浴室
【課題】 浴槽近傍の任意の位置で使用できるとともに、手すり装置が設けられた壁面部の撓みを少なくすることのできる浴室を提供すること。
【解決手段】 浴槽13の連続する二つの側面に隣接して設置された二つの壁面部12,15に掛け渡した状態で浴槽13の上方に手すり装置20を取り付けた。また、壁面部12にレール部材21を設けるとともに壁面部15にレール部材22を設けて、手すり部材23の一端にレール部材21にスライド移動可能な状態で係合する連結部材24を取り付け、手すり部材23の他端にレール部材22にスライド移動可能な状態で係合する連結部材25を取り付けた。さらに、レール部材21に間隔を保って複数のピン挿通孔21dを形成するとともに連結部材24にピン挿通孔34を形成して、両ピン挿通孔21d,34に固定ピン35を挿通させることにより手すり部材23を固定できるようにした。
【解決手段】 浴槽13の連続する二つの側面に隣接して設置された二つの壁面部12,15に掛け渡した状態で浴槽13の上方に手すり装置20を取り付けた。また、壁面部12にレール部材21を設けるとともに壁面部15にレール部材22を設けて、手すり部材23の一端にレール部材21にスライド移動可能な状態で係合する連結部材24を取り付け、手すり部材23の他端にレール部材22にスライド移動可能な状態で係合する連結部材25を取り付けた。さらに、レール部材21に間隔を保って複数のピン挿通孔21dを形成するとともに連結部材24にピン挿通孔34を形成して、両ピン挿通孔21d,34に固定ピン35を挿通させることにより手すり部材23を固定できるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽に隣接して設置された壁面部に取り付けられ入浴者が浴槽から出入りする際に使用する手すり装置が備わった浴室に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、浴室内に設置される浴槽の近傍には手すりが設けられており、入浴者がこの手すりを持つことにより浴槽から出入りする際の動作がし易くなる。また、入浴者が老人や身体に障害を持った人である場合には、この手すりの位置を任意の位置に変更して入浴者の移動がさらにし易くなるようにすることが好ましく、このため、浴槽の近傍で移動可能になった手すりを備えた浴室も開発されている(例えば、特許文献1参照)。この浴室では、上下に平行して水平方向に延びる一対のレール部材を各壁面部に設けている。そして、浴槽の長手方向の側面に隣接する壁面部における下側のレール部材に、水平方向に延び平面視が略コ字状になった手すりをレール部材に沿って位置変更可能な状態で取り付けている。
【0003】
また、浴槽の短手方向の側面に隣接する壁面部と、浴槽から離間した状態で浴槽に対向する壁面部とに設けられた一対のレール部材には、それぞれ上下方向に延び側面視が略コ字状になった手すりをレール部材に沿って位置変更可能な状態で掛け渡している。このため、入浴者は各手すりを持って浴室内を移動することができる。しかしながら、前述した従来の手すりは壁面部に設けられたレール部材に沿ってのみ位置変更が可能であるため、手すりを壁面部から離れた任意の位置に移動させることはできない。このため、入浴者が壁面部から離れた場所で手すりを使用することができず、手すりを使用できる場所が限られるという問題がある。また、手すりの数が多くなるという問題もある。
【0004】
このため、手すりを壁面部に対して回転可能にして手すりの位置を変更できるようにした浴室用手すり装置も開発されている(例えば、特許文献2参照)。この浴室用手すり装置が備わった浴室では、出入口である引戸から壁面部に沿って浴室の内部側に補助手すりが設けられている。そして、壁面部におけるこの補助手すりの室内側端部の近傍に回動部材を備えた支持部材が設けられ、この回動部材に手すり部材が回転方向に位置を変更可能な状態で取り付けられている。したがって、入浴者は、引戸から補助手すりを伝って手すり部材まで移動し、手すり部材をつかんだのちには、手すり部材に伝って浴槽内に移動することができる。この場合、手すり部材の回転方向の位置を変更することにより、入浴者は浴槽のどの部分からでも浴槽内に入ることができる。
【特許文献1】特開平7−189507号公報
【特許文献2】特開平9−94277号公報
【発明の開示】
【0005】
しかしながら、前述した浴室用手すり装置は一つの壁面部で支持されるためその壁面部に大きな荷重が掛かる。その結果、浴室用手すり装置が取り付けられる壁面部が他の壁面部よりも撓み易くなる。
【0006】
本発明は、前述した問題に対処するためになされたもので、その目的は、浴槽近傍の任意の位置で使用できるとともに、手すり装置が設けられた壁面部の撓み量を少なくすることにより安心して使用できる浴室を提供することにある。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係る浴室の構成上の特徴は、浴槽に隣接して設置された壁面部に取り付けられ入浴者が浴槽から出入りする際に使用する棒状の手すり部材を有する手すり装置が備わった浴室であって、手すり装置が浴槽の連続する二つの側面に隣接して設置され略直交して連続する二つの壁面部に掛け渡されて手すり部材に浴槽の湯面上方に位置する部分が備わっていることにある。
【0008】
このように構成した本発明に係る浴室に備わった手すり装置は、二つの壁面部に掛け渡されているため、手すり装置に掛かる荷重が二つの壁面部に分散され各壁面部に生じる撓み量が少なくなる。このため、入浴者は、安心して手すり装置に体重を掛けることができる。さらに、手すり装置が二つの壁面部に掛け渡されているため、手すり部材を所定の壁面部に沿った部分だけでなく浴槽の湯面上方の部分にも位置させることができる。この結果、入浴者が手すり部材を持って浴槽内に入る際の移動がし易くなる。
【0009】
また、本発明に係る浴室の他の構成上の特徴は、手すり装置が、二つの壁面部にそれぞれ設けられ手すり部材の対応する端部と係合位置を変更可能にして係合できる被係合部を備え、手すり部材の両端部と、二つの壁面部にそれぞれ設けられた被係合部との係合位置を変更することにより、手すり部材の取り付け位置を変更可能にしたことにある。
【0010】
これによると、手すり部材の端部をそれぞれ二つの壁面部に設けられた被係合部の任意の部分に係合させることにより、手すり部材を二つの壁面部の一方に沿わせたり、浴槽の湯面側に突出させたりすることができる。また、手すり部材を浴槽の湯面側に突出させる際の突出量も任意に設定することができる。この場合、二つの壁面部と手すり部材とで囲まれる部分の平面視による形状が略二等辺三角形になったときの手すり部材の突出量が最大になる。また、本発明によると、入浴者は1個の手すり装置を用いて二つの壁面部に沿った移動が可能になる。なお、この場合の手すり部材の棒状は、断面が円形や四角形等の棒状に限らず、平面部を備えた板状が長くなった棒状でもよく、直線状に延びる棒状でも湾曲や屈曲した棒状でもよい。
【0011】
