説明

流動接触分解触媒の製造方法

【課題】ひび割れの少なく、摩耗強度が高い流動接触分解触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】ゼオライトと、結合材である塩基性塩化アルミニウムを含む無機酸化物マトリックス前駆体とを混合した混合スラリーに、混合スラリーに含まれる全固形分に対して1〜10質量%の水溶性塩を添加した後、噴霧乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひび割れの少なく、摩耗強度が高い流動接触分解触媒を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼオライトと、結合材として塩基性塩化アルミニウム(アルミニウムクロロヒドロール)を含有する無機酸化物マトリックスとを含む混合物のスラリー状物(以下、「混合スラリー」という)を、液滴として噴霧乾燥する流動接触分解触媒の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特表2004−528180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法では、噴霧乾燥時に、熱風と接触した液滴の表面部分が密に固体化して卵の殻のような状態になるため、液滴に含まれる水の蒸発と液滴の収縮とがバランス良く進まず、液滴粒子の内部に歪みが形成されたり、その外側表面を破壊しながら液滴の内部の水が蒸発したりするので、得られる触媒の表面にひび割れ(クラック)が発生するという問題があった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、ひび割れの少なく、摩耗強度が高い流動接触分解触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係る流動接触分解触媒の製造方法は、ゼオライトと、結合材である塩基性塩化アルミニウムを含む無機酸化物マトリックス前駆体とを混合した混合スラリーに、該混合スラリーに含まれる全固形分に対して1〜10質量%の水溶性塩を添加した後、噴霧乾燥するものである。
前記目的に沿う第2の発明に係る流動接触分解触媒の製造方法は、ゼオライトと、結合材である塩基性塩化アルミニウムを含む無機酸化物マトリックス前駆体とを混合したpH3.0〜4.4の混合スラリーに、該混合スラリーに含まれる全固形分に対して1〜10質量%の水溶性塩を添加して調合スラリーを得た後、該調合スラリーを液滴として噴霧乾燥するものである。
ここで、第1及び第2の発明において、水溶性塩とは、常温の水に溶解可能な塩であり、その水溶液は透明、かつ、pH5〜9程度(好ましくはpH6〜8程度)となるものであって、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等があり、特に、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、及び硫酸ナトリウムのいずれか1又は2以上からなるものが好ましい。また、混合スラリーに含まれる全固形分に対して、水溶性塩の添加量が、1質量%未満である場合には製造された流動接触分解触媒の表面にひび割れが生じ易く、耐摩耗性が低い傾向にあり、10質量%を超える場合にはコストがかかる。
【0007】
第1及び第2の発明に係る流動接触分解触媒の製造方法において、前記混合スラリーが、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸ナトリウムのいずれか1又は2以上からなる弱塩基性物質でpH4.6〜5.2に調整されていることが好ましい。すなわち、混合スラリーに、弱塩基性物質を添加して混合スラリーをpH4.6〜5.2に調整した後、更に水溶性塩を添加する。
ここで、弱塩基性物質とは、常温の水に溶解可能な塩であり、その水溶液は透明、かつ、pH9〜13程度となるものである。
本発明の流動接触分解触媒に使用されるゼオライトとしては、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト、ZSM型ゼオライト等の合成ゼオライトや天然ゼオライトが使用でき、特に好ましくは、超安定化Y型ゼオライト(USY)、レアアース交換Y型ゼオライト(Rare Earth exchanged Y zeolite。REY)、レアアース交換超安定化Y型ゼオライト(Rare Earth exchanged USY。REUSY)が使用できる。超安定化Y型ゼオライトは、Y型ゼオライトを水熱処理等の脱アルミニウム処理して製造できる。また、レアアース交換Y型ゼオライトは、一部がレアアースで交換されたY型ゼオライトであり、Y型ゼオライトに、例えば、塩化レアアース水溶液を含浸し、イオン交換によってレアアースを担持させて製造することができる。レアアース交換超安定化Y型ゼオライトは、一部がレアアースで交換されたUSYゼオライトであり、超安定化Y型ゼオライトに、例えば、塩化レアアース水溶液を含浸し、イオン交換によってレアアースを担持させて製造することができる。なお、レアアース(希土類元素。以下、「RE」ともいう)とは、スカンジウム、イットリウム、及び、ランタノイドの17元素の総称であって、本発明では、その内のいずれか1又は2以上が使用され、特に、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウムが好適に使用される。
【0008】
ここで、無機酸化物マトリックス前駆体を構成する成分としては、カオリン、活性アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、カオリナイト鉱物、モンモリロナイト鉱物等があり、結合材として使用される塩基性塩化アルミニウムは、塩化アルミニウム水溶液に金属アルミニウム(例えば、アルミニウム粉、アルミニウムホイル)を溶解させて製造することができ、下記(1)式で示される。
