説明

浮遊物質解析方法及び浮遊物質解析システム

【課題】浮遊物質の粒度を反映した、液体試料の濃度測定を行うことのできる浮遊物質解析方法及び浮遊物質解析システムを提供する。
【解決手段】浮遊物質を含む液体試料の濁度を測定する濁度測定工程と、液体試料に含まれる浮遊物質の粒度を測定する粒度測定工程と、液体試料に対して超音波パルス波を照射し、液体試料通過後の反射パルス信号が有する超音波減衰率を測定する超音波減衰率測定工程と、濁度測定工程において得られた濁度と超音波減衰率測定工程において得られた超音波減衰率とに基づいて、浮遊物質の粒度を解析する粒度解析工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中の浮遊物質を解析するための浮遊物質解析方法及び浮遊物質解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ダム、河川その他の水系において、水質管理その他の目的で、浮遊物質の濃度測定が行われている。このような濃度測定は、浮遊物質が高濃度になった場合においても、正確に行う必要があり、このような測定を実現するために、超音波を用いた測定が用いられつつある。超音波測定に用いる装置としては、例えば、超音波を液体試料に照射して、通過したパルスに対応する電気信号から浮遊物質の濃度を算出するものがある。この測定装置は、パルスの送信部と受信部を共通化するとともに、パルスを受信部側へ反射させる反射体を設けることによって、測定効率を向上させることができる(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−271348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述のような測定装置では、粒度が一定の浮遊物質の濃度は正確に測定することができるが、浮遊物質の粒度が変化する場合は、濃度を正しく推測することが困難である。これは、水系によって浮遊物質の種類、形状、粒度等の特性が異なるため、同じ超音波減衰率を示していても浮遊物質の粒径分布が異なると濃度が変化するためである。水系のうち、特にダムにおいては、浮遊物質が沈降・堆積するため、ダムの堆積土砂対策を効果的に実施するためには、ダムに流入する浮遊物質量およびダムから流出する浮遊物質量を正確かつ迅速に把握する必要がある。
【0004】
そこで本発明は、浮遊物質の粒度を反映した、液体試料の濃度測定を行うことのできる浮遊物質解析方法及び浮遊物質解析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の浮遊物質解析方法においては、浮遊物質を含む液体試料の濁度を測定する濁度測定工程と、液体試料に含まれる浮遊物質の粒度を測定する粒度測定工程と、液体試料に対して超音波パルス波を照射し、液体試料通過後の反射パルス信号が有する超音波減衰率を測定する超音波減衰率測定工程と、濁度測定工程において得られた濁度と超音波減衰率測定工程において得られた超音波減衰率とに基づいて、浮遊物質の粒度を解析する粒度解析工程と、を備えることを特徴としている。
【0006】
本発明の浮遊物質解析方法は、粒度解析工程において、濁度測定工程において得られた濁度と、粒度測定工程において得られた粒度に基づく相対粒子量と、の積を目的変数とし、超音波パルス波の各周波数に対応する超音波減衰率を説明関数とした重回帰分析式を生成することが好ましい。
【0007】
本発明の浮遊物質解析方法において生成する重回帰分析式は次式(A)で表されることが好ましい。