本発明に係る浴室のさらに他の構成上の特徴は、被係合部を二つの壁面部にそれぞれ設けられた略水平方向に延びるレール部材で構成するとともに、レール部材に対してスライド移動可能な状態で係合する連結部材を手すり部材の両端部にそれぞれ水平方向に回転自在な状態で取り付けたことにある。これによると、簡単な構造で手すり部材を自在に移動させるための機構を構成することができる。
【0012】
本発明に係る浴室のさらに他の構成上の特徴は、浴槽の平面視における形状を一方から他方に向って長くなった形状に形成し、二つの壁面部のうちの少なくとも浴槽の長手側の側面に沿った壁面部に設けられたレール部材に位置決用挿通孔をレール部材の長手方向に間隔を保って複数形成するとともに、そのレール部材に係合する連結部材に位置決用挿通孔に連通可能な固定用挿通孔を形成し、複数の位置決用挿通孔のうちの所定の位置決用挿通孔と固定用挿通孔との位置を合わせた状態で、位置決用挿通孔と固定用挿通孔とに固定ピンを挿通させることにより手すり部材を固定できるようにしたことにある。
【0013】
これによると、位置決用挿通孔と固定用挿通孔とに固定ピンを挿通させることにより手すり部材を固定でき、位置決用挿通孔と固定用挿通孔とから固定ピンを引き抜くことにより手すり部材をレール部材に沿って移動可能な状態にすることができる。このため、手すり部材を固定する操作と移動可能な状態にする操作とが容易になる。また、浴槽の長手側の側面に沿った壁面部のレール部材に位置決用挿通孔を設けることにより、位置決用挿通孔と固定用挿通孔への固定ピンの着脱操作を、浴槽内にいる入浴者が行うことができるようになる。さらに、二つの壁面部に設けられたレール部材にそれぞれ位置決用挿通孔を設けるとともに、両連結部材にそれぞれ固定用挿通孔を形成して、入浴者の居る場所に応じ一方の位置決用挿通孔と固定用挿通孔への固定ピンの着脱操作ができるようにすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1は、同実施形態に係る手すり装置20が設置された浴室10を示している。この浴室10では、浴室10と脱衣室(図示せず)とを区切る壁面部11または16に出入り用のドア(図示せず)が設けられている。そして、浴室10の左側には、浴室10と外部とを区切る壁面部12が設けられ、この壁面部12に沿って浴槽13が設置されている。浴槽13は、前後方向(図1における上下方向)が左右方向よりも長くなった矩形に形成されている。
【0015】
そして、この浴槽13は、長手方向の一方の側面を壁面部12に沿わせ、長手方向の他方の側面の下端側部分を洗い場14に沿わせている。また、浴槽13は、幅の小さな後部側の側面を壁面部11の左側部分に沿わせ、幅の小さな前部側の側面を壁面部11に対向して設置された壁面部15の左側部分に沿わせている。そして、壁面部12に対向する壁面部16と浴槽13との間における壁面部15に沿った部分には、カウンター17が設けられ、壁面部15におけるカウンター17の上方部分に水栓や鏡等(図示せず)が設けられている。
【0016】
手すり装置20は、壁面部12に設けられたレール部材21、壁面部15に設けられたレール部材22、棒状の手すり部材23、手すり部材23の後部側端部に取り付けられレール部材21に係合する連結部材24および手すり部材23の前部側端部に取り付けられレール部材22に係合する連結部材25で構成されている。レール部材21は、壁面部12における浴槽13よりもやや上方部分に設けられており、浴槽13の前後方向の略中央部に対応する部分から後方の壁面部11の近傍部分に掛けて水平方向に延びている。
【0017】
このレール部材21は、図2に示したように、壁面部12に接面する平面板状の接面部21aと、接面部21aの上端部から室内側に延びたのちに屈曲して下方に延びる上部屈曲片21bと、接面部21aの下端部から室内側に延びたのちに屈曲して上方に延びる下部屈曲片21cとからなる断面形状が略C字状の部材で構成されている。そして、レール部材21の接面部21aには、接面部21aの長手方向に所定間隔を保ってねじの軸部を通すすきま孔であるねじ挿通孔が複数形成されており、このねじ挿通孔にねじ26aを通すとともに、ねじ26aを壁面部12に螺合させることによりレール部材21は壁面部12に固定されている。
【0018】
また、上部屈曲片21bの上面には上下に貫通する本発明の位置決用挿通孔としての複数のピン挿通孔21dが上部屈曲片21bの長手方向に略10cm程度の間隔を保って形成されている。レール部材22は、壁面部15における浴槽13よりもやや上方部分に設けられており、浴槽13の左右の幅方向に略対応する部分に水平方向に延びている。このレール部材22は、図3に示したように、壁面部15に接面する平面板状の接面部22aと、接面部22aの上端部から室内側に延びたのちに屈曲して下方に延びる上部屈曲片22bと、接面部22aの下端部から室内側に延びたのちに屈曲して上方に延びる下部屈曲片22cとからなる断面形状が略C字状の部材で構成されている。
【0019】
そして、レール部材22の接面部22aには、上下に間隔を保った一対のねじ挿通孔が接面部22aの長手方向に間隔を保って複数対形成されており、この各ねじ挿通孔にねじ26bを通すとともに、ねじ26bを壁面部15に螺合させることによりレール部材22は壁面部15に固定されている。なお、レール部材21とレール部材22とで、本発明に係る被係合部が構成される。
【0020】
また、手すり部材23は、長さが、浴槽13の長手方向の長さよりもやや短い直線状の棒体で構成されている。そして、この手すり部材23の本体部分は、図4ないし図6に示したように、平面視による幅が側面視による厚みよりも大きくなった平面状部分23aと、平面状部分23aの下面における壁面部12,15側に位置する縁部に沿って設けられ下方に突出する断面形状が略半円状の突部23bとで構成されている。また、平面状部分23aの両端部には、それぞれ平面状部分23aよりも厚みがやや小さく平面視が半円状になった係合片27,28が形成されている。そして、係合片27,28の略中央にそれぞれ上下に貫通する係合穴27a,28aが形成されている。
【0021】
手すり部材23と連結部材24が回転可能となるように、手すり部材23の係合片27が連結部材24にねじ29aで連結されている。また、手すり部材23と連結部材25が回転可能となるように、手すり部材23の係合片28が連結部材25にねじ29bで連結されている。連結部材24は、連結部本体31と、2個のベアリング32a,32bとで構成されている。そして、連結部本体31は、レール部材21の長手方向に沿った部分が長くなった矩形の基部31aと、基部31aの室内側部分に上下に間隔を保って形成され平面視における基部31a側部分が略四角形で先端側が半円状になった上下一対の支持片31b,31cと、基部31aの長手方向の中央から壁面部12側に突出する突出片31dとで構成されている。
【0022】
連結部本体31の上下方向の厚みは、レール部材21における上部屈曲片21bの下端部と下部屈曲片21cの上端部との間の長さよりもやや小さく設定され、突出片31dを上部屈曲片21bと下部屈曲片21cとの間の隙間からレール部材21内に挿入できるようになっている。そして、基部31aの後面における突出片31dの両側に設けられた軸部33(一方しか図示せず)を介してそれぞれベアリング32a,32bが取り付けられている。
