説明

海底ケーブル損傷船舶探知システム

【課題】海底ケーブルを損傷した船舶を特定して警告を発する海底ケーブル損傷船舶探知システムを提供する。
【解決手段】海底ケーブル管理装置10は、海底ケーブル4の系統図情報、及び各海底ケーブルに係る方位情報を記録したケーブル系統図データベース(以下、単にDBと記す)24と、海底ケーブル4が損傷したことを検知して損傷発生時刻を記憶すると共に、海底ケーブル4の損傷位置までの距離を測定する海底ケーブル損傷探知装置23と、船舶ロケーション管理装置21により管理されている船舶運航に係る情報と、海底ケーブル損傷探知装置23により検知された損傷発生時刻及び損傷位置までの距離情報に基づいて得られた方位情報とが一致する船舶を特定する損傷船舶検知装置22と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底ケーブル損傷船舶探知システムに関し、さらに詳しくは、AIS(自動船舶識別装置)から得られた情報と、海底ケーブルに備えた光ファイバーケーブルの損傷状態を検知したときの時刻及び損傷位置情報とをリンクすることにより、海底ケーブルを損傷した船舶を特定する海底ケーブル損傷船舶探知システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、国同士、或いは離島間の通信インフラ、或いはエネルギーインフラとして、海底ケーブルが多く利用されている。海底ケーブルには、光ファイバーを利用したものや、電力を送電する電力ケーブル、或いは、それらを複合的に収めた海底CVケーブル等がある。これらの海底ケーブルは、船舶の航行、或いは海面付近での漁船操業に支障を来たさないように海底に敷設されるのが一般的である。しかし、海底ケーブルは陸地のある拠点から敷設されるため、陸地に近い海域では深度が浅く、船舶による投錨、或いは漁船の底引き網により引き起こされる海底ケーブルの損傷(圧縮変形、曲げ、切断等)が発生する虞がある。従って、海底ケーブルは、このような事故を想定して、外力に対して内部のケーブルを防護するように構成されているが、大型タンカー等の錨で海底ケーブルを引っ掛けた場合は、海底ケーブルを防護しきれずに切断等の重大事故に繋がっていた。また、このような事故は海上で発生するため、事故を起こした船舶を特定することが非常に困難であった。
このような海底ケーブルの損傷事故を未然に防止する従来技術として、特許文献1には、海上移動体底部深さ関連値と海面高さから、当該海上移動体の底部の位置を演算し、当該海上移動体の将来位置を予測演算し、海面下存在物の上面等に海上移動体底部が接近するか否かを判別するシステムについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−207135公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている従来技術は、海面下存在物の上面等に海上移動体底部が接近するか否かを予測することはできるが、投錨により海面下存在物を損傷した場合に、当該海上移動体を特定することができないといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、海底ケーブルの損傷事故が発生した際に、AIS(自動船舶識別装置)から得られた情報と、海底ケーブルに備えた光ファイバーケーブルの損傷状態を検知したときの時刻及び損傷位置情報とをリンクすることにより、海底ケーブルを損傷した船舶を特定して警告を発する海底ケーブル損傷船舶探知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、海底ケーブルの損傷を引き起こした船舶を特定する海底ケーブル損傷船舶探知システムであって、前記海底ケーブルの系統図情報、及び各海底ケーブルに係る方位情報を記録したケーブル系統図データベースと、前記海底ケーブルが損傷したことを検知して損傷発生時刻を記憶すると共に、該海底ケーブルの損傷位置までの距離を測定する海底ケーブル損傷探知装置と、前記船舶の少なくとも船名、航行時刻、及び位置からなる船舶運航に係る情報を超短波帯の無線電波により送受信するAIS送受信機と、該AIS送受信機により受信した前記船舶運航に係る情報を管理する船舶ロケーション管理装置と、該船舶ロケーション管理装置により管理されている前記船舶運航に係る情報と、前記海底ケーブル損傷探知装置により検知された前記損傷発生時刻及び前記損傷位置までの距離情報に基づいて得られた方位情報とが一致する船舶を特定する損傷船舶検知装置と、を備えたことを特徴とする。