ここで、rαが次式(B)を満たすとともに、

rαはα番目の粒径の相対粒子量(単位%)、tuは散乱光式濁度(mg/l)、β0は定数、βi偏回帰係数、miはi番目の周波数に対応する超音波減衰率(dB)、pは例えば0.5MHzごとの周波数(p=20)、nは粒度分析の粒径の数、εは残差である。
【0008】
本発明の浮遊物質解析方法において、液体試料は水系に対応した試料であって、浮遊物質解析方法は、さらに、水系から実際に採取した採取試料に対して超音波パルス波を照射し、採取試料通過後の反射パルス信号が有する超音波減衰率を用いて採取試料の濃度を測定する採取試料濃度測定工程と、採取試料濃度測定工程で得られた超音波減衰率を、重回帰分析式に適用することによって、採取試料について、粒度に対応した濃度を算出する濃度算出工程と、を備えるとよい。
【0009】
本発明の浮遊物質解析方法は、さらに、重回帰分析式を記憶部に保存する記憶工程を備え、濃度算出工程では、重回帰分析式を記憶部から読み出して、採取試料濃度測定工程において得られた採取濃度の濃度測定を重回帰分析式に適用することができる。
【0010】
本発明の浮遊物質解析方法は、さらに、水系における採取試料の採取ポイントの水温を測定する水温測定工程と、水温測定工程において得られた水温を用いて、濃度算出工程において得られた採取試料の濃度を補正する濃度補正工程と、を備えることが好ましい。
【0011】
また、本発明の浮遊物質解析システムにおいては、浮遊物質を含む液体試料の濁度を測定する濁度測定装置と、液体試料に含まれる浮遊物質の粒度を測定する粒度測定装置と、液体試料に対して超音波パルス波を照射し、液体試料通過後の反射パルス信号が有する超音波減衰率を測定する超音波減衰率測定装置と、濁度測定装置で測定した濁度と超音波減衰率測定装置で測定した超音波減衰率とに基づいて、浮遊物質の粒度を解析する粒度解析装置と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、浮遊物質を含む液体試料の濁度を測定する濁度測定工程と、液体試料に含まれる浮遊物質の粒度を測定する粒度測定工程と、液体試料に対して超音波パルス波を照射し、液体試料通過後の反射パルス信号が有する超音波減衰率を測定する超音波減衰率測定工程と、濁度測定工程において得られた濁度と超音波減衰率測定工程において得られた超音波減衰率とに基づいて、浮遊物質の粒度を解析する粒度解析工程と、を備えることにより、浮遊物質の粒度を考慮した液体試料の濃度解析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る浮遊物質解析方法に用いる浮遊物質解析システムについて図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1に示すように、浮遊物質解析システム10は、制御部11と、濁度測定装置20と、粒度測定装置30と、超音波減衰率測定装置40と、粒度解析装置50と、を備える。
以下に、各構成要素について詳細に説明する。
【0014】
制御部11は、濁度測定装置20、粒度測定装置30、超音波減衰率測定装置40、及び粒度解析装置50に、それぞれ接続されており、これらの装置の動作を制御する。各装置における測定結果は制御部11内の記憶部12に保存される。制御部11としては、例えばパーソナルコンピュータのCPU(Central Processing Unit)を用いることができ、記憶部12として、例えばパーソナルコンピュータ内の記憶装置を用いることができる。
【0015】
また、パーソナルコンピュータを用いる場合には、入力手段(例えばキーボード、マウス)、及び出力手段(例えばモニター、プリンタ)も備えることが好ましく、例えば入力手段によって各装置の動作を制御する指示信号を入力し、測定条件や測定結果を出力手段に出力する。また、超音波減衰率測定装置40は、水温測定のために温度計(不図示)を備える。
【0016】
なお、本発明は、本実施形態のように制御部11に各装置を接続する形態のほか、濁度測定装置、粒度測定装置、超音波減衰率測定装置、及び、粒度解析装置が互いに別個独立に動作する形態にも適用可能である。また、記憶部についても、各装置に互いに独立した記憶部を備えた構成とすることができる。
【0017】
濁度測定装置20は、例えば散乱光式濁度計を用いることができる。散乱光式濁度計では、液体試料に対して光を照射したことにより試料内部で発生する散乱光の強さが、試料中の浮遊物質の濃度に比例することを利用してその濁度を知ることができる。測定された濁度は記憶部12に保存される。なお、散乱光式のほか、透過光式、表面散乱光式、散乱光・透過光併用方式、積分球式の濁度計を用いることもできる。
