説明

流路形成部材、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】液体の流速低下による気泡の排出不良を防止できる流路形成部材、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】流体貯留手段のインクをヘッド本体に供給する流体流路を有する流路形成部材であって、流体流路は、液体貯留手段から供給されたインクを水平方向Xに流通させる第1流路51と、第1流路51に連通し、第1流路51からのインクを鉛直方向Zに流通させる第2流路52とを備え、第1流路51の断面形状は、第1流路51の鉛直方向の上面51aが鉛直方向の下方に向けて屈曲したサイクロイド曲線Rを含み、第1流路51のサイクロイド曲線Rに沿って形成された曲面が第2流路52の内面52aに連続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路形成部材、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特に液体としてイ
ンクをヘッド本体に供給する流路形成部材、当該インクを吐出するインクジェット式記録
ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドは、ノズル開口と連通する圧
力発生室に圧力変化を生じさせてノズル開口からインク滴を吐出させるヘッド本体と、流
路形成部材とを備えている。流路形成部材は、液体貯留手段であるインクカートリッジに
貯留されたインクが供給され、当該インクをヘッド本体に供給する。
【0003】
流路形成部材は、インクが流通する液体流路を有している。当該液体流路は、インクを
水平方向に流通させる第1流路と、当該第1流路と交差する方向にインクを流通させる第
2流路とを備えている。流路形成部材の第1流路は、第2流路との接合部に向けて、第1
流路の高さが漸減するようにテーパー状に形成されている。第1流路をこのような形状に
することで、インクは、水平方向の第1流路から鉛直方向の第2流路に方向転換され、第
2流路に円滑に流入する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、流路形成部材には、液体流路の一部にフィルターが設けられ、インク中の異物や
気泡をフィルターで除去することができるように構成されている。このフィルターにトラ
ップされた気泡が集まってより大きな気泡となると、フィルターの有効面積が減り、イン
クの供給量に影響を及ぼす虞がある。このため、気泡を排出するクリーニングが定期的に
行われている。クリーニング方法は、例えば、ノズル開口が設けられたノズルプレート全
体を封止して負圧を形成し、その負圧でノズル開口からインクと共に気泡を外部に排出す
ることにより行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−216914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第1流路のインクの流速は、第1流路の中心側では速く、第1流路の壁面側では遅い。
特に、第1流路のテーパー状の部分の壁面近傍におけるインクの流速は著しく低下する。
第1流路と第2流路との接合部を球面状に形成した場合でも同様である。
【0007】
このように第1流路と第2流路との接合部において、壁面側のインクの流速が低下する
と、インクに含まれる気泡が接合部で滞留し、クリーニングを行っても気泡を外部に排出
できなくなる虞がある。
【0008】
なお、このような問題は、クリーニング時だけではなく、上述した第1流路及び第2流
路を備える液体流路からインクと共に気泡を排出させる場合においても同様に存在する。
また、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体
を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑み、液体の流速低下による気泡の排出不良を防止できる流
路形成部材、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、液体の供給を受けて、供給された液体が流通する流体流
路を有する流路形成部材であって、前記流体流路は、前記供給された液体を流通させる第
1流路と、前記第1流路に連通し、前記第1流路からの液体を当該第1流路と交差する方
向に流通させる第2流路とを備え、液体の進行方向における前記第1流路の断面形状は、
