説明

流体流量計及びMAF測定方法

【課題】性能の経年変化を補うことのできる流体流量計及びMAF測定方法を提供する。
【解決手段】流路2内が隔壁4によって分割形成された主流路5及び副流路6と、主流路5と副流路6に配置された熱線流速計3m,3sと、副流路6に接続され対象流体が流路2に流されないときに校正用流体を副流路6に導入する校正用流体導入機構7と、副流路6の熱線流速計3sで測定された校正用流体の測定質量流量が正しい質量流量となるよう副流路6の熱線流速計3sを校正し、主流路5における対象流体の測定質量流量から推定される流路2の総質量流量と副流路6における対象流体の測定質量流量から推定される流路2の総質量流量との差異がなくなるよう主流路5の熱線流速計3mを校正する校正演算部8とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、性能の経年変化を補うことのできる流体流量計及びMAF測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの新気流量を測定するMAF(Mass Air Flow)センサ(以下、流体流量計という)には、熱線流速計が用いられる。
【0003】
熱線流速計は、電圧を印加してジュール熱を発生すると共に温度を測定するセンシング部を有し、このセンシング部を流体が通過するように構成されている。熱線流速計の測定原理は、センシング部を流体中に配置し、ジュール熱によりセンシング部が到達するべき温度と実際にセンシング部が測定した温度から、センシング部が流体により奪われた熱量を求め、この熱量からセンシング部を通過した流体の質量流量を求めるものである。
【0004】
センシング部が流体により奪われる熱量は、流体の熱伝達率、流体の質量流量、流体の単位質量当たりの熱容量、流体の通過面積の積で決まる。すなわち、
奪われた熱量(ΔQ)/(熱伝達率×単位質量当たりの熱容量×通過面積)
を求めることで、センシング部を通過した流体の質量流量を求めることができる。熱線流速計は、この流体の質量流量を表す電圧を出力するようになっている。
【0005】
センシング部を通過する流体の質量流量とこの種の流体流量計の出力電圧は、リニアな関係にある。
【0006】
自動車の分野においては、流体流量計を吸気ダクトに装着した後、この吸気ダクトをエンジンに装着したアセンブリ品を製造する。そのアセンブリ品全体について、流体流量計の出力電圧と実際に吸気ダクトに流れる新気流量との関係を測定する。このようにして測定された流体流量計の出力電圧と実際に吸気ダクトに流れる新気流量との関係を、関数表記するか又はマップ表記してエンジン制御装置に組み込む。流体流量計で測定した新気流量は、エンジンのEGR制御に用いられる場合が多い。
【0007】
【特許文献1】特開2008−2833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エンジンから排出されるNOx(窒素酸化物)を低減するために、EGR(Exhaust Gas Recirculation)が用いられる。EGR率の制御はMAF制御方式で行われる。MAF制御方式では、エンジンの回転速度(rpm)と燃料量(Qmm3/st)に対してEGR率の目標が決まると、その目標となるEGR率でEGRを負荷したときの新気流量として目標新気流量MAF0が決まる。一方、流体流量計では実際の新気流量として測定新気流量MAFが測定される。EGR管中に設けられたEGRバルブの開度(通路面積)を制御すると、EGR量が変化するので、EGR管の出口に合流される吸気ダクトにおいて新気流量が変化すると共に、EGR率が変化する。新気流量が変化すると、流体流量計で測定する測定新気流量MAFが変化する。従って、測定新気流量MAF=目標新気流量MAF0となるようにEGRバルブを開度制御することで、EGR率を目標値に制御することができる。
【0009】
将来の排気ガス規制では、市場走行中の車両であっても、径時劣化後の排気ガス量が規制される。しかし、流体流量計の性能が経年変化すると、真の新気流量が測定できなくなる。新気流量が正しく測定できなくなると、EGR率制御によるNOx、PM、HC、CO等の規制物質の排出量が規制値内に制御できなくなる。例えば、真の新気流量に対する測定新気流量MAFが減少すると、EGR率は過小側に制御され、NOxの量が増加して排気ガスの浄化性能が悪化する。逆に、真の新気流量に対する測定新気流量MAFが増加すると、EGR率は過大側に制御され、煤が増加すると共に燃費が上昇し、排気ガスの浄化性能と経済性が悪化する。
【0010】
しかし、流体流量計の性能が経年変化したことを知る手段が従来にはない。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、性能の経年変化を補うことのできる流体流量計及びMAF測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明の流体流量計は、流路に流れる対象流体の質量流量を熱線流速計で測定する流体流量計において、上記流路内が隔壁によって分割形成された主流路及び副流路と、これら主流路と副流路にそれぞれ配置された熱線流速計と、上記副流路に接続され対象流体が流されないときに校正用流体を導入する校正用流体導入機構と、上記副流路の熱線流速計で測定された校正用流体の測定質量流量が正しい質量流量となるよう上記副流路の熱線流速計を校正し、上記主流路における対象流体の測定質量流量から推定される上記流路の総質量流量と上記副流路における対象流体の測定質量流量から推定される上記流路の総質量流量との差異がなくなるよう上記主流路の熱線流速計を校正する校正演算部と、を備えたものである。
【0013】
