説明

浴槽

【課題】従来の浴槽においては、その形式に係わらず、自力での浴槽へ出入りが不可能な要介護者を、特別な体力、技量をもたない介助者が、要介護者を簡単に浴槽へ出入りさせられる浴槽がなく、特に在宅介護にあっては介助作業の深刻な課題となっている。
【解決手段】浴槽本体の周壁の一部である開閉側壁を、浴槽床面と並行で水平になるよう開き、浴槽内の可動スライド床面を、開閉側壁上へ完全に引き出し、引き出したスライド床面上に要介護者を適切な姿勢で収容し、要介護者ごとスライド床面を浴槽内に収容した後に開閉側壁を、浴槽周壁を構成する位置まで閉じることにより完全な浴槽が構成され、介助者による要介護者の容易な入浴を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽周壁の一部が開閉し、入浴者を可動のスライド部に乗せたまま浴槽内に収容できる浴槽に関する。
【背景技術】
【0002】
一般の浴槽は、成人健常者の使用を前提とした寸法、形状で作られている。
このため要介護者の入浴には、本人はもとより介助者にも入浴は大変な労力を要する作業となっている。
【0003】
要介護者にもその障害の軽重により、介護保険制度で言えば要支援1〜2から介護度1〜5までの7段階があるように、その内容は幅広い。
入浴と介護の問題で最も重要なポイントは、当人が自力での入浴が可能か否かであり、介護の現場で最も問題となるのは、自力で浴槽の側壁を跨げるか否かであるが、自力で浴槽の側壁を跨ぐ力の無い要介護者のための入浴には、介護者の大変な労力を必要しているのが現実である。
【0004】
自力では浴槽の側壁を跨げなくても、介護者の補助があれば浴槽の側壁をなんとか跨いで入浴が可能な場合は、まだ介護者自身の人力で可能であるが、重度の介護度の場合は介護者の補助があっても、そもそも浴室での立っての歩行がままならず、浴室に設置した吊り具のような様々な機器を用いるか、複数の介護者の人力人海戦術によって、要介護者を浴槽内に設置した浴槽用椅子に座らせる作業が必要となっており、その苦労は健常者の想像を遥かに超えている。
【0005】
介護施設のように、予めその目的に沿った設計、建築がなされている施設の浴槽の場合は、それなりの設備を付加した浴槽の設置が可能であろうが、その場合でも器具を使った入浴作業には、介護者にそれなりのスキルを求めるものであり、安全上無経験者が簡単に補助できるものではない。
また、在宅介護の現場では更に浴室の構造、空間ボリュームなどから、入浴補助器具の設置も不可能であったり、浴室内での作業可能介護人数が制約されたりして、安全で容易な要介護者の入浴が困難な現実がある。
【0006】
従来から、介護用浴槽としてさまざまな工夫がなされてきた。浴槽の深さを浅くして、入浴者の跨ぎシロを少なくしたものや、逆に浴槽の底面を入浴者の腰の位置ほどにして、浴槽の壁面の一部を上下可動式にして、入浴者を底面に座らせてから可動壁面を他の周壁と同一高さまで引き上げて湯を張る浴槽や、組立式浴槽などが考案されているが、いずれも健常者も含めての使用には適しない介護専用的浴槽であって、一般家庭での健常者用の浴槽との併設などが必要となり経済的にも、物理的にも現実的解決策になり得ていない。
【0007】
健常者と浴槽壁面の跨ぎが困難な障害者が共用できない浴槽の問題解決のために、特許第4183269号には、浴槽の周壁の一部を上下にスライドする壁面に関する示唆がある。
湯張り前の浴槽の、周壁の一部を下方にスライドさせてできた開口部から浴槽内に歩いて入れる構造は、浴槽の壁部を跨げないが自力歩行が可能な障害者などには有効なものである。
しかしながら、この浴槽では自力歩行が困難な要介護者の入浴には、介護者による介助によってスライド部から浴槽内への誘導が必要であり、その際スライド部を除く浴槽本体側の周壁そのものが介護者の介助の障害となり、介護者の肉体的負担は大きい。
また、歩行介助も不可能な重度要介護者の入浴には、入浴者の身体をスライド部の隙間から入れるか、浴槽本体側の周壁を何らかの方法で越えさせる作業が必要となり、いずれの場合も介護人の相当な労力や専用吊り具の操作が必要となり、要介護者の入浴の抜本的解決とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】 特許第4183269号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、要介護者も健常者も安全かつ快適に使用できる浴槽を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、
