流体搬送機構を有する診断用試験片
【課題】穿刺動作から得られた血液サンプルを、毛細管流路を介して測定位置へ搬送することを促進する。
【解決手段】血液サンプルを試験する試験片10は、毛細管流路20の口部21で終端する流体搬送経路30が、細片の主面上に画定されている。この流体搬送経路は、流路の口部とは反対側の一端部に下垂部分50を含む。この下垂部分は、細片の、流体サンプルに面する側から離れて延び、したがって、下垂部分と接触した流体サンプルの液滴は、毛細管流路の口部の方に送られることになる。その後、サンプルは、毛細管作用によって測定位置へと移動する。
【解決手段】血液サンプルを試験する試験片10は、毛細管流路20の口部21で終端する流体搬送経路30が、細片の主面上に画定されている。この流体搬送経路は、流路の口部とは反対側の一端部に下垂部分50を含む。この下垂部分は、細片の、流体サンプルに面する側から離れて延び、したがって、下垂部分と接触した流体サンプルの液滴は、毛細管流路の口部の方に送られることになる。その後、サンプルは、毛細管作用によって測定位置へと移動する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体サンプルの採取および試験の分野に関する。具体的には、本発明は、人体から得られた血液サンプルを、試験片上の測定位置へと搬送することを促進する機構を有する試験片を対象とする。
【背景技術】
【0002】
医療および診断分野、具体的には糖尿病治療分野では、試験片上に採集された血液サンプルなどの流体サンプルに対して試験を実施することがしばしば望まれる。サブマイクロリットルのサンプル(すなわち、1μL以下の容量を有するサンプル)を含めて、より少量の流体サンプルを採集し、試験するという動向がある。このような状況では、試験片上で採集された流体サンプルを、その細片上の測定位置に送り、サンプルに必要となる試験を実施するために、十分な量のサンプルが利用可能となるように確保できることが望ましい。
【0003】
その意味で、使用者の手を煩わせずに、流体サンプルを測定位置に送り、測定を実施するのに十分なサンプルを確保する手段を有することが望ましい。
【0004】
本願と同時に出願された出願では、湾曲部分を有する細片が、使用者の身体から採集された流体サンプルと対向して配置される装置が提案されている。湾曲運動により、てこの作用を利用して、細片上の流体サンプルを付着させ、搬送力を生じさせて、所与の最少サンプル量から、十分なサンプルを測定位置に確実に到達させる。こうした状況では、流体が細片の巻湾曲部分と接触した後、流体の液滴が細片上の測定位置へと移動することを促進する細片を有することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7192405号明細書
【特許文献2】米国特許第7498132号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、本発明は、例えば、穿刺動作で患者の身体から得られた血液サンプルを含めた流体サンプルを試験する診断用試験片である。この細片は、サンプルに面して配置される第1の主面を有する。一端部に口部を有し、反対側の端部に向けて測定位置を含む毛細管流路が、主面側に配置され、したがって、細片と接触した流体サンプルは、口部から、毛細管流路を介して測定位置へと移動する。この細片は、毛細管流路の口部に一端部を有するように画定することができる流体搬送経路を備える。下垂部分が、細片の、流体サンプルに面する側から離れて延び、したがって、下垂部分と接触した流体サンプルの液滴は、下垂部分から、流体搬送経路に沿って、毛細管流路の口部まで送られることになる。
【0007】
好ましい実施形態では、細片は、ランセットを挿入するためのランセット孔を備え、流体搬送経路は、下垂部分に隣接するランセット孔側から、毛細管流路の口部まで延びている。ランセットを孔に挿入して、患者から血液を採取し、このランセット孔から、ランセットを引き抜く。この細片は、流体サンプルと接触する部分に巻湾曲部を有し、そのため、ランセット孔側にある下垂部分が、流体サンプルの方向に延びることになる。こうした下垂部分は、例えば、孔の両側から延びるスリットを用いて実現することができる。下垂部分の幅を低減させることによって、液滴が細片の長手方向中央線の方に、かつ毛細管流路の口部の方に誘導されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明による試験片を示す図である。
【図2A】試験片積層体を形成するために積み重ねることができる層を示す図である。
