説明

流延膜の形成方法及び装置、並びに溶液製膜方法

【課題】厚みムラの発生を抑えつつ、効率よくフィルムを生産する。
【解決手段】流延膜形成工程126では、ドープ24をエンドレスバンドへ流下させるドープ流下工程131と、ドープ24から流延膜61を形成する流延工程132と、流延膜61の加熱により膜表面を平滑化する膜加熱工程133と、膜表面にスキン層を形成するスキン層形成工程134と、流延膜61の乾燥を進める膜乾燥工程135と、自立して搬送可能な状態となるまで流延膜を冷却する膜冷却工程136と、エンドレスバンドから流延膜61を剥離する剥離工程137と、剥離工程137を経たエンドレスバンドを加熱する支持体加熱工程138とを順次繰り返し行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流延膜の形成方法及び装置、並びに溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、写真感光用フィルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置の構成部材である偏光板の保護フィルムや位相差フィルム等の光学フィルムに用いられている。
【0003】
フィルムの製造方法として、溶液製膜方法がある。溶液製膜方法は、流延膜形成工程と、膜自立化工程と、剥離工程と、湿潤フィルム乾燥工程とを有する。流延膜形成工程では、ポリマーが溶剤に溶けたドープを流下し、ドープからなる流延膜を支持体の上に形成する。膜自立化工程では、自立して搬送可能となるまで、すなわち固化が一定以上すすむまで、流延膜から溶剤を蒸発させる。剥離工程では、流延膜を支持体から剥離して、湿潤フィルムとする。湿潤フィルム乾燥工程では、湿潤フィルムから溶剤を蒸発させて、フィルムとする。
【0004】
特許文献1では、膜自立化工程において、流延膜から溶剤を蒸発させる膜乾燥工程と、自立して搬送可能となるまで流延膜を冷却する膜冷却工程とを順次行う方法が開示されている(特許文献1)。特許文献1の方法によれば、流延膜の固化に要する時間が膜乾燥工程に比べて短い膜冷却工程を、剥離工程の直前に行うため、流延膜の乾燥不足に起因する剥離故障(剥離された流延膜がちぎれてしまうちぎれ故障や、流延膜の一部が支持体に残ってしまうはげ残り故障)を回避できる。この結果、支持体速度の向上が可能となるため、従来に比べて、フィルムの生産効率の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−306059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1の方法を用いることにより、フィルムの生産効率の向上を図ることができたものの、得られたフィルムの厚みムラに起因する光学特性(面内レターデーションReや厚み方向レターデーションRth等)のムラが問題となってきた。このような光学特性のムラが顕在化した原因として、光学フィルムの要求スペックが向上したこと、及び液晶表示装置の薄型化に伴い光学フィルムの薄膜化が進んだことが挙げられる。
【0007】
そこで本発明は、上述のような厚みムラを抑えつつ、フィルムを効率よく生産可能な溶液製膜方法、並びに、この溶液製膜方法に用いられる流延膜の乾燥方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリマー及び溶剤を含むドープを移動支持体の表面の到達位置へ流下させるドープ流下工程と、前記流下したドープからなり前記移動支持体の表面上に形成された流延膜から前記溶剤を蒸発させる膜乾燥工程と、前記膜乾燥工程を経た流延膜を前記移動支持体から剥離する剥離工程とを順次繰り返し行う流延膜の形成方法において、前記膜乾燥工程後であって前記剥離工程前に行われ、自立して搬送可能な状態となるまで前記流延膜を冷却する膜冷却工程と、前記剥離工程後であって次の膜乾燥工程前の前記移動支持体を加熱する支持体加熱工程と、前記膜乾燥工程前に行われ、前記支持体加熱工程にて前記移動支持体に与えられた熱を用いて前記流延膜を加熱する膜加熱工程とを有し、前記ドープ流下工程では、前記到達位置よりも幅方向両外側の前記移動支持体の表面を支持する表面両端部支持手段と、前記移動支持体の裏面の一端から他端までを支持する裏面支持手段とを用いて前記移動支持体を挟持することを特徴とする。
【0009】
前記表面両端部支持手段はニップローラであり、前記裏面支持手段は支持ローラであることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、ポリマー及び溶剤を含むドープを移動支持体へ流下させるドープ流下工程と、前記流下したドープからなり前記移動支持体の表面上に形成された流延膜から前記溶剤を蒸発させる膜乾燥工程と、前記膜乾燥工程を経た流延膜を前記移動支持体から剥離する剥離工程とを順次繰り返し行う流延膜の形成方法において、前記膜乾燥工程後であって前記剥離工程前に行われ、自立して搬送可能な状態となるまで前記流延膜を冷却する膜冷却工程と、前記剥離工程後であって次の膜乾燥工程前の前記移動支持体の幅方向中央部を加熱する支持体加熱工程と、前記膜乾燥工程前に行われ、前記支持体加熱工程にて前記移動支持体に与えられた熱を用いて前記流延膜を加熱する膜加熱工程とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の溶液製膜方法は、上記の流延膜の形成方法を行った後、前記移動支持体から剥離された前記流延膜から前記溶剤を蒸発させて、フィルムを得るフィルム乾燥工程を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の流延膜の形成装置は、ポリマー及び溶剤を含み流下するドープが到達する到達部、前記流下したドープから流延膜を形成する流延部、前記流下したドープからなる流延膜にて前記溶剤を蒸発させる膜乾燥部、及び前記流延膜が剥離される剥離部を順次循環して通過する移動支持体と、前記到達部に位置する前記移動支持体を支持する到達部支持手段と、前記剥離部に位置する前記移動支持体を支持する剥離部支持手段と、前記移動支持体が前記膜乾燥部を離れ前記剥離部に到達するまでの間、自立して搬送可能な状態となるまで前記流延膜を冷却する膜冷却手段と、前記剥離部を離れ前記膜乾燥部に到達するまでの間の前記移動支持体を加熱する支持体加熱手段と、前記支持体加熱手段により与えられた熱を用いて前記膜乾燥部に到達する前の前記流延膜を加熱する膜加熱手段とを有し、前記到達部支持手段は、前記移動支持体の表面のうち前記流下したドープが到達する到達位置よりも幅方向両端部を支持する表面両端部支持部材と、前記移動支持体の裏面を一端から他端までを支持する裏面支持部材とを備えたことを特徴とする。
【0013】
前記表面両端部支持部材はニップローラであり、前記裏面支持部材は支持ローラであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の流延膜の形成装置は、ポリマー及び溶剤を含み流下するドープが到達する到達部、前記流下したドープから流延膜を形成する流延部、前記流下したドープからなる流延膜にて前記溶剤を蒸発させる膜乾燥部、及び前記流延膜が剥離される剥離部を順次循環して通過する移動支持体と、前記到達部に位置する前記移動支持体を支持する到達部支持手段と、前記剥離部に位置する前記移動支持体を支持する剥離部支持手段と、前記移動支持体が前記膜乾燥部を離れ前記剥離部に到達するまでの間、自立して搬送可能な状態となるまで前記流延膜を冷却する膜冷却手段と、前記剥離部を離れ前記膜乾燥部に到達するまでの間の前記移動支持体の幅方向中央部を加熱する支持体加熱手段と、前記支持体加熱手段により与えられた熱を用いて前記膜乾燥部に到達する前の前記流延膜を加熱する膜加熱手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ドープ流下工程と、膜乾燥工程と、剥離工程とを行ない、膜乾燥工程と剥離工程との間で行われる膜冷却工程により、膜乾燥工程から剥離工程までに要する時間を短縮できる。そして、この剥離工程から次回の膜乾燥工程までの間では、移動支持体を加熱する支持体加熱工程を行うため、次回のドープ流下工程によって形成した流延膜を裏面側から加熱する膜加熱工程を行うことができる。膜加熱工程により流延膜の表面を平滑にすることができる。このように、本発明によれば、厚みムラを抑えつつ、流延膜やフィルムを効率よく生産することができる。
【0016】
更に、膜冷却工程の直後に支持体加熱工程を行った場合には、熱履歴により移動支持体が反ってしまうが、本発明によれば、移動支持体の反りに起因する流延膜の厚みムラを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図2】第1の流延ユニットの概要を示す側面図である。
【図3】スキン層形成装置の概要を示す斜視図である。
【図4】スキン層形成装の概要を示すIV−IV線断面図である。
【図5】スキン層形成装の概要を示すV−V線断面図である。
【図6】第1の支持体加熱装置の概要を示す斜視図である。
【図7】第1の支持体加熱装置の概要を示すVII−VII線断面図である。
【図8】第1の流延膜形成工程及び溶液製膜方法の概要を示す工程図である。
【図9】形成直後の流延膜の概要を示す断面図である。
【図10】膜加熱工程後の流延膜の概要を示す断面図である。
【図11】スキン層形成工程後の流延膜の概要を示す断面図である。
【図12】膜乾燥工程後の流延膜の概要を示す断面図である。
【図13】第2の流延ユニットの要部の概要を示す側面図である。
【図14】第3の流延ユニットの概要を示す側面図である。
【図15】第4の流延ユニットの要部の概要を示す側面図である。
【図16】第5の流延ユニットの要部の概要を示す側面図である。
【図17】第6の流延ユニットの概要を示す側面図である。
【図18】第7の流延ユニットの概要を示す側面図である。
【図19】第2の支持体加熱装置の概要を示す断面図である。
【図20】第2の流延膜形成工程及び第2の溶液製膜方法の概要を示す工程図である。
【図21】第8の流延ユニットの要部の概要を示す側面図である。
【図22】支持体挟持装置の要部の概要を示す側面図である。
【図23】バンド表面に設定されたラップ領域、到達位置及び抑え位置の概要を示す平面図である。
【図24】第9の流延ユニットの要部の概要を示す側面図である。
【図25】支持体加熱装置の概要を示すXXV−XXV線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(溶液製膜設備)
図1に示すように、溶液製膜設備10は、流延ユニット12と、乾燥ユニット13と、巻取ユニット14とを有する。
【0019】
(流延ユニット)
