説明

浮遊生物の飼育水槽装置

【課題】水の濾過循環を行いつつ浮遊生物の吸い込みを防止せしめた浮遊生物の飼育水槽装置を提供する。
【解決手段】濾過槽20で濾過・生物処理された水は水槽壁面よりコアンダ効果が得られるよう調整された噴き出し口31から水槽10に供給される。供給された水は吸込み口41前面を通過し、クラゲ類の吸込みを防止すると共に水槽壁面に回転流としてクラゲ類等浮遊生物に適度な運動刺激となる流れを起こす。水槽10に供給された水は吸込み口41からポテンシャル流として吸込機構により餌、食べかす、排泄物等と共に吸上げられ、水槽内の懸濁物を取除き、酸素が加えられて濾過槽20に戻り、濾過微生物に与えられる。給餌時は吸込機構を止めると、上部オーバーフロー口から水が濾過槽20に戻るが、メッシュで隔離されているので餌が無駄に捨てられる事無く、濾過・生物処理が継続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼育環境として考慮していない一般の生活空間に設置出来る様に、コンパクトに必要な機能を凝縮した飼育水槽装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クラゲ類などの浮遊生物は遊泳力が弱く、海流や潮の干満などによる海水の流れに漂って浮遊する生物と言われている。水の流れがないとクラゲ類などの浮遊生物は、沈下して遊泳出来ずに死滅する可能性がある。そのため、水槽などの人工的な環境で長期間飼育し育成するには、止水状態よりもクラゲ類など浮遊生物の生活環境にあった適当な水流を与え、浮遊状態にする必要がある。
【0003】
水槽内に人工的な水流を作り出す一番簡便な方法はエアレーションを利用して水流を作り出す事であり、魚類向けの水槽では広く用いられている。しかし、エアレーションを利用した上昇流を作った場合、クラゲの形状によっては傘の中に空気が溜まってしまい、溜まった空気の浮カによりクラゲが変形して損傷を受ける事が有り死滅するおそれもある。
しかし、水流を循環させる為には吐き出しと吸込みが必要であり、遊泳カが弱く吸込口から吸込まれやすいため、水流に漂うクラゲ類の飼育にとっては難しい問題である。魚類の飼育水槽のように底面ろ過方式(底に砂を敷き砂の下から吸込む事により、吸込みを広い面に分散させる方法)を採用してもクラゲ類が砂底に張り付いてしまうこともある。
【0004】
そこで、従来技術において、吸込み部と吐出部を近くに配置し、吸込み部に近付かない様に、吐出部で流れを作る方法や、吸込口からの吸込みは行わず、吐き出した水をオーバーフローさせて濾過槽に落としてその水を循環させる方法などの方法が知られている。
【0005】
例えば、特開平10−234250号公報のクラゲ等の浮遊生物飼育水槽は、側底面を曲面または多角面に曲げた水槽において、水槽の左右側面のどちらか一方の中間に排水口と給気口を近接して設け、排水口の下方側に気泡を放出する給気口を設置したものである。給気口より気泡を放出することにより水槽に収容された浮遊生物の生活環境にあった適当な水流を簡単に造り出すことができ、かつ、排水口に近づいた水槽内の浮遊生物を吹き飛ばして、水槽内の浮遊生物が排水口に吸い込まれることを防ぎ、排水口より飼育水のみを排出できるとしている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−234250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した従来の特開平10−234250号公報の浮遊生物飼育水槽では以下の問題がある。
第1の問題は、エアレーションを用いて水槽内に水流を作るという問題である。特開平10−234250号公報の浮遊生物飼育水槽では、水槽内に水流を作るためにエアレーションを利用している。水槽の側面とは言え、水槽内には多数の空気泡が吐出され、クラゲ類はその水流に乗って移動するため空気泡がクラゲの傘内に入り込みやすい。クラゲ類の傘内に溜まった空気の浮力によりクラゲが変形したり損傷を受けたりしてクラゲ類が死亡してしまうという問題があった。
【0008】
第2の問題は、クラゲ類の浮遊生物に与えた餌が未摂餌のまま水槽の循環系統によって排水されてしまうおそれがあるという問題がある。