【図2B】試験片積層体を形成するために積み重ねることができる層を示す図である。
【図2C】試験片積層体を形成するために積み重ねることができる層を示す図である。
【図2D】試験片積層体を形成するために積み重ねることができる層を示す図である。
【図3】図2Aから図2Dの積み重ねた層の断面図である。
【図4A】サンプルと接触させる手順中の異なる段階にある、試験すべき血液サンプル近傍で湾曲状態にある、本発明による試験片を示す図である。
【図4B】サンプルと接触させる手順中の異なる段階にある、試験すべき血液サンプル近傍で湾曲状態にある、本発明による試験片を示す図である。
【図4C】サンプルと接触させる手順中の異なる段階にある、試験すべき血液サンプル近傍で湾曲状態にある、本発明による試験片を示す図である。
【図5A】流体サンプルの液滴が試験片と接触した後の、試験片上の流体サンプル液滴の異なる段階における位置を示す図である。
【図5B】流体サンプルの液滴が試験片と接触した後の、試験片上の流体サンプル液滴の異なる段階における位置を示す図である。
【図5C】流体サンプルの液滴が試験片と接触した後の、試験片上の流体サンプル液滴の異なる段階における位置を示す図である。
【図5D】流体サンプルの液滴が試験片と接触した後の、試験片上の流体サンプル液滴の異なる段階における位置を示す図である。
【図6】本発明による試験片の代替的実施形態を示す図である。
【図7A】下垂部分が異なる形状および構成を有する、本発明による試験片の実施形態を示す図である。
【図7B】下垂部分が異なる形状および構成を有する、本発明による試験片の実施形態を示す図である。
【図7C】下垂部分が異なる形状および構成を有する、本発明による試験片の実施形態を示す図である。
【図7D】下垂部分が異なる形状および構成を有する、本発明による試験片の実施形態を示す図である。
【図7E】下垂部分が異なる形状および構成を有する、本発明による試験片の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1を参照すると、試験片10が、主面を上にして示されている。毛細管流路20の機構を示すために、上面層が取り除かれている。流体搬送経路30が、下垂部分50から毛細管流路20の口部21まで延びている。図示の実施形態では、流体搬送経路30の両側に、トレンチ80が陥凹している。サンプル流体の、流体搬送経路30に対する表面張力および付着性によって、サンプル流体がトレンチ80に流れ込むことが防止される。
【0010】
この細片は、図2A、図2B、図2C、および図2Dに示すような諸層から構成された多層積層体でよく、それらの諸層を積み重ねると、図3に示すような断面構成が得られる。細片を形成するために使用する層は、下垂部分50を形成する切抜き部22、24でパターニングされた層18と、血糖の電気化学測定用試薬ウェル26、28を画定している層16と、毛細管流路壁を画定している層14と、毛細管流路の上面を形成し、流路の口部にノッチ32、流路の後部に通気孔34を含む上面層12とを含み、これらのノッチおよび通気孔は、サンプルの毛細管流を補助する。これらの層の設計は、本発明の範囲から逸脱することなく改変することができる。多層積層体試験片の構造が記載されており、(例えば、参照により本明細書に組み込む特許文献1および2参照)、本明細書ではさらに詳述はしない。
【0011】
これらの図に示す実施形態では、ランセット孔空間40が、ランセット挿入のために設けられている。流体搬送経路30が、ランセット孔空間40の縁部から、毛細管流路20の口部まで延びている。図示の実施形態では、毛細管流路20は、電気化学反応を利用した血糖測定などの診断試験を実施するための試薬を収容するウェル26、28を備える。しかし、診断試験を実施するどのような方法でも使用することができ、本発明は、診断試験の実施のために電気化学試薬を使用することに限定されない。
【0012】
流体搬送経路30は、好ましくは疎水性材料から構築され、したがって、流体サンプルは、流体搬送経路と、少なくとも約50度、好ましくは約60度、最も好ましくは約70度超の接触角を形成しなければならない。適切な特性を有するMylar(登録商標)などの材料を、積層体材料として使用することができる。あるいは、流体搬送経路用の異なる材料に、より疎水性を与えるために、それだけに限られるものではないが、シランコーティングまたはRainex(登録商標)コーティングを含めた処理を実施することができる。
【0013】
