説明

流延装置及び溶液製膜方法

【課題】支持体の更なる高速化を実現する。
【解決手段】流延室12には、流延ダイ21、流延ドラム22、剥取ローラ24、減圧装置88が設けられる。流延室12の出口は、シール装置61と接続する。シール装置61により、流延室12の気密性が保持される。減圧装置88は流延室12内の雰囲気を吸引する。減圧装置88の吸引により流延室12が減圧状態となる。流延ダイ21から流出したドープ28は、流延ドラム22上で流延膜31となる。剥ぎ取り可能となった流延膜31は剥取ローラ24によって剥ぎ取られ、湿潤フィルム35となる。湿潤フィルム35は、流延室12の外部へ搬送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流延装置及び溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光透過性を有する熱可塑性フィルム(以下、フィルムと称する)は、軽量であり、成形が容易であるため、光学フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、写真感光用フィルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置の構成部材である光学フィルム(例えば、位相差フィルムや偏光板保護フィルム等)に用いられている。
【0003】
フィルムは溶液製膜方法により製造される。溶液製膜方法は、流延ダイを用いて、ポリマーと溶剤とを含むポリマー溶液(以下、ドープと称する)を流し、支持体上に流延膜を形成する。次に、流延膜が剥ぎ取り可能になった後、これを支持体から剥がして湿潤フィルムとする。そして、この湿潤フィルム溶剤を蒸発させてフィルムとする。
【0004】
また、流延膜を剥ぎ取り可能な状態にする方法として、乾燥方式と冷却ゲル化方式とがある。乾燥方式は、流延膜の残留溶剤量を所定の範囲になるまで、支持体上の流延膜から溶剤を蒸発させるものである。一方、冷却ゲル化方式では、流延膜に含まれる溶剤の流動性を低下させるために、支持体上の流延膜を冷却するものである。
【0005】
フィルムの生産効率を向上させるためには、支持体の移動速度の向上や、流延膜の形成から流延膜の剥ぎ取りまでに要する時間を短くすることが必要となる。冷却ゲル化方式は、乾燥方式に比べ、流延膜が剥ぎ取り可能な状態となるまでに要する時間が短い。このため、フィルムを大量生産する方法として、冷却ゲル化方式が採用されることが多い。この冷却ゲル化方式の採用により、支持体の移動速度を「50m/分〜200m/分」まで向上させることが容易なとなる(例えば、特許文献1)。
【0006】
一方、支持体の移動速度が向上すると、移動する支持体の表面に沿って流れる同伴風が発生する。この同伴風が、流延ダイから流出したドープのうち、流延ダイ及び支持体の間にある部分(以下、ビードと称する)にあたると、ビードが振動してしまう。このビードの振動は、流延膜の厚みムラ、ひいては、フィルムの厚みムラとなってしまう。
【0007】
そこで、この同伴風の弊害を抑えるべく、ビードの背面側(支持体の移動方向上流側)の気体を吸引し、ビードの背面側の圧力が正面側(支持体の移動方向下流側)に比べて低い状態にする減圧チャンバが設けられる(例えば、特許文献2〜3)。この減圧チャンバによれば、支持体の移動速度の向上に応じて、ビードの背面側及び正面側の圧力差を大きくすることにより、フィルムの厚みムラを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−221833号公報
【特許文献2】特開2000−290388号公報
【特許文献3】特開2005−193691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、支持体の移動速度の更なる高速化(例えば、100m/分を超える範囲)を行う場合には、同伴風の規模が大きくなる。したがって、同伴風の弊害を防ぐためには、同伴風の規模に応じて、ビードの背面側及び正面側の圧力差を大きくする必要がある。しかしながら、減圧チャンバを用いた当該圧力差の更なる増大は、特許文献2〜3にて指摘されるように、ビード周辺や減圧チャンバ内の圧力変動の結果、ビードの振動を誘発してしまう。このように、特許文献2〜3に記載の発明は、支持体の移動速度が小さい場合、同伴風の弊害を解決する手段として一定の効果を発揮するものの、支持体の移動速度が大きい場合には、同伴風の弊害を解決する手段として用いることが困難である。
【0010】
更に、支持体の移動速度の更なる高速化を行う場合には、従来の剥ぎ取り位置において、流延膜が剥ぎ取り可能な程度な状態となっていないため、流延膜の一部が剥ぎ取られずに支持体上に残ってしまう(剥ぎ取り故障と称する)、または、湿潤フィルムが十分な弾性率を有していないため、湿潤フィルムの搬送が困難となる(搬送故障と称する)。
【0011】