流延ユニット12は、フィルム21の原料となるポリマー(原料ポリマーと称する)22とポリマー22の溶剤23とを含むドープ24から湿潤フィルム25をつくる。流延ユニット12の詳細は後述する。
【0020】
(乾燥ユニット)
乾燥ユニット13は、湿潤フィルム25から溶剤23を蒸発させて、湿潤フィルム25からフィルム21を得るものであり、流延ユニット12から巻取ユニット14に向かって順次配される、クリップテンタ35と、スリッタ36と、乾燥室37と、冷却室38とを備える。流延ユニット12とクリップテンタ35との間の渡り部40では、複数のローラ41を用いて、流延ユニット12から送り出された帯状の湿潤フィルム25をクリップテンタ35へ搬送する。
【0021】
クリップテンタ35は、ケーシング35aと対のレールとクリップ35bと乾燥風供給機35cとを有する。ケーシング35aには、湿潤フィルム25の移動路66rが設けられる。ケーシング35aに収容されたレールは、湿潤フィルム25の移動路66rの両側に設けられる。レールに沿って並ぶ複数のクリップ35bは、湿潤フィルム25の幅方向両側縁部を把持する把持状態と幅方向両側縁部の把持を解除する解除状態との間で遷移自在であり、レールに沿って移動自在に取り付けられる。この複数のクリップ35bは、図示しないチェーンにより環状に連結される。クリップ35bがレール上の把持開始位置を通過すると、クリップ35bが解除状態から把持状態へ遷移する。こうして、クリップ35bは、湿潤フィルム25の幅方向両側縁部を把持する。また、クリップ35bがレール上の把持解除位置を通過すると、クリップ35bが把持状態から解除状態へ遷移する。こうして、クリップ35bは、湿潤フィルム25の幅方向両側縁部の把持を解除する。
【0022】
把持開始位置から把持解除位置に向かうに従い、対のレールの間隔は漸増する。把持開始位置における湿潤フィルム25の幅をWf1とし、把持開始位置から把持解除位置までの間において湿潤フィルム25の最大幅をWf2とするときに、Wf2/Wf1は、1.05以上1.5以下であることが好ましい。湿潤フィルム25に乾燥風をあてる乾燥風供給機35cは、湿潤フィルム25の移動路66rの上方及び下方に設けられる。
【0023】
スリッタ36は湿潤フィルム25の耳部を切り離す。この切り離された耳部は、送風によりクラッシャ(図示しない)に送られて、細かく切断され、ドープ等の原料として再利用される。
【0024】
乾燥室37には、多数のローラ45が設けられる。湿潤フィルム25は、ローラ45に巻き掛けられながら搬送される。乾燥室37には吸着回収装置46が接続される。吸着回収装置46は、湿潤フィルム25から蒸発した溶剤23を吸着により回収する。乾燥室37内の溶剤23を回収することにより、乾燥室37における溶剤23の凝縮点が一定の範囲内に調節されているため、乾燥室37内を搬送される間、湿潤フィルム25から溶剤23が蒸発する。この結果、湿潤フィルム25からフィルム21が得られる。冷却室38では、温度が略室温になるまでフィルム21が冷却される。
【0025】
(巻取ユニット)
巻取ユニット14は、巻き芯51と、巻き芯駆動部(図示しない)と、プレスローラ52とを有する巻取室54を備える。制御部(図示しない)により、巻き芯駆動部は、所定の速度で巻き芯51を回転する。この結果、フィルム21は、所定の巻き取り張力で巻き芯51に巻き取られ、フィルムロール55となる。プレスローラ52は、巻き芯51または巻き芯51に巻き取られたフィルムロール55に向けて、巻き芯51へ巻き取られるフィルム21を押しつける。これにより、フィルム21の間にエアーの混入を防ぎながら、フィルム21を巻きつけることができる。
【0026】
巻取室54と冷却室38との間に、フィルム21の幅方向両縁部にナーリングを形成するナーリング付与装置57が設けられていることが好ましい。
【0027】
(流延ユニットの詳細)
図2に示すように、ドープ24から湿潤フィルム25をつくる流延ユニット12は、流延ケーシング75を備える。流延ケーシング75内には、ドープ24を流出する流延ダイ60と、流出したドープ24を支持しドープ24からなる流延膜61を形成する移動支持体であるエンドレスバンド62と、流延膜61の表面61aにスキン層を形成するスキン層形成装置63と、流延膜61から溶剤23(図1参照)を蒸発させる膜乾燥装置64と、エンドレスバンド62から流延膜61を剥離する剥離ローラ65と、エンドレスバンド62を所定方向へ循環して移動させるバンド移動機構66と、第1〜4シール部材71〜74とが設けられる。
【0028】
(エンドレスバンド移動機構)
バンド移動機構66は、エンドレスバンド62を支持しながら、所定の方向へ案内するためのものであり、各ローラ66a〜66cと、ローラ66cを駆動するモータ66mとを備える。
【0029】
ローラ66a〜66cは、互いに平行となるように配される。ローラ66bとローラ66cとは略同一平面(例えば水平面)上に配され、ローラ66aは、ローラ66bとローラ66cとの間であって、当該平面よりも上方に配される。ローラ66a〜66cには、シート材の両端を連結してなる環状のエンドレスバンド62が巻きかけられる。エンドレスバンド62のバンド裏面62bは、ローラ66a〜66cにより支持される。モータ66mの駆動によりローラ66cが回転すると、エンドレスバンド62は、ローラ66a、ローラ66b、ローラ66c、ローラ66a・・・と、ローラ66a〜66cを循環して移動する。こうして、ローラ66a〜66cにより、エンドレスバンド62の移動路66rが形成される。
【0030】
ローラ66x〜ローラ66zは、いずれも、エンドレスバンド62のバンド裏面62bを支持するためのものであり、エンドレスバンド62の移動路66rに沿って配される。ローラ66xは、ローラ66cとローラ66aとの間に配される。ローラ66yはローラ66aとローラ66bとの間に配され、ローラ66zはローラ66bとローラ66cとの間に配される。
【0031】
シート材の両端を連結することにより得られるエンドレスバンド62は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するSUS316製であることがより好ましい。エンドレスバンド62の幅は、例えば、ドープ24の流延幅CWの1.1倍以上2.0倍以下であることが好ましい。エンドレスバンド62の長さは、例えば、20m以上200m以下であることが好ましく、エンドレスバンド62の厚みは、例えば、0.5mm以上〜2.5mm以下であることが好ましい。なお、エンドレスバンド62の厚みムラは、全体の厚みに対して0.5%以下のものを用いることが好ましい。バンド表面62aは、研磨されていることが好ましく、バンド表面62aの表面粗さは0.05μm以下であることが好ましい。
【0032】
(シール部材)
第1〜第4シール部材71〜74は、エンドレスバンド62の移動路66rに設けられる。第1シール部材71は、エンドレスバンド62の移動路66rを介してローラ66xと対向するように配される。第2シール部材72は、エンドレスバンド62の移動路66rを介してローラ66yと対向するように配される。第3〜4シール部材73〜74は、エンドレスバンド62の移動路66rを介してローラ66cと対向するように、エンドレスバンド62の移動方向(以下、X方向と称する)上流側から下流側に向かって順次配される。
【0033】
第1シール部材71は、流延室75aに取り付けられた遮風板71aと、遮風板71aに取り付けられたラビリンスシール72bとからなる。遮風板71aは、流延ケーシング75内の気体の流れを遮る遮風面を有する。遮風板71aは、流延ケーシング75の内壁面から突出し、エンドレスバンド62のバンド表面62aに向かって延設される。ラビリンスシール71bは、バンド表面62aに近接するように、遮風板71aの先端に設けられる。第2シール部材72〜第4シール部材74は、第1シール部材71と同様の構造を有する。
【0034】
各ローラ及び各シール部材により、流延ケーシング75は、X方向上流側から下流側に向かって、流延室75a、膜乾燥室75b、剥離室75c、及び支持体加熱室75dに仕切られる。流延室75aは、第1シール部材71、第2シール部材72、ローラ66x及びローラ66yにより形成される。同様に、膜乾燥室75bは第2シール部材72、第3シール部材73、ローラ66y及びローラ66cにより形成され、剥離室75cは第3シール部材73、第4シール部材74及びローラ66cにより形成され、支持体加熱室75dは第1シール部材71、第4シール部材74、ローラ66c及びローラ66xにより形成される。
【0035】
(流延室)
流延室75aには流延ダイ60が設けられる。流延ダイ60は、エンドレスバンド62の移動路66rを介してローラ66aと対向するように配される。流延ダイ60とローラ66aとの間には到達部が形成される。流延ダイ60は、先端にドープ24を流出するスリット出口を有する。流延ダイ60は、スリット出口がエンドレスバンド62のうちローラ66aによって支持された部分に近接するように配される。流延ダイ60から流出したドープ24は、バンド表面62a上にて流れ延ばされる結果、帯状の流延膜61となる。
【0036】
流延室75aには減圧チャンバ77が設けられることが好ましい。減圧チャンバ77は、流延ダイ60よりもX方向の上流側であって、流延ダイ60と隣接するように設けられる。図示しない制御部の制御の下、減圧チャンバ77は、ビードのX方向上流側の圧力がビードのX方向下流側のものよりも低くなるように、ビードのX方向上流側を減圧する。ここで、ビードとは、流延ダイ60から流出しエンドレスバンド62に到達するまでのドープ24によって形成されるものをいう。
【0037】
(膜乾燥室)
膜乾燥室75bには、流延膜61にスキン層形成風80を供給するスキン層形成装置63と、流延膜61から溶剤を蒸発させる膜乾燥装置64とがX方向上流側から下流側に向かって順次、移動路66rに沿って設けられる。
【0038】
(スキン層形成装置)
スキン層形成装置63は、膜乾燥室75bのX方向最上流側に配されることが好ましい。図3及び図4に示すように、膜表面61aに近接するように配されたスキン層形成装置63は、給気ダクト81とカバー82とプレ給気ノズル83と風調節器84とを有する。給気ダクト81とカバー82とは、X方向上流側から下流側に向けて順次設けられる。
【0039】
給気ダクト81は、スキン層形成風80が流通するものであり、X方向においては第2シール部材72に近接し、膜表面61aから離隔して配される。給気ダクト81の膜表面61a側の面81aには、プレ給気ノズル83が設けられる。プレ給気ノズル83は膜表面61aに近づくに従ってX方向上流側からX方向下流側へ延びる。プレ給気ノズル83の先端には、バンド表面62aに向かって開口するプレ給気口83aが設けられる。図5に示すように、プレ給気口83aは、移動路66rの幅方向(以下、Y方向と称する)において、エンドレスバンド62の一の端からエンドレスバンド62の他の端まで延設される。なお、プレ給気口83aは面81aと面一であることが好ましい。
