説明

流動体塗布具

【課題】 低極性で揮発性の有機溶媒に色材等を含有させた流動体塗布液が外気温の変化に左右されることなく逆流防止効果に優れ、且つ、塗布性の良好な流動体塗布具を提供すること。
【解決手段】 先端に流動体塗布液の流出抑制機能を具備する塗布具の収容管内に、20℃における蒸気圧が1mmHg以上かつ溶解パラメーターδが10以下の低極性で揮発性の有機溶媒を含有する流動体塗布液Aが収容され、かつ、該流動体塗布液Aの端部には水と構造粘性付与剤からなるゲル状可動栓Bと、更にその後端には鉱物油、シリコーンオイル、エステル油、ポリブテン等から選ばれた不揮発性オイルと構造粘性付与剤からなるゲル状可動栓Cとが収容されているとともに、該ゲル状可動栓Cの後方収容管内が大気解放されている流動体塗布具。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、流動体塗布具、特にサインペン、ボールペンを含めた筆記具、修正具、接着剤塗布具、化粧具等に用いられる流動体塗布具に関する。
【0002】
【従来の技術】流動体塗布液の飛散防止、揮発防止のために、従来より流動体を収容したパイプ状容器内の流動体末端部に、液状の可動栓を生のまま具備したボールペン等の塗布具が広く知られている。しかしながら従来のかかる液状の可動栓としては鉱物油、シリコーンオイル、エステル油、ポリブテン等の不揮発性オイルを主成分としたものが用いられているため、水のような高極性の揮発性液体を配合したインクには揮発防止効果があるものの、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンといった低極性で揮発性の有機溶媒を配合したインクでは液状の可動栓と相溶してしまったり、可動栓を通過して揮発してしまうという問題があり実用化に至っていない。
【0003】また、シリコーンゴム等を用いた固体の可動栓もあるが、前述の低極性の揮発性液体を配合した流動体では揮発防止効果が不十分であり、またゴムが膨潤して可動出来なくなるといった問題があった。また、上記の低極性の揮発性溶媒を配合したインクを封入した修正具等の塗布具では、可動栓を設けないで容器が密閉されたタイプの物も提案されている。しかしながら、この場合外気温の変化によって内圧が変わり、例えば高温時には内圧が上がり使用時にインクが出過ぎ(流出過多)、また低温時には内圧が下がりインクがなかなか出てこない(流出過少)という不具合があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、描線の乾燥性、固着性、ブリード性等に好適なキシレン,シクロヘキサン,メチルシクロヘキサン,エチルシクロヘキサンといった低極性で揮発性の有機溶媒に色材等を含有させた流動体塗布液が外気温の変化に左右されることなく逆流防止効果に優れ、且つ、塗布性の良好な流動体塗布具を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者等は上記課題を達成するために、先端にボールペン型チップ、ニードルバルブ等の塗布液の流出抑制機構を具備する塗布具の収容管内に収容する流動体塗布液と液状可動栓との組み合わせを種々検討した結果、流動体塗布液と相溶しない2種類のゲル状可動栓を具備するとともに、可動栓の後方を大気解放させることでその目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】すなわち、本発明の流動体塗布具は、先端に流動体塗布液の流出抑制機能を具備する塗布具の収容管内に、20℃における蒸気圧が1mmHg以上かつ溶解パラメーターδが10以下の低極性で揮発性の有機溶媒を含有する流動体塗布液Aが収容され、かつ、該流動体塗布液Aの端部には水と構造粘性付与剤からなるゲル状可動栓Bと、更にその後端には鉱物油、シリコーンオイル、エステル油、ポリブテン等から選ばれた不揮発性オイルと構造粘性付与剤からなるゲル状可動栓Cとが収容されているとともに、該ゲル状可動栓Cの後方収容管内が大気解放されていることを特徴とする。
【0007】また上記の本発明における、流動体塗布液Aに使用される低極性で揮発性の有機溶媒が、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレンから選ばれた一種以上からなり、また、ゲル状可動栓Bが水とスメクタイト系構造粘性付与剤からなり、該ゲル状可動栓Bとゲル状可動栓Cが2層接触状態で収容されているものが好ましい。このスメクタイトは入手が容易であり、特に水に添加して安定した構造粘性を発揮する。これによって、ゲル状可動栓Bの流動体塗布液Aへの移行が起こりにくくなり、逆流防止体としての品質を維持でき、流動体塗布液の長期間の品質劣化を防止する効果がある。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。先ず、本発明で対象とする流動体塗布具とは、サインペン、ボールペン等を含めた筆記具、修正具、接着剤塗布具、化粧具等である。かかる流動体塗布具の先端には、通常、使用時に流動体が出過ぎたり、出にくくなるのを防止する流動体塗布液の流出抑制機能が具備される。なお、二酸化チタン等の比重の大きな顔料等の沈降防止や浸透性の被塗布面に対する描線のにじみ防止のために、流動体(インキ等)をゲル状とするのが望ましいが、かかるゲル状流動体の場合には、構造粘性破壊手段を有するボールペン型チップや、弾撥体で前方の座部に突出付勢させて先端孔を閉塞保持する弁付き塗布体又はニードルバルブ等の流出抑制機能を具備させたものが好ましい。