上記校正用流体導入機構は、上記校正用流体を収容するシリンダと、該シリンダ内の校正用流体を払い出すピストンと、該ピストンの変位を測定するピストン変位センサと、払い出し中の校正用流体の圧力を測定する払い出し圧力センサと、校正用流体の温度を測定する温度センサと、上記副流路の圧力を測定する副流路圧力センサとを備え、上記校正演算部は、上記ピストンの速度が一定か又は払い出し中の校正用流体の圧力が一定であれば上記副流路に導入されている校正用流体の質量流量が一定であると判定し、校正用流体の質量流量が一定であるときに、上記払い出し中の校正用流体の圧力と校正用流体の温度と上記副流路の圧力とから上記副流路における校正用流体の正しい質量流量を求めてもよい。
【0014】
上記副流路は、上記隔壁の対象流体が流れ込む側を上記熱線流速計から所定距離の位置で塞ぐ仕切り板と、該仕切り板に形成され所定流路面積を有する対象流体入口と、対象流体が流れ込む方向と反対方向から校正用流体を導入するために上記隔壁の対象流体が流れ出す側に配置され、上記熱線流速計からの距離が上記対象流体入口から上記熱線流速計までの距離と等距離であって、上記対象流体入口と流路面積が等しいノズルとを備えてもよい。
【0015】
上記流路が車両の吸気ダクトであって、該吸気ダクトを流れる対象流体がエンジンに配給される空気であってもよい。
【0016】
上記校正演算部は、キースイッチ投入後のエンジン始動前に上記校正用流体導入機構により校正用流体としての空気を上記副流路に導入させて校正用流体の質量流量を測定して上記副流路の熱線流速計を校正し、エンジン始動後のアイドリング時に上記主流路に流れる空気の質量流量と上記副流路に流れる空気の質量流量とを測定して上記主流路の熱線流速計を校正してもよい。
【0017】
また、本発明のMAF測定方法は、車両の吸気ダクトからエンジンに配給される空気の質量流量を熱線流速計で測定するMAF測定方法において、上記吸気ダクト内を隔壁によって主流路及び副流路に分割形成し、上記主流路と副流路にそれぞれ熱線流速計を配置し、上記副流路に校正用流体を導入する校正用流体導入機構を接続しておき、キースイッチ投入後のエンジン始動前に上記校正用流体導入機構により空気を上記副流路に導入させて該空気の質量流量を測定し、その測定質量流量が正しい質量流量となるよう上記副流路の熱線流速計を校正し、エンジン始動後のアイドリング時に上記主流路に流れる空気の質量流量と上記副流路に流れる空気の質量流量とを測定し、上記主流路における対象流体の測定質量流量から推定される上記流路の総質量流量と上記副流路における対象流体の測定質量流量から推定される上記流路の総質量流量との差異がなくなるよう上記主流路の熱線流速計を校正するものである。
【0018】
あらかじめ上記吸気ダクトに試験用の一定量の空気を流して各熱線流速計により上記主流路と上記副流路に流れる空気の質量流量をそれぞれ測定し、上記主流路における測定質量流量と上記副流路における測定質量流量との比を分割比としておき、この分割比を用いて上記総質量流量を推定してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0020】
(1)性能の経年変化を補うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0022】
図1に示されるように、本発明に係る流体流量計1は、流路2に流れる対象流体の質量流量を熱線流速計3で測定する流体流量計1において、流路2内が隔壁4によって分割形成された主流路5及び副流路6と、これら主流路5と副流路6にそれぞれ配置された熱線流速計3m,3sと、副流路6に接続され対象流体が流路2に流されないときに校正用流体を副流路6に導入する校正用流体導入機構7と、副流路6の熱線流速計3sで測定された校正用流体の測定質量流量が正しい質量流量となるよう副流路6の熱線流速計3sを校正し、主流路5における対象流体の測定質量流量から推定される流路2の総質量流量と副流路6における対象流体の測定質量流量から推定される流路2の総質量流量との差異がなくなるよう主流路5の熱線流速計3mを校正する校正演算部8とを備えたものである。
【0023】
本実施形態においては、流体流量計1は、車両のMAF測定に適用される。流路2は車両の吸気ダクト2であり、吸気ダクト2を流れる対象流体は図示しないエンジンに配給される空気である。吸気ダクト2は、図示より左側において大気に連通しており、図示より右側においてEGR管と合流されエンジンに至る。車両にはエンジンコントローラとしてのコンピュータ9が搭載されており、本実施形態では校正演算部8はコンピュータ9が所定のプログラムを実行することで実現される。コンピュータ9には、これ以降に述べる各種のセンサ、スイッチ及びアクチュエータはもとより、車両に一般的に搭載されるセンサ、スイッチ、アクチュエータ、表示器が入出力として接続されている。
【0024】
隔壁4は、吸気ダクト2の内部に、吸気ダクト2の長手方向に所定の長さにわたり吸気ダクト2の中心線(図示せず)と平行に設けられる。断面で見ると、吸気ダクト2はほぼ円形であり、隔壁4は弦をなすように、吸気ダクト2の一部を分割している。吸気ダクト2を流れる空気は、隔壁4が設けられている区間においては、隔壁4より図示上部に形成された主流路5と隔壁4より図示下部に形成されたの副流路6とに分かれて流れることになる。
【0025】
熱線流速計3m,3sは、主流路5と副流路6の長手方向同じ位置に、吸気ダクト2の径方向に対向させて設けられる。熱線流速計3自体は従来より知られているものであるから、ここでは詳しい説明を省略する。
【0026】
