説明

流延支持体の洗浄液及び洗浄方法

【課題】セルロースアシレート製膜の流延支持体の汚れを、より短時間でより確実に除去する洗浄液及び洗浄方法を提供する。
【解決手段】洗浄液として良溶媒である液体と一般式(1)の化合物とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルムを製造する溶液製膜設備における流延支持体の洗浄液及び洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルムは、偏光板保護フィルムや位相差フィルム等の各種光学用途のフィルムとして多く用いられており、主に、溶液製膜方法により製造される。セルロースアシレートフィルムを製造する溶液製膜方法では、周知のように、セルロースアシレートを溶媒に溶解したセルロースアシレート溶液(以下、ドープと称する)を、金属製の流延支持体に流延する。流延により流延支持体上に形成した流延膜を、流延支持体からフィルムとして剥ぎ取り、乾燥することによりセルロースアシレートフィルムが得られる。
【0003】
流延支持体は、ドープの流延と流延膜の剥ぎ取りとが繰り返し行われるうちに、徐々に表面が汚れてくる。流延支持体の汚れは、長鎖の脂肪酸や脂肪酸エステルである。長鎖とは、炭素数が15以上である。この長鎖の脂肪酸や脂肪酸エステルは、セルロースアシレートの原料であるパルプのワックス成分に由来する。
【0004】
流延支持体に汚れが経時的に蓄積するにつれて、流延支持体のドープが流延される表面は平滑性が失われていったり、流延膜の剥離性が悪くなる。剥離性が悪いとは、流延支持体から流延膜を剥ぎ取る際に、剥ぎ取り要する力(剥離荷重)が大きくなりすぎて、流延膜の幅方向において厚みのムラが生じることを意味する。このように流延支持体の表面の平滑性が無かったり流延膜の剥離性が悪いと、得られるセルロースアシレートフィルムは、表面の平滑性に欠けたものとなる。このために、従来は、定期的に流延支持体を洗浄したり、あるいは、フィルムの表面の平滑性を検査しながらフィルムの表面が一定レベルの平滑性を満たさなくなった時点で金属支持体を洗浄している。
【0005】
流延支持体の洗浄方法としては、ジクロロメタンを主成分とする液を浸した布で拭き取る方法がある。ジクロロメタンを主成分とする液としては、例えば、ジクロロメタンを主成分とし、これにアセトンを混ぜた混合液が挙げられる。また、流延支持体の洗浄方法として、酸性水溶液、純水、水に非相溶な有機溶剤をそれぞれ浸した布で、この順で拭き、この拭き取りの際の金属支持体の表面温度を10〜30℃の温度範囲とし、この金属支持体の表面温度におけるpHを3.0〜5.5にしたものを前記酸性水溶液として用いる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−110881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ジクロロメタンを主成分とする液が浸してある布で流延支持体を拭いても、汚れが除去されにくく、汚れを除去するために多くの時間を要してしまうという問題がある。また、場合によっては、汚れを確実には除去することができない。特許文献1の方法も、互いに異なる3種の液をそれぞれ含ませた布で順に拭くという3工程が必要であり、汚れを除去するために長い時間を要するという問題がある。
【0008】
そこで、上記問題に鑑み、本発明は、溶液製膜で用いる金属製の流延支持体の汚れをより短時間でより確実に除去する洗浄液及び洗浄方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、セルロースアシレートを溶媒に溶解したセルロースアシレート溶液が流延され、前記流延により形成した流延膜が剥ぎ取られる流延支持体の洗浄液において、前記セルロースアシレートの良溶媒である液体と、下記の一般式(1)の化合物とを含み、前記液体の質量をM1、前記化合物の質量をM2とするときにM2/(M1+M2)で求める前記化合物の質量比が0.10以上0.89以下であることを特徴として構成されている。一般式(1)において、RはHまたは炭素数が1以上3以下のアルキル基であり、RはHまたは炭素数が1以上3以下のアルキル基である。
【0010】
【化1】

【0011】
一般式(1)の化合物はリモネンであることが好ましい。前記液体はジクロロメタンであることが好ましい。
【0012】
