説明

流体圧シリンダの潤滑構造

【課題】簡単な構造でピストンロッドの周面を長期に亘って潤滑させることができる流体圧シリンダの潤滑構造を提供する。
【解決手段】ピストンロッド13に装着された固形潤滑材31には、軸方向に対し直交するように延びる第1端面31aと、軸方向に対し斜めに交差するように延びる第2端面31bとが形成されている。ピストンロッド13には、固形潤滑材31の軸方向に沿って第1端面31aを押圧するOリング33が装着されているとともに、Oリング33による固形潤滑材31の押圧方向において第2端面31bより先方には、第2端面31bに当接して固形潤滑材31の軸方向への移動を規制するアダプタ24の蓋部24aが設けられている。第2端面31bを蓋部24aに当接させつつOリング33によって固形潤滑材31が押圧されることにより、第2端面31bの傾斜を利用して固形潤滑材31の内面をピストンロッド13の周面に押し付けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧シリンダの潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、流体圧シリンダにおいて、ピストンロッドの周面は作動油やグリース等の潤滑油が直接塗布されることで潤滑されている。しかしながら、ピストンロッドの往復運動に伴う、ロッドパッキン等とピストンロッドの周面との摺接等により潤滑油は徐々に掻き取られてしまうため、ピストンロッドの周面を長期に亘って潤滑させることができなくなる。
【0003】
そこで、ピストンロッドの周面を長期に亘って潤滑させることができる流体圧シリンダとして、例えば、特許文献1に開示のエアシリンダが提案されている。特許文献1のエアシリンダでは、ピストンロッドの周りに、ピストンロッドの周方向に沿って複数の固形潤滑材を配置するとともに、それら全ての固形潤滑材を外側から覆うように板ばねを配設し、板ばねによって全ての固形潤滑材の内面をピストンロッドの周面に常に押し付けるようにしている。
【0004】
そして、ピストンロッドが往復運動することで、固形潤滑材の内面に対しピストンロッドの周面が摺接するとともに、その摺接した部位が溶融して、ピストンロッドの周面が潤滑される。また、固形潤滑材は、板ばねによってピストンロッドに常に押し付けられているため、固形潤滑材の内面とピストンロッドの周面との摺接が繰り返し行われ、ピストンロッドの周面を長期に亘って潤滑させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭49−20581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のエアシリンダでは、ピストンロッドの周方向に沿って複数の固形潤滑材を配設する必要がある。しかも、それら全ての固形潤滑材の内面をピストンロッドの周面に押し付けるため、全ての固形潤滑材を外側から覆うように板ばねを配設する必要がある。このため、特許文献1のエアシリンダにおいては、ピストンロッドの周面を長期に亘って潤滑させるための構造が複雑であり、その組立が非常に面倒であるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、簡単な構造でピストンロッドの周面を長期に亘って潤滑させることができる流体圧シリンダの潤滑構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、シリンダボディから出没するピストンロッドに環状の固形潤滑材が装着された流体圧シリンダの潤滑構造であって、前記固形潤滑材において、該固形潤滑材の軸方向の両端面のうち一方に、前記軸方向に対し直交するように延びる第1端面が形成されるとともに、他方に前記軸方向に対し斜めに交差するように延びる第2端面が形成され、前記シリンダボディ内に、前記固形潤滑材の軸方向に沿って前記第1端面を押圧可能な押圧部材が設けられるとともに、前記押圧部材による前記固形潤滑材の押圧方向において前記第2端面より先方には、該第2端面が当接して前記固形潤滑材の軸方向への移動を規制する規制部が設けられ、前記第2端面を前記規制部に当接させつつ前記押圧部材によって前記固形潤滑材が押圧されることにより、前記第2端面の傾斜を利用して前記固形潤滑材の内面を前記ピストンロッドの周面に押し付けるように形成