副流路6は、隔壁4の対象流体(ここではエンジンに送るための空気)が流れ込む側を熱線流速計3sから所定距離の位置で塞ぐ仕切り板10と、仕切り板10に形成され所定流路面積を有する対象流体入口11と、対象流体が流れ込む方向と反対方向から校正用流体を導入するために隔壁4の対象流体が流れ出す側に配置されたノズル12とを備える。熱線流速計3sからノズル12までの距離x(図2参照)は、対象流体入口11から熱線流速計3sまでの距離xと等距離である。ノズル12の流路面積は、対象流体入口11の流路面積に等しい。
【0027】
仕切り板10は、隔壁4の下部、すなわち副流路6の全体を遮蔽するように形成されている。この仕切り板10に対象流体入口11が形成されているので、主流路5の流路面積Amが断面図に投影される主流路5の面積そのものであるのに対して、副流路6の実質的な流路面積Asは対象流体入口11の面積となる。Am≫Asである。
【0028】
ノズル12は、校正用流体導入機構7に連結されており、校正用流体導入機構7から供給される校正用流体を副流路6内にエンジンに送るための空気とは逆方向から導入して熱線流速計3sに吹き付けるようになっている。
【0029】
本実施形態では、対象流体入口11は円孔であり、ノズル12は円管であるので、対象流体入口11の開口直径dとノズル12の噴口の開口直径dが等しく形成されることで、対象流体入口11とノズル12の流路面積が等しくなっている。従って、ノズル12の噴口の流路面積もまたAsである。なお、熱線流速計3sからノズル12までの距離xは、ノズル12から噴出した噴流がポテンシャルコア領域以上で完全発達領域となる距離が望ましい。従って、副流路6が円管で構成される場合は、距離xは、ノズル12の噴口の開口直径d(=対象流体入口11の開口直径d)の8倍以上が望ましい。副流路6が平面で構成される場合は、距離xは、開口直径dの7倍以上が望ましい。
【0030】
対象流体入口11は、仕切り板10の最下点から所定の高さ(吸気ダクト2の中心線から径方向下方に所定の距離)の位置に設けられている。ノズル12は、吸気ダクト2の外部から副流路6内に挿入され、仕切り板10の最下点から所定の高さに噴口が位置するよう設けられている。対象流体入口11とノズル12の噴口は、互いに同軸(図5参照)となるよう、対向させて配置される。
【0031】
対象流体入口11とノズル12の噴口が互いに同軸となるよう対向配置されると共に、熱線流速計3sからノズル12までの距離xと対象流体入口11から熱線流速計3sまでの距離xとが等距離であり、かつ、対象流体入口11の開口直径dとノズル12の噴口の開口直径dが等しい。つまり、対象流体入口11とノズル12が熱線流速計3sを挟んで(熱線流速計3sを対称軸にして)対称の位置にある。これにより、後述するエンジン運転中に流路2からエンジンに送られる空気が副流路6に流れるときの空気の速度分布と、エンジン停止中にノズル12から噴出される校正用流体(空気)の速度分布とを同じ(対称)にすることができる。
【0032】
さらに、熱線流速計3sのセンシング部(図示せず)と、ノズル12の噴口の中心と、対象流体入口11の中心は、共通中心線C(図3参照)に配置される。中心線Cは、副流路6の中心に配置される。これにより、後述するエンジン運転中には副流路6を通過する空気の最大速度(最大質量流量)を熱線流速計3sで測定することができ、エンジン停止中にノズル12から噴出される空気の最大速度(最大質量流量)を熱線流速計3sで測定することができる。
【0033】
校正用流体導入機構7は、校正用流体を収容するシリンダ13と、シリンダ13内の校正用流体を払い出すピストン14と、ピストン14の変位を測定するピストン変位センサ15と、払い出し中の校正用流体の圧力を測定する払い出し圧力センサ16と、校正用流体の温度を測定する温度センサ17と、副流路6の圧力を測定する副流路圧力センサ18とを備える。ピストン変位センサ15が測定するピストン14の変位は、時間測定機能を有するコンピュータ9において、時間微分することにより、速度に変換することができる。
【0034】
シリンダ13には、校正用流体としての空気を所定の体積蓄積することができる。ピストン14は、シリンダ13内を区画するピストンヘッドと、シリンダ13内外をシリンダ13の管軸方向に貫くピストンロッドと、そのピストンロッドをストローク駆動するアクチュエータとを備える。本実施形態では、アクチュエータはコンピュータ9の制御で動作する電動モータ19である。シリンダ13内の空気を所望した体積だけ払い出すには、アクチュエータによりピストン14を応分の変位だけ駆動すればよい。シリンダ13とノズル12との間は、払い出し管で連結されている。払い出し圧力センサ16と温度センサ17は払い出し管に設置される。
【0035】
校正演算部8は、ピストン14の速度が一定か又は払い出し中の校正用流体の圧力が一定であれば副流路6に導入されている校正用流体の質量流量が一定であると判定し、また、校正用流体の質量流量が一定であるときに、上記払い出し中の校正用流体の圧力と校正用流体の温度と副流路6の圧力とから副流路6における校正用流体の正しい質量流量を求めるようになっている。
【0036】
校正演算部8は、キースイッチ投入後のエンジン始動前に校正用流体導入機構7により校正用流体としての空気を副流路6に導入させ、熱線流速計3sで校正用流体の質量流量を測定すると同時に、もうひとつ別の手段で校正用流体の正しい質量流量を測定し、両者の比較から副流路6の熱線流速計3sを校正するようになっている。
【0037】