本発明はこのような課題を解決するものであり、支持体の更なる高速化を実現する流延装置及び溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の溶液製膜方法は、ポリマー及び溶剤を含むドープを連続して流出する流延ダイ及び移動する支持体が設けられた流延室にて行われ、前記流出したドープから帯状の流延膜を前記支持体上に形成する膜形成工程と、前記流延室にて行われ、前記流延膜が剥ぎ取り可能な状態となるまで前記流延膜から前記溶剤を蒸発させる第1乾燥工程と、この第1乾燥工程を経た前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取って湿潤フィルムとする剥取工程と、前記湿潤フィルムから前記溶剤を蒸発させてフィルムとする第2乾燥工程とを有し、前記流延室は減圧状態であることを特徴とする。
【0013】
前記支持体の移動速度が100m/分以上300m/分以下であることが好ましい。また、前記膜形成工程の前に行われる準備工程では、前記帯状の流延膜の先端部を形成する先端部形成工程と、前記流延室の出口から前記先端部を搬出する搬送工程と、前記流延室の出口をシールするシール工程と、前記流延室内を減圧する減圧工程とが順次行われることが好ましい。
【0014】
本発明の流延装置は、ポリマー及び溶剤を含むドープを連続して流出する流延ダイと、前記流延ダイから流出した前記ドープを支持し、このドープから流延膜を形成する支持体と、前記流延ダイ及び前記支持体を内部に収めるケーシングと、前記流延膜から前記溶剤を蒸発させる乾燥手段と、前記支持体から剥ぎ取られた前記流延膜を外部へ出す前記ケーシングの出口と接続し、前記ケーシングの内部及び外部の気圧差を維持するシール手段とを有し、前記乾燥手段は、前記ケーシングの内部の気圧を減ずる減圧手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポリマー及び溶剤を含むドープを移動する支持体へ連続して流出し、前記流出したドープから帯状の流延膜を前記支持体上に形成する膜形成工程と、前記流延膜が剥ぎ取り可能な状態となるまで前記流延膜から前記溶剤を蒸発させる第1乾燥工程とを減圧環境下で行うため、従来よりも効率よくフィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図2】第1のシール装置の概要を示す断面図である。
【図3】シール装置に設けられた搬送路の概要を示す拡大図である。
【図4】上側シール部材が退避位置にあるときの、シール装置の概要を示す断面図である。
【図5】第2のシール装置の概要を示す側面図である。
【図6】第2の溶液製膜設備の概要を示す説明図である。
【図7】先端部形成工程の概要を示す説明図である。
【図8】搬送工程後におけるシール装置内部の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(溶液製膜方法)
図1に示すように、溶液製膜設備10は、流延室12とピンテンタ13と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。流延室12には、流延ダイ21、流延ドラム22、及び剥取ローラ24が設けられる。
【0018】
流延ダイ21は、ポリマーと溶剤とを含むドープ28を流出するものであり、ドープ28が流出するスリット出口は、流延ダイ21の先端に設けられる。流延ドラム22は、流延ダイ21の下方に位置し、軸方向が水平となるように配される。そして、流延ドラム22は、周面22aがスリット出口と近接するように配される。更に、流延ドラム22は、軸を中心に回転自在となっている。制御部(図示しない)の制御の下、駆動装置(図示しない)により、流延ドラム22が回転すると、流延ドラム22の周面22aはZ1方向へ所定の速度で移動する。流延ダイ21のスリット出口から流出したドープ28は、周面22a上で延ばされる結果、帯状の流延膜31を形成する。流延ダイ21及び流延ドラム22は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有する点から、SUS316製であることがより好ましい。
【0019】
流延ドラム22には温調装置32が接続される。温調装置32は、伝熱媒体の温度を調節する温度調節部を内蔵する。温調装置32は、温度調節部及び流延ドラム22内に設けられる流路との間で、所望の温度に調節された伝熱媒体を循環させる。この伝熱媒体の循環により、流延ドラム22の周面22aの温度を所望の温度に保つことができる。
【0020】
また、流延室12には、流延膜31から溶剤を蒸発させる乾燥ユニット33が設けられる。乾燥ユニット33は、流延室12内の雰囲気に含まれる溶剤を凝縮する凝縮装置33aと、凝縮した溶剤を回収する回収装置33bとを有する。乾燥ユニット33は、図示しない制御部の制御の下、流延室12内の雰囲気に含まれる溶剤の濃度を一定の範囲に保つ。
【0021】
剥取ローラ24は、流延ダイ21よりもZ1方向の下流側に配される。剥取ローラ24は、周面22a上に形成された流延膜31を剥ぎ取って、湿潤フィルム35として、流延室12の下流側へ案内する。
【0022】
流延室12の下流には、ピンテンタ13、乾燥室15、冷却室16、及び巻取室17が順に設置されている。
【0023】