されていることを要旨とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の流体圧シリンダの潤滑構造において、前記シリンダボディ内には有蓋筒状をなすアダプタが配設されるとともに、前記アダプタの蓋部は、前記押圧部材による前記固形潤滑材の押圧方向における前記第2端面より先方に配設され、前記蓋部により前記規制部が形成されていることを要旨とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の流体圧シリンダの潤滑構造において、前記シリンダボディ内には有蓋筒状をなすアダプタが配設されるとともに、前記アダプタの蓋部は、前記押圧部材による前記固形潤滑材の押圧方向における前記第2端面より先方に配設され、さらに、前記第2端面と前記蓋部の間には別の固形潤滑材が配設され、該別の固形潤滑材の前記第1端面が前記蓋部に対向配置されるとともに一対の固形潤滑材の第2端面同士が互いに対向配置され、前記別の固形潤滑材の第2端面が前記規制部を形成していることを要旨とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の流体圧シリンダの潤滑構造において、前記押圧部材は、前記ピストンロッドに装着されるとともにピストンロッドと一体移動可能なOリングであることを要旨とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の流体圧シリンダの潤滑構造において、前記押圧部材は、ばね部材であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単な構造でピストンロッドの周面を長期に亘って潤滑させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は第1の実施形態のエアシリンダを示す断面図、(b)は固形潤滑材を示す斜視図。
【図2】ピストンの移動と共に固形潤滑材が移動した状態を示す断面図。
【図3】(a)は第2の実施形態のエアシリンダを示す断面図、(b)は固形潤滑材を示す斜視図。
【図4】ピストンの移動と共に固形潤滑材が移動した状態を示す断面図。
【図5】第1の実施形態のエアシリンダの別例を示す断面図。
【図6】第2の実施形態のエアシリンダの別例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
以下、本発明の流体圧シリンダの潤滑構造を、エアシリンダの潤滑構造に具体化した第1の実施形態を図1〜図2にしたがって説明する。
【0016】
図1(a)に示すように、流体圧シリンダとしてのエアシリンダ11は、シリンダボディ12によって外郭が形成されている。シリンダボディ12における軸方向一端(図1(a)では右端)寄りの位置には、第1給排ポート12aが形成されるとともに、シリンダボディ12における軸方向他端(図1(a)では左端)寄りの位置には、第2給排ポート12bが形成されている。また、シリンダボディ12内には、シリンダボディ12の軸方向へ延びるシリンダ孔12dが形成されるとともに、第1給排ポート12a及び第2給排ポート12bそれぞれはシリンダ孔12dに連通している。
【0017】
シリンダ孔12dの軸方向一端側は底部12cによって封止されている。また、シリンダボディ12の軸方向他端側の内側にはロッドメタル20及びアダプタ24が配設されている。ロッドメタル20及びアダプタ24は、サークリップ21により、シリンダボディ12の軸方向に沿ったシリンダボディ12内からシリンダボディ12外へ向けた移動が規制されている。ロッドメタル20の内周面にはゴム製のロッドパッキン22が装着されるとともに、ロッドメタル20の外周面にはゴム製のOリング23が装着されている。一方、アダプタ24は、軸方向一端側が開放されるとともに軸方向他端側に蓋部24aが形成された有蓋円筒状に形成されている。また、アダプタ24内には環状をなす凹部24bが形成されている。
【0018】
シリンダ孔12d内には、エアによりシリンダボディ12の軸方向に沿って移動可能なピストン14が収容されている。ピストン14は円環状をなすとともに、このピストン14にはピストンロッド13が一体移動可能に固定されている。そして、このピストン14により、シリンダ孔12d内が第1圧力作用室15と第2圧力作用室16とに区画されている。第1圧力作用室15には、シリンダボディ12の第1給排ポート12aが連通するとともに、第2圧力作用室16には第2給排ポート12bが連通している。