また、校正演算部8は、エンジン始動後のアイドリング時に主流路5に流れる空気の質量流量と副流路6に流れる空気の質量流量とを測定してその測定結果から主流路5の熱線流速計3mを校正するようになっている。すなわち、校正用流体による校正後の熱線流速計3sで測定した空気の質量流量MAFsに分割比B又は分割比B+1を掛けた値を吸気ダクト2に流れる全空気の質量流量(総質量流量という)と推定する。主流路5の熱線流速計3mで測定した空気の質量流量MAFmに1又は(1+1/B)を掛けた値を吸気ダクト2に流れる全空気の質量流量(総質量流量という)と推定する。2つの推定による総質量流量が異なる(差が所定値以内でない)場合は、熱線流速計3mの出力電圧と吸気ダクト2に流れる全空気の質量流量との関係を校正することになる。熱線流速計3mの出力電圧に所定の校正係数を掛けることにより、校正を行う。校正係数は、例えば、MAFs×(1+B)/MAFmである。なお、分割比Bと校正係数については後に詳述する。
【0038】
以下、図1の流体流量計1を用いて行う本発明のMAF測定方法を説明する。
【0039】
既に説明したように、流体流量計1は、吸気ダクト2内を隔壁4によって主流路5及び副流路6に分割形成し、主流路5と副流路6にそれぞれ熱線流速計3m,3sを配置し、副流路6に校正用流体を導入する校正用流体導入機構7を接続したものである。
【0040】
本発明のMAF測定方法にあっては、流体流量計1を吸気ダクト2に装着した際(つまり車両の製造工程中)に、あらかじめ試験を行う。すなわち、吸気ダクト2に試験用の一定質量流量の空気を流して各熱線流速計3m,3sにより主流路5と副流路6に流れる空気の質量流量をそれぞれ測定する。この試験測定の結果に基づき、主流路5における測定質量流量と副流路6における測定質量流量との比を計算して分割比Bとしておく。この分割比Bは後述する総質量流量を求める際に用いるものである。
【0041】
図3に示されるように、主流路5においても副流路6においても流速と質量流量は比例する(ただし、流れが静的とする)。主流路5における測定質量流量QmTEST(添え文字TESTは試験時を示す)と副流路6における測定質量流量QsTESTとの比QmTEST/QsTESTが分割比Bである。分割比Bは流速によらず一定である。本発明においては、分割比Bは、100以上が望ましい。また、質量流量測定に要求される精度を考慮し、流体流量計1の精度が要求精度を満たすように分割比Bの最適値を実験により決定することもできる。
【0042】
吸気ダクト2に試験用の一定量の空気を流したときの分割比Bを求めておくことで、副流路6における測定質量流量から主流路5における質量流量を推定することができる。従って、熱線流速計3sが劣化した後、前述の校正用流体を用いた熱線流速計3sの校正を行えば、この劣化した熱線流速計3sによる測定質量流量を校正した質量流量から主流路5における質量流量を推定することも考えられる。しかし、ノズル12の噴口直径及び対象流体入口11が小さいので、エンジン負荷が増し、吸気ダクト2を流れる空気の質量流量が増えると、副流路6に流れる空気の速度が増す。副流路6に流れる空気の速度が増すと、流れがチョークされ、分割比Bが試験時とは変わる可能性がある。分割比Bが試験時と変わると、副流路6の測定質量流量から主流路5の質量流量を正しく推定できない。そこで、本発明のMAF測定方法にあっては、エンジン始動後のアイドリング時に、主流路5の熱線流速計3mの校正を行う。これについては、後に詳述する。
【0043】
試験時、図1のように熱線流速計3m,3sを取り付けた吸気ダクト2に、時間当たり一定の質量流量(QaTEST/s)の試験用空気を流し、熱線流速計3m,3sの出力電圧Vm,Vs(測定質量流量QmTEST=F(Vm),QsTEST=F(Vs))を測定する。F(Vm)とは、Vmの関数という意味である。これにより、分割比B(Qm/Qs)と出力電圧Vm,Vsと測定質量流量Qm,Qsの関係が求まる。なお、吸気ダクト2を流れる空気の総質量流量QaをQa=F1(Vm),Qa=F2(Vs)というように表しておいてもよい。
【0044】
図4に示されるように、吸気ダクト2を流れる空気の総質量流量をQa、熱線流速計3mによる主流路5の測定質量流量をQm、熱線流速計3sによる副流路6の測定質量流量をQsとする。主流路5の流路面積Amは投影面積Am、副流路6の実質的な流路面積Asは対象流体入口11の面積As=ノズル12の噴口面積Asであり、Am≫Asである。質量流量の単位はg/sである。分割比B=Qm/Qsである。
【0045】
このとき、対象流体入口11における流れがチョークされない条件では、
Qa=Qm+Qs
である。よって、
Qa=(1+B)×Qs
=(1+1/B)×Qm
である。
【0046】
ここで、分割比Bが1に対して充分に大きいとすると、
Qa≒B×Qs≒Qm
となる。
【0047】
次に、本発明のMAF測定方法にあっては、キースイッチ投入後のエンジン始動前に校正用流体導入機構7により空気を副流路6に導入させて該空気の質量流量を測定し、その測定質量流量が正しい質量流量となるよう副流路6の熱線流速計3sを校正する。
【0048】
図5に示されるように、副流路6において、キースイッチ投入後のエンジン始動前に校正用流体導入機構7によりノズル12から副流路6に導入される空気は、共通中心線Cを中心にして速度分布する。最大速度は共通中心線C上に現れる。一方、エンジン始動後のアイドリング時に副流路6に流れる空気も、共通中心線Cを中心にして速度分布し、その最大速度は共通中心線C上に現れる。このように、両者の速度分布は熱線流速計3sに対して対称となる。熱線流速計3sは、両者の速度分布についてそれぞれ最大速度を測定することができる。
【0049】
図6に示されるように、横軸に質量流量熱を取り、縦軸に出力電圧を取って、線流速計3のセンシング部を流れる流体の質量流量と熱線流速計3の出力電圧との関係をグラフにすると、質量流量と出力電圧との関係は直線的である。しかし、熱線流速計3が経年変化によって劣化すると、比例係数が変化する。すなわち、同じ質量流量に対する出力電圧がずれる。このまま校正することなく、熱線流速計3の測定質量流量を採用すると、実際の質量流量よりも少ない値になってしまう。
