説明

流体噴射装置

【課題】吸引動作及びワイピング動作の際に当接部に付着した流体の除去を含めたメンテナンス処理の効率化を図ることができる流体噴射装置を提供する。
【解決手段】複数のノズルの開口端が配列されたノズル面を有してノズルから記録紙にインクを噴射する記録ヘッドと、複数のノズルを囲うようにノズル面と当接してノズルからインクを吸引する吸引動作を実行するキャップ部7と、ノズル面と当接してノズル面を払拭するワイピング動作を実行するワイプ部8と、を有するプリンターであって、Y軸方向に所定長さ張架され、インクを吸収可能な線状の吸収部材12と、吸収部材12とキャップ部7のシール部材62及びワイプ部8のワイパー部材63とを相対移動させ、吸収部材12でシール部材62及びワイパー部材63に付着したインクを払拭させる移動機構と、を有するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インク滴(流体)を記録紙(媒体)に対して噴射させる流体噴射装置として、インクジェット式プリンター(以下、「プリンター」という。)が広く知られている(特許文献1参照)。このプリンターでは、良好な噴射特性を維持又は回復させるため、記録ヘッドのメンテナンス処理を定期的に行っている。
このメンテナンス処理としては、例えば、印字動作以外で記録ヘッドの各ノズルからインクを予備噴射させることで増粘インクによるノズルの目詰まり防止やノズルのメニスカスを調整して記録ヘッドから正常にインクを噴射させるフラッシング動作と、キャップ部材で記録ヘッドをキャッピングした後に吸引ポンプを駆動させて各ノズルから粘性が高くなったインクや付着したゴミ等を強制吸引してメニスカスを調整し、記録ヘッドから正常にインクを噴射させる吸引動作と、記録ヘッドのノズル面を払拭(ワイピング)することでノズル近傍に付着したインクや増粘したインク等を除去したり、ノズルのメニスカスを破壊してメニスカスを再調整させるパージ処理を行うワイピング動作と、がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−286075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、吸引動作及びワイピング動作においては、ノズル面に当接して処理を行うことから、ノズル面に当接する当接部にインクが付着してしまうことがある。ワイピング動作においては、当接部にインクが付着した状態で払拭を行うとノズル面を逆に汚してしまうという問題がある。また、吸引動作においては、ノズル面の汚れの問題と共に、当接部に付着したインクが時間の経過と共に増粘、固化して異物として堆積すると、キャッピング不良を引き起こしてインクの吸引が困難になるという問題がある。
そのため、吸引動作の際にノズル面に当接する当接部(第1当接部)及びワイピング動作の際にノズル面に当接する当接部(第2当接部)に対し、付着インクを除去する専用の機構をそれぞれ別途設けなければならず、付着インクの除去を含めたメンテナンス処理の効率化の面で問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、吸引動作及びワイピング動作の際に当接部に付着した流体の除去を含めたメンテナンス処理の効率化を図ることができる流体噴射装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、複数のノズルの開口端が配列されたノズル面を有して該ノズルから媒体に流体を噴射する流体噴射ヘッドと、上記複数のノズルを囲うように上記ノズル面と当接して上記ノズルから上記流体を吸引する吸引動作を実行するキャッピング装置と、上記ノズル面と当接して上記ノズル面を払拭するワイピング動作を実行するワイピング装置と、を有する流体噴射装置であって、所定方向に所定長さ張架され、上記流体を吸収可能な線状の吸収部材と、上記吸収部材と、上記キャッピング装置の上記ノズル面と当接する第1当接部及び上記ワイピング装置の上記ノズル面と当接する第2当接部と、を相対移動させ、上記吸収部材で上記第1当接部及び上記第2当接部に付着した上記流体を払拭させる移動装置と、を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、流体を吸収可能な吸収部材を所定の長さで張架して、それと第1当接部及び第2当接部とを相対移動させることにより、各当接部に付着した流体を共通の部材で払拭して除去することができる。このため、第1当接部及び第2当接部の付着流体を除去する機構を共通化でき、また、付着流体を吸収した吸収部材の交換作業も共通化できる。さらに、この吸収部材は張架された線状部材であるので柔軟に撓むことができ、各当接部の形状に沿った効果的な払拭を行うことができる。
【0007】
また、本発明においては、上記相対移動する方向は、上記所定方向と交差する方向であるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、吸収部材が張架される方向と相対移動する方向が一致しないので、吸収部材で払拭できる領域を所定幅で広く確保することができる。
【0008】
また、本発明においては、上記吸収部材を上記張架すると共に上記吸収部材をその長さ方向において移動自在に支持する支持部材と、上記支持された上記吸収部材を上記長さ方向に走行させる走行装置と、を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、上記線状の吸収部材については吸収できる流体の量に限界があるため、ある程度流体を吸収させたら吸収部材を走行させることで、吸収部材の新たな領域で再度流体の吸収を行わせることができる。
【0009】
また、本発明においては、上記走行装置を駆動させて上記吸収部材を走行させつつ、上記移動装置を駆動させて上記相対移動を実行させる制御装置を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、吸収部材を走行させつつ相対移動させて各当接部の払拭を行うと、常に新しい領域での払拭が可能となるため、吸収部材の流体の受容限界を招くことなく払拭を効果的に実行させることができる。
【0010】
また、本発明においては、上記吸収部材が上記走行する走行経路の所定位置において、上記吸収部材に洗浄液を供給して吸収させる洗浄液供給装置を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、吸収部材に洗浄液を吸収させることができるため、当接部に堆積した異物(流体が増粘や固化した物)を、洗浄液で溶解しながら払拭することができる。
【0011】