【0009】かかる塗布具のパイプ状容器からなる収容管内に塗布される流動体が収容される。ここで収容される流動体塗布液Aとしては、20℃における蒸気圧が1mmHg以上、かつ、溶解度パラメーターδが10以下に相当する低極性で比較的揮発性の高い有機溶媒に、カーボンブラック、二酸化チタン、赤・青等の染顔料等の色材や構造粘性付与剤、溶剤に可溶な増粘材・バインダーとしての樹脂類、界面活性剤類、香料その他任意の添加剤を配合したものを使用することができる。
【0010】ここで上記した条件を満たす低極性の比較的揮発性の高い有機溶媒としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレンから選ばれる少なくとも一種以上の有機溶媒が望ましい。流動体塗布液Aは、例えば有機溶媒20〜80部、顔料等の色材10〜60部、樹脂類その他が5〜30部程度の配合組成物とすることが望ましい。
【0011】本発明では、塗布具の収容管内には上記の流動体塗布液Aが収容され、該流動体塗布液Aの端部には水と構造粘性付与剤からなるゲル状可動栓Bを収容し、かつ、ゲル状可動栓Bの水の揮発を抑止するために更にその後方に鉱物油、シリコーンオイル、エステル油、ポリブテン等から選ばれた不揮発性オイルと構造粘性付与剤からなるゲル状可動栓Cとが収容されているとともに、該ゲル状可動栓Cの後方収容管内が小孔Dを介して大気解放されていることを特徴とする。
【0012】ゲル状可動栓Bは溶解パラメーターδが21と最も極性の高い水を構造粘性付与剤でゲル化したゲル化物を用いる。ここでいう構造粘性付与剤としては、増粘性多糖類、微粉末シリカ、粘土鉱物(ベントナイト、スメクタイト等)等の多種多様なものが公知であり本発明でも使用できる。これらの内、特にスメクタイト(粘土を構成するモンモリロン石群鉱物)系のものが水に添加して安定した構造粘性を発生すること、一般に入手が容易であることから最も好ましい。水100部に対して構造粘性付与剤が0.5〜5部の割合が好ましい。またゲル状可動栓Bの長さ(高さ)は5〜20mm程度とすることが望ましい。
【0013】かかる端部可動栓Bによって流動体塗布液Aの揮発(ドライアップ)を抑制することができるが、このままではゲル状粘性体Bの水自体も揮発してしまう。そこで本発明では端部可動栓の後方に更に鉱物油、シリコーンオイル、エステル油、ポリブテン等の不揮発性オイルと構造粘性付与剤からなるゲル状可動栓Cを収容させる。これによってドライアップや流出不良現象が解消して良好な塗布性が得られる。この時のゲル状可動栓Cの長さ(高さ)は5〜20mm程度となるようにすることが望ましい。
【0014】なお末端部のゲル状可動栓Cの後方収容管内は小孔Dを介して大気解放させているために、温度変化によって容器内の内圧が上下することがなく、流動体塗布液を常に安定して塗布することができる。これによって、これら二種類の可動栓B,Cは積層状態で流動体塗布液Aの消費に追従して移動し可動栓としの作用をなすことになる。
【0015】
【実施例】以下に実施例によって、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何等限定されるものではない。
【0016】実施例1先端に流出抑制機構としてボールペン型チップを具備し、内部に内径5mm,外径7mmのナイロン12からなるパイプ状の収容管を具備した塗布具の該収容管に、次の配合組成物を混合分散させた流動体Aを約2g注入した。
<流動体A>・メチルシクロヘキサン 40部・アクリル樹脂 10部・二酸化チタン(顔料) 50部更に収容管の流動体Aの端部に下記組成からなる可動栓Bを0.3g、さらにその後方に下記組成からなる可動栓Cを0.3g順番に注入した。
<可動栓B>・精製水 97部・スメクタイト系構造粘性体 3部(日本シリカ工業株式会社製 ラポナイトRD)
<可動栓C>・鉱物油 67部・ポリブテン 30部・微粉末シリカ 3部このサンプルを50℃のオーブンに入れ、1ケ月後に重量変化と先端からの塗布状況について観察した。その結果を表1に示す。