【0018】
粒度測定装置30は、レーザー回折式粒度分析装置(例えば、株式会社島津製作所製 SALD−3000J)を用いることができる。レーザー回折式粒度分析装置においては、液体試料に光を照射したときに、浮遊物質の粒子径が大きな場合は全周方向に散乱強度が強く特に前方向の散乱光強度が強くなるのに対して、粒子径が小さくなるにしたがい、散乱光強度が弱くなり、前方散乱光が弱まることを利用して、浮遊物質の粒径を測定する。すなわち、前方散乱光を凸レンズで集めることにより、その焦点面上に回折像が生じ、その回折光の明るさと大きさが浮遊物質の粒子の大きさ(粒径)によって変動することから、粒子径を得ることができる。
【0019】
超音波減衰率測定装置40は、図2に示すような、プラノコンケーブ形超音波振動子を用いた測定装置を用いる。超音波減衰率測定装置40は、浮遊物質を含む液体試料に対して超音波パルス波(Ultrasonic pulse wave)を照射し、液体試料通過後の反射超音波パルス波から得た反射パルス信号を得る測定部46と、測定部46からの反射パルス信号に基づいて、浮遊物質濃度を測定する解析部41と、を備える。
【0020】
測定部46は、液体試料を入れる容器47と、容器47の内部の一方に配置され平凹(Plano−concave)形状に形成された超音波振動子(Transducer)48と、容器47内部の他方側であって、超音波振動子48の焦点位置付近に配置された反射体(Reflector)49とを備える。
【0021】
解析部41は、パルス発生部42、エコーパルス収録・FFT(Fast Fourier transform)処理部43、及びデータ送受信部44を備える。パルス発生部42は、測定部46の超音波振動子48に励振パルス信号を照射する。エコーパルス収録・FFT処理部43は、測定部46の反射体49から反射した反射パルス波(超音波エコー)に対応する反射パルス信号を超音波振動子48から取込んで所定のデータに変換するとともに、反射パルス信号をデジタル化するデジダルオシロスコープ(Digital oscilloscope)を備える。さらに、エコーパルス収録・FFT処理部43は、変換された所定のデータを基に浮遊物質濃度、及び超音波減衰率を測定できる。エコーパルス収録・FFT処理部43における処理結果はデータ送受信部44を介して制御部11に出力される。
【0022】
本実施形態の超音波減衰率測定装置40では、プラノコンケーブ(平凹面)形超音波振動子48から放射される広帯域の超音波の周波数スペクトルの減衰特性から、浮遊物質の濃度をリアルタイムで測定することができる。超音波振動子48は、図2に示すように、厚さが連続的に変化しているために、広い周波数帯域の超音波の放射が可能であり、さらに超音波放射面が凹面状であるため、集束した超音波の放射も可能である。このため、この超音波振動子48にインパルス電圧を印加すると、リンギングの少ない集束した超音波パルスを放射することができる。
【0023】
粒度解析装置50は、記憶部12に保存された、濁度測定装置20における測定結果、及び超音波減衰率測定装置40における測定結果に基づいて、粒度測定装置30で得られた浮遊物質(Suspended Solid)の粒度を解析するものであって、解析プログラムが記憶されたメモリー部(不図示)と、解析プログラムを実行する演算部(不図示)を備える。これらのメモリー部及び演算部としては、例えばパーソナルコンピュータの記憶装置及びCPUを用いることができる。なお、粒度解析装置50は、制御部11及び記憶部12と共通化することもできる。すなわち、粒度解析装置50の演算部の機能を制御部11に、粒度解析装置50のメモリー部の機能を記憶部12に持たせることによって粒度解析を行うことができる。
【0024】
ここで粒度解析について説明する。
まず、超音波減衰率測定装置40で測定した周波数スペクトルを図3に示す。図3は、4つの試料((a)はNo.3L、(b)はNo.1R、(c)はNo.2L、(d)はNo.5R)について、横軸を周波数、縦軸を次式(1)で表される超音波減衰度を示している。これらの試料は、図4に示す、実際の水系の浮遊物質に基づいて作成した試料から選択したものであり、図4に示す試料の粒度分布は図5に示すとおりである。ここで、図5の縦軸の通過質量百分率(%)とは、株式会社島津製作所製SALD−3000Jを用いた実測粒度測定結果のふるい下(%)であって、横軸に示す粒径のふるいを通過する試料の割合を示す。