また、本発明においては、上記走行装置及び上記洗浄液供給装置を駆動させて上記洗浄液を吸収した上記吸収部材を走行させつつ、上記移動装置を駆動させて上記相対移動を実行させる第2制御装置を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、洗浄液を吸収した吸収部材を走行させつつ相対移動させて各当接部の払拭を行うと、常に異物に対し新しい洗浄液が供給されるため、異物を溶解しながらの効果的な払拭を実行させることができる。
【0012】
また、本発明においては、上記吸収部材に向けて上記ノズルから上記流体を予備噴射するフラッシング動作を実行させる第3制御装置を有するという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、本発明では、各当接部に付着したインクの除去する部材と、フラッシング動作の際に流体を受ける部材とを共通化できるため、メンテナンス処理の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態におけるプリンターの概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態におけるヘッドユニットの概略構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態におけるヘッドユニットを構成する記録ヘッドの概略構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態におけるキャップユニットの概略構成を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態におけるフラッシングユニットの概略構成を示す底面図である。
【図6】本発明の実施形態における吸収部材の構成の一例を示す概略図である。
【図7】本発明の実施形態における吸収部材のフラッシング位置と退避位置とを示す図である。
【図8】本発明の実施形態における洗浄液供給装置が備える洗浄液の貯溜部を示す平面図である。
【図9】本発明の実施形態における洗浄液供給装置の構成を示す断面図である。
【図10】本発明の実施形態におけるシール部材及びワイパー部材に付着したインクを除去する付着インク除去動作について説明する図である。
【図11】本発明の別実施形態における洗浄液供給装置の構成を示す断面図である。
【図12】本発明の別実施形態におけるフラッシングユニットの概略構成を示す底面図である。
【図13】本発明の別実施形態における洗浄液供給装置の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の流体噴射装置の実施形態について説明する。なお、以下の説明で用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。また、以下の説明で用いる図面では、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明することがある。ここで、水平面内の所定方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。
本実施形態では、流体噴射装置として、インクジェットプリンター(以下、単にプリンターと称す)について例示する。
【0015】
図1はプリンターの概略構成を示す斜視図、図2はヘッドユニットの概略構成を示す斜視図、図3はヘッドユニットを構成する記録ヘッド(流体噴射ヘッド)の概略構成を示す斜視図、図4はキャップユニットの概略構成を示す斜視図である。
図1に示すように、プリンター1は、ヘッドユニット2と、記録紙(媒体)を搬送する搬送装置3と、記録紙を供給する給紙ユニット4と、ヘッドユニット2によって印字された記録紙を排出する排紙ユニット5と、ヘッドユニット2に対してメンテナンス処理を行うメンテナンス装置10と、これら各構成機器の動作を統括的に制御する不図示の制御部(制御装置、第2制御装置、第3制御装置)と、を備えて構成されている。
【0016】
搬送装置3は、ヘッドユニット2を構成する各記録ヘッド(流体噴射ヘッド)21(21A、21B、21C、21D、21E)のノズル面23(図2及び図3参照)とZ軸方向で所定の間隔をあけた状態で、記録紙を保持するように構成されたものである。この搬送装置3は、駆動ローラー部31と、従動ローラー部32と、これらローラー部31、32との間に架け回された複数のベルトから構成された搬送ベルト部33と、を備えている。また、この搬送装置3における記録紙の搬送方向(X軸方向)の下流側(排紙ユニット5側)であって、排紙ユニット5との間に、記録紙を保持する保持部材34が設けられている。
【0017】
駆動ローラー部31は、回転軸方向の一端側が不図示の駆動モーターに接続されたもので、駆動モーターによって回転駆動されるように構成されたものである。そして、この駆動ローラー部31の回転動力が搬送ベルト部33に伝達され、搬送ベルト部33が回転駆動するようになっている。駆動ローラー部31と駆動モーターとの間には、必要に応じて伝達ギアが設置される。従動ローラー部32は、いわゆるフリーローラーであり、搬送ベルト部33を支持するとともに、搬送ベルト部33(駆動ローラー部31)の回転駆動に従動して回転するようになっている。
排紙ユニット5は、排紙用ローラー35と、この排紙用ローラー35によって搬送された記録紙を保持する排紙トレー36と、を備えて構成されている。
【0018】
ヘッドユニット2は、複数(本実施形態では5つ)の記録ヘッド21A〜21Eをユニット化することで構成されたもので、各記録ヘッド21A〜21Eの各ノズル24(図3参照)からは、複数色のインク(例えば、ブラックB、マゼンタM、イエローY、シアンCの各インク)が−Z方向に向けて噴射されるようになっている。これら記録ヘッド21A〜21E(以下、記録ヘッド21と称す場合もある)は、取付板22に取付けられることでユニット化されている。すなわち、本実施形態に係るヘッドユニット2は、複数の記録ヘッド21が複数組み合わされたことにより、ヘッドユニット2の有効印字幅が記録紙のY軸方向の幅(搬送方向と直交する方向の幅)と略同等とされるラインヘッドモジュールを構成している。各記録ヘッド21A〜21Eにおけるそれぞれの構造自体は共通とされている。なお、ヘッドユニット2は、複数の記録ヘッド21を千鳥配置することで構成してもよい。
【0019】
図2に示すように、本実施形態のヘッドユニット2は、取付板22に形成された開口部25内に、各記録ヘッド21A〜21Eを配置したものである。具体的には、各記録ヘッド21A〜21Eが取付板22の裏面22b側に螺子止めされたことで、ノズル面23が開口部25を通って取付板22の表面22a側から突出した状態に配置されたものである。また、このヘッドユニット2は、取付板22が不図示のキャリッジに固定されたことにより、プリンター1に搭載されている。
