説明

流動層装置

【課題】流動層容器内に仕切を設ける必要をなくして、構造を簡略化し、摩耗並びにコストの問題を解消しつつ、流動層容器内における流動媒体の流動速度の均一化を図り且つデッドスペースをなくすことができ、流動媒体の滞留時間延長を図り得る流動層装置を提供する。
【解決手段】流動層容器1内部に気体により流動媒体の流動層2を形成するようにした流動層装置3において、流動層容器1の長手方向における流動媒体の流通方向上流側端部に接続される投入ノズル4の投入口4aの幅を流動層2の幅に等しくすると共に、前記流動層容器1の長手方向における流動媒体の流通方向下流側端部に接続される抜出ノズル5の抜出口5aの幅を流動層2の幅に等しくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動層容器内部に気体により流動媒体の流動層を形成するようにした流動層装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、流動層容器内部に気体により流動媒体の流動層を形成するようにした流動層装置は、例えば、石炭、バイオマス、タイヤチップ等の原料を高温の流動媒体(硅砂、石灰石等)の流動層に投入してガス化ガスを生成するガス化設備のガス化炉、流動媒体としての粒子の乾燥を行う乾燥炉、或いは流動媒体としての粒子の表面にコーティングを施すコーティング装置等として広く用いられている。
【0003】
前記流動層装置においては、ガス化等の化学反応、或いは粒子の乾燥、コーティング等の物理処理に対して、流動層の体積が一定の条件のとき、いかに流動媒体の滞留時間を延ばすかが非常に重要となっている。
【0004】
従来、例えば、流動反応装置内下部のガス分散板上に、仕切り板で流路を形成し、流動化した原料粒子の滞留時間を調整可能とした流動層反応装置を示すものとしては、特許文献1があり、又、予備還元炉の分散板上の空間を、仕切壁によって複数の区画に分割し、鉱石等の流動媒体の炉内滞留時間を増大させる流動層炉を示すものとしては、特許文献2がある。
【特許文献1】特開平11−108561号公報
【特許文献2】特開平9−14853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1、2に示される装置はいずれも、流動層容器内に仕切を配置することで流動層体積を有効に利用することが基本となっているが、流動層装置の構造が複雑になり、前記流動層容器内に配置される仕切の摩耗がひどくなるという問題を有しており、又、特に高温場では仕切の摩耗が更に激しくなるため、該仕切として高級材料を使う必要があり、コストアップにつながる虞もあった。
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み、流動層容器内に仕切を設ける必要をなくして、構造を簡略化し、摩耗並びにコストの問題を解消しつつ、流動層容器内における流動媒体の流動速度の均一化を図り且つデッドスペースをなくすことができ、流動媒体の滞留時間延長を図り得る流動層装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、流動層容器内部に気体により流動媒体の流動層を形成するようにした流動層装置において、
前記流動層容器の長手方向における流動媒体の流通方向上流側端部に接続される投入ノズルの投入口の幅を流動層の幅に等しくすると共に、前記流動層容器の長手方向における流動媒体の流通方向下流側端部に接続される抜出ノズルの抜出口の幅を流動層の幅に等しくしたことを特徴とする流動層装置にかかるものである。
【0008】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0009】
