説明

浮体式フラップゲート

【課題】流入初期の水の速度が速く、扉体の浮上動作が遅れて越流した場合でも、生活空間や地下空間への流入を防止する。
【解決手段】開口部或いは出入口の路面に形成したピット2に設置され、水が流入する際、前記開口部或いは前記出入口を遮断すべく、前記流入する水の方向に高さ方向の平面内で、基端側を支点として先端側が起立揺動する扉体3を備えた浮体式フラップゲート1である。前記支点よりも前記流入する水の下流側の所要の位置に、前記扉体3を越流した水を取り込む排水溝5を設ける。前記排水溝5内の水を前記ピット2へ導水可能なように、前記排水溝5と前記ピット2を連通させる。
【効果】越流水を排水溝に取り込むので、生活空間や地下空間への流入を防止できる。排水溝に取り込んだ水はピットに導水し、扉体の浮上動作を補助することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば防波堤の開口部や建物の出入口に設置され、増水時、増水した水が生活空間や地下空間に流れ込まないように、扉体を浮上させて前記開口部又は出入口を遮断する浮体式フラップゲートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
増水時に、増水した水が生活空間や地下空間に流れ込まないように、流入しようとする水の浮力を利用して凹状のピット内に埋設された扉体を浮上させ、例えば建物の出入口を遮断する浮体式フラップゲートがある(例えば特許文献1の実施の形態−2)。
【0003】
しかしながら、特許文献1で開示された浮体式フラップゲートは、流入初期に床面を流れてくる水の移動速度が速い場合には、扉体の浮上動作が遅れて生活空間や地下空間に越流する問題がある。
【0004】
そこで、扉体を格納する扉体格納室の側壁に海側と貫通する導排水管を設け、この導排水管の高さ位置まで海水が上昇した段階から扉体格納室内に海水を導水し始めるように構成された、例えば防潮堤の開口部などに設置される浮体式フラップゲートが提案されている(例えば特許文献2)。
【0005】
しかしながら、特許文献2で提案された浮体式フラップゲートのように、扉体格納室の側壁に海側と貫通する導排水管を設けた場合でも、水が導排水管を通って扉体格納室内に流れ込み扉体が起立動作を開始するまでには一定の時間を要する。そのため、流入初期の水の上昇速度が速い場合は、扉体が浮上し始める前に水が扉体の上部を越流し、防潮堤の後背地の生活空間側に流れ込むおそれが高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−214425号公報
【特許文献2】特開2006−257829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする問題点は、流入初期の水の速度が速い場合、扉体の浮上動作が遅れて生活空間や地下空間へ越流する点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、流入初期の水の速度が速い場合でも生活空間や地下空間へ越流することがなく、また、越流を防止している間、扉体の浮上動作を補助することが可能な浮体式フラップゲートを提供することを目的としてなされたものである。
【0009】
本発明の浮体式フラップゲートは、
開口部或いは出入口の路面に形成したピットに設置され、水が流入する際、前記開口部或いは前記出入口を遮断すべく、前記流入する水の方向に高さ方向の平面内で、基端側を支点として先端側が起立揺動する扉体を備えた浮体式フラップゲートであって、
前記支点よりも前記流入する水の下流側の所要の位置に、前記扉体を越流した水を取り込む排水溝を設けると共に、前記排水溝内の水を前記ピットへ導水可能なように、前記排水溝と前記ピットを連通させたことを最も主要な特徴としている。
【0010】
上記の本発明では、扉体が浮上動作を開始する前に扉体の上部を越流した水は、排水溝に取り込むことができる。
【0011】
上記本発明において、前記ピットから前記排水溝の開口への水の逆流を所要の位置で密閉する止水蓋を設けた場合は、扉体の先端側が浮上後、水が逆流し始めたときに前記止水蓋が逆止弁として作用するので、水が前記開口部から流出して後背地へ浸入するのを防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、扉体が浮上動作を開始する前に越流した水は排水溝に取り込むことができるので、流入初期の水の速度が速い場合でも生活空間や地下空間への流入を防止でき、防災設備としての信頼性が向上する。また、排水溝とピットが連通しているので、越流を防止している間に排水溝に取り込んだ水は、ピットに導水して、扉体の浮上動作を補助することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の浮体連結式フラップゲートを側面側から見た概略構成図で、(a)は全体図、(b)は排水溝の拡大図である。