【0017】実施例2実施例1における流動体Aのメチルシクロヘキサンをエチルシクロヘキサンに変更した以外は、実施例1と同一条件でサンプルをつくり50℃のオーブンに入れ、1ケ月後に重量変化と先端からの塗布状況について観察した。その結果を表1に示す。
【0018】実施例3実施例1における流動体Aのメチルシクロヘキサンをノルマルヘプタンに変更した以外は、実施例1と同一条件でサンプルをつくり50℃のオーブンに入れ、1ケ月後に重量変化と先端からの塗布状況について観察した。その結果を表1に示す。
【0019】実施例4実施例1における流動体Aにゲル化剤としてN−ラウロイル−α,γ−ジ−nブチルアミド(GP−1:味の素株式会社製)0.5部を添加した以外は、実施例1と同一条件でサンプルをつくり50℃のオーブンに入れ、1ケ月後に重量変化と先端からの塗布状況について観察した。その結果を表1に示す。
【0020】実施例5実施例1における流動体Aにゲル化剤として微粉末シリカ(AEROSILR972:日本アエロジル株式会社製)1部を添加した以外は、実施例1と同一条件でサンプルをつくり50℃のオーブンに入れ、1ケ月後に重量変化と先端からの塗布状況について観察した。その結果を表1に示す。
【0021】比較例1先端に流出抑制機構としてボールペン型チップを具備し、内部に内径5mm,外径7mmのナイロン12からなるパイプ状の収容管を具備した塗布具の該収容管に、実施例1で用いたと同じ流動体Aを約2g注入し、更に収容管の流動体Aの端部に実施例1で用いたと同じ下記の可動栓Cだけを0.6g注入した。
<可動栓C>・鉱物油 67部・ポリブテン 30部・微粉末シリカ 3部このサンプルを50℃のオーブンに入れ、1ケ月後に重量変化と先端からの塗布状況について観察した。結果を表1に示す。
【0022】比較例2比較例1における可動栓Cを以下の下記組成からなる可動栓Cに変更し、0.6g注入した。このサンプルを50℃のオーブンに入れ、1ケ月後に重量変化と先端からの塗布状況について観察した。結果を表1に示す。
<可動栓C>・メチルポリシロキサン 97部・微粉末シリカ 3部
【0023】比較例3先端に流出抑制機構としてボールペン型チップを具備した密閉容器に、実施例1で使用したと同じ流動体Aだけを2g注入し、このサンプルを50℃のオーブンに入れ、1ケ月後に重量変化と先端からの塗布状況について観察した。結果を表1に示す。
【0024】
【表1】


【0025】
【発明の効果】以上説明した本発明によると、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレンから選ばれた低極性で比較的揮発性の高い有機溶媒を含有する流動体塗布液の末端部に、2種類のゲル状構造粘性体が接触状態で可動栓として収容され、かつ、その後方収容管内が大気解放されていることで、流動体塗布液が可動栓と相溶したり可動栓を通過して揮発(ドライアップ)したりすることがない。また可動栓は流動体塗布液の消費につれて追従してスムーズに移動し外気温の変化に左右されることなく逆流防止効果にも優れ、より使いやすい塗布具を使用者に提供することが可能となる。なお、本実施例では二酸化チタンを色材とした白色流動体を例にとって説明したが、カーボンブラック、赤・青等の染顔料で着色した流動体であっても何ら機能に差し支えはない。また、本発明はボールペンのように交換可能なリフィールを有する流出抑制機構に適用した場合も同様の効果を発揮するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 先端に流動体塗布液の流出抑制機能を具備する塗布具の収容管内に、20℃における蒸気圧が1mmHg以上かつ溶解パラメーターδが10以下の低極性で揮発性の有機溶媒を含有する流動体塗布液Aが収容され、かつ、該流動体塗布液Aの端部には水と構造粘性付与剤からなるゲル状可動栓Bと、更にその後端には鉱物油、シリコーンオイル、エステル油、ポリブテン等から選ばれた不揮発性オイルと構造粘性付与剤からなるゲル状可動栓Cとが収容されているとともに、該ゲル状可動栓Cの後方収容管内が大気解放されていることを特徴とする流動体塗布具。
【請求項2】 流動体塗布液Aに使用される低極性で揮発性の有機溶媒が、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレンから選ばれた一種以上からなり、また、ゲル状可動栓Bが水とスメクタイト系構造粘性付与剤からなり、該ゲル状可動栓Bとゲル状可動栓Cが2層接触状態で収容されている請求項1記載の流動体塗布具。

【公開番号】特開2000−343879(P2000−343879A)
【公開日】平成12年12月12日(2000.12.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−157090
【出願日】平成11年6月3日(1999.6.3)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】