説明

海島型複合断面繊維

【課題】整経、編立、製織といった高次工程でのポリアミド極細繊維の剥離を抑制することで、ポリアミド極細繊維切れによる毛羽、糸切れ等を大幅に改善することができる海島型複合断面繊維、及び当該海島型複合断面繊維中に含まれる脂肪族ポリエステルを全量溶解除去することで得られるポリアミド極細繊維を提供する。
【解決手段】脂肪族ポリエステルが海成分、ポリアミドが島成分の海島型複合断面繊維であって、脂肪族ポリエステルもしくはポリアミドのどちらか片方に脂肪酸ビスアミドが含有されていることを特徴とする海島型複合断面繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステルが海成分、ポリアミドが島成分の海島型複合断面繊維に関するものであり、脂肪族ポリエステルもしくはポリアミドのどちらか片方に脂肪酸ビスアミドを含有させることにより、特に整経、編立、製織といった高次工程でのポリアミド極細繊維の剥離を抑制することで、ポリアミド極細繊維切れによる毛羽、糸切れ等を大幅に改善することができる海島型複合断面繊維に関するものである。
【0002】
さらに、本発明は、当該海島型複合断面繊維中に含まれる脂肪族ポリエステルを全量溶解除去することで得られるポリアミド極細繊維に関するものである。
【背景技術】
【0003】
ポリカプロアミドやポリヘキサメチレンアジパミドに代表されるポリアミド繊維や、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表されるポリエステル繊維は、力学特性や寸法安定性に優れるため、衣料用途のみならずインテリアや車両内装、産業用途等幅広く利用されている。
【0004】
繊維に吸着性(吸湿性、吸水性、消臭性等)やソフト性を付与することを目的とした極細繊維を溶融紡糸するに際し、単糸直径がミクロンサイズの繊維については、紡糸口金設計に主眼を置いた単独ポリマーでの溶融紡糸でも得ることができるが、さらに極細の繊維については、易溶解性ポリマーとの複合紡糸をして複合断面繊維を得て、易溶解性ポリマーを溶解除去して得るのが主流である。
【0005】
例えば、ポリアミドと脂肪族ポリエステルとからなり、脂肪族ポリエステルの少なくとも一部を繊維表面に露出するように配置させた複合断面繊維とし、この複合断面繊維から織物を得、その織物から脂肪族ポリエステルを溶解除去し、ポリアミド極細繊維を得る方法が開示されている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、上記した複合断面繊維の整経、製織工程でポリアミドが部分的に剥離するため、整経オサでポリアミドのスカム(粉末)が堆積したり、剥離したポリアミド極細繊維自体が糸切れした場合、整経毛羽や製織毛羽となり、高次通過性を著しく悪化させるという問題があった。
【0006】
この他にも、易溶解性ポリマーを海成分、難溶解性ポリマーを島成分とし、島直径、及び島間隔が均一な海島型複合断面繊維を得た後、この複合断面繊維から海成分を溶解除去し、繊維直径が均一で、かつ高タフネスの極細繊維を得る方法が開示されている(特許文献2)。しかしながら、この方法も整経、編立、製織といった高次工程での島成分の剥離については何ら改善されるものではなく、海島型複合断面繊維の島成分の配置によっては重大な高次トラブルを発生させる可能性があった。
【0007】
ポリアミド極細繊維を得るのに好適な海島型複合断面繊維を得るのに際し、特許文献1に記載のポリアミドと相溶しない易溶解性ポリマーとの組み合わせや、特許文献2に記載の単純な島直径の均一性、均一分散配置を規定した方法のみでは、高次工程でのポリアミドの剥離を抑制するのは極めて困難であり、整経、編立、製織といった高次通過性を著しく悪化させるという課題があった。そこで、安定した溶融紡糸が可能で、かつ高次通過性も良好な、ポリアミド極細繊維を得るのに好適な海島型複合断面繊維が求められていた。
【特許文献1】特開2000−54228号公報
【特許文献2】特開2007−100243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特に整経、編立、製織といった高次工程でのポリアミド極細繊維の剥離を抑制することで、ポリアミド極細繊維切れによる毛羽、糸切れ等を大幅に改善することができる海島型複合断面繊維、及び当該海島型複合断面繊維中に含まれる脂肪族ポリエステルを溶解除去することで得られるポリアミド極細繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
(1)脂肪族ポリエステルが海成分、ポリアミドが島成分の海島型複合断面繊維であって、脂肪族ポリエステルもしくはポリアミドのどちらか片方に脂肪酸ビスアミドが含有されていることを特徴とする海島型複合断面繊維。
(2)脂肪族ポリエステルに脂肪酸ビスアミドが含有されている系において、脂肪族ポリエステル100gに対して0.1〜3gの範囲で脂肪酸ビスアミドが含有されていることを特徴とする前記(1)に記載の海島型複合断面繊維。
(3)ポリアミドに脂肪酸ビスアミドが含有されている系において、ポリアミド100gに対して0.1〜5gの範囲で脂肪酸ビスアミドが含有されていることを特徴とする前記(1)に記載の海島型複合断面繊維。
(4)前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の海島型複合断面繊維。
(5)前記ポリアミドがポリカプロアミドであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の海島型複合断面繊維。
(6)前記脂肪酸ビスアミドがエチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミドから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の海島型複合断面繊維。