【0023】
ベアリング32a,32bは、レール部材21内に収容できる大きさに形成されており、上部屈曲片21bと下部屈曲片21cとでレール部材21内から室内側に外れることを防止された状態でレール部材21内に収容されている。そして、このベアリング32a,32bの軸部33を中心とした回転により連結部材24はレール部材21に沿って移動可能になっている。また、突出片31dには、上面から下面に貫通する本発明の固定用挿通孔としてのピン挿通孔34が形成されている。
【0024】
このため、レール部材21に形成された複数のピン挿通孔21dのうちの所定のピン挿通孔21dにピン挿通孔34を合わせた状態で、両ピン挿通孔21d,34に固定ピン35を挿通させることにより、連結部材24をレール部材21に固定できる。この場合、固定ピン35の頭部はレール部材21の上面から突出した状態になる。そして、この固定ピン35は、頭部を持って上方に引き上げることにより簡単に両ピン挿通孔21d,34から外れ、連結部材24のレール部材21への固定を解除する。また、支持片31bには、上下に貫通する挿通孔36aが形成され、支持片31cには、上下に貫通するねじ穴36bが形成されている。
【0025】
挿通孔36aは上部側の直径が下部側の直径よりも大きくなった2段状の穴部に形成され、ねじ穴36bの内周面にはねじ部が形成されている。そして、支持片31b,31c間に、手すり部材23の係合片27を入れ、挿通孔36aとねじ穴36bに係合穴27aを合わせた状態で、挿通孔36aと係合穴27aにねじ29aを挿通させねじ29aの先端部をねじ穴36bに螺合させることにより、手すり部材23と連結部材24とは、ねじ29aを中心として互いに回転可能な状態で連結されている。この場合、ねじ29aの頭部は挿通孔36aの上部側部分の内部に位置して支持片31bの上面に突出しない。
【0026】
連結部材25は、連結部本体38と、2個のベアリング39(1個しか図示せず)とで構成されている。そして、連結部本体38は、レール部材22の長手方向に沿った部分が長くなった矩形の基部38aと、基部38aの室内側部分に上下に間隔を保って形成された平面視が長方形の上下一対の支持片38b,38cとで構成されている。連結部本体38の上下方向の厚みは、レール部材22における上部屈曲片22bの下端部と下部屈曲片22cの上端部との間の長さよりもやや小さく設定され、基部38a側部分を上部屈曲片22bと下部屈曲片22cとの間の隙間からレール部材22内に挿入できるようになっている。
【0027】
そして、図7ないし図9に示したように、基部38aの後面(壁面部15側に位置する面)における左右両側部分に軸部41,42が間隔を保って形成されている。軸部41,42の先端部には、レール部材22の接面部22aに対して滑り易いフッ素系樹脂からなるスラスト調整部41a,42aが設けられ、このスラスト調整部41a,42aと軸部41,42の本体側部分との間には溝部41b,42bがそれぞれ円周に沿って形成されている。2個のベアリング39は、それぞれ軸部41,42に支持され、溝部41b,42bに取付けたEリング43で抜け止めされた状態でレール部材22内に設置されている。なお、ベアリング39と、上部屈曲片22bおよび下部屈曲片22cとの間にはワッシャ44が取り付けられている。
【0028】
このベアリング39の軸部41,42を中心とした回転により連結部材25はレール部材22に沿って移動可能になっている。また、支持片38bには、上下に貫通する挿通孔45aが形成され、支持片38cには、上下に貫通するねじ穴45bが形成されている。挿通孔45aは上部側の直径が下部側の直径よりも大きくなった2段状の穴部に形成され、ねじ穴45bの内周面にはねじ部が形成されている。
【0029】
そして、支持片38b,38c間に、手すり部材23の係合片28を入れ、挿通孔45aとねじ穴45bに係合穴28aを合わせた状態で、挿通孔45aと係合穴28aにねじ29bを挿通させねじ29bの先端部をねじ穴45bに螺合させることにより、手すり部材23と連結部材25とは、ねじ29bを中心として互いに回転可能な状態で連結されている。この場合も、ねじ29bの頭部は挿通孔45aの上部側部分の内部に位置して支持片38bの上面に突出しない。
【0030】
この構成において、入浴者A(図10参照)が入浴する際には、まず、手すり部材23の後部側をレール部材21の前部側に位置させるとともに、手すり部材23の前部側をレール部材22の右側に位置させて、図10に示したように、手すり部材23を浴槽13の湯面側に突出させた状態にしておく。このため、入浴者Aは、浴槽13の湯面上方に位置する手すり部材23を持って浴槽13内に入ることができる。この場合、入浴者Aは、手すり部材23を手で持つだけでなく、体重を手すり部材23に掛けるようにして移動することができる。
【0031】
また、手すり部材23の上面は平面状に形成されているため、この移動のときに、入浴者Aは手すり部材23に体重を掛け易くなるとともに、手すり部材23から手が滑りにくくなる。そして、入浴者Aが湯船に浸かったときに、手すり部材23が邪魔になる場合には、図11に示したように、手すり部材23を壁面部12に沿わせておく。この場合、固定ピン35を上方に引き上げて連結部材24のレール部材21への固定を解除したのちに、手すり部材23の後部側をレール部材21の後部側に位置させるとともに、手すり部材23の前部側をレール部材22の左側に位置させる。
【0032】
そして、手すり部材23を壁面部12に沿わせた状態で、ピン挿通孔21dとピン挿通孔34とに固定ピン35を挿通させることにより、手すり部材23をレール部材21に固定する。これによって、手すり部材23の前部側もレール部材22に対して固定された状態になる。また、入浴者Aが浴槽13から立ち上がる際には、図11のように、手すり部材23を壁面部12に沿わせたままの状態にしてもよいし、図10のように、手すり部材23を浴槽13の湯面側に突出させた状態にしてもよい。
【0033】
このように、本実施形態に係る手すり装置20は、入浴者Aを支持するための手すり部材23を浴槽13の湯面上方で移動可能な状態にして浴槽13に隣接する壁面部12,15に掛け渡されている。このため、手すり部材23の位置を適宜変更することができ、これによって入浴者Aが浴槽13から出入りする際の動作がし易くなる。また、手すり部材23に掛かる入浴者Aの体重が分散され両壁面部12,15に生じる撓み量が少なくなる。この結果、見かけの手すり装置20の剛性が高くなって手すり装置20を使用する際の変位量が少なくなり、安心して手すり装置20を使用できる。
【0034】
また、手すり部材23の上面が平面状に形成されているため、入浴者Aは、手すり部材23に体重を掛け易くなる。さらに、手すり部材23の下面には、断面形状が略半円状の突部23bが形成されているため強度が大きくなる。また、手すり部材23の位置を変更するための操作が、固定ピン35をピン挿通孔21dとピン挿通孔34から引き抜いたのちに手すり部材23の位置を調節し、他のピン挿通孔21dとピン挿通孔34に固定ピン35を挿通させるだけで済むため簡単である。