ここで、Mnは超音波減衰度(単位dB)、M0は水道水の超音波スペクトルの最大値、Mは各濃度の周波数スペクトルの値である。
図3においては、周波数スペクトルは1〜10MHzの広帯域において、濃度(mg/l)と、試料Noに対応する粒度(粒径(μm))と、によって変化している。したがって、この周波数スペクトルの減衰特性を分析することにより濃度の測定と粒度分析を行うことができる。
【0025】
各周波数における水道水の周波数スペクトルの大きさを基準とした超音波減衰率は、次式(2)によって示される。

ここで、m(f)は周波数f(MHz)における超音波減衰率(dB)、M0(f)は周波数fの水道水の周波数スペクトルの大きさ、M(f)は周波数fの懸濁液の周波数スペクトルの大きさである。
【0026】
図6は、式(2)を用いて算出した、各周波数における超音波減衰率を示すグラフである。図6は、粒度の異なる4つの試料((a)はNo.3L、(b)はNo.1R、(c)はNo.2L、(d)はNo.5R)についての超音波減衰率を示しており、各周波数における超音波減衰率の応答特性は粒度の異なる試料によって異なっている。
また、浮遊物質濃度と超音波減衰率との関係を示した図7によれば、各周波数における超音波減衰率は濃度変化に比例して低下するが、2〜10MHzの範囲では10MHzの周波数における超音波減衰率が最も大きいことが分かる。
【0027】
超音波減衰率の周波数特性は、浮遊物質の濃度、粒径、物性値(例えば土粒子の密度)によって影響を受ける。したがって超音波減衰率の周波数特性から粒度分布(相対粒子量)を測定するためには、濃度と物性値の影響を考慮することが必要である。図8に、周波数f=10MHzにおける超音波減衰度と散乱光濁度との関係を示す。
図8に示す超音波減衰率と散乱光式濁度との関係から、浮遊物質の相対粒子量と散乱光濁度との積を目的変数、各周波数に対応する超音波減衰率を説明変数とする、以下の式(3)で表される重回帰モデルを作成することができ、この式によって粒度分析をすることができる。

ここで、

であり、rαはα番目の粒径の相対粒子量(単位%)、tuは散乱光式濁度(mg/l)、β0は定数、βi偏回帰係数、miはi番目の周波数に対応する超音波減衰率(dB)、pは例えば0.5MHzごとの周波数(p=20)、nは粒度分析の粒径の数、εは残差である。
なお、相対粒子量は、粒度測定装置30の仕様に基づいて決定される。また、超音波減衰率測定装置40による測定データとしての超音波減衰率は、例えば、0.5〜10MHzの範囲において0.5MHzごとに20個(p=20)とする。
【0028】
図9は、上記式(3)を用いて求めた粒度分布(超音波減衰率法)、及び、粒度測定装置30による粒度測定結果を示すグラフである。図9においては、試料の濃度によって粒度分布が上下又は左右にずれる場合もあるが、式(3)を用いた粒度分布結果と、粒度測定装置30による粒度測定結果と、が略一致する。
【0029】
また、図10は、各試料の浮遊物質濃度と超音波減衰率との関係を示すグラフである。図10では、各試料の超音波減衰率が、他の周波数の場合よりも比較的安定した値を示す周波数を採用して周波数fを8MHzとしている。図10では、超音波減衰率が浮遊物質濃度に比例して増加する傾向を示している。このときの超音波減衰率と浮遊物質の濃度との関係は次式(5)又は(6)で表すことができる。


ここで、m(f)は周波数fにおける超音波減衰率(dB)、cは浮遊物質の濃度(mg/l)、λは浮遊物質の粒度によって定まる濃度換算率(定数)である。
【0030】
図11は、図10に示す全測定データ(n=172)のλを説明変数、各試料の粒度(各粒径の相対粒子量)を目的変数として、次式(7)により分析した結果を示すグラフである。(b)

