説明

流動性増加剤としてカーボンブラックを含有する粉末冶金組成物

【課題】流動性及び見かけ密度のような改良された粉末特性を有する粉末冶金組成物を提供する。
【解決手段】鉄又は鉄ベース金属粉末、潤滑剤及び/又は結合剤、及びカーボンブラックを含み、しかも、前記カーボンブラックの量が、0.001〜0.2重量%である、粉末冶金組成物を適用する。カーボンブラックの量は0.01〜0.1重量%が好ましい。適用するカーボンブラックの粒径は200nmより小さい方が好ましく、100nmより小さいものや、50nmより小さいものが更に好ましい。比表面積は100m2/gより大きいことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄ベース(iron−based)粉末冶金組成物に関する。特に、本発明は、流動性を改良し、見かけの密度も改良する流動剤を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金組成物は、粉末冶金部品を製造するためによく知られている。粉末冶金部品の製造には、成形工具中に粉末を充填すること、粉末の成形(compaction)、及び続く成形物体の焼結が含まれる。粉末を充填するための必要条件は、粉末が自由流動性で充分な流動性を有することである。製造コストを低下し、製造される各部品について一層よい経済性を与える大きな製造速度を得るためには、粉末が大きな流動度をもつことが必須である。
【0003】
効率的で経済的な製造に必須の別の要因は、見かけの密度である。見かけ密度は、工具の設計には不可欠である。見かけ密度が低い粉末は、充填高さを高くする必要があり、そのことは余計に高いプレス工具を要する結果になり、このことが今度は成形ストロークを一層長くし、プレス性能を低くする結果になるであろう。
【0004】
流動性の改良剤は既に知られている。例えば、米国特許第3,357,818号明細書は珪酸をこの目的に用いることができることを開示している。米国特許第5,782,954号明細書には、金属、金属酸化物、又は酸化珪素を流動剤として用いることができることが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、流動性及び見かけ密度のような改良された粉末特性を有する粉末冶金組成物を与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
鉄ベース粉末組成物に少量のカーボンブラックを添加することにより、その粉末組成物の性質を改良することができることが図らずも発見された。更に、調節された量のカーボンブラックを添加しても、新規な鉄ベース組成物から製造された圧粉体及び焼結部品の性質を悪化することはなく、それらの性質が改良されることさえある。
【0007】
本発明の詳細な記述
一般に粉末冶金組成物は、鉄又は鉄ベース粉末及び潤滑剤を含む。それら組成物は、結合剤、黒鉛、及び他の合金用元素を含んでいてもよい。硬質相材料、液相形成材料、及び機械加工性向上剤を含有させてもよい。
【0008】
鉄ベース粉末は、水噴霧鉄粉末、還元鉄粉末、予め合金化した鉄ベース粉末、又は拡散合金化鉄ベース粉末のようなどのような種類の鉄ベース粉末からなっていてもよい。そのような粉末は、例えば、鉄粉末ABC100.29、Cu、Ni、及びMoを含む拡散合金化した鉄ベース粉末ディスタロイ(Distaloy)AB、Cr及びMoと予め合金化した鉄ベース粉末アスタロイ(Astaloy)CrM及びアスタロイCrLであり、それらは全てスウェーデンのヘガネス(Hoeganaes)ABから入手することができる。
【0009】
