして画像が印刷された印刷媒体は、排紙口6から排出される。
【0027】
図2は、ラインプリンター1に搭載された回転ユニット40の外観形状を示した斜視図である。図示されるように、回転ユニット40は、略筒状のケース42と、ケース42を回転させるための駆動モーター48と、駆動モーター48の駆動力をケース42に伝達するためのギアユニット49などから構成されている。ケース42の外周側面には、ゴム材料で形成されて、噴射ヘッドに押し付けられるキャップ部材44と、キャップ部材44を保持するキャップホルダー44hと、印刷媒体を背面側から支えるプラテン46などが設けられている。
【0028】
図3は、回転ユニット40のケース42部分の構造を示した断面図である。図示されるように、略筒型の形状に構成されたケース42の外周面は、1箇所が開口しており、そこにキャップホルダー44hが摺動可能に嵌め込まれ、更に、キャップホルダー44hに対して摺動可能にキャップ部材44が嵌め込まれている。また、ケース42の内側には、カム軸43が同軸に収納されており、カム軸43が回転すると、キャップホルダー44hがカムによって押し上げられ、その力が、キャップホルダー44hとキャップ部材44とを連結するバネ44sによってキャップ部材44に伝達されて、キャップ部材44が押し出されるようになっている。更に、ケース42の外周面には、2箇所にプラテンが形成されており、これらプラテン46aおよびプラテン46bは、頂面の形状や、ケース42の回転中心から頂面までの距離を異ならせて形成されている。
【0029】
また、図2に示した駆動モーター48を駆動すると、その力がギアユニット49によって伝達されて、ケース42あるいはカム軸43の何れかを選択的に回転させることが可能となっている。この点については後述する。本実施例の回転ユニット40は、このような構成とすることで、長尺のヘッドユニット30を有するラインプリンター1においても、ヘッドユニット30を上下動させることなく、噴射ヘッドのキャッピングを行うことが可能となっている。以下では、この点について詳しく説明する。
【0030】
B.キャッピング機構 :
図4は、ヘッドユニット30の底面に設けられた噴射ヘッドにキャップ部材44を押し当てて、噴射ヘッドをキャッピングする様子を示した説明図である。図4(a)には、印刷終了後の状態が示されている。印刷終了後は、何れかのプラテン(図示した例ではプラテン46b)が、噴射ヘッドに対向する状態となっている。また、このときのキャップ部材44は、カム軸43によって押し出されていない状態となっている。
【0031】
ヘッドユニット30の噴射ヘッドをキャッピングする際には、キャップ部材44が噴射ヘッドに対向する位置に来るまでケース42を回転させる。図4(b)は、ケース42を回転させている途中の状態を表しており、図4(c)は、ヘッドユニット30の噴射ヘッドに対向する位置まで、キャップ部材44を回転させた状態を表している。
【0032】
こうしてキャップ部材44を、噴射ヘッドに対向する位置まで回転させたら、今度は、カム軸43を回転させて、キャップホルダー44hおよびキャップ部材44を押し出してやる。図4(d)には、カム軸43を回転させて、キャップホルダー44hおよびキャップ部材44を押し出している途中の状態を表している。そして、図4(e)に示すように、キャップホルダー44hおよびキャップ部材44を最も押し出した状態では、キャップ部材44がヘッドユニット30の底面に押し付けられて、噴射ヘッドがキャッピングされた状態となる。
【0033】
また、図3を用いて前述したように、キャップ部材44は、カム軸43によって直接押し付けられているのではなく、キャップホルダー44hからバネ44sを介して噴射ヘッドに押し付けられるようになっている。このため、たとえカム軸から受ける力が場所によって不均一になった場合でも、ほぼ均一な力で、キャップ部材を噴射ヘッドに押し付けることが可能となっている。
【0034】
一方、印刷を再開する際には、カム軸43を回転させてキャップホルダー44hおよびキャップ部材44を引っ込めた後、ケース42を回転させて、何れかのプラテン46a,46bが噴射ヘッドに対向した状態とすればよい。このとき、何れのプラテン46a,46bを対向させるかは、画像を印刷しようとする印刷媒体に応じて、適したプラテンを選択することができる。
【0035】
図5は、ケース42およびカム軸43を回転させるためのギアユニット49の構成を示した説明図である。図5(a)には、ギアユニット49を構成するギアの配置を、ケース42の回転軸の方向から見た様子が示されている。また、図5(b)には、ギアユニット49を構成するギアの配置を、ケース42の回転軸に直交する方向から見た様子が示されている。
【0036】