(7)前記脂肪族ポリエステルと前記ポリアミドの重量比が、5:95〜60:40の範囲にあることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の海島型複合断面繊維。
(8)脂肪族ポリエステルが海成分、ポリアミドが島成分の海島型複合断面繊維であって、該繊維の単糸横断面の中心を通り互いに90度と直交する2本の直線を引いて該単糸を4等分したとき、その4部分の海成分の面積バラツキ(Scv)、該繊維の単糸横断面の最外周に配された全島について、その各島と該単糸最外周との間隔バラツキ(Rcv)がそれぞれ以下の関係式を満足することを特徴とする海島型複合断面繊維。
A.Scv=(Sstd/Sx)×100 、0≦Scv<25
(ただし、Sxは4部分の海成分の面積平均値を表し、Sstdは4部分の海成分の面積の標準偏差(不偏分散の平方根)を表す。)
B.Rcv=(Rstd/Rx)×100 、0≦Rcv<30
(ただし、Rxは最外周に配された各島と単糸最外周との間隔の平均値を表し、Rstdは最外周に配された各島と単糸最外周との間隔の標準偏差(不偏分散の平方根)を表す。最外周に配された各島と単糸最外周との間隔については、島の中心から単糸最外周との最短直線距離で表すものとする。)
(9)前記(1)〜(8)のいずれかに記載の海島型複合断面繊維を少なくとも一部に有する布帛。
(10)前記(1)〜(8)のいずれかに記載の海島型複合断面繊維中に含まれる脂肪族ポリエステルを溶解除去して得られるポリアミド極細繊維。
(11)前記(10)に記載のポリアミド極細繊維を少なくとも一部に有する布帛。
(12)前記(10)に記載のポリアミド極細繊維を少なくとも一部に有する繊維製品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特に整経、編立、製織といった高次工程でのポリアミド極細繊維の剥離を抑制することで、ポリアミド極細繊維切れによる毛羽、糸切れ等を大幅に改善することができる。
【0011】
また、本発明の海島型複合断面繊維中に含まれる脂肪族ポリエステルを全量溶解除去してポリアミド極細繊維とすることにより、従来の合成繊維にはない優れた特性を得ることができる。特にソフト感といった極めて優しい肌触りの布帛が得られたり、また、繊維比表面積が大きくなるといったことから吸着性能、例えば、吸湿性等にも優れたポリアミド極細繊維が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の海島型複合断面繊維は、脂肪族ポリエステルが海成分、ポリアミドが島成分の海島型複合断面繊維であって、脂肪族ポリエステルもしくはポリアミドのどちらか片方に脂肪酸ビスアミドが含有されていることが重要である。本発明に用いられるポリアミドは、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された高分子量体からなる樹脂であって、かかるポリアミドとしては、染色性、機械特性に優れており、脂肪族ポリエステルとの複合溶融紡糸に好適な、主としてポリカプロアミド(ナイロン6)からなることが好ましい。ここで言う「主として」とは、ポリカプロアミドを構成するε−カプロラクタム単位として80モル%以上であることを言い、さらに好ましくは90モル%以上である。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を構成するモノマーである、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミン等の単位が挙げられる。
【0013】
また、ポリカプロアミドの重合度は、海島型複合断面繊維、海島型複合断面繊維中に含まれる脂肪族ポリエステルを全量溶解除去して得られるポリアミド極細繊維維、あるいはそれらの加工品の要求特性、またはそれらを安定して得るために適当な範囲より適宜選択して良いが、好ましくは98%硫酸相対粘度で2.0〜3.6の範囲であり、さらに好ましくは2.4〜3.3の範囲である。
【0014】
また、ポリカプロアミド中に含有される低重合物量としては、好ましくは熱水抽出法により検出される低重合物量で1.8重量%以下であり、さらに好ましくは1.5重量%以下である。かかる範囲とすることにより、特に海島型複合断面繊維の溶融紡糸時に発生するポリカプロアミドのモノマー、オリゴマー等を低減し、紡糸口金の表面汚れを抑制することで安定した溶融紡糸が実現できる。
【0015】
ポリカプロアミド中の低重合物を除去する方法としては、重合されたポリカプロアミドチップを、90〜120℃程度の沸騰水に接触させ、低重合物を抽出することが好ましい。ポリカプロアミド中の低重合物量は、チップ形状、浴比等によっても異なることがあるが、抽出時間は20〜40hr程度で、必要に応じてヒドラジン等の還元剤を添加することが好ましい。抽出操作を終えたポリカプロアミドチップは、約10重量%の水分を含有するため、乾燥をすると良い。ポリカプロアミドチップの乾燥方法は、1.3kPa以下の減圧下で、バッチ方式で加熱する方法、あるいは、ポリカプロアミドチップと加熱された窒素とを連続的に接触させる方法が挙げられる。ポリカプロアミドチップを大量生産する場合は、連続運転が可能な後者が有利であり、少量多品種生産をする場合は前者が有利である。通常の場合、乾燥はポリカプロアミドの融点以下の温度である100〜120℃において、10〜30hr程度保持することにより、水分率が概ね0.1重量%以下となるまで行うと良い。
【0016】
本発明に用いられる脂肪族ポリエステルは、いわゆる塩基酸とアルコールがエステル結合を介して連結された高分子量体からなる樹脂であって、その分子が環式構造を含まない、いわゆる脂肪族で構成されているものを言う。かかるポリマー構成とすることにより、極めて短時間での溶解除去が可能となる。脂肪族ポリエステルを溶解除去する場合、普通アルカリを用いるが、溶解処理条件によって変動はあるものの、ポリエチレンテレフタレートと溶解速度を比較した場合その差は約50倍にもなる。
【0017】