【0019】
ピストン14には、ピストン位置検出用の環状のマグネット17が埋設されるとともに、ピストン14の外周面にはゴム製のOリング14aが装着されている。また、ピストン14において底部12cと対向する端部には、ゴム等の弾性体からなるクッション部材18が装着されている。さらに、ピストン14におけるピストンロッド13側の端部には、ゴム等の弾性体からなる環状のクッション部材19が設けられている。
【0020】
ピストンロッド13は、ロッドメタル20及びアダプタ24内に挿通されるとともに、ロッドメタル20によってシリンダボディ12の軸方向に移動可能に支持されている。シリンダ孔12dにおいて、ピストンロッド13の周面と、アダプタ24の蓋部24aと、ロッドメタル20の端面とで区画される空間には収容空間K1が形成されている。
【0021】
収容空間K1内には、円環状をなすモリブデン製の固形潤滑材31が収容されるとともに、この固形潤滑材31の内側にピストンロッド13が挿通され、ピストンロッド13に固形潤滑材31が装着されている。固形潤滑材31の内径は、ピストンロッド13の直径と同じ又は僅かに大きく設定されるとともに、固形潤滑材31の外径はアダプタ24の内径より小さく設定されている。また、固形潤滑材31の軸方向の両端面のうち、固形潤滑材31の軸方向に直交し、かつロッドメタル20に対向する一方の端面を第1端面31aとするとともに、他方の端面を第2端面31bとする。第2端面31bは、固形潤滑材31の軸方向に対し斜めに交差する方向へ延びるように形成されている。よって、図1(b)に示すように、第2端面31bは、固形潤滑材31において軸方向に沿った長さ(厚み)が最も短くなる第1頂端31cから、軸方向に沿った長さ(厚み)が最も長くなる第2頂端31dに向けて斜めに傾斜するように形成されている。
【0022】
図1(a)に示すように、収容空間K1内において、ピストンロッド13には、押圧部材としてのOリング33が装着されるとともに、このOリング33は固形潤滑材31の第1端面31aとロッドメタル20の端面との間に位置している。Oリング33の内径は、ピストンロッド13の直径より僅かに小さく設定されており、ピストンロッド13と一体移動可能になっている。
【0023】
そして、ピストンロッド13が突出するようにピストン14が移動する際、Oリング33は、固形潤滑材31を、その軸方向に沿って第1端面31aから押圧する。また、Oリング33によって固形潤滑材31が押圧されると、固形潤滑材31の押圧方向の先方にはアダプタ24の蓋部24aが位置している。そして、押圧された固形潤滑材31は、第2端面31bが蓋部24aに当接して固形潤滑材31の軸方向への移動が規制される。したがって、アダプタ24の蓋部24aが、固形潤滑材31の軸方向への移動を規制する規制部を構成している。そして、本実施形態では、固形潤滑材31、Oリング33、及びアダプタ24によってエアシリンダ11の潤滑構造が形成されている。
【0024】
上記構成のエアシリンダ11では、第1給排ポート12aを介して第1圧力作用室15に空気が供給されるとともに、第2給排ポート12bを介して第2圧力作用室16の空気が排出されると、ピストン14がロッドメタル20に向けて移動するとともに、ピストンロッド13が突出方向へ移動する。一方、第2給排ポート12bを介して第2圧力作用室16に空気が供給されるとともに、第1給排ポート12aを介して第1圧力作用室15の空気が排出されると、ピストン14が底部12cに向けて移動するとともに、ピストンロッド13が没入方向へ移動する。
【0025】
ピストンロッド13を突出方向へ移動させるためのピストン14の移動時、ピストンロッド13の移動に伴いOリング33も突出方向へ移動する。すると、図2に示すように、Oリング33が固形潤滑材31の第1端面31aに当接するとともに、固形潤滑材31をピストンロッド13の突出方向へ押圧する。この押圧により固形潤滑材31は、その軸方向に沿ってアダプタ24の蓋部24aに向けて移動するように押圧される。すると、固形潤滑材31は、第2端面31bの第2頂端31d側が蓋部24aの内面に当接して、その移動が規制される。
【0026】
