説明

流延装置及び溶液製膜方法

【課題】溶液製膜での製造効率を上げるために流延膜の乾燥速度の向上を図りつつも、流延膜の発泡を防止する。
【解決手段】溶液製膜設備の流延装置は、バンドの流延面側に、上流側から順に、第1〜第3の流延面側給排気ユニットを備える。流延装置はさらに、バンド30の非流延面側に、上流側から順に、第1〜第3の非流延面側給排気ユニットを備える。各給排気ユニットは、給気部61と1対の遮風板62とを有する。各給気部は、給気ダクトノズル67から、流延膜36に対して気体を吹き付ける。各遮風板62,54,55は、流延膜36の側縁の通過ラインよりも幅方向の内側に配してある。バンドの非流延面側に、上流側から順に配した遮風板87,101〜103は、遮風板62,54,55よりも中央寄りに配され、この順で下流に向かうほど、対を成す遮風板同士の間隔を狭めてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムとして用いるフィルムをドープから形成するための流延装置及び溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイには位相差フィルムが用いられ、液晶ディスプレイの大画面化と高精細化によって、位相差フィルムに対する要求品質も厳しくなる一方である。要求品質として重要視されるのは光学特性である。
【0003】
位相差フィルムとして用いるフィルムを製造する方法としては、上記のような光学特性の観点から溶液製膜方法が好ましいと言える。位相差フィルムの市場は拡大する一方であり、この市場の拡大に伴い、溶液製膜でのフィルムの製造効率も向上させる必要がある。
【0004】
溶液製膜方法は、工業的には、連続法で行われる。すなわち、ドープを流延して流延膜とし、流延膜を剥ぎ取るまでの流延工程と、剥ぎ取られた流延膜であるフィルムを乾燥する乾燥工程とは連続して行われる。流延工程と乾燥工程とのうち流延工程での速度を上げることが、製造効率の向上につながる。
【0005】
そこで、流延膜の乾燥速度を上げるために、従来は、特許文献1のように、流延膜に対して平行に乾燥風を流し、その乾燥風を流延膜の走行方向に対して対向流または追い風となるように流したり、特許文献2のように、走行する支持体の上に特定のドープから形成された流延膜に対して、流延膜に垂直に乾燥風を吹き付けることが行われてきた。
【0006】
また、特許文献2では、乾燥のために流延膜に風を吹き付け、風の向きと支持体表面とのなす角を45°〜80°または90°とし、特許文献3では、ノズルから流延膜に向けて出す風の向きを45°〜90°とする。
【0007】
ところで、風をあてることにより流延膜を乾燥させる方法では、その乾燥を効果的ないし効率的に進めるために、風として吹き付ける空気を加熱して暖める。このように、加熱した空気を流延膜にあてると、支持体の流延面のうち流延膜が形成されていない露出部分は、徐々に昇温してしまう。支持体の露出部分の温度が高く上がりすぎてしまうと、流延膜の各側部の温度も上昇しすぎて発泡する。
【0008】
そこで、流延膜に吹き付ける風により、このような支持体側部の露出部分の温度上昇を防止するために、特許文献4では、遮風板を設けて、風が支持体の露出部分にあたらないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−110520号公報
【特許文献2】特開昭64−055214号公報
【特許文献3】特開2003−103544号公報
【特許文献4】特開2005−047141公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、流延膜に対して平行に風を流す方法は、風を吹き付けない場合に比べて乾燥速度は大きいものの、流延方向に延びた細かいすじが流延膜に発生するという問題がある。また、特許文献3には、流延膜に垂直に風を吹き付けると、風が流延膜に当たった後、上流側に向かってしまい。この流れによって膜厚が不均一になることが指摘されている。
【0011】
ここで、特許文献3の方法では、乾燥速度をさらに大きくするためには、吹き付ける気体の温度を上げることになる。しかし、このように気体の温度を上げていくと、繰り返し流延と剥取とを行っているうちに、支持体の側部の温度が上昇しすぎてしまい、流延膜の側端部が発泡してしまう。また、特許文献4の方法では、流延膜の発泡をある程度は防止することができる。この特許文献4の方法において、フィルムの製造速度を上げる目的で乾燥速度をさらに大きくするためには、流延膜に吹き付ける風量を大きくすることになる。しかし、このように風量を大きくするに従い乾燥速度向上の効果は小さくなり、製造速度に限界がある。
【0012】
そこで、上記問題に鑑み、本発明は、溶液製膜によるフィルムの製造効率を上げるために、流延膜のさらなる乾燥速度の向上を図りつつも、流延膜の発泡を防止する流延装置と溶液製膜方法とを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、環状に形成されたベルト状の流延支持体の流延面にドープを流延して流延膜とし、この流延膜を剥ぎ取る剥取位置からドープが流延される流延位置に戻るように前記流延支持体が循環して連続走行する流延装置において、前記流延位置から前記剥取位置に向かう前記流延支持体の前記流延面側に、前記流延膜よりも高い温度の気体を送り出す流延面側給気手段と、前記流延支持体の走行路に沿って延びており、前記流延膜の側縁の通過ラインよりも前記流延支持体の幅方向における内側に配されて、前記流延膜の膜面近傍から前記流延支持体の両側部の露出部分への前記気体の流れ出しを抑制する1対の流延面側遮風部材と、前記流延位置から前記剥取位置に向かう前記流延支持体の非流延面に対向して設けられ、前記流延支持体を前記非流延面側から加熱する加熱手段と、前記流延支持体の走行路に沿って延びており、前記1対の流延面側遮風部材よりも前記流延支持体の幅方向における中央寄りとなるように前記加熱手段の両側に設けられ、前記非流延面の両側部への熱の伝わりを抑制する1対の伝熱抑制手段とを備えることを特徴として構成されている。
【0014】
前記1対の伝熱抑制手段が前記流延支持体の走行方向に並ぶように複数設けられ、前記剥取位置に向かうほど、対を成す前記伝熱抑制手段の間隔が狭められてあることが好ましい。
【0015】
前記加熱手段は、前記非流延面に対向して形成された開口から、前記流延支持体に対して前記流延膜よりも高い温度の気体を出す非流延面側給気手段であり、前記伝熱抑制手段が、前記非流延面の両側部への前記気体の流れ出しを抑制する非流延面側遮風部材であることが好ましい。非流延面側給気手段は、前記流延支持体の非流延面に対して垂直な方向で前記気体を出すことがより好ましい。