クラゲ類の浮遊生物に与える餌は、生餌や浮遊状態の餌を用いるので餌が底に沈んでしまうとクラゲ類等の浮遊生物は摂餌出来ない。もし、水槽の循環系統が1系統の場合であれば、未摂餌の餌まで排水されてしまうおそれがある。
【0009】
第3の問題は、装置全体が大きくなりやすく予め水槽の設置場所を考慮し、専用空間を確保する必要が有るという問題である。水槽を一般の生活空間に設置出来る様にするためにはコンパクトに必要な機能を凝縮したものであることが好ましいが、特開平10−234250号公報の技術では、濾過槽など必要な機能が分離しているので、装置筐体が大きくなりがちであり、水槽を一般の生活空間に設置するにあたり予め水槽の設置場所を考慮し、専用空間を確保する必要が生じてしまう。
【0010】
本発明の発明者は、飼育水槽内にエアレーションを用いることなく水槽の底部から水槽の内周壁に沿って流れる回転流を生じさせるとともに、噴出口と吸込口を設けて水のろ過循環を行いつつ吸込口の前面にクラゲ類の吸い込み防止のための水流を与えることができる浮遊生物の飼育水槽装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究の結果、以下のとおり、飼育水槽内にエアレーションを用いることなく水槽の内周壁に沿って流れる回転流を生じさせ、水の循環濾過で餌となる微生物が無駄に捨てられることがなく、を行いつつ吸込口の前面にクラゲ類の吸い込み防止のための水流を与えることができるクラゲ類などの浮遊生物の飼育水槽装置を発明するに至った。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の浮遊生物の飼育水槽装置は、
縦断面が略円形または5角形以上の多角形で上面に開口を持つ水槽と、
前記水槽の背面側に設けられ、前記水槽から受け入れた水を濾過する濾過槽と、
前記水槽の底部付近の壁面に噴出口が設けられ、前記濾過槽で濾過された水を受け取り前記噴出口を介して前記水槽の内周壁に沿った方向に噴出する噴出機構と、
前記水槽の壁面であって前記噴出口からの噴出方向前方の壁面に吸込口が設けられ、前記吸込口を介して前記水槽内の水を吸い込んで前記濾過槽に受け渡す吸込機構を備えたことを特徴とするものである。
【0013】
なお、上記構成において、前記噴出口からの噴出水流の噴出角度が、当該水流が前記吸込口前面を通過し前記水槽の内周壁に沿った水流となるコアンダ効果が得られるように調整されたものとすることが好ましい。
ここで、コアンダ効果(Coanda effect)とは、流体の流れの中に物体を置いたときにその物体の表面に沿って流体の流れの向きが変わる流体の性質のことを言う。
【0014】
また、噴出口をスリット状のものや小孔が線状に並んだものとする等の工夫を施し、噴出される水流を方向性を持った水流とし、吸込口から吸い込まれる水流を方向性を持たない水流とすることが好ましい。
【0015】
次に、上記本発明の浮遊生物の飼育水槽装置において、前記水槽の上部付近にオーバーフロー時に前記水槽から前記濾過槽に溢れた分の水が通過するオーバーフロー口を備え、前記吸込口を介した水の吸い込み量よりも前記噴出口を介した水の噴出量の方が多い場合に前記水槽内から溢れ出した水は、給餌した餌が通過しないメッシュを介し前記水槽から前記濾過槽へ移動するように工夫することが好ましい。
【0016】
次に、本発明の浮遊生物の飼育水槽装置において、
前記吸込口に、前記浮遊生物が通過せず、前記浮遊生物の餌、食べかす、排泄物等が通過する大きさの網目を備えた粗メッシュ構造体を設け、
前記オーバーフロー口に、前記浮遊生物が通過せず、餌も通過しない大きさの網目を備えた細メッシュ構造体を設け、
前記浮遊生物への給餌時には、前記吸込機構を停止して前記吸込口を介した前記濾過槽への水の吸い込みを停止し、前記オーバーフロー口を介した前記濾過槽への水の溢れ出しのみとし、前記給餌した餌が前記濾過槽へ移動することを防止し、
前記浮遊生物への給餌時以外の通常時には、前記吸込機構を作動して前記吸込口を介した前記濾過槽への水の吸い込みを実行し、前記給餌後に残存している餌、食べかす、排泄物等が前記濾過槽へ移動するようにすることが好ましい。
【0017】