さらに、Oリング33により固形潤滑材31が押圧されると、固形潤滑材31には、第2端面31b側の第2頂端31dを基点として、第2端面31bを蓋部24a内面に向けて近づく方向への力、すなわち、固形潤滑材31を軸方向に対し傾動させる方向への力が作用する。すると、固形潤滑材31の内面のうち、第1頂端31cと第2頂端31dとを結ぶ直線上に位置する部位がピストンロッド13の周面に押し付けられるとともに、ピストンロッド13が移動することにより、ピストンロッド13が固形潤滑材31の内面に対し摺接する。その結果、固形潤滑材31において、ピストンロッド13の周面への摺接部位が溶融し、ピストンロッド13の周面に潤滑油が供給される。
【0027】
一方、ピストンロッド13を没入させる方向へピストン14が移動すると、ピストンロッド13の移動に伴いOリング33も没入方向へ移動する。すると、Oリング33が第1端面31aから離間するとともに、Oリング33による固形潤滑材31の押圧が解除される。すると、固形潤滑材31の内面をピストンロッド13の周面に押し付ける力が作用しなくなり、固形潤滑材31のピストンロッド13に対する摺接が解除される。
【0028】
上記実施形態では以下の効果を得ることができる。
(1)ピストンロッド13に円環状の固形潤滑材31を装着するとともに、ピストンロッド13の周面にOリング33を装着した。さらに、固形潤滑材31の第1端面31aを固形潤滑材31の軸方向に対し直交するように形成するとともに、第2端面31bを軸方向に対し斜めに傾斜するように形成した。そして、ピストンロッド13の移動に伴うOリング33の移動により、固形潤滑材31を第1端面31aから押圧して固形潤滑材31を軸方向へ移動させ、第2端面31bをアダプタ24の蓋部24aに当接させることができる。このとき、第2端面31bの傾斜を利用して、固形潤滑材31に対し傾動させる方向への力を作用させ、固形潤滑材31の内面をピストンロッド13の周面に押し付けることができる。
【0029】
その結果、ピストンロッド13が突出方向へ移動する毎に、固形潤滑材31によってピストンロッド13の周面を潤滑させることができ、ピストンロッド13の周面を長期に亘って潤滑させることができる。したがって、背景技術のように、ピストンロッド13の周面を長期に亘って潤滑させるため、複数の固形潤滑材を必要とし、さらに、複数の固形潤滑材を囲む板ばねを必要とする場合と比べて、潤滑構造の構造を簡単にすることができる。しかも、本実施形態の潤滑構造は、ピストンロッド13に固形潤滑材31とOリング33を装着するだけでよいため、背景技術と比べて潤滑構造の組立も簡単にすることができる。
【0030】
(2)固形潤滑材31を軸方向へ押圧するための手段として、ピストンロッド13に装着したOリング33を用いており、ピストンロッド13に対しOリング33が一体移動するようにOリング33の内径を調節するだけで、固形潤滑材31を軸方向へ押圧することができる。よって、簡単な構成で、固形潤滑材31を押圧可能とした結果として、ピストンロッド13の周面を長期に亘って潤滑することができ、潤滑構造を簡単にすることができる。
【0031】
(3)固形潤滑材31に傾斜する第2端面31bを形成するとともに、その第2端面31bをアダプタ24に当接させて移動を規制することにより、第2端面31bの傾斜を利用して固形潤滑材31の内面をピストンロッド13の周面に押し付けることができる。よって、1個の固形潤滑材31を用い、その固形潤滑材31に第2端面31bを形成するという簡単な構成であってもピストンロッド13の周面を常に潤滑させることができ、潤滑構造を簡単にすることができる。また、ピストンロッド13の潤滑のために用いられる固形潤滑材31は1個だけであるため、固形潤滑材31を収容するための収容空間K1は狭くてもよく、エアシリンダ11の軸方向への長さが大型化することを抑えることができる。
【0032】
(4)固形潤滑材31に傾斜する第2端面31bを形成するとともに、その第2端面31bをアダプタ24に当接させて移動を規制することにより、第2端面31bの傾斜を利用して固形潤滑材31の内面をピストンロッド13の周面に押し付けることができる。よって、第2端面31bの傾斜が維持される限り、固形潤滑材31の内面をピストンロッド13の周面に押し付けることができる。その結果として、背景技術のように、固形潤滑材をピストンロッドの周面に押し付けるための板ばねを必要とせず、簡単な構造でピストンロッド13の周面を長期に亘って潤滑することができる。
