説明

浄化装置

【課題】配管や養液中の汚れの原因物質の分解、雑菌の除菌をより効率的にできるようにする。
【解決手段】水耕栽培システム(10)の配管(51,52)の浄化装置に、配管(51,52)に接続されて養液が導入され、該養液中でストリーマ放電を行う放電ユニット(62)を設ける。放電ユニット(62)は、養液(L)中で前記ストリーマ放電を生起する電極対(64,65)を設け、該電極対(64,65)に直流電圧を印加する直流電源(70)を接続し、ストリーマ放電によって養液(L)中に過酸化水素を生成するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培システムの配管等の浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物の水耕栽培では、植物を栽培するための養液を、配管(養液用配管)を使って栽培床と養液用タンクなどの間を循環させるものがある。この養液用配管には様々な有機栄養分が流れたり、空気中のごみなどが混入したりするので、水垢や不純物が養液用配管内に付着する。このような水垢や不純物は、雑菌の増殖や配管の詰まりなどの原因になる。しかしながら、養液用配管を流れる養液には植物が触れるので、養液用配管に洗浄剤を流し込んで養液用配管を洗浄するのは難しい。
【0003】
これに対しては、例えば、有機液肥と酸性水とを有効成分とする培養液を使用して、カビの発生防止を図るものがある(例えば特許文献1を参照)。その他にも、加熱、UV、光触媒、オゾンによる除菌や、フィルタや活性炭で不純物を除去することも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−262034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、有機液肥と酸性水を一々混ぜ合わせるのは煩雑である。また、加熱、UV、光触媒を用いる方式では効果が局所的である上、電力や光源の交換費用もかかる。また、オゾンガスは養液への溶解効率が低いので大量のオゾンガスの発生が必要であるうえ、余剰のオゾンガスの処理も必要になる。また、フィルタや活性炭を使用する方式では、フィルタの目詰まりが起こり、メンテナンスコストが大きくなる場合がある。
【0006】
本発明は前記の問題に着目してなされたものであり、配管や養液中の汚れの原因物質の分解、雑菌の除菌をより効率的にできるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため、第1の発明は、
水耕栽培システム(10)の養液用の配管(51,52)の浄化装置であって、
前記配管(51,52)に接続されて養液(L)が導入され、該養液中でストリーマ放電を行う放電ユニット(62)を備え、
前記放電ユニット(62)は、前記養液(L)中で前記ストリーマ放電を生起する電極対(64,65)を有し、該電極対(64,65)に直流電圧を印加する直流電源(70)が接続され、前記ストリーマ放電によって前記養液(L)中に過酸化水素を生成するように構成されていることを特徴とする。
【0008】
この構成では、放電ユニット(62)が養液中でストリーマ放電を行うことで、養液中には水酸ラジカルが発生し、発生した水酸ラジカルは過酸化水素となる。この過酸化水素は、配管(51,52)の汚れの原因となる物質を分解(付着防止)したり、養液中の雑菌を除菌する。
【0009】
また、第2の発明は、
第1の発明の浄化装置において、
前記水耕栽培システム(10)は、植物(200)を植えつける栽培床(101)を備え、
前記栽培床(101)は、前記養液の流入用、及び流出用の配管(51,52)がそれぞれ接続され、
前記放電ユニット(62)は、前記栽培床(101)よりも下流側の配管(51)に接続されていることを特徴とする。
【0010】
この構成では、放電ユニット(62)が栽培床(101)よりも下流側に設けられているので、栽培床(101)において養液中に入り込んだ汚れの原因物質を、システムに広がる前に分解することが可能になる。
【0011】
また、第3の発明は、
第1又は第2の発明の浄化装置において、
前記配管(51,52)は、該配管(51,52)内に銅イオン又は鉄イオンを供給するイオン供給部(52)を構成していることを特徴とする。
【0012】