【0040】
図3及び図4に示すように、カバー82は、プレ給気口83aから送り出されたスキン層形成風80をX方向下流側へ案内するものであり、流延膜61から離れた状態で流延膜61を覆う。カバー82は、板状に形成され、X方向においては給気ダクト81から膜乾燥装置64(例えば、後述する前膜乾燥装置)近傍まで、Y方向においては、エンドレスバンド62の一の端からエンドレスバンド62の他の端まで延設される。カバー82は、膜表面61aと略平行のガイド面82aを膜表面61a側に有する。なお、ガイド面82aは面81aと面一であることが好ましい。
【0041】
プレ給気口83aからカバー82のX方向下流側端部にかけて、ガイド面82a及び面81aとバンド表面62aとの間には、プレ給気口83aから送り出されたスキン層形成風80の風路86が形成される。面81aからバンド表面62aまでの間隔は、例えば、20mm以上150mm以下であることが好ましい。Y方向における風路86の幅は、例えば、Y方向におけるエンドレスバンド62の幅の0.8倍以上1倍以下であればよい。X方向における風路86の長さは、製造条件(エンドレスバンド62の表面62aの移動速度V等)に応じて決定すればよく、例えば、1000mm以上5000mm以下であることが好ましい。
【0042】
風調節器84は、スキン層形成風80の温度を所定の範囲内に調節する温調機(図示しない)と、所定の風量でスキン層形成風80を給気ダクト81へ送る送風ファン(図示しない)とを有する。
【0043】
スキン層形成装置63にサイド遮風板85を設けても良い。サイド遮風板85は、Y方向に並べられ、給気ダクト81のX方向上流端からカバー82のX方向下流端にかけて延設される。サイド遮風板85は、面81a及びガイド面82aからバンド表面62aに向けて延設される。図5に示すように、サイド遮風板85のY方向内側の面85aは、プレ給気ノズル83の内面83bと面一であることが好ましい。
【0044】
(膜乾燥装置)
図2に示すように、膜乾燥装置64は、X方向上流側から下流側に向かって順次設けられる前膜乾燥機88と、後膜乾燥機89とを備える。
【0045】
(前膜乾燥機)
前膜乾燥機88は、エンドレスバンド62の移動路66rのうちローラ66yからローラ66bへ向かう部分に沿って配される。前膜乾燥機88は、バンド表面62a側に配され、前乾燥風90を送り出す表面側送風器91と、バンド裏面62b側に配され、前乾燥風90を送り出す裏面側送風器92と、前乾燥風調節器93(図示しない)とを有する。
【0046】
(表面側送風器)
表面側送風器91は、給気ダクト(図示しない)と排気ダクト(図示しない)とを備える。給気ダクトの給気口及び排気ダクトの排気口は、バンド表面62aと正対する。更に、給気ダクトの給気口及び排気ダクトの排気口は、流延膜61の一の端から他の端まで延設される。なお、給気ダクトの給気口と排気ダクトの排気口とは、X方向にて交互に並べられることが好ましい。
【0047】
(裏面側送風器)
裏面側送風器92は、表面側送風器91と同様に、給気ダクト(図示しない)と排気ダクト(図示しない)とを備える。給気ダクトの給気口及び排気ダクトの排気口は、バンド裏面62bと正対する。更に、給気ダクトの給気口及び排気ダクトの排気口は、流延膜61の一の端から他の端まで延設される。給気ダクトの給気口と排気ダクトの排気口とがX方向にて交互に並べられることが好ましい。
【0048】
前乾燥風調節器は、前乾燥風90の温度を所定の範囲内に調節する温調機(図示しない)と、所定の風量で前乾燥風90を給気ダクトへ送る送風ファン(図示しない)とを有する。
【0049】
表面側送風器91は、給気口から前乾燥風90を膜表面61aに向かって送り出し、排気口から前乾燥風90を吸引する。同様に、裏面側送風器92は、給気口から前乾燥風90をバンド裏面62bに向かって送り出し、排気口から前乾燥風90を吸引する。
【0050】
なお、表面側送風器91は膜表面61aに対して垂直方向に前乾燥風90を当てても良い。同様に、裏面側送風器92は、バンド裏面62bに対して垂直方向に前乾燥風90を当てても良い。
【0051】
(後膜乾燥機)
後膜乾燥機89は、エンドレスバンド62の移動路66rのうちローラ66bからローラ66cへ向かう部分に沿って配される。後膜乾燥機89は、バンド表面62a側に配され、後乾燥風94を送り出す平行送風器95と、バンド裏面62b側に配される裏面側送風器96と、後乾燥風調節器(図示しない)とを有する。平行送風器95は、X方向上流側から下流側に向かって順次設けられる、平行排気ダクト95aと平行給気ダクト95bとを有する。
【0052】
平行排気ダクト95a及び平行給気ダクト95bは、それぞれバンド表面62a側に配される。平行排気ダクト95aには、後乾燥風94を排気する排気口が設けられる。X方向下流側に向かって開口する排気口は、Y方向においてエンドレスバンド62の一の端から他の端まで延設される。平行給気ダクト95bには、後乾燥風94が送り出される給気口が設けられる。X方向上流側に向かって開口する給気口は、流延膜61の一の端から他の端まで延設される。
【0053】
裏面側送風器96は、後乾燥風94を送り出すこと以外は、裏面側送風器92と同様の構成を有する。後乾燥風調節器(図示しない)は、後乾燥風94の温度を所定の範囲内に調節する温調機(図示しない)と、所定の風量で後乾燥風94を裏面側送風器96の給気ダクトや平行給気ダクト95bへ送る送風ファン(図示しない)とを有する。
【0054】
(剥離室)
剥離室75cには剥離ローラ65が設けられる。剥離ローラ65とローラ66cとの間には剥離部が形成される。剥離ローラ65はモータ99と接続する。また、剥離室75cには流延ケーシング75の出口75oが開口する。剥離ローラ65の周速度をローラ66cよりも大きくすることにより、エンドレスバンド62から流延膜61を剥ぎ取ることができる。エンドレスバンド62から剥ぎ取られた流延膜61は、湿潤フィルム25となって、出口75oから乾燥ユニット13(図1参照)へ送り出される。
【0055】
(支持体加熱室)
支持体加熱室75dには、エンドレスバンド62に加熱風110を送り出す支持体加熱装置111が設けられる。支持体加熱装置111は、バンド表面62a側に配される表面側加熱器112と、バンド裏面62b側に配される裏面側加熱器113と、加熱風調節器114とを有する。なお、表面側加熱器112と裏面側加熱器113とのいずれか一方を省略しても良い。
【0056】
(表面側加熱器)
図6及び図7に示すように、表面側加熱器112は、給気ダクト112aと、排気ダクト(図示しない)とを有する。給気ダクト112aの給気口112o及び排気ダクトの排気口は、バンド表面62aと正対する。給気口112o及び排気口は、それぞれ、エンドレスバンド62の一の端から他の端まで延設される。すなわち、Y方向において、給気口112o及び排気口の幅は、流延幅CWよりも広い。なお、給気口112oと排気口とはX方向にて交互に並べられることが好ましい。
【0057】
(裏面側送風器)
裏面側加熱器113は、給気ダクト113aと、排気ダクト(図示しない)とを有する。給気ダクトの給気口113o及び排気ダクトの排気口113iは、バンド裏面62bと正対する。給気口113o及び排気口113iは、それぞれ、エンドレスバンド62の一の端から他の端まで延設される。すなわち、Y方向において、給気口113o及び排気口113iの幅は、流延幅CWよりも広い。なお、給気口113oと排気口113iとはX方向にて交互に並べられることが好ましい。
【0058】
加熱風調節器114は、加熱風110の温度を所定の範囲内に調節する温調機(図示しない)と、所定の風量で加熱風110を、表面側加熱器112及び裏面側加熱器113の給気ダクト112a、113aへ送る送風ファン(図示しない)とを有する。
【0059】
表面側加熱器112は、給気口112oから加熱風110をバンド表面62aに向かって送り出し、排気口から加熱風110を吸引する。裏面側加熱器113は、給気口113oから加熱風110をバンド裏面62bに向かって送り出し、排気口113iから加熱風110を吸引する。
【0060】
図1に戻って、ローラ66aには、ローラ66aの温度を調節するローラ温調器121が接続する。ローラ66bには、ローラ66bの温度を調節するローラ温調器122が接続する。これにより、ローラ66bは、流延膜61の加熱により、流延膜61から溶剤を蒸発させる。この場合には、ローラ66bを膜乾燥装置64に含めても良い。ローラ66cには、ローラ66cを冷却するローラ温調器123が接続する。ローラ温調器123がローラ66cを冷却することにより、ローラ66cは、エンドレスバンド62を介して流延膜61を冷却する膜冷却手段として機能する。
【0061】
また、図示は省略するが、流延ケーシング75内の雰囲気に含まれる溶剤を凝縮する凝縮装置、凝縮した溶剤を回収する回収装置を設けることにより、流延ケーシング75内にて気体となっている溶剤が液化する温度(凝縮点)を所定の範囲に保つことができる。
【0062】
次に、図8に示すように、溶液製膜方法125では、流延膜形成工程126と、湿潤フィルム乾燥工程127とが順次行われる。
【0063】
(流延膜形成工程の概要)
ドープ24から湿潤フィルム25を得る流延膜形成工程126が、図2に示す流延ユニット12で行われる。流延膜形成工程126の詳細は後述する。
【0064】
(湿潤フィルム乾燥工程)
湿潤フィルム25から溶剤を蒸発させてフィルム21とする湿潤フィルム乾燥工程127は、図1に示す乾燥ユニット13で行われる。
【0065】
クリップテンタ35に導入された湿潤フィルム25は、クリップ35bにより幅方向両端部を把持された状態で、搬送される。乾燥風供給機35cは、把持開始位置から把持解除位置までの間において、湿潤フィルム25の表面及び裏面のそれぞれに対し、所定の乾燥風をあてる。こうして、湿潤フィルム25から溶剤を蒸発させることができる。また、レールの間隔が把持開始位置から把持解除位置に向かうに従い漸増するため、クリップ35bによる搬送により、湿潤フィルム25に対し延伸処理を行うことができる。延伸処理により、面内レターデーションReや厚み方向レターデーションRthの調節が可能となる。
【0066】
乾燥室37に導入された湿潤フィルム25は、複数のローラ45に巻き掛けられながら搬送される。ケーシング106a内の雰囲気の温度や湿度の調節により、ケーシング106a内を搬送される湿潤フィルム25から溶剤が蒸発する。こうして、湿潤フィルム25は、フィルム21となる。
【0067】
(流延膜形成工程の詳細)