ここで、脂肪族ポリエステルを例示すると、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が挙げられるが、溶融成形が容易であるという点でポリ乳酸が好ましい。ポリ乳酸とは乳酸モノマーを重合したものであり、L体またはD体の光学純度が90%以上であると、融点が高くなり好ましい。また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲において、乳酸以外のモノマーを共重合していても良いが、好ましくはポリ乳酸を構成する乳酸単位として80モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0018】
また、ポリ乳酸の分子量は、海島型複合断面繊維、あるいはその加工品の要求特性、またはそれらを安定して得るために適当な範囲より適宜選択して良いが、好ましくは重量平均分子量で5万〜30万の範囲であり、さらに好ましくは10万〜25万の範囲である。
【0019】
本発明に用いられる脂肪酸ビスアミドは、いわゆる脂肪酸がアミド結合を介して結合されており、1分子鎖中にそのアミド結合部を2つ有する化合物を言う。このような脂肪酸ビスアミドを例示すると、メチレンビスカプリル酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ブチレンビスオレイン酸アミド、ブチレンビスエルカ酸アミド等が挙げられる。
【0020】
これらの化合物は、脂肪族ポリエステルとポリアミドの両者と相溶するため、海島界面での脂肪族ポリエステルとポリアミドとの分子間力が強固なものとなり、脂肪族ポリエステルが海成分、ポリアミドが島成分の海島型複合断面繊維を得る場合、高次工程でのポリアミドの剥離を抑制することができる。脂肪族ポリエステルとポリアミドの両者と相溶するその他の化合物として、例えば脂肪酸モノアミド等が挙げられるが、脂肪酸モノアミド等は脂肪酸ビスアミドと比べてアミドの反応性が極めて高いため、海島複合断面形成から紡糸口金より吐出される間、つまり溶融状態で脂肪族ポリエステルとポリアミドとが接触している間に、脂肪族ポリエステルとポリアミドとが相互反応し、例えばゲル等生成するため、安定した溶融紡糸が困難となる。
【0021】
本発明の海島型複合断面繊維は、脂肪族ポリエステルもしくはポリアミドのどちらか片方に脂肪酸ビスアミドが含有されていることが重要である。脂肪族ポリエステルとポリアミドの両方に脂肪酸ビスアミドが含有されると、前記と同様に、やはり脂肪族ポリエステルとポリアミドとが相互反応し、例えばゲル等生成するため、安定した溶融紡糸が困難となる。
【0022】
前記に記載の脂肪酸ビスアミドの中では、特に分子鎖が長い、いわゆる高級脂肪酸(炭素数として12以上)で構成されている脂肪酸ビスアミドが脂肪族ポリエステルとポリアミドとの相互反応を小さくするため好ましく、さらに好ましくは炭素数として18以上の高級脂肪酸で構成されている脂肪酸ビスアミドが好ましく、この中でも、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、もしくはそれらの混合物が最も好ましい。構造式を下記する。
エチレンビスステアリン酸アミド :C1735CONH(CHNHCOC1735
【0023】
エチレンビスステアリン酸アミドとは、エチレンジアミンの両末端基にステアリン酸がアミド結合を介して連結された構造を有している。エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミドとは、ステアリン酸のかわりにそれぞれオレイン酸、エルカ酸がアミド結合を介して連結された構造である。
【0024】
本発明の海島型複合断面繊維は、脂肪族ポリエステルに脂肪酸ビスアミドが含有されている系においては、脂肪族ポリエステル100gに対して0.1〜3gの範囲で脂肪酸ビスアミドが含有されていることが好ましい。さらに好ましくは0.1〜1.5gの範囲である。脂肪酸ビスアミドの含有量が0.1g未満では、整経、編立、製織といった高次工程でのポリアミド極細繊維の剥離を充分抑制することができず、ポリアミド極細繊維切れによる毛羽、糸切れ等が発生する。また、脂肪酸ビスアミドの含有量が3gを越えても、効果はそれ以上には改善されず経済的観点から好ましくない。また、海島界面で脂肪族ポリエステルとポリアミドとが相互反応し、安定した溶融紡糸が困難となる。
【0025】
本発明の海島型複合断面繊維は、ポリアミドに脂肪酸ビスアミドが含有されている系においては、ポリアミド100gに対して0.1〜5gの範囲で脂肪酸ビスアミドが含有されていることが好ましい。さらに好ましくは0.1〜2.5gの範囲である。脂肪酸ビスアミドの含有量が0.1g未満では、整経、編立、製織といった高次工程でのポリアミド極細繊維の剥離を充分抑制することができず、ポリアミド極細繊維切れによる毛羽、糸切れ等が発生する。また、脂肪酸ビスアミドの含有量が5gを越えても、効果はそれ以上には改善されず経済的観点から好ましくない。また、海島界面で脂肪族ポリエステルとポリアミドとが相互反応し、安定した溶融紡糸が困難となる。
【0026】
脂肪酸ビスアミドを脂肪族ポリエステルやポリアミドに含有せしめる方法としては、脂肪族ポリエステルやポリアミドペレットへ脂肪酸ビスアミドをブレンドし溶融する方法、溶融状態の脂肪族ポリエステルやポリアミドへ脂肪酸ビスアミドを添加し混練する方法、脂肪酸ビスアミドをエクストルーダーで脂肪族ポリエステルやポリアミド中に混練しマスターペレットとし、そのマスターペレットを脂肪族ポリエステルやポリアミドペレットとドライブレンドし溶融する方法等が挙げられるが、脂肪族ビスアミドと、脂肪族ポリエステルまたはポリアミドの両者が均一に混ざればいかなる方法でも良い。
【0027】
本発明の海島複合断面繊維には、本発明の効果を損なわない範囲において種々の添加剤を含んでも良い。この添加剤を例示すると、マンガン化合物などの安定剤、酸化チタンなどの着色剤、難燃剤、導電性付与剤、繊維状強化剤等が挙げられる。