海底ケーブルの損傷事故が発生した場合は、海底ケーブルの損傷位置と発生時刻を特定することが重要である。この情報が判明すれば、AIS送受信機により受信した船舶運航に係る情報から、損傷発生時刻に、海底ケーブルの損傷位置の海域を航行していた船舶を特定することが可能となる。本発明では、損傷事故が発生すると、海底ケーブル損傷探知装置により損傷箇所までの距離を測定し、ケーブル系統図データベースから参照したケーブルの方位情報に基づいて、測定した距離から損傷位置を割り出す。そしてAIS送受信機により受信した船舶運航に係る情報から、割り出された損傷位置の海域を損傷発生時刻に航行していた船舶を特定する。これにより、損傷した海底ケーブルの位置と、損傷を引き起こした船舶を同時に特定することができる。
【0006】
請求項2は、前記海底ケーブルの表面に沿わせて設けた光ファイバーケーブルを備え、前記海底ケーブル損傷探知装置は、前記光ファイバーケーブルの損傷をOTDR測定器により測定することにより、前記海底ケーブルの損傷位置までの距離を測定することを特徴とする。
海底ケーブルには、光ファイバーを利用したものや、電力を送電する電力ケーブル、或いは、それらを複合的に収めた海底CVケーブル等がある。しかし、海底ケーブルの表面は、外力に対して内部の光ファイバー、導体を防護するために強固な構造が成されている。そこで、海底ケーブル損傷探知装置により海底ケーブルに外力が加えられたことを敏感に検知するための手段を講ずる必要がある。そこで本発明では、海底ケーブルの表面に光ファイバーケーブルを沿わせ、常時、損傷の有無をOTDR測定器により測定するようにする。これにより、損傷検知の感度を高めるとともに、損傷の有無と損傷位置までの距離を略リアルタイムに検知することができる。
請求項3は、前記海底ケーブル中に光ファイバーケーブルを含む場合、前記海底ケーブル損傷探知装置は、該光ファイバーケーブルを伝播する信号レベルを検知することにより、前記海底ケーブルが損傷したか否かを判定することを特徴とする。
光ファイバーを利用した海底ケーブルや、電力ケーブルと光ファイバーケーブルを複合的に収めた海底CVケーブルは、もともと光ファイバーケーブルを備えているので、この光ファイバーを損傷検知手段として有効に利用する。即ち、海底ケーブルが損傷を受けて圧縮変形、又は切断が発生すると、通信そのものが不可能となる。即ち、そのときは信号レベルにも大きな変化をきたす。そこで本発明では、光ファイバーケーブルを伝播する信号レベルを検知することにより、海底ケーブルが損傷したか否かを判定する。これにより、海底ケーブルを加工することなく、海底ケーブルの損傷を検知することができる。
【0007】
請求項4は、前記ケーブル系統図データベースは、複数の前記ケーブル系統図を記憶し、各ケーブル系統図の所定の距離ごとに方位情報を設定してテーブルデータとして記憶することを特徴とする。
海底ケーブルは、目的によって使用されるケーブルの種類、及び長さが異なる。例えば、電力ケーブルでは、同じ発電所から複数の離島に海底ケーブルを敷設する場合、その長さと敷設する位置(方向)が大きく異なる。そこで本発明では、ケーブル系統図データベースに、複数のケーブル系統図を記憶し、各ケーブル系統図の所定の距離(例えば、1Km単位)ごとに方位情報を設定してテーブルデータとして記憶する。これにより、海底ケーブルごとに敷設された方位を確認することができる。
請求項5は、前記損傷船舶検知装置は、該損傷船舶検知装置により特定した船舶に対して、海底ケーブル損傷事故が発生したことを警告すると共に、投錨の有無を前記船舶ロケーション管理装置を介して問い合わせることを特徴とする。
損傷事故が発生して損傷に係わった船舶が特定できた場合、必ずしも船舶が原因で海底ケーブルが損傷したと立証できない場合がある。即ち、海底ケーブルの損傷発生部位に近い海域にいた船舶を特定できたとしても、投錨等の行為がなければ、他のことが原因である場合もある。そこで本発明では、損傷船舶検知装置により特定した船舶に対して、海底ケーブル損傷事故が発生したことを警告すると共に、投錨の有無を船舶ロケーション管理装置を介して問い合わせる。これにより、海底ケーブルの損傷を引き起こした原因が船舶であると認識させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、海底ケーブルを損傷させる事故が発生すると、海底ケーブル損傷探知装置から損傷箇所までの距離を測定し、ケーブル系統図データベースから参照したケーブルの方位情報に基づいて、測定した距離から損傷位置を割り出す。そしてAIS送受信機により受信した船舶運航に係る情報から、割り出された損傷位置の海域を損傷発生時刻に航行していた船舶を特定するので、損傷した海底ケーブルの位置と、損傷を引き起こした船舶を同時に特定することができる。