【0016】
前記加熱手段と前記伝熱抑制手段とは、前記流延位置から前記剥取位置までの領域のうち下流側に設けられてあることが好ましい。
【0017】
本発明の溶液製膜方法は、長手方向に連続走行する環状の流延支持体にドープを流延して流延膜を形成し、前記流延支持体から前記流延膜を剥がして乾燥し、前記流延膜を剥がした前記流延支持体にドープを再び流延する溶液製膜方法において、前記流延膜の温度よりも高い温度の気体を前記流延膜の膜面に供給して前記流延膜を乾燥し、前記流延膜の側縁の通過ラインよりも前記流延支持体の幅方向における内側に配され、前記流延支持体の走行路に沿って延びた1対の流延面側遮風部材により、前記流延膜の膜面近傍から前記流延支持体の両側部の露出部分への前記気体の流れ出しを抑制し、前記流延膜が形成されている前記流延支持体を、非流延面側から加熱し、前記1対の流延面側遮風部材よりも前記流延支持体の幅方向における中央寄りとなるように前記加熱手段の両側に設けられ、前記流延支持体の走行路に沿って延びた1対の伝熱抑制手段により、前記非流延面の両側部への熱の伝わりを抑制することを特徴として構成されている。
【0018】
前記流延支持体の走行方向に並ぶように複数設けられ、下流に向かうに従い距離が小さくなるように配された前記1対の伝熱抑制手段により、前記前記非流延面の加熱すべき領域の幅を下流に向かうに従い狭めることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、溶液製膜によるフィルムの製造効率を上げるために、流延膜のさらなる乾燥速度の向上を図りつつも、流延膜の発泡を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】溶液製膜設備の概略図である。
【図2】流延装置の概略図である。
【図3】第1の流延面側給排気ユニット及び第1の非流延面側給排気ユニットの側面概略図である。
【図4】第1の流延面側給排気ユニット及び第1の非流延面側給排気ユニットの遮風板の平面概略図である。
【図5】図3及び図4のV−V線に沿う断面図である。
【図6】対を成す各遮風板の距離についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の第1の実施態様は、図1に示す溶液製膜設備10により実施することが好ましい。溶液製膜設備10は、流延装置15と、第1テンタ17と、ローラ乾燥装置21と、第2テンタ23と、スリッタ26と、巻取装置27とを、上流側から順に備える。
【0022】
流延装置15は、ポリマーが溶剤に溶解したドープ11からポリマーフィルム(以降、単に「フィルム」と称する)12を形成する。第1テンタ17は、フィルム12の各側部を保持手段16で保持しながらフィルム12の乾燥をすすめる。ローラ乾燥装置21は、フィルム12を複数のローラ20で支持しながら乾燥する。第2テンタ23は、フィルム12の各側部を保持手段22で保持し、フィルム12に対して幅方向での張力をフィルム12に付与する。スリッタ26は、第1テンタ17の保持手段16と第2テンタ23の保持手段22とにより保持された各側部の保持跡を切除する。巻取装置27は、フィルム12を巻き芯に巻いてロール状にする。
【0023】
なお、本明細書においては、溶剤含有率(単位;%)は乾量基準の値であり、具体的には、溶剤の質量をx、フィルム12の質量をyとするときに、{x/(y−x)}×100で求める百分率である。
【0024】
流延装置15の詳細と、流延装置によりドープ11からフィルム12を形成する流延工程の詳細とは、別の図面を用いて後述する。
【0025】
流延膜36は、剥取ローラ37(図2参照)で剥ぎ取られる。剥ぎ取られた流延膜36、すなわちフィルム12は、第1テンタ17に案内される。なお、流延装置15と第1テンタ17との間の搬送路には、送風装置(図示無し)を配してもよい。この送風装置からの送風により、フィルム12の乾燥をすすめる。
【0026】
第1テンタ17は、フィルム12を保持手段16で保持して長手方向に搬送しながら、幅方向での張力を付与し、フィルム12の幅を拡げる。第1テンタ17の保持手段16は、クリップとしてある。第1テンタ17には、上流側から順に、予熱エリア、延伸エリア、及び緩和エリアを形成してある。なお、緩和エリアは無くてもよい。
【0027】
第1テンタ17は、1対のレール(図示無し)及びチェーン(図示無し)を備える。レールはフィルム12の搬送路の両側に設置され1対のレールは所定の間隔で離間して配される。このレール間隔は、予熱エリアでは一定であり、延伸エリアでは下流に向かうに従って次第に広くなり、緩和エリアでは一定である。なお、緩和エリアのレール間隔は、下流に向かうに従って次第に狭くなるようにしてもよい。延伸エリアでは、レール間隔が次第に広がることにより、フィルム12は搬送されるに従い幅方向に広がるように延伸される。緩和エリアでは、レール間隔が一定あるいは次第に狭くなることにより、幅方向の張力が緩められ、延伸エリアでの延伸工程で生じた内部応力が緩和(応力緩和)される。
【0028】
チェーンは、原動スプロケット及び従動スプロケット(図示無し)に掛け渡され、レールに沿って移動自在に取り付けられている。複数の保持手段16は、チェーンに所定の間隔で取り付けられている。原動スプロケットの回転により、保持手段16はレールに沿って循環移動する。
【0029】
保持手段16は、第1テンタ17の入口近傍で、案内されてきたフィルム12の保持を開始し、出口に向かって移動して、出口近傍で保持を解除する。保持を解除した保持手段16は再び入口近傍に移動して、新たに案内されてきたフィルム12を保持する。
【0030】
予熱エリア、延伸エリア、緩和エリアは、ダクト18からの乾燥風の送り出しによって空間として形成されたものであり、明確な境界があるわけではない。ダクト18はフィルム12の搬送路の上方に設けられる。ダクト18は、乾燥風を送り出すスリットを有し、送風機(図示無し)から供給される。送風機は、所定の温度や湿度に調整した乾燥風をダクト18に送る。スリットがフィルム12の搬送路と対向するようにダクト18は配される。各スリットはフィルム12の幅方向に長く伸びた形状であり、搬送方向で互いに所定の間隔をもって形成されている。なお、同様の構造を有するダクトを、フィルム12の搬送路の下方に設けてもよいし、フィルム12の搬送路の上方と下方との両方に設けてもよい。