【0028】
本発明の海島型複合断面繊維に含まれる脂肪族ポリエステルとポリアミドの重量比は、海島型複合断面繊維、海島型複合断面繊維中に含まれる脂肪族ポリエステルを全量溶解除去して得られるポリアミド極細繊維、あるいはその加工品の要求特性、またはそれらを安定して得るために適当な範囲より適宜選択して良いが、好ましくは脂肪族ポリエステルとポリアミドの重量比で5:95〜60:40の範囲であり、さらに好ましくは10:90〜50:50の範囲である。脂肪族ポリエステルとポリアミドの重量比が5:95未満では、溶融紡糸時に島成分であるポリアミド同士が融合しやすくなるため、脂肪族ポリエステルを全量溶解除去したとき、均一な繊維径を有するポリアミド極細繊維を得ることができない。また、脂肪族ポリエステルとポリアミドの重量比が60:40を越えると、脂肪族ポリエステルの溶解除去に必要な溶剤が多くなる等、安全性や自然環境保護の観点、また、経済的観点からも好ましくない。また、脂肪族ポリエステルを全量溶解除去して得られるポリアミド極細繊維自体が溶解除去前の海島型複合断面繊維と比べて細くなりすぎることから、布帛等にした時、布帛密度が荒くなりすぎて、繊維製品の布帛設計が困難となったり、製品バリエーションが少なくなったりする可能性がある。
【0029】
本発明の海島型複合断面繊維の繊維横断面について、該繊維の単糸横断面の中心を通り互いに90度と直交する2本の直線を引いて該単糸を4等分したとき、その4部分の海成分の面積バラツキ(Scv)を以下の関係式とすると、下記Scvは小さいことが好ましい。
Scv=Sstd/Sx ×100
(ただし、Sxは4部分の海成分の面積平均値を表し、Sstdは4部分の海成分の面積の標準偏差(不偏分散の平方根)を表す。)
【0030】
Scvについて、好ましくは0〜25の範囲であり、さらに好ましくは0〜20の範囲である。かかる範囲とする目的は、島成分であるポリアミドの均一分散であり、ポリアミドの局在的な偏りによるポリアミド同士の融合を抑制することで、脂肪族ポリエステルを全量溶解除去したとき、均一な繊維径を有するポリアミド極細繊維を得ることができる。また、繊維横断面で見た場合、応力が繊維横断面に均等に分散されるため、例えば繊維長手方向での強伸度バラツキが少ない海島型複合断面繊維を得ることができる。
【0031】
Scvが25を越えた場合は、島成分であるポリアミドが局在的に偏ることになり、溶融紡糸時にポリアミド同士が融合し、脂肪族ポリエステルを溶解除去したとき、均一な繊維径を有するポリアミド極細繊維を得ることができない。また、繊維長手方向での強伸度バラツキが多い繊維となる。
【0032】
本発明の海島型複合断面繊維の繊維横断面について、該繊維の単糸横断面の最外周に配された全島について、その各島と該単糸最外周との間隔バラツキ(Rcv)を以下の関係式とすると、下記Rcvは小さいことが好ましい。
Rcv=Rstd/Rx ×100
(ただし、Rxは最外周に配された各島と単糸最外周との間隔の平均値を表し、Rstdは最外周に配された各島と単糸最外周との間隔の標準偏差(不偏分散の平方根)を表す。最外周に配された各島と単糸最外周との間隔については、島の中心から繊維最外周との最短直線距離で表すものとする。)
【0033】
Rcvについて、好ましくは0〜30の範囲であり、さらに好ましくは0〜20の範囲である。かかる範囲とする目的は、前記と同様に、均一なポリアミド極細繊維を得ること、繊維長手方向での強伸度バラツキが少ない海島型複合断面繊維を得ることにある。
【0034】
Rcvが30を越えた場合は、最外周に配された島成分であるポリアミドが局在的に偏ることになり、溶融紡糸時にポリアミド同士が融合し、脂肪族ポリエステルを全量溶解除去したとき、均一な繊維径を有するポリアミド極細繊維を得ることができない。また、繊維長手方向での強伸度バラツキが多い繊維となる。
【0035】
本発明の海島型複合断面繊維の総島数は300以上が好ましく、さらに好ましくは500以上である。総島数が多いほど脂肪族ポリエステルを全量溶解除去したときに得られるポリアミド極細繊維が細くなり、極細繊維の狙いとするソフト感、吸着性能を飛躍的に向上させることができる。また、逆に総島数が多くなりすぎると、それを溶融紡糸する口金精度の理由で紡糸口金の製造コストが高くなり、また、海島複合断面繊維の単糸本数によっては、溶融紡糸時に島成分であるポリアミド同士が融合しやすくなるため、脂肪族ポリエステルを全量溶解除去したとき、均一な繊維径を有するポリアミド極細繊維を得ることができない可能性がある。よって海島型複合断面繊維の総島数は1000以下とするのが好ましい。
【0036】
本発明の海島型複合断面繊維の脂肪族ポリエステルを全量溶解除去して得られるポリアミド極細繊維の単糸繊度は、好ましくは0.01〜0.5デシテックス(dtex)の範囲であり、さらに好ましくは0.01〜0.2dtexの範囲である。ポリアミド極細繊維の単糸繊度が0.01dtex未満では、原糸品位を含め、安定した溶融紡糸が困難となる。
【0037】
一般的にポリアミド極細繊維の単糸繊度を細くする場合、紡糸口金あたりの総島数を多くする、もしくは紡糸口金あたりのポリアミドの吐出量を下げるといった方法があるが、紡糸口金あたりの総島数が多くなりすぎると、前記と同様に、やはり紡糸口金の製造コストが高くなる、脂肪族ポリエステルを全量溶解除去したとき、均一な繊維径を有するポリアミド極細繊維を得ることができなくなるといった問題がある。また、紡糸口金あたりのポリアミドの吐出量を下げすぎると、紡糸口金での溶融したポリアミドの計量が困難となり、やはり、脂肪族ポリエステルを全量溶解除去したとき、均一な繊維径を有するポリアミド極細繊維を得ることができなくなるといった問題が残る。
【0038】
ポリアミド極細繊維の単糸繊度が0.5dtexを越えるものは、紡糸口金設計に主眼した単独ポリマーでの一発溶融紡糸でも得ることができるため、海島型複合断面繊維として得るメリットがない。
【0039】