流動媒体は、投入ノズルにより、その幅を流動層の幅に等しくした投入口から流動層容器内へ投入され、該流動層容器内を抜出ノズル側へ向け流動していき、該抜出ノズルにより、その幅を流動層の幅に等しくした抜出口から抜き出される形となり、流動媒体の流動速度が均一になり且つデッドスペースがなくなって、仕切なしでも流動媒体の滞留時間を延ばすことが可能となり、流動層装置の構造が複雑にならず、前記流動層容器内に仕切を配置する必要がないため、特に高温場であっても仕切の摩耗に配慮したり、該仕切として高級材料を使わなくて済み、コストアップも避けられる。
【0010】
前記流動層装置においては、前記投入ノズルを、その幅が導入端口から投入口へ向け漸次増加する形状とし、且つ前記投入ノズルに、該投入ノズル内部をその幅方向へ複数の流通路に区画する区画板を配設すると共に、前記抜出ノズルを、その幅が抜出口から導出端口へ向け漸次減少する形状とすることができ、このようにすると、特に前記流動層容器の幅が広い場合に、投入される流動媒体が流動層容器の幅方向における一部分に偏って投入されることをなくし、より均一に流動媒体を投入しつつ確実に抜き出す上で有効となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の流動層装置によれば、流動層容器内に仕切を設ける必要をなくして、構造を簡略化し、摩耗並びにコストの問題を解消しつつ、流動層容器内における流動媒体の流動速度の均一化を図り且つデッドスペースをなくすことができ、流動媒体の滞留時間延長を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0013】
図1〜図4は本発明を実施する形態の一例であって、直方体形状を有する流動層容器1内部に気体により流動媒体の流動層2を形成するようにした流動層装置3において、流動層容器1の長手方向における流動媒体の流通方向上流側端部に接続される投入ノズル4の投入口4aの幅を流動層2の幅に等しくすると共に、前記流動層容器1の長手方向における流動媒体の流通方向下流側端部に接続される抜出ノズル5の抜出口5aの幅を流動層2の幅に等しくしたものである。
【0014】
本図示例の場合、前記投入ノズル4は、その幅が導入端口4bから投入口4aへ向け漸次増加する形状とし、且つ前記投入ノズル4に、図2に示す如く、該投入ノズル4内部をその幅方向へ複数の流通路4cに区画する区画板4dを配設すると共に、前記抜出ノズル5を、その幅が抜出口5aから導出端口5bへ向け漸次減少する形状としてある。
【0015】
次に、上記図示例の作用を説明する。
【0016】
流動媒体は、投入ノズル4により、その幅を流動層2の幅に等しくした投入口4aから流動層容器1内へ投入され、該流動層容器1内を抜出ノズル5側へ向け流動していき、該抜出ノズル5により、その幅を流動層2の幅に等しくした抜出口5aから抜き出される形となり、流動媒体の流動速度が均一になり且つデッドスペースがなくなって、仕切なしでも流動媒体の滞留時間を延ばすことが可能となり、流動層装置3の構造が複雑にならず、前記流動層容器1内に仕切を配置する必要がないため、特に高温場であっても仕切の摩耗に配慮したり、該仕切として高級材料を使わなくて済み、コストアップも避けられる。
【0017】
更に、前記投入ノズル4は、その幅が導入端口4bから投入口4aへ向け漸次増加する形状とし、且つ前記投入ノズル4に、該投入ノズル4内部をその幅方向へ複数の流通路4cに区画する区画板4dを配設すると共に、前記抜出ノズル5は、その幅が抜出口5aから導出端口5bへ向け漸次減少する形状としてあるため、特に前記流動層容器1の幅が広い場合に、投入される流動媒体が流動層容器1の幅方向における一部分に偏って投入されることをなくし、より均一に流動媒体を投入しつつ確実に抜き出す上で有効となる。
【0018】
ここで、下記の二次元対流−拡散モデルを用いてシミュレーションを行い、流動層2における流動媒体の滞留時間を計算した。
【0019】
計算を行うに際し、実際の三次元の流動層2を二次元(上から見る方向)モデルで表現し、層高方向の変化は平均値で表すこととした。
【0020】
又、実際の流動媒体と、流動化ガスとしての気体との二相流を、一相流のモデルとし、流動媒体の粘性は、下記の[数1]式で計算する。
【数1】