当該第1流路の鉛直方向の上面が鉛直方向の下方に向けて屈曲したサイクロイド曲線を含
み、前記第1流路の前記サイクロイド曲線に沿って形成された曲面が前記第2流路の内面
に連続していることを特徴とする流路形成部材にある。
かかる態様では、液体を水平方向に流通させる第1流路と、液体を第1流路と交差する
方向に流通させる第2流路との接続部分はサイクロイド曲線状に形成される。当該接続部
分をサイクロイド曲線状に形成したことで、当該接続部分近傍で液体の流速が低下するこ
とが防止されている。したがって、当該接続部分に気泡が到達しても、液体の流れと共に
第2流路に流されるので、当該接続部分に気泡が滞留することが防止される。これにより
、液体流路の気泡の排出不良が生じることが防止される。
【0011】
ここで、前記第1流路の液体の進行方向に垂直な断面形状は、円又は半円であることが
好ましい。これにより、円又は半円の頂上部分に気泡が集められるので、気泡を液体と共
に外部に排出しやすくなる。
【0012】
また、本発明の他の態様は、上記態様の流路形成部材と、前記流路形成部材から液体が
供給され、当該液体を吐出するヘッド本体とを備えることを特徴とする液体噴射ヘッドに
ある。
かかる態様では、液体の流速低下による気泡の排出不良を防止できる液体噴射ヘッドが
提供される。
【0013】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする
液体噴射装置にある。
かかる態様では、液体の流速低下による気泡の排出不良を防止できる液体噴射装置が提
供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る記録ヘッドの断面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図3のA−A線の要部断面図である。
【図5】図2の要部を拡大した断面図である。
【図6】シミュレーションにより得られたインクの速度を示す図である。
【図7】変形例に係る第1流路及び第2流路の断面図である。
【図8】変形例に係る第1流路の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。以下、インクジェット式記録ヘッ
ドは液体噴射ヘッドの一例であり、単に記録ヘッドとも言う。また、インクジェット式記
録装置は液体噴射装置の一例である。
【0016】
図1は、本実施形態に係るインクジェット式記録装置の概略斜視図である。図示するよ
うに、インクジェット式記録装置1は、記録ヘッド10がキャリッジ2に搭載されている
。そして、記録ヘッド10が搭載されたキャリッジ2は、装置本体7に取り付けられたキ
ャリッジ軸2aに軸方向移動可能に設けられている。
【0017】
また、装置本体7には、インクが貯留されたタンクからなる液体貯留手段3が設けられ
ており、液体貯留手段3からのインクは、キャリッジ2に搭載された記録ヘッド10に供
給管4を介して供給される。本実施形態では、液体貯留手段3は、それぞれ色の異なるイ
ンクを貯留した4つのタンクを備え、各タンクには4本の供給管4がそれぞれ接続されて
いる。
【0018】
そして、駆動モーター8の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト8a
を介してキャリッジ2に伝達されることで、記録ヘッド10を搭載したキャリッジ2はキ
ャリッジ軸2aに沿って移動される。一方、装置本体7にはキャリッジ軸2aに沿ってプ
ラテン9が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒
体である記録シートSがプラテン9に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0019】
このようなインクジェット式記録装置1では、キャリッジ2がキャリッジ軸2aに沿っ
て移動されると共に記録ヘッド10によってインクが吐出されて記録シートSに印刷され
る。
【0020】
なお、上述したインクジェット式記録装置1では、記録ヘッド10がキャリッジ2に搭
載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、記録
ヘッド10が装置本体7に固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだ
けで印刷を行う、所謂ライン式記録装置であってもよい。
【0021】
図2は、本実施形態に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの
断面図であり、図3は、図2のA−A線断面図であり、図4は、図3のA−A線断面図で
ある。図2〜図4には、ヘッド本体80からインクが吐出される鉛直方向をZ方向とし、
記録ヘッド10のキャリッジ軸2aに沿って移動する方向(図1参照)をX方向とし、X
方向及びZ方向に直交する方向をY方向として示している。
【0022】
これらの図に示すように、記録ヘッド10は、流路形成部材20と、流路形成部材20
の一方面に設けられたヘッドケース70と、ヘッドケース70に固定された複数のヘッド
本体80とを具備する。
【0023】
ヘッド本体80は、特に図示しないがノズル開口が並設されたノズル列が設けられてお
り、各流路形成部材20から供給されたインクを各ノズル列から吐出可能に設けられてい
る。本実施形態では、4色のインク数に合わせて4つのヘッド本体80がヘッドケース7
0の底面側に固定されている。各ヘッド本体80は、ノズル列がZ方向の下方に露出して
いる。1つのヘッド本体80からは1色のインクがノズル列から吐出されるように構成さ
れている。なお、ヘッド本体80の数やインクの色数に限定はない。
【0024】
ヘッド本体80内には、特に図示していないが、ノズル開口に連通する圧力発生室と圧
力発生室に圧力変化を生じさせる圧力発生手段とが設けられている。かかる圧力発生手段
としては、例えば、電気機械変換機能を呈する圧電材料を有する圧電アクチュエーターの
変形によって圧力発生室の容積を変化させて圧力変化を生じさせて、ノズル開口からイン
ク滴を吐出させるものがある。また圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱
で発生するバブルによってノズル開口からインク滴を吐出するものがある。その他、振動
板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口
からインク滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエーターなどを使用することができる

【0025】
また、流路形成部材20とヘッドケース70との間には、特に図示しない回路基板が保
持されている。回路基板には、ヘッド本体80にインクを吐出させる駆動信号やヘッド本
体80の状態を表す信号を得るための電子部品や回路が設けられている。このような回路
基板には、複数のヘッド本体80が接続されている。
【0026】
流路形成部材20は、液体貯留手段3(図1参照)からのインクをヘッド本体80に供
給する液体流路50を有する。具体的には、流路形成部材20は、中空状の箱状部材から
なるカバー30と、カバー30の内部に設けられた流路部材40とを具備する。
【0027】
カバー30は、上下に分割されたカバー部31とベース部32とを具備する。カバー部
31及びベース部32は、特に限定はないが、例えば、樹脂材料から形成されている。
【0028】
カバー部31は、ベース部32側に開口する凹形状の第1保持部34を有している。ベ
ース部32は、カバー部31側に開口する凹形状の第2保持部35を有している。これら
のベース部32及びカバー部31が対向して接合され、第1保持部34及び第2保持部3
5から保持部33が形成されている。
【0029】
保持部33には、流路部材40が保持されている。流路部材40は、カバー部31側に
設けられた第1流路部材41と、ベース部32側に設けられた第2流路部材42とが積層
されて構成されている。第1流路部材41及び第2流路部材42のそれぞれは、例えば、
樹脂材料や金属材料等からなる板状部材である。
【0030】
流路部材40には、インクの流路である液体流路50が設けられている。液体流路50
は、第1流路51と第2流路52とを備えている。
【0031】
第1流路51は、インクを水平方向に流通させる流路である。ヘッド本体80から吐出
されるインクの吐出方向(鉛直方向(Z方向))に対して垂直な面を水平面(XY平面)
とする。水平方向に流通させる流路とは、インクが当該水平面に平行または当該水平面か
ら上昇する傾斜を有する流路である。
【0032】
本実施形態では、第1流路51は、第1流路部材41の第2流路部材42側の面に設け
られた溝部43と、第2流路部材42の第1流路部材41側の上面44とから画成されて
いる。第1流路51は、上面44(XY平面)に平行でX方向に延設されており、インク
を上面44に平行なX方向に流通させる。
【0033】
また、図4に示すように、インクの進行方向に垂直な断面における第1流路51の形状
は、矩形状となっている。
【0034】
第2流路52は、インクを第1流路51と交差する方向に流通させる流路である。すな