本発明の海島型複合断面繊維は、そのまま繊維製品として得ることもできるが、アルカリにより海島型複合断面繊維中に含まれる脂肪族ポリエステルを溶解除去することにより、ソフト感、吸着性能に優れたポリアミド極細繊維を得ることが可能である。さらには、海島型複合断面繊維中に含まれる脂肪族ポリエステルを一部溶解除去することにより、光沢、触感等の新たな付加価値を得ることも可能である。これらの場合、海島複合断面繊維から得られた布帛をアルカリで処理する。ここで言うアルカリとは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられるが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強アルカリ(pH=10〜14)を0.5〜20重量%、60〜120℃で処理することが好ましい。
【0040】
本発明の海島型複合断面繊維を用いた繊維製品、また、海島型複合断面繊維中に含まれる脂肪族ポリエステルを全量溶解除去したときに得られるポリアミド極細繊維を用いた繊維製品としては、キャミソール、ショーツ等のインナーウエア、ストッキング、ソックス等のレッグニット、シャツやブルゾン等のスポーツ・カジュアルウェア、パンツ、コート、紳士・婦人衣料等の衣料用途のみならず、ブラカップやパッド等の衣料資材用途、カーテンやカーペット、マット、家具等のインテリア用途、吸水フェルト、研磨布といった工業資材用途、さらにはフィルター等の産業資材用途、車両内装用途にも好適に用いることができる。近年、繊維産業においても、バイオマス利用、生分解性といったエコ素材は、自然環境保護の観点から注目を集めており、本発明の海島型複合断面繊維は、こういったエコ素材にも好適に用いることができる。
【0041】
本発明の海島型複合断面繊維の製造方法について説明する。本発明の海島型複合断面繊維は公知のいずれの方法でも製造可能であるが、海島複合形成性、生産性、コストの観点から、溶融紡糸による製造が最も優れている。溶融紡糸による製造方法について、紡糸−延伸工程を連続して行う方法(直接紡糸延伸法)、未延伸糸を一旦巻き取った後に延伸する方法(2工程法)、あるいは紡糸速度を4000m/min以上のように高速として実質的に延伸工程を省略する方法(高速紡糸法)等、いずれの方法においても製造可能であり、必要に応じて仮撚りや空気交絡等の糸加工を施しても良い。
【0042】
以下に直接紡糸延伸法での製造について例示する。
【0043】
まず溶融部について説明する。ポリアミド、脂肪酸ビスアミドが含有されている脂肪族ポリエステルを溶融するに際し、プレッシャーメルター法あるいはエクストルーダー法が挙げられるが、両者とも特に限定されるものではない。溶融温度は、ポリアミド、例えばポリカプロアミドの場合は240〜280℃が好ましく、脂肪族ポリエステル、例えばポリ乳酸の場合は200〜240℃が好ましい。
【0044】
また、紡糸口金から吐出されるまでのポリマー滞留時間は、特にポリ乳酸のような耐熱性に乏しいポリマーの場合、ポリマー溶融部先端、例えば、プレッシャーメルタータイプの溶融紡糸装置の場合はメルター部から、エクストルーダータイプの溶融紡糸装置の場合はシリンダー入口から、紡糸口金から吐出するまでの時間を20min以内とすることが好ましい。
【0045】
紡糸パックへ流入したポリアミド、脂肪族ポリエステルは、公知の紡糸口金により合流、海島複合断面に形成されて、紡糸口金より吐出される。海島複合紡糸口金については様々な公知例があるが、島成分の流路となる複数のパイプと、これらの島成分をそれぞれ取り囲む海成分の流路(スリット)を設けてなる紡糸口金での海島複合形成が、Scv、Rcvのコントロールが容易となり好ましい。図1で詳細説明する。図1は、本発明で用い得る海島型複合紡糸口金の一例であり、後述する実施例で用いた海島型複合紡糸口金の断面を示す概略図である。島成分流入孔(パイプ)(5)から流入された島成分が、海成分流入孔(4)〜1号板(1)および2号板(2)の隙間(6)〜スリット(7)を通過した海成分によって、合流部(8)でいわばコーティングされる形となる。海成分によってコーティングされた各島成分が、3号板(3)の合流部(9)で合流し、海島複合断面に形成されて、吐出孔(10)より吐出される。Scv、Rcvを満足する良好な海島複合断面を得るには、特に海成分の計量が充分に行われる必要があり、図1に示すようなパイプ(5)が2号板(2)の途中まで進入しているような紡糸口金だと、海成分の計量に必要なスリット(7)長を得ることができ、さらに好ましい。
【0046】
また、紡糸温度(いわゆるポリマー配管や紡糸パックまわりの保温温度)は、240〜280℃が好ましい。
【0047】
紡糸口金から吐出された海島型複合断面繊維は、冷却、固化され、油剤が付与された後、引き取られる。引き取り速度は1000〜5000m/minの範囲が好ましく、延伸糸の伸度が30〜70%の範囲となるように適宜延伸倍率を設定、延伸後、速度として2500〜5000m/minの範囲で巻き取るのが好ましい。また、巻き取りまでの工程で公知の交絡装置を用い、交絡を施すことも可能である。必要であれば複数回付与することで交絡数を上げることも可能である。さらには、巻き取り直前に、追加で油剤を付与するのも可能である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。また、本発明の海島型複合断面繊維、ポリアミド極細繊維の物性の測定方法は以下の通りである。
【0049】
A.ポリカプロアミドの98%硫酸相対粘度(ηr)
オストワルド粘度計にて下記溶液の25℃での落下秒数を測定し、下式により算出した。ポリカプロアミドを1g/100mlとなるように溶解した98%濃硫酸(T1)、98%濃硫酸(T2)とすると、
(ηr)=T1/T2。
【0050】
B.ポリカプロアミド中の低重合物量
35メッシュを通過し、115メッシュに留まるポリカプロアミド粉末を、水分率が0.03重量%以下となるまで乾燥、その重量を秤量した(W1)。その後、浴比200倍の沸騰水で4hr抽出し、水洗後、再び水分率が0.03重量%以下となるまで乾燥、その重量を秤量した(W2)。下式により算出した。