図5(a)に示されているように、ケース42およびカム軸43の回転軸上には、2枚のギア490a、490bが同軸状に設けられている。このうち、破線で示したギア490aはカム軸43に接続されており、実線で示したギア490bはケース42に接続されている(図5(b)を参照のこと)。また、ギア490aには、ギア491aが嵌合され、ギア491aには更にギア492aが嵌合している。一方、ギア490bには、ギア491bが嵌合され、ギア491bには更にギア492bが嵌合している。結局、カム軸43を駆動するためのギア系列a(ギア490a、ギア491a、およびギア492a)と、ケース42を駆動するためのギア系列b(ギア490b、ギア491b、ギア492b)の2つのギア系列が設けられていることになる。尚、図5(b)では、図が煩雑となることを避けるために、ギア491a、ギア491b、ギア492a、ギア492bについては図示が省略されている。
【0037】
駆動モーター48にはギア490cが接続されており、ギア490cには、厚歯のギア491cが嵌合し、ギア491cには厚歯のギア492cが嵌合している。また、ギア492cは、ギア491cに嵌合した状態でギア491cの周囲を移動可能ないわゆる遊星ギアとなっている。すなわち、ギアユニット49には、カム軸43を駆動するための上述したギア系列aと、ケース42を駆動するための上述したギア系列bと、駆動モーター48に接続されたギア系列c(ギア490c、ギア491c、ギア492c)の3つのギア系列が設けられていることになる。
【0038】
図6は、駆動モーター48を駆動してカム軸43あるいはケース42を回転させる様子を示した説明図である。図6(a)には、カム軸43を回転させる様子が示されており、図6(b)には、ケース42を回転させる様子が示されている。
【0039】
カム軸43を回転させる場合は、図6(a)に示されるように、駆動モーター48を、図面上で時計方向に回転させる。すると、駆動モーター48の回転トルクが、ギア490cを介してギア491cに伝達されるとともに、遊星ギアとなっているギア492cの位置を図面上で反時計方向に回転させる。その結果、ギア492cが492aに嵌合して、ギア系列cとギア系列aとが接続され、駆動モーター48のトルクがギア490aに伝達されて、図面上で反時計方向にカム軸43を回転させることができる。
【0040】
一方、ケース42を回転させる場合は、図6(b)に示されるように、駆動モーター48を図面上で反時計方向に回転させる。すると、遊星ギアとなっているギア492cの位置が図面上で時計方向に回転して、ギア492cと492bとが嵌合するので、今度は、ギア系列cとギア系列bとが接続される。その結果、駆動モーター48のトルクがギア490bに伝達されて、ケース42を図面上で時計方向に回転させることができる。
【0041】
以上に説明したように、本実施例の回転ユニット40は、ケース42およびカム軸43を選択的に回転させることが可能となっており、また、ケース42の外周面には、キャップ部材44や、プラテン46が設けられている。従って、画像の印刷時には、プラテン46が噴射ヘッドに対向する位置までケース42を回転させた状態とし、画像を印刷しない間は、キャップ部材44が噴射ヘッドに対向する位置までケース42を回転させた後、カム軸43を回転させてキャップ部材44を押し上げることによって、噴射ヘッドをキャッピングすることが可能となる。このため、噴射ヘッドを上下動させることなく、キャッピングを行うことが可能となる。ラインプリンター1のように、長尺の噴射ヘッドを精度良く上下動させるためには大掛かりな機構が必要となるが、噴射ヘッドは固定したままキャッピングを行うことができるので、ラインプリンター1の構造を簡素に保っておくことができる。加えて、噴射ヘッドを固定したままとしておくことができるので、噴射ヘッドの位置ずれなどのが発生することがなく、安定して高画質な画像を印刷することが可能となる。
【0042】
C.変形例 :
上述した実施例では、噴射ヘッドをキャッピングする場合にだけ、キャップ部材44およびキャップホルダー44hを押し出すものとして説明した。しかし、噴射ヘッドをキャッピングしていない間(たとえば画像の印刷中など)も、キャップ部材44を他の部材に対向するように位置決めした状態で、キャップ部材44およびキャップホルダー44hを押し出すようにしてもよい。以下では、このような変形例について簡単に説明する。
【0043】
図7は、噴射ヘッドをキャッピングしていない間は、ラインプリンター1の本体側に設けられた蓋部材50にキャップ部材44を押し付けている様子を示した説明図である。このようにすれば、キャップ部材44の内側に付着したインクが乾燥して、キャップ部材44内に固着することを抑制することが可能となる。あるいは、ケース42の下方に洗浄液溜まり52を設け、この洗浄液溜まり52内にキャップ部材44を浸沈させるようにしてもよい。
【0044】