わち、第2流路52は、第1流路51から供給されたインクを鉛直方向(Z方向)の下方
に流通させる流路である。
【0035】
本実施形態では、第2流路52は、第2流路部材42の厚さ方向(Z方向)に貫通する
貫通孔からなる。第2流路52の開口形状は、第1流路51の幅(図4参照)と同じ幅を
有する矩形状である。
【0036】
このような第1流路51の先端(液体流路50の下流側の末端部分)は、第2流路52
の開口(液体流路50の上流側の末端部分)で接続されており、第1流路51から第2流
路52へとインクが流通する。この第1流路51と第2流路52との接続部分に関する詳
細は後述する。
【0037】
第1流路部材41には、厚さ方向に貫通した貫通孔である第1連通路53が設けられて
いる。第1連通路53の一端は、第1流路51の上流側に連通しており、他端は、第1流
路部材41の上面に開口している。第1流路部材41の上面には、第1連通路53に連通
し、テーパー状に形成されたインク導入部54が設けられている。
【0038】
第1流路部材41の上面には、接続部59が設けられている。接続部59には、インク
の供給管4(図1参照)と第1連通路53とを接続する流路である第2連通路55が設け
られている。第2連通路55は、接続部59の側面と、第1流路部材41側の面に開口し
ている。接続部59の側面に開口した第2連通路55の開口部59aには、供給管4(図
1参照)が接続される。接続部59の第1流路部材41側に開口した第2連通路55の開
口部59bは、インク導入部54の開口形状と同一形状に構成されている。開口部59b
とインク導入部54とが対向して接続されることでフィルター室56が形成されている。
【0039】
フィルター室56は、液体流路50の一部を構成する空間部であり、内部にフィルター
60が配置されている。フィルター60は、インク中に含まれるゴミや気泡等の異物を除
去する。これにより、第2連通路55から供給されたインクはフィルター60を通過して
第1連通路53に供給される。
【0040】
また、第2流路部材42の底面には、厚さ方向に貫通する貫通孔である供給口57が形
成されている。供給口57は、第2流路52に連通すると共に、ヘッドケース70に設け
られた流路を介してヘッド本体80にインクを供給するように構成されている。
【0041】
このように、本実施形態に係る流路形成部材20は、第2連通路55、フィルター室5
6、第1連通路53、第1流路51、第2流路52、供給口57とから構成された液体流
路50を有している。流路形成部材20によれば、図1に示した供給管4から供給された
インクが液体流路50を流通してヘッド本体80に供給される。なお、本実施形態では、
流路形成部材20には、4つの液体流路50が形成され、各液体流路50は各ヘッド本体
80にインクを供給するように構成されている。
【0042】
また、このように液体流路50がインクを水平方向に流通させる第1流路51を備える
ことで、ヘッド本体80の配置に制約がなくなる。すなわち、図3に示したように、XY
平面において第1流路51によりインクが供給されるので、XY平面においてヘッド本体
80を任意の位置に配置できる。仮に、第1流路部材41に鉛直方向に貫通した流路から
ヘッド本体80にインクが供給されるとすると、XY平面におけるヘッド本体80の位置
は、当該流路の位置の近傍に限定されてしまう。
【0043】
このように構成された記録ヘッド10では、液体貯留手段3からインクが供給され、液
体流路50を介してヘッド本体80のノズル開口に至るまでインクで満たされる。そして
、記録ヘッド10は、駆動IC(図示せず)からの記録信号に従い、圧力発生室に対応す
るそれぞれの圧電アクチュエーターに電圧を印加し、各圧力発生室内の圧力が高まりノズ
ル開口からインク滴が吐出する。
【0044】
また、液体流路50に供給されるインクは、フィルター60により気泡がトラップされ
、ヘッド本体80側に気泡が流入することが防止されている。このようにフィルター60
によりトラップされた気泡は、クリーニングにより除去される。クリーニングは、例えば
、ヘッド本体80のノズル開口が形成されたノズル面をキャップで封止し、封止された空
間内を負圧にすることにより行う。当該空間を負圧にすることで、液体流路50内のイン
クが外部に吸引される。そして、インクの吸引と共に、フィルター60にトラップされた
気泡がフィルター60を通過し、ノズル開口から強制的に排出される。
【0045】
ここで、第1流路51と第2流路52との接続部分について詳細に説明する。図5は、
図2の要部を拡大した断面図である。同図には、第1流路51について、インクの進行方