ピンテンタ13は、湿潤フィルム35から溶剤を蒸発させる乾燥工程を行うためのものであり、湿潤フィルム35の耳部を保持するピンと、ピンを下流側へ移動させる移動部と、湿潤フィルムに乾燥風をあてる乾燥部とを有する。ピンテンタ13における乾燥工程により、湿潤フィルム35からフィルム40を得る。ピンテンタ13から送出されたフィルム40は、ピンの貫通跡が残っている耳部を切り離す耳切装置41を通過した後、乾燥室15へ送出される。
【0024】
乾燥室15には、多数のローラ42が設けられており、これらにフィルム40が巻き掛けられて搬送される。乾燥室15内の気圧は大気圧となっている。また、乾燥室15内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されている。乾燥室15では、フィルム40の乾燥処理が行われる。乾燥室15には吸着回収装置43が接続する。吸着回収装置43は、フィルム40から蒸発した溶剤を吸着により回収する。
【0025】
冷却室16は、フィルム40の温度が略室温となるまで、フィルム40を冷却する。冷却室16及び巻取室17の間では、上流側から順に、除電バー45、ナーリング付与ローラ46、及び耳切装置47が設けられる。除電バー45は、冷却室16から送り出され、帯電したフィルム40から電気を除く除電処理を行う。ナーリング付与ローラ46は、フィルム40の幅方向両端に巻き取り用のナーリングを付与する。耳切装置47は、切断後のフィルム40の幅方向両端にナーリングが残るように、フィルム40の幅方向両端を切断する。
【0026】
巻取室17には、プレスローラ51と巻き芯52を有する巻取機53とが設置されており、巻取室17に送られたフィルム40は、プレスローラ51によって押し付けられながら巻き芯52に巻き取られ、ロール状となる。
【0027】
流延室12とピンテンタ13との間の渡り部60には、シール装置61が設けられる。図2に示すように、シール装置61は、ケーシング62を有する。ケーシング62は、流延室12の出口12oとピンテンタ13の入口13iとをつなぐ湿潤フィルム35の搬送エリア62rを有する。搬送エリア62rには、出口12o側から入口13i側へ向かって、第1ロール71及び第2ロール72が所定のピッチで交互に並べられる。なお、第1ロール71及び第2ロール72は、従動ロールでもよいし、駆動ロールでもよい。
【0028】
第1ロール71及び第2ロール72の上方には上側ブロック75が設けられ、第1ロール71及び第2ロールの下方には下側ブロック76が設けられる。上側ブロック75と第2ロール72とが連結し、下側ブロック76と第1ロール71とが連結する。第1ロール71と上側ブロック75との間隔、第2ロール72と下側ブロック76との間隔、及び第1ロール71及び第2ロール72の間隔は、それぞれ、湿潤フィルム35の厚みよりもやや大きいものであり、流延室12の気密性が維持できる程度のものであれば良い。このように、搬送エリア62rには、第1ロール71、第2ロール72、上側ブロック75及び下側ブロック76により、蛇行したシール路77(図3参照)が形成される。
【0029】
図2及び図4に示すように、第2ロール72及び上側ブロック75とからなる上側シール部材81は、シール路77を形成するシール位置、及びシール位置よりも上側へ退避した退避位置(図4参照)の間を移動自在となっている。
【0030】
上側シール部材81は移動機構84と接続する。移動機構84は、図示しない制御部の制御の下、シール位置及び退避位置の間で上側シール部材81を移動する。
【0031】
第1ロール71及び第2ロール72には、温調装置32が取り付けられる。これにより、第1ロール71及び第2ロール72それぞれの周面の温度は、所定の範囲内(例えば、−5℃以上15℃以下)に調節される。
【0032】
図1に戻って、流延室12には、減圧装置88が接続する。減圧装置88は、流延室12内に設けられた圧力センサ(図示しない)を読みながら、圧力センサから読み取った圧力値が所定のものとなるまで、流延室12内の気体を吸引する。これにより、減圧装置88は、流延室12内の気圧を所定の範囲内に調節することができる。
【0033】
次に、本発明の作用について説明する。図示しないポンプにより、ドープ28が流延ダイ21へ送られる。ドープ28におけるポリマー濃度は、5重量%以上40重量%以下であることが好ましく、15重量%以上25重量%以下であることがより好ましい。また、ドープ28の温度は30℃以上35℃以下の範囲で略一定に保たれ、流延ドラム22の周面22aの温度は0℃以上10℃以下の範囲で略一定に保たれる。
【0034】
(膜形成工程)
流延室12では、流延ダイ21は、Z1方向に回転する流延ドラム22の周面22aに向けて、ドープ28を流出する。周面22aの移動速度は、特に限定されないが、例えば、100m/分以上300m/分以下であることが好ましい。周面22aには、ドープ28からなる帯状の流延膜31が形成される。
【0035】
(第1乾燥工程)
周面22a上の流延膜31はZ1方向へ搬送される。乾燥ユニット33により、周面22a上の流延膜31から溶剤が蒸発する。また、流延膜31は、流延ドラム22との接触により冷却される。冷却により、流延膜31をなすドープ28はゲル化する。溶剤の蒸発や冷却の結果、流延膜31は剥ぎ取り可能な状態となる。
【0036】