【0020】
本実施形態におけるヘッドユニット2は、キャリッジによって記録位置とメンテナンス位置との間(図1中の矢印で示す方向)で移動可能に構成されている。ここで、記録位置とは、搬送装置3に対向し且つ記録紙に対して記録を行う位置である。一方、メンテナンス位置とは、搬送装置3上から退避した位置であって、メンテナンス装置10と対向する位置である。このメンテナンス位置において、ヘッドユニット2に対するメンテナンス処理(吸引動作、ワイピング動作等)が実施されるようになっている。
【0021】
図3に示すように、ヘッドユニット2を構成する記録ヘッド21は、複数のノズル24によって構成されるノズル列Lが複数列形成されたノズル面23を有するヘッド本体25Aと、このヘッド本体25Aが取付けられる支持部材28と、を備えて構成されている。
【0022】
各記録ヘッド21A〜21Eは、4色(イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk))に対応したノズル列(L(Y)、L(M)、L(C)、L(Bk))を有している。各ノズル列(L(Y)、L(M)、L(C)、L(Bk))において、これらノズル列(L(Y)、L(M)、L(C)、L(Bk))を構成するノズル24は、記録紙の搬送方向と直交する水平方向(Y軸方向)に配列されている。そして、各記録ヘッド21A〜21Eは、それぞれのノズル列が、これら記録ヘッド21A〜21Eの配置方向において同じ色に対応するノズル列Lが一列になるように、配置されている。なお、本実施形態における各記録ヘッド21A〜21Eにおける各ノズル列(L(Y)、L(M)、L(C)、L(Bk))については、各色毎に2列ずつ、合計8列形成されている。なお、その場合には、各色毎に設けられた2列のノズル列Lは、ノズル24が千鳥状に配置されているのが好ましい。
【0023】
支持部材28には、ノズル面23の長手方向の両側に張り出し部26が形成されており、これら張り出し部26、26には、記録ヘッド21を取付板22の裏面22bに螺子止めするための貫通孔27が形成されている。これにより、複数の記録ヘッド21が取付板22に取付けられてヘッドユニット2が構成されている(図1参照)。
【0024】
メンテナンス装置10は、ヘッドユニット2に対して吸引動作及びワイピング動作を行うキャップユニット6と、フラッシング動作により噴射されたインクを受けるためのフラッシングユニット11と、を有して構成されている。
図4に示すようにキャップユニット6は、各記録ヘッド21A〜21Eに対応して複数(本実施形態では5つ)のユニット61A〜61Eを備える。ユニット61A〜61Eは、それぞれ吸引動作を実行するキャップ部(キャッピング装置)7及びワイピング動作を実行するワイプ部(ワイピング装置)8が設けられている。なお、このキャップユニット6は、ヘッドユニット2の記録エリアから外れた場所に配置されている。
【0025】
キャップ部7は、不図示の昇降装置を備え、対応する記録ヘッド21のノズル面23に当接可能に構成されたものである。この昇降装置としては、カム機構、ラックピニオン機構、ボールねじ機構等の周知の構成を採用することができる。キャップ部7は、キャップ本体67と、その上面に枠状に設けられ、記録ヘッド21に当接可能に配置されるシール部材(第1当接部)62とを有する。キャップ部7は、このような構成のもとに、シール部材62で記録ヘッド21の複数のノズル24を囲うようにノズル面23に密着し、不図示の吸引ポンプで負圧をかけることにより、各ノズル24からインクを吸引する吸引動作を実行する構成となっている。
【0026】
ワイプ部8は、不図示の昇降装置を備え、対応する記録ヘッド21のノズル面23に当接可能に構成されたものである。この昇降装置としては、カム機構、ラックピニオン機構、ボールねじ機構等の周知の構成を採用することができる。ワイプ部8は、可撓性を有し記録ヘッド21に当接可能に配置されるワイパー部材(第2当接部)63を有する。ワイプ部8は、このような構成のもとに、ワイパー部材63で記録ヘッド21のノズル面23と当接し、不図示の移動機構でワイパー部材63をノズル面23に沿って移動させることにより、ノズル面23の清掃及びパージ処理を行うワイピング動作を実行する構成となっている。
【0027】
ユニット61A〜61Eは、キャップ部7及びワイプ部8を一体的に保持する筐体部64を備えている。筐体部64の底部には、筐体部64をベース部材69に保持するための保持部65が2つ(1つは不図示)形成されている。これら保持部65は平面視において筐体部64における対角をなす位置に配置されている。保持部65の各々には、筐体部64をベース部材69に螺子止め固定するための螺子が挿入される貫通孔65bが形成されている。
【0028】
図5は、フラッシングユニット11の概略構成を示す底面図である。
フラッシングユニット11は、図5に示すように、インク滴(流体)を吸収可能な吸収部材12と、これら吸収部材12を支持する支持機構9と、を備えて構成されている。
吸収部材12は、各ノズル24から噴射されたインク滴を吸収可能な線状のもので、本実施形態では1つのヘッドユニット2に対して2本設けられている。吸収部材12は、ノズル列(L(Y)、L(M)、L(C)、L(Bk))に沿ってY軸方向に延在し、且つ、Y軸方向でヘッドユニット2とキャップユニット6に跨って、支持機構9によって張架されている。また、吸収部材12は、Z軸方向においてノズル面23と記録紙の搬送領域との間であって、ノズル面23と所定距離離間して配置されている。
【0029】
この吸収部材12は、例えば糸材などによって形成されたもので、インクを効率よく吸収、保持(受容)できるものが好適に用いられる。具体的には、SUS304、ナイロン、親水性コートを施したナイロン、アラミド、絹、綿、ポリエステル、超高分子量ポリエチレン、ポリアリレート、ザイロン(商品名)等の繊維、あるいはこれらの複数を含む複合繊維から吸収部材12を形成することができる。
より詳細には、繊維あるいは複合繊維から形成される繊維束が、撚り合わされるあるいは束ねられることによって吸収部材12が形成可能である。
図6は、吸収部材12の構成の一例を示す概略図であり、(a)が断面図、(b)が平面図である。これらの図に示すように、吸収部材12は、例えば、繊維から形成される繊維束12aが2本撚り合わされることによって形成される。
【0030】