向の断面形状が示されている。ここでいう断面形状とは、第1流路51を流れるインクの
進行方向に平行であり、かつ、鉛直方向に平行な断面(XZ平面)の形状である。
【0046】
このような第1流路51の断面形状は、第1流路51の一部の上面51aがZ方向の下
方に向けて屈曲したサイクロイド曲線Rを含んでいる。第1流路51の上面51a(第1
流路部材41の溝部43の底面)とは、当該断面形状において鉛直方向の上側に位置する
面である。
【0047】
第1流路51の下面51b(第2流路部材42の上面44)を延長した仮想的な直線を
直線Lとする。直線Lに当接し、第1流路51の高さを直径とする仮想的な円を円Cとす
る。サイクロイド曲線Rは、直線L上を滑らせずに回転させた円C上の点Pの軌跡である
。すなわち、第1流路51の下流側は、断面形状において上面51aがサイクロイド曲線
に沿うように形成されている。
【0048】
サイクロイド曲線状に形成された曲面である第1流路51の上面51aは、第2流路5
2の内面52aに連続している。ここでいう連続とは、上面51aと内面52aとが段差
無く接続されていることをいう。
【0049】
このように第1流路51と第2流路52とは、サイクロイド曲線状の上面51aを介し
て接続されている。これにより、第1流路51をX方向に流通するインクは、上面51a
でZ方向に進行方向が変えられて第2流路52を流通する。
【0050】
第1流路51の中心部分のインクの流れをS、第1流路51の上面51a側のインク
の流れをSとする。一般に、流れSの流速は、上面51aに近いため流れSの流速
よりも若干落ちる。
【0051】
しかしながら、上面51aをサイクロイド曲線状に形成することで、上面51a近傍に
おける流れSの流速が著しく低下することが防止されている。すなわち、インクの進行
方向がそれぞれ異なる第1流路51と第2流路52とをサイクロイド曲線状の上面51a
で接続したことで、第1流路51と第2流路52との接続部分において、インクの流速の
低下が抑えられている。
【0052】
このことを、シミュレーション結果に基づいて説明する。
図6(a)には、第1流路51と第2流路52との接続部分をサイクロイド曲線とした
場合のインクの流速が示されている。
【0053】
シミュレーションの各種条件は、次のように設定した。第1流路51の水平方向の長さ
は36mmとした。長さLの始点は第1連通路53の水平方向の中心であり、終点
は、第2流路52の水平方向の中心である。第1流路51、第2流路52及び第1連通路
53は、インクの進行方向に垂直な断面形状が何れも4×4mmの正方形である。
【0054】
第1連通路53に供給されるインクの流入速度は、0.3g/sとした。インクの粘度
は、5.37mPa・sとした。第2流路52の下流側は大気開放させた。
【0055】
また、第1流路51と第2流路52との接続部分は、図5に示した例と同様にサイクロ
イド曲線状に形成した。
【0056】
このような各種条件を設定した上で、流体解析ソフトウェア(名称:EFD.lab、
販売元:株式会社CAEソリューションズ)でインクの流速を解析した。同図には、イン
クの流速がその速さに応じて色分けされて表示されている。流路の中心部分の流速が最も
速い。流路の中心から外側になるほどインクの流速は遅くなっているが、サイクロイド曲
線状の上面51a近傍でも、速度は、0.007m/s以上である。
【0057】
図6(b)には、第1流路51と第2流路52との接続部分を円弧とした場合のインク
の流速が示されている。
【0058】
第1流路51と第2流路52との接続部分は、第1流路51と第2流路52との交点Q
を中心として半径4mmの円弧S(1/4円の円弧)とした。他の条件は、図6(a)の
例と同様であり、同じ流体解析ソフトウェアを用いてインクの流速を解析した。
【0059】
図6(b)に示すように、第1流路51では、流路の中心部分の流速が最も速く、流路
の中心から外側になるほどインクの流速は遅くなっている。第1流路51の内面に近い部
分のインクの速度は、約0.007〜0.0105m/sである。一方、円弧S近傍での
インクの速度は、約0.007m/s未満であり、第1流路51での速度よりもさらに低
下している。
【0060】
図6(c)には、第1流路51と第2流路52との接続部分をテーパーとした場合のイ
ンクの流速が示されている。
【0061】
第1流路51と第2流路52との接続部分は、第1流路51の上面が第2流路52側に
向けて鉛直方向の高さが漸減しながら第2流路52に接続したテーパー状に形成されてい