【0033】
(第2の実施形態)
以下、本発明の流体圧シリンダをエアシリンダに具体化した第2の実施形態を図3〜図4にしたがって説明する。なお、以下の説明では、既に説明した実施形態と同一構成について同一符号を付すなどし、その重複する説明を省略又は簡略する。
【0034】
図3(a)に示すように、収容空間K1内には、第1の実施形態の固形潤滑材31と同じ第1固形潤滑材41と、この第1固形潤滑材41とは別の固形潤滑材である第2固形潤滑材42が収容されている。第1固形潤滑材41及び第2固形潤滑材42の内径それぞれは、ピストンロッド13の直径と同じ又は僅かに大きく設定されるとともに、第1及び第2固形潤滑材41,42の外径はアダプタ24の内径より小さく設定されている。
【0035】
図3(b)に示すように、第1固形潤滑材41の軸方向両側の端面のうち、第1固形潤滑材41の軸方向に直交し、かつロッドメタル20に対向する一方の端面を第1端面41aとするとともに、他方の端面を第2端面41bとする。第2端面41bは、第1固形潤滑材41の軸方向に対し斜めに交差する方向へ延びるように形成されている。よって、第2端面41bは、第1固形潤滑材41において軸方向に沿った長さ(厚み)が最も短くなる第1頂端41cから、軸方向に沿った長さ(厚み)が最も長くなる第2頂端41dに向けて斜めに傾斜するように形成されている。さらに、第1固形潤滑材41は、その径方向に沿った長さが一定となるように形成されている。
【0036】
一方、第2固形潤滑材42の軸方向両側の端面のうち、第2固形潤滑材42の軸方向に直交し、かつアダプタ24の蓋部24aに対向する一方の端面を第1端面42aするとともに、他方の端面を第2端面42bとする。第2端面42bは、第2固形潤滑材42の軸方向に対し斜めに交差する方向へ延びるように形成されている。よって、第2端面42bは、第2固形潤滑材42において軸方向に沿った長さ(厚み)が最も短くなる第1頂端42cから、軸方向に沿った長さ(厚み)が最も長くなる第2頂端42dに向けて斜めに傾斜するように形成されている。さらに、第2固形潤滑材42は、その径方向に沿った長さが一定となるように形成されている。
【0037】
図3(a)に示すように、収容空間K1内において、第1固形潤滑材41と第2固形潤滑材42は、第1固形潤滑材41の第2端面41bと、第2固形潤滑材42の第2端面42bとが対向するように収容されている。また、収容空間K1内において、第1固形潤滑材41と第2固形潤滑材42は、第1固形潤滑材41の第1頂端41cと、第2固形潤滑材42の第2頂端42dとが対向するように収容されている。
【0038】
また、収容空間K1内において、Oリング33は第1固形潤滑材41の第1端面41aとロッドメタル20の端面との間に位置している。さらに、第2固形潤滑材42は、第1端面42aがアダプタ24の蓋部24aに対向している。そして、Oリング33によって第1固形潤滑材41が押圧されると、第1固形潤滑材41の押圧方向の先方にはアダプタ24の蓋部24aが位置している。そして、押圧された第1固形潤滑材41は、その第2端面41bが、蓋部24aに当接した第2固形潤滑材42の第2端面42bに当接して第1固形潤滑材41の軸方向への移動が規制される。したがって、第2固形潤滑材42の第2端面42bが、第1固形潤滑材41の軸方向への移動を規制する規制部を構成している。そして、本実施形態では、第1固形潤滑材41、第2固形潤滑材42、Oリング33、及びアダプタ24によってエアシリンダ11の潤滑構造が形成されている。
【0039】
さて、ピストンロッド13を突出方向へ移動させるためのピストン14の移動時、ピストンロッド13の移動に伴いOリング33も突出方向へ移動する。すると、図4に示すように、Oリング33が第1固形潤滑材41の第1端面41aに当接するとともに、第1固形潤滑材41をピストンロッド13の突出方向へ押圧する。この押圧により第1固形潤滑材41は、その軸方向に沿ってアダプタ24の蓋部24aに向けて移動するように押圧されるとともに、第2固形潤滑材42もアダプタ24の蓋部24aに向けて移動するように押圧される。すると、第2固形潤滑材42の第1端面42aが蓋部24aの内面に当接して移動が規制されるとともに、第1固形潤滑材41の第2端面41bが、第2固形潤滑材42の第2端面42bに当接して第1固形潤滑材41の移動が規制される。