なお、本発明の浮遊生物の飼育水槽装置において、前記噴出機構における水を噴出させる動力源として前記濾過槽内に設けられた水中ポンプを使用し、前記吸込機構における水を吸い込む動力源として前記濾過槽内でエアリフトポンプを使用する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の浮遊生物の飼育水槽装置によれば、水槽内の水の循環と濾過槽内での水の循環を互いに別系統に分け、噴出機構により調整される噴出量、吸込機構により調整される吸込量を独立して調整することが可能となり、浮遊生物にはクラゲ類のほか、動物性プランクトン、植物性プランクトン、イカ・タコ・甲殻類の幼生など、自己遊泳力が弱い浮遊生物に適した水流、飼育環境を作り出すことができる。
【0019】
また、本発明の浮遊生物の飼育水槽装置によれば、噴出口から噴出された水流は水槽内で流体を形成するが、噴出口から噴出される角度が吸込口前面を通過しコアンダ効果により壁面に沿うように流れる角度に調整されており、吸込口の前面には噴出口からの水流が流れ、吸込口に近づいた浮遊生物は噴出口からの水流により吸込口には近づかず、浮遊生物が誤って吸込口に吸い込まれたり吸い付いてしまうことを防ぎ、吸込口からは周囲全体からポテンシャル流として水槽内の水を効率的に吸い込むことができる。つまり、水の循環濾過方式を採用しつつもクラゲ類などの浮遊生物が誤って吸込口に近づくことはない。
【0020】
本発明の浮遊生物の飼育水槽装置によれば、給餌した餌が必要時間だけ水槽内に滞留し、誤って濾過装置側に吸い込まれることがなく、また、必要時間を経過してもなお残存している餌、食べかす、排泄物等はその後濾過装置側に吸い込み濾過することにより水槽内から除去することができる。
【0021】
本発明の浮遊生物の飼育水槽装置によれば、噴出側と吸込側の両方にそれぞれ動力がいるが、2つの動力源のうち、噴出側の動力源としては水中ポンプを採用して水槽内に空気泡を発生させることなく、吸込側の動力源としてエアリフトポンプを採用して装置全体を小型することができ、また、運転騒音も少ない構成とすることができる。
また、エアリフトポンプを動力源として採用したことにより水中ポンプによる循環だけでは不足しがちな酸素を水中に適宜供給することが可能となる。
【0022】
また、縦断面が略円形または5角形以上の多角形で上面に開口を持つ水槽にした事で、照明器具を曲面のデッドスペースに配置し、飼育の世話に邪魔にならない。また、水槽の壁面で最短距離に配置出来るので照射効率が高く、配置した照明器具が目立たない。
【0023】
なお、飼育水槽装置内に温度調整機構を設けておくことは好ましい。例えば、ペルチェ素子等を用いた加熱冷却装置によって、濾過槽側を加熱・冷却する事により、小型で室温の影響を受けにくい飼育水槽装置とする事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明の浮遊生物の飼育水槽装置の実施例を説明する。ただし、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に示した具体的な用途や形状・寸法などには限定されない。
【実施例1】
【0025】
本発明の浮遊生物の飼育水槽装置の基本構成例を説明する。
図1は、本発明の浮遊生物の飼育水槽装置100の基本構成を正面から見た様子を模式的に示す正面図である。
図2は、本発明の浮遊生物の飼育水槽装置100の基本構成を上面から見た様子を模式的に示す平面図である。
図3は、水槽10の縦断面を模式的に示した図である。
図4は、前面にある水槽10を外して背面の濾過槽20の構成を正面から見た様子を模式的に示したものである。
【0026】
本発明の浮遊生物の飼育水槽装置100は、水槽10、濾過槽20、噴出機構である水中ポンプ30、噴出口31、パイプ32、吸込機構であるエアリフトポンプ40、吸込口41、エアチューブ42、粗メッシュ構造体43、オーバーフロー口50、細メッシュ構造体51の各構成を備えたものとなっている。なお、水中ポンプ30やエアリフトポンプ40などを制御する制御装置は図示を省略しているが、水槽横に設置し、水槽よりも小型のものである。
【0027】
水槽10は、クラゲ類などの浮遊生物を飼育する空間となるものであり、縦断面が略円形または5角形以上の多角形で上面に開口を持つ水槽となっている。この例では縦断面が略円形で上面に開口を持つ形状となっている。水槽10には後述するように、底部付近には噴出口31と吸込口41という入出口が設けられており、さらに、上部付近にはオーバーフロー口50という口が設けられている。