本発明による鉄ベース粉末組成物中のカーボンブラックの量は、0.001重量%〜0.2重量%、好ましくは0.01〜0.1%である。カーボンブラックの一次粒径は、好ましくは200nmより小さく、一層好ましくは100nmより小さく、最も好ましくは50nmより小さい。比表面積は、BET法で測定して、好ましい態様として、150〜1000m/gである。しかし、他の比表面積及び一次粒径を有する他の種類のカーボンブラックを使用することもできる。
【0010】
カーボンブラックは、通常ゴム材料中の充填剤及び着色顔料として用いられている。それは、その電気伝導度のために、静電気を減少させるための製品にも用いられている。鉄又は鉄ベース粉末と一緒にしたカーボンブラックは、米国特許第6,602,315号明細書に記載されている。この特許は、合金用粉末を結合剤により鉄ベース粉末に結合し、それにカーボンブラックを添加してもよい組成物を開示している。米国特許第6,602,315号明細書は、カーボンブラックの含有量、粒径、又は効果については何も記載しておらず、単に結合材料に関係があるだけである。特許出願JP7−157838にもカーボンブラックを含有する粉末組成物が記載されている。そこでのカーボンブラックの目的は、基礎材料の脱酸素を行うことにある。
【0011】
本発明による組成物は、黒鉛、Cu、Ni、Cr、Mn、Si、V、Mo、P、W、S、及びNbからなる群から選択された合金用元素を含んでいてもよい。
【0012】
粉末の圧縮性を増大し、圧粉体部品の放出を促進するため、潤滑剤又は異なった潤滑剤の組合せを粉末冶金組成物に添加してもよい。潤滑剤は粒状粉末として存在させてもよく、或は鉄ベース粉末の表面に結合させてもよい。溶媒に溶解した結合剤を添加し、次にその溶媒を蒸発させることにより、潤滑剤を鉄ベース粉末の表面に結合させてもよい。結合剤は、鉄ベース粉末の周りに膜を形成する能力を有するその自然の液体状態で添加してもよい。それに代わる別の方法は、潤滑剤の融点より高いか、又は潤滑剤成分の少なくとも一種類の融点より高く組成物を加熱し、次にその組成物を融点より低い温度へ冷却することにより潤滑剤を結合剤として用いることである。
【0013】
潤滑剤は、脂肪酸、エチレンビスステアルアミド(EBS)のようなアミドワックス、又は金属ステアリン酸塩のような他の脂肪酸誘導体、ポリエチレンのようなポリアルキレン、ポリグリコール、アミド重合体、又はアミドオリゴマーからなる群から選択することができる。潤滑剤は、ポリアルキレン、アミドワックス、アミド重合体、又はアミドオリゴマーからなる群から選択されるのが好ましい。
【0014】
結合剤は、セルロースエステル樹脂、高分子量熱可塑性フェノール樹脂、ヒドロキシアルキルセルロース樹脂、及びそれらの混合物からなる群から選択される。結合剤は、セルロースエステル樹脂及びヒドロキシアルキルセルロース樹脂の群から選択されるのが好ましい。
【0015】
他の可能な添加剤は、機械加工性改良剤、硬質相材料、及び液相形成剤である。
【0016】
好ましい態様に従い、カーボンブラックを結合混合物、即ち、例えば合金用元素粒子の微細な粉末が、鉄又は鉄ベース粉末粒子の表面に結合剤により結合した混合物中の流動剤として用いる。なぜなら、これらの混合物は屡々流動性がよくないからである。カーボンブラックは、結合混合物中に用いる場合、結合操作が行われた後に添加するのが好ましい。結合操作は、混合中の混合物を、結合剤の融点より高い温度へ加熱し、その混合物を結合剤が固化するまで冷却することにより達成することができる。結合剤は、溶媒に溶解して添加してもよい。この場合、結合操作は、加熱又は真空により溶媒を蒸発させることにより達成する。組成物を成形し、焼結して最終粉体金属部品を得る。
【0017】
本発明を、更に次の実施例により例示するが、本発明は、それに限定されるものではない。
【0018】
例1
表1による種々の比表面積及び粒径を有する三つの種類のカーボンブラックを選択した。比表面積はBET法により決定した。粒径は、電子顕微鏡により測定し、カーボンブラックの一次粒子として言及する。
【0019】
【表1】