図8は、キャップ部材44が下方に向くようにケース42を回転させて、キャップ部材44を押し出すことで、ケース42の下方に設けられた洗浄液溜まり52内にキャップ部材44を浸沈させる様子を示した説明図である。このようにすれば、洗浄液溜まり52内に溜めておいた洗浄液で、キャップ部材44の内部を洗浄することができる。このため、たとえキャップ部材44内に付着したインクの固化が進んでしまった場合でも、固化したインクを除去することが可能となる。
【0045】
以上、本実施例の流体噴射装置としてのラインプリンター1について説明したが、本発明は上記の実施例あるいは変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、印刷用紙などの媒体上に、インクなどの流体を噴射する技術に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…ラインプリンター、 2…モニターパネル、 3…操作パネル、
6…排紙口、 10…給紙カセット、 20…給紙ローラー、
30…ヘッドユニット、 40…回転ユニット、 42…ケース、
43…カム軸、 44…キャップ部材、 44h…キャップホルダー、
44s…バネ、 46a,46b…プラテン、 48…駆動モーター、
49…ギアユニット、 50…蓋部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴射する噴射ノズルが設けられた噴射ヘッドを用いて、被噴射媒体上に流体を噴射する流体噴射装置であって、
前記被噴射媒体を搬送することにより、該被噴射媒体の前記噴射ヘッドに対する相対位置を変更する媒体搬送手段と、
前記被噴射媒体の搬送経路を挟んで前記噴射ヘッドと向き合う位置に設けられ、該被噴射媒体の搬送方向と交差する方向を軸として回転可能に構成されるとともに、搬送される該被噴射媒体を背面側から支える媒体支持部材と、前記噴射ヘッドに当接することで前記噴射ノズルの周囲に閉空間を形成するキャップ部材とが、互いに回転方向に位置を異ならせて形成された回転部材と、
前記媒体支持部材または前記キャップ部材が前記噴射ヘッドと向き合う位置まで、前記回転部材を回転させる回転部材回転手段と、
前記キャップ部材が前記噴射ヘッドと向き合った状態で、該キャップ部材を該回転部材に対して摺動させることにより、該噴射ヘッドに対する該キャップ部材の当接あるいは離間を行うキャップ部材駆動手段と
を備える流体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体噴射装置であって、
前記キャップ部材駆動手段は、前記回転部材の内側に、該回転部材と同軸に設けられたカム軸を回転させることによって、前記キャップ部材を摺動させる手段である流体噴射装置。
【請求項3】
請求項2に記載の流体噴射装置であって、
順回転あるいは逆回転の何れの方向にも回転して駆動力を発生し、順回転した場合には発生した該駆動力を、前記回転部材回転手段を介して前記回転部材に伝達し、逆回転した場合には、前記キャップ部材駆動手段を介して前記カム軸に該駆動力を伝達する駆動力発生手段を備える流体噴射装置。
【請求項4】
請求項2に記載の流体噴射装置であって、
前記キャップ部材を保持するとともに、前記回転部材に対して摺動可能に設けられたキャップ保持部材を備え、
前記キャップ部材は、前記キャップ保持部材に対して摺動可能な状態で、バネ部材を介して該キャップ保持部材に取り付けられた部材であり、
前記キャップ部材駆動手段は、前記カム軸によって前記キャップ保持部材を摺動させることによって、前記キャップ部材を摺動させる手段である流体噴射装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の流体噴射装置であって、
前記回転部材の回転軸から見て前記噴射ヘッドと異なる方向には、前記キャップ部材が当接されることで該キャップ部材との間に閉空間を形成する蓋部材が設けられている流体噴射装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の流体噴射装置であって、
前記回転部材の下方には、洗浄液が溜められた洗浄液溜まりが設けられており、
前記キャップ部材が前記洗浄液溜まりと向き合う位置まで前記回転部材を回転させて、該キャップ部材を摺動させることで、該洗浄液溜まりに溜められた前記洗浄液に、該キャップ部材を浸沈可能に構成されている流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−162814(P2010−162814A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8514(P2009−8514)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】