【0031】
この第1テンタ17で、フィルムは搬送されながら、ダクト18からの乾燥風により乾燥をすすめられるとともに、保持手段16により幅を所定のタイミングで変えられる。
【0032】
なお、延伸エリアにおけるフィルム12の溶剤含有率は、7質量%以上30質量%以下であることが好ましい。延伸処理における延伸率ER1(={(延伸後の幅)/(延伸前の幅)}×100)は、5%より大きく30%以下であることが好ましい。延伸処理におけるフィルム12の温度は、80℃以上160℃以下であることが好ましい。
【0033】
ローラ乾燥装置21の内部の雰囲気は、温度や湿度などが図示しない空調機により調節されている。ローラ乾燥装置21では、多数のローラ20にフィルム12が巻き掛けられて搬送される。ローラ乾燥装置21においても、フィルム12から溶剤が蒸発する。ローラ乾燥装置21では、溶剤含有率が5質量%以下となるまで、乾燥工程が行うことが好ましい。
【0034】
なお、ローラ乾燥装置21から出たフィルム12がカールしている場合には、ローラ乾燥装置21と第2テンタ23との間に、カールを矯正してフィルム12を平らにするカール矯正装置(図示無し)を設けてもよい。
【0035】
第2テンタ23は、フィルム12を幅方向に広げるように延伸する。この延伸により、目的とする光学特性をもつフィルム12となる。得られるフィルム12は位相差フィルムとして利用することができる。第2テンタ23は、第1テンタ17と同様の構造を有する。なお、第2テンタ23に設けられるダクト24は、スリット(図示せず)から、所定の温度に加熱された乾燥風を流出し、フィルム12に向かって流れる。第2テンタ23の保持手段160も第1テンタ17と同様にクリップとしてある。
【0036】
第2テンタ23での延伸における延伸率ER2(={(延伸後の幅)/(延伸前の幅)}×100)は、10%より大きく40%以下であることが好ましい。延伸開始時におけるフィルム12の溶剤含有率は、3質量%以下であることが好ましい。延伸におけるフィルム12の温度は、130℃以上200℃以下であることが好ましい。
【0037】
製造目的とするフィルム12の光学特性によっては、第2テンタ23は用いずともよい。例えば、第1テンタ17による延伸で、目的とする光学特性が発現する場合には第2テンタ23は用いずともよい。
【0038】
第2テンタ23の下流のスリッタ26は、フィルム12が案内されてくると、第1テンタ17や第2テンタ23の各保持手段16,22による保持跡を含む側部を切除する。側部を切除したフィルム12を巻取装置27に送り、ロール状に巻き取る。なお、流延装置15と第1テンタ17との間や、第1テンタ17とローラ乾燥装置21との間にも、スリッタを設けてもよい。
【0039】
流延装置15の概略について、図2を参照しながら説明する。流延装置15は、環状に形成された無端の流延支持体であるバンド30と、周方向に回転する第1ローラ31と第2ローラ32とを備える。バンド30は、第1ローラ31と第2ローラ32との周面に巻き掛けられる。第1,第2ローラ31,32の少なくともいずれか一方が、駆動手段を有する駆動ローラであればよい。この駆動ローラが周方向に回転することにより、周面に接するバンド30が搬送される。この搬送により、バンド30は、循環して長手方向に連続走行する。なお、第1ローラ31から第2ローラ32に向かうバンド30の走行路の下にローラ33を設け、バンド30を下方から支持することが好ましい。この支持により、バンド30の走行経路が一定に保持される。ローラ33は、図2においてはひとつだけ図示してあるが、バンド30の走行路に沿って複数配してもよい。
【0040】
バンド30の上方にはドープ11を流出する流延ダイ35が備えられる。搬送されているバンド30に流延ダイ35からドープ11を連続的に流出することにより、ドープ11はバンド30上で流延されて流延膜36が形成される。なお、ドープ11がバンド30に接触を開始する位置を、以下、流延位置PCと称する。
【0041】
第1ローラ31と第2ローラ32とは、それぞれ周面温度を制御する温度コントローラ(図示せず)を備える。第1ローラ31は、周面温度が所定の範囲となるように冷却する。第1ローラ31を冷却することにより、バンド30は1周する毎に冷却される。これにより、連続走行して後述の第1の流延面側給排気ユニット41と第2の流延面側給排気ユニット42と第3の流延面側給排気43とにより加熱され続けても、バンド30の両側部30s(図3参照)の温度上昇がより確実に防止される。流延ダイ35は、第1ローラ31上のバンド30の上方に設けており、流延位置PCは第1ローラ31上としている。第2ローラ32は、周面温度が所定の範囲となるように加熱する。第2ローラ32を加熱することにより、流延膜36はより効果的に乾燥する。
【0042】
第1ローラ31の周面温度は、3℃以上30℃以下の範囲にすることが好ましく、5℃以上25℃以下の範囲にすることがより好ましく、8℃以上20℃以下の範囲にすることがさらに好ましい。第2ローラ32の周面温度は、20℃以上50℃以下の範囲にすることが好ましく、25℃以上45℃以下の範囲にすることがより好ましく、30℃以上40℃以下の範囲にすることがさらに好ましい。
【0043】
流延ダイ35は、第1ローラ31上にあるバンド30の上方に設ける態様に限定されない。例えば、第1ローラ31から第2ローラ32へ向かうバンド30の上方に設けてもよい。この場合には、第1ローラ31から第2ローラ32へ向かうバンド30の流延すべき位置の下方にもローラ33を配し、このローラ33により支持されているバンド30の上方に流延ダイ35を配することが好ましい。
【0044】
流延ダイ35からバンド30に至るドープ11、いわゆるビードに関して、バンド30の走行方向における上流には、減圧チャンバが設けられるが図示は略す。この減圧チャンバは、流出したドープ11の上流側エリアの雰囲気を吸引して前記エリアを減圧する。この減圧により、ビードの態様が安定し、ドープ11の流延が安定して連続的に為される。
【0045】
流延膜36を、第1テンタ17への搬送が可能な程度にまで固くしてから、溶剤を含む状態でバンド30から剥がす。剥ぎ取りは、溶剤含有率が好ましくは20質量%以上50質量%以下の範囲、さらに好ましくは25質量%以上45質量%以下の範囲で行うことがより好ましい。50質量%という低い溶剤含有率に達してから剥ぎ取ることで、50質量%よりも大きい溶剤含有率で剥ぎ取る場合に比べて、遅相軸の方向をより確実に均一にすることができる。また、20質量%以上で剥ぎ取る場合には、20質量%未満で剥ぎ取る場合に比べて、製造効率をより確実に向上させることができる。