前記セルロースアシレートは、針葉樹から得られたセルロースのアシル化物である場合に上記の洗浄液は特に有効である。
【0013】
また、本発明は、セルロースアシレートを溶媒に溶解したセルロースアシレート溶液が流延され、前記流延により形成した流延膜が剥ぎ取られる流延支持体を洗浄する流延支持体の洗浄方法において、前記セルロースアシレートの良溶媒である液体と、下記の一般式(1)の化合物とが含まれる洗浄液を浸した前記布で、前記流延支持体を拭くことにより洗浄することを特徴として構成されている。一般式(1)において、RはHまたは炭素数が1以上3以下のアルキル基であり、RはHまたは炭素数が1以上3以下のアルキル基である。
【0014】
【化2】

【0015】
上記洗浄方法においては、前記一般式(1)の化合物はリモネンであることが好ましく、前記液体がジクロロメタンであることが好ましい。
【0016】
上記洗浄方法は、セルロースアシレートが、針葉樹から得られたセルロースのアシル化物である場合に特に有効である。
【0017】
上記洗浄方法における前記布は、ベルベットであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、溶液製膜で用いる流延支持体の汚れをより短時間でより確実に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】溶液製膜設備の概略図である。
【図2】ステアリン酸ステアリルの溶解濃度の温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明により洗浄される流延支持体は、溶液製膜設備に用いられる。溶液製膜設備としては、例えば、図1に示すような、流延装置11と、テンタ12と、ローラ乾燥装置13と、巻取装置14とを、上流側から順に備える溶液製膜設備10がある。
【0021】
図1の溶液製膜設備10は、本発明により洗浄される流延支持体が使用される一態様であり、他の溶液製膜設備であってもよい。
【0022】
流延装置11は、セルロースアシレートを溶剤に溶解したドープ17からセルロースアシレートフィルム(以降、単に「フィルム」と称する)18を形成する。流延装置11は、環状に形成された無端の流延支持体であるバンド30と、周方向に回転する第1ローラ31と第2ローラ32とを備える。バンド30は、第1ローラ31と第2ローラ32との周面に巻き掛けられる。第1,第2ローラ31,32の少なくともいずれか一方が、駆動手段を有する駆動ローラとされてこの駆動ローラが周方向に回転することにより、周面に接するバンド30が搬送される。この搬送により、バンド30は、循環して長手方向に連続走行する。
【0023】
バンド30の上方にはドープ17を流出する流延ダイ35が備えられる。搬送されているバンド30に流延ダイ35からドープ17を連続的に流出することにより、ドープ17はバンド30上で流延されて流延膜36が形成される。
【0024】
第1ローラ31と第2ローラ32とは、それぞれ周面温度を制御する温度コントローラ(図示せず)を備える。第1ローラ31と第2ローラとの各周面温度が制御されることによって、バンド30の温度が調整される。
【0025】
ダイ35からバンド30に至るドープ17、いわゆるビードに関して、バンド30の走行方向における上流には、減圧チャンバ(図示無し)が備えられる。この減圧チャンバは、流出したドープ17の上流側エリアの雰囲気を吸引して前記エリアを減圧する。
【0026】
流延膜36を、テンタ12への搬送が可能な程度にまで固くしてから、溶剤を含む状態でバンド30から剥がす。剥ぎ取りは、乾燥流延方式の場合には溶剤含有率が10質量%以上100質量%以下の範囲で行われることが好ましく、冷却流延方式の場合には溶剤含有率が100質量%以上300質量%以下の範囲で行われることが好ましい。乾燥流延方式とは、流延膜36を主に乾燥によって固くする方式であり、冷却流延方式とは、流延膜36を主に冷却によってゲル化して固くする方式である。なお、本明細書における溶剤含有率は、湿潤フィルム18の質量をX、この湿潤フィルム18を乾燥した後の質量をYとするときに、{(X−Y)/Y}×100で求めるいわゆる乾量基準の値である。
【0027】
剥ぎ取りの際には、フィルム18を剥ぎ取り用のローラ(以下、剥取ローラと称する)37で支持し、流延膜36がバンド30から剥がれる剥取位置を一定に保持する。バンド30は循環して剥取位置からドープが流延される流延位置に戻ると再び新たなドープ17が流延される。