【0028】
水槽10は全体が透明のガラス素材またはアクリル素材などで形成されており、内部に入れたクラゲ類などの浮遊生物の鑑賞に適したものとなっている。
なお、水槽10は縦断面が略円形で上面に開口を持つ形状となっているので、後述するように噴出口31から噴出された水流はこの円形の内壁面を沿って流れ、水槽10全体を周回する流れが発生しやすいものとなっている。なお、この例は噴出口31は水槽の底部付近に設けられている例であるが噴出口31を設ける位置は水槽壁面内の底部付近には限定されない。
【0029】
濾過槽20は、水槽10の背面側に設けられ、水槽10から受け入れた水を濾過する部分である。濾過槽20内には水を濾過ためのフィルターと、水中ポンプ30およびエアリフトポンプ40という2つの動力源が設けられている。フィルターは特に限定されず、水を浄化する機能があれば適用でき、例えば、綿、スポンジなどの繊維状塊を採用しても良いし、砂、小石、レンガ片などの粒状物や、多孔質体を用いても良い。さらに粒状物などの担持体に水質浄化能力を持つ微生物などを担持させた生物フィルターであっても良い。
【0030】
ここで示した構成例では、濾過槽20の中は濾過槽セル21、濾過槽セル22、濾過槽セル23の3つのセルに分かれており、それぞれの濾過槽セルには浄化機能が設けられている。3つの濾過槽セルがすべて同じ水質浄化手段を採用し、同じ濾過を3回繰り返すものでも良い。また、それぞれの濾過槽セルで異なる水質浄化手段を採用しても良い。例えば、濾過槽セル21として固形物や懸濁物除去を目的とした繊維状塊等を用いた物理濾過による水質浄化、濾過槽セル22として微生物が繁殖し易い多孔質の粒状固形濾材を用いた生物処理による水質浄化、濾過槽セル23として水中ポンプで送水することにより清浄化された水が溜まるようにした水質浄化を組み合わせたものとすることができる。
濾過槽セル21と濾過槽セル22を分ける隔壁24、濾過槽セル22と濾過槽セル23を分ける隔壁25がある。隔壁24は下部が開放されており、濾過槽セル21から濾過槽セル22へ下部において水が移動する。隔壁25は上端が喫水線よりも低くなっており、濾過槽セル22から濾過槽セル23へ隔壁25をオーバーフローする形で水が移動する。
【0031】
水中ポンプ30は、濾過槽20側に設けられた動力源であり、濾過槽20で濾過された水をパイプ32および噴出口31を介して水槽10の内周壁に沿った方向に噴出する噴出機構である。水槽10の底部付近の壁面に噴出口31が設けられており、この噴出口31を介して噴出水流が噴出される仕組みとなっている。噴出口31はスリット状のものや小孔が線状に並んだものとなっており、噴出水流は方向性を持つ水流となる。噴出口31からの噴出水流の噴出角度については後述する。
【0032】
エアリフトポンプ40は、濾過槽20側に設けられた動力源であり、吸込口41を介して水槽10内の水を吸い込んで濾過槽20に受け渡す吸込機構である。横には並行してエアチューブ42が設けられている。水槽10の底部付近の壁面に吸込口41が設けられており、この吸込口41につながり濾過槽20側にあるエアリフトポンプ40内で上昇水流が作られると吸込口41を介して水槽10内の水が吸い込まれる仕組みとなっている。なお、吸込口41はエアリフトポンプ40の断面積に比べて幅広の面積のものとなっており、水の吸込みは周辺の水がゆっくりと吸込まれるようになっている。
なお、エアリフトポンプ40を動力源として採用することにより水中ポンプによる循環だけでは不足しがちな酸素を水中に適宜供給することが可能となるという効果も得られる。
【0033】
なお、噴出口31と吸込口41は近隣に設けられているが、その位置関係は、噴出口31からの噴出方向前方の壁面に吸込口41が設けられている。これは後述するように噴出口からの噴出水流がコアンダ効果により水流が吸込口41の前面を通過し、水槽10の内周壁に沿った水流となるように工夫したものである。
【0034】
オーバーフロー口50は、水槽10の上部付近に設けられた口であり、水槽10がオーバーフローした時に水槽10側から濾過槽20側に溢れた分の水を通過させる通路である。オーバーフローする時とは、吸込口41を介した水の吸い込み量よりも噴出口31を介した水の噴出量の方が多い場合に水槽10内に貯留される水量が増え、水槽10から水が溢れ出した場合が想定される。このオーバーフローが生じたときに、水を水槽10から濾過槽20へ移動させる。特に、後述するように給餌の際にエアリフトポンプ40を停止させ、吸込口41からの水の吸い込みを停止したときには通常はこのオーバーフローが発生することとなる。なお、オーバーフロー口には、水槽側から濾過槽側への一方通行になるように逆止弁を設けている。