【0046】
剥ぎ取りの際には、フィルム12を剥ぎ取り用のローラ(以下、剥取ローラと称する)37で支持し、流延膜36がバンド30から剥がれる剥取位置PPを一定に保持する。剥取ローラ37は、駆動手段を備え周方向に回転する駆動ローラであってもよい。なお、剥ぎ取りは、第1ローラ31上のバンド30で実施する。バンド30は循環して剥取位置PPから流延位置PCに戻ると再び新たなドープ11が流延される。
【0047】
以降の説明においては、バンド30の両面のうち、ドープ11が流延されて流延膜36が形成される面を流延面と称し、流延面とは反対側の面を非流延面と称する。また、バンド30の走行路のうち、流延位置PCから剥取位置PPまでの領域を流延膜形成領域と称する。
【0048】
流延位置PCから剥取位置PPに向かうバンド30の流延面側には、バンド30の走行路に沿って上流側から順に、第1の流延面側給排気ユニット41、第2の流延面側給排気ユニット42、第3の流延面側給排気ユニットを配してある。
【0049】
バンド30の走行路のうちバンド30の流延面が上を向いて走行する第1走行領域は、流延膜形成領域のうち上流域を含む。また、バンド30の走行路のうちバンド30が流延面を下に向けて走行する第2走行領域は、流延膜形成領域のうち下流域を含む。
【0050】
第1の流延面側給排気ユニット41は、流延膜形成領域のうちの上流域に配される。第2の流延面側給排気ユニット42は、バンド30の第1走行領域から第2走行領域にかけて配される。すなわち第2の流延面側給排気ユニット42は、流延膜形成領域の上流域から下流域にかけて配される。第3の流延面側給排気ユニット43は、流延膜形成領域の下流域に配される。
【0051】
第1の流延面側給排気ユニット41は、第1給気部61と、排気部63と、第2給気部76と、遮風板62とを備える。第1給気部61は、流延膜36の膜面に対して垂直な向きで気体を供給する。第2給気部76は、通過する流延膜36に対して追い風として流延膜36の上方を流れるように気体を出す。排気部63は、流延膜36周辺の雰囲気を吸引する。遮風板62は、流延面側における遮風部材である。第1の流延面側給排気ユニット41については、別の図面を用いて後述する。この第1の流延面側給排気ユニット41は、流延膜36に対して、第1給気部61による垂直な向きの給気を主として行う。なお、第1の流延面側給排気ユニット41の詳細については、別の図面を用いて後述する。
【0052】
第2の流延面側給排気ユニット42は、乾燥した気体を流出する給気部46と、気体を吸引して排気する排気部47と、コントローラ48と、遮風板54とを備える。コントローラ48は、給気部46に気体を送り、その気体の温度、湿度、給気部46からの流量、排気部47での吸引力を独立して調整する。第3の流延面側給排気ユニット43も、第2の流延面側給排気ユニット42と同様の構成及び作用をもつ給気部49と排気部50とコントローラ51とを備える。
【0053】
給気部46、49は、バンド30の第2走行領域のうち、剥取位置PPよりも上流に配してある。排気部47は給気部46の上流に、排気部50は給気部49の上流に、それぞれ配される。なお、排気部50は、バンド30の第1走行領域に配してある。気体が流出する給気部46,49の各流出口46a,49aと、気体を吸引する排気部47,50の各吸引口47a,50aとは、ともに、バンド30の幅方向に延びたスリット状の開口である。流出口46a,49aがバンド30の走行方向における上流側に向くように、給気部46,49は配される。吸引口47a,50aがバンド30に対向するように、排気部47,50は配される。なお、本実施形態では、吸引口47a,50aをバンド30に正対させてあるが、対向していればよい。
【0054】
以上のように給気部46,49と排気部47,50とを配することにより、給気部46,49からの気体は、搬送されて通過する流延膜36の膜面に対して並行な対向流で流れる。対向流とすることで、追い風よりも効率的に流延膜36が乾燥される。
【0055】
第2ローラ32から剥取位置PPに向かうバンド30は、下方を向くバンド面上に流延膜36が形成されているために、支持手段による下方からの支持ができない。したがって、第2ローラ32から剥取位置PPに向かうバンド30は、自重で、下方に凸の走行経路を採る。また、乾燥効率の点では、流延膜36に対して垂直な向きに気体を吹き付ける方が、並行流の場合よりも優れる。しかし、乾燥効率を並行流よりも高めることができるほどの流量で、垂直な向きに気体を吹き付けるためには、流延膜36の下方に多くの給気手段を設ける必要があり、給気手段を多く配するほど、給気手段とバンド30との接触の懸念が高まる。そこで、給気部46,49を、ともに、第2ローラ32から剥取位置PPに向かうバンド30の下方に配し、第2ローラ32から剥取位置PPに向かう流延膜36については、並行な対向流の気体で乾燥する。
【0056】
ただし、流延膜36の膜面に対して並行流の気体を流すための給排気ユニットの数は、本実施形態のように2に限定されず、1または3以上であってもよい。
【0057】
本実施形態では、第2の流延面側給排気ユニット42と第3の流延面側給排気ユニット43とを、コントローラ48とコントローラ51とによりそれぞれ独立して制御しているが、ひとつのコントローラ(図示)により独立して制御してもよい。
【0058】
給気部46,49からの気体は、コントローラ48,51により加熱されてある。このように加熱された温風を流延膜36上に流すことにより、流延膜36を加熱し、乾燥をすすめる。
【0059】
第2の流延面側給排気ユニット42はさらに遮風板54を備え、第3の流延面側給排気ユニット43もさらに遮風板55を備える。遮風板54,55は、非流延面側における遮風部材である。遮風板54,55は、給気部46から排気部47への気体の流れの方向、給気部49から排気部50への気体の流れの方向をより制御する。この制御により、流延膜36の膜面に対して並行な対向流がより確実に保持され、流延膜36の乾燥の効率化がより確実になる。
【0060】
流延位置PCから剥取位置PPに向かうバンド30の非流延面側には、上流側から順に、第1〜第3の非流延面側給排気ユニット81〜83を備えてある。第1の非流延面側給排気ユニット81と第2の非流延面側給排気ユニット82とは流延膜形成領域の上流域に、第3の流延面側給排気ユニット43は流延膜形成領域の下流域に、配してある。
【0061】