【0040】
さらに、Oリング33により第1固形潤滑材41が第2固形潤滑材42に向けて押圧されると、第1固形潤滑材41の第2端面41bと、第2固形潤滑材42の第2端面42bとには、互いに滑る方向への力が作用する。すると、第1固形潤滑材41の内周面のうち、第2頂端41d寄りの部位がピストンロッド13の周面に押し付けられ、第2固形潤滑材42の内周面のうち、第2頂端42d寄りの部位がピストンロッド13の周面に押し付けられる。その結果、ピストンロッド13が移動することにより、ピストンロッド13が第1固形潤滑材41及び第2固形潤滑材42の内面に対し摺接し、ピストンロッド13の周面に潤滑油が供給される。
【0041】
一方、ピストンロッド13を没入させる方向へピストン14が移動すると、ピストンロッド13の移動に伴いOリング33も没入方向へ移動する。すると、Oリング33が第1固形潤滑材41の第1端面41aから離間するとともに、Oリング33による第1固形潤滑材41の突出方向への押圧が解除される。すると、両第2端面41b,42bが互いに滑る方向への力が作用しなくなり、第1固形潤滑材41及び第2固形潤滑材42のピストンロッド13に対する摺接が解除される。
【0042】
したがって、第2の実施形態によれば、第1の実施形態の効果(1)、(2)、(4)に加えて、以下に示す効果を得ることができる。
(5)第1固形潤滑材41と第2固形潤滑材42の2つの固形潤滑材を用いた。そして、ピストンロッド13の移動に伴うOリング33の移動により、第1固形潤滑材41を第1端面41aから押圧して第1固形潤滑材41及び第2固形潤滑材42を軸方向へ移動させ、第2固形潤滑材42をアダプタ24の蓋部24aに当接させることができる。このとき、第1固形潤滑材41と第2固形潤滑材42の第2端面41b,42bの傾斜により両第2端面41b,42bを滑らせて、第1固形潤滑材41と第2固形潤滑材42の内面をピストンロッド13の周面に押し付けることができる。よって、第1及び第2固形潤滑材41,42を用い、両第2端面41b,42b同士が滑る限りはピストンロッド13の周面を潤滑することができるため、潤滑構造の長寿命化を図ることができる。
【0043】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・ 図5に示すように、第1の実施形態において、Oリング33をピストンロッド13から取り外すとともに、ロッドメタル20の端面と固形潤滑材31の第1端面31aの間に押圧部材としてのばね部材35を配設してもよい。そして、このばね部材35により、固形潤滑材31をその軸方向に沿って押圧するようにしてもよい。
【0044】
また、図6に示すように、第2の実施形態において、Oリング33をピストンロッド13から取り外すとともに、ロッドメタル20の端面と第1固形潤滑材41の第1端面41aの間に押圧部材としてのばね部材35を配設してもよい。そして、このばね部材35により、第1固形潤滑材41をその軸方向に沿って押圧するようにしてもよい。
【0045】
このように構成すると、ばね部材35によって、第1の実施形態では第2端面31bを蓋部24aに常に当接させ、第2の実施形態では第2端面41b,42b同士を常に当接させることができる。よって、ばね部材35を用いることで、固形潤滑材31、第1固形潤滑材41、第2固形潤滑材42の内面をピストンロッド13の周面に常に押し付けることができる。
【0046】
・ 第1の実施形態において、固形潤滑材31を、第1端面31aが蓋部24a内面に対向し、第2端面31bがロッドメタル20の端面に対向するようにピストンロッド13に装着するとともに、Oリング33を、蓋部24aの内面と第1端面31aとの間に位置するようにピストンロッド13に装着してもよい。このように構成した場合、ピストンロッド13の没入方向への移動に伴うOリング33の移動により、固形潤滑材31を第1端面31aから押圧して固形潤滑材31を軸方向へ移動させ、第2端面31bをロッドメタル20の端面に当接させることができる。このとき、第2端面31bの傾斜を利用して、固形潤滑材31に対し傾動させる方向への力を作用させ、固形潤滑材31の内面をピストンロッド13の周面に押し付けることができる。なお、この場合、ロッドメタル20の端面が規制部を構成する。