また、海底ケーブルの表面に光ファイバーケーブルを沿わせ、常時、損傷の有無をOTDR測定器により測定するようにするので、損傷検知の感度を高めるとともに、損傷の有無と損傷位置までの距離を略リアルタイムに検知することができる。
また、光ファイバーケーブルを伝播する信号レベルを検知することにより、海底ケーブルが損傷したか否かを判定するので、海底ケーブルを加工することなく、海底ケーブルの損傷を検知することができる。
また、ケーブル系統図データベースに、複数のケーブル系統図を記憶し、各ケーブル系統図の所定の距離(例えば、1Km単位)ごとに方位情報を設定してテーブルデータとして記憶するので、海底ケーブルごとに敷設された方位を確認することができる。
また、損傷船舶検知装置により特定した船舶に対して、海底ケーブル損傷事故が発生したことを警告すると共に、投錨の有無を船舶ロケーション管理装置を介して問い合わせるので、海底ケーブルの損傷を引き起こした原因が船舶であると認識させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の海底ケーブル損傷船舶探知システムの概要を説明するための図である。
【図2】本発明の海底ケーブル損傷船舶探知システムの構成を示す図である。
【図3】(a)は、海底ケーブルの表面に光ファイバーケーブルを巻き回すように設置した図、(b)は、海底ケーブルの表面に光ファイバーケーブルを固定バンドにより固定して沿わすように設置した図、(c)は、電力ケーブルと光ファイバーケーブルを複合的に収めた海底CVケーブルの図である。
【図4】本発明の海底ケーブル損傷船舶探知システムの動作を説明するフローチャートである。
【図5】(a)は、ケーブル系統図の一例を示す図、(b)は、テーブルに記録されたデータの一例を示す図である。
【図6】ケーブル系統図を利用した損傷部位の方位を特定する動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0011】
図1は本発明の海底ケーブル損傷船舶探知システムの概要を説明するための図である。この海底ケーブル損傷船舶探知システム50は、陸上に設置され、船舶7の船名、船種、識別信号、位置、針路、速力、航行状態、安全情報等の船舶運行等に係る情報を超短波帯(VHF)の無線電波2により、船舶相互間及び船舶陸上施設間等で自動的に送受信し、当該情報を共有することにより、船舶相互の衝突防止、船舶7の動静把握、乗務員等の労力軽減等を図ることを目的とした自動船舶識別装置(以下、AIS:Automatic Identification Systemと呼ぶ)1と、海底ケーブル4を利用して、通信および運用を管理する海底ケーブル管理装置10と、を備えている。ここで、船舶7はアンテナ12を介して常に自船の船舶運行等に係る情報をAIS1に送信している。従って、AIS1は常時、船舶7の動静を監視することができる。また、海底ケーブル管理装置10は、アンテナ11を介して必要が生じたときに、AIS1と電波3により交信して、船舶7の運航情報を取得し、且つ、AIS1のアンテナ13を介して船舶7に対して警告及び問い合わせを行うことができる。
【0012】
ここで、本発明の海底ケーブル損傷船舶探知システム50の概略動作について説明する。船舶7が海底ケーブル4が海底6に敷設された海面5に停泊し、錨8を投錨したとする。その結果、錨8が海底ケーブル4に損傷9を与える。本システムでは、海底ケーブル4には、表面に光ファイバーケーブルを沿わせて配置し、海底ケーブル管理装置10が常時、光ファイバーケーブルの損傷の有無をOTDR測定器により測定するようにする。この状態で、海底ケーブル4に損傷9が発生すると、海底ケーブル管理装置10は、まず、損傷が発生した時刻を記録して、海底ケーブル4を特定して、損傷9までの距離Dを測定する。次に、距離Dから海底ケーブル4の損傷部位9の方位を演算する。これにより、事故発生時刻と損傷箇所の位置が特定できる。次に、AIS1から事故発生時刻に特定した位置に航行していた船舶の情報を収集する。そして、時刻と位置が一致した船舶がいた場合は、その船舶に対して事故発生時刻に投錨したか否かを問い合わせる。もし、投錨した船舶がいれば、その船舶に対して海底ケーブルの損傷事故を引き起こした可能性があることを、AIS1を介して警告する。これらの記録は、AIS1と共に、海底ケーブル管理装置10に記録され、後日の補償交渉に使用される。