なお、非流延面30b側にも遮風板87,89,101〜103が、バンド30の走行方向に並ぶように配されてある。遮風板87,89,101,102,103はそれぞれ、非流延面30b側の両側に1対以上配される。第1の非流延面側給排気ユニット81は、遮風板87を有し、第2の非流延面側給排気ユニット82は、第1の非流延面側給排気ユニット81の遮風板87と同様の遮風板89を有する。
【0062】
図2では、流延膜形成領域の上流域には、バンド30の非流延面30b(図3参照)側に、図示の煩雑化を避けるため及び説明の便宜上、2つの給排気ユニット81,82を図示してある。流延膜形成領域の上流域でのバンド30を下方から支持するローラ33の数等に応じて、非流延面30b側の給排気ユニットのバンド走行方向における長さや数等は決定すればよい。すなわち、流延膜形成領域の上流域における給排気ユニットの数は2に限定されない。下流域の給排気ユニットについても同様に、バンド走行方向における長さや数等は適宜決定すればよい。
【0063】
第1の流延面側給排気ユニット41及び第1の非流延面側給排気ユニット81について、図3〜図5を参照しながら説明する。第2の非流延面側給排気ユニット82、第3の非流延面側給排気ユニット83の構成及び作用は第1の非流延面側給排気ユニット81と基本的に同じであるので、説明は略す。なお、図の煩雑化を避けるために、図4,図5では第1ローラ31及びローラ33の図示は略す。
【0064】
バンド30の流延面30a側に配される第1の流延面側給排気ユニット41は、給気部61と、遮風部材としての遮風板62と、排気部63とを備える。給気部61は、給気部61は、バンド30の上に形成された流延膜36の膜面に対して垂直な方向に、気体を吹き付ける。図4に示すように、流延ダイ35に形成されてあるスリット状のドープ流出口35aの長さは、バンド30の幅よりも小さい。これにより、バンド30の側部30sが露出するように、流延膜36はバンド30の幅方向における中央部30cに形成される。遮風板62は、流延膜36の膜面近傍からバンド30の流延面30aの露出部分である側部30sへの気体の流れ出しを抑制する。排気部63は、流延膜36周辺の雰囲気を吸引する。これらの給気部61,遮風板62,排気部63のそれぞれについて以下に詳細に説明する。
【0065】
給気部61は、給気ダクト66と、給気ダクト66に設けた複数のノズル67と、送風機68と、送風コントローラ69とを有する。送風機68は、給気ダクト66に気体を送り出す。送風コントローラ69は、送風機68から給気ダクト66へ送り出す気体の温度、湿度、流量を制御する。この制御によりノズル67からの気体の流量及び流速を調整する。気体は送風コントローラ69により加熱され、この加熱された気体を温風として流延膜36に吹き付けることにより、流延膜36の乾燥をすすめる。
【0066】
給気ダクト66は、通過する流延膜36を覆うように、底面66aがバンド30に対向する箱状のダクトである。複数のノズル67は、バンド30の走行方向に、間隔をもって並ぶように配される。各ノズル67は、バンド30の幅方向に長い形状とされ、先端をバンド30に向けて、給気ダクト66の底面66aに突出して設けられる。バンド30に対向する先端に、給気ダクト66の中の気体を外部に出す開口67aが形成されてある。開口67aは、バンド30の幅方向に長いスリット状である。
【0067】
バンド30に対向する開口67aから気体を送ることにより、流延膜36の膜面に対して垂直な向きで気体を送ることができる。気体を垂直な向きで吹き付けることにより、膜面に並行な流れで吹き付けるよりも、効率よく流延膜36を乾燥することができる。このため、フィルム12の製造効率が向上する。なお、垂直な向きで気体を送るためには、ノズル67からの送風でなくてもよく、例えば、給気ダクト66の底面66aに開口(図示せず)を形成して、この開口からの送風であってもよい。
【0068】
また、膜面に気体を垂直な向きで吹き付けることで乾燥効率が高まり、これにより、剥ぎ取り時における流延膜36、すなわち剥取位置PPにおける流延膜36の溶媒含有率をより低く下げることができる。剥取位置PPにおける流延膜36の溶媒含有率が20質量%以上50質量%以下の範囲となるように流延膜36の乾燥をすすめることが好ましい。
【0069】
開口67aの形状は、スリット状とすることが好ましいが、必ずしもスリットでなくてもよい。例えば、ノズル67の先端に、円形あるいは矩形の複数の開口(図示せず)をバンド30の幅方向に並ぶように形成してもよい。
【0070】
図4,図5では、開口67aの長さを、離間してバンド30の両側に設けた1対の遮風板62の距離よりも短く図示してある。しかし、ノズル67の開口67aを、1対の遮風板62の距離よりも長く形成しておいて、開口67aの遮風板62よりも外側を塞ぐことにより、1対の遮風板62の距離よりも短くして使用してもよい。
【0071】
本実施形態では、給気ダクト66を、バンド30の走行路に沿って複数並べて設けてあるが、第2ローラ32に至るようにバンド30の走行方向に長く延びたひとつの給気ダクトを用い、この給気ダクトに多数のノズルを設けてもよい。また、本実施形態における個々の給気ダクト66には、6つのノズル67を設けてあるが、ノズル67の数は特に限定されない。
【0072】
給気ダクト66からの気体の温度は、流延膜36の温度よりも高くしてある。これにより、流延膜36の乾燥効率はより確実に高まる。なお、本実施形態では、流延膜36の搬送路の上方に、非接触で流延膜36の温度を測定する温度測定機(図示せず)を配し、この温度測定機により流延膜36の温度を検出する。温度測定機としては、公知の各種温度測定機を用いることができ、特に限定されない。
【0073】
ノズル67からの気体の吹き出しの速度、すなわち流速は、5m/秒以上25m/秒以下の範囲とすることが好ましい。5m/秒以上の流速とすることで、流延膜36の乾燥効率はより確実に高まる。また、25m/秒以下の流速とすることで、流延膜36の発泡をより確実に防ぐことができたり、表面の平滑なフィルム12をより確実に得ることができる。
【0074】
第1の流延面側給排気ユニット41の遮風板62は、バンド30の走行路に沿って延びており、流延膜36の側縁の通過ラインよりもバンド30の幅方向における内側に、起立した姿勢で配される。これにより、給気ダクト66からの加熱された気体が流延膜36の膜面近傍からバンド30の露出部分である側部30sへ流れ出すことを、抑制する。加熱気体の側部30sへの流れ出しを抑制することで、側部30sの温度上昇が抑制される。このため、バンド30の側部30sの温度上昇によるフィルムの側端部の温度上昇が抑制され、発泡が生じなくなる。