【0028】
バンド30の流延膜36が形成される流延面に対向するように、給気ダクト(図示無し)が設けられていてもよい。この給気ダクトは気体を出して、通過する流延膜36の乾燥をすすめる。
【0029】
剥取ローラ37で剥ぎ取られた流延膜36、すなわちフィルム18は、テンタ12に案内される。テンタ12は、フィルム18の各側部を保持手段38で保持しながらフィルム18の乾燥をすすめる。テンタ12の保持手段38としては、クリップやピン等が用いられる。
【0030】
テンタ12は、フィルム18を保持手段38で保持して長手方向に搬送しながら、幅方向での張力を付与し、フィルム18の幅を拡げる。このテンタ12には、乾燥風を出すダクト41が備えられる。フィルム18は搬送されながら、ダクト41からの乾燥風により乾燥をすすめられるとともに、保持手段38により幅を所定のタイミングで変えられる。
【0031】
ローラ乾燥装置13は、フィルム18を複数のローラ42で支持しながら乾燥する。ローラ乾燥装置13の内部の雰囲気は、温度や湿度などが図示しない空調機により調節されている。ローラ乾燥装置13では、多数のローラ42にフィルム18が巻き掛けられて搬送される。
【0032】
ローラ乾燥装置13で乾燥されたフィルム18は、巻取装置14に案内されて、ロール状に巻き取られる。
【0033】
また、流延支持体としては、バンド30に代えて、周方向に回転するドラム(図示せず)であってもよい。冷却流延方式の場合には、ドラムを流延支持体として用いる場合が多い。
【0034】
本発明は、金属製の流延支持体であれば効果がある。特に、SUSからなる流延支持体においては、効果が確実にある。
【0035】
セルロースアシレートは特に限定されない。セルロースアシレートのアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基を有していても良い。アシル基が2種以上であるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものが好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。
【0036】
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 1.0≦ A ≦3.0
(III) 0 ≦ B ≦2.0
【0037】
アシル基の全置換度A+Bは、2.20以上2.90以下であることがより好ましく、2.40以上2.88以下であることが特に好ましい。また、炭素原子数3〜22のアシル基の置換度Bは、0.30以上であることがより好ましく、0.5以上であることが特に好ましい。中でも、本発明は、セルロースアシレートとして、セルローストリアセテート(TAC)やセルロースジアセテート(DAC)を用いた場合に特に大きな効果がある。
【0038】
セルロースアシレートは、周知のように、セルロースをアシル化することにより製造される。すなわち、セルロースアシレートはセルロースのアシル化物である。セルロースには、針葉樹から得られるものと、広葉樹から得られるものとがある。これらのうち、針葉樹から得られるセルロースをアシル化することにより得られたセルロースアシレートをドープのセルロースアシレート成分として用いた場合に、特に顕著な効果が得られることがわかっている。ただし、広葉樹から得られるセルロースをアシル化することにより得られたセルロースをドープのセルロースアシレート成分として用いた場合であっても、本発明の効果はある。
【0039】
バンド30等の流延支持体の洗浄液としては、セルロースアシレートの良溶媒である液体と、下記の一般式(1)の化合物とを含むものを用いる。下記の一般式(1)において、Rは、H、または炭素数が1以上3以下のアルキル基である。また、Rは、H、または炭素数が1以上3以下のアルキル基である。
【0040】
【化3】

【0041】
セルロースアシレートの良溶媒である液体と、一般式(1)の化合物とを含む液体を洗浄液とすることで、バンド30の汚れが確実に、短時間で除去される。なお、洗浄液は、セルロースアシレートの良溶媒である液体と、一般式(1)の化合物とからなる液体であってもよいし、他の化合物をさらに含む混合液であってもよい。一般式(1)の化合物のみを洗浄液として用いても洗浄の確実性と洗浄時間の短縮とについて一定の効果はあるが、一般式(1)の化合物は、セルロースアシレートの良溶媒である液体と混合して使用する方が、汚れを確実に除去することと短時間で除去することとの効果は大きい。