[Al(OH)Cl6−n・・・(1)
(ただし、0<n<6、1≦m≦10、好ましくは4.8≦n≦5.3、3≦m≦7である。なお、mは、自然数を示す。)
また、混合スラリーに、カルシウムアルミネート、酸化マンガン、炭酸ランタン、酸化アルミニウム、及び、水酸化アルミニウム等のいずれか1又は2以上の金属捕捉剤(メタルトラップ剤)が含まれていてもよく、この場合には重質油の流動接触分解に好適に使用できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の流動接触分解触媒の製造方法においては、混合スラリーに水溶性塩を添加して噴霧乾燥するので、熱風に接触した液滴の外側から水が蒸発し液滴の外側の塩濃度が高くなり、液滴の外側と内側との塩濃度の差が生じ、液滴の内側の水が外側にスムーズに移動して蒸発するため、液滴の表面部分が固体化する前に内部の水が外側へ移動でき、触媒の表面にひび割れができ難くなる。これにより、流動接触分解触媒の摩耗強度も向上する。
ここで、水溶性塩が、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、及び硫酸ナトリウムのいずれか1又は2以上からなる場合には、製造した流動接触分解触媒を洗浄するだけで、残存する水溶性塩を除去することができる。また、混合スラリーが、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸ナトリウムのいずれか1又は2以上からなる弱塩基性物質でpH4.6〜5.2に調整されている場合には、液滴の塩基性塩化アルミニウムがゲル化を起こさず、塩基性塩化アルミニウムの結合力が維持され、摩耗強度の高い触媒を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の第1の実施の形態に係る流動接触分解触媒は、例えば、超安定化Y型ゼオライトと、結合材(バインダー)である塩基性塩化アルミニウム、活性アルミナ、及びカオリン等を含む無機酸化物マトリックス前駆体とを混合して得られる混合スラリーに、この混合スラリーの全固形分に対して1〜10質量%の塩化ナトリウム、塩化カルシウム、及び硫酸ナトリウムのいずれか1又は2以上からなる水溶性塩を添加した後に、噴霧乾燥して製造することができる。
本発明の第2の実施の形態に係る流動接触分解触媒は、前記した混合スラリーに、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸ナトリウムのいずれか1又は2以上からなる弱塩基性物質を添加してpHを4.6〜5.2に調整し、更に前記した水溶性塩を添加した後、噴霧乾燥する点が、前記した第1の実施の形態と異なっている。
【実施例】
【0011】
(実施例1:流動接触分解触媒A)
<塩基性塩化アルミニウム水溶液の調製>
スチームジャケット付きのチタン製のタンク(容量60L)に、10.14kgの塩化アルミニウム6水和物と38.9kgの純水とを入れて十分に攪拌し、塩化アルミニウム水溶液を得た。この塩化アルミニウム水溶液を攪拌しながら95℃まで加温した後、液温を保持したまま、純度99.9%のアルミニウムホイル(以下、「アルミ箔」ともいう)5.67kgを6時間かけて少量づつ(15.75g/分)投入して、アルミ箔を溶解させた。なお、アルミ箔の溶解時には、大量の水素ガスが発生し、水溶液中の水が水蒸気として蒸発するため、タンク内の水溶液の貯留量が一定になるように95℃の純水を適宜補給した。アルミ箔が完全に溶解した後、この水溶液を35℃まで冷却して、54.7kgの塩基性塩化アルミニウム水溶液を得た。この塩基性塩化アルミニウム水溶液は、pH3.6であり、Alとして23.5%の塩基性塩化アルミニウムを含んでいた。
【0012】
<調合工程>
容量5Lのプラスチック製の容器に、格子定数が24.56Åの超安定化Y型ゼオライトをシリカ−アルミナ基準で900gと、得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液1227gと、カオリンを乾燥基準で700gと、平均粒子径が10μmの活性アルミナ(住友化学社製、BK−112)を乾燥基準で100gと、60℃の純水1500gとを攪拌しながら混合した。結合材である塩基性塩化アルミニウム、カオリン、及び活性アルミナによって、無機酸化物マトリックス前駆体が構成されている。得られた混合スラリーは、4427g、固形分濃度が42.0質量%(すなわち、1859g)、pHが4.10、温度が45℃であった。この混合スラリーに、塩化ナトリウム(水溶性塩の一例。pH7.0)を140g(すなわち、混合スラリーの全固形成分に対して、7.5質量%)加え、5分間攪拌して調合スラリーを得た。
【0013】
<噴霧乾燥工程>
調合スラリーを液滴として、入口温度が460℃で、出口温度が260℃に設定された噴霧乾燥機で噴霧乾燥を行い、平均粒子径が65μmの球状粒子を得た。
<洗浄及び乾燥工程>
容量20Lの容器に、60℃の純水10Lと、得られた球状粒子2000gとを入れ、再懸濁(レスラリー)した後、15質量%のアンモニア水でpH4.5に調整し、60℃で5分間攪拌し、更に、ブフナーロートで濾過した後、濾過残渣を60℃の純水10Lで洗浄した。
容量20Lの容器に、洗浄した濾過残渣(洗浄ケーキ)、60℃の純水10L、及び硫酸アンモニウム170gを入れ、60℃で20分間攪拌した後、ブフナーロートで濾過し、更に濾過残渣を60℃の純水10Lで洗浄した。この操作を2回繰り返した後、洗浄によって、ナトリウム、塩素等が除去された濾過残渣を130℃で12時間乾燥して、流動接触分解触媒Aを得た。
【0014】