この構成では、イオン供給部(52)が生成した銅イオン又は鉄イオンが、触媒として作用し、過酸化水素から水酸ラジカルが生成される(いわゆるフェントン反応)。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、養液中の汚れの原因物質の分解や雑菌の除菌ができるので、養液の循環経路(配管(51,52))の汚れを抑制できる。また、水中(養液中)でストリーマ放電を行うので、例えばオゾンを溶解させるものと比べ、水酸ラジカルを効率的に利用することができる。また、過酸化水素は、水酸ラジカルよりも安定なので、過酸化水素をより広範囲に行き渡らせることができ、原因物質の分解や除菌効果をより広範囲で期待できる。すなわち、本発明では、養液中の汚れの原因物質の分解や雑菌の除菌を効率的に行うことが可能になる。また、フィルタなどで汚れを除去するものと比べ、メンテナンスコストの低減を期待できる。
【0014】
また、本発明では、直流電源(70)を用いてストリーマ放電を行っているので、例えばパルス電源と比較して、電源部の簡素化、低コスト化、小型化を図ることができる。また、パルス電源を用いると、放電に伴って水中で発生する衝撃波や騒音が大きくなってしまう。これに対し、直流電源(70)を用いると、このような衝撃波や騒音も低減できる。
【0015】
また、第2の発明によれば、養液の循環経路の汚れをより効果的に抑制できる。また、放電ユニット(62)のこの配置により、水酸ラジカルが栽培床(101)に入り込まないようにできる。
【0016】
また、第3の発明によれば、過酸化水素から水酸ラジカルが生成されるので、該イオン供給部(52)の周辺において、除菌や汚れ分解(付着防止)をより強力に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施形態にかかる水耕栽培システムの構成を示す図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る水浄化ユニットの全体構成図であり、水浄化動作を開始する前の状態を示すものである。
【図3】図3は、実施形態1に係る絶縁ケーシングの斜視図である。
【図4】図4は、実施形態1に係る水浄化ユニットの全体構成図であり、水浄化動作中に気泡が安定した状態を示すものである。
【図5】図5は、実施形態1の変形例に係る水浄化ユニットの全体構成図である。
【図6】図6は、実施形態1の変形例に係る絶縁ケーシングの斜視図である。
【図7】図7は、実施形態2に係る水浄化ユニットの全体構成図であり、水浄化動作を開始する前の状態を示すものである。
【図8】図8は、実施形態2に係る水浄化ユニットの全体構成図であり、水浄化動作中に気泡が安定した状態を示すものである。
【図9】図9は、実施形態2の変形例に係る絶縁ケーシングの蓋部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0019】
《発明の実施形態1》
〈全体構成〉
図1は、本発明の実施形態にかかる水耕栽培システム(10)の構成を示す図である。この水耕栽培システム(10)は、いわゆる施設園芸(例えばビニールハウス)や、閉鎖環境で人工光を用いて植物を栽培する植物工場等で使用される。図1に示すように、水耕栽培システム(10)は、栽培床(101)、配管(51,52)、ポンプ(102)、水浄化ユニット(60)(浄化装置)、及び制御装置(103)を備えている。この水耕栽培システム(10)では、栽培床(101)、ポンプ(102)、及び水浄化ユニット(60)は、配管(51,52)で互いに接続され、植物の栽培に必要な養分を含んだ養液(L)が循環する。図1では、養液の循環方向を矢印で示してある。
【0020】
栽培床(101)は、養液(L)を、所定の量だけ溜めるようになっている。栽培床(101)には、植物(200)が植えつけられる。植えつけられた植物(200)は、栽培床(101)に溜められた養液(L)を吸収し、吸収した養液(L)中の養分を利用する。この栽培床(101)には養液(L)が流入する流入孔と、養液(L)が流出する流出孔が設けられ、流出孔には配管(51)、流入孔には配管(52)がそれぞれ接続されている。
【0021】
水浄化ユニット(60)は、水中(具体的には養液(L))でのストリーマ放電によって水中に過酸化水素等の浄化成分を生成し、この浄化成分によって水の浄化を行う。水浄化ユニット(60)の構成は後に詳述する。この水浄化ユニット(60)には養液(L)が流入する流入孔と、養液(L)が流出する流出孔が設けられ、流入孔が栽培床(101)よりも下流側の配管(51)に接続され、栽培床(101)を通過した養液(L)が該配管(51)で供給されている。また、水浄化ユニット(60)の流出孔には、配管(52)が接続されている。
【0022】
ポンプ(102)は、養液(L)を循環させるためのポンプである。このポンプ(102)の吸入孔は、水浄化ユニット(60)の流出孔と配管(52)で接続され、吐出孔は、栽培床(101)の流入孔と配管(52)で接続されている。このポンプ(102)の運転状態は、制御装置(103)が制御する。