【図2】排水溝に止水蓋を設けた本発明の浮体連結式フラップゲートの前記止水蓋の作用を説明する側面方向から見た図で、(a)は排水溝に流れ込んだ越流水により止水蓋が浮上を開始する直前の図、(b)は排水溝からピットに水が導水され先端側の扉体ブロックが浮上し始めた状態の図、(c)はピットから排水溝の開口へ水が逆流し始めたときに、止水蓋の先端部が逆流する水の圧力と浮力によって一方の張出部と密着した状態の図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、流入初期の水の速度が速い場合でも生活空間や地下空間への越流を防止し、また、越流を防止している間、扉体の浮上動作を補助するという目的を、扉体の基端側の支点よりも流入する水の下流側の所要の位置に、扉体を越流した水を取り込む排水溝を設けると共に、この排水溝内の水をピットへ導水可能なように、排水溝とピットを連通させることで実現した。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図2を用いて詳細に説明する。
図1は、扉体上面が路面と同じ高さとなるように埋設して設置される本発明の浮体連結式フラップゲートを側面から見た概略図である。
【0016】
図1(a)において、1は例えば防波堤の開口部の路面rs1と基体6の上面rs2の間に形成された凹面を有したピット2に設置された浮体連結式フラップゲートである。この浮体連結式フラップゲート1は、海洋(或いは河川)から防波堤の後背地に向けて水wが矢印の方向に流入した際、流入した水の水圧と扉体3の浮力を利用して、扉体3の基端側の回転部4bを支点として先端側4cを起立させて開口部を水密状態に遮断するものである。
【0017】
この浮体連結式フラップゲート1を構成する扉体3は、高さ方向に、例えば鋼製の中空構造である2個の扉体ブロックに分割した構成となされている。以下、これら2個の扉体ブロックを、起立状態にある場合の上方から、先端側の扉体ブロック3a、基端側の扉体ブロック3bと言う。
【0018】
そして、これら扉体ブロック3aと3bの間、及び、基端側の扉体ブロック3bと基体6の上面rs2の間を、高さ方向の平面内で、海洋(或いは河川)から流れ込もうとする水の方向に向けて例えば所定角度の回転が自在な、先端側の回転部4a及び基端側の回転部4bで連結している。扉体ブロック3a,3b間及び基端側の扉体ブロック3bと基体6の上面rs2の間は、水密ゴム(図示せず)によって水密状態となっている。また、扉体3の、防波堤の開口部に設けた戸当りと相対する側にも水密ゴム(図示せず)が設けられている。
【0019】
また、本実施例では、先端側の扉体ブロック3aは流入する水と反対方向にも所定角度だけ回転が可能なように回転部4aを構成し、水の流入時に先行して浮上するようにしている。
【0020】
図1に示す本発明の浮体連結式フラップゲート1は、基端側の回転部4bよりも流入する水の下流側に、まず回転部4bが連結される基体6を設け、次いで基体6に隣接させて扉体3を越流する水を取り込む開口5aを有した排水溝5を設けたものである。排水溝5の、流入する水と交差する方向の幅は、防波堤の開口部の幅と同じ長さとしている。
【0021】
そして、排水溝5内に流れ込んだ水を、扉体3の倒伏状態における底面とピット2の底面の間へ導水可能なように、排水溝5とピット2は、これらを隔てる基体6に設けた通路6aによって、排水溝5の底面とピット2の底面が同一の平面で連続した状態となるように連通している。このような構成とすれば、排水溝5内に流れ込んだ水は、扉体3の倒伏状態における底面とピット2の底面の間へ速やかに導水できるので、扉体3の浮上開始時間を短縮できる。
【0022】
排水溝5の開口5aは、内部に越流水を流入可能で、かつ、開口5aの上部を人や車両が安全に通行できるように、グレーチング7で覆われた状態としている。グレーチング7は、図1(b)に示すように、開口5aの近傍に設けた張出部5b,5cの上に載置している。なお、路面rs1、扉体3の上面、基体6の上面rs2、グレーチング7の上面、路面rs3はすべて高さを揃え、車両等の通行に支障をきたさないようにしている。