尚、AISトランスポンダを搭載しない船舶に対しては、AIS1から船舶の海底に海底ケーブルが敷設されていることを無線により報知することで、海底ケーブル損傷の事故を未然に防止することができる。
【0013】
図2は本発明の海底ケーブル損傷船舶探知システムの構成を示す図である。海底ケーブル損傷船舶探知システム50は、海底ケーブル4の損傷を引き起こした船舶7を特定する海底ケーブル損傷船舶探知システムであって、海底ケーブル管理装置10は、海底ケーブル4の系統図情報、及び各海底ケーブルに係る方位情報を記録したケーブル系統図データベース(以下、単にDBと記す)24と、海底ケーブル4が損傷したことを検知して損傷発生時刻を記憶すると共に、海底ケーブル4の損傷位置までの距離を測定する海底ケーブル損傷探知装置23と、船舶ロケーション管理装置21により管理されている船舶運航に係る情報と、海底ケーブル損傷探知装置23により検知された損傷発生時刻及び損傷位置までの距離情報に基づいて得られた方位情報とが一致する船舶を特定する損傷船舶検知装置22と、を備えている。
【0014】
また、AIS1は、船舶7の少なくとも船名、航行時刻、及び位置からなる船舶運航に係る情報を超短波帯の無線電波により送受信するAIS送受信機20と、AIS送受信機20により受信した船舶運航に係る情報を管理する船舶ロケーション管理装置21と、を備えている。
即ち、海底ケーブル4の損傷事故が発生した場合は、海底ケーブル4の損傷位置9と発生時刻を特定することが重要である。この情報が判明すれば、AIS送受信機20により受信した船舶運航に係る情報から、損傷発生時刻に、海底ケーブル4の損傷位置の海域を航行していた船舶を特定することが可能となる。本実施形態では、損傷事故が発生すると、海底ケーブル損傷探知装置23により損傷箇所9までの距離を測定し、DB24から参照したケーブルの方位情報に基づいて、測定した距離から損傷位置を割り出す。そしてAIS送受信機20により受信した船舶運航に係る情報から、割り出された損傷位置の海域を損傷発生時刻に航行していた船舶を特定する。これにより、損傷した海底ケーブルの位置と、損傷を引き起こした船舶を同時に特定することができる。
【0015】
図3は、本発明で使用される海底ケーブルの一例を示す図である。図3(a)は、海底ケーブル25の表面に光ファイバーケーブル26を巻き回すように設置した図、図3(b)は、海底ケーブル25の表面に光ファイバーケーブル26を固定バンド31により固定して沿わすように設置した図、図3(c)は、電力ケーブル29と光ファイバーケーブル28を複合的に収めた海底CVケーブルの図である。図3(a)のケーブルは、光ファイバーケーブル26を海底ケーブル25に巻き回すように設置しているので、全方位で損傷を検知する感度を高くすることができ、且つ、光ファイバーケーブル26を固定する必要はないが、光ファイバーケーブル26の長さが長くなる。また、図3(b)のケーブルは、光ファイバーケーブル26を固定するために固定具31が必要となり、光ファイバーケーブル26を何れか一方に沿わせることになり、損傷を検知する感度が一方に偏ってしまう。しかし、光ファイバーケーブル26の長さは図3(a)より短くすることができる。即ち、海底ケーブルには、光ファイバーを利用したものや、電力を送電する電力ケーブル、或いは、それらを複合的に収めた海底CVケーブル等がある。しかし、海底ケーブルの表面は、外力に対して内部のケーブルを防護するために強固な構造が成されている。そこで、海底ケーブル損傷探知装置23により海底ケーブル4に外力が加えられたことを敏感に検知するための手段を講ずる必要がある。そこで本実施形態では、海底ケーブル25の表面に光ファイバーケーブル26を沿わせ、常時、損傷の有無をOTDR測定器により測定するようにする。これにより、損傷検知の感度を高めるとともに、損傷の有無と損傷位置までの距離を略リアルタイムに検知することができる。
【0016】
また、図3(c)のケーブルは、光ファイバーケーブル28が外皮27で覆われているため、損傷を検知する感度としては一番低いが、損傷検知のために特別に光ファイバーケーブルを備える必要がない。このように、光ファイバーを利用した海底ケーブルや、電力ケーブルと光ファイバーケーブルを複合的に収めた海底CVケーブル(図3(c))は、もともと光ファイバーケーブル28があるので、それを有効に利用する。即ち、海底ケーブルが損傷を受けて圧縮変形、又は切断が発生すると、通信そのものが不可能となる。即ち、そのときは信号レベルにも大きな変化をきたす。そこで本実施形態では、光ファイバーケーブルを伝播する信号レベルを検知することにより、海底ケーブルが損傷したか否かを判定する。これにより、海底ケーブルを加工することなく、海底ケーブルの損傷を検知することができる。
