説明

流体投与装置の表面を処理する処理方法

流体投与装置の表面を処理する処理方法であって、流体と接触する1以上の構成部品の1以上の支持体表面に、前記流体と前記構成部品との間の相互反応を防止する薄膜を、化学グラフトを用いて形成する処理を含む処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体投与装置を対象とした表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体投与装置は公知であり、以下のものから成る。すなわち、1又は複数の貯蔵器、当該貯蔵器内で移動するポンプ、弁、ピストンなどの投与部材、そして、投与開口部を備えた投与ヘッドである。投与装置は通常、様々な材料から作られた構成部品を含む。それゆえ、貯蔵器についても、プラスチック又は合成材料から作られる場合もあれば、ガラス製、又は金属製の場合もある。各種部品のうち、ピストンやガスケットなどは、エラストマーなどの可撓性プラスチック材料から作られる。他の部品(例えば、圧着キャップ、スプリング、弁形成球体)は通常、金属製である。特に医薬の分野では、投与対象の流体と上記各種材料との間の相互反応の危険性は、前記流体に害を及ぼすおそれがある。相互反応の例としては、材料の分子の流体への浸出がある。特に鼻噴霧装置の場合、例えば、ホルモン、ペプチド、酵素のような、いくつかの有効成分は、相互反応によって品質が劣化するおそれがある。
【0003】
全ての既存の表面処理方法には問題が見られる。そうして、いくつか方法は、平坦な表面での使用にのみ適している。また、他の方法は、基材の選択が限られてしまう(例:金)。プラズマによる分子の重合は、複雑で高コストとなり、得られるコーティング層も、制御が難しく、経年劣化の問題が見られる。同様に、紫外線放射による分子の重合も、複雑で高コストとなり、感光性分子と共に用いる場合のみ機能する。同じことは原子移動ラジカル重合(ATRP)にも当てはまり、やはり複雑で高コストとなる。最後に、電気的グラフト法は、複雑であって、支持面が導電性である必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/078052号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記の問題を回避することのできる表面処理方法を提案することである。
具体的には、本発明は、効果的で、長持ちし、無公害で、しかも実施が容易な表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は、流体投与装置の表面を処理する処理方法であって、流体と接触する1以上の構成部品の1以上の支持体表面に、前記流体と前記構成部品との間の相互反応を防止する薄膜を、化学グラフトを用いて形成する処理を含む、という処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
効果的な実施の形として、前記グラフト処理は、流体と接触する前記支持体表面を1以上の定着剤を含んだ溶液に接触させる処理から成り、前記定着剤はクリーバブルなアリール塩であり、ビニル末端又はアクリル末端シロキサン、及び、ビニルモノマー又はアクリルモノマーから成るグループから選択された、1以上のモノマー又はポリマーであること、とする。
【0008】
効果的な点として、前記化学グラフトが、前記薄膜の分子と前記支持体表面との間に共有結合を生成する。これにより、強固で長持ちする接合が生成される。
また、前記化学グラフトは水媒体の中で実行するのが効果的である。こうすれば、無害又は安全で、環境に対して危険のない形で化学反応を利用することができる。
実施にあたって、クリーバブルな(cleavable)アリール塩は、アリールジアゾニウム塩、アリールアンモニウム塩、アリールホスホニウム塩、アリールスルホニウム塩、アリールヨードニウム塩から成るグループから選択される。
【0009】
クリーバブルなアリール塩は、一般式:ArN2+,X-(Arはアリール基を表し、X-は陰イオンを表す)の化合物から選択される。有機化合物の中のアリール基は芳香族環に由来する官能基である。
実施にあたって、X-陰イオンは、I-、Cl-、Br-などのハロゲン化物などの無機陰イオン;テトラフルオロボレートなどのハロゲノホウ酸;有機陰イオン(アルコラート、カルボン酸塩、過塩素酸塩、スルホン酸塩など)から選択される。
【0010】
実施にあたって、アリール基Arは、3〜8の炭素を有する1以上の芳香族環で構成される一置換又は多置換の芳香族基又はヘテロ芳香族基から選択可能である。ヘテロ芳香族化合物のヘテロ原子としては、N、O、P、Sから選択される。置換基としては、アルキル基及び1以上のヘテロ原子(N、O、F、Cl、P、Si、BrまたはS)がある。
実施にあたって、アリール基は、NO2;COH;CN;CO2H;ケトン;エステル;アミン;そしてハロゲンなどの誘引基によって置換されたアリール基から選択される。
【0011】