【0075】
遮風部材としては、遮風板62に代えて、流延膜36の側縁36eからバンド30の側部30sにかけての領域を底面で覆うようなブロック形状のものを用いてもよい。
【0076】
バンド30の流延面30aを高さの基準として、遮風板62は、給気ダクト66よりも低く設けられている。つまり、遮風板62のバンド30から最も遠い縁部の高さは、給気ダクト66の底面の高さよりも低い。したがって、図2に示すように、給気ダクト66の底面66aに配されているノズル67は、バンド30の側方から見たときに、遮風板62に覆われずに、遮風板62と給気ダクト66との間に見える。このように、ノズル67とノズル67との各間の空間は、遮風板62と給気ダクト66との間を介して、遮風板62の上方あるいは側方の空間に通ずる。したがって、流延膜36の膜面近傍の空間は、遮風板62の上方あるいは側方の空間との、空間的に接続し、これにより、給気ダクト66からの気体は、流延膜36や遮風板62の内壁に当たると、遮風板62の上方や側方へ案内される。
【0077】
流延膜36の両側縁36e近傍の配される1対の遮風板62に挟まれる空間は、遮風板62よりも側方の外部空間よりも、給気ダクト66からの給気により圧力が高く、さらに、前述のように、流延膜36の膜面近傍の空間と、遮風板62の上方あるいは側方の外部空間とは空間的に接続する。これらにより、流延膜36の周辺の雰囲気は、給気ダクト66から新たに流出される気体に迅速に置き換わるので、流延膜36の乾燥はより一層効率的にすすむ。
【0078】
遮風板62は、バンド30との距離D1が10mm以上50mm以下の範囲となるように配されることが好ましい。D1を10mm以上とすることで、遮風板62とバンド30との接触をより確実に防止することができる。D1を50mm以下とすることで、50mmよりも大きい場合に比べて、流延膜36の膜面近傍からバンド30の側部30sへの気体の流れ出しを、より確実に抑制する。
【0079】
遮風板62は、流延膜36の側縁36eの通過ラインよりも内側の上方に配する。これにより、流延膜36の膜面近傍からバンド30の側部30sへの気体の流れ出しを、より確実に抑制することができる。
【0080】
排気部63は、吸引ダクト72と、吸引機73と、排気コントローラ74とを有する。吸引機73は、気体を吸引する。排気コントローラ74は、吸引機73における吸引力を制御する。この制御により、吸引ダクト72に形成された開口72aからの気体の吸引力を調整する。気体は、排気コントローラ69により、清浄化され、排気される。
【0081】
複数の吸引ダクト72は、遮風板62よりも高い位置に設けられる。各吸引ノズルの各開口72aは、ノズル67とノズル67との間に対向する。このように、開口67aは、空間的に接続する流延膜36の膜面近傍の空間と遮風板62の上方あるいは側方の外部空間との間に配されるので、流延膜36周辺の雰囲気は、より迅速に、遮風板62の上方へ案内される。これにより、流延膜36周辺の雰囲気は、給気ダクト66からの新たな気体に、より迅速に置き換わり、流延膜36の乾燥がさらに効率的にすすむ。また、吸引ダクト72は、遮風板62よりも高い位置に設けられるので、流延膜36の膜面近傍からバンド30の側部30sの露出部分への気体の流れ出しが、より確実に抑制され、側部30sの温度上昇がより確実に防止される。
【0082】
なお、吸引ダクト72は、バンド30の表面の法線方向においては、遮風板62よりも高い位置になるように配されていればよい。例えば、本実施形態のように、開口72aの下端が、給気ダクト66の底面66aよりも低くなるように吸引ダクト72を配してもよいし、あるいは、吸引ダクト72の底面が給気ダクト66の底面66aと同じ高さであって開口72aの下端が給気ダクト66の底面66aよりも高くてもよい。また、吸引ダクト72は、バンド30の走行方向においては、ノズル67とノズル67との間に開口72aが位置するように配されていればよい。
【0083】
第1の流延面側給排気ユニット41は、給気部61の上流、すなわち流延位置PCと給気部61との間に、さらに第2給気部76を備えることが好ましい。第2給気部76は、図3に示すように、ノズル77と、送風機78と、送風コントローラ79とを有する。送風機78は、ノズル77に気体を送り出す。送風コントローラ79は、送風機78からノズル77へ送り出す気体の温度、湿度、流量を制御する。この制御によりノズル77からの気体の流量及び流速を調整する。気体は送風コントローラ79により加熱され、この加熱された気体を温風として流延膜36に吹き付けることにより、流延膜36の乾燥をすすめる。
【0084】
ノズル77は、開口77aがバンド30の走行方向における下流側に向くように配される。これにより、開口77aからの気体は、通過する流延膜36に対して追い風として流延膜36の上方を流れる。追い風となることで、ビードへの気流の影響が抑制される。ただし、開口77aの向きは、流延膜36側に多少傾いた向きでもよく、気体の流れが流延膜36へ追い風となれば、流延膜36の膜面に対して並行な流れでなくてもよい。
【0085】
ノズル77からの気体は、給気ダクト66の底面と流延膜36との間に流れ込み、そのほとんどは、吸引ダクト72のうち最も上流側のひとつに吸引される。このように、第2給気部76を設け、形成直後から流延膜36の乾燥を行うことで、流延膜36の乾燥効率はさらに向上し、フィルム12の製造効率はさらに高まる。
【0086】
流延膜形成領域の上流域では、流延膜36が形成されてあるバンド30の中央部30cは、流延膜36からの溶媒の蒸発潜熱で温度が上がりにくい。そこで、第1の非流延面側給排気ユニット81及び第2の非流延面側給排気ユニット82(図2参照)を、流延膜36を加熱する加熱手段として設けてある。第1の非流延面側給排気ユニット81及び第2の非流延面側給排気ユニット82は、流延位置PCの下流に設けられ、バンド30を挟んで第1の流延面側給排気ユニット41に対向して配される。すなわち、第1の非流延面側給排気ユニット81及び第2の非流延面側給排気ユニット82は、バンド30の非流延面30bに対向して配される。
【0087】
第1の非流延面側給排気ユニット81は、第1の流延面側給排気ユニット41と同様に、加熱手段としての給気部86と、遮風部材としての遮風板87と、排気部88とを備える。
【0088】