る。この第1流路51のテーパー状の上面をテーパー部Tとする。テーパー部Tと第1流
路51の上面との交点をt、第2流路52の内面との交点をtとする。他の条件は、
図6(a)の例と同様であり、同じ流体解析ソフトウェアを用いてインクの流速を解析し
た。
【0062】
図6(c)に示すように、第1流路51では、流路の中心部分の流速が最も速く、流路
の中心から外側になるほどインクの流速は遅くなっている。第1流路51の内面に近い部
分のインクの速度は、約0.007〜0.0105m/sである。一方、交点t、t
近傍でのインクの速度は、約0.007m/s未満であり、第1流路51での速度よりも
さらに低下している。
【0063】
これらのシミュレーション結果から分かるように、第1流路51と第2流路52との接
続部分をサイクロイド曲線状に形成することで、当該接続部分においてインクの流速が著
しく低下することが防止されている。また、第1流路51でのインクの速度を保って第2
流路52にインクが流入していることが確認された。
【0064】
一方、第1流路51と第2流路52との接続部分を円弧やテーパー状に形成することで
、当該接続部分においてインクの流速が著しく低下し、円弧S近傍やテーパー部Tの近傍
では第1流路51でのインクの速度よりも低下することが確認された。
【0065】
以上に説明したように、本実施形態に係る流路形成部材20を備える記録ヘッド10で
は、インクを水平方向に流通させる第1流路51と、インクを鉛直方向に流通させる第2
流路52との接続部分である上面51aをサイクロイド曲線状としたことで、上面51a
近傍でインクの流速が低下することが防止されている。したがって、上面51a近傍に気
泡が到達しても、インクの流れと共に第2流路52に流されるので、上面51a近傍に気
泡が滞留することが防止される。これにより、クリーニング時に、気泡の排出不良が生じ
ることが防止される。
【0066】
ここで、図7及び図8を用いて、本発明に係る流路形成部材20の第1流路51及び第
2流路の変形例を示す。なお、上述した実施形態と同一のものには同一の符号を付し、重
複する説明は省略する。
【0067】
図7には、変形例に係る記録ヘッドの要部断面が示されている。当該断面は、図5と同
様に、第1流路51Aを流れるインクの進行方向に平行であり、かつ、鉛直方向に平行な
断面(XZ平面)の形状である。
【0068】
図7(a)に示すように、第1流路51Aは、上流から下流に向けて水平方向(X方向
)よりも上方に傾斜している。このような第1流路51Aの断面形状は、第1流路51A
の一部の上面51aがZ方向の下方に向けて屈曲したサイクロイド曲線Rを含んでいる。
【0069】
第1流路51Aの下面51bを延長した仮想的な直線を直線Lとする。直線Lに当接し
、第1流路51Aの高さを直径とする仮想的な円を円Cとする。サイクロイド曲線Rは、
直線L上を滑らせずに回転させた円C上の点Pの軌跡である。すなわち、第1流路51A
の下流側は、断面形状において上面51aがサイクロイド曲線に沿うように形成されてい
る。
【0070】
サイクロイド曲線状に形成された第1流路51Aの上面51aは、第2流路52の内面
52aに連続している。
【0071】
このように、第1流路51Aが下流側に向けて上方に傾斜していても、第1流路51A
と第2流路52との接続部分がサイクロイド曲線状に形成されているので、当該接続部分
においてインクの流速低下が防止される。
【0072】
また、図7(b)に示すように、第2流路部材42には、鉛直方向に交差した方向に貫
通した第2流路52Aが設けられている。第1流路51の断面形状は、第1流路51の一
部の上面51aがZ方向の下方に向けて屈曲したサイクロイド曲線Rを含んでいる。
【0073】
第2流路52の内面52aは、この直線Lとサイクロイド曲線Rとの交点tでサイクロ
イド曲線Rに連続している。このように、第2流路52Aが鉛直方向とは交差する方向を
向いていても、第1流路51と第2流路52Aとの接続部分がサイクロイド曲線状に形成
されているので、当該接続部分においてインクの流速低下が防止される。
【0074】
図7(a)及び(b)で例示した何れの態様であっても、第1流路51Aと第2流路5
2、第1流路51と第2流路52Aとの接続部分においてインクの流速低下が防止される
ので、クリーニング時に、当該接続部分に気泡が滞留することが防止され、確実に気泡の
排出を行うことができる。
【0075】
さらに、第1流路51の他の変形例を説明する。図8は、インクの進行方向に垂直な断
面における第1流路を示す断面図である。図8(a)に示すように第1流路51Bの断面