【0035】
制御装置は、水中ポンプ30およびエアリフトポンプ40という2つの動力源の駆動制御や温度制御など様々な制御を行う部分である(図示を省略している)。
【0036】
次に、本発明の浮遊生物の飼育水槽装置100で得られるコアンダ効果について説明する。
コアンダ効果(Coanda effect)とは、流体の流れの中に物体を置いたときにその物体の表面に沿って流体の流れの向きが変わる流体の性質のことを言うが、本発明の浮遊生物の飼育水槽装置100ではこのコアンダ効果を用いて水の循環濾過方式を採用しつつもクラゲ類などの浮遊生物が誤って吸込口41に吸い寄せられることを防止する。
【0037】
図5は、噴出口31とその噴出水流の方向、水槽10の底面、吸込口41の位置関係、コアンダ効果を模式的に示す図である。
図5に示すように、噴出口31から吸込口41の前面を通過するように噴出される角度が調整されており、噴出口から噴出された水流はコアンダ効果により内壁面11から水槽10の内壁の表面に沿って水流の流れの向きが変わり、内壁面に沿うように周回する流れとなる。
【0038】
吸込口41はエアリフトポンプ40の断面積に比べて幅広の面積のものとなっており、水の吸込みは周辺の水がゆっくりと吸込まれ、ポテンシャル流として方向性を持たないものとなっている。そのため、噴出水流の流れる方向にはコアンダ効果ほどの影響を与えないようにエアリフトポンプ40の断面積や吸込口41の面積・形状を工夫しておけば、噴出水流は吸込口41の前面を通って流体内壁面11から水槽10の内周壁面を周回する水流となる。
このように、吸込口41の前面には噴出口31からの噴出水流が流れているので、浮遊生物は噴出口31からの水流により吸込口41には近づかず、浮遊生物が誤って吸込口41に吸い込まれたり吸い付いてしまうことはない。
【0039】
図6は、水槽10内の内壁面を周回する噴出水流を模式的に示す図である。図6に示すように、噴出水流は概ね水槽10内の内壁面に沿って周回するものとなっているが、図5で説明したように、吸込口41、噴出口31には直接近づかない水流となっており、浮遊生物が当該水流に漂って浮遊する以上、誤吸引事故などは発生しない。
【0040】
次に、濾過処理について述べる。
この実施例1に示した構成例では、濾過装置20内には吸込口41につながるエアリフトポンプ40が設けられており、このエアリフトポンプ40にはエアチューブ42により空気泡が供給されており、多数の空気泡がその浮力により水中を上昇するに伴って、エアリフトポンプ40内には上昇流が生じる。エアリフトポンプ40は一端(吸込口側)が吸込口41、他端(排出口側)が濾過槽20への排出口44となっている。つまり、エアリフトポンプ40により水槽10内の水が吸い込まれて濾過槽20に汲み上げる仕組みとなっている。
【0041】
濾過槽20の仕組みは特に限定されないが、この実施例1に示した構成例では、図7に示すように、濾過槽セル21、濾過槽セル22、濾過槽セル23の3つの領域に分かれており、それぞれのセルにはフィルターなどの濾過装置が設けられている(詳しくは図示せず)。この実施例1に示した構成例では、水槽10から汲み上げられた水は、まず、濾過槽セル21に投入されるようになっている。濾過槽セル21を上から下へ流れるうちに濾過され、さらに、濾過槽セル22を下から上に移動するうちに濾過され、さらに、濾過槽セル23を上から下に移動するうちに濾過されてゆく。濾過槽セル23には水中ポンプ30が設けられており、水中ポンプ30からパイプ32を介して噴出口31から噴出される。噴出された水流は図6に示したように水槽10内の内壁面を周回する噴出水流となり再び吸込口41から吸い込まれるような循環濾過方式となっている。
【0042】
次に、水槽10内の水量の調整処理について説明する。