【0023】
本実施形態では、配管(51,52)は、一部が銅配管であり、残りの部分が樹脂の配管である。より詳しくは、水浄化ユニット(60)とポンプ(102)の間の配管(52)が銅配管である。この配管(52)は、本発明のイオン供給部の一例である。
【0024】
制御装置(103)は、ポンプ(102)及び水浄化ユニット(60)に所定の制御信号(SIG)を出力し、ポンプ(102)の運転状態(オンオフ)の制御と、水浄化ユニット(60)の運転状態(ストリーマ放電のオンオフ)の制御を行う。
【0025】
〈水浄化ユニット(60)の構成〉
図2は、水浄化ユニット(60)の構成例を示す図である。水浄化ユニット(60)は、水中でのストリーマ放電によって水中に過酸化水素等の浄化成分を生成し、この浄化成分によって水の浄化を行うものである。水浄化ユニット(60)は、水浄化タンク(61)と放電ユニット(62)とを有している(図2を参照)。
【0026】
水浄化タンク(61)は、密閉型の容器状に形成され、栽培床(101)の養液(L)が流入する。具体的に、水浄化タンク(61)には、栽培床(101)の流出孔に繋がる配管(51)と、ポンプ(102)の吸入孔に繋がる配管(52)が接続されている。即ち、水浄化タンク(61)は、栽培床(101)の下流側に配設されている。
【0027】
放電ユニット(62)は、放電電極(64)及び対向電極(65)とからなる電極対(64,65)と、この電極対(64,65)に電圧を印加する電源部(70)と、放電電極(64)を内部に収容する絶縁ケーシング(71)とを備えている。
【0028】
電極対(64,65)は、水中でストリーマ放電を生起するためのものである。放電電極(64)は、絶縁ケーシング(71)の内部に配置されている。放電電極(64)は、上下に扁平な板状に形成されている。放電電極(64)は、電源部(70)の正極側に接続されている。放電電極(64)は、例えばステンレス、銅等の導電性の金属材料で構成されている。
【0029】
対向電極(65)は、絶縁ケーシング(71)の外部に配置されている。対向電極(65)は、放電電極(64)の上方に設けられている。対向電極(65)は、上下に扁平な板状であって、且つ上下に複数の貫通孔(66)を有するメッシュ形状ないしパンチングメタル形状に構成されている。対向電極(65)は、放電電極(64)と略平行に配設されている。対向電極(65)は、電源部(70)の負極側に接続されている。対向電極(65)は、例えばステンレス、真鍮等の導電性の金属材料で構成されている。
【0030】
電源部(70)は、電極対(64,65)に所定の直流電圧を印加する直流電源で構成されている。即ち、電源部(70)は、電極対(64,65)に対して瞬時的に高電圧を繰り返し印加するようなパルス電源ではなく、電極対(64,65)に対して常に数キロボルトの直流電圧を印加する。電源部(70)のうち、対向電極(65)が接続される負極側は、アースと接続されている。また、電源部(70)には、電極対(64,65)の放電電力を一定に制御する定電力制御部が設けられている(図示省略)。
【0031】
絶縁ケーシング(71)は、水浄化タンク(61)の底部に設置されている。絶縁ケーシング(71)は、例えばセラミックス等の絶縁材料で構成されている。絶縁ケーシング(71)は、一面(上面)が開放された容器状のケース本体(72)と、該ケース本体(72)の上方の開放部を閉塞する板状の蓋部(73)とを有している。
【0032】
ケース本体(72)は、角型筒状の側壁部(72a)と、該側壁部(72a)の底面を閉塞する底部(72b)とを有している。放電電極(64)は、底部(72b)の上側に敷設されている。絶縁ケーシング(71)では、蓋部(73)と底部(72b)との間の上下方向の距離が、放電電極(64)の厚さよりも長くなっている。つまり、放電電極(64)と蓋部(73)との間には、所定の間隔が確保されている。これにより、絶縁ケーシング(71)の内部では、放電電極(64)とケース本体(72)と蓋部(73)との間に空間(S)が形成される。
【0033】
図2及び図3に示すように、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)には、該蓋部(73)を厚さ方向に貫通する1つの開口(74)が形成されている。この開口(74)により、放電電極(64)と対向電極(65)との間の電界の形成が許容されている。蓋部(73)の開口(74)の内径は、0.02mm以上0.5mm以下であることが好ましい。以上のような開口(74)は、電極対(64,65)の間の電流経路の電流密度を上昇させる電流密度集中部を構成する。