【0047】
・ 第2の実施形態において、Oリング33を、蓋部24aの内面と第2固形潤滑材42の第1端面42aとの間に位置するようにピストンロッド13に装着してもよい。このように構成した場合、ピストンロッド13の没入方向への移動に伴うOリング33の移動により、第2固形潤滑材42を第1端面42aから押圧して第1固形潤滑材41及び第2固形潤滑材42を軸方向へ移動させ、第1固形潤滑材41をロッドメタル20の端面に当接させることができる。このとき、第1固形潤滑材41と第2固形潤滑材42の第2端面41b,42bの傾斜により両第2端面41b,42bを滑らせて、第1固形潤滑材41と第2固形潤滑材42の内面をピストンロッド13の周面に押し付けることができる。なお、この場合、第1固形潤滑材41が別の固形潤滑材を構成するとともに、第1固形潤滑材41の第2端面41bが規制部を構成する。
【0048】
・ 実施形態では、モリブデンからなる固形潤滑材31、第1固形潤滑材41、第2固形潤滑材42を用いたが、これに限らず、例えば、フッ素、リチウム、又はグラファイトからなる固形潤滑材を用いてもよい。
【0049】
・ 本発明の流体圧シリンダの潤滑構造を、エアシリンダ11の潤滑構造に具体化したが、これに限らず、例えば、油圧シリンダの潤滑構造に具体化してもよい。
【符号の説明】
【0050】
11…流体圧シリンダとしてのエアシリンダ、12…シリンダボディ、13…ピストンロッド、33…押圧部材としてのOリング、24…アダプタ、24a…規制部を形成する蓋部、31…固形潤滑材、31a,41a…第1端面、31b,41b…第2端面、35…押圧部材としてのばね部材、41…第1固形潤滑材、42…別の固形潤滑材であり規制部を形成する第2固形潤滑材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボディから出没するピストンロッドに環状の固形潤滑材が装着された流体圧シリンダの潤滑構造であって、
前記固形潤滑材において、該固形潤滑材の軸方向の両端面のうち一方に、前記軸方向に対し直交するように延びる第1端面が形成されるとともに、他方に前記軸方向に対し斜めに交差するように延びる第2端面が形成され、
前記シリンダボディ内に、前記固形潤滑材の軸方向に沿って前記第1端面を押圧可能な押圧部材が設けられるとともに、前記押圧部材による前記固形潤滑材の押圧方向において前記第2端面より先方には、該第2端面が当接して前記固形潤滑材の軸方向への移動を規制する規制部が設けられ、
前記第2端面を前記規制部に当接させつつ前記押圧部材によって前記固形潤滑材が押圧されることにより、前記第2端面の傾斜を利用して前記固形潤滑材の内面を前記ピストンロッドの周面に押し付けるように形成されている流体圧シリンダの潤滑構造。
【請求項2】
前記シリンダボディ内には有蓋筒状をなすアダプタが配設されるとともに、前記アダプタの蓋部は、前記押圧部材による前記固形潤滑材の押圧方向における前記第2端面より先方に配設され、前記蓋部により前記規制部が形成されている請求項1に記載の流体圧シリンダの潤滑構造。
【請求項3】
前記シリンダボディ内には有蓋筒状をなすアダプタが配設されるとともに、前記アダプタの蓋部は、前記押圧部材による前記固形潤滑材の押圧方向における前記第2端面より先方に配設され、さらに、前記第2端面と前記蓋部の間には別の固形潤滑材が配設され、該別の固形潤滑材の前記第1端面が前記蓋部に対向配置されるとともに一対の固形潤滑材の第2端面同士が互いに対向配置され、前記別の固形潤滑材の第2端面が前記規制部を形成している請求項1に記載の流体圧シリンダの潤滑構造。
【請求項4】
前記押圧部材は、前記ピストンロッドに装着されるとともにピストンロッドと一体移動可能なOリングである請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の流体圧シリンダの潤滑構造。
【請求項5】
前記押圧部材は、ばね部材である請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の流体圧シリンダの潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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