【0042】
なお、一般式(1)の化合物は、セルロースアシレートの良溶媒である化合物以外の、公知の洗浄剤に添加して使用してもよい。
【0043】
セルロースアシレートの良溶媒である液体の質量M1と一般式(1)の化合物の質量M2との和に対する、一般式(1)の化合物の質量比M2/(M1+M2)は、0.10以上0.89以下であることが好ましい。質量比M2/(M1+M2)を0.10以上とすることにより、0.10未満の場合に比べて、より確実に汚れが除去されたり、除去に要する時間がより確実に短くなる。また、質量比M2/(M1+M2)を0.89以下としても、0.89より大きくする場合と比べて、汚れの除去に要する時間がより確実に短くなる。質量比M2/(M1+M2)は、0.2以上0.8以下であることがより好ましく、0.25以上0.67以下であることが特に好ましい。
【0044】
前記一般式(1)の化合物はリモネンであることがより好ましい。リモネンは、モノテルペン系化合物である。リモネンとしては、l−リモネンでもよいし、d−リモネンでもよい。一般式(1)で表される化合物のうちより好ましいものとして挙げられるリモネンは、d−リモネンであり、下記の式(2)で示される。
【0045】
【化4】

【0046】
良溶媒である液体がジクロロメタンであることがより好ましい。
【0047】
セルロースアシレートがTACである場合には、洗浄液は、TACの良溶媒であるジクロロメタンと、一般式(1)の化合物との混合液が特に好ましい。ただし、ジクロロメタンと一般式(1)の化合物とアセトンとの混合液であってもよい。
【0048】
セルロースアシレートがDACである場合には、洗浄液は、DACの良溶媒であるジクロロメタンと、一般式(1)の化合物との混合液、または、DACの良溶媒であるジクロロメタン及びアセトンと、一般式(1)の化合物との混合液が特に好ましい。アセトンもDACの良溶媒だからである。
【0049】
上記の洗浄液を布に含ませ、この布でバンド30やドラム等の流延支持体を拭くことにより流延支持体の流延面を洗浄する。洗浄液は、布に十分含ませておくことが好ましい。すなわち、洗浄液を浸した布で、流延支持体の流延面を洗浄することが好ましい。布で拭く際には、流延支持体の走行を止めた状態にしてもよいし、流延時よりも速度を下げた状態にしてもよい。
【0050】
布としては、ベルベットやフランネルが挙げられる。ベルベット(ビロード)は、パイル織物の1種であり、表面に毛羽(けば)や輪奈(わな)を出した織物である。フランネルは、紡毛糸で平織りまたは綾織りにし、布面を毛羽立たせた柔らかな毛織物であり、梳毛糸(そもうし)や綿糸などを使ったものもある。
【0051】
流延支持体の汚れである物質としては、長鎖(炭素数15以上)の脂肪酸、長鎖(炭素数15以上)の脂肪酸エステルに加えて、脂肪酸塩がある。上記の洗浄液及び洗浄方法により、これらの物質からなる汚れが、短時間で確実に除去される。
【0052】
洗浄液を含む布で洗浄する際の流延支持体の温度は、特に限定されない。例えば、流延支持体が概ね−5℃であっても、従来よりも短時間で十分に洗浄される。
【0053】
セルロースアシレートがTACまたはDACである場合に、流延支持体の汚れに似た物質、すなわち模擬物質としてステアリン酸ステアリルがある。このステアリン酸ステアリルと流延支持体の汚れとは、洗浄液に対する溶解濃度の温度依存性が互いにほぼ一致することがわかっている。なお、溶解速度についても、ステアリン酸ステアリルと流延支持体の汚れとは互いにほぼ等しい。従って、洗浄液の評価の際には、ステアリン酸ステアリルを流延支持体の汚れの代わりに用いてよい。このステアリン酸ステアリルの溶解濃度の温度依存性について、本発明の洗浄液と、ジクロロメタンとアセトンとの混合液とを比べると以下のようになる。
【0054】