である。
【0021】
更に又、二次元対流−拡散モデルを用いたシミュレーションにおいては、その挙動を追跡するのに用いられるトレーサとしての流動媒体の粒子の動きは、流動媒体の流れに乗る「対流」と、流動化ガスとしての気体の気泡の動きによって流動媒体が撹拌されて拡がる「拡散」となり、拡散係数は、下記の[数2]式で計算する。
【数2】

但し、[数2]式において
x:x方向の拡散系数
y:y方向の拡散系数
B:流動層2の幅
L:流動層2の長さ
mf:流動層2の層高
0:空塔速度
mf:最小流動化速度
w:ウェック係数
g:重力加速速度
である。
【0022】
そして、流動層2の動きは、下記の二次元の方程式である[数3]式で計算し、トレーサの濃度は、下記の[数4]式で計算する。
【数3】

【数4】

但し、[数3]式、[数4]式において
x:流動媒体のx方向の移動速度
y:流動媒体のy方向の移動速度
Y:流動媒体の濃度
ρ:流動媒体の嵩密度
である。
【0023】
流動媒体の物性、気体(蒸気)の物性、運転条件、計算条件を実機に見合うよう設定し、[数3]式から、流動媒体の動きを計算し、図3(a),(b)に示すような、流動層容器1内での流動媒体の流動速度分布を求め、該流動層容器1内での流動媒体の流動速度分布を把握した上で、[数4]式から、トレーサの濃度を計算する。該トレーサの濃度を計算することにより、時間t=0[s]、濃度Yin=1(100[%])のトレーサを投入ノズル4の投入口4aから連続投入して、抜出ノズル5の抜出口5aから抜き出されるトレーサの滞留時間Yin(t)を求める(図4参照)。因みに、滞留時間とは、時間t[s]で何パーセントのトレーサが流動層2を出たか、即ち、何パーセントのトレーサが流動層2内にt[s]滞留したかということを意味している。
【0024】
上記の二次元対流−拡散モデルを用いてシミュレーションを行った結果、本図示例における流動層容器1内での流動媒体の流動速度分布は、図3(a)に示す如く、均一となり、流動層容器1内にデッドスペースがなく、該流動層容器1の内部全体が有効に機能するので、流動媒体の滞留時間を長くすることが可能となるのに対し、従来例(投入ノズルと抜出ノズルとがそれぞれ細い管状となっている)における流動層容器1内での流動媒体の流動速度分布は、図3(b)に示す如く、均一とはならず、流動層容器1内における特に四隅部分にデッドスペースが生じて、該流動層容器1内における有効体積が減少するので、滞留時間が短くなることが確認できた。
【0025】
しかも、流動層容器1内に累積される流動媒体の滞留時間は、図4に示すようになり、この図から明らかなように、50[%]の累積で比較した場合、滞留時間を、本図示例においては延長することが可能となる。
【0026】
尚、図4においては、累積がおよそ75[%]を越えたあたりから、本図示例と従来例 との滞留時間[s]が逆転しているが、通常は50[%]の累積に対する滞留時間によって流動層装置3の性能を評価することが行われており、問題とはならない。その理由は、累積の数値が低くて滞留時間が短すぎると、流動媒体は反応や乾燥が充分に行われない状態のまま、外部へ出てしまうため、この滞留時間は重要であり延長する必要があるが、累積の数値が高い場合、仮に滞留時間が短くても、流動媒体は反応や乾燥が既に充分行われているので、外部へ速く出てしまっても問題ないためである。
【0027】
こうして、流動層容器1内に仕切を設ける必要をなくして、構造を簡略化し、摩耗並びにコストの問題を解消しつつ、流動層容器1内における流動媒体の流動速度の均一化を図り且つデッドスペースをなくすことができ、流動媒体の滞留時間延長を図り得る。
【0028】
尚、本発明の流動層装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略斜視図である。
【図2】本発明を実施する形態の一例における投入ノズルを示す斜視図である。
【図3】(a)は本発明を実施する形態の一例における流動層容器内での流動媒体の流動速度分布図、(b)は従来例における流動層容器内での流動媒体の流動速度分布図である。
【図4】流動層容器内に累積される流動媒体の滞留時間を、本発明を実施する形態の一例と従来例との間で比較する線図である。
【符号の説明】
【0030】
1 流動層容器
2 流動層
3 流動層装置
4 投入ノズル
4a 投入口
4b 導入端口
4c 流通路
4d 区画板
5 抜出ノズル
5a 抜出口
5b 導出端口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動層容器内部に気体により流動媒体の流動層を形成するようにした流動層装置において、
前記流動層容器の長手方向における流動媒体の流通方向上流側端部に接続される投入ノズルの投入口の幅を流動層の幅に等しくすると共に、前記流動層容器の長手方向における流動媒体の流通方向下流側端部に接続される抜出ノズルの抜出口の幅を流動層の幅に等しくしたことを特徴とする流動層装置。
【請求項2】
前記投入ノズルを、その幅が導入端口から投入口へ向け漸次増加する形状とし、且つ前記投入ノズルに、該投入ノズル内部をその幅方向へ複数の流通路に区画する区画板を配設すると共に、前記抜出ノズルを、その幅が抜出口から導出端口へ向け漸次減少する形状とした請求項1記載の流動層装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−119912(P2010−119912A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293458(P2008−293458)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】