ここで、ゲル化とは、コロイド溶液がジェリー状に固化した状態の他、ドープの流動性が失われた状態を含む。なお、「ドープの流動性が失われた」とは、溶質が高分子の場合において、溶剤が溶質の分子鎖の中で保持された状態で流動性を失い、結果的に溶液の流動性が失われた状態と、溶質が低分子の場合において、溶剤の分子と溶質の分子との相互作用により、結果的に溶液の流動性が失われた状態とを含む。
【0037】
(剥取工程)
その後、剥取ローラ24は、剥ぎ取り可能となった流延膜31を、流延ドラム22から帯状の湿潤フィルム35として剥ぎ取り、渡り部40を介して、ピンテンタ13へ案内する。
【0038】
剥ぎ取り時の流延膜31の残留溶剤量は、200重量%以上300重量%以下であることが好ましい。なお、本発明では、流延膜31や各フィルム中に残留する溶剤量を乾量基準で示したものを残留溶剤量とする。また、その測定方法は、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0039】
(第2乾燥工程)
ピンテンタ13は、湿潤フィルム35の両端を保持して、湿潤フィルム35を搬送する。更に、ピンテンタ13は、湿潤フィルム35に乾燥風をあてて、湿潤フィルム35から溶剤を蒸発させる。この結果、湿潤フィルム35からフィルム40を得ることができる。
【0040】
耳切装置41は、ピンテンタ13から送り出されたフィルム40の両端を切断する。両端が切り離されたフィルム40は、乾燥室15に送られる。乾燥室15では、大気圧における乾燥処理が行われる。これにより、フィルム40から溶剤が蒸発する。その後、フィルム40は、冷却室16等を順次通過し、所定の処理が施される。
【0041】
冷却室16から送り出されたフィルム40には、除電バー45による除電処理、ナーリング付与ローラ46によるナーリング付与処理、耳切装置47による耳切処理が順次施される。巻取室17に送られたフィルム40は、プレスローラ51によって押し付けられながら巻き芯52に巻き取られ、ロール状となる。
【0042】
図4に示すように、シール装置61の上側シール部材81はシール位置となっている。このため、シール装置61は、流延室12の内部と外部との気圧差を維持可能な状態となる。図1に示すように、減圧装置88が流延室12内の雰囲気を吸引すると、流延室12の内部の気圧は、外部に比べて低い状態(減圧状態)が維持される。減圧状態としては、溶剤の発泡が起こらない程度であることが好ましい。また、流延室12の内部と外部との気圧差は、例えば、0.1kPa以上10kPa以下であることが好ましい。
【0043】
減圧状態では、流延膜31から溶剤が蒸発しやすい。このため、流延膜31が剥ぎ取り可能な状態となるまでに要する時間を短くすることができる。また、流延室12内を減圧することにより、周面22a近傍に発生する同伴風の規模を抑えることができる結果、同伴風に起因する弊害を抑えることができる。このように、本発明によれば、流延ドラム22の周面22aの移動速度を向上させても、ビードの振動に起因する故障とともに、剥ぎ取り故障や搬送故障を抑えることができる。したがって、本発明によれば、溶液製膜方法の更なる高速化を実現することができる。
【0044】
また、流延室12の内部を減圧する結果、流延室12内の雰囲気に含まれる酸素濃度も低下する。したがって、本発明によれば、流延室12内における防爆レベルを、従来に比べて低いものにすることができる。
【0045】
上記実施形態では、流延室12における、膜形成工程、第1乾燥工程及び剥取工程を減圧環境下で行ったが、本発明はこれに限られず、膜形成工程及び第1乾燥工程及び剥取工程を減圧環境下で行ってもよいし、膜形成工程、第1乾燥工程、剥取工程及び第2乾燥工程を減圧環境下で行ってもよい。前者の方法を行う溶液製膜設備が有する流延室12を図5に、後者の方法を行う溶液製膜設備10を図6に、それぞれ示す。図6において、ピンテンタ13では、減圧下にて湿潤フィルム35から溶剤を蒸発させる。
【0046】
(準備工程)
なお、膜形成工程の前に準備工程を行うことが好ましい。準備工程では、先端部形成工程、搬出工程、及びシール部材移動工程を大気圧下において順次行った後、減圧工程を行う。
【0047】
先端部形成工程では、図7に示すように、流延ダイ21が流延ドラム22上にドープ28を流し、流延ドラム22上に流延膜31の先端部31aを形成する。搬出工程では、流延ドラム22から剥ぎ取られた流延膜31の先端部31aを、シール装置61を通した後、ピンテンタ13へ搬出する。シール工程では、図8に示すように、退避位置にある上側シール部材81をシール位置へ移動させる(図2参照)。その後、減圧工程では、減圧装置88が流延室12の雰囲気を吸引する。これにより、流延室12内の気圧が下がった状態で維持される。なお、流延ドラム22の回転速度を先端部形成工程や搬出工程におけるものよりも大きい状態にする高速化工程を、シール部材移動工程と減圧工程との間、減圧工程と並行して、または減圧工程の後に行うことが好ましい。
【0048】
上記実施形態では、支持体として、流延ドラム22を用いたが、本発明はこれに限られず、流延バンドを用いてもよい。軸方向が水平となるように配されたローラに、流延バンドを掛け渡し、ローラを回転させることにより、流延バンドを移動させることができる。
【0049】