【0035】
また、ピン挿通孔21dを備えたレール部材21を浴槽13の長手方向の側面に隣接する壁面部12に設けたため、ピン挿通孔21dとピン挿通孔34への固定ピン35の着脱操作を浴槽13内にいる入浴者Aが行うことができる。さらに、複数のピン挿通孔21dが、略10cmの短い間隔でレール部材21に形成されているため、手すり部材23の位置を細かな範囲で調節できる。また、連結部本体38の軸部41,42の先端部には、スラスト調整部41a,42aが設けられているため、連結部材25は、がたつくことなくレール部材22に沿ったスムーズな移動ができる。
【0036】
また、図12は、本実施形態の変形例による浴室が備える手すり装置50を示している。この手すり装置50では、手すり部材53が真っ直ぐの棒体でなく、下方側から見た状態で略L形になった棒体で構成されている。そして、L形の短い片を後方に位置させるとともに突出した角部を浴槽54の中央側に向けた状態で手すり部材53を設置している。この手すり装置50を備えた浴室のそれ以外の部分の構成については、前述した手すり装置20を備えた浴室10と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。これによると、手すり部材53をさらに浴槽54の中央側に位置させることができるため、洗い場14側にいる入浴者Aの手が届き易くなる。この手すり装置50を備えた浴室のそれ以外の作用効果については、前述した手すり装置20を備えた浴室10と同様である。
【0037】
また、図13は、本実施形態の他の変形例による浴室が備える手すり装置60を示している。この手すり装置60では、手すり部材63が真っ直ぐやL形の棒体でなく、平面視が弓形に湾曲した棒体で構成されている。そして、弓形の突出した部分を浴槽64の中央側に向けた状態で手すり部材63を設置している。この手すり装置60を備えた浴室のそれ以外の部分の構成については、前述した手すり装置20を備えた浴室10と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。これによると、手すり部材63の全体、特に中央部分をさらに浴槽64の中央側に位置させることができる。この手すり装置60を備えた浴室のそれ以外の作用効果については、前述した手すり装置20を備えた浴室10と同様である。
【0038】
また、本発明に係る浴室は、前述した実施形態に限定するものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した実施形態では、壁面部12に設けられた被係合部として、レール部材21を用いているが、この被係合部としては、手すり部材23等の端部と係合可能な凹部を備えた複数の係合部材を壁面部12に一定間隔で取り付けたもので構成してもよい。また、横長の棒材等の上面に間隔を保って手すり部材23等の端部と係合可能な凹部を設けたものを被係合部として用いることもできる。同様に、レール部材22に代えて、凹部を備えた複数の係合部材や凹部を備えた横長の棒材等を用いることもできる。要は、被係合部は手すり部材23等を位置変更可能な状態で支持できるものであればよい。
【0039】
また、前述した実施形態では、ピン挿通孔21dとピン挿通孔34とに固定ピン35を上方から挿通させることにより、手すり部材23をレール部材21に固定するようにしているが、この機構に代えて、摩擦を利用したブレーキ機構を用いて手すり部材23等を任意の位置に固定できるようにすることもできる。また、上部屈曲片21bの側面部にピン挿通孔を設けるとともに、連結部本体31の上面にピン挿通孔を備えた突片を上部屈曲片21bの側面部に対向させて設け、両ピン挿通孔に対して水平方向に固定ピンを挿通させることもできる。
【0040】
さらに、スラスト調整部41a,42aをフッ素系樹脂で構成しているが、フッ素系樹脂に代えて、ナイロン樹脂、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを用いてもよい。また、この材料で、連結部本体31におけるレール部材21と接触する部分を構成してもよい。さらに、手すり部材としては、前述した直線状、L形、弓形に限らず他の形状でもよく、浴槽の中央側上方に突出できる形状であればよい。また、それ以外の部分の構成についても本発明の技術的範囲内で適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係る手すり装置を備えた浴室を示した平面図である。
【図2】一方のレール部材と連結部材とを示した分解斜視図である。
【図3】他方のレール部材と連結部材とを示した一部切欠き斜視図である。
【図4】手すり部材の平面図である。
【図5】手すり部材の正面図である。
【図6】図4の6−6断面図である。
【図7】他方の連結部材の本体部分の斜視図である。
【図8】図7の連結部材を後側から見た状態を示した斜視図である。
【図9】図7の9−9断面図である。
【図10】入浴者が手すり装置を使用して浴槽内に入る状態を示した説明図である。
【図11】入浴者が浴槽内に入った状態を示した説明図である。
【図12】変形例による手すり装置を示した平面図である。
【図13】他の変形例による手すり装置を示した平面図である。
【符号の説明】
【0042】
10…浴室、12,15…壁面部、13,54,64…浴槽、20,50,60…手すり装置、21,22…レール部材、21d,34…ピン挿通孔、23,53,63…手すり部材、24,25…連結部材、35…固定ピン。
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽に隣接して設置された壁面部に取り付けられ入浴者が浴槽から出入りする際に使用する手すり装置が備わった浴室に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、浴室内に設置される浴槽の近傍には手すりが設けられており、入浴者がこの手すりを持つことにより浴槽から出入りする際の動作がし易くなる。また、入浴者が老人や身体に障害を持った人である場合には、この手すりの位置を任意の位置に変更して入浴者の移動がさらにし易くなるようにすることが好ましく、このため、浴槽の近傍で移動可能になった手すりを備えた浴室も開発されている(例えば、特許文献1参照)。この浴室では、上下に平行して水平方向に延びる一対のレール部材を各壁面部に設けている。そして、浴槽の長手方向の側面に隣接する壁面部における下側のレール部材に、水平方向に延び平面視が略コ字状になった手すりをレール部材に沿って位置変更可能な状態で取り付けている。
【0003】