(MO量)(重量%)={(W1−W2)/W1}×100。
【0051】
C.ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)
ポリ乳酸のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算でMwを求めた。
【0052】
D.ポリエチレンテレフタレート(PET)の固有粘度(IV)
オストワルド粘度計にて下記溶液の25℃での落下秒数を測定し、下式により算出した。試料を0.8g/10mlとなるように溶解したオルトクロロフェノール(T1)、オルトクロロフェノール(T2)とすると、
(ηr)=T1/T2
(IV)=0.0242ηr+0.2634。
【0053】
E.脂肪酸ビスアミド含有量
(1)ポリエステル成分100gに対する脂肪酸ビスアミド含有量(g)
a.繊維を、温度95℃、15重量%−塩酸水溶液に5hr浸透させ(浴比は繊維60gに対して1Lの割合とする)、流水で1hr水洗し、乾燥処理を施した(ポリアミド成分を全量溶解除去できたものとする)。
b.前記に記載の処理を行った繊維から約5gを取り分け秤量した(W1)。
c.秤量した繊維を、温度95℃、6重量%−水酸化ナトリウム水溶液に5hr浸透させ(浴比は繊維60gに対して1Lの割合とする)、繊維を溶解させた。
d.前記に記載の溶解液を全量、あらかじめ乾燥、秤量しておいたガラスフィルター(サカイグラステック(株)社製1G−4ガラス濾過器)(W2)で濾過した。
e.ガラスフィルターをかるく水洗し、乾燥処理を施した後、秤量した(W3)。
f.下式により脂肪酸ビスアミド含有量を算出した。
[(W3−W2)/{W1−(W3−W2)}]×100
(2)ポリアミド成分100gに対する脂肪酸ビスアミド含有量(g)
a.繊維を、温度95℃、6重量%−水酸化ナトリウム水溶液に5hr浸透させ(浴比は繊維60gに対して1Lの割合とする)、流水で1hr水洗し、乾燥処理を施した(ポリエステル成分を全量溶解除去できたものとする)。
b.前記に記載の処理を行った繊維から約5gを取り分け秤量した(W1)。
c.秤量した繊維を、温度95℃、15重量%−塩酸水溶液に3hr浸透させ(浴比は繊維60gに対して1Lの割合とする)、繊維を溶解させた。
d.前記に記載の溶解液を全量、あらかじめ乾燥、秤量しておいたガラスフィルター(サカイグラステック(株)社製1G−4ガラス濾過器)(W2)で濾過した。
e.ガラスフィルターをかるく水洗し、乾燥処理を施した後、秤量した(W3)。
f.下式により脂肪酸ビスアミド含有量を算出した。
[(W3−W2)/{W1−(W3−W2)}]×100
【0054】
F.光学顕微鏡による繊維横断面観察
繊維横断方向に必要に応じて繊維を蝋で固める等して約6ミクロンの薄切片を切り出し、光学顕微鏡(Nikon(株)社製80iTP−DPH−S)で繊維横断面を観察した。繊維糸条全体を観察するときは1000倍、単糸を観察するときは3000倍と必要に応じて観察倍率を変更して繊維横断面を観察した。
【0055】
G.Scv
前記に記載の光学顕微鏡(3000倍)による繊維横断面写真を画像処理ソフト(三谷商事(株)社製WINROOF)を用いて求めた。詳細は下記の通りとした。
(1)繊維横断面写真から無作為に単糸5本を選択した。
(2)それぞれの単糸について、中心を通り互いに90度と直行する2本の直線を引いて該単糸を4等分した。
(3)それぞれの単糸について、4部分の海成分の面積をWINROOFで計測し、その面積平均値(Sx)、標準偏差(Sstd)を算出した。なお、標準偏差は不偏分散から算出した。
(4)それぞれの単糸について、Scv=Sstd/Sx×100の関係式からScvを算出し、それぞれの単糸のScvからその平均値を算出した。
【0056】
H.Rcv
前記に記載の光学顕微鏡(3000倍)による繊維横断面写真を画像処理ソフト(三谷商事(株)社製WINROOF)を用いて求めた。詳細は下記の通りとした。
(1)繊維横断面写真から無作為に単糸5本を選択した。
(2)それぞれの単糸について、最外周に配された全島の中心と単糸最外周との最短直線距離をWINROOFで計測し、その間隔平均値(Rx)、標準偏差(Rstd)を算出した。なお、標準偏差は不偏分散から算出した。
(3)それぞれの単糸について、Rcv=Rstd/Rx×100の関係式からRcvを算出し、それぞれの単糸のRcvからその平均値を算出した。
【0057】
I.強度、伸度、強伸度積、強伸度積バラツキ
(1)強度(Tb)、伸度(S)は、JIS L1013(1999)の8.5項に準じた。なお、測定条件としては、定速緊張形試験機(オリエンテック(株)社製テンシロン)を用い、つかみ間隔50cm、引張速度50cm/minとした。
(2)強伸度積(TbS)は、TbS=Tb×(100+S)/100の関係式から算出した。
(3)繊維長手方向の強伸度積バラツキ(TbScv)は、TbScv=TbSstd/TbSx×100の関係式から算出した。なお、(TbSx)は同一繊維について強伸度積を10回測定した平均値であり、(TbSstd)はその標準偏差(不偏分散から算出)であるた。
【0058】
J:耐剥離性
JIS L1076(2006)のC法に規定されているアピアランス・リテンション型試験機を用いて評価した。詳細は下記の通りとした。
(1)繊維から編密度が45本/2.54cmの丸編地を作成し、約5cm四方にカット後、水に浸透させた。
(2)直径2cmの試料ホルダーに前記に記載の試験片をセットした。
(3)シリコンカーバイト摩擦板に、水に浸透させた織密度がウェール120本/2.54cm、コース90本/2.54cmの平織地(糸種は78dtex−24フィラメントのポリカプロアミド単独繊維)をセットした。
(4)押圧荷重1300gでもって10min(1300回)摩耗させた。摩耗後、試料ホルダーの試験片を乾燥し、剥離による試験片の光沢、変色度合いを目視判定した。外観変化なし(◎)、光沢の変化が僅かにあるが白化はない(○)、部分的に白く変色している(△)、全体的に白く変色している(×)の4段階で等級判定した。