図8に示すように、流延膜形成工程126では、ドープ流下工程131と、流延工程132と、膜加熱工程133と、スキン層形成工程134と、膜乾燥工程135と、膜冷却工程136と、剥離工程137と、支持体加熱工程138とが順次行われる。
【0068】
図2に示すように、モータ66mの駆動によりローラ66cが回転すると、エンドレスバンド62は、流延ケーシング75内の各室75a〜75dを順次循環して移動する。ローラ温調器121〜123により、ローラ66a〜66cの温度は所定の範囲に調節される。図示しないストックタンクでは、ドープ24の温度が所定の範囲で略一定に調節される。図示しないポンプにより、ドープ24がストックタンクから流延ダイ60へ送られる。流延ダイ60に設けられた温調機により、流延ダイ60の温度は、所定の範囲で略一定に調節される。
【0069】
(流延室)
流延室75aでは、流延ダイ60から流出したドープ24がバンド表面62a上に到達するドープ流下工程131(図8参照)と、ドープ24からなる流延膜61がバンド表面62a上に形成される流延工程132(図8参照)と、流延膜61を加熱する膜加熱工程133(図8参照)とが行われる。
【0070】
(ドープ流下工程)
流延ダイ60はバンド表面62aに向けてドープ24をスリット出口から連続的に流出する。スリット出口から流出したドープ24は、ローラ66aにより支持されたエンドレスバンド62の部分、すなわち、バンド表面62a上の到達位置DPに到達する。
【0071】
(流延工程)
エンドレスバンド62は移動状態であるため、到達位置DPに到達したドープ24は、バンド表面62a上にて移動方向へ流れ延ばされる。こうして、バンド表面62a上には、ドープ24からなり流延幅CW(図6参照)の流延膜61が帯状に形成される。
【0072】
エンドレスバンド62の移動速度Vは200m/分以下であることが好ましい。移動速度Vが200m/分を超えると、ビードを安定して形成することが困難となる。移動速度Vの下限値は、目標とするフィルムの生産性を考慮すればよい。移動速度Vの下限値は、例えば、20m/分以上としても良いし、60m/分以上としてもよい。
【0073】
流延ダイ60から流出するドープ24における溶剤の含有量は、300質量%以上450質量%以下であることが好ましい。流延ダイ60から流出するドープ24における溶剤の含有量が300質量%未満であると、ドープ24の粘度が高くなり、安定した流延が行えなくなるためである。流延ダイ60から流出するドープ24における溶剤の含有量が450質量%を超えると、膜乾燥室75bにおける乾燥負荷が大きくなる結果、生産効率が下がるため好ましくない。
【0074】
ここで、溶剤の含有量は、ドープ、流延膜や各フィルム中に含まれる溶剤の量を乾量基準で示したものであり、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100と表される。
【0075】
流延ダイ60から流出するドープ24の温度は、20℃以上であって、溶剤の沸点以下であることが好ましい。流延ダイ60から流出するドープ24の温度が20℃未満である場合には、ドープ24の粘度が高くなり、安定した流延が行えなくなるためである。また、流延ダイ60から流出するドープ24の温度が、溶剤の沸点を超える場合には、ドープ24の発泡が起こるため好ましくない。なお、複数の化合物の沸点のうち最も低い沸点を表す。
【0076】
(膜加熱工程)
第2シール部材72及びローラ66yは、到達部からX方向下流側に向かって所定の距離だけ離れているため、到達部からX方向下流側に向かって所定長さの流延ゾーンCZ(流延部)が形成される。流延ゾーンCZでは、後述する支持体加熱工程138によって加熱されたエンドレスバンド62を膜加熱手段として用いて、流延膜61を加熱する膜加熱工程133が行われる。
【0077】
ここで、形成直後、すなわち流延工程132直後の流延膜61の膜表面61aは、平滑ではない(図9参照)。したがって、流延工程132直後の流延膜61には厚みムラが生じている。この厚みムラは、ビードの振動に起因するものと考えられる。また、流延工程132直後の流延膜61をなすドープ24は、多量の溶剤を含んでおり、流動性を示しやすい。そこで、本発明では、加熱されたエンドレスバンド62を用いて、流延工程132直後の流延膜61を加熱する膜加熱工程133を行う。流延工程132直後の流延膜61を加熱することにより、形成直後の流延膜61をなすドープ24の流動性が大きくなる結果、形成直後の流延膜61の膜表面61aは、平滑となる(図10参照)。
【0078】
X方向における流延ゾーンCZの長さは、特に限定されず、形成直後の流延膜61の膜表面61aが平滑となるまでに要する時間が確保できるものであれば良い。膜加熱工程133は、溶剤の含有量が300質量%以上450質量%以下の流延膜61に対して行うことが好ましい。
【0079】
ローラ温調器121により、ローラ66aの温度は、剥離位置PPにおけるバンド表面62aの温度以上溶剤の沸点以下の範囲内となる。
【0080】
(膜乾燥室)
膜乾燥室75bでは、流延膜61の膜表面61a側にスキン層61x(図11参照)が形成するまで、膜表面61aにスキン層形成風80をあてるスキン層形成工程134(図8参照)と、流延膜61から溶剤を蒸発させる膜乾燥工程135(図8参照)とが行われる。
【0081】
(スキン層形成工程)
図4に示すように、スキン層形成装置63は、給気ノズル83は吸気口83aからスキン層形成風80を送り出す。吸気口83aから送り出されたスキン層形成風80の方向(プレ給気ノズル83の延設方向)とX方向とがなす各の角度θ1は、30°以上60°以下であることが好ましく、45°であることがより好ましい。カバー68により、吸気口83aから送り出されたスキン層形成風80は、X方向上流側から下流側へ案内される。流延膜61に近接するカバー82により、流延膜61の膜表面61a近傍では、スキン層形成風80の渦状流れが生じやすくなる。渦状流れが生成した箇所では、スキン層形成風80の熱エネルギーが流延膜61に伝わりやすいため、スキン層形成風80の渦流流れにより、流延膜61の膜表面61aでは、溶剤の蒸発が促進される。
【0082】
スキン層形成工程134により、流延膜61は、スキン層61xと湿潤層61yとを有するものとなる(図11参照)。スキン層61xは、流延膜61の膜表面61a側に生成し、スキン層61xよりもエンドレスバンド62側に位置する湿潤層61yに比べて乾燥が進んだ部分である。したがって、スキン層61xの溶剤の含有量は湿潤層61yに比べて低い。
【0083】
また、スキン層61xの表面は平滑に形成される。スキン層61xを有するものとなった流延膜61について膜乾燥工程135を行った場合には、スキン層61xの表面が、得られた流延膜61の膜表面61aとなる。したがって、膜加熱工程133を経た流延膜61に対しスキン層形成工程134を行うことにより、膜表面61aが平滑な流延膜61を得ることができる。
【0084】
スキン層形成工程134は、溶剤の含有量が250質量%以上400質量%以下の流延膜61に対して行うことが好ましい。スキン層形成風80の温度は、例えば、30℃以上80℃以下であることが好ましい。また、スキン層形成風80の風速は5m/秒以上25m/秒以下であることが好ましい。
【0085】
(膜乾燥工程)
膜乾燥工程135では、前膜乾燥工程135aと後膜乾燥工程135bとが順次行われる。
【0086】
(前膜乾燥工程)
前膜乾燥機88は、流延膜61から溶剤を蒸発させる前膜乾燥工程135aを行う。表面側送風器91は、膜表面61aに前乾燥風90をあて、流延膜61から溶剤を蒸発させる。また、裏面側送風器92は、バンド裏面62bに前乾燥風90をあて、エンドレスバンド62を介して、流延膜61を加熱する。流延膜61の加熱により、流延膜61から溶剤を蒸発させる。
【0087】
(後膜乾燥工程)
後膜乾燥機89は、流延膜61から溶剤を蒸発させる後膜乾燥工程135bを行う。平行送風器95は、流延膜61の膜表面61aに後乾燥風94をあて、流延膜61から溶剤を蒸発させる。また、裏面側送風器96は、バンド裏面62bに後乾燥風94をあて、エンドレスバンド62を介して、流延膜61を加熱する。流延膜61の加熱により、流延膜61から溶剤を蒸発させる。後膜乾燥工程135bは、流延膜61の溶剤の含有量が110質量%以上210質量%以下となるまで行われることが好ましい。
【0088】
ローラ66bの熱を利用して、後膜乾燥工程135bを行っても良い。ローラ温調器122は、ローラ66bの温度が20℃以上40℃以下の範囲内となるように調節することが好ましい。
【0089】
各工程131〜135(図8参照)を行うことにより、膜表面61aが平滑な流延膜61を得ることができる(図12参照)。
【0090】
(剥離室)
剥離室75cでは、エンドレスバンド62を冷却する膜冷却工程136と、エンドレスバンド62から流延膜61を剥離する剥離工程137とが行われる。
【0091】
(膜冷却工程)
ローラ温調器123により、ローラ66cの温度は、0℃以上17℃以下の範囲内となる。なお、ローラ66cの温度は、0℃以上15℃以下の範囲内であることが好ましい。膜乾燥工程135により高温状態となったエンドレスバンド62は、ローラ66cとの接触により冷却される。そして、冷却されたエンドレスバンド62を介して、流延膜61が冷却される。膜冷却工程136は、自立して搬送可能な状態となるまで行われる。
【0092】
(剥離工程)
剥離室75cでは、剥離ローラ65を用いて、剥ぎ取り可能な状態となった流延膜61をエンドレスバンド62から剥ぎ取る剥離工程137(図8参照)が行われる。エンドレスバンド62のうちローラ66cによって支持された部分(剥離位置PP)では、剥ぎ取り可能な状態となった流延膜61がエンドレスバンド62から剥離される。エンドレスバンド62から剥離された流延膜61は、湿潤フィルム25として、出口75oから送り出される。配向角のばらつきを抑えるため、剥離工程137は、溶剤の含有量が200質量%以下の流延膜61に対して行うことが好ましい。生産効率の観点から、剥離工程137は、溶剤の含有量が100質量%以上の流延膜61に対して行うことが好ましい。
【0093】
(支持体加熱工程)
流延膜61が剥ぎ取られた後のエンドレスバンド62は、支持体加熱室75dを経て流延室75aへ戻る。膜冷却工程136により冷やされたエンドレスバンド62に対し、ドープ流下工程131と、流延工程132と、スキン層形成工程134とを連続して行うと、膜表面61aが平滑でない状態(図9参照)まま、乾燥が進んでしまう。この結果、流延膜27に厚みムラが生じてしまう。流延膜27に生じた厚みムラは、後の工程で取り除くことができないため、最終的には、フィルム21の厚みムラとなってしまう。
【0094】
