説明

海岸地盤および海岸構造物の補強法

【課題】
海洋に接した自然地形・地盤や構造物には絶えず波浪外力や海洋付着性生物による侵食および構成成分の流出や腐食劣化などの化学作用が作用しており、経時変化・劣化を受け、海岸地形や構造物の侵食、後退、崩壊が進行している。
【解決手段】
海水を電気分解して作成した電解海水酸液で貝殻やサンゴ砂礫等からカルシューム分を溶かし出した後、電解海水アルカリ液と混合した液や、加熱した海水を岩石や地盤及び人工構造物の固体表面に供給してカルシューム分沈着を形成させる。沈着分を含む海水はひび割れ部や欠損部に染み込むので、ひび割れ部や欠損部も修復される。沈着分はセメントと同様な成分・強度を持つので、自然地形・地盤や構造物強度は増強される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
海岸地盤および海岸構造物に関するもので、特に風化防止、ひび割れ・剥落等の補修法、強度復旧法にに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート(RC)製港湾構造物が海洋で使用に供された結果、ひび割れ・剥落・漏水などをおこすが、その補修に電着法で海水中のカルシュームやマンガンをひび割れ部に沈着させる先行技術がある。
【特許文献1】特開平6−065937
【0003】
電着法ではRC鉄筋を負極とし、海水中に正極板を設け直流電流を供給する事によりRC鉄筋に海水中のカルシューム分やマンガン分を沈着させて、ひび割れ・剥落・漏水などを修復しようとするものである。しかしながら、この方法では被修復構造物内部に負極となる導体が必要である。したがって海洋中の自然岩の風化防止・修復には困難がある。
【0004】
本発明は海洋中の自然岩や構造物に何等の加工を加えることなく、ひび割れを修復し海洋付着性生物による穿孔を塞ぐ封孔処置手段を提供するところに新規性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
海洋に接した自然地形・地盤や構造物には絶えず波浪外力や海洋付着性生物による侵食および構成成分の流出や腐食劣化などの化学作用が作用しており、経時変化・劣化を受け、海岸地形や構造物の侵食、後退、崩壊が進行している。
【0006】
本発明は海洋に接した自然地形・地盤や構造物の経時劣化作用を海水中に溶解したカルシューム分やマグネシューム分などを固体表面に沈着させ、ひび割れや欠損部を修復すると共に強化する方法を提供するものである。
【0007】
また、本発明は海底に堆積したサンゴや貝類の遺骸よりカルシューム分を電解海水酸液で溶解・抽出し、沈着成分の濃度を高めて沈着物の形成を著しく促進する手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)温暖な海洋においてはサンゴや貝類の繁茂が盛んで海底面上には炭酸カルシュームを主成分とする遺骸が堆積している。
【0009】
本発明では既存の海水電解装置により、海水を電気分解し、塩素イオンを豊富に含む電解海水酸液、ナトリウムイオンを豊富に含む電解海水アルカリ液を作成する。海底面上のサンゴなどの遺骸を内包するように底の空いた箱状の溶解箱を設置し電解海水酸液を供給する。溶解箱内ではサンゴなどの遺骸が電解海水酸液で溶解しカルシュームイオンと炭酸イオンとして溶出する。
【0010】
溶解箱の一端には溶液抜き出しパイプが設置されており、カルシュームイオンと炭酸イオンを豊富に含んだ溶液を海上の混合供給装置へと導く。海水電解装置の電解海水アルカリ液も海上装置へと連結パイプにより導かれる。混合供給装置内においてカルシュームイオンと炭酸イオンを含む電解海水酸液と電解海水アルカリ液が混合される。
【0011】
混合液中では電解海水酸液中の塩素イオンと電解海水アルカリ液中のナトリウムイオンが再結合するため、カルシュームイオンと炭酸イオンは再結合し炭酸カルシュームとして析出する。
【0012】
混合液を自然地形・地盤や構造物の固体壁面へと散布すれば、固体壁面上には炭酸カルシュームが面状に付着成長する。以上により、固体壁に供給する液体中の上記沈着成分の濃度が非常に高まるため、沈着物の形成が著しく促進される。
【0013】