また、他の例としては、SUS304からなる繊維束が複数本撚り合わされた線状部材、ナイロンからなる繊維束が複数本撚り合わされた線状部材、親水性コートが施されたナイロンからなる繊維束が複数本撚り合わされた線状部材、アラミドからなる繊維束が複数本撚り合わされた線状部材、絹からなる繊維束が複数本撚り合わされた線状部材、綿からなる繊維束が複数本撚り合わされた線状部材、ベリーマ(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材、ソアリオン(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材、ハミロン03T(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材、ダイニーマハミロンDB−8(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材、ベクトランハミロンVB−30からなる繊維束が束ねられた線状部材、ハミロンS−5コアケブラースリーブポリエステル(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材、ハミロンS−212コアカブラースリーブポリエステル(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材、ハミロンSZ−10コアザイロンスリーブポリエステル(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材、ハミロンVB−3ベクトラン(商品名)からなる繊維束が束ねられた線状部材が、吸収部材12として好適に用いられる。
【0031】
ナイロンの繊維を用いた吸収部材12は、汎用水糸として広く用いられるナイロンによって形成されているため、安価なものとなる。
SUS材の金属繊維を用いた吸収部材12は、耐腐食性に優れるため多様なインクを吸収可能となると共に、樹脂と比較して磨耗性が高いため繰り返しの使用が可能となる。
【0032】
超高分子ポリエチレンの繊維を用いた吸収部材12は、切断強度及び耐薬品性が高く、有機溶剤や酸、アルカリに強いものとなる。このように、超高分子ポリエチレンの繊維を用いた吸収部材12は、切断強度が高いため、強いテンションで引っ張ることが可能となり、撓みを抑止することができる。このため、例えば、吸収部材12の径を太くして吸収容量を増加させたり、また吸収部材12の径を太くしない場合には記録ヘッド21A〜21Eから記録紙の搬送領域までの距離を狭くし印刷精度を向上させることができる。また、ザイロンやアラミドの繊維を用いた吸収部材12も、超高分子ポリエチレンの繊維を用いた吸収部材12と同様の効果を期待できる。
綿の繊維を用いた吸収部材12は、インク吸収性に優れたものとなる。
【0033】
このような吸収部材12では、滴下されたインクが表面張力によって繊維間及び繊維束12a間に形成される谷部12bに保持されるため、インクが吸収・受容される。
また、吸収部材12の表面に滴下したインクは、一部が直接、吸収部材12の内部に浸透し、残りが繊維束12a間に形成される谷部12bを伝う。そして、吸収部材12の内部に浸透したインクは、吸収部材12の内部において一部が徐々に吸収部材12の延在方向に移動し吸収部材12の延在方向に分散して保持される。吸収部材12の谷部12bを伝うインクは、谷部12bを伝いながら、徐々にその一部が吸収部材12の内部に浸透し、残りが谷部12bに残存し、これによって吸収部材12の延在方向に分散して保持される。つまり、吸収部材12の表面に滴下したインクは、長期的には全てが滴下された箇所に留まるわけではなく、滴下された箇所の周囲に分散して吸収される。
【0034】
なお、実際にプリンター1に設置する吸収部材12の形成材料については、吸インク性、保持インク性、引張強度、耐インク性、成形性(けばやほつれの発生量)、ねじれ性、コスト等を考慮して適宜に選択される。
また、吸収部材12のインク吸収量は、吸収部材12の繊維間に保持できるインク量と谷部12bに保持できるインク量の合計である。このため、このインク吸収量が、吸収部材12の交換頻度等を考慮して、フラッシングによって噴射されるインク量よりも十分に大きくなるように、吸収部材12の形成材料が選択される。
【0035】
なお、吸収部材12の繊維間に保持できるインク量及び谷部12bに保持できるインク量は、インクと繊維との接触角、インクの表面張力に依存する繊維隙間における毛細管力によって規定することができる。つまり、細い繊維を用いて形成することで繊維間の隙間を多くし、全体として繊維の表面積を増加することにより、吸収部材12の断面積が同一であっても、吸収部材12はより多量のインクを吸収することができるようになる。したがって、繊維間の隙間をより多くするため、繊維束12aを形成する繊維として、マイクロファイバー(極細繊維)を用いるようにしてもよい。
ただし、吸収部材12のインク保持力は、繊維間の隙間が大きくなって毛細管力が低下することで低減する。このため、繊維間の隙間については、吸収部材12におけるインク保持力が吸収部材12の移動によってインクが垂れない程度となるように、設定する必要がある。
【0036】
また、吸収部材12の太さについては、例えばノズル24の径(ノズル径)に対して、5〜75倍程度の太さ(径)とされる。一般的なプリンターでは、各記録ヘッド21A〜21Eにおける各ノズル面23と記録紙との間のギャップが1mm〜2mm程度、ノズル径が約0.02mmとなっている。したがって、吸収部材12は、直径が0.5mm以下であれば、各ノズル面23や記録紙に接触することなくこれらの間に配置させることができ、かつ0.2mm以上であれば、部品の誤差を考慮しても、噴射されたインク滴を確実に捕捉することができるようになる。そのため、吸収部材12は太さ(径)が0.2mm〜0.5mm程度、すなわちノズル径に対して10〜25倍程度であるのが好ましい。なお、吸収部材12の断面形状は、必ずしも円形である必要はなく、多角形等であってもよい。ここで、吸収部材は完全な円形に作るのは難しいので、円形とは略円形も含む。
【0037】
なお、吸収部材12の長さについては、ヘッドユニット2の有効印字幅に対して十分な長さを有しているのが好ましい。本実施形態のプリンター1では、後述するように吸収部材12の使用済み(インク吸収済み)の領域が順次巻き取られ、吸収部材12のほぼ全領域においてインクが吸収された際に、吸収部材12全体が取り替えられる構成が採用されている。そのため、吸収部材12の取替え期間を実用に耐え得る時間とするべく、吸収部材12の長さは、ヘッドユニット2の有効印字幅の数百倍程度であるのが好ましい。
【0038】
このような構成からなる吸収部材12は、図5に示すようにプーリー(支持部材)43,53を備える支持機構9によって張架されている。