【0059】
K.毛羽数
多点毛羽計数装置(東レエンジニアリング社製MFC−120)を用いて、繊維パッケージから繊維を600m/分で解舒し、5時間測定、装置に表示される毛羽数をカウントした。なお、測定点の手前に整経オサ(ステンレス製、オサ間隔1mm)を設けて、そこに繊維を通した。無作為に選択した50パッケージを一斉評価し、その合計数で評価した。
【0060】
L.ソフト性
繊維から織密度がウェール120本/2.54cm、コース90本/2.54cmの平織地を作成し、1%−水酸化ナトリウム水溶液で、95℃で1hr浸透し、ポリエステル成分を溶解除去後、流水で1hr水洗し、1日間風乾した。得られた平織地について、検査者(30人)の触感によって筒編地のソフト性を相対評価した。ソフト性が非常に良い(◎)、ソフト性がやや良い(○)、ソフト性があまりない(△)、ソフト性がない(×)の4段階で等級判定した。
【0061】
(実施例1〜3,7,8)
ポリアミドとしてηrが2.6、低重合物量が1重量%のポリカプロアミドペレットと、脂肪族ポリエステルとしてMwが12万のポリ乳酸ペレットとを両者の水分率が0.03重量%以下になるまで乾燥した。脂肪酸ビスアミドとしてエチレンビスステアリン酸アミド粉末を、表1に示す重量比でポリ乳酸ペレットにのみブレンドした。
【0062】
ポリカプロアミドを260℃、エチレンビスステアリン酸アミドが含有されているポリ乳酸を220℃の溶融温度で、表1に示す重量比で各個別々のプレッシャーメルターで溶融し、紡糸パック、紡糸口金に合流、海島複合形成させて紡糸口金より吐出させた。紡糸口金は、図1に示すパイプ(5)が2号板(2)の途中まで進入している紡糸口金とし、単糸(ホール)あたりの島数が37島で、紡糸口金あたりのホール数が20(総島数は740)のものを使用した。また、紡糸温度は260℃とした。紡糸口金より吐出後、18℃の冷風で冷却、給油した後に、巻取速度4000m/分で直接紡糸延伸を行い、78dtex−20フィラメントの海島型複合断面繊維を得た。
【0063】
得られた海島型複合断面繊維について、Scv、Rcv、強伸度積、強伸度積バラツキ、耐剥離性、毛羽数について評価した。紡糸操業性については、海島型複合断面繊維を1t生産した際の紡糸糸切れ回数について評価した。また、前記に記載の方法で、得られた海島型複合断面繊維のポリ乳酸を全量溶解除去して得られたポリカプロアミド極細繊維からなる平織地のソフト性についてもあわせて評価した。これらの結果を表1に示す。
【0064】
(実施例4〜6,9,10)
エチレンビスステアリン酸アミド粉末をポリカプロアミドペレットにのみブレンドする以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、78T−20フィラメントの海島型複合断面繊維を得た。得られた海島型複合断面繊維について、実施例1と同様の項目について評価した。これらの結果を表1に示す。
【0065】
(実施例11)
脂肪酸ビスアミドをエチレンビスオレイン酸アミド粉末とする以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、78dtex−20フィラメントの海島型複合断面繊維を得た。得られた海島型複合断面繊維について、実施例1と同様の項目について評価した。これらの結果を表1に示す。
【0066】
(実施例12)
脂肪酸ビスアミドをエチレンビスエルカ酸アミド粉末とする以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、78dtex−20フィラメントの海島型複合断面繊維を得た。得られた海島型複合断面繊維について、実施例1と同様の項目について評価した。これらの結果を表1に示す。
【0067】
(実施例13)
紡糸口金をホールあたりの島数が70島で、紡糸口金あたりのホール数が14(総島数は980)のものとする(異なるのは島数、ホール数のみ)以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、78dtex−20フィラメントの海島型複合断面繊維を得た。得られた海島型複合断面繊維について、実施例1と同様の項目について評価した。これらの結果を表1に示す。
【0068】
(比較例1)
ポリアミドとしてηrが2.6、低重合物量が1重量%のポリカプロアミドペレットと、IVが0.62のポリエチレンテレフタレートペレットとを両者の水分率が0.03重量%以下になるまで乾燥した。脂肪酸ビスアミドとしてエチレンビスステアリン酸アミド粉末を、表1に示す重量比でポリエチレンテレフタレートペレットにのみブレンドした。
【0069】
ポリカプロアミドを260℃、エチレンビスステアリン酸アミドが含有されているポリエチレンテレフタレートを290℃の溶融温度で、表1に示す重量比で各個別々のプレッシャーメルターで溶融し、紡糸パック、口金に合流、海島複合形成させて紡糸口金より吐出させた。紡糸口金は、図1に示すパイプ(5)が2号板(2)の途中まで進入している紡糸口金とし、単糸(ホール)あたりの島数が37島で、紡糸口金あたりのホール数が20(総島数は740)のものを使用した。また、紡糸温度は290℃とした。紡糸口金より吐出後、18℃の冷風で冷却、給油した後に、巻取速度4000m/分で直接紡糸延伸を行い、78dtex−20フィラメントの海島型複合断面繊維を得た。
【0070】
得られた海島型複合断面繊維について、実施例1と同様の項目について評価した。なお、ソフト性については、前記に記載の方法で、得られた海島型複合断面繊維のポリエチレンテレフタレートを全量溶解除去しようと試みたが、全量溶解除去することはできず、所望のポリカプロアミド極細繊維からなる平織地を得ることはできなかった。これらの結果を表1に示す。
【0071】
(比較例2)