沈着分はセメントと同様な成分・強度を持つ。沈着分を含む海水はひび割れ部や欠損部にも、重力により染み込むため、固体内部も沈着固結される。これによりひび割れ部や欠損部は修復され、自然地形・地盤や構造物強度は増強される。
【0014】
(2)海水中にはカルシュームやマグネシューム分などの沈着性の成分が溶解している。沈着成分は温度変化やpHの変化により容易に固体表面に沈着する。
【0015】
本発明では後述する手段によって海水を加熱した後、固体表面に供給する。加熱された海水中ではイオンバランスが変化してカルシュームやマグネシューム分などが沈着分として固体表面あるいは既に形成された沈着層の表面に析出・沈着する。
【0016】
(3)取水した海水の加熱は、併設した既存の太陽電池、太陽熱収集装置や風車を利用した熱発生装置で捕集した自然エネルギーを利用する。この他各種人工熱機関やその廃熱が利用可能であることは言うまでもない。
【発明の効果】
【0017】
海水中にはカルシュームやマグネシューム分などの沈着性の成分が溶解しているが、沈着成分は温度変化やpHの変化により容易に固体表面に沈着する。
【0018】
本発明では海水を加熱することによりイオンの平衡状態を変えて、沈着物を生成させる。この加熱された海水を固体表面に散布する。これにより固体表面にカルシュームやマグネシュームなどの炭酸塩からなる沈着層が形成され成長する。
【0019】
沈着層はセメントと同様な成分・強度を持つとともに、固体表面のひび割れ部にも重力により染み込み固結するので、ひび割れは修復され、被沈着固体の強度を増強する。また固体表面に層状に発達するため、固体表面の平滑化作用があり、生物的侵食作用を防止し、化学的溶解作用を封じる等、耐久性を向上する。
【0020】
以上により本発明は、海洋に接した自然地形・地盤や構造物の経時劣化作用を修復すると共に強化する効果を有するものである。
【0021】
また、海水中に含まれるカルシュームやマグネシュームの本来の濃度は低いため、固体表面上への沈着層の発達速度は限られるので、有効な沈着層厚さを得るには長時間を要する。
【0022】
温暖な海洋においてはサンゴや貝類の繁茂が盛んで海底面上にはこれらの炭酸カルシュームを主成分とする遺骸が堆積している。本発明では海水電解装置を併設し、電解海水酸液を作成しサンゴや貝類の遺骸を電解海水酸液で溶解する。
【0023】
電解海水酸液中には塩素イオンがカルシュームイオンと対になり、炭酸イオンは遊離した状態で電解海水酸液中に溶解する。この溶液をパイプで混合装置に導く。海水電解装置ではナトリウムイオン豊富な電解海水アルカリ液も生成されるが、電解海水アルカリ液も混合装置に導かれ、電解海水酸液と混合される。
【0024】
混合装置内では、電解海水酸液中の塩素イオンと電解海水アルカリ液中のナトリウムイオンが再結合するため、遊離されたカルシュームイオンは炭酸イオンと再結合し炭酸カルシュームとして析出する。
【0025】
以上の本発明の構成により固体表面に散布する溶液中の沈着成分の濃度が飛躍的に濃くなるので、沈着物の形成を著しく促進する効果がある。したがって、有効な沈着層厚さを短時間で形成する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
実施例1を図1に示す。本実施例は海洋中あるいは島嶼部の海岸などの海洋に接して長年の風化した岩石1に、海底に堆積したサンゴや貝類3などの遺骸を電解海水酸液34で溶解し、カルシューム分を豊富に含む電解海水酸液36を電解海水アルカリ液38と混合した後散布して、岩石1の表面やひび割れ内などに炭酸カルシュームを主体とするセメント状の物質で充填あるいは層状に沈着させ、強度復旧・増強しようとするものである。
【0027】
岩石1は海洋2に接した地形の一部である自然石である。長年波浪外力や海洋付着性生物による侵食および構成成分の流出や腐食劣化などの化学作用が作用しており、経時変化・劣化を受け風化が進行し、ひび割れ、凹凸などが形成されている。
【0028】
海底堆積物3にはサンゴや貝類などの遺骸が含まれている。特に亜熱帯など温暖な海域にはサンゴ礁が発達するためサンゴ骨格の欠片が多い。サンゴや貝類などの遺骸は炭酸カルシュームが主成分である。サンゴや貝殻の遺骸が少ない場合には、石灰石、カルシューム含有化合物、コンクリートを使用してもよい。
【0029】
ポンプ10は海洋2の中に設置され、海水を電解セル4に海水を送水する。海水の流れる方向を矢印31で示す。