【0034】
以上のように、絶縁ケーシング(71)は、電極対(64,65)のうちの一方の電極(放電電極(64))のみを内部に収容し、且つ電流密度集中部としての開口(74)を有する絶縁部材を構成している。
【0035】
加えて、絶縁ケーシング(71)の開口(74)内では、電流経路の電流密度が上昇することで、水がジュール熱によって気化して気泡(B)が形成される。つまり、絶縁ケーシング(71)の開口(74)は、該開口(74)に気相部としての気泡(B)を形成する気相形成部として機能する。
【0036】
〈水耕栽培システム(10)の動作〉
水耕栽培システム(10)では、制御装置(103)によって、ポンプ(102)がオン状態にされると、養液(L)が栽培床(101)に供給される。栽培床(101)では、それぞれの植物(200)が必要量の養液(L)を吸収する。植物(200)に吸収されなかった養液(L)は、栽培床(101)から配管(51)を通って流出し、水浄化ユニット(60)を通過する。水浄化ユニット(60)から出た養液(L)は、配管(52)(この部分は銅配管)を通過する。水浄化ユニット(60)から出た養液(L)は、不足した成分や水が補われ、再び栽培床(101)に流入する。養液(L)の成分調整や量の調整を行う装置は、図1では図示を省略してある。なお、養液(L)の循環は、連続的に行ってもよいし、適当な時間間隔をあけて行うようにしてもよい。
【0037】
〈本実施形態における除菌、配管の浄化〉
水耕栽培システム(10)において配管(51,52)を浄化するには、水浄化ユニット(60)でストリーマ放電を行わせる。また、ポンプ(102)もオンにする。具体的には、制御装置(103)が水浄化ユニット(60)やポンプ(102)をオンにする。
【0038】
水浄化ユニット(60)の運転の開始時には、図2に示すように、絶縁ケーシング(71)の内の空間(S)が浸水した状態となっている。電源部(70)から電極対(64,65)に所定の直流電圧(例えば1kV)が印加されると、電極対(64,65)の間に電界が形成される。この際、放電電極(64)の周囲は、絶縁ケーシング(71)で覆われている。このため、電極対(64,65)の間での漏れ電流が抑制されるとともに、開口(74)内の電流経路の電流密度が上昇した状態となる。
【0039】
開口(74)内の電流密度が上昇すると、開口(74)内のジュール熱が大きくなる。その結果、絶縁ケーシング(71)では、開口(74)の近傍において、水の気化が促進されて気泡(B)が形成される。この気泡(B)は、図4に示すように、開口(74)のほぼ全域を覆う状態となり、対向電極(65)に導通する負極側の水と、正極側の放電電極(64)との間に気泡(B)が介在する。従って、この状態では、気泡(B)が、放電電極(64)と対向電極(65)との間での水を介した導電を阻止する抵抗として機能する。これにより、放電電極(64)と対向電極(65)との間の漏れ電流が抑制され、電極対(64,65)間では、所望とする電位差が保たれることになる。すると、気泡(B)内では、絶縁破壊に伴いストリーマ放電が発生する。
【0040】
以上のようにして、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、水浄化タンク(61)内の水中では、水酸ラジカル等の活性種や過酸化水素等が生成される。水酸ラジカル等の活性種や過酸化水素は、ストリーマ放電に伴う熱によって水浄化タンク(61)内を対流する。これにより、水中での活性種や過酸化水素の拡散が促される。また、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、このストリーマ放電に伴ってこの気泡(B)でイオン風を生成し易くなる。よって、水浄化タンク(61)内では、このイオン風を利用して、活性種や過酸化水素の拡散効果を更に向上できる。
【0041】
そして、ストリーマ放電によって生成した過酸化水素は、養液(L)の循環にともなって、水耕栽培システム(10)全体に広がる。この過酸化水素には、配管(51,52)の汚れの原因となる物質を分解(付着防止)したり、養液(L)中の雑菌を除菌する作用がある。そのため、過酸化水素が到達した部位では、配管(51,52)の浄化や除菌が行われる。なお、過酸化水素は、一般的には、植物には安全である。また、放電ユニット(62)が栽培床(101)の下流に配置されているので、水酸ラジカルが栽培床(101)に入り込まないようにできる。そのため、本実施形態では、水酸ラジカルが植物(200)に悪影響を与えることがない。