図2の縦軸はステアリン酸ステアリルの溶解濃度(単位;g×10−2/ml)である。この溶解濃度は、溶液の質量をA(g)、溶質の質量をB(g)としたときに、(B/A)×100の式で求める百分率の値(単位;%)である。溶液の質量Aとは、ステアリン酸ステアリルの質量と洗浄液の質量との和である。溶質の質量Bとは、ステアリン酸ステアリルの質量である。図2の横軸は、溶解に用いる液の温度である。図2においては、黒丸(●)は、ジクロロメタンとアセトンとの混合液に対するステアリン酸ステアリルの溶解濃度であり、四角(□)は、本発明の洗浄液に対するステアリン酸ステアリルの溶解濃度である。四角(□)は、本発明の洗浄液として、ジクロロメタンとアセトンとリモネンとの混合液を用いた場合のグラフであり、質量比はジクロロメタン:アセトン:リモネン=49:21:30である。破線(A)は、ジクロロメタンとアセトンとの混合液に対するステアリン酸ステアリルの溶解濃度、実線(B)は本発明の洗浄液に対するステアリン酸ステアリルの溶解濃度である。
【0055】
ジクロロメタンとアセトンとの混合液に対するステアリン酸ステアリルの溶解濃度は、温度が高くなるにつれて高くなる。例えば、溶解濃度は、液の温度が20℃の場合に約0.5、18℃の場合に約0.4、16℃の場合に約0.2、14℃の場合に約0.2、12℃の場合に約0.1、10℃の場合に約0.1、8℃の場合に約0.08、6℃の場合に約0.06、4℃の場合に約0.03、2℃の場合に約0.03、0℃の場合に約0.03である。これらの結果を縦軸対数の片対数グラフにすると、図2の破線(A)のように、概ね、傾きが正の直線になる。
【0056】
ジクロロメタンとアセトンとリモネンとの混合液に対するステアリン酸ステアリルの溶解濃度も、温度が高くなるにつれて高くなる。例えば、溶解濃度は、液の温度が20℃の場合に約0.5、18℃の場合に約0.5、16℃の場合に約0.4、14℃の場合に約0.4、12℃の場合に約0.3、10℃の場合に約0.1、8℃の場合に約0.1、6℃の場合に約0.08、4℃の場合に約0.08、2℃の場合に約0.05、0℃の場合に約0.03である。これらの結果を縦軸対数の片対数グラフにすると、図2の実線(B)のように、概ね、傾きが正の直線になる。
【0057】
実線(B)は、破線(A)と比べると、傾きはほぼ等しく、上方にシフトしている。すなわち、ジクロロメタンとアセトンとリモネンとの混合液に対するステアリン酸ステアリルの溶解濃度は、ジクロロメタンとアセトンとの混合液に対するものよりも、−10℃以上20℃以下の範囲の温度領域で高い。このように、本発明の洗浄液は、−10℃〜0℃という低温でもステアリン酸ステアリル溶解濃度が従来の洗浄液よりも高いので、より短時間でより確実に流延支持体の汚れを除去する。したがって、−10℃〜−5℃という低温にした流延支持体にドープを流延する製膜を実施した後に、この流延支持体を布で拭いて洗浄する場合には、流延支持体の温度を流延時の温度よりも大きく上昇させる必要がない。
【0058】
一般式(1)の化合物の質量比M2/(M1+M2)が0.89よりも大きい場合には、0.89以下の場合に比べてステアリン酸ステアリルの溶解濃度が低下し、溶解速度も遅くなる。また、下記の一般式(1)の化合物が0.10未満である場合には、0.10以上の場合に比べて、0.89より大きい場合と同様にステアリン酸ステアリルの溶解濃度が低下し、溶解速度も遅くなる。
【0059】
洗浄液で拭いた後は、ジクロロメタンとアセトンとを混合した液、もしくは、ジクロロメタン単体を、布に含ませて拭く工程を行うことが好ましい。なお、この工程は複数回繰り返してもよい。
【0060】
以下、本発明の実施例と、本発明に対する比較例とを挙げる。
【実施例】
【0061】
[実施例1]〜[実施例12]
一般式(1)の化合物を用いて、12種類の洗浄液を調製した。一般式(1)の化合物と混合した液は、ジクロロメタン単体、もしくは、ジクロロメタンとアセトンとの混合物である。一般式(1)の化合物と混合した液の成分の成分比は表1に示す通りであり、この成分比は質量比である。
【0062】
用いた一般式(1)の化合物のR、Rは、表1に示す。
【0063】
また、一般式(1)の化合物と混合した液の質量をM3とするときに、(M2/M3)×100で求める百分率(単位;%)を、表1の「質量比」に記載してある。すなわち、M3とは、一般式(1)の化合物と混合した液がジクロロメタン単体である場合にはジクロロメタンの質量であり、一般式(1)の化合物と混合した液がとアセトンとの混合物である場合にはジクロロメタンの質量とアセトンの質量との和である。
【0064】
調製した洗浄液に対するステアリン酸ステアリルの溶解性と溶解速度、及び洗浄性について以下の方法で評価した。
【0065】
<ステアリン酸ステアリルの溶解性>