そこで、本発明では、(n+1)回目の流延工程132と(n+1)回目のスキン層形成工程134との間で膜加熱工程133を行うために、n回目の剥離工程137と(n+1)回目のドープ流下工程131との間で、エンドレスバンド62を加熱する支持体加熱工程138を行う。
【0095】
支持体加熱室75dでは、支持体加熱装置111により、エンドレスバンド62が加熱される支持体加熱工程138が行われる。図6に示すように、表面側加熱器112は、バンド表面62aに加熱風110をあて、バンド表面62aの温度が所定範囲となるまで、エンドレスバンド62を加熱する。同様に、裏面側加熱器113はバンド裏面62bに加熱風110をあて、バンド表面62aの温度が所定範囲となるまで、エンドレスバンド62を加熱する。
【0096】
支持体加熱工程138では、流延ゾーンCZにおけるバンド表面62aの温度が範囲T1となるように、バンド表面62aを加熱することが好ましい。ここで、範囲T1とは、8℃以上溶剤の沸点以下であり、範囲T1の下限値は、10℃であることが好ましく、15℃であることがより好ましい。範囲T1の上限値は、(溶剤の沸点−5℃)であることが好ましい。なお、支持体加熱装置と機能する部品(ローラ66a、66x等)の温度も範囲T1であることが好ましい。
【0097】
本発明では、支持体加熱工程138にてエンドレスバンド62に与えられた熱を用いて、次の流延工程132によりエンドレスバンド62上に形成した流延膜61へ熱を与える膜加熱工程133を行う。したがって、本発明によれば、厚みムラを抑えつつ、フィルムを効率よく製造することができる。
【0098】
なお、上記の膜加熱工程133は、剥離位置PPから到達位置DPまでの間で行えばよい。
【0099】
次に、本発明の別の実施形態を説明する。上記実施形態と同一の部品・部材については、同一の符号を付し、その詳細の説明は省略し、上記実施形態と異なる部分の詳細の説明を行う。
【0100】
支持体加熱手段として、バンド表面62a及びバンド裏面62bの少なくとも一方に加熱風110をあてる支持体加熱装置111を用いたが、本発明はこれに限られず、バンド表面62a及びバンド裏面62bの少なくとも一方と接触する加熱ローラを備える支持体加熱装置141を用いてもよい。図13に示すように、支持体加熱装置141は、バンド表面62aと接触する表面加熱ローラ142と、バンド裏面62bと接触する裏面加熱ローラ143と、表面加熱ローラ142及び裏面加熱ローラ143の温度を調節するローラ温度調節器144とを備える。ローラ温度調節器144により、支持体加熱装置141は、流延ゾーンCZ(図2参照)通過時の温度が範囲T1となるように、バンド表面62aを加熱する。
【0101】
図2に示すように、ローラ温調器123は、後膜乾燥機89よりもX方向下流側に配されたローラ66zを冷却しても良い。ローラ温調器123により冷却されたローラ66zは、膜冷却手段となる。したがって、膜冷却工程136は、膜乾燥工程135の後であれば、膜乾燥室75bにて行っても良い。
【0102】
上記実施形態では、ローラ温調器123によって冷却されたローラ66cを膜冷却手段として用いたが、本発明はこれに限られない。図14に示すように、剥離位置PPに至るまでのエンドレスバンド62を冷却する冷却ユニット148を、膜冷却手段として用いてもよい。膜乾燥室75bにおいて後膜乾燥機89と冷却ローラ66cとの間に配される冷却ユニット148は、バンド裏面62bに液体を供給する給液装置149と、バンド裏面62bに乾燥風150をあてて、液体を蒸発させる蒸発装置151とを有する。給液装置149による液体の供給方法は、塗布、噴霧、滴状のものを噴射する方法など、いずれでもよい。給液装置149と蒸発装置151とは、エンドレスバンド62の移動路66rに沿って、バンド裏面62b側に、X方向上流側から下流側に向かって順次配される。給液装置149がバンド裏面62bに液体を供給する。蒸発装置151は、バンド裏面62bに乾燥風150をあてると、バンド裏面62b上の液体が蒸発する。バンド裏面62b上の液体が蒸発すると、液体の気化熱によりバンド裏面62bの温度が低下する。こうして、冷却ユニット148を用いて、エンドレスバンド62を冷却することができる。
【0103】
液体は、エンドレスバンド62が剥離位置PPに至るまでに蒸発するものであればよく、例えば、ジクロロメタンなどを用いることができる。
【0104】
膜冷却手段としては、ローラ66c、66z、冷却ユニット148のうち少なくともいずれか1つを用いればよく、ローラ66c、66z、冷却ユニット148のうち2者を組み合わせても良いし、3者全てを用いても良い。
【0105】
流延ゾーンCZにおいてバンド表面62aを水平に維持するために、ローラ66aとローラ66xとを同一水平面内に配することが好ましい。また、図15に示すように、ローラ66aとローラ66yとの間にて、ローラ66aと同一水平面に配されバンド裏面62bを支持するサポートローラ66dを設けてもよい。
【0106】
また、図16に示すように、ローラ66aとローラ66xの間にて、ローラ66aと同一水平面に配されバンド裏面62bを支持するサポートローラ66eを設けてもよい。
ローラ温調器121により、サポートローラ66eの温度が範囲T1となるように調節してもよい。これにより、サポートローラ66eが支持体加熱手段として機能する。
【0107】
なお、ローラ温調器121により、ローラ66aの温度が範囲T1となるように調節してもよい。これにより、ローラ66aが支持体加熱手段として機能する。
【0108】
上記実施形態では、ローラ66aを、ローラ66x〜66yよりも上方に配したが、本発明はこれに限られない。例えば、図17に示すように、ローラ66aとローラ66bとを同一平面(例えば、水平面)上に設け、ローラ66aとローラ66bとの間に配されるローラ66cを、当該平面よりも下方に設けても良い。なお、ローラ66zをローラ66aとローラ66bとの間に設けても良い。
【0109】
また、図2に示すローラ66cは、剥離位置PPにおけるエンドレスバンド62を支持する機能と、第3〜4シール部材73〜74によるシーリング機能とを有するが、これらを機能分離しても良い。例えば、図17のローラ66c、66f、66gは図2に示すローラ66cに相当する。そして、図17のローラ66cは、剥離位置PPにおけるエンドレスバンド62を支持する機能を有し、図17のサポートローラ66fは、第3シール部材73とによるシーリング機能を発揮し、図17のサポートローラ66gは、第4シール部材74とによるシーリング機能を発揮する。ローラ温調器123はローラ66cを冷却する。ローラ温調器123は、ローラ66fを冷却しても良い。
【0110】
また、ローラ温調器123により、ローラ66gを加熱しても良い。これにより、ローラ66gは、支持体加熱手段として機能する。
【0111】
なお、図17に示すローラ66aは、図2に示すローラ66a、66x、66yが一体となったものに相当する。
【0112】
また、図18に示すように、ローラ66aとローラ66cとを同一平面(例えば、水平面)上に設け、ローラ66aとローラ66cとの間にローラ66bを設けてもよい。バンド裏面62bを支持するローラ66bは、ローラ66aからローラ66cへ向かって移動するエンドレスバンド62が略水平となるように配される。なお、ローラ66bは、ローラ66a及びローラ66cよりも上方に設けても良い。図18に示すローラ66aは、図2に示すローラ66a、66x、66yが一体となったものに相当する。
【0113】
上記実施形態では、支持体加熱工程138において、Y方向全域にエンドレスバンド62を加熱したが、エンドレスバンド62のうち、流延幅CWの流延エリアCA(図6参照)の部分のみを加熱しても良い(図19参照)。これにより、エンドレスバンド62のうち流延エリアCA(図6参照)を除く非流延エリアが必要以上に加熱されないため、膜乾燥工程135にて、流延膜61のY方向両縁部での発泡を確実に抑えることができる。なお、流延エリアCAのうちY方向中央部を加熱部分とし、流延エリアCAのうちY方向両端部を非加熱部分としてもよい。この場合、Y方向における非加熱部分の幅は、例えば、10mmである。
【0114】
なお、剥離工程137と支持体加熱工程138との間で、バンド表面62aを洗浄する支持体表面洗浄工程を行っても良い。支持体表面洗浄工程により、剥離故障を確実に抑えることができる。また、支持体表面洗浄工程により、バンド表面62aに残留した異物(例えば、剥げ残った流延膜の一部)を除去することができる。この異物はビードの振動の原因となる。したがって、支持体表面洗浄工程により、ビードの振動を防止することができる。バンド表面62aを洗浄するために、例えば、バンド表面62aにドライアイスを噴射するドライアイス洗浄機を用いることが好ましい。
【0115】
また、支持体加熱工程138と次のドープ流下工程131との間で、ドープ24に対するバンド表面62aの接触角を低下させる接触角低下工程を行っても良い。接触角低下工程により、ビードとバンド表面62aとの間に同伴風が流入しにくくなる。したがって、接触角低下工程により、同伴風の流入に起因する流延膜の厚みムラを防ぐことができる。ここで、同伴風とは、エンドレスバンド62の移動によりバンド表面62a近傍に発生し、X方向に向かって流れる風をいう。ドープ24に対するバンド表面62aの接触角を低下させるために、溶剤をバンド表面62aに塗布することが好ましい。接触角低下工程に用いられる溶剤は、溶剤23と同一成分であってもよいし、溶剤23と共通する成分を含むものであってもよい。
【0116】
上記実施形態では、支持体加熱工程138を行うタイミングを、剥離工程137及びドープ流下工程131の間としたが、流延工程132及び膜加熱工程133の間でもよい。流延工程132及び膜加熱工程133の間で支持体加熱工程138を行う流延膜形成工程161と流延膜形成工程161を有する溶液製膜方法162とを図20に示す。
【0117】
流延膜形成工程161を行う流延ユニット165を図21に示す。流延ユニット165は、支持体加熱手段である支持体加熱装置168を、流延ゾーンCZのバンド裏面62b側に有する。支持体加熱装置168は、裏面側加熱器113と、加熱風調節器114とを有する。支持体加熱装置168は、バンド裏面62b側からエンドレスバンド62を加熱するため、流延膜61の加熱は、エンドレスバンド62側から行われる。したがって、支持体加熱装置168によれば、流延膜61にスキン層の形成を抑えつつ、流延膜61の加熱を行うことができる。流延ゾーンCZにて支持体加熱工程を行う場合には、バンド裏面62b側からエンドレスバンド62を加熱する必要がある。なぜならば、バンド表面62a側からエンドレスバンド62を加熱すると、膜加熱工程133に先立ってスキン層形成工程134が行われてしまうためである。なお、ローラ温調器121がローラ66yの温度を範囲T1にすることにより、ローラ66yを支持体加熱手段として機能させてもよい。