また、浴槽の短手方向の側面に隣接する壁面部と、浴槽から離間した状態で浴槽に対向する壁面部とに設けられた一対のレール部材には、それぞれ上下方向に延び側面視が略コ字状になった手すりをレール部材に沿って位置変更可能な状態で掛け渡している。このため、入浴者は各手すりを持って浴室内を移動することができる。しかしながら、前述した従来の手すりは壁面部に設けられたレール部材に沿ってのみ位置変更が可能であるため、手すりを壁面部から離れた任意の位置に移動させることはできない。このため、入浴者が壁面部から離れた場所で手すりを使用することができず、手すりを使用できる場所が限られるという問題がある。また、手すりの数が多くなるという問題もある。
【0004】
このため、手すりを壁面部に対して回転可能にして手すりの位置を変更できるようにした浴室用手すり装置も開発されている(例えば、特許文献2参照)。この浴室用手すり装置が備わった浴室では、出入口である引戸から壁面部に沿って浴室の内部側に補助手すりが設けられている。そして、壁面部におけるこの補助手すりの室内側端部の近傍に回動部材を備えた支持部材が設けられ、この回動部材に手すり部材が回転方向に位置を変更可能な状態で取り付けられている。したがって、入浴者は、引戸から補助手すりを伝って手すり部材まで移動し、手すり部材をつかんだのちには、手すり部材に伝って浴槽内に移動することができる。この場合、手すり部材の回転方向の位置を変更することにより、入浴者は浴槽のどの部分からでも浴槽内に入ることができる。
【特許文献1】特開平7−189507号公報
【特許文献2】特開平9−94277号公報
【発明の開示】
【0005】
しかしながら、前述した浴室用手すり装置は一つの壁面部で支持されるためその壁面部に大きな荷重が掛かる。その結果、浴室用手すり装置が取り付けられる壁面部が他の壁面部よりも撓み易くなる。
【0006】
本発明は、前述した問題に対処するためになされたもので、その目的は、浴槽近傍の任意の位置で使用できるとともに、手すり装置が設けられた壁面部の撓み量を少なくすることにより安心して使用できる浴室を提供することにある。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係る浴室の構成上の特徴は、浴槽に隣接して設置された壁面部に取り付けられ入浴者が浴槽から出入りする際に使用する棒状の手すり部材を有する手すり装置が備わった浴室であって、手すり装置が浴槽の連続する二つの側面に隣接して設置され略直交して連続する二つの壁面部に掛け渡されて手すり部材に浴槽の湯面上方に位置する部分が備わっていることにある。
【0008】
このように構成した本発明に係る浴室に備わった手すり装置は、二つの壁面部に掛け渡されているため、手すり装置に掛かる荷重が二つの壁面部に分散され各壁面部に生じる撓み量が少なくなる。このため、入浴者は、安心して手すり装置に体重を掛けることができる。さらに、手すり装置が二つの壁面部に掛け渡されているため、手すり部材を所定の壁面部に沿った部分だけでなく浴槽の湯面上方の部分にも位置させることができる。この結果、入浴者が手すり部材を持って浴槽内に入る際の移動がし易くなる。
【0009】
また、本発明に係る浴室の他の構成上の特徴は、手すり装置が、二つの壁面部にそれぞれ設けられ手すり部材の対応する端部と係合位置を変更可能にして係合できる被係合部を備え、手すり部材の両端部と、二つの壁面部にそれぞれ設けられた被係合部との係合位置を変更することにより、手すり部材の取り付け位置を変更可能にしたことにある。
【0010】
これによると、手すり部材の端部をそれぞれ二つの壁面部に設けられた被係合部の任意の部分に係合させることにより、手すり部材を二つの壁面部の一方に沿わせたり、浴槽の湯面側に突出させたりすることができる。また、手すり部材を浴槽の湯面側に突出させる際の突出量も任意に設定することができる。この場合、二つの壁面部と手すり部材とで囲まれる部分の平面視による形状が略二等辺三角形になったときの手すり部材の突出量が最大になる。また、本発明によると、入浴者は1個の手すり装置を用いて二つの壁面部に沿った移動が可能になる。なお、この場合の手すり部材の棒状は、断面が円形や四角形等の棒状に限らず、平面部を備えた板状が長くなった棒状でもよく、直線状に延びる棒状でも湾曲や屈曲した棒状でもよい。
【0011】
本発明に係る浴室のさらに他の構成上の特徴は、被係合部を二つの壁面部にそれぞれ設けられた略水平方向に延びるレール部材で構成するとともに、レール部材に対してスライド移動可能な状態で係合する連結部材を手すり部材の両端部にそれぞれ水平方向に回転自在な状態で取り付けたことにある。これによると、簡単な構造で手すり部材を自在に移動させるための機構を構成することができる。
【0012】
本発明に係る浴室のさらに他の構成上の特徴は、浴槽の平面視における形状を一方から他方に向って長くなった形状に形成し、二つの壁面部のうちの少なくとも浴槽の長手側の側面に沿った壁面部に設けられたレール部材に位置決用挿通孔をレール部材の長手方向に間隔を保って複数形成するとともに、そのレール部材に係合する連結部材に位置決用挿通孔に連通可能な固定用挿通孔を形成し、複数の位置決用挿通孔のうちの所定の位置決用挿通孔と固定用挿通孔との位置を合わせた状態で、位置決用挿通孔と固定用挿通孔とに固定ピンを挿通させることにより手すり部材を固定できるようにしたことにある。
【0013】
これによると、位置決用挿通孔と固定用挿通孔とに固定ピンを挿通させることにより手すり部材を固定でき、位置決用挿通孔と固定用挿通孔とから固定ピンを引き抜くことにより手すり部材をレール部材に沿って移動可能な状態にすることができる。このため、手すり部材を固定する操作と移動可能な状態にする操作とが容易になる。また、浴槽の長手側の側面に沿った壁面部のレール部材に位置決用挿通孔を設けることにより、位置決用挿通孔と固定用挿通孔への固定ピンの着脱操作を、浴槽内にいる入浴者が行うことができるようになる。さらに、二つの壁面部に設けられたレール部材にそれぞれ位置決用挿通孔を設けるとともに、両連結部材にそれぞれ固定用挿通孔を形成して、入浴者の居る場所に応じ一方の位置決用挿通孔と固定用挿通孔への固定ピンの着脱操作ができるようにすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1は、同実施形態に係る手すり装置20が設置された浴室10を示している。この浴室10では、浴室10と脱衣室(図示せず)とを区切る壁面部11または16に出入り用のドア(図示せず)が設けられている。そして、浴室10の左側には、浴室10と外部とを区切る壁面部12が設けられ、この壁面部12に沿って浴槽13が設置されている。浴槽13は、前後方向(図1における上下方向)が左右方向よりも長くなった矩形に形成されている。
【0015】
そして、この浴槽13は、長手方向の一方の側面を壁面部12に沿わせ、長手方向の他方の側面の下端側部分を洗い場14に沿わせている。また、浴槽13は、幅の小さな後部側の側面を壁面部11の左側部分に沿わせ、幅の小さな前部側の側面を壁面部11に対向して設置された壁面部15の左側部分に沿わせている。そして、壁面部12に対向する壁面部16と浴槽13との間における壁面部15に沿った部分には、カウンター17が設けられ、壁面部15におけるカウンター17の上方部分に水栓や鏡等(図示せず)が設けられている。
【0016】