ここで、λは濃度変換率、ψは定数、ψは偏回帰係数、dはj番目の粒径の相対粒子料、nは粒度分布の粒径の数、εは残差である。
上記式(7)によって決定された濃度換算率としての定数λに超音波減衰率を乗じることによって、浮遊物質濃度を算出することができる。
【0031】
さらに、実験濃度と、上述の超音波減衰率を用いた方法による濃度測定結果を図12に示す。図12において、濃度が5000mg/lまでの測定値は実験値±10%程度以下となっているため、超音波減衰率測定装置40を用いた濃度測定が高精度に行われること示している。
【0032】
以上の解析は、対象となる水系ごとに試料(液体試料)を作成して、又は、採取して、行うものであり、これにより、水系ごとに異なる粒度を考慮した浮遊物質濃度を解析することができる。このような解析を行うと、対象となる水系から随時採取した試料(採取試料)の濃度分析の結果から、水系ごとに異なる粒度分布を、正確かつ迅速に、かつリアルタイムで測定することができる。
【0033】
つづいて、浮遊物質解析システムを用いた浮遊物質解析方法について説明する。
ここで、図13は、粒度分析の流れを示すフローチャートであり、図14は、水系から実際に採取した試料の濃度を測定する流れを示すフローチャートである。
本実施形態では、図13に示す流れにしたがって、水系固有の粒度分布を解析して上記式(3)に示す重回帰分析式を作成するとともに、超音波減衰率測定装置40を用いて水系から実際に採取した試料の周波数解析を行った結果を、重回帰分析式に代入することによって、水系の粒径、粒度分布、及び、浮遊物質の濃度(SS量)を算出する。
以下に、図13、図14に沿って、解析の流れについて説明する。
【0034】
まず、浮遊物質を含む液体試料(検定用懸濁物試料)を作成する(ステップS1)。この液体試料は、測定対象となる水系から採取した試料に対応するように作成する。濁度測定装置20による濁度測定、及び超音波減衰率測定装置40による超音波減衰率測定(超音波エコー測定)(ステップS2)、並びに、粒度測定装置30による粒度測定(ステップS3)に供される。濁度、超音波減衰率、及び粒度の測定結果は記憶部12に保存される。
【0035】
濁度測定、及び超音波減衰率測定(ステップS2)においては、平行して液体試料の水温が測定される。測定された水温と、記憶部12にあらかじめ保存された、水温と超音波減衰率の関係を示す補正テーブルと、を用いて超音波減衰率の測定値を補正する。次に補正された超音波減衰率に基づいて、上記式(1)、(2)を用いて、制御部11において周波数解析が行われる(ステップS4)。解析結果は記憶部12に保存される。
【0036】
つづいて、粒度測定(ステップS3)及び周波数解析(ステップS4)の結果を用いて、制御部11において粒度解析処理が行われる(ステップS5)。以上の測定、及び解析の結果を用いて、上記の重回帰分析式(3)に相当する式を作成する(ステップS6)。これにより、水系固有の粒度を示す重回帰モデルが決定する。
【0037】
次に、図14を参照しつつ、以上のように決定された重回帰分析式を用いた濃度測定について説明する。この測定においては、特定の水系について、リアルタイムに浮遊物質の平均粒径、粒度分布、及び濃度を算出することができる。ここで算出される濃度は、粒度分析を踏まえたものであって、浮遊物質の粒度を考慮した濃度である。
【0038】
まず、測定対象となる水系の測定箇所に超音波減衰率測定装置40を設置し、超音波エコー測定を行う(ステップS11)。超音波減衰率測定装置40では、超音波エコー測定と平行して水温を測定しており、超音波減衰率測定装置40に接続された制御部11は、測定温度を記憶部12に記憶された補正テーブルに適用することによって、超音波減衰率の測定値を補正する(ステップS12)。
【0039】
次に、補正された超音波減衰率に基づいて、上記式(1)、(2)を用いて、制御部11において周波数解析を行う(ステップS13)。解析結果は記憶部12に保存されるとともに、ステップS6で作成された式に代入され、制御部11により重回帰分析が行われる(ステップS14)。この重回帰分析によって粒度分布が算出され(ステップS15)、この粒度分布に基づいて平均粒径及び粒度分布が算出される(ステップS16)。さらに、上記式(7)を用いて浮遊物質濃度を算出する(ステップS17)。
【0040】
本発明について上記実施形態を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態に係る浮遊物質解析システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る超音波減衰率測定装置の概略構成図である。
【図3】試料濃度に対する周波数スペクトルの変化を示す、周波数(単位MHz)を横軸に、超音波減衰度(dB)を縦軸にとったグラフである。
【図4】実際の水系の浮遊物質に基づいて作成した試料の物性値、レーザー回折式粒度分析による粒度分析結果、及び、超音波減衰率測定による粒度分析結果を示す表である。
【図5】図4に示す各試料の粒度分布を示す、横軸に粒径(μm)、縦軸に通過質量百分率(%)をとったグラフである。
【図6】試料の濃度に対する超音波減衰率の変化を示す、周波数(単位MHz)を横軸に、超音波減衰率(dB)を縦軸にとったグラフである。
【図7】試料における浮遊物質濃度(mg/l)と超音波減衰率(dB)との関係を示すグラフである。
【図8】周波数10MHzにおける散乱光濃度(mg/l)と超音波減衰率(dB)との関係を示すグラフである。
【図9】超音波減衰率法による粒度分析結果を示す、横軸に粒径(μm)、縦軸に通過質量百分率(%)をとったグラフである。
【図10】周波数10MHzにおける浮遊物質の濃度(mg/l)と超音波減衰率(dB)との関係を示すグラフである。
【図11】横軸に濃度換算率の実験値を、縦軸に式(7)による計算結果を、それぞれとったグラフである。
【図12】超音波減衰率法による浮遊物質濃度の測定結果を示す、横軸に実験による浮遊物質濃度(mg/l)、縦軸に本測定装置の測定値(mg/l)をとったグラフである。
【図13】本発明の実施形態に係る粒度分析の流れを示すフローチャートである。
【図14】本発明の実施形態に係る濃度測定の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0042】
10 浮遊物質解析システム
11 制御部
12 記憶部
20 濁度測定装置
30 粒度測定装置
40 超音波減衰率測定装置
41 解析部
42 パルス発生部
43 エコーパルス収録・FFT処理部
44 データ送受信部
46 測定部
47 容器
48 超音波振動子
49 反射体
50 粒度解析装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊物質を含む液体試料の濁度を測定する濁度測定工程と、
前記液体試料に含まれる前記浮遊物質の粒度を測定する粒度測定工程と、
前記液体試料に対して超音波パルス波を照射し、前記液体試料通過後の反射パルス信号が有する超音波減衰率を測定する超音波減衰率測定工程と、
前記濁度測定工程において得られた濁度と前記超音波減衰率測定工程において得られた超音波減衰率とに基づいて、前記浮遊物質の粒度を解析する粒度解析工程と、
を備えることを特徴とする浮遊物質解析方法。
【請求項2】
前記粒度解析工程においては、前記濁度測定工程において得られた前記濁度と、前記粒度測定工程において得られた粒度に基づく相対粒子量と、の積を目的変数とし、前記超音波パルス波の各周波数に対応する超音波減衰率を説明関数とした重回帰分析式を生成する請求項1に記載の浮遊物質解析方法。
【請求項3】
前記重回帰分析式は次式(1)で表される請求項2に記載の浮遊物質解析方法。