【0042】
また、配管(51,52)の一部として設けられた銅配管(イオン供給部)からは、銅イオンが養液(L)中に溶出する。過酸化水素と銅イオンの存在下では、フェントン反応により、銅イオンが触媒的に作用して水酸ラジカルの生成が促進される。これにより、水酸ラジカルによる水の浄化効率が向上する。加えて、銅イオンは菌の繁殖を抑制する効果があるため、水中での殺菌作用も高くなる。
【0043】
なお、水浄化ユニット(60)による除菌や汚れ分解は、常時行ってもよいが、適当な時間間隔をあけて行うようにしてもよい。水浄化ユニット(60)の運転の開始や休止の制御は制御装置(103)で行えばよい。
【0044】
〈本実施形態における効果〉
以上のように、本実施形態によれば、水浄化ユニット(60)において発生した水酸ラジカルや過酸化水素によって養液(L)中の汚れの原因物質の分解や雑菌の除菌ができるので、養液(L)の循環経路(配管(51,52))の汚れを抑制できる。また、水中(養液(L)中)でストリーマ放電を行って水酸ラジカルを発生させるので、例えばオゾンを溶解させるものと比べ、水酸ラジカルを効率的に利用することができる。また、過酸化水素は、水酸ラジカルよりも安定なので、水酸ラジカルよりもより広範囲の循環経路に行き渡らせることができる。それゆえ、汚れの原因物質の分解や除菌効果をより広範囲で期待できる。すなわち、本実施形態では、汚れの原因物質の分解や雑菌の除菌を効率的に行うことが可能になる。また、フィルタなどで汚れを除去するものと比べ、メンテナンスコストの低減を期待できる。
【0045】
また、本実施形態では、水浄化ユニット(60)が栽培床(101)よりも下流側に設けられているので、栽培床(101)において養液(L)中に入り込んだ汚れの原因物質を、システムに広がる前に分解することが可能になる。すなわち、養液(L)の循環経路の汚れをより効果的に抑制できる。
【0046】
また、フェントン反応によって過酸化水素から水酸ラジカルが生成されるので、銅配管(イオン供給部)の周辺において、より強力に除菌や汚れ分解(付着防止)を行うことが可能になる。
【0047】
《実施形態1の変形例》
上記実施形態1では、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)に1つの開口(74)が形成されている。しかしながら、例えば図5及び図6に示すように、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)に複数の開口(74)を形成してもよい。この変形例では、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)が、略正方形板状に形成され、この蓋部(73)に複数の開口(74)が等間隔を置きながら碁盤目状に配列されている。一方、放電電極(64)及び対向電極(65)は、全ての開口(74)に跨るような正方形板状に形成されている。
【0048】
この変形例においても、各開口(74)が、電流密度集中部、及び気相形成部として機能する。これにより、電源部(70)から電極対(64,65)に直流電圧が印加されると、各開口(74)の電流密度が上昇し、各開口(74)で気泡(B)が形成される。その結果、各気泡(B)でそれぞれストリーマ放電が生起され、水酸ラジカル等の活性種や、過酸化水素が生成される。
【0049】
《発明の実施形態2》
実施形態2に係る水耕栽培システム(10)は、上述した実施形態1とは放電ユニット(62)の構成が異なるものである。以下には、上記実施形態1と異なる点を主として説明する。
【0050】
図7に示すように、実施形態2の放電ユニット(62)は、水浄化タンク(61)の外側から内部に向かって挿入されて固定される、いわゆるフランジユニット式に構成されている。また、実施形態2の放電ユニット(62)は、放電電極(64)と対向電極(65)と絶縁ケーシング(71)とが一体的に組立てられている。
【0051】
実施形態2の絶縁ケーシング(71)は、大略の外形が円筒状に形成されている。絶縁ケーシング(71)は、ケース本体(72)と蓋部(73)とを有している。
【0052】
実施形態2のケース本体(72)は、ガラス質又は樹脂製の絶縁材料で構成されている。ケース本体(72)は、円筒状の基部(76)と、該基部(76)から水浄化タンク(61)側に向かって突出する筒状壁部(77)と、該筒状壁部(77)の外縁部から更に水浄化タンク(61)側に向かって突出する環状凸部(78)とを有している。また、ケース本体(72)には、環状凸部(78)の先端側に先端筒部(79)が一体に形成されている。基部(76)の軸心部には、円柱状の挿入口(76a)が軸方向に延びて貫通形成されている。筒状壁部(77)の内側には、挿入口(76a)と同軸となり、且つ挿入口(76a)よりも大径となる円柱状の空間(S)が形成されている。