【0050】
本発明では、ノズル12から噴出する校正用流体の質量流量が経年変化によらず一定であることから、随時、熱線流速計3sを校正することができる。すなわち、図6のように劣化により同じ質量流量に対する出力電圧がずれても、熱線流速計3sの出力電圧に掛ける係数を更新することで劣化前と同じ質量流量が測定できるようになる。
【0051】
次に、熱線流速計3sの校正の際に行う質量流量一定の判定方法を説明する。
【0052】
既に述べたように、キースイッチ投入後のエンジン始動前に校正用流体導入機構7により空気を副流路6に導入させて空気の質量流量を測定する。このとき、シリンダ13から払い出された空気がノズル12から噴出する。本発明では、ノズル12から噴出する空気の質量流量が時間的に一定であるという判定を行う。
【0053】
図7に示されるように、時間Tを横軸に取り、ピストン14の速度Vlを縦軸に取り、ピストン14を駆動し始めてからのピストン14の速度変化を示すと、ピストン14の速度Vlは駆動開始後徐々に増加して一定に達する。すなわち、速度Vlの時間微分値dVl/dTが0となる。ピストン14の速度が一定となる時間範囲が図に示される。校正演算部8は、ピストン14の速度Vlが一定であれば副流路6に導入されている校正用流体の質量流量が一定であると判定する。
【0054】
校正演算部8は、校正用流体の質量流量が一定であると判定したときに、払い出し中の空気の圧力(払い出し圧力センサ16が測定した払い出し管内の圧力)と空気の温度(温度センサ17が測定した払い出し管内の温度)と副流路6の圧力(副流路圧力センサ18が測定した副流路6内の圧力)とから副流路6における空気の質量流量QsREF(添え文字REFは校正用流体導入機構7において測定したことを示す)を求める。
【0055】
すなわち、質量流量QsREFは、
QsREF=As×{(2×γ)/(γ−1)×P2×ρ
×[(P1/P2)(2/γ)−(P1/P2)(γ+1)/γ]}
ここで、Asはノズル12の噴口面積、γは比熱比、P2は払い出し管内圧、ρは空気密度、P1は副流路内圧である。この演算式は、P1/P2が臨界圧力比以下のとき成立する。
【0056】
図8に示されるように、時間Tを横軸に取り、払い出し管内圧力Pを縦軸に取り、ピストン14を駆動し始めてからの払い出し管内圧力変化を示すと、払い出し管内圧力Pは駆動開始後徐々に増加して一定に達する。すなわち、圧力Pの時間微分値dP/dTが0となる。払い出し管内圧力Pが一定となる時間範囲が図に示される。校正演算部8は、払い出し管内圧力Pが一定であれば副流路6に導入されている校正用流体の質量流量が一定であると判定する。この場合も、校正演算部8は、前述と同様にして質量流量QsREFを求めることができる。
【0057】
このように、校正用流体導入機構7により空気を副流路6に導入させたときに、副流路6に流れる空気の質量流量QsREFを校正用流体導入機構7の要素でもって測定する。
【0058】
質量流量QsREFから吸気ダクト2を流れる空気の総質量流量Qacを演算すると、分割比Bが1に対して充分に大きいとき、
Qac≒B×QsREF
であり、分割比Bが小さいときは、
Qac=(1+B)×QsREF
である。
【0059】
このとき、同時に、副流路6における空気の質量流量を熱線流速計3sで測定する。この質量流量QsCAL(添え文字CALはキースイッチ投入後のエンジン始動前に熱線流速計3sで測定したことを示す)から吸気ダクト2を流れる空気の総質量流量(実際には流れていない)Qavを仮想的に演算することができる。すなわち、分割比Bが1に対して充分に大きいとき、
Qav≒B×QsCAL
である。分割比Bが小さい(1に対して充分に大きくはないの意)ときは、
Qav=(1+B)×QsCAL
である。
【0060】
このようにして求めた総質量流量Qavと総質量流量Qacが互いに等しい場合(実用上では両者の差異が誤差として許容できる所定範囲内の場合)、熱線流速計3sは、正しい質量流量を測定していると考えられる。
【0061】
総質量流量Qavと総質量流量Qacが異なる場合(実用上では両者の差異が所定範囲外の場合)、熱線流速計3sが劣化していると考えられる。そこで、熱線流速計3sを校正することになる。
【0062】
熱線流速計3sの校正に用いる係数を副流路校正係数Hsとすると、
Hs=Qav/Qac
とする。このようにして、キースイッチ投入後のエンジン始動前に、熱線流速計3sを校正する副流路校正係数Hsを決定することができる。これ以後は、熱線流速計3sが測定した値に副流路校正係数Hsを掛けて測定質量流量とする。すなわち、エンジン停止時に、エンジン運転中の副流路空気流を模擬した空気流を与えて熱線流速計3sの劣化を判定しておくと共に、エンジン運転中には、模擬した空気流に相当する空気流が正しく測定できるよう副流路校正係数Hsを用いる。
【0063】
図9に示されるように、熱線流速計3における質量流量と出力電圧との関係は直線的である。熱線流速計3が経年変化によって劣化すると、比例係数が変化して正しい出力電圧が出なくなる。熱線流速計3sについては、劣化後の出力電圧(読み値)に副流路校正係数Hsを掛けることで劣化前と同等の演算値が得られる。
【0064】
次に、本発明のMAF測定方法にあっては、エンジン始動後のアイドリング時に主流路5に流れる空気の質量流量と副流路6に流れる空気の質量流量とを測定し、主流路5における対象流体の測定質量流量から推定される流路2の総質量流量と副流路6における対象流体の測定質量流量から推定される流路2の総質量流量との差異がなくなるよう主流路5の熱線流速計3mを校正する。