手すり装置20は、壁面部12に設けられたレール部材21、壁面部15に設けられたレール部材22、棒状の手すり部材23、手すり部材23の後部側端部に取り付けられレール部材21に係合する連結部材24および手すり部材23の前部側端部に取り付けられレール部材22に係合する連結部材25で構成されている。レール部材21は、壁面部12における浴槽13よりもやや上方部分に設けられており、浴槽13の前後方向の略中央部に対応する部分から後方の壁面部11の近傍部分に掛けて水平方向に延びている。
【0017】
このレール部材21は、図2に示したように、壁面部12に接面する平面板状の接面部21aと、接面部21aの上端部から室内側に延びたのちに屈曲して下方に延びる上部屈曲片21bと、接面部21aの下端部から室内側に延びたのちに屈曲して上方に延びる下部屈曲片21cとからなる断面形状が略C字状の部材で構成されている。そして、レール部材21の接面部21aには、接面部21aの長手方向に所定間隔を保ってねじの軸部を通すすきま孔であるねじ挿通孔が複数形成されており、このねじ挿通孔にねじ26aを通すとともに、ねじ26aを壁面部12に螺合させることによりレール部材21は壁面部12に固定されている。
【0018】
また、上部屈曲片21bの上面には上下に貫通する本発明の位置決用挿通孔としての複数のピン挿通孔21dが上部屈曲片21bの長手方向に略10cm程度の間隔を保って形成されている。レール部材22は、壁面部15における浴槽13よりもやや上方部分に設けられており、浴槽13の左右の幅方向に略対応する部分に水平方向に延びている。このレール部材22は、図3に示したように、壁面部15に接面する平面板状の接面部22aと、接面部22aの上端部から室内側に延びたのちに屈曲して下方に延びる上部屈曲片22bと、接面部22aの下端部から室内側に延びたのちに屈曲して上方に延びる下部屈曲片22cとからなる断面形状が略C字状の部材で構成されている。
【0019】
そして、レール部材22の接面部22aには、上下に間隔を保った一対のねじ挿通孔が接面部22aの長手方向に間隔を保って複数対形成されており、この各ねじ挿通孔にねじ26bを通すとともに、ねじ26bを壁面部15に螺合させることによりレール部材22は壁面部15に固定されている。なお、レール部材21とレール部材22とで、本発明に係る被係合部が構成される。
【0020】
また、手すり部材23は、長さが、浴槽13の長手方向の長さよりもやや短い直線状の棒体で構成されている。そして、この手すり部材23の本体部分は、図4ないし図6に示したように、平面視による幅が側面視による厚みよりも大きくなった平面状部分23aと、平面状部分23aの下面における壁面部12,15側に位置する縁部に沿って設けられ下方に突出する断面形状が略半円状の突部23bとで構成されている。また、平面状部分23aの両端部には、それぞれ平面状部分23aよりも厚みがやや小さく平面視が半円状になった係合片27,28が形成されている。そして、係合片27,28の略中央にそれぞれ上下に貫通する係合穴27a,28aが形成されている。
【0021】
手すり部材23と連結部材24が回転可能となるように、手すり部材23の係合片27が連結部材24にねじ29aで連結されている。また、手すり部材23と連結部材25が回転可能となるように、手すり部材23の係合片28が連結部材25にねじ29bで連結されている。連結部材24は、連結部本体31と、2個のベアリング32a,32bとで構成されている。そして、連結部本体31は、レール部材21の長手方向に沿った部分が長くなった矩形の基部31aと、基部31aの室内側部分に上下に間隔を保って形成され平面視における基部31a側部分が略四角形で先端側が半円状になった上下一対の支持片31b,31cと、基部31aの長手方向の中央から壁面部12側に突出する突出片31dとで構成されている。
【0022】
連結部本体31の上下方向の厚みは、レール部材21における上部屈曲片21bの下端部と下部屈曲片21cの上端部との間の長さよりもやや小さく設定され、突出片31dを上部屈曲片21bと下部屈曲片21cとの間の隙間からレール部材21内に挿入できるようになっている。そして、基部31aの後面における突出片31dの両側に設けられた軸部33(一方しか図示せず)を介してそれぞれベアリング32a,32bが取り付けられている。
【0023】
ベアリング32a,32bは、レール部材21内に収容できる大きさに形成されており、上部屈曲片21bと下部屈曲片21cとでレール部材21内から室内側に外れることを防止された状態でレール部材21内に収容されている。そして、このベアリング32a,32bの軸部33を中心とした回転により連結部材24はレール部材21に沿って移動可能になっている。また、突出片31dには、上面から下面に貫通する本発明の固定用挿通孔としてのピン挿通孔34が形成されている。
【0024】
このため、レール部材21に形成された複数のピン挿通孔21dのうちの所定のピン挿通孔21dにピン挿通孔34を合わせた状態で、両ピン挿通孔21d,34に固定ピン35を挿通させることにより、連結部材24をレール部材21に固定できる。この場合、固定ピン35の頭部はレール部材21の上面から突出した状態になる。そして、この固定ピン35は、頭部を持って上方に引き上げることにより簡単に両ピン挿通孔21d,34から外れ、連結部材24のレール部材21への固定を解除する。また、支持片31bには、上下に貫通する挿通孔36aが形成され、支持片31cには、上下に貫通するねじ穴36bが形成されている。
【0025】
挿通孔36aは上部側の直径が下部側の直径よりも大きくなった2段状の穴部に形成され、ねじ穴36bの内周面にはねじ部が形成されている。そして、支持片31b,31c間に、手すり部材23の係合片27を入れ、挿通孔36aとねじ穴36bに係合穴27aを合わせた状態で、挿通孔36aと係合穴27aにねじ29aを挿通させねじ29aの先端部をねじ穴36bに螺合させることにより、手すり部材23と連結部材24とは、ねじ29aを中心として互いに回転可能な状態で連結されている。この場合、ねじ29aの頭部は挿通孔36aの上部側部分の内部に位置して支持片31bの上面に突出しない。
【0026】
連結部材25は、連結部本体38と、2個のベアリング39(1個しか図示せず)とで構成されている。そして、連結部本体38は、レール部材22の長手方向に沿った部分が長くなった矩形の基部38aと、基部38aの室内側部分に上下に間隔を保って形成された平面視が長方形の上下一対の支持片38b,38cとで構成されている。連結部本体38の上下方向の厚みは、レール部材22における上部屈曲片22bの下端部と下部屈曲片22cの上端部との間の長さよりもやや小さく設定され、基部38a側部分を上部屈曲片22bと下部屈曲片22cとの間の隙間からレール部材22内に挿入できるようになっている。
【0027】