流体搬送経路30は、下垂部分50を備える。細片が、試験すべき流体サンプルとまず接触する際、この下垂部分50が、流体サンプルの液滴と優先的に接触し、したがって、液滴は細片の中央に送られることになる。下垂部分の縁部は、接触点で幅dが低減しており、そのため、液滴が細片の中央の方に、かつ毛細管流路の口部の方に送られることになる。
【0014】
流体搬送経路30の長さは、約2mmから約6mmまで変えることができる。毛細管が充満する前に液滴を検出することが可能となるように、経路の長さは血液の液滴直径よりも大きくしなければならない。経路の長さが増大するにつれて、サンプルが目減りする可能性も増大し、したがってより大量のサンプルが最初に必要となる。
【0015】
好ましい実施形態では、流体搬送経路30は、細片に隣接するある領域、または複数の領域よりも隆起している。より狭く隆起した部分と最初に接触した液滴は、その流体が毛細管流路の方に前進する際に、その経路上に留まる傾向にあると考えられている。隆起領域の縁部によって、サンプルが接触する表面の向きが鋭く変化し、表面張力および接触角によって、サンプルが落下しないように維持される。本発明を限定するものではないが、図1に示す好ましい実施形態では、流体搬送経路30に隣接する凹部80が、流体搬送経路の両側に実質的にその全長にわたって、すなわち下垂部分50付近から毛細管流路20の口部付近まで延びている。流体搬送経路が狭くなるほど、細片に沿ったサンプルの目減りが防止される。
【0016】
図4A、図4B、および図4Cは、本発明による細片を、流体サンプル近傍に湾曲状態で配置し、流体サンプル(血液液滴など)が、流体搬送経路30上のランセット孔空間40から、毛細管流路20の口部へと搬送されるように動かした、好ましい実施形態を示す。この細片を、矢印によって示す方向に、巻湾曲運動で動かす。図4Cは、図4Bの直後の時点を表し、図4Bは、図4Aの直後の時点を表す。細片を湾曲させるため、下垂部分50が細片から離れて流体サンプルの方に延びることになる。好ましくは、下垂部分は、少なくとも約100μm延びて流体サンプルと接触し、この距離は、細片の湾曲に対して接線となる線に垂直な線上の距離として、下垂部分が細片の表面から最も離れて延びる点まで測定したものである。
【0017】
図5A、図5B、図5C、および5Dは、同様に時系列形態で配置され、液滴がどのようにして細片の中央に集まり、毛細管流路に移動するかを示す。図5Aでは、下垂部分が細片と接触する際に、液滴が細片の片側に向いている様子が示されている。図5Bでは、下垂部分の前縁部が移動方向Aに進むにつれて、液滴が、下垂部分50の湾曲縁部に沿って細片の中央に送られている。図5Cは、その後の液滴を示し、液滴は中央に集まり、毛細管流路の口部に送られている。
【0018】
好ましい実施形態では、下垂部分50は、ランセット孔空間側に形成される。図7A、7B、7C、7D、および7Eに示すように、スリット70が細片に切り込まれており、したがって、細片を湾曲させたときに、下垂部分が細片の水平面から離れて少なくとも約100μm、好ましくは約250μm以上延びることが可能となる。下垂部分50の縁部の湾曲または角度によって、液滴が細片の中央線の方に誘導され、そこには毛細管流路の口部が位置する。スリット70は、約1mmから2mmの長さを有することができる。スリット70の形状は、特に限定されず、下垂部分50は、V形、U形、または他の便宜的な形状を有してもよい。一般に、下垂部分は、液滴の方向に狭くなる形状を有することが好ましい。したがって、スリット70は、いくつかの実施形態では三日月形を成し、他の実施形態では三角形を成すことがある。本実施形態の湾曲スリットは、液滴を細片の中央に送るように補助すると考えられる。
【0019】
代替的実施形態では、図6に示すように、下垂部分を細片上に配置してもよい。図6では、下垂部分52は、個々の細片の片側から延び、前述の実施形態と同様の形で液滴と接触し、液滴を毛細管流路に誘導し、すなわち、下垂部分の狭小部分が血液サンプルとまず接触する。本実施形態では、流路20は、細片の片側にある。
【0020】
本発明の範囲から逸脱することなく、本発明による試験片を、いくつかの細片の「ユニット」として一続きの細片上で実施することができ、したがって、複数の試験部位を単一の細片上に配置することができ、単一の装置で、複数の試験を行うことを可能とすることができる。あるいは、単一の細片を複数設けてもよい。
【0021】
好ましい実施形態の上述の説明は、本発明を限定するものと考えるべきではなく、本発明は、以下の特許請求の範囲に規定される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体サンプルの採取および試験の分野に関する。具体的には、本発明は、人体から得られた血液サンプルを、試験片上の測定位置へと搬送することを促進する機構を有する試験片を対象とする。