給気部86と、排気部88との各構成は、第1の流延面側給排気ユニット41の給気部61と、排気部63と基本的に同じであるので、異なる点のみを以下に説明する。給気部86は、給気部61と同様に、給気ダクト90、給気ダクト90に設けた複数のノズル91、送風機92、送風コントローラ93とを有する。給気ダクト90及びノズル91は、バンド30に関して給気ダクト66及びノズル67と略対称に配されてあり、ノズルは、給気ダクト90の上面90aに形成されてある。ノズル91の開口91aは非流延面30bに正対する。ただし、ノズル67とノズル91とは、必ずしも正対する必要はなく、図3,4に示すように、バンド30の走行方向でずれた位置関係であってもよい。なお、図4では、図の煩雑化を避けるために給気ダクト90及び排気部88の図示は略してある。
【0089】
給気部86は、走行してきたバンド30のノズル91に対向する箇所に対して、流延膜36よりも高い温度の気体を吹き付ける。これにより、バンド30は非流延面30b側から加熱される。バンド30が加熱されることにより、バンド30上の流延膜36が加熱されて乾燥が促進する。乾燥促進の観点から、非流延面30bに対して垂直な方向に、気体を吹き付けることが好ましい。
【0090】
排気部88は、排気部63と同様に、吸引ダクト95と、吸引機96と、排気コントローラ97とを有する。
【0091】
遮風板87は、バンド30の非流延面30bに対向して、起立した姿勢で設けられる。遮風板87は、非流延面30bとの距離D3が、遮風板62と流延面30aとの距離D1と同様に、10mm以上50mm以下の範囲となるように配されることが好ましい。この遮風板87は、給気部86のノズル91から出る気体が側部30sの非流延面30bへ流れ出すことを抑制する。非流延面30b側の遮風板87は、バンド30の幅方向において、流延面30a側の遮風板62よりも中央寄りに配してある。これにより、側部30sの非流延面30bの昇温がより確実に抑制され、流延膜30の側端部の発泡がより確実に防止される。このように、遮風板87は、給気部86のノズル91から出る気体の流れを遮ることで、気体の熱が側部30sの非流延面30bに伝わることを抑制する伝熱抑制手段である。なお、側部30sの非流延面30bは、側部30sの流延面30aに対応しており、側部30sの流延面30aの裏側にあたる領域である。
【0092】
遮風板87は、その内壁と遮風板62の内壁との距離D4が5mm以上300mm以下の範囲となるように、遮風板62よりも中央寄りに配されることが好ましい。
【0093】
複数のノズル91は、給気ダクト90の非流延面に対向する対向面に設けられる。排気部の吸引ダクト95は、バンド30の走行方向においては、開口95aがノズル91とノズル91との間に対向するように、設けられる。排気部は、吸引ダクト95の開口から流延膜36周辺の雰囲気を吸引する。
【0094】
第2の非流延面側給排気ユニット82の遮風板89は第1の非流延面側給排気ユニット81の遮風板87の下流に配される。
【0095】
このように、第1の非流延面側給排気ユニット81と第2の非流延面側給排気ユニット82とを用いることにより、流延膜36が形成されているバンド30の中央部30cをより確実に暖めることができる。このため、側部30sの昇温を防止して流延膜36の側端部の発泡をより確実に防止しながらも、流延膜36の乾燥効率がさらに向上し、フィルム12の製造効率が上がる。
【0096】
第3の非流延面側給排気ユニット83は、遮風板101〜103(図1参照)を備える。図6に示すように、第1の流延面側給排気ユニット41の1対の遮風板62と、第2の流延面側給排気ユニット42の1対の遮風板54と、第3の流延面側給排気ユニット43の1対の遮風板55とは、互いに等しい間隔でバンド30の両側に配される。すなわち、一方の遮風板62と他方の遮風板62との距離をD62、一方の遮風板54と他方の遮風板54との距離をD54、一方の遮風板55と他方の遮風板55との距離をD55とするときに、D62とD54とD55とを互いに等しく(D62=D54=D55)してある。
【0097】
第1の非流延面側給排気ユニット81の1対の遮風板87と、第2の非流延面側給排気ユニット82の1対の遮風板101と、第3の非流延面側給排気ユニット83の各1対の遮風板102,103とは、いずれも遮風板62,54,55よりも狭い間隔でバンド30の両側に配される。すなわち、一方の遮風板87と他方の遮風板87との距離をD87、一方の遮風板89と他方の遮風板89との距離をD89、一方の遮風板101と他方の遮風板101との距離をD101、一方の遮風板102と他方の遮風板102との距離をD102、一方の遮風板103と他方の遮風板103との距離をD103とするときに、D87とD89とD101とD102とD103とを、D62とD54とD55とよりも小さくしてある。なお、第3の非流延面側給排気ユニット83は、対を成す各遮風板101〜103の間に気体を送るように、各ノズルの開口の長手方向の長さが調節されてある。したがって、一方の遮風板101と他方の遮風板101との間、一方の遮風板102と他方の遮風板102との間、一方の遮風板103と他方の遮風板103との間がそれぞれ給気される領域となり、この領域のバンド30の非流延面30bが第3の非流延面側給排気ユニット83により加熱される。このように、非流延面30bの加熱すべき領域の幅を下流に向かうに従い狭めることが好ましい。
【0098】
流延位置PCから剥取位置PPに向かって並ぶように配され、それぞれ対を成す遮風板87、遮風板101,102,103は、この順で間隔を狭めるように配してあることが好ましい。すなわち、D87>D101>D102>D103であり、各遮風板87,101〜103は、下流に向かうに従い、この順で中央寄りになるように配してあることが好ましい。このように配した遮風板87,101〜103により、非流延面30b側から加熱されるバンド30の加熱領域の幅が剥取位置に向かうに従い徐々に狭くなる。これにより、流延膜36の側端部における発泡がより確実に防止される。なお、1対の遮風板89の距離D89は、本実施形態では1対の遮風板87の距離D87と同じにしてあるが、D87より小さくてもよい。
【0099】