上記実施形態では、冷却ゲル化方式により、流延膜を剥ぎ取り可能な状態にしたが、本発明はこれに限られず、乾燥方式により、流延膜を剥ぎ取り可能な状態にしてもよい。
【0050】
本発明により得られるフィルム40は、特に、位相差フィルムや偏光板保護フィルムに用いることができる。
【0051】
フィルム40の幅は、600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、フィルム40の幅が2500mmより大きい場合にも効果がある。またフィルム40の膜厚は、30μm以上120μm以下であることが好ましい。
【0052】
また、フィルム40の面内レターデーションReは、20nm以上300nm以下であることが好ましく、フィルム40の厚み方向レターデーションRthは、−100nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0053】
面内レターデーションReの測定方法は次の通りである。面内レターデーションReは、サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21DH 王子計測(株))にて632.8nmにおける垂直方向から測定したレターデーション値を用いた。なおReは以下式で表される。
Re=|n1−n2|×d
n1は遅相軸の屈折率,n2は進相軸2の屈折率,dはフィルムの厚み(膜厚)を表す
【0054】
厚み方向レターデーションRthの測定方法は次の通りである。サンプルフィルムを温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、エリプソメータ(M150 日本分光(株)製)で632.8nmにより垂直方向から測定した値と、フィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値とから下記式に従い算出した。
Rth={(n1+n2)/2−n3}×d
n3は厚み方向の屈折率を表す。
【0055】
(ポリマー)
本発明に用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【0056】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0057】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0058】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「2位のアシル置換度」とする)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「3位のアシル置換度」という)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「6位のアシル置換度」という)である。
【0059】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が用いられてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0060】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位の水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れたドープを作製することができる。特に、非塩素系有機溶剤を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0061】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター、パルプのいずれかから得られたものでもよい。
【0062】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特には限定されない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレノイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0063】
(溶剤)
ドープを調製する溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)などが挙げられる。
【0064】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度及び光学特性など物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶剤全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0065】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶剤組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合溶剤が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶剤として用いることができる。