本発明の浮遊生物の飼育水槽装置100は、水槽10と濾過槽20を背面に設け、それぞれの水流をコントロールする動力源(噴出機構である水中ポンプ30、吸込機構であるエアリフトポンプ40)も別々に2つ設けており、両者は別系統となっている。そのため、噴出口31を介して水槽10内に噴出される水量と、吸込口41を介して水槽10内から汲み上げられる水量がバランスしない場合が起こりえる。特に後述するように、給餌時には意図的に吸込機構であるエアリフトポンプ40の作動を止めて濾過槽20への水の汲み上げを停止するため、オーバーフローが起こりえる。本発明の浮遊生物の飼育水槽装置100では以下のように水槽10の水量を調整することができる。
【0043】
(1)噴出水量と吸込水量のバランスがとれている場合
噴出水量と吸込水量のバランスがとれている場合は、上記の図6の水槽10内での循環と、図7の濾過槽20内での循環に示したように、水が循環し、特に、水槽10内の水量が増減することなく均衡が保たれる。
【0044】
(2)噴出水量が吸込水量よりも多い場合
噴出口31からの噴出水量が吸込口41からの吸込水量よりも多い場合、水槽10内に貯留される水量は増えて行き、水槽10の喫水線が水槽10の上部付近に設けられているオーバーフロー口50の高さに至る事態となる。オーバーフロー口50は水槽10側から濾過槽20側への通路であり、水槽10側の喫水線がオーバーフロー口50の高さに至ると水槽10側から溢れた分の水が濾過槽20側へ通過する。この構成例ではオーバーフロー口50は濾過槽セル21の上部に位置しており、図7に示した濾過槽20内での濾過処理が行われる。
【0045】
(3)噴出水量が吸込水量よりも少ない場合
噴出口31からの噴出水量が吸込口41からの吸込水量よりも少ない場合、水槽10内に貯留される水量は減って行き、水槽10の喫水線が下がり、一方、濾過槽20の喫水線が上がる。水槽10側の喫水線が下がると水槽10の底部にかかる水圧は減少し、噴出口31における水圧が低下することとなる。水中ポンプ30が噴出口31から噴出水流を押し出す際には噴出口31にかかる水圧が負荷となっているがこの負荷が低下することとなり、水中ポンプ30が噴出口31から噴出する水量は増えることとなる。また、濾過槽20の喫水線が上がると濾過槽20の底面近くの水圧は上がることとなり、水中ポンプの吸い込み側の圧力が高くなる。そのため、水中ポンプ30の吸い込みエネルギーは小さくて済み、水中ポンプ30が噴出口31から噴出する水量は増えることとなる。つまり、噴出水量が吸込水量よりも少なく、水槽10の喫水線が下がり、濾過槽20の喫水線が上がると水中ポンプのポンプ能力の付加が小さくなるので噴出水量が増え、噴出水量と吸込水量のバランスするようになる。なお、オーバーフロー口には、水槽側から濾過槽側への一方通行になるように逆止弁を設けられており、オーバーフロー口から濾過槽を通らずに水槽にショートカットした流れが発生しないように工夫されている。
【0046】
次に、給餌に対する工夫について述べる。
クラゲ類などの浮遊生物は、他の動物性プランクトンなどを捕食するため、餌は小さな生餌や浮遊性の餌である場合が多い。かなり小さい場合も想定される。餌が濾過槽20に汲み上げられてしまうと餌が無駄になってしまうため、餌が吸込口41から吸込まれないようにする工夫が必要である。一方、水槽内には、水垢、ゴミ、餌の食べ残しなど、様々な理由により除去が必要な不要物が生じる。これら不要物の大きさは、餌の大きさと同等または餌の大きさよりも大きい場合もある。そのため、吸込口41に対して単に餌が通り抜けられない目の細かいメッシュ構造体を設ければ済むものではない。そこで、本発明では以下のように工夫する。
【0047】
まず、吸込口41において、浮遊生物が通過せず、浮遊性の餌や排泄物等が通過する大きさの網目を備えた粗メッシュ構造体43を設ける。また、オーバーフロー口50において、浮遊生物が通過せず、浮遊性の餌も通過しない大きさの網目を備えた細メッシュ構造体51を設ける。
つまり、吸込口41は、浮遊生物自体は通過しないが餌と不要物が通過しうるものとし、オーバーフロー口50は、浮遊生物、餌の両者共、通過しないものとする。
【0048】