【0065】
エンジン始動後のアイドリング時は、吸気ダクト2を流れる空気の質量流量がアイドリングよりも高エンジン回転時に比べて小さい。
【0066】
このとき、主流路5に設けられた熱線流速計3mによる測定質量流量QmIDLE(添え字IDLEはエンジン始動後のアイドリング時に測定したことを示す)から吸気ダクト2を流れる空気の総質量流量QamIDLEを推定演算する。分割比Bが1に対して充分に大きいとき、
QamIDLE≒QmIDLE
である。分割比Bが小さい(1に対して充分に大きくはないの意)ときは、
QamIDLE=(1+1/B)×QmIDLEである。
【0067】
一方、副流路6に設けられた熱線流速計3sによる測定質量流量QsIDLEからも吸気ダクト2を流れる空気の総質量流量QasIDLEを推定演算する。分割比Bが1に対して充分に大きいとき、
QasIDLE≒B×QsIDLE
である。分割比Bが小さいときは、
QasIDLE=(1+B)×QsIDLEである。
【0068】
このようにして求めた総質量流量QamIDLEと総質量流量QasIDLEが互いに等しい場合(実用上では両者の差異が誤差として許容できる所定範囲内の場合)、各々の熱線流速計3m,3sは、どちらも正しい値を測定していると考えられる。
【0069】
総質量流量QamIDLEと総質量流量QasIDLEが異なる場合(実用上では両者の差異が所定範囲外の場合)、熱線流速計3mが劣化していると考えられる。熱線流速計3sは、キースイッチ投入後のエンジン始動前に校正してあるからである。そこで、熱線流速計3mを校正することになる。
【0070】
熱線流速計3mの校正に用いる係数を主流路校正係数Hmとすると、
Hm=QasIDLE/QamIDLE
とする。このようにして、エンジン始動後のアイドリング時に、熱線流速計3mを校正する主流路校正係数Hmを決定することができる。
【0071】
以上説明したように、本発明は、流路2に流れる対象流体の質量流量を熱線流速計3で測定する流体流量計1において、流路2内が隔壁4によって分割形成された主流路5及び副流路6と、これら主流路5と副流路6にそれぞれ配置された熱線流速計3m,3sと、副流路6に接続され対象流体が流路2に流されないときに校正用流体を副流路6に導入する校正用流体導入機構7と、副流路6の熱線流速計3sで測定された校正用流体の測定質量流量が正しい質量流量となるよう副流路6の熱線流速計3sを校正し、主流路5における対象流体の測定質量流量から推定される流路2の総質量流量と副流路6における対象流体の測定質量流量から推定される流路2の総質量流量との差異がなくなるよう主流路5の熱線流速計3mを校正する校正演算部8とを備えたことにより、熱線流速計3m,3sの性能の経年変化を補うことができる。
【0072】
特に車両においては、校正演算部8は、キースイッチ投入後のエンジン始動前に校正用流体導入機構7により校正用流体としての空気を副流路6に導入させて校正用流体の質量流量を測定して副流路6の熱線流速計3sを校正し、エンジン始動後のアイドリング時に主流路5に流れる空気の質量流量と副流路6に流れる空気の質量流量とを測定して主流路5の熱線流速計3mを校正するようにしたので、吸気ダクト2に外部空気が流れ込まないエンジン始動前に校正用流体を用いた熱線流速計3sの校正を行うことができると共に、吸気ダクト2の空気の質量流量が比較的少ないアイドリング時に熱線流速計3mの校正を行うことができる。
【0073】
車両においては、熱線流速計3の劣化が自動的に校正されることにより、エミッションや燃費に関する性能劣化を抑制することができる。
【0074】
なお、本発明では、隔壁4から副流路6を遮蔽するように形成された仕切り板10に対象流体入口11を設ける。対象流体入口11の開口直径dが小さいので、吸気ダクト2を流れる空気の質量流量が多い場合には、対象流体入口11において流れがチョークされることがある。従って、吸気ダクト2の空気の質量流量が比較的少ないアイドリング時に熱線流速計3mの校正を行うのは好ましい。
【0075】
本発明では、試験時に測定した主流路5における測定質量流量と副流路6における測定質量流量との比を分割比Bとして、その後、継続してこの分割比Bを演算に用いる。分割比Bは、機械的構造の因子である主流路5の流路面積Amと副流路6の実質的な流路面積Asとによって概ね決まる。流路2(主流路5、副流路6)が変形したり、詰まりを生じたりしない限り、分割比Bは変化しない。しかし、対象流体入口11の開口直径dが小さいので、汚染によって副流路6の流路面積Asが変わると、分割比Bが変化する。Low Pressure EGR方式を採用するエンジンに本発明の流体流量計1を適用する場合には、EGRガスが新気と合流される位置よりも上流であって、エアクリーナよりも下流に流体流量計1を設置すると、流体流量計1が汚染されるのを防ぐことができる。
【0076】
以下、本発明の校正演算部8としてコンピュータ9が実行するアルゴリズムを説明する。なお、図10のフローチャート中に記入されている等式は、右辺を左辺に代入するというコンピュータプログラム特有の数式表現である。
【0077】
図10に示されるように、車両のキースイッチが投入されると、コンピュータ9が起動される。ステップS1において、キースイッチがオンであることが認識される。ステップS2において、校正用流体導入機構7(エアシリンダ)が作動しノズル12から副流路6へ校正用の空気が導入される。ステップS3において、コンピュータ9内のタイマが以後の時間測定のため作動開始される。ステップS4において、上記タイマの瞬時値を読み取ることで時間が測定される。
【0078】