20°にて、洗浄液10gに溶けるステアリン酸ステアリルの質量を測定し、測定結果を以下のA〜Dの4段階ランクで評価した。実用上の合格レベルは、A〜Cである。
A;0.1gより多い
B;0.05gより多く0.1g以下である
C;0gより多く0.05g以下である
D;0g
【0066】
<ステアリン酸ステアリルの溶解速度>
ステアリン酸ステアリル0.5gに、20℃の洗浄液10gを加え、この温度を保持した状態でステアリン酸ステアリルがすべて溶けるまでの時間を測定し、測定結果を以下のA〜Dの4段階ランクで評価した。実用上の合格レベルは、A〜Cである。
A;5秒以下である
B;5秒より長く30秒以下である
C;30秒より長く2分以下である
D;2分より長い
【0067】
<ステアリン酸ステアリルに対する洗浄性>
流延支持体に使用される材質と同じSUSからなる板に、ステアリン酸ステアリルを塗布した。洗浄液で濡らした片ネルで、塗布したステアリン酸ステアリルを拭いた。拭き取った後に、塗布した板の表面を目視で観察し、以下の基準で評価した。実用上の合格レベルは、A〜Cである。なお、片ネルとは、一方の布面のみを毛羽立たせたフランネルである。
A;汚れが完全に除去されている
B;板の表面の一部にステアリン酸ステアリルが残っている
C;塗布した半分以上の量のステアリン酸ステアリルが残っている
D;塗布したほぼ全量のステアリン酸ステアリルが残っている
【0068】
【表1】

【0069】
[比較例1]〜[比較例4]
洗浄液を代えて、実施例と同様に評価した。用いた一般式(1)の化合物におけるR,Rは表1に示す。また、一般式(1)の化合物と混合した液の成分及び成分比についても、表1に示す。
【符号の説明】
【0070】
10 溶液製膜設備
11 流延装置
17 ドープ
18 フィルム
30 バンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートを溶媒に溶解したセルロースアシレート溶液が流延され、前記流延により形成した流延膜が剥ぎ取られる流延支持体の洗浄液において、
前記セルロースアシレートの良溶媒である液体と、下記の一般式(1)の化合物とを含み、前記液体の質量をM1、前記化合物の質量をM2とするときにM2/(M1+M2)で求める前記化合物の質量比が0.10以上0.89以下であることを特徴とする洗浄液。
【化5】

(一般式(1)において、RはHまたは炭素数が1以上3以下のアルキル基であり、RはHまたは炭素数が1以上3以下のアルキル基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)の化合物はリモネンであることを特徴とする請求項1記載の洗浄液。
【請求項3】
前記液体がジクロロメタンであることを特徴とする請求項1または2記載の洗浄液。
【請求項4】
前記セルロースアシレートは、針葉樹から得られたセルロースのアシル化物であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の洗浄液。
【請求項5】
セルロースアシレートを溶媒に溶解したセルロースアシレート溶液が流延され、前記流延により形成した流延膜が剥ぎ取られる流延支持体を洗浄する流延支持体の洗浄方法において、
前記セルロースアシレートの良溶媒である液体と、下記の一般式(1)の化合物とが含まれる洗浄液を浸した前記布で、前記流延支持体を拭くことにより洗浄することを特徴とする流延支持体の洗浄方法。
【化6】

(一般式(1)において、RはHまたは炭素数が1以上3以下のアルキル基であり、RはHまたは炭素数が1以上3以下のアルキル基である。)
【請求項6】
前記一般式(1)の化合物はリモネンであることを特徴とする請求項5記載の流延支持体の洗浄方法。
【請求項7】
前記液体がジクロロメタンであることを特徴とする請求項5または6記載の流延支持体の洗浄方法。
【請求項8】
前記セルロースアシレートは、針葉樹から得られたセルロースのアシル化物であることを特徴とする請求項5ないし7いずれか1項記載の流延支持体の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−172088(P2012−172088A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36351(P2011−36351)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】