【背景技術】
【0002】
医療および診断分野、具体的には糖尿病治療分野では、試験片上に採集された血液サンプルなどの流体サンプルに対して試験を実施することがしばしば望まれる。サブマイクロリットルのサンプル(すなわち、1μL以下の容量を有するサンプル)を含めて、より少量の流体サンプルを採集し、試験するという動向がある。このような状況では、試験片上で採集された流体サンプルを、その細片上の測定位置に送り、サンプルに必要となる試験を実施するために、十分な量のサンプルが利用可能となるように確保できることが望ましい。
【0003】
その意味で、使用者の手を煩わせずに、流体サンプルを測定位置に送り、測定を実施するのに十分なサンプルを確保する手段を有することが望ましい。
【0004】
本願と同時に出願された出願では、湾曲部分を有する細片が、使用者の身体から採集された流体サンプルと対向して配置される装置が提案されている。湾曲運動により、てこの作用を利用して、細片上の流体サンプルを付着させ、搬送力を生じさせて、所与の最少サンプル量から、十分なサンプルを測定位置に確実に到達させる。こうした状況では、流体が細片の巻湾曲部分と接触した後、流体の液滴が細片上の測定位置へと移動することを促進する細片を有することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7192405号明細書
【特許文献2】米国特許第7498132号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、本発明は、例えば、穿刺動作で患者の身体から得られた血液サンプルを含めた流体サンプルを試験する診断用試験片である。この細片は、サンプルに面して配置される第1の主面を有する。一端部に口部を有し、反対側の端部に向けて測定位置を含む毛細管流路が、主面側に配置され、したがって、細片と接触した流体サンプルは、口部から、毛細管流路を介して測定位置へと移動する。この細片は、毛細管流路の口部に一端部を有するように画定することができる流体搬送経路を備える。下垂部分が、細片の、流体サンプルに面する側から離れて延び、したがって、下垂部分と接触した流体サンプルの液滴は、下垂部分から、流体搬送経路に沿って、毛細管流路の口部まで送られることになる。
【0007】
好ましい実施形態では、細片は、ランセットを挿入するためのランセット孔を備え、流体搬送経路は、下垂部分に隣接するランセット孔側から、毛細管流路の口部まで延びている。ランセットを孔に挿入して、患者から血液を採取し、このランセット孔から、ランセットを引き抜く。この細片は、流体サンプルと接触する部分に巻湾曲部を有し、そのため、ランセット孔側にある下垂部分が、流体サンプルの方向に延びることになる。こうした下垂部分は、例えば、孔の両側から延びるスリットを用いて実現することができる。下垂部分の幅を低減させることによって、液滴が細片の長手方向中央線の方に、かつ毛細管流路の口部の方に誘導されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明による試験片を示す図である。
【図2A】試験片積層体を形成するために積み重ねることができる層を示す図である。
【図2B】試験片積層体を形成するために積み重ねることができる層を示す図である。
【図2C】試験片積層体を形成するために積み重ねることができる層を示す図である。
【図2D】試験片積層体を形成するために積み重ねることができる層を示す図である。
【図3】図2Aから図2Dの積み重ねた層の断面図である。
【図4A】サンプルと接触させる手順中の異なる段階にある、試験すべき血液サンプル近傍で湾曲状態にある、本発明による試験片を示す図である。
【図4B】サンプルと接触させる手順中の異なる段階にある、試験すべき血液サンプル近傍で湾曲状態にある、本発明による試験片を示す図である。
【図4C】サンプルと接触させる手順中の異なる段階にある、試験すべき血液サンプル近傍で湾曲状態にある、本発明による試験片を示す図である。
【図5A】流体サンプルの液滴が試験片と接触した後の、試験片上の流体サンプル液滴の異なる段階における位置を示す図である。
【図5B】流体サンプルの液滴が試験片と接触した後の、試験片上の流体サンプル液滴の異なる段階における位置を示す図である。
【図5C】流体サンプルの液滴が試験片と接触した後の、試験片上の流体サンプル液滴の異なる段階における位置を示す図である。