支持機構9は、走行機構(走行装置)13および移動機構(移動装置)14を備えて構成されたもので、本実施形態では、いずれもヘッドユニット2及びキャップユニット6を挟んだ両側、記録ヘッド21に対してはその配列方向における一方側と他方側とに設けられている。なお、図5では、ヘッドユニット2及びキャップユニット6の一部を省略し、記録ヘッド21及びユニット61をそれぞれ2つのみ示している。
【0039】
走行機構13は、ヘッドユニット2の両側に配設された一対の支持基板15A、15Bに設けられたもので、吸収部材12をY軸方向に走行させるものである。本実施形態では、上述したように吸収部材12が2本設けられているため、これに対応して走行機構13も二つ設けられている。なお、吸収部材12の数については、2本に限ることなく、例えば記録ヘッド21のノズル列Lの数分設けるようにしてもよく、その場合に、走行機構13についても、吸収部材12の数に対応してその数分設けるようにしてもよい。
走行機構13は、一方側の支持基板15Aに吸収部材12を送り出す送出部13Aを備え、他方側の支持基板15Bに吸収部材12を巻き取る巻取部13Bを備える。
【0040】
送出部13Aは、吸収部材12を予め所定長さ巻き取って保持している送出リール16と、送出リール16を回転駆動させる送出モーター16Aと、送出リール16から送出された吸収部材12を誘導するプーリー41,42,43とを有する。
送出部13Aのプーリー42は、支持基板15A側において吸収部材12に所定の張力を付与するテンションプーリーとして機能する。プーリー42は、プーリー41の回転軸を中心として揺動自在にレバー部材44によって支持されており、このレバー部材44は、引っ張りバネ45により、揺動方向一方側(テンションを付与する側)に向けて付勢を受ける構成となっている。
【0041】
巻取部13Bは、吸収部材12を巻き取る巻取リール17と、巻取リール17を回転駆動させる巻取モーター17Aと、巻取リール17に吸収部材12を誘導するプーリー51,52,53とを有する。
巻取部13Bのプーリー52は、支持基板15B側において吸収部材12に所定の張力を付与するテンションプーリーとして機能する。プーリー52は、巻取リール17の回転軸を中心として揺動自在にレバー部材54によって支持されており、このレバー部材54は、引っ張りバネ55により、揺動方向一方側(テンションを付与する側)に向けて付勢を受ける構成となっている。
巻取部13Bのプーリー51には、外周部にパルス発生用の孔57が複数形成された回転板56が一体回転可能に設けられている。回転板56の外周部の一部と対向する位置には、孔57を検出する光センサ58が設けられている。光センサ58は、プーリー51と共に一体で回転する回転板56の外周部において、孔57の検出回数をカウントすることで吸収部材12の走行長さ(走行量)を検出する構成となっている。
【0042】
送出部13Aのレバー部材44の揺動方向他方側には、レバー部材44と接触して押圧されることでオンになり、該押圧が解除されることでオフになる、リミットスイッチ46が設けられている。また、巻取部13Bのレバー部材54の揺動方向両側には、レバー部材54と接触して押圧されることでオンになり、該押圧が解除されることでオフになる、リミットスイッチ59a,59bが設けられている。なお、リミットスイッチ46,59a,59bは、その押圧抵抗が十分に小さくなっており、押圧された際、その押圧力にほとんど抗することなく後退し、押圧力が解除されることで元の位置に円滑に復帰するようになっている。
【0043】
リミットスイッチ46,59a,59bは、走行時において吸収部材12の張力を所定の範囲内に収めるために設けられる。例えば、リミットスイッチ59aがオンとなった場合には、巻取リール17の回転速度を下げて、吸収部材12への張力を弱める制御を行う。また、リミットスイッチ59bがオンとなった場合には、巻取リール17の回転速度を上げて、吸収部材12への張力を強める制御を行う。また、リミットスイッチ46がオンとなった場合には、吸収部材12に所定の範囲を超える張力が付与される想定外の場合(吸収部材12の引っ掛かり、送出リール16に巻かれた吸収部材12の残が無くなった場合等)と判断し、巻取リール17の回転駆動を停止させる制御を行い、吸収部材12の切断を回避させる構成となっている。
【0044】
移動機構14は、吸収部材12をノズル列Lの延在方向(Y軸方向)と直交する方向(X軸方向)に移動させるものである。
移動機構14は、支持基板15A、15Bに設けられた一対の移動機構部14A、14Bによって構成されたもので、これら移動機構部14A、14Bが同期して動作することにより、支持基板15A、15Bを、X軸方向に、同時且つ同一量、同一速度で移動させるようになっている。
【0045】
移動機構部14A、14Bは、支持基板15A、15Bのそれぞれの上面側(+Z側)、すなわち送出リール16や巻取リール17が設けられた面側と反対の面側に設けられたボールネジステージ70と、雄螺子状のボールネジ71を軸周りに回転駆動させるステッピングモーター等からなるモーター72と、支持基板15A、15Bにそれぞれ固定され、且つ、ボールネジ71に螺合する雌螺子部(図示せず)を有して該ボールネジ71に対し移動可能に螺合した固定ブロック73と、を備えて構成されたものである。なお、モーター72及びボールネジステージ70は、図示しない固定部材によってプリンター1に固定されている。
【0046】
このような構成のもとに移動機構部14A、14Bは、モーター72が回転することでボールネジ71が回転し、このボールネジ71に螺合する固定ブロック73がボールネジ71の長さ方向、すなわちX軸方向に移動するようになっている。そして、固定ブロック73の移動に伴い支持基板15A、15Bも移動し、吸収部材12も同様に移動するようになっている。なお、モーター72は正逆方向に回転可能になっており、固定ブロック73や支持基板15A、15B、吸収部材12も、X軸方向両方側に移動可能になっている。そして、モーター72は図示しない制御部によって制御されるようになっており、これによって移動機構14は、ヘッドユニット2(ノズル列L)に対する各吸収部材12の位置を予め設定された通りにフラッシング位置と退避位置との間で移動させることが可能な構成となっている。
【0047】
図7は、吸収部材12のフラッシング位置と退避位置とを示す図である。なお、図7においては、2本ある吸収部材12のうち一本のみを示している。
フラッシング位置とは、図7(a)に示すように、吸収部材12が対応するノズル列L(ノズル列Lを構成する複数のノズル24)に対向した(平面視して重なる)状態であって、フラッシング動作時にノズル列Lから吐出されたインク滴を受容し吸収できる位置、すなわちインクの噴射経路上の位置である。
【0048】