本実施形態では、非流延面30b側の加熱手段として加熱した気体を出す給気部86を用いたが、これに限定されず、他の加熱手段を用いてもよい。また、非流延面30b側の伝熱抑制手段として遮風板87,101〜103を用いたが、これに限定されず、他の伝熱抑制手段を用いてもよい。加熱手段としては、輻射熱を発する輻射熱装置(図示無し)や、温水が供給されてその温水の熱でバンド30を非流延面30b側から加熱する温水加熱装置(図示無し)がある。温水加熱装置としては、例えば、バンド30の非流延面側30bに周面が接するように配され、内部に温水の流路が形成されたローラ(図示無し)がある。このローラは、所定の温度に加熱された水(温水)が供給される供給口と、外部へ温水を出すための排出口とが形成されたものがある。このローラは、長手方向がバンド30の幅方向に一致するように配される。加熱手段として輻射熱装置を用いた場合には、遮風板87,101〜103と同様に板等を配することで、伝熱が抑制される。加熱手段として温水加熱装置を用いた場合には、遮風板87,101〜103を用いる必要は無い。この場合には、例えば、上記のローラを、流延位置PCから剥取位置PPへ至る範囲に複数並ぶように配し、剥取位置PPに近いローラほど、長さが短いものにするとよい。
【0100】
本発明は、バンド30の幅が広いほど効果があり、製造するフィルムの幅が広い場合ほど効果がある。また、幅が1000mm〜2300mmの範囲のフィルム、厚みが20〜80μmの範囲のフィルムを製造する場合に特に効果がある。
【0101】
本発明は、液晶ディスプレイ等の位相差フィルムとして用いるフィルムを製造する場合に特に好ましい。
【0102】
セルロースアシレートは特に限定されない。セルロースアシレートのアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基を有していても良い。アシル基が2種以上であるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものが好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。
【0103】
(I) 2.0≦A+B≦3.0
(II) 1.0≦ A ≦3.0
(III) 0 ≦ B ≦2.0
【0104】
アシル基の全置換度A+Bは、2.20以上2.90以下であることがより好ましく、2.40以上2.88以下であることが特に好ましい。また、炭素原子数3〜22のアシル基の置換度Bは、0.30以上であることがより好ましく、0.5以上であることが特に好ましい。中でも、本発明は、セルロースアシレートとしてセルロースジアセテート(DAC)を用いた場合に特に大きな効果がある。
【符号の説明】
【0105】
10 溶液製膜設備
11 ドープ
12 フィルム
15 流延装置
30 バンド
41〜43 第1〜第3の流延面側給排気ユニット
42,43 第1,第2の下流域給排気ユニット
61,76,46,49 給気部
91 ノズル
54,55,62,87,101〜103 遮風板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に形成されたベルト状の流延支持体の流延面にドープを流延して流延膜とし、この流延膜を剥ぎ取る剥取位置からドープが流延される流延位置へ戻るように前記流延支持体が循環して連続走行する流延装置において、
前記流延位置から前記剥取位置に向かう前記流延支持体の前記流延面側に、前記流延膜よりも高い温度の気体を送り出す流延面側給気手段と、
前記流延支持体の走行路に沿って延びており、前記流延膜の側縁の通過ラインよりも前記流延支持体の幅方向における内側に配されて、前記流延膜の膜面近傍から前記流延支持体の両側部の露出部分への前記気体の流れ出しを抑制する1対の流延面側遮風部材と、
前記流延位置から前記剥取位置に向かう前記流延支持体の非流延面に対向して設けられ、前記流延支持体を前記非流延面側から加熱する加熱手段と、
前記流延支持体の走行路に沿って延びており、前記1対の流延面側遮風部材よりも前記流延支持体の幅方向における中央寄りとなるように前記加熱手段の両側に設けられ、前記非流延面の両側部への熱の伝わりを抑制する1対の伝熱抑制手段とを備えることを特徴とする流延装置。
【請求項2】
前記1対の伝熱抑制手段が前記流延支持体の走行方向に並ぶように複数設けられ、
前記剥取位置に向かうほど、対を成す前記伝熱抑制手段の間隔が狭められたことを特徴とする請求項1記載の流延装置。
【請求項3】
前記加熱手段は、前記非流延面に対向して形成された開口から、前記流延支持体に対して前記流延膜よりも高い温度の気体を出す非流延面側給気手段であり、
前記伝熱抑制手段が、前記非流延面の両側部への前記気体の流れ出しを抑制する非流延面側遮風部材であることを特徴とする請求項1または2記載の流延装置。
【請求項4】
前記非流延面側給気手段は、前記流延支持体の非流延面に対して垂直な方向で前記気体を出すことを特徴とする請求項3記載の流延装置。
【請求項5】
前記加熱手段と前記伝熱抑制手段とは、前記流延位置から前記剥取位置までの領域のうち下流側に設けられてあることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の流延装置。
【請求項6】
長手方向に連続走行する環状の流延支持体にドープを流延して流延膜を形成し、前記流延支持体から前記流延膜を剥がして乾燥し、前記流延膜を剥がした前記流延支持体にドープを再び流延する溶液製膜方法において、
前記流延膜の温度よりも高い温度の気体を前記流延膜の膜面に供給して前記流延膜を乾燥し、
前記流延膜の側縁の通過ラインよりも前記流延支持体の幅方向における内側に配され、前記流延支持体の走行路に沿って延びた1対の流延面側遮風部材により、前記流延膜の膜面近傍から前記流延支持体の両側部の露出部分への前記気体の流れ出しを抑制し、
前記流延膜が形成されている前記流延支持体を、非流延面側から加熱し、
前記1対の流延面側遮風部材よりも前記流延支持体の幅方向における中央寄りとなるように前記加熱手段の両側に設けられ、前記流延支持体の走行路に沿って延びた1対の伝熱抑制手段により、前記非流延面の両側部への熱の伝わりを抑制することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項7】
前記流延支持体の走行方向に並ぶように複数設けられ、下流に向かうに従い距離が小さくなるように配された前記1対の伝熱抑制手段により、前記非流延面の加熱すべき領域の幅を下流に向かうに従い狭めることを特徴とする請求項6記載の溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−143989(P2012−143989A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4992(P2011−4992)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】