浴槽本体から独立して、浴槽本体の周壁のすくなくとも一面あるいは一部を構成する開閉側壁が、浴槽本体側ヒンジハーフ部と開閉側壁側ヒンジハーフ部を結合させるヒンジピンを中心にして、浴槽底面に設置された浴槽側ガイドレールと開閉側壁の浴槽側面に設置された開閉側壁側ガイドレールが水平になるまで展開する構造を有する浴槽において、
浴槽本体底面に設けられた浴槽側ガイドレール上に組み付けられたスライド床面が、開閉側壁の浴槽内面側に設けられた開閉側壁側ガイドレール上を移動して、水平展開した開閉側壁上まで引き出される構造の浴槽であって、
浴槽本体外部まで引き出されたスライド床面に入浴者を安定した状態で座らせた後に、開閉側壁側ガイドレールと浴槽側ガイドレールを用いて入浴者ごとスライド床面を浴槽本体内へスライドさせ、入浴者を浴槽本体内に収容できる浴槽であって、
入浴者をスライド床面ごと浴槽本体内に収容後、開閉側壁を浴槽本体の周壁を構成する位置に、ヒンジピンを中心に垂直閉位置に回転させ、ロック機構によって開閉壁面を浴槽本体と結合させる構造の浴槽であって、
浴槽本体と、閉位置での開閉側壁とで圧縮されたパッキングが、浴槽内の湯水の漏洩を防ぐ構造を備える浴槽によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係わる浴槽を用いると、要介護者の入浴に際して特別な機器を設置して、機器の操作に長けた介助者によって要介護者を浴槽内に収容したり、数人掛かりで要介護者を抱え挙げたりして浴槽側壁(縁)を越えさせて浴槽内に収容したりする重労働からの開放が可能である。
また、従来の浴槽側壁部一部上下スライド式の浴槽にあって、自力歩行困難な要介護者を介助者が、介助作業に様々な制約のある浴室内で要介護者を浴槽内まで収容する必要もなくなる。
【0012】
本発明に係わる浴槽を用いれば、開閉側壁部を浴槽床面まで水平に開き、浴槽内のスライド床面を開閉側壁部まで引き出して、引き出されたスライド床面に要介護者を座らせるか、スライド床面に設置した浴用椅子に座らせて、そのままスライド床面を要介護者ごと浴槽内にスライドさせれば、特別な機器、技量、体力、人員を必要とせず簡単に入浴させられ、入浴後のケアーも同様の手順で容易に可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係わる浴槽の斜視図。
【図2】本発明に係わる浴槽の、開閉側壁の中間展開位置の斜視図
【図3】本発明に係わる浴槽の、開閉側壁の水平展開位置の斜視図
【図4】本発明に係わる浴槽の、スライド底板の引き出し位置の斜視図
【図5】図4のA−A断面図で、スライド底板−ガイドレール組立の部分断面詳細説明図
【図6】本発明に係わる浴槽の、入浴用椅子の設置説明斜視図
【図7】本発明に係わる浴槽の、入浴用椅子を含む浴槽使用状態の斜視図
【図8】本発明に係わる浴槽の、給湯・排水回路図
【図9】図1のB−B断面図で、パッキング取り付け部分の部分断面詳細説明図
【図10】本発明に係わる浴槽の、第2の形態例説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係わる浴槽の斜視図であり、浴槽本体1の周壁の一部をなす開閉側壁2はヒンジピン7で浴槽本体1と接合されており、浴槽本体1の周壁と一体の側壁となる位置にロックピン4で固定される。
浴室床6は、開閉側壁2が浴槽本体1の床面と水平まで展開(展開の詳細は図3に従って後述)した時に、開閉側壁2に加わる全垂直荷重を受け止められる寸法に予め適切な段差を与えられている。
補助タンク3は、給湯装置5から供給される湯水を蓄えるものであり、補助タンク3に蓄えられた湯水は、給湯孔31から浴槽本体1内に供給される。
給湯装置5と給湯のプロセスの詳細は、図面8に従って後述する。
補助タンク3の目的は、入浴者を浴槽本体1内へ収容後に浴槽本体1内を出来るだけ短時間に入浴に適した温度の湯で満たし、給湯装置5からの通常の給湯量で、入浴者を長時間湯張りのために裸のまま待機させる不便を解消することである。
【0015】
図2は開閉側壁2の展開を説明する開閉側壁2の中間展開位置の斜視図である。