実施にあたって、アリール基は、フェニル基及びニトロフェニル基から成るグループから選択される。
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩は、以下から成るグループから選択される:フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート;4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート;4−ブロモフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート;4−アミノフェニルジアゾニウム塩化物;4−アミノメチルフェニルジアゾニウム塩化物;2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウム塩化物;4−ベンゾイルベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート;4−シアノフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート;4−カルボキシフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート;4−アセトアミドフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート;4−フェニル酢酸ジアゾニウムテトラフルオロボレート;2−メチル−4−[(2−メチルフェニル)ジアゼニル]ベンゼンジアゾニウム硫酸塩;9,10−ジオキソ−9,10−ジヒドロ−1−アントラセンジアゾニウム塩化物;4−ニトロナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレート;ナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレート。
【0012】
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩は、以下から成るグループから選択される:4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート;4−アミノフェニルジアゾニウム塩化物;2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウム塩化物;4−カルボキシフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート。
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩の濃度は、5×10-3モル(M)から10-1Mの範囲である。
【0013】
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩の濃度は、約5×10-2Mとする。
実施にあたって、クリーバブルなアリール塩は原位置(in situ)で調製される。
前記化学グラフト処理は、前記薄膜用のアンカー層の形成のためにジアゾニウム塩を化学的に活性化させることで開始される、とするのが効果的である。
効果的な構成として、前記化学グラフト処理は化学活性化によって開始される。
【0014】
実施にあたって、前記化学活性化は溶液中の還元剤の存在によって開始される。
実施にあたって、溶液は還元剤を含むものとする。
「還元剤」との用語は、酸化還元反応中に電子を供与する化合物を意味する。本発明の一つの局面として、クリーバブルなアリール塩の酸化還元電位に対する還元剤の酸化還元電位差は、0.3ボルト(V)から3Vの範囲にある。
【0015】
本発明の一つの局面として、還元剤は、鉄、亜鉛、ニッケルなどの、微粉砕可能な還元金属;メタロセンの形をとることの可能な金属塩;次亜リン酸、アスコルビン酸を含む有機還元剤、から成るグループから選択される。
実施にあたって、還元剤の濃度は0.005Mから2Mの範囲にある。
実施にあたって、還元剤の濃度は約0.6Mとする。
【0016】
実施にあたって、前記薄膜の厚みは1μm未満であり、10オングストローム(Å)から2000Åの範囲とするのが好ましい。10Åから800Åの範囲とするのが効果的であり、400Åから1000Åの範囲が好ましい。従来のコーティング技術では、ここまで薄い化学グラフト層を得ることは不可能である。
「ビニル末端又はアクリル末端シロキサン」との用語は、シリコン原子と酸素原子とが交互に並んだ直鎖又は分枝鎖で形成され、末端にビニル又はアクリルのモティーフ(motifs)を有する、飽和したシリコン及び酸素水素化物を意味する。
【0017】