ここで、rαが次式(2)を満たすとともに、

rαはα番目の粒径の相対粒子量(単位%)、tuは濁度(mg/l)、β0は定数、βi偏回帰係数、miはi番目の周波数に対応する超音波減衰率(dB)、pは例えば0.5MHzごとの周波数、nは粒度分析の粒径の数、εは残差である。
【請求項4】
前記液体試料は水系に対応した試料であって、
前記浮遊物質解析方法は、さらに、
前記水系から実際に採取した採取試料に対して超音波パルス波を照射し、前記採取試料通過後の反射パルス信号が有する超音波減衰率を用いて前記採取試料の濃度を測定する採取試料濃度測定工程と、
前記採取試料濃度測定工程で得られた超音波減衰率を、前記重回帰分析式に適用することによって、前記採取試料について、粒度に対応した濃度を算出する濃度算出工程と、を備える請求項2又は請求項3に記載の浮遊物質解析方法。
【請求項5】
前記浮遊物質解析方法は、さらに、前記重回帰分析式を記憶部に保存する記憶工程を備え、
前記濃度算出工程では、前記重回帰分析式を前記記憶部から読み出して、前記採取試料濃度測定工程において得られた前記採取濃度の濃度測定を前記重回帰分析式に適用する請求項4に記載の浮遊物質解析方法。
【請求項6】
前記浮遊物質解析方法は、さらに、
前記水系における前記採取試料の採取ポイントの水温を測定する水温測定工程と、
前記水温測定工程において得られた水温を用いて、前記濃度算出工程において得られた前記採取試料の濃度を補正する濃度補正工程と、を備える請求項4又は請求項5に記載の浮遊物質解析方法。
【請求項7】
浮遊物質を含む液体試料の濁度を測定する濁度測定装置と、
前記液体試料に含まれる前記浮遊物質の粒度を測定する粒度測定装置と、
前記液体試料に対して超音波パルス波を照射し、前記液体試料通過後の反射パルス信号が有する超音波減衰率を測定する超音波減衰率測定装置と、
前記濁度測定装置で測定した濁度と前記超音波減衰率測定装置で測定した超音波減衰率とに基づいて、前記浮遊物質の粒度を解析する粒度解析装置と、
を備えることを特徴とする浮遊物質解析システム。


【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−25027(P2009−25027A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185672(P2007−185672)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(507240417)北斗理研株式会社 (2)
【Fターム(参考)】