【0118】
なお、膜加熱工程133において流延膜61からの溶剤の蒸発を防ぐために、膜加熱工程133における流延膜61の近傍の雰囲気の溶剤のガス濃度は、スキン層形成工程134における流延膜61の近傍の雰囲気の溶剤のガス濃度よりも高いことが好ましい。ここで、「温度Taの雰囲気における溶剤のガス濃度」は、「(温度Taの雰囲気に含まれるガス状の溶剤の質量)/(温度Taの雰囲気において飽和状態となるガス状の溶剤の質量)」と表される。
【0119】
流延膜形成工程161において、支持体表面洗浄工程や接触角低下工程を行うタイミングは、剥離工程137と次のドープ流下工程131との間であればよい。両工程を行う場合には、支持体表面洗浄工程、接触角低下工程の順に行うことが好ましい。
【0120】
また、支持体加熱工程138と次のドープ流下工程131との間で、ドープ24に対するバンド表面62aの接触角を低下させる接触角低下工程を行っても良い。接触角低下工程により、ビードとバンド表面62aとの間に同伴風が流入しにくくなる。したがって、接触角低下工程により、同伴風の流入に起因する流延膜の厚みムラを防ぐことができる。ここで、同伴風とは、エンドレスバンド62の移動によりバンド表面62a近傍に発生し、X方向に向かって流れる風をいう。ドープ24に対するバンド表面62aの接触角を低下させるために、溶剤をバンド表面62aに塗布することが好ましい。接触角低下工程に用いられる溶剤は、溶剤23と同一成分であってもよいし、溶剤23と共通する成分を含むものであってもよい。
【0121】
各工程が順次繰り返し行われる流延膜形成工程において、エンドレスバンド62は、膜冷却工程136による冷却の直後に、支持体加熱工程138による加熱が行われる。冷却の直後に加熱が行われたエンドレスバンド62は、反りが発生しやすい。特に各ロールに巻き掛けられたエンドレスバンド62では、Y方向における反りが問題となる。すなわち、反ったままのエンドレスバンド62に対しドープ流下工程131を行うと、ドープ24が流下するスリット出口からバンド表面62aまでの間隔がY方向においてばらつくため、Y方向におけるビード長Lもばらついてしまう。ドープ流下工程131におけるY方向のビード長Lのばらつきは、流延工程132にて形成された流延膜61において、Y方向における厚みムラとなって現れてしまう。
【0122】
そこで、エンドレスバンド61の反りに起因する厚みムラを防ぐために、ドープ流下工程131において、支持体挟持工程を行うことが好ましい。
【0123】
支持体挟持工程を行う支持体挟持装置201は、図22及び図23に示すように、ローラ66aと、ニップローラ202とからなる。ニップローラ202は、移動路66rを介して、ローラ66aと対向するように流延室75a(図2参照)に配される。ニップローラ202はエンドレスバンド62のラップ領域LAと接触する。エンドレスバンド62のラップ領域LAとは、バンド表面62aのうち、ローラ66aに向かって移動しているエンドレスバンド62がローラ66aと接触し始める位置TP1から、ローラ66aと接触していたエンドレスバンド62がローラ66aから離れる位置TP2までの部分である。付勢部材により、ニップローラ202がエンドレスバンド62側に付勢されていることが好ましい。流延ダイ60から流下したドープ24が到達する到達位置DPは、ラップ領域LA内に設定される。また、ニップローラ202は、バンド表面62aのうち到達位置DPのY方向両外側に設けられた抑え位置NPと接触するように、移動路66r(図2参照)のY方向両端側に配される。
【0124】
なお、抑え位置NPは、X方向において、到達位置DPと重なる位置または、到達位置DPよりも上流側に設定される。X方向における到達位置DPと抑え位置NPとの間隔は、例えば、0mm以上300mm以下である。
【0125】
こうして、支持体挟持装置201は、Y方向全域においてバンド裏面62bを支持するローラ66aと、到達位置DPのY方向両外側のバンド表面62aを支持するニップローラ202とを用いて、エンドレスバンド62のY方向両端部を挟持する支持体挟持工程を行う。
【0126】
支持体挟持装置201によれば、Y方向に反ったエンドレスバンド62が、流延ダイ60とローラ66aとの間に案内されても、ニップローラ202とローラ66aとにより、エンドレスバンド62のY方向両端部を挟持する。この結果、少なくとも到達位置DPにおいてはエンドレスバンド62の反りが矯正される。したがって、支持体挟持装置201によれば、エンドレスバンド61の反りに起因する厚みムラを防ぐことができる。
【0127】
なお、流延膜形成工程126(図8参照)において、到達位置DPがX方向に変動する場合には、到達位置DPの変動する範囲に応じて、ニップローラ202を設ければよい。
【0128】
エンドレスバンド61の反りに起因する厚みムラを防ぐために、支持体加熱工程138(図8参照)において、Y方向中央部のみを加熱してもよい。これにより、エンドレスバンド62のY方向両端部では、加熱による膨張や冷却による収縮の規模が小さくなるため、反りの発生を抑えることができる。
【0129】
図24及び図25に示すように、表面側加熱器112とエンドレスバンド62との間に設けられた遮風ブロック210は、給気口112oのY方向両側を塞ぐように、対となって配される。遮風ブロック210により、Y方向における給気口112oの開口幅は、Y方向におけるエンドレスバンド62の幅よりも小さい。同様に、裏面側加熱器113とエンドレスバンド62との間に設けられた遮風ブロック211は、給気口113oのY方向両側を塞ぐように対となって配される。遮風ブロック211により、Y方向における給気口113oの開口幅は、Y方向におけるエンドレスバンド62の幅よりも小さい。
【0130】
Y方向において対となって配された遮風ブロック210の間隔は、流延幅CWより大きくても良いし、流延幅CWと等しくても良い。同様に、Y方向において、対となる遮風ブロック211の間隔は、流延幅CWより大きくても良いし、流延幅CWと等しくても良い。
【0131】
なお、図24に示すように、遮風ブロック210、211を、前膜乾燥機88の表面側送風器91や裏面側送風器92に設けても良い。また、後膜乾燥機89の平行送風器95や裏面側送風器96の各給気口のY方向両側を塞ぐように設けても良い。
【0132】
本発明により得られるフィルム21は、特に、位相差フィルムや偏光板保護フィルムに用いることができる。
【0133】
フィルム21の幅は、600mm以上3000mm以下であることが好ましく、2000mm以上3000mm以下であることが好ましい。また、フィルム21の幅は、3000mmを超える場合にも本発明を適用することができる。フィルム21の膜厚は、30μm以上120μm以下であることが好ましい。
【0134】
また、フィルム21の面内レターデーションReは、10nm以上300nm以下であることが好ましく、フィルム21の厚み方向レターデーションRthは、−100nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0135】
面内レターデーションReの測定方法は次の通りである。面内レターデーションReは、サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21DH 王子計測(株))にて632.8nmにおける垂直方向から測定したレターデーション値を用いる。なおReは以下式で表される。
Re=|n1−n2|×d
n1は遅相軸の屈折率,n2は進相軸2の屈折率,dはフィルムの厚み(膜厚)を表す
【0136】
厚み方向レターデーションRthの測定方法は次の通りである。サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、エリプソメータ(M150 日本分光(株)製)で632.8nmにより垂直方向から測定した値と、フィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値とから下記式に従い算出する。
Rth={(n1+n2)/2−n3}×d
n3は厚み方向の屈折率を表す。
【0137】
(ポリマー)
上記実施形態では、ポリマーフィルムの原料となるポリマー22は、特に限定されない。溶液製膜方法を行う場合には、ポリマーとして、例えば、セルロースアシレートや環状ポリオレフィン等がある。一方、溶融製膜方法を行う場合には、原料ポリマーとして、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状ポリオレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状ポリオレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状ポリオレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状ポリオレフィンである。
【0138】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0139】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0140】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0141】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶剤において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0142】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0143】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0144】
(溶剤)
ドープを調製するための溶剤23としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマーを溶剤に溶解または分散して得られるポリマー溶液,分散液を意味している。
【0145】
これらの中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0146】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶剤組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素原子数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらを適宜混合して用いることがある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶剤として用いることができる。