ここで、浮遊生物の給餌時には、吸込機構であるエアリフトポンプ40を停止して吸込口41を介した濾過槽への水の吸い込みを停止する。ここで、浮遊生物の給餌時には、吸込口からの吸込みを停止させて、餌が無駄に捨てられる事を防ぐことが必要であるが、循環系統が2系統有るため、エアリフトポンプ40を止めて吸込口からの吸込みを停止しても、噴出口31を介した噴出は継続するため、浮遊生物に必要な流れは止まらず、水槽10に貯留される水量が増え、オーバーフローが発生し、濾過槽へと流れ込んでしまう。ここで、オーバーフロー口51には、細メッシュ構造体52が有るため、餌は無駄に捨てられる事なく、メッシュより細かな懸濁物や水溶性の有害物質を濾過槽で処理することが可能となっている。
【0049】
なお、吸込口41を介した濾過槽への水の吸い込みを停止している間も、クラゲ類などの浮遊生物の生存のため、水流となる噴出水流は与える必要はあり、噴出口31を介した噴出は継続するため、水槽10に貯留される水量が増え、オーバーフローが発生するが、オーバーフロー口51を介した濾過槽20への水の溢れ出しは可能であり、かつ、給餌した餌はオーバーフロー口51の細メッシュ構造体52を通過することはないため餌は水槽10内に滞留する。
【0050】
一方、給餌時以外の通常時には、吸込機構であるエアリフトポンプ40を作動して吸込口41を介した濾過槽20への水の吸い込みを実行し、給餌後に残存している餌も含め、不要物が濾過槽20へ移動するようにする。
【0051】
上記の工夫により、給餌時には給餌した餌が濾過槽20へ汲み上げられることはなく餌が無駄にならず、給餌時以外の通常時には、食べ残しの餌も含めた不要物が濾過槽20へ汲み上げられるので水槽10の飼育環境を良好に維持することができる。
【0052】
なお、図示を省略したが、飼育水槽装置内に温度調整機構を設けておく構成とすることが好ましい。例えば、ペルチェ素子等を用いた加熱冷却装置によって、濾過槽側を加熱・冷却する構成とすれば、小型で室温の影響を受けにくい飼育水槽装置とする事ができる。
【実施例2】
【0053】
実施例2にかかる浮遊生物の飼育水槽装置100aは、水槽10の周りに照明を配し、浮遊生物をさらに美しく鑑賞できるように工夫したものである。
図8は水槽10の周囲に照明となるLED60を多数配した構成例を水槽10の縦断面において正面から見た様子を模式的に示す図である。LED60の制御装置などの図示は省略している。
【0054】
水槽10は透明なアクリル板などであるため周囲のLED60から発せられる光が水槽10の中に綺麗に投影され、浮遊生物が照らされてあたかも浮遊生物が様々な彩りを持って幻想的に遊泳するように見える。
この例では複数のLED60を搭載したLED基板を水槽10の周囲4方向に配した例となっているが、LEDの配列パターンなどは様々なものが可能である。
LED60の発色の色合いを変えたり点灯・点滅のパターンを変えたりすれば、さらに興味深い鑑賞が可能となる。
【0055】
上記のような照明装置により、浮遊生物を美しく浮き上がらせて美しく見せることができ、また、クラゲ等の浮遊生物には渇虫藻を体内に持つ種がいて、光による光合成によってその生物の栄養源が作られるので生育の為に有用である。
【0056】
なお、直接日射を当てると、水槽の水温が上昇しすぎる恐れが有るので、余り熱を持たないLED60を近傍から照射効率の高い状況で与えるようになっており効果的である。また、自然光には光合成に必要の無い波長も含んでいるところ、LED60照明は光合成に必要な450 nm近傍(青色)と660 nm近傍(赤色)のみを選択して照射する事ができるため更に生育に効果的な照射が行える。
【0057】
以上、本発明の浮遊生物の飼育水槽装置について好ましい実施例を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の浮遊生物の飼育水槽装置は、クラゲ類などの浮遊生物を長期間飼育および育成する飼育水槽装置に適用することができる。また、クラゲ類などの浮遊生物の飼育空間を美しく見せるディスプレイ装置として適用することができる。本発明の浮遊生物の飼育水槽装置で飼育可能な浮遊生物としてはクラゲ類のほか、動物性プランクトン、植物性プランクトン、イカ・タコ・甲殻類の幼生など、自己遊泳力が弱い状態の生物など多様なものがある。
また、照明装置を組み合わせることにより、飼育水槽内を美しくみせる事ができ、また、成育に必要な波長を水槽の温度変化を与えずに選択的に与える事によって更に生育環境を好くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の浮遊生物の飼育水槽装置100の基本構成を正面から見た様子を模式的に示す正面図