【図5D】流体サンプルの液滴が試験片と接触した後の、試験片上の流体サンプル液滴の異なる段階における位置を示す図である。
【図6】本発明による試験片の代替的実施形態を示す図である。
【図7A】下垂部分が異なる形状および構成を有する、本発明による試験片の実施形態を示す図である。
【図7B】下垂部分が異なる形状および構成を有する、本発明による試験片の実施形態を示す図である。
【図7C】下垂部分が異なる形状および構成を有する、本発明による試験片の実施形態を示す図である。
【図7D】下垂部分が異なる形状および構成を有する、本発明による試験片の実施形態を示す図である。
【図7E】下垂部分が異なる形状および構成を有する、本発明による試験片の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1を参照すると、試験片10が、主面を上にして示されている。毛細管流路20の機構を示すために、上面層が取り除かれている。流体搬送経路30が、下垂部分50から毛細管流路20の口部21まで延びている。図示の実施形態では、流体搬送経路30の両側に、トレンチ80が陥凹している。サンプル流体の、流体搬送経路30に対する表面張力および付着性によって、サンプル流体がトレンチ80に流れ込むことが防止される。
【0010】
この細片は、図2A、図2B、図2C、および図2Dに示すような諸層から構成された多層積層体でよく、それらの諸層を積み重ねると、図3に示すような断面構成が得られる。細片を形成するために使用する層は、下垂部分50を形成する切抜き部22、24でパターニングされた層18と、血糖の電気化学測定用試薬ウェル26、28を画定している層16と、毛細管流路壁を画定している層14と、毛細管流路の上面を形成し、流路の口部にノッチ32、流路の後部に通気孔34を含む上面層12とを含み、これらのノッチおよび通気孔は、サンプルの毛細管流を補助する。これらの層の設計は、本発明の範囲から逸脱することなく改変することができる。多層積層体試験片の構造が記載されており、(例えば、参照により本明細書に組み込む特許文献1および2参照)、本明細書ではさらに詳述はしない。
【0011】
これらの図に示す実施形態では、ランセット孔空間40が、ランセット挿入のために設けられている。流体搬送経路30が、ランセット孔空間40の縁部から、毛細管流路20の口部まで延びている。図示の実施形態では、毛細管流路20は、電気化学反応を利用した血糖測定などの診断試験を実施するための試薬を収容するウェル26、28を備える。しかし、診断試験を実施するどのような方法でも使用することができ、本発明は、診断試験の実施のために電気化学試薬を使用することに限定されない。
【0012】
流体搬送経路30は、好ましくは疎水性材料から構築され、したがって、流体サンプルは、流体搬送経路と、少なくとも約50度、好ましくは約60度、最も好ましくは約70度超の接触角を形成しなければならない。適切な特性を有するMylar(登録商標)などの材料を、積層体材料として使用することができる。あるいは、流体搬送経路用の異なる材料に、より疎水性を与えるために、それだけに限られるものではないが、シランコーティングまたはRainex(登録商標)コーティングを含めた処理を実施することができる。
【0013】
流体搬送経路30は、下垂部分50を備える。細片が、試験すべき流体サンプルとまず接触する際、この下垂部分50が、流体サンプルの液滴と優先的に接触し、したがって、液滴は細片の中央に送られることになる。下垂部分の縁部は、接触点で幅dが低減しており、そのため、液滴が細片の中央の方に、かつ毛細管流路の口部の方に送られることになる。
【0014】
流体搬送経路30の長さは、約2mmから約6mmまで変えることができる。毛細管が充満する前に液滴を検出することが可能となるように、経路の長さは血液の液滴直径よりも大きくしなければならない。経路の長さが増大するにつれて、サンプルが目減りする可能性も増大し、したがってより大量のサンプルが最初に必要となる。
【0015】
好ましい実施形態では、流体搬送経路30は、細片に隣接するある領域、または複数の領域よりも隆起している。より狭く隆起した部分と最初に接触した液滴は、その流体が毛細管流路の方に前進する際に、その経路上に留まる傾向にあると考えられている。隆起領域の縁部によって、サンプルが接触する表面の向きが鋭く変化し、表面張力および接触角によって、サンプルが落下しないように維持される。本発明を限定するものではないが、図1に示す好ましい実施形態では、流体搬送経路30に隣接する凹部80が、流体搬送経路の両側に実質的にその全長にわたって、すなわち下垂部分50付近から毛細管流路20の口部付近まで延びている。流体搬送経路が狭くなるほど、細片に沿ったサンプルの目減りが防止される。