【0023】
8はフロートを有し、基端側の回転部8aを一方の張出部5bに回動可能に取り付けたフラップ式の止水蓋である。止水蓋8は、スイング式の逆止弁であり、開口5aからの越流水の流入は許容するが、ピット2から開口5aの方向に水が逆流し始めたときは先端部8bが他方の張出部5c側に密着して、開口5aから水が流出するのを防止する。以下、図2を参照して、この止水蓋8の作用について説明する。
【0024】
図2(a)に示すように、流入初期に扉体3を越流した水wは、排水溝5の開口部5aを覆うグレーチング7を通過して排水溝5の内部に流れ込む。このとき、止水蓋8は流れ込む水の圧力によって先端部8bが下方に押し付けられた状態となっている。
【0025】
その後、排水溝5の内部に流れ込んだ水wによって止水蓋8は浮上するので、排水溝5に流れ込んだ水は、前記のとおり排水溝5とピット2を連通する通路6aから倒伏状態にある扉体3の底面とピット2の底面の間に導水される。つまり、本発明では、越流水は排水溝5から取り込まれて扉体3に浮力を生じさせ、扉体3の起立動作を補助する。
【0026】
このとき、本実施例では、扉体3を高さ方向に分割された扉体ブロック3a,3bによって構成し、図2(b)に示すように、先端側の扉体ブロック3aが基端側の扉体ブロック3bよりも先行して浮上し始めるようにしている。従って、開口部から流入した水を倒伏状態の扉体3の下方に効果的に導くことができる。
【0027】
そして、先端側の扉体ブロック3aの先端部4cが浮上すると、越流は停止する一方、扉体3の底面側に水が流れ込むため、ピット2から排水溝5の開口5aの方向に水が逆流し始める。
【0028】
このとき、止水蓋8の先端部8bは、図2(c)に示すように、逆流する水の圧力と止水蓋8自体の浮力によって他方の張出部5cに密着するので、張出部5b,5c間が止水蓋8によって密閉される。従って、扉体3が起立した後、水が開口5aから流出して生活空間や地下空間へ浸入することを防止できる。
【0029】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載した技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0030】
例えば、本発明は、扉体が高さ方向に分割されておらず一体の浮体式フラップゲートにも適用できる。また、浮体連結式フラップゲート1に適用する場合、扉体3は2分割のものに限らず、例えば高さ方向に3分割した扉体ブロックが流入する水の水位に応じて基端側から順次起立するものであっても良い。
【0031】
また、遮断する防波堤の開口部の幅が広い場合は、浮体連結式フラップゲート1を構成する扉体3を開口部の幅方向に連結し、各扉体3間は扉間水密ゴムによって連結された構成としても良い。この場合、排水溝5は、開口部の幅方向に並設された扉体3ごとに夫々設けるか、あるいは、各扉体3の幅方向全域に対し1つの排水溝5を設けても良い。
【0032】
また、止水蓋8は、フロート(浮体)を有したものである必要はなく、逆流する水の圧力のみを利用して開口5aを密閉するものでも良い。また、止水蓋8は、スイング式のものに限らず、例えばリフト式やウエハー式の逆止弁であっても良い。
【符号の説明】
【0033】
1 浮体連結式フラップゲート
2 ピット
3 扉体
4b 基端側の回転部(支点)
5 排水溝
5a 開口
8 止水蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部或いは出入口の路面に形成したピットに設置され、水が流入する際、前記開口部或いは前記出入口を遮断すべく、前記流入する水の方向に高さ方向の平面内で、基端側を支点として先端側が起立揺動する扉体を備えた浮体式フラップゲートであって、
前記支点よりも前記流入する水の下流側の所要の位置に、前記扉体を越流した水を取り込む排水溝を設けると共に、前記排水溝内の水を前記ピットへ導水可能なように、前記排水溝と前記ピットを連通させたことを特徴とする浮体式フラップゲート。
【請求項2】
前記ピットから前記排水溝の開口への水の逆流を所要の位置で密閉する止水蓋を設けたことを特徴とする請求項1に記載の浮体式フラップゲート。

【図1】
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【図2】
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