【0020】
スウェーデンのヘガネスABから入手できる鉄ベース粉末ASC100.29を、0.77重量%の黒鉛、0.8%の結合剤/潤滑剤系〔0.2%のポリエチレン(ポリワックス(Polywax)650)及び0.6%のエチレンビスステアルアミド(EBS)からなる〕と混合した。混合物を混合しながらポリワックスの融点より高い温度へ加熱し、次に冷却した。ポリワックスの融点より低い温度で0.03%のカーボンブラックを添加した。表1に従い、3種類の異なったカーボンブラックを試験した。二つの混合物を参照混合物として調製した。参照混合物Cは、試験混合物に従い調製したが、但し0.8%の黒鉛を添加し、流動剤は添加しなかった。参照混合物Rでは、0.8%の黒鉛及び0.06%の、デガッサAGから入手できるエアロジルA−200(登録商標名)を添加した。
【0021】
粉末の特性を測定した。流動性を、標準的方法、ISO 4490によるホール・フロー・カップ(Hall−flow cup)を用いて測定し、見かけ密度、ADを、標準的方法ISO 3923を用いて測定した。
【0022】
粉末特性の結果を表2に与える。
【0023】
【表2】

【0024】
試験は、粉末冶金混合物へのカーボンブラックの添加により、流動剤を何等含まない混合物と比較して流動度及びADが改良されることを示している。CB1の添加は、既知の流動剤を添加した場合と比較して流動性及びADを改良するのに対し、CB2及びCB3の添加は、ほぼ同じ流動性の改良を与え、流動剤A−200を添加した場合と比較して一層高いADを与える。
【0025】
例2
鉄ベース粉末混合物への最適添加量を決定するために、CB1の種類のカーボンブラックを選択した。例1の記述に従い、混合物を調製した。合金用元素、結合剤/潤滑剤、流動剤、及び黒鉛の添加量を表3に示す。
【0026】
参照混合物、流動剤を含まないR1、及びデガッサAGから入手できるエアロジルA−200である市販流動剤を含むR2を調製した。
【0027】
【表3】

【0028】
ISO 2740に従う試験片を周囲温度で600MPaの圧力で成形し、90/10N/H雰囲気中で1120℃で焼結した。表4に、表3に従う粉末組成物についての機械的性質を与える。
【0029】
【表4】

【0030】
表4から分かるように、カーボンブラックの0.06%の添加量は、抗張力、TS、降伏強度、YS、及び伸び、Aに影響を与える。0.04重量%以下の量のカーボンブラックを添加した場合には、機械的性質への影響は無視できる。
【0031】
例3
例3は、温間成形のための組成物でこの新規な流動剤を用いることができることを示す。一つの試験混合物、B5と、一つの参照混合物、R3とを、夫々3000gずつ、次のようにして調製した。
【0032】
参照混合物として、60gの銅粉末、24gの黒鉛、米国オハイオ州シンシナチのモルトン・インターナショナル(Mortor International)から入手できる高温潤滑剤ポロモルド(Promold)(登録商標名)13.5g、残余の鉄粉末、ASC 100.29を、45℃に加熱しながら完全に混合した。更に、アセトンに溶解したセルロースエステル樹脂4.5gを添加し、その混合物を5分間混合した、材料の45℃の温度を維持しながら、第二の混合期間10〜30分間の間、溶媒を蒸発した。最後に、流動剤として1.8gのエアロジルA−200を添加し、完全に混合した。
【0033】
試験混合として、60gの銅粉末、23.1gの黒鉛、米国オハイオ州シンシナチのモルトン・インターナショナルから入手できる高温潤滑剤ポロモルド13.5g、残余の鉄粉末、ASC 100.29を、45℃に加熱しながら完全に混合した。更に、アセトンに溶解したセルロースエステル樹脂4.5gを添加し、その混合物を5分間混合した、材料の45℃の温度を維持しながら、第二の混合期間10〜30分間の間、溶媒を蒸発した。最後に、流動剤として0.9gのカーボンブラックCB1を添加し、完全に混合した。
【0034】
両方の混合物の流動性及びADを、120℃の温度でASTM B213により測定した、表5から、本発明による粉末混合物では、ADの実質的な増大が達成され、既知の流動剤を含む組成物と比較して、実質的に同じ流動度が新規な流動剤を含む組成物で達成されたことが分かる。
【0035】
【表5】