【0066】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶剤及び可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤(UV剤)、光学異方性コントロール剤、レターデーション制御剤、染料、マット剤、剥離剤、剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【実施例】
【0067】
(実験1)
図1の溶液製膜設備10を用いて、フィルム40を製造した。詳細は次のとおりである。準備工程における周面22aの移動速度VZ1は100m/分であり、流面ドラム22の周面22aの温度を略10℃であり、流延室12内の気圧は100kPaであった。かかる条件で、先端部形成工程と、搬出工程と、シール工程とを行った。減圧工程では、流延室12内の気圧を目標気圧Pまで減圧したにした。目標気圧Pは100Paであった。準備工程の後、周面22aの移動速度VZ2を200m/分にした。かかる条件下で溶液製膜方法を行ない、フィルム40を製造した。
【0068】
(実験2)
減圧工程にいて、目標気圧Pを1kPaにしたこと以外は、実験1と同様にして、フィルム40を製造した。
【0069】
(実験3)
減圧工程にいて、目標気圧Pを10kPaにしたこと以外は、実験1と同様にして、フィルム40を製造した。
【0070】
(実験4)
減圧工程を行わなかったこと以外は、実験1と同様にして、フィルム40を製造した。
【0071】
(評価)
実験1〜4にて得られたフィルム40について、次の評価を行った。
【0072】
1.剥ぎ取り性の評価
以下基準に基づいて、剥ぎ取り性の評価を行った。
○:流延膜を支持体から剥ぎ取ることができた。
×:流延膜が剥ぎ取り可能な状態となっておらず、流延膜を支持体から剥ぎ取ることができなかった。
【0073】
2.厚みムラの評価
以下基準に基づいて厚みムラの評価を行った。長手方向の最大膜厚をTHmax、長手方向の最小膜厚をTHmin、長手方向の平均膜厚をTHaveとすると、厚みムラMは、(THmax−THmin)/THave×100で表される。
○:Mが2%未満であった。
×:Mが2%以上であった。
【0074】
実験1〜実験4で得られたフィルムにおける各評価項目の評価結果を表1に示す。なお、表1において、評価結果に付した番号は、上記評価項目に付した番号を表す。
【0075】
【表1】

【符号の説明】
【0076】
10 溶液製膜設備
12 流延室
21 流延ダイ
22 流延ドラム
31 流延膜
35 湿潤フィルム
40 フィルム
61 シール装置
88 減圧装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー及び溶剤を含むドープを連続して流出する流延ダイ及び移動する支持体が設けられた流延室にて行われ、前記流出したドープから帯状の流延膜を前記支持体上に形成する膜形成工程と、
前記流延室にて行われ、前記流延膜が剥ぎ取り可能な状態となるまで前記流延膜から前記溶剤を蒸発させる第1乾燥工程と、
この第1乾燥工程を経た前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取って湿潤フィルムとする剥取工程と、
前記湿潤フィルムから前記溶剤を蒸発させてフィルムとする第2乾燥工程とを有し、
前記流延室は減圧状態であることを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記支持体の移動速度が100m/分以上300m/分以下であることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記膜形成工程の前に行われる準備工程では、
前記帯状の流延膜の先端部を形成する先端部形成工程と、
前記流延室の出口から前記先端部を搬出する搬送工程と、
前記流延室の出口をシールするシール工程と、
前記流延室内を減圧する減圧工程とが順次行われることを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
ポリマー及び溶剤を含むドープを連続して流出する流延ダイと、
前記流延ダイから流出した前記ドープを支持し、このドープから流延膜を形成する支持体と、
前記流延ダイ及び前記支持体を内部に収めるケーシングと、
前記流延膜から前記溶剤を蒸発させる乾燥手段と、
前記支持体から剥ぎ取られた前記流延膜を外部へ出す前記ケーシングの出口と接続し、前記ケーシングの内部及び外部の気圧差を維持するシール手段とを有し、
前記乾燥手段は、前記ケーシングの内部の気圧を減ずる減圧手段を備えることを特徴とする流延装置。
【請求項5】
前記支持体の移動速度が100m/分以上300m/分以下であることを特徴とする請求項4記載の流延装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−207050(P2011−207050A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77165(P2010−77165)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】