ステップS5において、校正用流体導入機構7におけるピストン14のストローク(ピストンリフト)が測定される。ステップS6において、ストロークと時間よりピストン14の速度が演算される。ステップS6−1において、ピストン14の速度の時間当たりの変化(加速度)が演算される。ステップS7において、ピストン14の速度変化がほぼ0かどうか比較判定される。NOであれば、ピストン14の速度は一定でない。このとき、ステップS8において、ピストン14のストロークの前回値が今回値に更新され、時間の前回値が今回値に更新され、ピストン14の速度の前回値が今回値に更新される。ステップS4に戻る。
【0079】
ステップS7の判定がYESであれば、ピストン14の速度は一定である。このとき、ステップS7−1において、払い出し圧力センサ16の出力値を読み取ることにより、払い出し管に生じている払い出し圧力(エアシリンダ吐出圧)が測定され、温度センサ17の出力値を読み取ることにより、払い出し空気の温度が測定される。ステップS9において、タイマが停止される。ステップS10に進む。
【0080】
ステップS10において、払い出し圧力と、払い出し空気の温度と、ノズル12の噴口面積とを用いて、ノズル12より噴出される校正用の空気の正しい質量流量Qs(QsREFであるが図10では添え字を省略測定する)が演算される。ステップS11において、校正用の空気の正しい質量流量Qsと分割比Bを用いて吸気ダクト2の総質量流量Qavが演算される。これは、エンジン駆動時に校正用の空気と同量の空気(新気)が副流路6に流れたとして、そのとき吸気ダクト2の全体に流れているであろう総質量流量である。
【0081】
ステップS12において、副流路6内の熱線流速計3sにより校正用の空気の質量流量Qs(QsCALであるが図10では添え字を省略測定する;以下同様)が測定され、これより吸気ダクト2の総質量流量Qacが演算される。これは、ステップS11と同様の総質量流量推定を熱線流速計3sの実測値から行うものである。なお、コンピュータ9の演算処理速度が校正用の空気流の変化より充分に速いので、ステップS12での測定・演算はステップS7−1からステップS10までの測定・演算とほぼ同時であり、同じ一定の校正用の空気流に基づくものとなる。
【0082】
ステップS11で求めた吸気ダクト2の総質量流量QavとステップS12で求めた吸気ダクト2の総質量流量Qacとが互いに等しければ、熱線流速計3sは劣化していないことになる。両者の総質量流量に差異があれば、熱線流速計3sは劣化していることになる。このとき、両者の差が劣化による誤差となる。ステップS13において、総質量流量Qavと総質量流量Qacの比により、副流路校正係数Hsが演算される。
【0083】
以上、ステップS1からステップS13までが、キースイッチ投入後のエンジン始動前に実行される。その後、エンジンが始動されると、ステップS14において、エンジン始動が認識される。
【0084】
エンジン始動後のアイドリング時に、ステップS15において、副流路6内の熱線流速計3sにより空気の質量流量Qsが測定され、さらに、この質量流量Qsと分配比Bと副流路校正係数Hsから吸気ダクト2全体の総質量流量Qasが演算される。
【0085】
一方、ステップS16において、主流路5内の熱線流速計3mにより空気の質量流量Qmが測定され、さらに、この質量流量Qmと分配比Bとから吸気ダクト2全体の総質量流量Qamが演算される。ステップS15の総質量流量QasとステップS16の総質量流量Qamとが互いに等しければ、熱線流速計3mは劣化していないことになる。両者の総質量流量に差異があれば、熱線流速計3mは劣化していることになる。このとき、両者の差が劣化による誤差となる。
【0086】
ステップS17において、総質量流量Qasと総質量流量Qamの比により、主流路校正係数Hmが演算される。熱線流速計3mの劣化がなければHm=1である。
【0087】
ステップS18において、関数F(Vm)を求める。関数F(Vm)は、このアルゴリズムが実行される最初は、初期(試験時)に熱線流速計3mの出力電圧Vmと空気の質量流量Qmとの関係を求めた初期関数F(Vm)TESTである。この初期関数F(Vm)TESTに主流路校正係数Hmを掛けて劣化後の新たな関数F(Vm)とする。
【0088】
ステップS19より、通常のエンジン制御に進む。
【0089】
以上のアルゴリズム中、ノズル12より噴出される校正用の空気の質量流量を演算する手順(破線で囲む部分)は、次の手順に置き換えることができる。
【0090】
図11に示されるように、ステップS5において、払い出し圧力センサ16の出力値を読み取ることにより、払い出し管に生じている払い出し圧力(エアシリンダ吐出圧)が測定される。ステップS6において、払い出し圧力の変化が演算される。ステップS7において、払い出し圧力の変化がほぼ0かどうか比較判定される。NOであれば、払い出し圧力は一定でない。このとき、ステップS8において、払い出し圧力の前回値が今回値に更新され、時間の前回値が今回値に更新される。ステップS4に戻る。ステップS7の判定がYESであれば、払い出し圧力は一定である。このとき、ステップS7−1に進む。
【0091】
以上の手順において、副流路校正係数Hs、主流路校正係数Hmの両方又はいずれか一方が、所定の許容限界値(例えば、10%増減)に達したら、熱線流速計3s、熱線流速計3mの交換警告を車両の表示器に表示するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の一実施形態を示す車両のMAF測定に適用される流体流量計の構成図である。
【図2】図1の流体流量計における副流路内配置詳細図である。
【図3】本発明で演算に用いる分割比を説明するための流速対質量流量特性図である。
【図4】本発明の流体流量計の試験時における諸量を定義するための流体流量計の断面図である。