【0053】
実施形態2の蓋部(73)は、略円板状に形成されて環状凸部(78)の内側に嵌合している。蓋部(73)は、セラミックス材料で構成されている。蓋部(73)の軸心には、実施形態1と同様、蓋部(73)を上下に貫通する円形状の1つの開口(74)が形成されている。
【0054】
放電電極(64)は、軸直角断面が円形状となる縦長の棒状の電極で構成されている。放電電極(64)は、基部(76)の挿入口(76a)に嵌合している。これにより、放電電極(64)は、絶縁ケーシング(71)の内部に収容されている。実施形態2では、放電電極(64)のうち水浄化タンク(61)とは反対側の端部が、水浄化タンク(61)の外部に露出される状態となる。このため、水浄化タンク(61)の外部に配置される電源部(70)と、放電電極(64)とを電気配線によって容易に接続することができる。
【0055】
放電電極(64)のうち水浄化タンク(61)側の端部(64a)は、絶縁ケーシング(71)の内部の空間(S)に臨んでいる。なお、図7に示す例では、放電電極(64)の端部(64a)が、挿入口(76a)の開口面よりも上側(水浄化タンク(61)側)に突出しているが、この端部(64a)の先端面を挿入口(76a)の開口面と略面一としてもよいし、端部(64a)を挿入口(76a)の開口面よりも下側に陥没させてもよい。また、放電電極(64)は、実施形態1と同様、開口(74)を有する蓋部(73)との間に所定の間隔が確保されている。
【0056】
対向電極(65)は、円筒状の電極本体(65a)と、該電極本体(65a)から径方向外方へ突出する鍔部(65b)とを有している。電極本体(65a)は、絶縁ケーシング(71)のケース本体(72)に外嵌している。鍔部(65b)は、水浄化タンク(61)の壁部に固定されて放電ユニット(62)を保持する固定部を構成している。放電ユニット(62)が水浄化タンク(61)に固定された状態では、対向電極(65)の電極本体(65a)の一部が浸水された状態となる。
【0057】
対向電極(65)は、電極本体(65a)よりも小径の内側筒部(65c)と、該内側筒部(65c)と電極本体(65a)との間に亘って形成される連接部(65d)とを有している。内側筒部(65c)及び連接部(65d)は、水浄化タンク(61)内の水中に浸漬している。内側筒部(65c)は、その内部に円柱空間(67)を形成している。内側筒部(65c)の軸方向の一端は、蓋部(73)と当接して該蓋部(73)を保持する保持部を構成している。また、電極本体(65a)と内側筒部(65c)と連接部(65d)の間には、ケース本体(72)の先端筒部(79)が内嵌している。内側筒部(65c)の軸方向の他端側には、円柱空間(67)を覆うようにメッシュ状の漏電防止材(68)が設けられている。この漏電防止材(68)は、対向電極(65)と接触することで、実質的にアースされている。これにより、漏電防止材(68)は、水浄化タンク(61)の内部の空間(水中)のうち、円柱空間(67)の内側から外側への漏電を防止している。
【0058】
対向電極(65)は、電極本体(65a)の一部が水浄化タンク(61)の外部に露出される状態となる。このため、電源部(70)と対向電極(65)とを電気配線によって容易に接続することができる。
【0059】
〈水浄化ユニットの運転動作〉
実施形態2の水耕栽培システム(10)においても、水浄化ユニット(60)が運転されることで、配管(51,52)を流れる水の浄化がなされる。
【0060】
水浄化ユニット(60)の運転の開始時には、図7に示すように、絶縁ケーシング(71)の内の空間(S)が浸水した状態となっている。電源部(70)から電極対(64,65)に所定の直流電圧(例えば1kV)が印加されると、開口(74)の内部の電流密度が上昇してく。
【0061】
図7に示す状態から、電極対(64,65)へ更に直流電圧が継続して印加されると、開口(74)内の水が気化されて気泡(B)が形成される(図8を参照)。この状態では、気泡(B)が開口(74)のほぼ全域を覆う状態となり、円柱空間(67)内の負極側の水と、放電電極(64)との間に気泡(B)の抵抗が付与される。これにより、放電電極(64)と対向電極(65)との間の電位差が保たれ、気泡(B)でストリーマ放電が発生する。その結果、水中では、水酸ラジカルや過酸化水素を生成され、これらの成分が水の浄化に利用される。
【0062】
《実施形態2の変形例》