【0036】
例4
例4は、新規な流動剤を種々の鉄ベース粉末と組合せて用いることができることを示す。例1の方法に従い、混合物を調製し、例1と同じ結合剤/潤滑剤系を用いた。用いた鉄ベース粉末及び添加剤の量を、表6に示す。記号、RA、RB、RC、RE、及びRFは、混合物がデガッサAGから入手できる流動剤エアロジルA−200を0.06%含む参照混合物であることを示している。記号、C、E、及びFは、混合物が何等流動剤を含まない参照混合物であることを示している。全ての混合物でカーボンブラックCB1を用いた。用いた鉄又は鉄ベース粉末は、次の通りである:
ASC 100.29;ヘガネスABからの噴霧無添加鉄粉末。
ディスタロイAB;ヘガネスABからの、Cu、Ni、及びMoを含有する拡散合金化鉄ベース粉末。
アスタロイCrM;ヘガネスABからの、Cr及びMoを含有する予め合金化した鉄ベース粉末。
アスタロイCrL;ヘガネスABからの、Cr及びMoを含有する予め合金化した鉄ベース粉末。
【0037】
【表6】

【0038】
粉末混合物の粉末特性を測定した。ISO 2740に従う試験片を、周囲温度で600MPaの圧力で成形し、90/10 N/H雰囲気中で1120℃で焼結した。圧粉強度、GS、形状変化、DC、及び焼結密度、SDのような機械的性質を決定し、それらの結果を表7に与える。
【0039】
【表7】

【0040】
表7は、カーボンブラックが、既知の流動剤を含有する混合物と比較して、種々の基礎粉末を含有する混合物に改良された流動性、AD、及び圧粉強度を与えることを示している。
【0041】
例5
例5は、新規な流動剤は、何等結合剤を含まない無添加の混合物(非結合混合物)の流動性も改良することを示す。表8に従い、鉄粉末ASC100.29、銅粉末2%、黒鉛0.5%、潤滑剤としてエチレンビスステアルアミド0.8%、及び異なった量のカーボンブラック、CB1、を含む三種類の混合物を調製した。何等カーボンブラックを含まない混合物を参照混合物として用いた。それら種々の混合物について、流動度を測定した。
【0042】
【表8】

【0043】
表8から分かるように、非結合混合物にカーボンブラックを添加すると、流動度が改良される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、流動性及び見かけの密度が改良された粉末冶金組成物が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄又は鉄ベース金属粉末、潤滑剤及び/又は結合剤、及びカーボンブラックを含み、然も、前記カーボンブラックの量が、0.001〜0.2重量%である、粉末冶金組成物。
【請求項2】
カーボンブラックの量が0.01〜0.1重量%である、請求項1に記載の粉末冶金組成物。
【請求項3】
カーボンブラックの粒径が200nmより小さい、請求項1又は2に記載の粉末冶金組成物。
【請求項4】
カーボンブラックの粒径が100nmより小さい、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粉末冶金組成物。
【請求項5】
カーボンブラックの粒径が50nmより小さい、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粉末冶金組成物。
【請求項6】
比表面積が100m/gより大きい、請求項1〜5のいずれか1項に記載の粉末冶金組成物。
【請求項7】
比表面積が150m/gより大きい、請求項1〜5のいずれか1項に記載の粉末冶金組成物。
【請求項8】
比表面積が200m/gより大きい、請求項1〜5のいずれか1項に記載の粉末冶金組成物。
【請求項9】
合金用元素、機械加工性改良剤、硬質相材料、及び液相形成剤からなる群から選択された添加剤を含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の粉末冶金組成物。
【請求項10】
合金用元素が、黒鉛、Cu、Ni、Cr、Mn、Si、V、Mo、P、W、S、及びNbからなる群から選択される、請求項9に記載の粉末冶金組成物。
【請求項11】
黒鉛及びCuからなる群から選択された少なくとも一種類の合金用元素の粒子が、鉄又は鉄ベース粉末粒子に結合される、請求項10に記載の粉末冶金組成物。


【公開番号】特開2010−280990(P2010−280990A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176310(P2010−176310)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【分割の表示】特願2007−519171(P2007−519171)の分割
【原出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(595054486)ホガナス アクチボラゲット (66)
【Fターム(参考)】