実施にあたって、ビニル末端又はアクリル末端シロキサンは、ビニル末端又はアクリル末端ポリメチルシロキサンなどのビニル末端又はアクリル末端ポリアルキルシロキサン;ポリジメチルシロキサン-アクリレート(PDMS-アクリレート)などのビニル末端又はアクリル末端ポリジメチルシロキサン;ポリビニルフェニルシロキサンなどのビニル末端又はアクリル末端ポリフェニルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリアリールシロキサン;ビニル末端又はアクリル末端ポリメチルフェニルシロキサンなどのビニル末端又はアクリル末端ポリアリールアルキルシロキサン、から成るグループから選択される。
【0018】
実施にあたって、ビニルモノマー又はアクリルモノマーは、ビニルアセテート;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;メチルメタクリレート;エチルメタクリレート;ブチルメタクリレート;プロピルメタクリレート;ヒドロキシエチルメタクリレート;ヒドロキシプロピルメタクリレート;グリシジルメタクリレート;及びその派生物;アミノエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルを含むメタクリルアミドであるアクリルアミド;シアノアクリレート;ジアクリレート;ジメタクリレート;トリアクリレート;トリメタクリレート;テトラアクリレート;テトラメタクリレート;スチレン及びその派生物;パラクロロスチレン;ペンタフルオロスチレン;N−ビニルピロリドン;4−ビニルピリジン;2−ビニルピリジン;そして、ビニル、アクリロイル、メタクリロイルのハロゲン化物;ジビニルベンゼン、から成るグループから選択される。
【0019】
実施にあたって、前記溶液には電位差が与えられる。
「電位差」との用語は、2つの電極の間で計測される酸化還元電位差を意味する。
実施にあたって、電位差は2つの電極に接続された発電機から加えられる。当該2つの電極は、同一でも別種でもよく、浸漬処理中は溶液に浸されている。
実施にあたって、電極は、ステンレス鋼、鋼、ニッケル、プラチナ、金、銀、亜鉛、鉄、銅から選択される。単体(in pure form)でも合金でもよい。
【0020】
実施にあたって、電極はステンレス鋼で作られたものとする。
実施にあたって、発電機から加えられる電位差は0.1Vから2Vの範囲にある。
実施にあたって、その値は約0.7Vとする。
実施にあたって、電位差は化学電池によって生じさせられる。
「化学電池」との用語は、イオンブリッジを介して相互接続された2つの電極から成る電池を意味する。本発明における2つの電極は、電位差が0.1Vから2.5Vの範囲となるように適切に選択される。
【0021】
実施にあたって、化学電池は、溶液に浸された2つの異なる電極の間で形成される。
実施にあたって、電極は、ニッケル、亜鉛、鉄、銅、銀から選択される。単体でも合金でもよい。
実施にあたって、化学電池が生じさせる電位差は0.1Vから1.5Vの範囲とする。
実施にあたって、電位差は約0.7Vとする。
【0022】
実施にあたって、処理(b)で槽に浸けられている基材と、同様に処理(b)で槽に浸される電極との間の接触を回避するために、電極は化学的に隔絶されている。
別の実施の形では、前記構成部品のうち、特に圧着キャップ、スプリング、または弁形成球体は、金属製とする。
また、別の実施の形では、前記構成部品のうち、特にピストンやガスケットは、エラストマーなどの可撓性材料から作られる。
【0023】
また、別の実施の形では、前記構成部品はポリエチレンやポリプロピレンなどの合成材料から作られる。
また、別の実施の形では、前記構成部品のうち、特に貯蔵器は、ガラス製とする。
効果的な点として、本方法は、化学グラフトを用いて、前記支持体表面に1層以上の追加薄膜を形成する処理を更に含む。
【0024】
効果的な点として、本方法は、前記支持体表面に前記流体との間の相互反応を防止する第1の追加薄膜を、化学グラフトを用いて形成する処理を含む。
効果的な点として、本方法は、流体投与装置の駆動中に互いに対して相対的に移動する2つの構成部品の間の摩擦を抑制する目的で、前記支持体表面に化学グラフトを用いて第2の追加薄膜を形成する処理を含む。
【0025】
最初の変形例では、前記1層以上の追加薄膜は、単一要素の槽(single-component bath)内においてそれぞれ実施される1以上の連続した化学グラフト処理において積層される。
別の変形例では、前記1層以上の追加薄膜は、複数要素の槽(multi-component bath)内において実施される1回の化学グラフト処理において、同時に前記支持体表面に積層される。
【0026】
効果的な点として、前記流体は、特に点鼻又は経口の形で噴霧される医薬である。
より具体的に言えば、本発明は、国際公開第2008/078052号に記載されたものに類似の方法の利用法を提供するものである。当該国際公開に記載されているのは、非電気化学的条件の下で堅い支持体の表面に有機薄膜を設ける方法である。驚くべきことに、このタイプの方法は、点鼻又は経口型の投与装置内の医薬流体と接触する表面に薄い殺菌性又は静菌性の薄膜を形成するのに適していることが分かった。上記のグラフト法のそうした用法は、これまで考えられていなかった。