実施形態2では、円板状の蓋部(73)の軸心に1つの開口(74)を形成しているが、この蓋部(73)に複数の開口(74)を形成してもよい。図9に示す例では、蓋部(73)の軸心を中心とする仮想ピッチ円上に、5つの開口(74)が等間隔置きに配列されている。このように蓋部(73)に複数の開口(74)を形成することで、各開口(74)の近傍でそれぞれストリーマ放電を生起させることができる。
【0063】
《その他の実施形態》
〈放電ユニットの構成〉
上述した各実施形態の電源部(70)には、ストリーマ放電の放電電力を一定に制御する定電力制御部を用いている。しかしながら、定電力制御部に代えて、ストリーマ放電時の放電電流を一定に制御する定電流制御部を設けることもできる。この定電流制御を行うと、洗浄水の導電率によらず放電が安定するため、スパークの発生も未然に回避できる。
【0064】
また、上述した各実施形態では、電源部(70)の正極に放電電極(64)を接続し、電源部(70)の負極に対向電極(65)を接続している。しかしながら、電源部(70)の負極に放電電極(64)を接続し、電源部(70)の正極に対向電極(65)を接続することで、電極対(64,65)の間で、いわゆるマイナス放電を行うようにしてもよい。
【0065】
〈イオン供給部の構成〉
上述した各実施形態では、配管(52)を銅配管とすることで、配管(52)を銅イオンのイオン供給部としている。しかしながら、イオン供給部としては、例えば鉄イオンを生成する鉄製の配管を用いることもできる。鉄イオンも銅イオンと同様、過酸化水素の存在下でフェントン反応を促進させるため、水酸ラジカルの生成量を増大できる。
【0066】
銅配管や鉄配管は、水浄化タンク(61)と連通する配管であれば、他の箇所に設けることもできる。例えば、配管(51)を銅配管や鉄配管としたり、配管(51,52)の全てを銅配管や鉄配管としてもよい。また、例えば銅片や鉄片を水浄化タンク(61)内に浸漬することで、これらをイオン供給部とすることもできる。
【0067】
なお、水浄化ユニット(60)を設ける位置は例示である。例えば、栽培床(101)の上流側に設けることも可能である。
【0068】
また、水耕栽培システム(10)の構成は例示である。例えば、養液を貯留するタンクを設けたり、水を補給する装置を設けるなど種々の変形が可能である。
【0069】
また、放電ユニット(62)を養液のタンク内に設ければ、タンク内の養液を攪拌して均一化するという効果も得られる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、水耕栽培システムの配管等の浄化装置として有用である。
【符号の説明】
【0071】
10 水耕栽培システム
51 配管
52 イオン供給部
60 水浄化ユニット(浄化装置)
62 放電ユニット
64 放電電極
65 対向電極
70 電源部(直流電源)
101 栽培床
200 植物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水耕栽培システム(10)の養液用の配管(51,52)の浄化装置であって、
前記配管(51,52)に接続されて養液(L)が導入され、該養液中でストリーマ放電を行う放電ユニット(62)を備え、
前記放電ユニット(62)は、前記養液(L)中で前記ストリーマ放電を生起する電極対(64,65)を有し、該電極対(64,65)に直流電圧を印加する直流電源(70)が接続され、前記ストリーマ放電によって前記養液(L)中に過酸化水素を生成するように構成されていることを特徴とする浄化装置。
【請求項2】
請求項1の浄化装置において、
前記水耕栽培システム(10)は、植物(200)を植えつける栽培床(101)を備え、
前記栽培床(101)は、前記養液の流入用、及び流出用の配管(51,52)がそれぞれ接続され、
前記放電ユニット(62)は、前記栽培床(101)よりも下流側の配管(51)に接続されていることを特徴とする浄化装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の浄化装置において、
前記配管(51,52)は、該配管(51,52)内に銅イオン又は鉄イオンを供給するイオン供給部(52)を構成していることを特徴とする浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−70712(P2012−70712A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220120(P2010−220120)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】