一方、吸収部材12における退避位置とは、図7(b)に示すように、ノズル列L(ノズル列Lを構成する複数のノズル24)とは対向しない(平面視して重ならない)状態であって、印字動作時に各ノズル24から吐出された記録用のインク滴が吸収部材12に吸収されることのない位置である。なお、ここでノズル列Lと吸収部材12とが対向するとは、必ずしもノズル24の中心と吸収部材12の中心とが平面視した状態で重なることのみを意味するのではなく、平面視した状態で吸収部材12の幅の中にノズル24が位置する状態のことを言う。このような状態であれば吸収部材12は、ノズル24から吐出されたインクを吸収することができる。
【0049】
また、本実施形態の移動機構14にあっては、吸収部材12をフラッシング位置と退避位置との間で移動させるだけでなく、図7(a)、(b)中にそれぞれ実線で示すようにノズル列L1に対応する位置から、二点鎖線で示すようにこれと異なるノズル列L2に対応する位置に移動させることも可能な構成となっている。
さらに、本実施形態の移動機構14にあっては、吸収部材12をフラッシング位置と退避位置との間で移動させるだけでなく、吸収部材12をX軸方向に移動させることで、ユニット61に設けられたキャップ部7のシール部材62及びワイプ部8のワイパー部材63を払拭可能な構成となっている(後述)。
【0050】
図5に戻り、支持基板15Aには、吸収部材12が走行する走行経路の所定位置において、吸収部材12に洗浄液を供給して吸収させる洗浄液供給装置80が設けられている。本実施形態の洗浄液供給装置80は、吸収部材12をY軸方向に張架するプーリー43,53よりも上流側(送出部13A側)において吸収部材12に洗浄液を供給する構成となっている。
洗浄液供給装置80が供給する洗浄液は、吸収部材12が受容するインクの種類に応じて選択される。
【0051】
主溶媒として水を用いる水性インクである場合、洗浄液として、水溶性低揮発性有機溶剤と界面活性剤とを含む液体を用いるのが好ましい。水性インクに用いられる有機溶媒としては、グリコール化合物、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールを例示できる。
例えば水性インクがエチレングリコールを含有している場合、洗浄液にもエチレングリコールを用いる。これにより、洗浄液が水性インクの色材を溶解、分散させて混じり合うことで、洗浄効果が増すと共に、乾燥によるインク色材の固化を抑制できる。さらに、界面活性剤を重量比1%程度添加することで、さらに洗浄効果を増すことができる。
【0052】
主溶媒として有機溶剤を用いる油性インクである場合、洗浄液として、油性低揮発性有機溶剤を含む液体を用いるのが好ましい。油性インクに用いられる有機溶媒としては、好ましくは極性有機溶媒、例えば、アルコール類(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、又はフッ化アルコール等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、又はシクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、又はプロピオン酸エチル等)、又はエーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、又はジオキサン等)等を例示できる。
例えばジエチルエーテルが油性インクを含有している場合、洗浄液にもジエチルエーテルを用いる。これにより、洗浄液が油性インクの色材を溶解、分散させて混じり合うことで、洗浄効果が増すと共に、乾燥によるインク色材の固化を防止できる。
【0053】
図8は、洗浄液供給装置80が備える洗浄液の貯溜部81を示す平面図である。図9は、洗浄液供給装置80の構成を示す断面図である。
貯溜部81は、図8に示すように略枡形状を有し、図9に示すように支持基板15Aに取り付けられている。貯溜部81の側壁には、吸収部材12が通過する所定深さの溝部82が形成されている。貯溜部81は、洗浄液を吸収して保持する吸収材83を有する。吸収材83としては、例えばウレタンや、PVA(ポリビニルアルコール)スポンジ、不織布等の液体を吸収して保持可能な任意の部材を用いることができる。吸収材83は、洗浄液を吸収して保持することで、移動機構14によるX軸方向の移動に伴う洗浄液の液面揺れ及び該揺れに伴う洗浄液の貯溜部81からの零れ(漏れ)を防止するよう機能する。
【0054】
洗浄液供給装置80は、図9に示すように貯溜部81を通過する吸収部材12を吸収材83に向けて押し付けて、吸収部材12に吸収材83に保持された洗浄液を供給する押し付け装置84を有する。
本実施形態の押し付け装置84は、吸収部材12の上方と接するプーリー85と、プーリー85を吸収部材12の移動方向に沿う方向に回転自在に支持するアーム部材86と、制御部の制御の下、アーム部材86を上下方向に移動させるアクチュエーター87と、を有する。アクチュエーター87は、例えばモーターやソレノイド等の駆動源を備える。
【0055】
押し付け装置84は、制御部から洗浄液の供給指令を受けていない場合、図9(a)に示す吸収部材12と吸収材83(洗浄液)とを接触させない非接触位置にプーリー85を位置させる構成となっている。
一方、押し付け装置84は、制御部から洗浄液の供給指令を受けた場合、図9(b)に示す吸収部材12と吸収材83(洗浄液)とを接触させる接触位置にプーリー85を位置させる構成となっている。このとき、吸収部材12は、プーリー85の押し付けにより撓んで、吸収材83と接触することとなる。
【0056】
続いて、図10を参照して、ユニット61に設けられたキャップ部7のシール部材62及びワイプ部8のワイパー部材63に付着したインクを除去する付着インク除去動作について説明する。なお、図10に示す符号100は、付着インク除去動作における吸収部材12の移動経路を示す。また、付着インク除去動作にかかる各構成機器の動作は、上述の図示しない制御部によって統括されている。
吸引動作及びワイピング動作においては、ノズル面23に当接して処理を行うことから、ノズル面23に当接するシール部材62及びワイパー部材63にインクが付着してしまうことがある。ワイピング動作においては、ワイパー部材63にインクが付着した状態で払拭を行うとノズル面23を逆に汚してしまうという問題がある。また、吸引動作においては、ノズル面23の汚れの問題と共に、シール部材62に付着したインクが時間の経過と共に増粘、固化して異物として堆積すると、キャッピング不良を引き起こしてインクの吸引が困難になるという問題がある。