得られた流動接触分解触媒Aの化学組成(ナトリウム、硫黄、アルミニウム、マグネシウム、水分)及び物理的性状(嵩密度、比表面積、耐摩耗性指数)を測定し、その結果を表1に示す。また、流動接触分解触媒Aの走査電子顕微鏡(SEM)写真を図1に示す。なお、流動接触分解触媒Aの化学組成及び物理的性状は、以下のようにしてそれぞれ測定した。
化学組成は、プラズマ発光分析(ICP)及びイオンクロマトグラフィにより測定した。また、物理的性状は、流動接触分解触媒Aを600℃で2時間空気中で焼成した後、デシケータ内で吸湿しないように冷却した後に測定した。嵩密度は、200mlのガラス製メスシリンダーに前記した触媒を充填して、容積当たりの重量から求めた。比表面積は、窒素の吸着−脱離等温線(BET法)から求めた。耐摩耗性は、小孔を備えた蓋が上下に取り付けられた筒状容器内に所定量(例えば、100g)の流動接触分解触媒Aを入れた後、下方の小孔から空気を234m/sの速度で送り、12〜42時間の間で摩耗して粉化した触媒の重量を測定し、粉化した重量と初期の重量との割合を耐摩耗性指標として求めた。
【0015】
【表1】

但し、1000℃−1Hr質量%とは、1000℃で1時間乾燥した前後の質量を水分として算出したものである。
【0016】
(比較例1:減圧軽油分解用の流動接触分解触媒B)
比較例1は、前記した調合工程において、混合スラリーに塩化ナトリウムを加えない点が、実施例1と異なる。得られた流動接触分解触媒Bの化学組成及び物理的性状を表1に示す。また、流動接触分解触媒Bの走査電子顕微鏡写真を図2に示す。
(実施例2:流動接触分解触媒C)
実施例2は、混合スラリーに25質量%の水酸化マグネシウム水溶液(弱塩基性物質の一例)を添加してpH4.80とした後、塩化ナトリウム(水溶性塩の一例。pH7.0)を140g(すなわち、混合スラリーの全固形成分に対して、7.5質量%)加え、5分間攪拌して調合スラリーを得た点が、実施例1と異なる。得られた流動接触分解触媒Cの化学組成及び物理的性状を表1に示す。また、流動接触分解触媒Cの走査電子顕微鏡写真を図3に示す。
【0017】
表1及び図1によると、ゼオライトと、結合材である塩基性塩化アルミニウムを含む無機酸化物マトリックス前駆体とを混合した混合スラリーに、混合スラリーに含まれる全固形分に対して1〜10質量%の水溶性塩を添加した後、噴霧乾燥した実施例1及び実施例2の流動接触分解触媒は、摩耗強度が高く、しかも、表面のひび割れがほとんど発生しない。これに対し、水溶性塩を含まない混合スラリーから製造された比較例1の流動接触分解触媒は、表面に大きなひび割れがあり、耐摩耗性が低い。
【0018】
本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明の流動接触分解触媒の製造方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、前記した実施の形態において、水溶性塩として塩化ナトリウムを使用したが、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等を使用してもよく、また、これらを混合して使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る実施例1の流動接触分解触媒の製造方法により製造された流動接触分解触媒の走査電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1の流動接触分解触媒の製造方法により製造された流動接触分解触媒の走査電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明に係る実施例2の流動接触分解触媒の製造方法により製造された流動接触分解触媒の走査電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライトと、結合材である塩基性塩化アルミニウムを含む無機酸化物マトリックス前駆体とを混合した混合スラリーに、該混合スラリーに含まれる全固形分に対して1〜10質量%の水溶性塩を添加した後、噴霧乾燥することを特徴とする流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項2】
ゼオライトと、結合材である塩基性塩化アルミニウムを含む無機酸化物マトリックス前駆体とを混合したpH3.0〜4.4の混合スラリーに、該混合スラリーに含まれる全固形分に対して1〜10質量%の水溶性塩を添加して調合スラリーを得た後、該調合スラリーを液滴として噴霧乾燥することを特徴とする流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の流動接触分解触媒の製造方法において、前記水溶性塩が、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、及び硫酸ナトリウムのいずれか1又は2以上からなることを特徴とする流動接触分解触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1に記載の流動接触分解触媒の製造方法において、前記混合スラリーが、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸ナトリウムのいずれか1又は2以上からなる弱塩基性物質でpH4.6〜5.2に調整されていることを特徴とする流動接触分解触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−22842(P2009−22842A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186250(P2007−186250)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】