【0016】
図4A、図4B、および図4Cは、本発明による細片を、流体サンプル近傍に湾曲状態で配置し、流体サンプル(血液液滴など)が、流体搬送経路30上のランセット孔空間40から、毛細管流路20の口部へと搬送されるように動かした、好ましい実施形態を示す。この細片を、矢印によって示す方向に、巻湾曲運動で動かす。図4Cは、図4Bの直後の時点を表し、図4Bは、図4Aの直後の時点を表す。細片を湾曲させるため、下垂部分50が細片から離れて流体サンプルの方に延びることになる。好ましくは、下垂部分は、少なくとも約100μm延びて流体サンプルと接触し、この距離は、細片の湾曲に対して接線となる線に垂直な線上の距離として、下垂部分が細片の表面から最も離れて延びる点まで測定したものである。
【0017】
図5A、図5B、図5C、および5Dは、同様に時系列形態で配置され、液滴がどのようにして細片の中央に集まり、毛細管流路に移動するかを示す。図5Aでは、下垂部分が細片と接触する際に、液滴が細片の片側に向いている様子が示されている。図5Bでは、下垂部分の前縁部が移動方向Aに進むにつれて、液滴が、下垂部分50の湾曲縁部に沿って細片の中央に送られている。図5Cは、その後の液滴を示し、液滴は中央に集まり、毛細管流路の口部に送られている。
【0018】
好ましい実施形態では、下垂部分50は、ランセット孔空間側に形成される。図7A、7B、7C、7D、および7Eに示すように、スリット70が細片に切り込まれており、したがって、細片を湾曲させたときに、下垂部分が細片の水平面から離れて少なくとも約100μm、好ましくは約250μm以上延びることが可能となる。下垂部分50の縁部の湾曲または角度によって、液滴が細片の中央線の方に誘導され、そこには毛細管流路の口部が位置する。スリット70は、約1mmから2mmの長さを有することができる。スリット70の形状は、特に限定されず、下垂部分50は、V形、U形、または他の便宜的な形状を有してもよい。一般に、下垂部分は、液滴の方向に狭くなる形状を有することが好ましい。したがって、スリット70は、いくつかの実施形態では三日月形を成し、他の実施形態では三角形を成すことがある。本実施形態の湾曲スリットは、液滴を細片の中央に送るように補助すると考えられる。
【0019】
代替的実施形態では、図6に示すように、下垂部分を細片上に配置してもよい。図6では、下垂部分52は、個々の細片の片側から延び、前述の実施形態と同様の形で液滴と接触し、液滴を毛細管流路に誘導し、すなわち、下垂部分の狭小部分が血液サンプルとまず接触する。本実施形態では、流路20は、細片の片側にある。
【0020】
本発明の範囲から逸脱することなく、本発明による試験片を、いくつかの細片の「ユニット」として一続きの細片上で実施することができ、したがって、複数の試験部位を単一の細片上に配置することができ、単一の装置で、複数の試験を行うことを可能とすることができる。あるいは、単一の細片を複数設けてもよい。
【0021】
好ましい実施形態の上述の説明は、本発明を限定するものと考えるべきではなく、本発明は、以下の特許請求の範囲に規定される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体サンプルを試験する試験片であって、
流体サンプルに面して配置される第1の主面を有する細片と、
口部を有し、かつ測定位置を有する毛細管流路と、
前記毛細管流路の前記口部で終端する、前記細片上の流体搬送経路と、
前記流体搬送経路の、前記毛細管流路の前記口部とは反対側の端部にあり、前記細片から離れて延びる下垂部分であって、それによって、前記下垂部分と接触した流体サンプルの液滴が、前記毛細管流路の前記口部に送られる、下垂部分と
を備えることを特徴とする試験片。
【請求項2】
ランセットを挿入するための、前記細片を貫通したランセット孔をさらに備え、
前記流体搬送経路は、前記ランセット孔から前記毛細管流路の前記口部まで延びることを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項3】
前記下垂部分は、前記ランセット孔から前記毛細管に向かう方向に延びた、前記細片中の2つのスリットによって形成され、それによって、三日月形を有する下垂部分を形成することを特徴とする請求項2に記載の試験片。
【請求項4】
前記細片は湾曲し、そのため前記下垂部分は、前記試験片の前記第1の主面から少なくとも約100μm離れて延びることを特徴とする請求項2に記載の試験片。