【0027】
要約すれば、本方法は、様々な材料(硬質プラスチック、軟質プラスチック、金属、ガラスなど)から成る支持体の表面に薄膜を設けることを目的とする。本方法は主に、前記支持体表面を液体溶液に漬ける処理から成る。液体溶液は1以上の溶媒と1以上の定着剤とを含み、当該定着剤からはラジカル体(radical entities)の形成が可能である。
「薄膜」とは、特に有機性のポリマー膜であって、例えば、有機化学種の複数の単位から生じ、本方法が実施される支持体表面に共有結合の形で結合されるものである。具体的には、支持体表面に共有結合の形で結合され、類似の性質の構造単位から成る1以上の層を含む、という膜である。膜の厚みに応じ、各種単位の間で生じる共有結合によって結合力が提供される。
【0028】
本方法に関連して用いられる溶媒の性質は、プロトン性でも非プロトン性でもうおい。前記溶媒は定着剤に溶けるものが好ましい。
「プロトン性溶媒」との用語は、陽子の形で放出することの可能な水素原子を1以上含む溶媒を意味する。プロトン性溶媒は、以下から成るグループから選択すればよい。すなわち、水;脱イオン水;蒸留水(酸性化してもよいが、必須ではない);酢酸;メタノールやエタノールなどのヒドロキシル化溶媒;エチレングリコールなどの低分子量の液体グリコール;そして、これらの混合物。最初の例として、プロトン性溶媒は、プロトン性溶媒単独で成るものとしてもよいし、異なるプロトン性溶媒の混合物によって成るものとしてもよい。別の例として、プロトン性溶媒又はプロトン性溶媒の混合物に1以上の非プロトン性溶媒を混合してもよい。理解されるであろうが、この場合、結果として生じる混合物はプロトン性溶媒の特徴を示すものでなければならない。好適なプロトン性溶媒は酸性化水であり、より具体的に言えば、酸性化した蒸留水又は酸性化した脱イオン水である。
【0029】
「非プロトン性溶媒」との用語は、プロトン性ではないと考えられる溶媒を意味する。非極限状況の下では、こうした溶媒は、陽子の放出や受け入れには適していない。非プロトン性溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF);アセトン;ジメチルスルホキシド(DMSO)から選択するのが効果的である。
「定着剤」との用語は、特定の条件下で、ラジカル化学グラフトなどのラジカル反応によって支持体表面に化学吸着するのに適した有機分子全般を指す。そのような分子は、ラジカルと反応するのに適した官能基を少なくとも1つ含み、更に、化学吸着後に別のラジカルと反応する反応基を含む。従って、最初の分子が支持体表面にグラフトされた後、分子はポリマー膜を形成することができ、更にその後、環境に存在する他の分子と反応することができる。
【0030】
「ラジカル化学グラフト」との用語は、具体的には、不対電子を有する分子実体を用いて、共有結合の形で支持体表面との結合を形成することを指す。その場合の前記分子実体は、それらがグラフトされる支持体表面とは関わりなく発生させられる。そのため、ラジカル反応の結果として、共有結合が、先ず対象の支持体表面とグラフトされる定着剤の派生物との間に形成され、その後、グラフトされた派生物と環境に存在する分子との間に形成される。
【0031】
「定着剤の派生物」との用語は、具体的には、定着剤から生じる化学的単位を指し、当該定着剤がラジカル化学的グラフトによって、特に堅い支持体の表面又は他のラジカルと化学反応した後に生じるものである。当業者にとっては自明であろうが、定着剤の派生物の化学吸収の後に別のラジカルと反応する官能基は、特に堅い支持体の表面との共有結合に関連する官能基とは別のものである。定着剤については、以下のものから成るグループから選択されるクリーバブルなアリール塩とするのが効果的である。すなわち、アリールジアゾニウム塩;アリールアンモニウム塩;アリールホスホニウム塩;アリールスルホニウム塩;アリールヨードニウム塩。
【0032】
水媒体の中で実現される、支持体表面への直接的共有結合に関する変形例として、先にグラフトしておいた多孔層に浸み込ませる、という方法を用いることも可能である。
本発明の効果的な実施法では、化学グラフトを用いて、単一の支持体表面に少なくとも1つの付加薄膜を形成する。これにより、支持体表面に他の特性が少なくとも1つ追加される。投与対象の流体は、それが接触する表面に付着する傾向があり、これは特に、投与される1回分の量の再現性に悪影響を及ぼすおそれがある。効果的な点として、本発明によれば、流体の支持体表面への付着を防止する第1の追加薄膜を化学グラフトによって形成することができる。また、化学グラフトを用いて第2追加薄膜を設けることで支持体表面に第3の特性を持たせる、という用法が考えられる点も効果的である。例えば、流体投与装置では、いくつかの部品は互いに対し相対移動するため、摩擦が原因で詰まってしまうおそれがあり、そうなると、装置は適正な動作ができなくなる。また、本発明によれば、効果的な点として、駆動中に相対移動する2つの構成部品間の摩擦を抑制する第2の追加薄膜を、化学グラフトを用いて形成することができる。これらの追加薄膜は、連続した化学グラフト処理で設けることもできる。その場合、各回の化学グラフト処理は、それぞれ単一要素の槽内において実施することができる。留意すべき点として、連続的に実施されるこれらの化学グラフト処理は、どんな順序で実施してもよい。なお、変形例では、別のやり方として、追加薄膜を1回の化学グラフト処理で設けることもできるが、その場合、当該化学グラフト処理は複数要素の槽内において実施される。また、これら2つの変形例を組み合わせることも考えられる。