開閉側壁2は、浴槽本体側ヒンジハーフ部と開閉側壁側ヒンジハーフ部21とを貫くヒンジピン7で浴槽本体1に取り付けられており、ロックピン4を取り外すと浴槽ヒンジピン7を中心に、浴槽の外側に向かって浴槽本体1の底部と水平の位置まで展開する事ができる。図2は展開の途中を示している。
【0016】
図3は開閉側壁2が浴槽本体1の底部と水平の位置まで展開した状態を示す、開閉側壁の水平展開位置の斜視図である。
開閉側壁2は、浴槽本体1の底部と水平の位置まで展開し、浴室床6と適当な面積で接触し、開閉側壁2に加わる全垂直荷重を浴室床6に伝える。
開閉側壁2の浴槽内面側には開閉側壁側ガイドレール23が設置されており、浴槽本体1のスライド床板8が開閉側壁側ガイドレール23の上をスライドして、開閉側壁2の上まで引き出せる。
【0017】
図4は開閉側壁2が浴槽本体1の底部と水平の位置まで展開し、スライド床板8が浴槽本体1の外部に完全に引き出された状態を説明する、スライド底板8の引き出し位置の斜視図である。
浴槽本体1の底部に取り付けられた浴槽側ガイドレール14と開閉側壁側ガイドレール23は、開閉側壁2が水平展開した状態で互いに水平で一線になるよう組み付けられていて、スライド床板8は浴槽側ガイドレール14と開閉側壁側ガイドレール23を利用して、浴槽本体1の外側へ開閉側壁2の上まで引き出せる。
スライド床板8と浴槽側ガイドレール14及び開閉側壁側ガイドレール23との取り付けの詳細は、図面5に従って後述する。
浴槽本体1の底部最下点には、排水孔15と排水栓16が備えられている。
パッキング13は、浴槽本体1に取り付けられており、開閉側壁2が浴槽本体1の周壁を構成する位置(以下入浴位置と称す)に、ロックピン4で固定された時に、浴槽本体1と開閉側壁2の浴槽内面側とで圧縮されて、浴槽本体1内の湯水の漏洩を防ぐ、適当な潰しシロと防水性を有する材料のシールである。
【0018】
図5は図4のA−A断面図で、スライド底板−ガイドレール組立の部分断面詳細説明図である。
浴槽側ガイドレール14と開閉側壁側ガイドレール23はT型断面の部材で、浴槽本体1の底面と開閉側壁2の浴槽内側面に取り付けられている。
スライド床板8には、水平ローラー83がローラーピン84で取り付けられ、スライド床板8に加わる全ての垂直荷重を浴槽側ガイドレール14と開閉側壁側ガイドレール23に伝える。
また、スライド床板8はベアリング押さえ82で固定されたサイド押さえベアリング81で、T型断面の両ガイドレール14,23の垂直部分を両側から抱くように組み付けられ、スライド床板8の水平方向のガタを押さえると共に、上方への抜けを防いでいる。
両ガイドレール14,23のT型の水平鍔部分を、サイド押さえベアリング81が抜ける程度の適当な長さと位置で切り欠いておく事で、水平ローラー83とサイド押さえベアリング81を組み込んだ状態のスライド床板8を、浴槽側ガイドレール14又は開閉側壁側ガイドレール23に組み付ける事ができる。
浴槽側ガイドレール14と開閉側壁側ガイドレール23の本数は、スライド床板8に加わる全方向の荷重を担うに充分な任意の本数でよい。
また、強度上可能であれば、図5に示すようにベアリング81の一部を省略してもよい。
【0019】
図6は入浴用椅子の設置説明斜視図であり、要介護者などを入用させる場合に浴室用椅子9を利用する場合の形態を示している。
開閉側壁2を水平展開した状態で、浴槽本体1から開閉側壁2上まで引き出したスライド床板8に浴室用椅子9を乗せれば、要介護者などを座らせてままスライド床板8を浴槽内にスライドさせて、入浴者を浴槽本体1内に収容できる。
スライド床板8のスライド中の、浴室用椅子9の不安定さを解消するために、スライド床板8に浴室用椅子9の脚部を固定又は保持するための窪みなどを設けてもよい。
【0020】
図7は入浴用椅子を含む浴槽使用状態の斜視図である。
開閉側壁2が入浴位置に、ロックピン4で固定された後に、予め補助タンク3に蓄えられていた適当な温度の湯を、給湯孔31から浴槽本体1内に一気に供給することで、入浴者は長時間裸のままで湯張りを待つ事を避けられる。
【0021】
図8の給湯・排水回路図に従って、給湯装置5と給湯、排水のプロセスを説明する。
給湯装置5は、温度調整混合弁51、蛇口52、ストップ弁53、逆止弁54、から構成され、温度調整混合弁51は3Way(3方向切り替え)型で、付属のノブの切り替えで、温度調整ツマミで適切な温度に設定された温水が蛇口52、予備タンク3、シャワー55のいずれかに導かれる。
要介護者などを入浴させる場合でそのプロセスを説明する。