【0147】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明にも適用できる。また、溶剤及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【0148】
本発明は、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時に共流延させて積層させる同時積層共流延、または、複数のドープを逐次に共流延して積層させる逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチポケット型の流延ダイを用いてもよい。
【0149】
第1ポリマーを含む第1ドープと、第1ポリマーと異なる第2ポリマーを含む第2ドープとを用いて同時積層共流延や逐次積層共流延を行うことにより、流延膜の支持体側の層(支持体面層)と、流延膜の表面側の層(エアー面層)と、支持体面層とエアー面層との間の層(基層)とからなる積層流延膜を形成することができる。基層は第1ドープからなり、エアー面層及び支持体面層は第2ドープからなる。
【0150】
第1ポリマー及び第2ポリマーがセルロースアシレートである場合、第1ポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z1は、第2ポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z2よりも低いことが好ましい。特に、第1ポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z1は式(1)を満たし、第2ポリマーにおけるアシル基の総アシル置換度Z2は式(2)を満たす。
式(1) 2.0<Z1<2.7
式(2) 2.7<Z2
【0151】
レターデーションの波長分散性の観点から、第1ポリマーに用いるセルロースアシレートのアセチル基の置換度X1、及び炭素数3以上のアシル基の置換度の合計Y1は、下記式(3)および(4)を満たすことが、好ましい。なお、X1とY1は前記式(1)の前記Z1との間にX1+Y1=Z1の関係が成り立つ。
式(3) 1.0<X1<2.7
式(4) 0≦Y1<1.5
【0152】
レターデーションの波長分散性の観点から、第2ポリマーに用いるセルロースアシレートのアセチル基の置換度X2、及び炭素数3以上のアシル基の置換度の合計Y2は、下記式(5)および(6)を満たすことが好ましい。なお、X2とY2は前記式(2)のZ2との間にX2+Y2=Z2の関係が成り立つ。
式(5) 1.2<X2<3.0
式(6) 0≦Y2<1.5
【0153】
第2ドープは第1ドープよりも粘度が低い。各ドープの粘度は、JIS K 7117に基づいて求めることができる。
【0154】
第2ポリマーがセルロースアシレートであり、第1ポリマーがセルロースアシレート以外のポリマーでも良い。第1ポリマーとしては、アクリル樹脂を用いることが好ましい。
【0155】
(アクリル樹脂)
アクリル樹脂には、メタクリル系樹脂も含まれ、アクリレート/メタクリレートの誘導体、特にアクリレートエステル/メタクリレートエステルの(共)重合体がよく知られている。アクリル樹脂としては特に制限されるものではないが、メチルメタクリレート単位50〜99質量%、及びこれと共重合可能な他の単量体単位1〜50質量%からなるものが、光弾性係数の小さいフィルムを得るために好ましい。
【0156】
アクリル樹脂において、前記共重合可能な他の単量体としては、アルキル基の炭素数が2〜18のアルキルメタクリレート、アルキル数の炭素数が1〜18のアルキルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル、無水マレイン酸、マレイミド、N−置換マレイミド、グルタル酸無水物等が挙げられ、これらは単独で、あるいは2種以上の単量体を併用して共重合成分として用いることができる。
【0157】
これらの中でも、共重合体の耐熱分解性や流動性の観点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が好ましく、メチルアクリレートやn−ブチルアクリレートが特に好ましく用いられる。
【0158】
高温、高湿の環境にも性能変化の少ない透明性の高い光学フィルムを形成できる樹脂として、アクリル樹脂は、共重合成分として脂環式アルキル基を含有するか、又は分子内環化により分子主鎖に環状構造を形成させたアクリル樹脂が好ましい。分子主鎖に環状構造を形成させたアクリル樹脂の例としては、一つの好ましい態様としてラクトン環含有重合体を含むアクリル系の熱可塑性樹脂が挙げられ、好ましい樹脂組成や合成方法は特開2006−171464号公報に記載されている。また、別の好ましい態様としてグルタル酸無水物を共重合成分として含有する樹脂が挙げられ、共重合成分や具体的合成方法については特開2004−070296号公報に記載されている。
【0159】
アクリル樹脂の重量平均分子量が60万〜400万であり、80万〜300万であることが好ましく、100万〜180万であることが特に好ましい。アクリル樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0160】
アクリル樹脂の製造方法としては、特に制限は無く、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、あるいは溶液重合等の公知の方法を用いることができる。本発明では、複数のアクリル樹脂を併用することもできる。
【0161】
アクリル樹脂は、更に別の熱可塑性樹脂を含むことができる。本発明において熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が100℃以上、全光線透過率が85%以上の性能を有するものが、前記アクリル樹脂と混合してフィルム状にした際に、耐熱性や機械強度を向上させる点において好ましい。
【0162】
前記アクリル樹脂層中におけるアクリル樹脂とその他の熱可塑樹脂成分の含有割合は、[アクリル樹脂/(全熱可塑樹脂)]×100の質量割合で、好ましくは30〜99質量%、より好ましくは50〜97質量%、更に好ましくは60〜95質量%である。前記アクリル樹脂層中のアクリル樹脂の含有割合が30質量%以上であれば、耐熱性を十分に発揮できるため好ましい。
【0163】
前記その他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂等のゴム質重合体;などが挙げられる。ゴム質重合体は、表面に本発明における環重合体と相溶し得る組成のグラフト部を有するのが好ましく、また、ゴム質重合体の平均粒子径は、フィルム状とした際の透明性向上の観点から、100nm以下である事が好ましく、70nm以下である事が更に好ましい。
【0164】
前記その他の熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂と熱力学的に相溶する樹脂が好ましく用いられる。このような他の熱可塑性樹脂としては、シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位とを有するアクリロニトリル−スチレン系共重合体やポリ塩化ビニル樹脂等が好ましく挙げられる。それらの中でもアクリロニトリル−スチレン系共重合体が、ガラス転移温度が120℃以上、面方向の100μm当たりの位相差が20nm以下で、全光線透過率が85%以上である光学フィルムが容易に得られるので好ましい。アクリロニトリル−スチレン系共重合体としては、具体的には、その共重合比がモル単位で、1:10〜10:1の範囲のものが有用に使用される。
【0165】
第1ポリマーがアクリル樹脂である場合、第1ドープと第2ドープとを用いて、同時積層共流延や逐次積層共流延を行うと、積層流延膜に厚みムラが多発してしまう。この厚みムラは、第1ドープからなる基層と第2ドープからなる層(支持体面層やエアー面層)との界面の不安定化に起因する。界面の不安定化とは、基層をなす第1ドープの一部が隣り合う支持体面層やエアー面層へ入り込む現象を指す。この界面の不安定化を回避するために、第1ドープと、第2ドープと、第1ドープ及び第2ドープの間を流れる緩衝液とからなる合流ドープを用いて、同時積層共流延や逐次積層共流延を行うことが好ましい。
【0166】
緩衝液は、第1ドープ及び第2ドープよりも低粘度である。また、緩衝液は、各ドープに含まれる溶剤と相溶性の液からなることが好ましい。緩衝液の粘度は、1Pa・秒以上15Pa・秒以下であることが好ましく、1Pa・秒以上10Pa・秒以下であることがより好ましい。なお、緩衝液の粘度は、JIS K 7117に基づいて求めることができる。
【0167】
緩衝液は、各ドープに含まれる溶剤と同一のものであることが好ましい。緩衝液には、ポリマーが含まれていても良い。緩衝液に含まれるポリマーとしては、例えば、第1ポリマーや第2ポリマーが挙げられ、これらのうちいずれか一方が含まれることが好ましい。緩衝液におけるポリマーの含有濃度は5質量%未満であることが好ましい。
【0168】
第1ポリマーとしてアクリル樹脂を用いることにより、厚みムラを抑えつつ、応力の発生や湿度の変化により光学特性が変化しにくい光学フィルムを効率よく製造することができる。
【実施例】
【0169】
(実験1〜8)
以下の方法により、実験1〜8を行った。各実験の詳細は、実験1について詳細に行い、実験2〜8について、実験1と同じ箇所の説明は省略し、異なる部分の説明をする。
【0170】
(実験1)
ドープ24の調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルローストリアセテート(置換度2.86) 100 質量部
トリフェニルホスフェート(TPP) 10 質量部
マット剤(AEROSIL R972) 0.03質量部
の組成比からなる固形分を
ジクロロメタン 80 質量部
メタノール 13.5 質量部
n−ブタノール 6.5 質量部
からなる混合溶剤に適宜添加し、攪拌溶解してドープ24を調製した。
【0171】
ドープ24を濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンクに入れた。
【0172】