【0033】
本発明は、貯蔵器に設置されたポンプ又は弁を有し、駆動によって所定量を複数回連続的に投与する、という複数回使用型の装置に用いられる。本発明はまた、小分け式の粉末吸入器の場合のように、各々に1回分の流体が格納された複数の別個の貯蔵器を有する、複数回使用型の装置に用いられる。本発明はまた、駆動のたびにピストンが貯蔵器内を直接移動する、1回用又は2回用の装置に用いられる。本発明は、特に、点鼻式又は経口式の噴霧装置、目薬投与装置、そして、注射器型の針装置に用いられる。
【0034】
本発明は更に、流体投与装置のうち前記流体と接触する1以上の構成部品の1以上の支持体表面に、前記流体と前記構成部品との相互反応を防止する薄膜を形成することを目的とした、本発明のグラフト方法の使用法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に示す例はガラス製容器の中で実行した。特記する場合を除き、これらの例は、大気における標準的な温度・圧力条件(約1気圧(atm)で約23℃)の下で実行した。また、特に言及しない限り、使用した試薬は、市場に出ているものを直接入手して使用しており、追加の純化処理は行っていない。鋼製のサンプルは、環境温度で10分間、UV−オゾン処理した。
【0036】
例1−ポンプの金属製部品へのポリ(ブチルメタクリレート)(BUMA)のバリア膜のグラフト
「ポンプ」という用語は、内部で1以上のピストンが摺動するポンプ本体を有する、手動の流体投与装置を意味する。
先ず、ドデシルスルホン酸ナトリウム(0.283グラム(g)、0.5×10-3モル(mol))を33ミリリットル(mL)のミリQ(mQ)水に溶かした。そこにブチルメタクリレート(0.711g、5×10-3モル)を加え、強力な磁気撹拌でエマルジョンにした。
【0037】
4−アミノ安息香酸(0.686g、7.5×10-3mol)を、塩化水素酸(30mLのmQ水に1.9mL)及び次亜リン酸(3.2mL、3.1×10-2mol)の溶液に溶かした。そして、当該溶液を上記BUMAエマルジョンに加えた。
そして、当該エマルジョンに、30mLのmQ水に入れたNaNO2(0.328g、4.8×10-3mol)溶液を加えた後、316Lステンレス鋼の球体及びスプリングのポンプ用サンプルを入れた。
【0038】
30分間反応させた後、サンプルを取り出し、Palmolive洗浄液の10%の溶液に入れ、40℃で磁気撹拌しながらすすいだ。すすぎにあたっては、mQ水の水槽で上記10%の溶液を噴射した。すすぎの後、サンプルは窒素の中で乾燥させた。
赤外反射吸収分光(IRRAS)(Hyperion)による球体の分析により、グラフトを確認した。1716センチメートル毎(cm-1)におけるBUMA膜の特定帯域が存在していた。
【0039】
サンプルに対するグラフトの効果は、不動態化テストによって確認した。そのために、100gのサンプルを、40℃で15時間(h)、0.1Mの塩化水素酸溶液の中で鉱化した(mineralized)。そして、当該溶液を2mL採取した。250グラム・パー・リットル(g/L)の酢酸ナトリウム溶液によって、pHを3.5に調整した。1,10−フェナントロリンの溶液1mLを加えて、鉄イオン(色は赤)の存在を確認した。
【0040】
例2−ポンプの金属部品へのポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)バリア膜のグラフト
先ず、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(0.849g、1.5×10-2mol)を100mLのmQ水に溶かした。そこにビニル末端ポリ(ジメチルシロキサン)(10g/Lで3g)を加え、そうして得られた混合液を磁気撹拌してエマルジョンを形成した。
【0041】
4−アミノ安息香酸(2.058g、2.25×10-2mol)を、塩化水素酸(90mLのmQ水に5.8mL)及び次亜リン酸(9.7mL、50%)の溶液に溶かした。そして、当該溶液を上記PDMSエマルジョンに加えた。
そして、当該エマルジョンに、NaNO2水溶液(0.984g、1.44×10-2mol)を90mL加えた後、316Lステンレス鋼の球体及びスプリングを入れた。
【0042】
30分間反応させた後、サンプルを取り出し、Palmolive洗浄液の10%の溶液の中で、40℃で超音波撹拌しながらすすいだ。すすぎにあたっては、水槽の中で上記10%の溶液を噴射した。すすぎの後、サンプルは窒素の中で乾燥させた。