【図5】本発明の副流路における質量流量測定を説明するための副流路断面拡大図である。
【図6】熱線流速計の劣化前と劣化後の流速対質量流量特性図である。
【図7】本発明の校正用流体導入機構におけるピストン速度の時間特性図である。
【図8】本発明の校正用流体導入機構における払い出し管内圧力の時間特性図である。
【図9】本発明の熱線流速計における質量流量対出力電圧特性図である。
【図10】本発明の校正演算部としてコンピュータが実行するアルゴリズムのフローチャートである。
【図11】本発明のノズルより噴出される校正用の空気の質量流量を演算する別の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0093】
1 流体流量計
2 流路(吸気ダクト)
3 熱線流速計
3m 主流路の熱線流速計
3s 副流路の熱線流速計
4 隔壁
5 主流路
6 副流路
7 校正用流体導入機構
8 校正演算部
9 コンピュータ
10 仕切り板
11 対象流体入口
12 ノズル
13 シリンダ
14 ピストン
15 ピストン変位センサ
16 払い出し圧力センサ
17 温度センサ
18 副流路圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路に流れる対象流体の質量流量を熱線流速計で測定する流体流量計において、
上記流路内が隔壁によって分割形成された主流路及び副流路と、
これら主流路と副流路にそれぞれ配置された熱線流速計と、
上記副流路に接続され対象流体が流されないときに校正用流体を導入する校正用流体導入機構と、
上記副流路の熱線流速計で測定された校正用流体の測定質量流量が正しい質量流量となるよう上記副流路の熱線流速計を校正し、上記主流路における対象流体の測定質量流量から推定される上記流路の総質量流量と上記副流路における対象流体の測定質量流量から推定される上記流路の総質量流量との差異がなくなるよう上記主流路の熱線流速計を校正する校正演算部と、
を備えたことを特徴とする流体流量計。
【請求項2】
上記校正用流体導入機構は、上記校正用流体を収容するシリンダと、該シリンダ内の校正用流体を払い出すピストンと、該ピストンの変位を測定するピストン変位センサと、払い出し中の校正用流体の圧力を測定する払い出し圧力センサと、校正用流体の温度を測定する温度センサと、上記副流路の圧力を測定する副流路圧力センサとを備え、
上記校正演算部は、上記ピストンの速度が一定か又は払い出し中の校正用流体の圧力が一定であれば上記副流路に導入されている校正用流体の質量流量が一定であると判定し、校正用流体の質量流量が一定であるときに、上記払い出し中の校正用流体の圧力と校正用流体の温度と上記副流路の圧力とから上記副流路における校正用流体の正しい質量流量を求めることを特徴とする請求項1記載の流体流量計。
【請求項3】
上記副流路は、上記隔壁の対象流体が流れ込む側を上記熱線流速計から所定距離の位置で塞ぐ仕切り板と、該仕切り板に形成され所定流路面積を有する対象流体入口と、対象流体が流れ込む方向と反対方向から校正用流体を導入するために上記隔壁の対象流体が流れ出す側に配置され、上記熱線流速計からの距離が上記対象流体入口から上記熱線流速計までの距離と等距離であって、上記対象流体入口と流路面積が等しいノズルとを備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の流体流量計。
【請求項4】
上記流路が車両の吸気ダクトであって、該吸気ダクトを流れる対象流体がエンジンに配給される空気であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の流体流量計。
【請求項5】
上記校正演算部は、キースイッチ投入後のエンジン始動前に上記校正用流体導入機構により校正用流体としての空気を上記副流路に導入させて校正用流体の質量流量を測定して上記副流路の熱線流速計を校正し、エンジン始動後のアイドリング時に上記主流路に流れる空気の質量流量と上記副流路に流れる空気の質量流量とを測定して上記主流路の熱線流速計を校正することを特徴とする請求項4記載の流体流量計。
【請求項6】
車両の吸気ダクトからエンジンに配給される空気の質量流量を熱線流速計で測定するMAF測定方法において、
上記吸気ダクト内を隔壁によって主流路及び副流路に分割形成し、上記主流路と副流路にそれぞれ熱線流速計を配置し、上記副流路に校正用流体を導入する校正用流体導入機構を接続しておき、
キースイッチ投入後のエンジン始動前に上記校正用流体導入機構により空気を上記副流路に導入させて該空気の質量流量を測定し、その測定質量流量が正しい質量流量となるよう上記副流路の熱線流速計を校正し、
エンジン始動後のアイドリング時に上記主流路に流れる空気の質量流量と上記副流路に流れる空気の質量流量とを測定し、
上記主流路における対象流体の測定質量流量から推定される上記流路の総質量流量と上記副流路における対象流体の測定質量流量から推定される上記流路の総質量流量との差異がなくなるよう上記主流路の熱線流速計を校正する、
ことを特徴とするMAF測定方法。
【請求項7】
あらかじめ上記吸気ダクトに試験用の一定量の空気を流して各熱線流速計により上記主流路と上記副流路に流れる空気の質量流量をそれぞれ測定し、上記主流路における測定質量流量と上記副流路における測定質量流量との比を分割比としておき、この分割比を用いて上記総質量流量を推定することを特徴とする請求項6記載のMAF測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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