【0030】
海水電解セル4は有隔膜電解法により海水を電解する装置である。内部は隔膜7により二室に分割され、一室には負電極8が他室には正電極9が設置されている。負電極8と正電極9は直流電源6に接続されている。隔壁7は多孔性でイオンの通過は可能な物質から構成されている。
【0031】
溶解箱5は直方体の箱状であり、底面は無く、側壁は海底堆積物3の中に食い込んで設置されている。
【0032】
ポンプ10は海洋2の中に設置され、海水を電解セル4に海水を送水する。海水の流れる方向を矢印31で示す。
【0033】
電解セル4に入った海水は隔膜7によって分けられる。負電極8と隔膜7で囲まれた室では食塩が電解されナトリウムイオンを含む電解海水アルカリ液33が生成され、正電極9と隔膜7で囲まれた室では塩素イオンを含む電解海水酸液32が生成される。
【0034】
電解セル4にはパイプ12が設置されており、電解海水酸液32を溶解箱5に矢印34で示すように流通させている。同じくパイプ16は電解海水アルカリ液33を矢印38に示すように流通させている。パイプ13の一部にはポンプ14が設置され、流通動力を与えている。
【0035】
溶解箱5の下面にはサンゴや貝類などの遺骸3aが収納されている。サンゴや貝類などの遺骸3aは電解海水酸液により溶解される。これにより電解海水酸液の塩素イオンによりサンゴや貝類などの遺骸の主成分である炭酸カルシュームが溶解する結果、カルシュームイオン及び炭酸の濃度高い液となる。この電解海水酸液はパイプ13により混合装置15に送水される。
【0036】
混合装置15では電解海水アルカリ液とカルシュームイオン及び炭酸の濃度高い液が混合される。中和反応によりナトリウムイオンと塩素イオンが再結合する結果、炭酸カルシューム分が遊離される。
【0037】
混合液を岩石1に散布すれば、ひび割れ部に浸透し炭酸カルシューム分が沈着・固化する。岩石1の表層にも沈着層が形成される。
【0038】
沈着層はセメントとほぼ同等の強度であるため、ひび割れや欠損部を充填・修復することができる。また表層の凹凸も沈着により平滑されるため、海洋付着性生物の侵食が防止されると共に岩石成分の化学的溶出が封止され、風化が防止されると共に強度が増強される。
【0039】
実施例を図2に示す。
岩石1は海洋2に接した地形一部の自然石である。長年波浪外力や海洋付着性生物による侵食および構成成分の流出や腐食劣化などの化学作用が作用しており、ひび割れ、凹凸などが形成される等、強度劣化・風化が進行している。
【0040】
ポンプ10は海洋2の中に設置され、海水を加熱セル47に海水を送水する。海水の流れる方向を矢印31で示す。
【0041】
加熱セル47は二重筒構造であり、海水は内筒内を流れ、外筒内には熱発生装置43で加熱された熱媒流体がパイプ45を介して流通している。加熱装置47を通過することにより海水は昇温される。
【0042】
熱発生装置43内は熱媒流体が充満されており、風車42の回転により攪拌翼が加熱媒体を攪拌して、熱を発生させると共にポンプ作用を起こしている装置である。
本実施例では中心軸43を中心として回転するタイプ(ダリウス型風車)であり、風向にかかわりなく一方向に回転する(矢印46)。
【0043】
ポンプ作用により熱媒流体は熱発生装置43から出てパイプ45を通り(矢印49)、加熱セル47を循環し、パイプ44により再度、熱発生装置43に戻って(矢印48)循環している。41は中心軸43と風車42を回動可能に結合する軸受けである。
【0044】
海水内にはカルシュームやマグネシュームが海水の温度やpHなどの条件に応じたイオンバランスで溶解しているが、加熱よってイオンバランスが変化して沈着成分として析出する。
【0045】
加熱された海水を散布ノズル17で岩石1に散布すれば、表層にも沈着層が形成されると共に、ひび割れ部にも浸透し炭酸カルシューム分が沈着・固化する。
【0046】
沈着層はセメントとほぼ同等の成分、強度であるため、ひび割れや欠損部を充填・修復する。また表層の凹凸も沈着により平滑されるため、海洋付着性生物の侵食が防止されると共に岩石成分の化学的溶出が封止され、風化が防止されると共に強度が増強される。
【0047】
本発明により、海洋中あるいは島嶼部の海岸などの海洋に接し長年の間に風化した岩石1に、加熱した海水を散布して、岩石1の表面やひび割れ内などに炭酸カルシュームを主体とする沈着物質で充填あるいは層状に沈着させ、強度復旧・増強することができる。