こうして処理したサンプルは、不動態化テストに合格した。テストで得られた結果を下の表にまとめる。
【0043】
【表1】

【0044】
+++ テスト結果が陽性 (腐食あり)
OOO テスト結果が陰性 (腐食なし)
例3−電位差の存在する状況でのステンレス鋼帯材へのアクリルPDMSのポリマー膜の化学グラフト
先ず、PEサンプルをエタノールに入れて5分間超音波洗浄した(100ワット(w)の電力で、温度は40℃)。
【0045】
二相溶液を2段階で調製した。先ずビーカー(1)に、毎分300回転(rpm)で磁気撹拌しながら、以下のものを順番に入れた:PDMS−アクリレート(1g/L);8.5重量%(%wt)の割合(4.37g/L)で水に入れたBrij 35(登録商標)の溶液;33mLの脱イオン(DI)水。その後、温度40℃で超音波を当てながら、200ワット(W)(100%)の電力で、15分間にわたって乳化を生じさせた。
【0046】
その後ビーカー(2)に、磁気撹拌(300rpm)しながら、以下を加えた:ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート(0.05mol/L);130mLのDI水;塩化水素酸(0.23mol/L)。
ビーカー(2)の内容物を、ビーカー(1)のエマルジョンに注いだ。そして、ステンレス鋼帯材(2個);亜鉛メッキした巻き鋼線(10回巻、すなわち約25〜30センチメートル(cm));巻きニッケル(Ni)線(10回巻、すなわち約25〜30センチメートル(cm))をビーカー(1)内に配置した。鋼線及びニッケル線をポテンショスタットにつなぎ、電流計を直列に接続した。ポテンショスタットからは0.5Vの電位差を加え、時間経過に沿って電流計で電流を計測した。
【0047】
最終段階として、上記組立物を準備した後、次亜リン酸(0.7mol/L)を最後に加え、それによって反応を開始させた。環境温度で30分間反応させた後、ステンレス鋼帯材を取り出した。そして、水(1段階(a cascade))、エタノール(1段階)、そして最後にイソプロパノールの順で連続してすすぎを行った。すすぎは、ソックスレーの中で16時間行った。
【0048】
ソックスレー抽出器の使用により、ステンレス鋼帯材表面のアクリルPDMSの化学グラフトの状態を確認することが可能となった。
IR分光学による解析を実施した。赤外線スペクトルでは、Si−CH3結合の振動に一致する1260cm-1の特有帯域の存在によって、アクリルPDMSのグラフトを確認することができた。
【0049】
また、当該ステンレス鋼帯材は、不動態化テストにも合格した。
当業者であれば、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱しない形で、様々な変更を考案することが可能であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体投与装置の表面を処理する処理方法であって、
流体と接触する1以上の構成部品の1以上の支持体表面に、前記流体と前記構成部品との間の相互反応を防止する薄膜を、化学グラフトを用いて形成する処理を含むこと、
を特徴とする処理方法。
【請求項2】
前記グラフト処理は、流体と接触する前記支持体表面を1以上の定着剤を含んだ溶液に接触させる処理から成り、前記定着剤はクリーバブルなアリール塩であり、ビニル末端又はアクリル末端シロキサン、及び、ビニルモノマー又はアクリルモノマーから成るグループから選択された、1以上のモノマー又はポリマーであること、
を特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記化学グラフトは、前記薄膜の分子と前記支持体表面との間に共有結合を生じさせること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記化学グラフトは水媒体の中で実行されること、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項5】
クリーバブルなアリール塩は、アリールジアゾニウム塩と、アリールアンモニウム塩と、アリールホスホニウム塩と、アリールスルホニウム塩と、アリールヨードニウム塩と、から成るグループから選択されること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項6】
還元剤は、
微粉砕可能な鉄、亜鉛又はニッケルである還元金属と、
メタロセンの形をとることの可能な金属塩と、
次亜リン酸又はアスコルビン酸である有機還元剤と、
から成るグループから選択されること、
を特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項7】
前記化学グラフト処理は化学活性化によって開始されること、
を特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項8】