制御部は、このシール部材62及びワイパー部材63に付着したインクを除去するべく、付着インク除去動作を実行させる。この付着インク除去動作では、付着インクを積極的に吸収して払拭する払拭処理と、付着インクが増粘、固化したものを溶解させつつ払拭する溶解払拭処理とがある。
【0057】
上記払拭処理を行う場合、先ず、制御部は、キャップ部7及びワイプ部8の不図示の昇降装置を駆動させ、インクが付着したシール部材62及びワイパー部材63を吸収部材12が張架される高さまで上昇させる。なお、このとき、全てのユニット61A〜61Eのシール部材62及びワイパー部材63を吸収部材12が張架される高さまで上昇させることが付着インク除去動作の効率化の面で好ましい。次に、制御部は、移動機構14を駆動させ、吸収部材12とシール部材62及びワイパー部材63とをX軸方向で相対移動させ、吸収部材12でシール部材62及びワイパー部材63に付着したインクを払拭させる。本実施形態の吸収部材12は、張架される方向がY軸方向で、相対移動するX軸方向と直交しているので、吸収部材12で払拭できる領域幅を広く確保することができる。
【0058】
移動機構14の駆動により、吸収部材12はX軸方向に移動し、その移動経路100上に位置するシール部材62及びワイパー部材63に接触する。吸収部材12は、Y軸方向に張架された線状部材であるので、Z軸方向に柔軟に撓むことができ、シール部材62と接触する際には、シール部材62の上面に乗り上げて付着インクの払拭を行い、ワイパー部材63と接触する際には、ワイパー部材63を撓ませつつ払拭を行う。この払拭により、シール部材62及びワイパー部材63に付着したインクが吸収部材12に吸収され除去される。
【0059】
吸収部材12は線状で吸収できるインク量に限界があるため、付着インク除去動作で吸収部材12にある程度インクを受容させたら、走行機構13を駆動させて吸収部材12を長さ方向に走行させ、吸収部材12の新たな領域で再度インクの吸収を行わせることが望ましい。
本実施形態の制御部は、走行機構13を駆動させて吸収部材12を長さ方向に走行させつつ、移動機構14を駆動させて上記付着インク除去動作を行わせる。吸収部材12を走行させつつ相対移動させてシール部材62及びワイパー部材63の払拭を行うと、常に新しい領域での払拭が可能となるため、吸収部材12のインクの受容限界を招くことなく払拭を効果的に実行させることができる。この払拭処理によりインクを取り込んだ吸収部材12は、巻取リール17に巻き取られ、回収される。
【0060】
一方、上記溶解除去処理を行う場合、先ず、制御部は、キャップ部7及びワイプ部8の不図示の昇降装置を駆動させ、インクが固着したシール部材62及びワイパー部材63を吸収部材12が張架される高さまで上昇させる。なお、このとき、全てのユニット61A〜61Eのシール部材62及びワイパー部材63を吸収部材12が張架される高さまで上昇させることが付着インク除去動作の効率化の面で好ましい。次に、制御部は、洗浄液供給装置80に洗浄液の供給指令を伝送する。洗浄液の供給指令を受けた洗浄液供給装置80は、アクチュエーター87を駆動させ、プーリー85を図9(a)に示す非接触位置から図9(b)に示す接触位置に移動させる。プーリー85が接触位置に位置すると、吸収部材12と吸収材83とが接触し、吸収材83に保持されている洗浄液が染み出すことで、吸収部材12に洗浄液が供給される。
【0061】
次に、制御部は、走行機構13を駆動させ、洗浄液を吸収した吸収部材12を走行させる。そして、制御部は、走行機構13で洗浄液を吸収した吸収部材12を長さ方向に走行させつつ、移動機構14を駆動させて吸収部材12をX軸方向に移動させる。
シール部材62及びワイパー部材63に付着、堆積した異物(インク)は、吸収部材12に吸収された洗浄液との接触により溶解し、洗浄液中に分散して吸収部材12に取り込まれ、除去される。本実施形態の洗浄液は、インクの種類に応じて選択されているため、効果的に異物を除去することができる。また、洗浄液を吸収した吸収部材12を走行させつつ相対移動させてシール部材62及びワイパー部材63の払拭を行うと、常に異物に対し新しい洗浄液が供給されるため、異物を溶解しながらの効果的な払拭を実行させることができる。さらに、本実施形態の吸収部材12は、図6に示すように、繊維束12aが2本撚り合わされて、谷部12bが構成されているため、Y軸方向の走行により、異物の削り落とし作用も得ることができる。この溶解払拭処理により異物(インク)を取り込んだ吸収部材12は、巻取リール17に巻き取られ、回収される。
【0062】
このように、上述した本実施形態によれば、複数のノズル24の開口端が配列されたノズル面23を有してノズル24から記録紙にインクを噴射する記録ヘッド21と、複数のノズル24を囲うようにノズル面23と当接してノズル24からインクを吸引する吸引動作を実行するキャップ部7と、ノズル面23と当接してノズル面23を払拭するワイピング動作を実行するワイプ部8と、を有するプリンター1であって、Y軸方向に所定長さ張架され、インクを吸収可能な線状の吸収部材12と、吸収部材12とキャップ部7のシール部材62及びワイプ部8のワイパー部材63とを相対移動させ、吸収部材12でシール部材62及びワイパー部材63に付着したインクを払拭させる移動機構14と、を有するという構成を採用することによって、シール部材62及びワイパー部材63に付着したインクを共通の部材で払拭して除去することができる。このため、シール部材62及びワイパー部材63の付着インクを除去する機構を共通化でき、また、付着インクを吸収した吸収部材12の交換作業も共通化できる。さらに、本実施形態では、吸収部材12に向けてノズル24からインクを予備噴射するフラッシング動作を実行させることで、シール部材62及びワイパー部材63に付着したインクの除去する部材と、フラッシング動作の際にインクを受ける部材とを共通化できるため、メンテナンス処理の効率化を図ることができる。
【0063】
以上、図面を参照して本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0064】
例えば、上述の実施形態においては、洗浄液の吸収部材12への供給は、吸収部材12をプーリー85で移動させて、貯溜部81の吸収材83に接触させることで行うと説明した。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではない。
例えば、洗浄液供給装置80の押し付け装置84を、図11に示すように、プーリー90,91,92で吸収部材12を予め撓ませた状態で保持させ、貯溜部81を吊り下げて支持するアーム部材86A,86Bを、アクチュエーター87A,87Bで上下方向に移動させることで貯溜部81を吸収部材12に対して近接/離間させ、洗浄液を吸収部材12に供給する構成としてもよい。この場合、図11(a)に示す状態が、吸収部材12と吸収材83(洗浄液)とを接触させない非接触位置となり、図11(b)に示す状態が、吸収部材12と吸収材83(洗浄液)とを接触させる接触位置となる。