ストップ弁53を閉位置にしておいて、温度調整混合弁51の温度調整ツマミで適切な温度に設定された温水を、温度調整混合弁51のノブを切り替えて補助タンク3に湯を蓄える。
開閉側壁2を水平に展開し、スライド床8を浴槽本体1から開閉側壁2の上まで引き出して、入浴者をスライド床8に乗せて、入浴者と共にスライド床8を浴槽本体1内にスライドさせて収納する。
入浴者を浴槽本体1内に収納後、開閉側壁2を入浴位置に固定してストップ弁53を開ける事により、補助タンク3に蓄えられた湯を給水孔31から浴槽本体1内に供給する。
給水孔31の上流に設けられた逆止弁54は、衛生上浴槽本体1内の湯水が補助タンク3へ逆流する事を防ぐものである。
充分な入浴に不足な湯は、温度調整混合弁51のノブを切り替えて蛇口52から補充する。
入浴後は、排水孔15の排水栓16を抜いて排水し、排水後に開閉側壁2を水平に展開して入浴者と共にスライド床8をスライドさせて入浴者を浴槽本体1外に導く。
【0022】
図9は図1のB−B断面図で、パッキング取り付け部分の部分断面詳細説明図である。
パッキング13は浴槽本体1側の、開閉側壁2との接触面に適当な方法で固定されており、入浴位置に固定しされた開閉側壁2の浴槽本体側面とで圧縮される事により、浴槽本体1内の湯の漏洩を防ぐ。
【0023】
図10は本発明に係わる浴槽の、第2の形態例説明図である。
図1に示すロックピン4による開閉側壁2の固定方法に限らず、適当な締め付け力と寸法のパッチン錠41などによる固定方法もある。
また、図8で説明した給湯装置5の各構成品も、浴槽の用途に従って手動品と電動品のいずれも使用可能である。
浴槽本体1の容積や補助タンク3からの給湯能力などから、必要に応じストップ弁53、逆止弁54の配管を複数回路にすることも可能である。
更に、開閉側壁2が水平に展開した状態での、開閉側壁2と浴室床面6との接触面での垂直荷重伝達を確実にする為に、開閉側壁2の浴槽外面側にコルゲート24(波板)成型などを施して、両者の全面接触による片当たりの弊害を除いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
浴槽周壁の一部を開閉側壁とし、浴槽内の可動式のスライド床面を、浴槽側ガイドレールと開閉側壁側のガイドレールを利用して、浴槽内外に出し入れできる本浴槽は、
要介護者の介助者の労力を大幅に軽減し、特別な機器の設置も不要となるので、一般住宅のユニットバスと同様の安易さで設置、運用が可能である。
また、その構造上一般健常者の入浴時も通常の浴槽の形態を保つもので、介護施設、個人住宅を問わず利用可能であり、その産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0025】
1 浴槽本体
11 浴槽本体側ヒンジハーフ部
12 浴槽側ロック部
13 パッキング
14 浴槽側ガイドレール
15 排水孔
16 排水栓
2 開閉側壁
21 開閉側壁側ヒンジハーフ部
22 開閉側壁側ロック部
23 開閉側壁側ガイドレール
24 コルゲート
3 補助タンク
31 給湯孔
4 ロックピン
41 パッチン錠
5 給湯装置
51 温度調整混合弁
52 蛇口
53 ストップ弁
54 逆止弁
55 シャワー
6 浴室床面
7 ヒンジピン
8 スライド底板
81 サイド押さえベアリング
82 ベアリング押さえ
83 水平ローラー
84 ローラーピン
9 浴室用椅子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽本体底面に設けられた浴槽側ガイドレール上に組み付けられたスライド床面が、浴槽本体底面と水平の位置に展開した、浴槽本体から独立して浴槽本体の周壁のすくなくとも一面あるいは一部を構成する開閉側壁の、浴槽内面側に設けられた開閉側壁側ガイドレール上を移動して、水平展開した開閉側壁上まで引き出せる構造の浴槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−101015(P2012−101015A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262949(P2010−262949)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(504228678)
【Fターム(参考)】