前記化学活性化は溶液中の還元剤の存在によって開始されること、
を特徴とする請求項7に記載の処理方法。
【請求項9】
ビニル末端又はアクリル末端シロキサンは、
ビニル末端又はアクリル末端ポリメチルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリアルキルシロキサンと;
ポリジメチルシロキサン-アクリル酸塩(PDMS-アクリル酸塩)であるビニル末端又はアクリル末端ポリジメチルシロキサンと;
ポリビニルフェニルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリフェニルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリアリールシロキサンと;
ビニル末端又はアクリル末端ポリメチルフェニルシロキサンであるビニル末端又はアクリル末端ポリアリールアルキルシロキサンと、
から成るグループから選択されること、
を特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項10】
ビニルモノマー又はアクリルモノマーは、
ビニルアセテート;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;メチルメタクリレート;エチルメタクリレート;ブチルメタクリレート;プロピルメタクリレート;ヒドロキシエチルメタクリレート;ヒドロキシプロピルメタクリレート;グリシジルメタクリレート;及びその派生物;アミノエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルを含むメタクリルアミドであるアクリルアミド;シアノアクリレート;ジアクリレート;ジメタクリレート;トリアクリレート;トリメタクリレート;テトラアクリレート;テトラメタクリレート;スチレン及びその派生物;パラクロロスチレン;ペンタフルオロスチレン;N−ビニルピロリドン;4−ビニルピリジン;2−ビニルピリジン;そして、ビニル、アクリロイル、メタクリロイルのハロゲン化物;ジビニルベンゼン、から成るグループから選択されること、
を特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項11】
電位差が前記溶液に加えられること、
を特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項12】
電位差は、2つの電極に接続された発電機から加えられ、当該2つの電極は、同一でも別種でもよく、浸漬処理の間は溶液に浸されていること、
を特徴とする請求項11に記載の処理方法。
【請求項13】
電位差は化学電池によって発生させられること、
を特徴とする請求項11に記載の処理方法。
【請求項14】
前記構成部品である圧着キャップ、スプリング又は弁形成球体は金属製であること、
を特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項15】
前記構成部品であるピストン又はガスケットは可撓性材料から作られており、当該可撓性材料としてはエラストマーがあること、
を特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項16】
前記構成部品が合成材料で作られており、当該合成材料としてはポリエチレン又はポリプロピレンがあること、
を特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項17】
前記構成部品である貯蔵器は、ガラス製であること、
を特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項18】
前記薄膜の厚みは1μm未満であり、10Åから2000Åの範囲が好ましいこと、
を特徴とする請求項1乃至17のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項19】
流体投与装置の駆動中に移動する、当該流体投与装置の1以上の可動構成部品の1以上の支持体表面に、前記流体と接触すると共に減摩特性を有する薄膜を形成する処理を行い、それによって前記流体と前記構成要素との間の相互反応を防止することを目的とした、請求項1乃至18のいずれか一項に記載の処理方法の使用法。

【公表番号】特表2013−515803(P2013−515803A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545399(P2012−545399)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052880
【国際公開番号】WO2011/077049
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(502343252)アプター フランス エスアーエス (144)
【Fターム(参考)】