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテート(TAC)は、残存酢酸量が0.1質量%以下であり、Ca含有率が58ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンを15ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8質量%であり、その質量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であった。このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。
【0173】
得られたドープ24を用いて、図1に示す溶液製膜設備10において、フィルム21(幅1950mm)を製造した。流延ユニット12は図2に示すものを用いた。流延ユニット12では、図8に示す、ドープ流下工程131、流延工程132、膜加熱工程133、スキン層形成工程134、膜乾燥工程135、膜冷却工程136、剥離工程137、支持体加熱工程138を順次行う流延膜形成工程126を繰り返し行った。エンドレスバンドの移動速度Vは、100m/分であった。n回目の流延膜形成工程126における剥離工程137において、剥離位置PPにおけるバンド表面62aの温度はTPP(表1参照)であった。また、そのときの流延膜における溶剤の含有量は、ZYPP(表1参照)であった。(n+1)回目の流延膜形成工程126における到達位置DPにおけるバンド表面62aの温度を測定したところ、Y方向中央部の温度はTDPc(表1参照)であり、Y方向両端部の温度はTDPe(表1参照)であった。なお、Y方向両端部は、エンドレスバンド62のY方向両端から内側へ10mm離れた部分である。
【0174】
【表1】

【0175】
(実験2〜8)
膜冷却工程136の有無、膜加熱工程133の有無、支持体加熱工程138の有無、剥離位置PPにおけるバンド表面62aの温度TPP、剥離位置PPにおける流延膜における溶剤の含有量ZYPP、到達位置DPにおけるバンド表面62aの温度TDPc、TDPeを表1に示すものとしたこと以外は、実験1と同様にして、ドープ24からフィルム21をつくった。
【0176】
(評価)
実験1〜8の溶液製膜方法において、以下の観点で評価を行った。表1における評価結果の番号は、各評価項目に付した番号を表す。
【0177】
1.剥ぎ取り評価
剥離故障の有無について調べた。
○:剥離工程において、剥離故障が起こらなかった。
×:剥離工程において、剥離故障が起こった。
【0178】
2.厚みムラ評価
以下の手順で、フィルム21の厚みムラの有無を評価した。フィルム21について、厚みムラ測定を行った。この厚みムラ測定の手順は、次のとおりである。第1に、フィルム21から、略6cm四方のサンプルフィルムを切り出した。第2に、サンプルフィルムの屈折率差を厚み差に換算できる装置を用いてサンプルフィルムの屈折率差を測定した。この装置として、FX−03 FRINGEANALYZER(FUJINON(株)社製)を用いた。第3に、サンプルフィルムの全域にわたりこの屈折率差を測定し、この平均値を積層フィルムの厚みムラとした。このようにして得られた厚みムラについて、以下基準で評価した。なお、積層フィルムの厚みは、マイクロメータにより計測されたサンプルフィルムの6箇所の厚みの平均値である。
○:厚みムラがフィルムの厚みに対して1.5%未満であった。
△:厚みムラがフィルムの厚みに対して1.5%以上1.8%未満であった。
×:厚みムラがフィルムの厚みに対して1.8%以上であった。
【0179】
3.発泡評価
得られた流延膜を目視観察して、発泡の有無を調べた。
◎:耳部における発泡を確認できなかった。
○:耳部において発泡が確認されたが、スリッタ36により切り落とされる部分に限られたため、製品用のフィルムとしては問題がなかった。
×:製品用のフィルムとなる部分にまで発泡が確認された。
【0180】
以下の方法により、実験21〜22、51〜52を行った。
【0181】
(実験21)
上記の実験2において、ニップローラ202(図22参照)を設けたこと以外は、実験2と同様にして、ドープ24からフィルム21をつくった。なお、X方向における抑え位置NPと到達位置DPとの間隔ΔXは、0mmであった。
【0182】
(実験22)
上記の実験2において、ニップローラ202(図22参照)を設けたこと以外は、実験2と同様にして、ドープ24からフィルム21をつくった。間隔ΔXは、200mmであった。
【0183】
(実験51)
上記の実験5において、ニップローラ202(図22参照)を設けたこと以外は、実験2と同様にして、ドープ24からフィルム21をつくった。間隔ΔXは、0mmであった。
【0184】
(実験52)
上記の実験5において、ニップローラ202(図22参照)を設けたこと以外は、実験2と同様にして、ドープ24からフィルム21をつくった。間隔ΔXは、200mmであった。
【0185】
実験21〜22、51〜52において、バンドの浮き量Jを測定した。そして、浮き量Jについて以下基準にして判定した。
◎:浮き量Jが50μm未満であった。
○:浮き量Jが50μm以上100μm未満であった。
△:浮き量Jが100μm以上200μm未満であった。
×:浮き量Jが200μm以上であった。
【0186】
なお、バンドの浮き量Jは、次のようにして測定した。まず、ローラ66a〜66cに巻き掛けられたバンド62に移動テンション(60N/mm)を印加して移動路66rを循環移動させる。次に、ラップ領域LAにおいて、ローラ66a及びバンド裏面62bの間隔ΔCLを測定する。そして、X方向及びY方向における間隔ΔCLの最大値をバンドの浮き量Jとした。
【0187】
【表2】

【0188】
表2では、実験21〜22、51〜52とともに、実験2、5のバンド浮き量Jについての評価結果を示す。
【符号の説明】
【0189】
10 溶液製膜設備
12 流延ユニット
24 ドープ
25 湿潤フィルム
61 流延膜
62 エンドレスバンド
65 剥離ローラ
66a〜66z ローラ
111 支持体加熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー及び溶剤を含むドープを移動支持体の表面の到達位置へ流下させるドープ流下工程と、
前記流下したドープからなり前記移動支持体の表面上に形成された流延膜から前記溶剤を蒸発させる膜乾燥工程と、
前記膜乾燥工程を経た流延膜を前記移動支持体から剥離する剥離工程とを順次繰り返し行う流延膜の形成方法において、
前記膜乾燥工程後であって前記剥離工程前に行われ、自立して搬送可能な状態となるまで前記流延膜を冷却する膜冷却工程と、
前記剥離工程後であって次の膜乾燥工程前の前記移動支持体を加熱する支持体加熱工程と、
前記膜乾燥工程前に行われ、前記支持体加熱工程にて前記移動支持体に与えられた熱を用いて前記流延膜を加熱する膜加熱工程とを有し、
前記ドープ流下工程では、前記到達位置よりも幅方向両外側の前記移動支持体の表面を支持する表面両端部支持手段と、前記移動支持体の裏面の一端から他端までを支持する裏面支持手段とを用いて前記移動支持体を挟持することを特徴とする流延膜の形成方法。
【請求項2】
前記表面両端部支持手段はニップローラであり、
前記裏面支持手段は支持ローラであることを特徴とする請求項1記載の流延膜の形成方法。
【請求項3】
ポリマー及び溶剤を含むドープを移動支持体へ流下させるドープ流下工程と、
前記流下したドープからなり前記移動支持体の表面上に形成された流延膜から前記溶剤を蒸発させる膜乾燥工程と、
前記膜乾燥工程を経た流延膜を前記移動支持体から剥離する剥離工程とを順次繰り返し行う流延膜の形成方法において、
前記膜乾燥工程後であって前記剥離工程前に行われ、自立して搬送可能な状態となるまで前記流延膜を冷却する膜冷却工程と、
前記剥離工程後であって次の膜乾燥工程前の前記移動支持体の幅方向中央部を加熱する支持体加熱工程と、
前記膜乾燥工程前に行われ、前記支持体加熱工程にて前記移動支持体に与えられた熱を用いて前記流延膜を加熱する膜加熱工程とを有することを特徴とする流延膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちいずれか1項の流延膜の形成方法を行った後、
前記移動支持体から剥離された前記流延膜から前記溶剤を蒸発させて、フィルムを得るフィルム乾燥工程を有することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項5】
ポリマー及び溶剤を含み流下するドープが到達する到達部、前記流下したドープから流延膜を形成する流延部、前記流下したドープからなる流延膜にて前記溶剤を蒸発させる膜乾燥部、及び前記流延膜が剥離される剥離部を順次循環して通過する移動支持体と、
前記到達部に位置する前記移動支持体を支持する到達部支持手段と、
前記剥離部に位置する前記移動支持体を支持する剥離部支持手段と、
前記移動支持体が前記膜乾燥部を離れ前記剥離部に到達するまでの間、自立して搬送可能な状態となるまで前記流延膜を冷却する膜冷却手段と、
前記剥離部を離れ前記膜乾燥部に到達するまでの間の前記移動支持体を加熱する支持体加熱手段と、
前記支持体加熱手段により与えられた熱を用いて前記膜乾燥部に到達する前の前記流延膜を加熱する膜加熱手段とを有し、
前記到達部支持手段は、
前記移動支持体の表面のうち前記流下したドープが到達する到達位置よりも幅方向両端部を支持する表面両端部支持部材と、
前記移動支持体の裏面を一端から他端までを支持する裏面支持部材と、
を備えたことを特徴とする流延膜の形成装置。
【請求項6】
前記表面両端部支持部材はニップローラであり、
前記裏面支持部材は支持ローラであることを特徴とする請求項5記載の流延膜の形成装置。
【請求項7】
ポリマー及び溶剤を含み流下するドープが到達する到達部、前記流下したドープから流延膜を形成する流延部、前記流下したドープからなる流延膜にて前記溶剤を蒸発させる膜乾燥部、及び前記流延膜が剥離される剥離部を順次循環して通過する移動支持体と、
前記到達部に位置する前記移動支持体を支持する到達部支持手段と、
前記剥離部に位置する前記移動支持体を支持する剥離部支持手段と、
前記移動支持体が前記膜乾燥部を離れ前記剥離部に到達するまでの間、自立して搬送可能な状態となるまで前記流延膜を冷却する膜冷却手段と、
前記剥離部を離れ前記膜乾燥部に到達するまでの間の前記移動支持体の幅方向中央部を加熱する支持体加熱手段と、
前記支持体加熱手段により与えられた熱を用いて前記膜乾燥部に到達する前の前記流延膜を加熱する膜加熱手段とを有することを特徴とする流延膜の形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−196858(P2012−196858A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62158(P2011−62158)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】