【請求項5】
前記ランセット孔は、約1mmから約2mmの最大幅寸法を有することを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項6】
前記2つのスリットは、約1mm超のほぼ同じ長さを有し、それによって、前記ランセット孔側で前記下垂部分を形成することを特徴とする請求項2に記載の試験片。
【請求項7】
一続きの細片上に複数の測定位置を備え、前記複数の測定位置はそれぞれ、ランセット孔および流体搬送経路に同様に関連付けられ、前記試験片上で複数の試験が順次実施されるように構成されることを特徴とする請求項2に記載の試験片。
【請求項8】
前記一続きの細片の一部分が湾曲状態になり、前記細片の前記湾曲状態にある前記一部分は、使用中、前記細片に沿って、前記細片上の前記流体サンプルの方向とは反対方向に動くことを特徴とする請求項7に記載の試験片。
【請求項9】
前記測定位置は、血液サンプル中のブドウ糖を電気化学的に検出する試薬を収容するウェルを備えることを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項10】
前記毛細管流路の表面は、親水性であることを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項11】
前記流体搬送流路の表面は、疎水性であることを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項12】
前記毛細管流路の前記表面は、前記表面上の血液液滴が約50度未満の接触角を成すように十分な親水性を有することを特徴とする請求項10に記載の試験片。
【請求項13】
前記毛細管流路の前記表面は、前記表面上の血液液滴が約50度超の接触角を成すように十分な疎水性を有することを特徴とする請求項11に記載の試験片。
【請求項14】
電極層、および複数のポリマー構造層を含む多層積層体を備えることを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項15】
前記毛細管流路の容量は、約1.0μL未満であることを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項16】
前記流体搬送経路の各横側に隣接し、実質的に前記流体搬送経路の全長にわたって、すなわち前記下垂部分付近から前記毛細管流路の前記口部付近まで延びる凹部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項17】
流体サンプルを試験する試験片であって、
流体サンプルに面して配置される第1の主面を有する細片と、
口部を有し、かつ測定位置を有する毛細管流路と、
両側部と、前記毛細管流路の前記口部に端部とを有する、前記基板上の流体搬送経路と、
前記流体搬送経路の一側部に隣接する少なくとも1つの凹部であって、それによって、前記流体搬送経路と接触した流体サンプルが、前記毛細管流路の前記口部に優先的に送られる、凹部と
を備えることを特徴とする試験片。
【請求項18】
ランセットを挿入するための、前記基板を貫通したランセット孔をさらに備え、前記流体搬送経路は、前記ランセット孔から前記毛細管流路の前記口部まで延びることを特徴とする請求項17に記載の試験片。
【請求項19】
前記流体搬送経路の対向する両側に隣接する2つの凹部を備え、それによって前記流体搬送経路が、前記ランセット孔の最大幅点よりも狭い幅を有する隆起経路となることを特徴とする請求項18に記載の試験片。
【請求項1】
流体サンプルを試験する試験片であって、
流体サンプルに面して配置される第1の主面を有する細片と、
口部を有し、かつ測定位置を有する毛細管流路と、
前記毛細管流路の前記口部で終端する、前記細片上の流体搬送経路と、
前記流体搬送経路の、前記毛細管流路の前記口部とは反対側の端部にあり、前記細片から離れて延びる下垂部分であって、それによって、前記下垂部分と接触した流体サンプルの液滴が、前記毛細管流路の前記口部に送られる、下垂部分と
を備えることを特徴とする試験片。
【請求項2】
ランセットを挿入するための、前記細片を貫通したランセット孔をさらに備え、
前記流体搬送経路は、前記ランセット孔から前記毛細管流路の前記口部まで延びることを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項3】
前記下垂部分は、前記ランセット孔から前記毛細管に向かう方向に延びた、前記細片中の2つのスリットによって形成され、それによって、三日月形を有する下垂部分を形成することを特徴とする請求項2に記載の試験片。