【0048】
上記装置の海水ポンプの動力源には既存の電力線に接続して電気を動力源とするが、代替動力としては風力発電、波力発電、太陽電池等を用いれば、離島や島嶼部等の電気供給ラインが無い場合にも適用できる。
【0049】
また海水ポンプとしては回転翼を回転させる通常のポンプを用いるが、代替ポンプとして垂直配管内に気泡を吹き込むエアリフトポンプを用いることもできる。
【0050】
海水の加熱源には風車の動力で熱媒流体を攪拌する熱発生装置を用いたが、代替装置としては受熱板、受熱管、鏡およびそれらを組み合わせた装置で太陽熱を収集する太陽熱利用装置が考えられる。
【0051】
カルシューム分の濃度を増加させる材料としては、海岸に産する石灰質砂礫岩、採掘された石灰石および消石灰、そしてコンクリートおよびコンクリート材料などもサンゴや貝類などの遺骸の代わりおよび混合して同様に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1を示すもので、海底面のサンゴや貝類などの遺骸を電解海水酸液で溶かした後、電解海水アルカリ液と混合した後岩石に散布する実施例の図。
【図2】実施例2を示すもので、海水を風力熱発生装置から循環する熱媒流体で加熱後、岩石に散布する実施例の図。
【符号の説明】
【0053】
1 岩石
2 海洋
3 海底堆積物
3a 海底堆積物
4 海水電解セル
5 溶解箱
6 直流電源
7 隔壁
8 負電極
9 正電極
10 取水ポンプ
パイプ
パイプ
パイプ
ポンプ
混合装置
パイプ
散布ノズル
海水の流れ
電解海水酸液の流れ
電解海水アルカリ液の流れ
電解海水酸液の流れ
サンゴや貝の遺骸を溶解した電解海水酸液の流れ
サンゴや貝の遺骸を溶解した電解海水酸液の流れ
サンゴや貝の遺骸を溶解した電解海水酸液の流れ
電解海水アルカリ液の流れ
混合液
中心軸
41 軸受け
回転翼
熱発生装置
パイプ
パイプ
回転を示す矢印
加熱セル
熱媒流体の流れを表す矢印
熱媒流体の流れを表す矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水を電気分解して電解海水酸液及び電解海水アルカリ液を作成し、電解海水酸液で海底に堆積した貝殻、サンゴ砂礫からカルシューム分を溶かし出した後、電解海水アルカリ液と混合し、混合液を岩石や地盤及び人工構造物の固体表面に供給してカルシューム分沈着を形成させる自然地形物および人工構造物の強度強化することを特徴とする海岸地盤および海岸構造物の補強法。
【請求項2】
岩石や地盤などの自然物および人工構造物の固体表面に加熱した海水を供給散布してカルシューム分やマグネシューム分沈着を形成させる自然地形および人工構造物の強度劣化防止および強化することを特徴とする海岸地盤および海岸構造物の補強法。
【請求項3】
上記請求項1で海底に堆積した貝殻、サンゴ砂礫の代わりに、石灰石、人工のコンクリートおよびコンクリート材料片を用いることを特徴とする海岸地盤および海岸構造物の補強法。
【請求項4】
上記請求項1,2で海水の循環駆動力として風力装置を用いることを特徴とする海岸地盤および海岸構造物の補強法。
【請求項5】
上記請求項1,2海水の循環駆動力として波力装置を用いることを特徴とする海岸地盤および海岸構造物の補強法。
【請求項6】
上記請求項1,2で海水の循環駆動ポンプに太陽電池から電力を供給することを特徴とする海岸地盤および海岸構造物の補強法。
【請求項7】
上記請求項1、2で海水の循環駆動ポンプとしてエアリフトポンプ装置を用いることを特徴とする海岸地盤および海岸構造物の補強法。
【請求項8】
上記請求項2海水を加熱する熱源として風力熱発生装置に用いることを特徴とする海岸地盤および海岸構造物の補強法。
【請求項9】
上記請求項2海水を加熱する熱源として太陽熱収集循環装置に用いることを特徴とする海岸地盤および海岸構造物の補強法。
【請求項10】
上記請求項1で電気分解の電源に太陽電池を用いることを特徴とする海岸地盤および海岸構造物の補強法。

【図1】
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【図2】
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