そして、図7ないし図9に示したように、基部38aの後面(壁面部15側に位置する面)における左右両側部分に軸部41,42が間隔を保って形成されている。軸部41,42の先端部には、レール部材22の接面部22aに対して滑り易いフッ素系樹脂からなるスラスト調整部41a,42aが設けられ、このスラスト調整部41a,42aと軸部41,42の本体側部分との間には溝部41b,42bがそれぞれ円周に沿って形成されている。2個のベアリング39は、それぞれ軸部41,42に支持され、溝部41b,42bに取付けたEリング43で抜け止めされた状態でレール部材22内に設置されている。なお、ベアリング39と、上部屈曲片22bおよび下部屈曲片22cとの間にはワッシャ44が取り付けられている。
【0028】
このベアリング39の軸部41,42を中心とした回転により連結部材25はレール部材22に沿って移動可能になっている。また、支持片38bには、上下に貫通する挿通孔45aが形成され、支持片38cには、上下に貫通するねじ穴45bが形成されている。挿通孔45aは上部側の直径が下部側の直径よりも大きくなった2段状の穴部に形成され、ねじ穴45bの内周面にはねじ部が形成されている。
【0029】
そして、支持片38b,38c間に、手すり部材23の係合片28を入れ、挿通孔45aとねじ穴45bに係合穴28aを合わせた状態で、挿通孔45aと係合穴28aにねじ29bを挿通させねじ29bの先端部をねじ穴45bに螺合させることにより、手すり部材23と連結部材25とは、ねじ29bを中心として互いに回転可能な状態で連結されている。この場合も、ねじ29bの頭部は挿通孔45aの上部側部分の内部に位置して支持片38bの上面に突出しない。
【0030】
この構成において、入浴者A(図10参照)が入浴する際には、まず、手すり部材23の後部側をレール部材21の前部側に位置させるとともに、手すり部材23の前部側をレール部材22の右側に位置させて、図10に示したように、手すり部材23を浴槽13の湯面側に突出させた状態にしておく。このため、入浴者Aは、浴槽13の湯面上方に位置する手すり部材23を持って浴槽13内に入ることができる。この場合、入浴者Aは、手すり部材23を手で持つだけでなく、体重を手すり部材23に掛けるようにして移動することができる。
【0031】
また、手すり部材23の上面は平面状に形成されているため、この移動のときに、入浴者Aは手すり部材23に体重を掛け易くなるとともに、手すり部材23から手が滑りにくくなる。そして、入浴者Aが湯船に浸かったときに、手すり部材23が邪魔になる場合には、図11に示したように、手すり部材23を壁面部12に沿わせておく。この場合、固定ピン35を上方に引き上げて連結部材24のレール部材21への固定を解除したのちに、手すり部材23の後部側をレール部材21の後部側に位置させるとともに、手すり部材23の前部側をレール部材22の左側に位置させる。
【0032】
そして、手すり部材23を壁面部12に沿わせた状態で、ピン挿通孔21dとピン挿通孔34とに固定ピン35を挿通させることにより、手すり部材23をレール部材21に固定する。これによって、手すり部材23の前部側もレール部材22に対して固定された状態になる。また、入浴者Aが浴槽13から立ち上がる際には、図11のように、手すり部材23を壁面部12に沿わせたままの状態にしてもよいし、図10のように、手すり部材23を浴槽13の湯面側に突出させた状態にしてもよい。
【0033】
このように、本実施形態に係る手すり装置20は、入浴者Aを支持するための手すり部材23を浴槽13の湯面上方で移動可能な状態にして浴槽13に隣接する壁面部12,15に掛け渡されている。このため、手すり部材23の位置を適宜変更することができ、これによって入浴者Aが浴槽13から出入りする際の動作がし易くなる。また、手すり部材23に掛かる入浴者Aの体重が分散され両壁面部12,15に生じる撓み量が少なくなる。この結果、見かけの手すり装置20の剛性が高くなって手すり装置20を使用する際の変位量が少なくなり、安心して手すり装置20を使用できる。
【0034】
また、手すり部材23の上面が平面状に形成されているため、入浴者Aは、手すり部材23に体重を掛け易くなる。さらに、手すり部材23の下面には、断面形状が略半円状の突部23bが形成されているため強度が大きくなる。また、手すり部材23の位置を変更するための操作が、固定ピン35をピン挿通孔21dとピン挿通孔34から引き抜いたのちに手すり部材23の位置を調節し、他のピン挿通孔21dとピン挿通孔34に固定ピン35を挿通させるだけで済むため簡単である。
【0035】
また、ピン挿通孔21dを備えたレール部材21を浴槽13の長手方向の側面に隣接する壁面部12に設けたため、ピン挿通孔21dとピン挿通孔34への固定ピン35の着脱操作を浴槽13内にいる入浴者Aが行うことができる。さらに、複数のピン挿通孔21dが、略10cmの短い間隔でレール部材21に形成されているため、手すり部材23の位置を細かな範囲で調節できる。また、連結部本体38の軸部41,42の先端部には、スラスト調整部41a,42aが設けられているため、連結部材25は、がたつくことなくレール部材22に沿ったスムーズな移動ができる。
【0036】
また、図12は、本実施形態の変形例による浴室が備える手すり装置50を示している。この手すり装置50では、手すり部材53が真っ直ぐの棒体でなく、下方側から見た状態で略L形になった棒体で構成されている。そして、L形の短い片を後方に位置させるとともに突出した角部を浴槽54の中央側に向けた状態で手すり部材53を設置している。この手すり装置50を備えた浴室のそれ以外の部分の構成については、前述した手すり装置20を備えた浴室10と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。これによると、手すり部材53をさらに浴槽54の中央側に位置させることができるため、洗い場14側にいる入浴者Aの手が届き易くなる。この手すり装置50を備えた浴室のそれ以外の作用効果については、前述した手すり装置20を備えた浴室10と同様である。
【0037】
また、図13は、本実施形態の他の変形例による浴室が備える手すり装置60を示している。この手すり装置60では、手すり部材63が真っ直ぐやL形の棒体でなく、平面視が弓形に湾曲した棒体で構成されている。そして、弓形の突出した部分を浴槽64の中央側に向けた状態で手すり部材63を設置している。この手すり装置60を備えた浴室のそれ以外の部分の構成については、前述した手すり装置20を備えた浴室10と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。これによると、手すり部材63の全体、特に中央部分をさらに浴槽64の中央側に位置させることができる。この手すり装置60を備えた浴室のそれ以外の作用効果については、前述した手すり装置20を備えた浴室10と同様である。
【0038】
また、本発明に係る浴室は、前述した実施形態に限定するものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した実施形態では、壁面部12に設けられた被係合部として、レール部材21を用いているが、この被係合部としては、手すり部材23等の端部と係合可能な凹部を備えた複数の係合部材を壁面部12に一定間隔で取り付けたもので構成してもよい。また、横長の棒材等の上面に間隔を保って手すり部材23等の端部と係合可能な凹部を設けたものを被係合部として用いることもできる。同様に、レール部材22に代えて、凹部を備えた複数の係合部材や凹部を備えた横長の棒材等を用いることもできる。要は、被係合部は手すり部材23等を位置変更可能な状態で支持できるものであればよい。