【図2】本発明の浮遊生物の飼育水槽装置100の基本構成を上面から見た様子を模式的に示す平面図
【図3】水槽10の縦断面を模式的に示した図
【図4】前面にある水槽10を外して背面の濾過槽20の構成を正面から見た様子を模式的に示した図
【図5】噴出口31とその噴出水流の方向、水槽10の底面、吸込口41の位置関係、コアンダ効果を模式的に示す図
【図6】水槽10内の内壁面を周回する噴出水流を模式的に示す図
【図7】濾過槽20内での水の循環の様子を模式的に示す図
【図8】水槽10の周囲に照明となるLED60を多数配した構成例を水槽10の縦断面において正面から見た様子を模式的に示す図
【符号の説明】
【0060】
100 浮遊生物の飼育水槽装置
10 水槽
20 濾過槽
21 濾過槽セル1
22 濾過槽セル2
23 濾過槽セル3
24 隔壁1
25 隔壁2
30 水中ポンプ
31 噴出口
32 パイプ
40 エアリフトポンプ
41 吸込口
42 エアチューブ
43 粗メッシュ構造体
44 排出口
50 オーバーフロー口
51 細メッシュ構造体
60 LED

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦断面が略円形または5角形以上の多角形で上面に開口を持つ水槽と、
前記水槽の背面側に設けられ、前記水槽から受け入れた水を濾過する濾過槽と、
前記水槽の壁面に噴出口が設けられ、前記濾過槽で濾過された水を受け取り前記噴出口を介して前記水槽の内周壁に沿った方向に噴出する噴出機構と、
前記水槽における前記噴出口からの噴出方向前方の壁面に吸込口が設けられ、前記吸込口を介して前記水槽内の水を吸い込んで前記濾過槽に受け渡す吸込機構を備えたことを特徴とする浮遊生物の飼育水槽装置。
【請求項2】
前記噴出口からの噴出水流の噴出角度が、当該水流が前記吸込口前面を通過し前記水槽の内周壁に沿った水流となるコアンダ効果が得られるように調整されたことを特徴とする請求項2に記載の浮遊生物の飼育水槽装置。
【請求項3】
前記噴出口から噴出される水流を方向性を持った水流とし、前記吸込口から吸い込まれる水流を方向性を持たない水流とした請求項1または2に記載の浮遊生物の飼育水槽装置。
【請求項4】
前記水槽の上部付近にオーバーフロー時に前記水槽から前記濾過槽に溢れた分の水が通過するオーバーフロー口を備え、
前記吸込口を介した水の吸い込み量よりも前記噴出口を介した水の噴出量の方が多い場合に前記水槽内から溢れ出した水を前記水槽から前記濾過槽へ移動するようにした請求項1から3のいずれか1項に記載の浮遊生物の飼育水槽装置。
【請求項5】
前記吸込口において、前記浮遊生物が通過せず、前記浮遊生物の餌、食べかす、排泄物等が通過する大きさの網目を備えた粗メッシュ構造体を設け、
前記オーバーフロー口において、前記浮遊生物が通過せず、餌も通過しない大きさの網目を備えた細メッシュ構造体を設け、
前記浮遊生物への給餌時には、前記吸込機構を停止して前記吸込口を介した前記濾過槽への水の吸い込みを停止し、前記オーバーフロー口を介した前記濾過槽への水の溢れ出しのみとし、前記給餌した餌が前記濾過槽へ移動することを防止し、
前記浮遊生物への給餌時以外の通常時には、前記吸込機構を作動して前記吸込口を介した前記濾過槽への水の吸い込みを実行し、前記給餌後に残存している餌、食べかす、排泄物等が前記濾過槽へ移動するようにしたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の浮遊生物の飼育水槽装置。
【請求項6】
前記噴出機構における水を噴出させる動力源として前記濾過槽内に設けられた水中ポンプを使用し、前記吸込機構における水を吸い込む動力源として前記濾過槽内で上昇水流を生じさせるエアリフトポンプを使用する構成とした請求項1から5のいずれか1項に記載の浮遊生物の飼育水槽装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−57383(P2010−57383A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223902(P2008−223902)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(508264313)
【Fターム(参考)】