ポリカプロアミド、ポリ乳酸の両者に脂肪酸ビスアミドを含有しないとする以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、78dtex−20フィラメントの海島型複合断面繊維を得た。得られた海島型複合断面繊維について、実施例1と同様の項目について評価した。これらの結果を表1に示す。
【0072】
(比較例3,4)
ポリカプロアミド、ポリ乳酸の両者にエチレンビスステアリン酸アミドを表1に示す重量比で含有する以外は、実施例1と同様に溶融紡糸し、78dtex−20フィラメントの海島型複合断面繊維を得た。得られた海島型複合断面繊維について、実施例1と同様の項目について評価した。これらの結果を表1に示す。
【0073】
(比較例5)
紡糸口金を図2のものとする(パイプ(5)が2号板(2)に進入していない紡糸口金、島数、ホール数は実施例1と同様)以外は、比較例1と同様に溶融紡糸し、78T−20フィラメントの海島型複合断面繊維を得た。得られた海島型複合断面繊維について、実施例1と同様の項目について評価した。なお、ソフト性については、前記に記載の方法で、得られた海島型複合断面繊維のポリエチレンテレフタレートを全量溶解除去しようと試みたが、全量溶解除去することはできず、所望のポリカプロアミド極細繊維からなる平織地を得ることはできなかった。これらの結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1の結果から明らかなように、本発明の海島型複合断面繊維は、従来の海島型複合断面繊維と比較して、ポリアミド極細繊維の剥離による高次工程での毛羽が大幅に改善されており、紡糸操業性、アルカリに対しても優れた溶解性を示す、極めて顕著な効果を奏するものであると言える。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施例で用いた海島型複合紡糸口金の概略図である。
【図2】本発明の比較例で用いた海島型複合紡糸口金の概略図である。
【符号の説明】
【0077】
1:1号板
2:2号板
3:3号板
4:海成分流入孔
5:島成分流入孔(パイプ)
6:1,2号板の隙間
7:スリット
8,9:合流部
10:吐出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステルが海成分、ポリアミドが島成分の海島型複合断面繊維であって、脂肪族ポリエステルもしくはポリアミドのどちらか片方に脂肪酸ビスアミドが含有されていることを特徴とする海島型複合断面繊維。
【請求項2】
脂肪族ポリエステルに脂肪酸ビスアミドが含有されている系において、脂肪族ポリエステル100gに対して0.1〜3gの範囲で脂肪酸ビスアミドが含有されていることを特徴とする請求項1に記載の海島型複合断面繊維。
【請求項3】
ポリアミドに脂肪酸ビスアミドが含有されている系において、ポリアミド100gに対して0.1〜5gの範囲で脂肪酸ビスアミドが含有されていることを特徴とする請求項1に記載の海島型複合断面繊維。
【請求項4】
前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の海島型複合断面繊維。
【請求項5】
前記ポリアミドがポリカプロアミドであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の海島型複合断面繊維。
【請求項6】
前記脂肪酸ビスアミドがエチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミドから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の海島型複合断面繊維。
【請求項7】
前記脂肪族ポリエステルと前記ポリアミドの重量比が、5:95〜60:40の範囲にあることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の海島型複合断面繊維。
【請求項8】
脂肪族ポリエステルが海成分、ポリアミドが島成分の海島型複合断面繊維であって、該繊維の単糸横断面の中心を通り互いに90度と直交する2本の直線を引いて該単糸を4等分したとき、その4部分の海成分の面積バラツキ(Scv)、該繊維の単糸横断面の最外周に配された全島について、その各島と該単糸最外周との間隔バラツキ(Rcv)がそれぞれ以下の関係式を満足することを特徴とする海島型複合断面繊維。
(1)Scv=(Sstd/Sx) ×100 、0≦Scv<25
(ただし、Sxは4部分の海成分の面積平均値を表し、Sstdは4部分の海成分の面積の標準偏差(不偏分散の平方根)を表す。)
(2)Rcv=(Rstd/Rx)×100 、0≦Rcv<30
(ただし、Rxは最外周に配された各島と単糸最外周との間隔の平均値を表し、Rstdは最外周に配された各島と単糸最外周との間隔の標準偏差(不偏分散の平方根)を表す。最外周に配された各島と単糸最外周との間隔については、島の中心から単糸最外周との最短直線距離で表すものとする。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の海島型複合断面繊維を少なくとも一部に有する布帛。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の海島型複合断面繊維中に含まれる脂肪族ポリエステルを溶解除去して得られるポリアミド極細繊維。
【請求項11】
請求項10に記載のポリアミド極細繊維を少なくとも一部に有する布帛。
【請求項12】
請求項10に記載のポリアミド極細繊維を少なくとも一部に有する繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−74211(P2009−74211A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246282(P2007−246282)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】