【請求項4】
前記細片は湾曲し、そのため前記下垂部分は、前記試験片の前記第1の主面から少なくとも約100μm離れて延びることを特徴とする請求項2に記載の試験片。
【請求項5】
前記ランセット孔は、約1mmから約2mmの最大幅寸法を有することを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項6】
前記2つのスリットは、約1mm超のほぼ同じ長さを有し、それによって、前記ランセット孔側で前記下垂部分を形成することを特徴とする請求項2に記載の試験片。
【請求項7】
一続きの細片上に複数の測定位置を備え、前記複数の測定位置はそれぞれ、ランセット孔および流体搬送経路に同様に関連付けられ、前記試験片上で複数の試験が順次実施されるように構成されることを特徴とする請求項2に記載の試験片。
【請求項8】
前記一続きの細片の一部分が湾曲状態になり、前記細片の前記湾曲状態にある前記一部分は、使用中、前記細片に沿って、前記細片上の前記流体サンプルの方向とは反対方向に動くことを特徴とする請求項7に記載の試験片。
【請求項9】
前記測定位置は、血液サンプル中のブドウ糖を電気化学的に検出する試薬を収容するウェルを備えることを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項10】
前記毛細管流路の表面は、親水性であることを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項11】
前記流体搬送流路の表面は、疎水性であることを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項12】
前記毛細管流路の前記表面は、前記表面上の血液液滴が約50度未満の接触角を成すように十分な親水性を有することを特徴とする請求項10に記載の試験片。
【請求項13】
前記毛細管流路の前記表面は、前記表面上の血液液滴が約50度超の接触角を成すように十分な疎水性を有することを特徴とする請求項11に記載の試験片。
【請求項14】
電極層、および複数のポリマー構造層を含む多層積層体を備えることを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項15】
前記毛細管流路の容量は、約1.0μL未満であることを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項16】
前記流体搬送経路の各横側に隣接し、実質的に前記流体搬送経路の全長にわたって、すなわち前記下垂部分付近から前記毛細管流路の前記口部付近まで延びる凹部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の試験片。
【請求項17】
流体サンプルを試験する試験片であって、
流体サンプルに面して配置される第1の主面を有する細片と、
口部を有し、かつ測定位置を有する毛細管流路と、
両側部と、前記毛細管流路の前記口部に端部とを有する、前記基板上の流体搬送経路と、
前記流体搬送経路の一側部に隣接する少なくとも1つの凹部であって、それによって、前記流体搬送経路と接触した流体サンプルが、前記毛細管流路の前記口部に優先的に送られる、凹部と
を備えることを特徴とする試験片。
【請求項18】
ランセットを挿入するための、前記基板を貫通したランセット孔をさらに備え、前記流体搬送経路は、前記ランセット孔から前記毛細管流路の前記口部まで延びることを特徴とする請求項17に記載の試験片。
【請求項19】
前記流体搬送経路の対向する両側に隣接する2つの凹部を備え、それによって前記流体搬送経路が、前記ランセット孔の最大幅点よりも狭い幅を有する隆起経路となることを特徴とする請求項18に記載の試験片。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【公開番号】特開2011−50734(P2011−50734A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−159854(P2010−159854)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159854(P2010−159854)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】
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