【0065】
また、図12及び図13に示すように、洗浄液を吸収部材12に供給するための専用のプーリー93を設けて、溶解払拭処理をする際には、例えば図12に示すように、プーリー41に架けられた吸収部材12をプーリー93に架け替えることで、洗浄液を供給する構成であってもよい。プーリー93は、図13に示すように、貯溜部81Aに貯溜された洗浄液の液面より下方で回転自在な構成となっており、吸収部材12が洗浄液中を通過することで供給が行われる。
【0066】
また、例えば、上述の実施形態においては、本発明をラインヘッド方式のプリンターに適用した構成について説明した。しかしながら、本発明は、これに限定されるものではなく、シリアル方式のプリンターに適用することもできる。
また、上述の実施形態においては、メンテナンス処理の効率化を図るため、シール部材62及びワイパー部材63に付着したインクを除去する機構と、フラッシング動作の際にインクを受ける機構とを共通して用いたが、本発明は、この構成に限定されるものではなく、例えば、シール部材62及びワイパー部材63に付着したインクの除去する機構と、フラッシング動作の際にインクを受ける機構とを別々にしても良い。この場合、上述のフラッシングユニット11が、ヘッドユニット2と、キャップユニット6とにそれぞれ対応して別途設けられることとなる。
【0067】
また、上述の実施形態では、本発明の流体噴射装置をインクジェット式のプリンターに適用しているが、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に適用してもよい。すなわち、微小量の液滴を吐出する流体噴射ヘッド等を備える各種の流体噴射装置に適用可能である。なお、液滴とは、上述流体噴射装置から吐出される流体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう流体とは、流体噴射装置が噴射させることができるような材料であれよい。
【0068】
例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状態、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての流体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなどを含む。また、流体の代表的な例としては、上述実施形態で説明したようなインクが挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種流体組成物を包含するものとする。
【0069】
流体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む流体を噴射する流体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる流体を噴射する流体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。
【0070】
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置を採用してもよい。
【符号の説明】
【0071】
1…プリンター(流体噴射装置)、7…キャップ部(キャッピング装置)、8…ワイプ部(ワイピング装置)、11…フラッシングユニット、12…吸収部材(線状部材)、13…走行機構(走行装置)、14…移動機構(移動装置)、21(21A〜21E)…記録ヘッド(流体噴射ヘッド)、43,53…プーリー(支持部材)、62…シール部材(第1当接部)、63…ワイパー部材(第2当接部)、80…洗浄液供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルの開口端が配列されたノズル面を有して該ノズルから媒体に流体を噴射する流体噴射ヘッドと、前記複数のノズルを囲うように前記ノズル面と当接して前記ノズルから前記流体を吸引する吸引動作を実行するキャッピング装置と、前記ノズル面と当接して前記ノズル面を払拭するワイピング動作を実行するワイピング装置と、を有する流体噴射装置であって、
所定方向に所定長さ張架され、前記流体を吸収可能な線状の吸収部材と、
前記吸収部材と、前記キャッピング装置の前記ノズル面と当接する第1当接部及び前記ワイピング装置の前記ノズル面と当接する第2当接部と、を相対移動させ、前記吸収部材で前記第1当接部及び前記第2当接部に付着した前記流体を払拭させる移動装置と、を有することを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
前記相対移動する方向は、前記所定方向と交差する方向であることを特徴とする請求項1に記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記吸収部材を前記張架すると共に前記吸収部材をその長さ方向において移動自在に支持する支持部材と、
前記支持された前記吸収部材を前記長さ方向に走行させる走行装置と、を有することを特徴とする請求項1または2に記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記走行装置を駆動させて前記吸収部材を走行させつつ、前記移動装置を駆動させて前記相対移動を実行させる制御装置を有することを特徴とする請求項3に記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記吸収部材が前記走行する走行経路の所定位置において、前記吸収部材に洗浄液を供給して吸収させる洗浄液供給装置を有することを特徴とする請求項3または4に記載の流体噴射装置。
【請求項6】
前記走行装置及び前記洗浄液供給装置を駆動させて前記洗浄液を吸収した前記吸収部材を走行させつつ、前記移動装置を駆動させて前記相対移動を実行させる第2制御装置を有することを特徴とする請求項5に記載の流体噴射装置。
【請求項7】
前記吸収部材に向けて前記ノズルから前記流体を予備噴射するフラッシング動作を実行させる第3制御装置を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−194601(P2011−194601A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60950(P2010−60950)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】