【0039】
また、前述した実施形態では、ピン挿通孔21dとピン挿通孔34とに固定ピン35を上方から挿通させることにより、手すり部材23をレール部材21に固定するようにしているが、この機構に代えて、摩擦を利用したブレーキ機構を用いて手すり部材23等を任意の位置に固定できるようにすることもできる。また、上部屈曲片21bの側面部にピン挿通孔を設けるとともに、連結部本体31の上面にピン挿通孔を備えた突片を上部屈曲片21bの側面部に対向させて設け、両ピン挿通孔に対して水平方向に固定ピンを挿通させることもできる。
【0040】
さらに、スラスト調整部41a,42aをフッ素系樹脂で構成しているが、フッ素系樹脂に代えて、ナイロン樹脂、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを用いてもよい。また、この材料で、連結部本体31におけるレール部材21と接触する部分を構成してもよい。さらに、手すり部材としては、前述した直線状、L形、弓形に限らず他の形状でもよく、浴槽の中央側上方に突出できる形状であればよい。また、それ以外の部分の構成についても本発明の技術的範囲内で適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係る手すり装置を備えた浴室を示した平面図である。
【図2】一方のレール部材と連結部材とを示した分解斜視図である。
【図3】他方のレール部材と連結部材とを示した一部切欠き斜視図である。
【図4】手すり部材の平面図である。
【図5】手すり部材の正面図である。
【図6】図4の6−6断面図である。
【図7】他方の連結部材の本体部分の斜視図である。
【図8】図7の連結部材を後側から見た状態を示した斜視図である。
【図9】図7の9−9断面図である。
【図10】入浴者が手すり装置を使用して浴槽内に入る状態を示した説明図である。
【図11】入浴者が浴槽内に入った状態を示した説明図である。
【図12】変形例による手すり装置を示した平面図である。
【図13】他の変形例による手すり装置を示した平面図である。
【符号の説明】
【0042】
10…浴室、12,15…壁面部、13,54,64…浴槽、20,50,60…手すり装置、21,22…レール部材、21d,34…ピン挿通孔、23,53,63…手すり部材、24,25…連結部材、35…固定ピン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽に隣接して設置された壁面部に取り付けられ入浴者が前記浴槽から出入りする際に使用する棒状の手すり部材を有する手すり装置が備わった浴室であって、前記手すり装置が前記浴槽の連続する二つの側面に隣接して設置され略直交して連続する二つの壁面部に掛け渡されて前記手すり部材に前記浴槽の湯面上方に位置する部分が備わっていることを特徴とする浴室。
【請求項2】
前記手すり装置が、前記二つの壁面部にそれぞれ設けられ前記手すり部材の対応する端部と係合位置を変更可能にして係合できる被係合部を備え、前記手すり部材の両端部と、前記二つの壁面部にそれぞれ設けられた被係合部との係合位置を変更することにより、前記手すり部材の取り付け位置を変更可能にした請求項1に記載の浴室。
【請求項3】
前記被係合部を前記二つの壁面部にそれぞれ設けられた略水平方向に延びるレール部材で構成するとともに、前記レール部材に対してスライド移動可能な状態で係合する連結部材を前記手すり部材の両端部にそれぞれ水平方向に回転自在な状態で取り付けた請求項2に記載の浴室。
【請求項4】
前記浴槽の平面視における形状を一方から他方に向って長くなった形状に形成し、前記二つの壁面部のうちの少なくとも前記浴槽の長手側の側面に沿った壁面部に設けられたレール部材に位置決用挿通孔を前記レール部材の長手方向に間隔を保って複数形成するとともに、そのレール部材に係合する連結部材に前記位置決用挿通孔に連通可能な固定用挿通孔を形成し、前記複数の位置決用挿通孔のうちの所定の位置決用挿通孔と前記固定用挿通孔との位置を合わせた状態で、前記位置決用挿通孔と前記固定用挿通孔とに固定ピンを挿通させることにより前記手すり部材を固定できるようにした請求項3に記載の浴室。
【請求項1】
浴槽に隣接して設置された壁面部に取り付けられ入浴者が前記浴槽から出入りする際に使用する棒状の手すり部材を有する手すり装置が備わった浴室であって、前記手すり装置が前記浴槽の連続する二つの側面に隣接して設置され略直交して連続する二つの壁面部に掛け渡されて前記手すり部材に前記浴槽の湯面上方に位置する部分が備わっていることを特徴とする浴室。
【請求項2】
前記手すり装置が、前記二つの壁面部にそれぞれ設けられ前記手すり部材の対応する端部と係合位置を変更可能にして係合できる被係合部を備え、前記手すり部材の両端部と、前記二つの壁面部にそれぞれ設けられた被係合部との係合位置を変更することにより、前記手すり部材の取り付け位置を変更可能にした請求項1に記載の浴室。
【請求項3】
前記被係合部を前記二つの壁面部にそれぞれ設けられた略水平方向に延びるレール部材で構成するとともに、前記レール部材に対してスライド移動可能な状態で係合する連結部材を前記手すり部材の両端部にそれぞれ水平方向に回転自在な状態で取り付けた請求項2に記載の浴室。
【請求項4】
前記浴槽の平面視における形状を一方から他方に向って長くなった形状に形成し、前記二つの壁面部のうちの少なくとも前記浴槽の長手側の側面に沿った壁面部に設けられたレール部材に位置決用挿通孔を前記レール部材の長手方向に間隔を保って複数形成するとともに、そのレール部材に係合する連結部材に前記位置決用挿通孔に連通可能な固定用挿通孔を形成し、前記複数の位置決用挿通孔のうちの所定の位置決用挿通孔と前記固定用挿通孔との位置を合わせた状態で、前記位置決用挿通孔と前記固定用挿通孔とに固定ピンを挿通させることにより前記手すり部材を固定できるようにした請求項3に記載の浴室。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−289514(P2008−289514A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134956(P2007−134956)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(392008529)ヤマハリビングテック株式会社 (349)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(392008529)ヤマハリビングテック株式会社 (349)
【Fターム(参考)】
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