形状は半円形状を有する。
【0076】
図4に示したように矩形状の場合には、両角部に気泡が分散するが、図8(a)に示し
た第1流路51Bでは、半円の頂点Uに、第1流路51Bを流通するインク中の気泡が集
められる。したがって、クリーニング時に、頂点Uに集められた気泡が外部に排出されや
すいので、より確実に気泡を外部に排出することができる。
【0077】
また、図8(b)に示すように、第1流路部材41及び第2流路部材42に、断面が円
弧状の溝を設け、各溝を対向させて、円形状の第1流路51Cを形成してもよい。この場
合であっても、図8(a)に示した態様と同様に、頂点Uに気泡が集められるので、より
確実に気泡を外部に排出することができる。
【0078】
さらに、第1流路51及び第2流路52とは、第1流路部材41及び第2流路部材42
を接合することにより形成されていたが、このような形態に限定されない。例えば、管状
部材の水平方向に延設された部分を第1流路とし、管状部材の一端を下方に折り曲げた部
分を第2流路とし、折り曲げた部分の断面形状をサイクロイド曲線とした流路形成部材で
あってもよい。
【0079】
上述した流路形成部材20は、記録ヘッド10のヘッド本体80にインクを供給する部
材として用いられていたが、このような用途に限定されない。本発明に係る流路形成部材
は、液体が供給される任意の装置に液体を供給することができる。
【0080】
また、上記した例では、液体噴射ヘッドの一例として記録ヘッド10を、また液体噴射
装置の一例としてインクジェット式記録装置1を挙げて説明したが、本発明は、広く液体
噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する
液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッド
としては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶デ
ィスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプ
レイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、
バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘ
ッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0081】
1 インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 インクジェット式記録ヘッド
(液体噴射ヘッド)、 20 流路形成部材、 40 流路部材、 41 第1流路部材
、 42 第2流路部材、 50 液体流路、 51、51A、51B、51C 第1流
路、 52、52A 第2流路、 80 ヘッド本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の供給を受けて、供給された液体が流通する流体流路を有する流路形成部材であっ
て、
前記流体流路は、
前記供給された液体を流通させる第1流路と、
前記第1流路に連通し、前記第1流路からの液体を当該第1流路と交差する方向に流通
させる第2流路とを備え、
液体の進行方向における前記第1流路の断面形状は、当該第1流路の鉛直方向の上面が
鉛直方向の下方に向けて屈曲したサイクロイド曲線を含み、
前記第1流路の前記サイクロイド曲線に沿って形成された曲面が前記第2流路の内面に
連続している
ことを特徴とする流路形成部材。
【請求項2】
請求項1に記載する流路形成部材において、
前記第1流路の液体の進行方向に垂直な断面形状は、円又は半円である
ことを特徴とする流路形成部材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する流路形成部材と、
前記流路形成部材から液体が供給され、当該液体を吐出するヘッド本体とを備える
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項3に記載する液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−210771(P2012−210771A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77895(P2011−77895)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】