【0017】
図4は本発明の海底ケーブル損傷船舶探知システムの動作を説明するフローチャートである。海底ケーブル4に損傷9が発生すると(ステップS1でY)、海底ケーブル管理装置10は、まず、損傷が発生した時刻を記録して(S2)、海底ケーブル4を特定して、損傷9までの距離Dを測定する(S3)。次に、距離Dから海底ケーブル4の損傷部位9の方位を演算する(S4)。これにより、事故発生時刻と損傷箇所の位置が特定できる。次に、AIS1から事故発生時刻に特定した位置に航行していた船舶の情報を収集する(S5)。そして、時刻と位置が一致した船舶がいた場合は(ステップS6でY)、その船舶に対して事故発生時刻に投錨したか否かを問い合わせる(S7)。ここで、損傷事故が発生して船舶が特定できた場合、必ずしも船舶が原因で海底ケーブルが損傷したとはいえない場合がある。即ち、損傷事故を起こした海底ケーブルの海域に船舶がいても、投錨等の行為がなければ、他のことが原因である場合もある。そこで本実施形態では、損傷船舶検知装置22により特定した船舶に対して、海底ケーブル損傷事故が発生したことを警告すると共に、投錨の有無を船舶ロケーション管理装置21を介して問い合わせる。これにより、海底ケーブルの損傷を引き起こした原因が船舶であると認識させることができる。
もし、投錨した船舶がいれば、船舶を特定して(S8)、その船舶に対して海底ケーブルの損傷事故を引き起こした可能性があることを、AIS1を介して警告する(S9)。これらの記録は、AIS1と共に、海底ケーブル管理装置10に記録され、後日の補償交渉に使用される。尚、ステップS6で時刻と位置が一致した船舶が存在しない場合は(ステップS6でN)、範囲を拡げて捜索するか、やむを得ずあきらめる。
【0018】
図5は、本発明のケーブル系統図データベースに記録されたケーブル系統図について説明する図であり、図5(a)は、ケーブル系統図の一例を示す図、図5(b)は、テーブルに記録されたデータの一例を示す図である。図5(a)は、例えば、拠点31から拠点32まで系統Aの海底ケーブルが敷設され、更に、拠点31から拠点34まで系統Bの海底ケーブルが敷設され、更に拠点Bから拠点Cまで系統Cの海底ケーブルが敷設されている様子を表している。そして、各系統には、例えば系統Aでは、1Kmおきに方位情報(A−1〜A−4等)を設定して図5(b)のテーブルデータとして記憶する。これにより、例えば、船舶33により系統Aのケーブルがa点で損傷された場合、拠点31からa点までの距離を測定し、例えば距離が150Kmであるとすると、その近傍の方位情報A−mとA−nの間に船舶33が存在することがわかり、図5(b)のテーブルから方位(北緯、東経情報)を略特定することができる。
即ち、海底ケーブルは、目的によって使用されるケーブルの種類、及び長さが異なる。例えば、電力ケーブルでは、同じ発電所から複数の離島に海底ケーブルを敷設する場合、その長さと敷設する位置(方向)が大きく異なる。そこで本実施形態では、DB24に、複数のケーブル系統図を記憶し、各ケーブル系統図の所定の距離(例えば、1Km単位)ごとに方位情報を設定してテーブルデータとして記憶する。これにより、海底ケーブルごとに敷設された方位を確認することができる。
【0019】
図6はケーブル系統図を利用した損傷部位の方位を特定する動作を説明するフローチャートである。まず、海底ケーブルに損傷が発生すると(S11でY)、まず損傷発生時刻を記憶する(S12)。海底ケーブル損傷探知装置23は、ケーブル系統を判定して、損傷が発生したケーブルがどの系統に対応するかを調べる(S13)。そして、各系統ごとにDB24から系統図を読み出す(S14〜S16)。次に、OTDRにより損傷部位までの距離を測定する(S17)。次に系統図情報と損傷部位までの距離に基づいて損傷位置(方位)を特定する(S18)。そして、損傷位置と時刻が一致する船舶が存在するかを検証する(S19)。尚、ステップS17のOTDRにより損傷部位までの距離の測定は、ステップS12の損傷発生時刻を記憶した後に行っても構わない。
【符号の説明】
【0020】
1 AIS、2 電波、3 電波、4 海底ケーブル、5 海面、6 海底、7 船舶、8 錨、9 損傷部位、10 海底ケーブル管理装置、11 アンテナ、12 アンテナ、13 アンテナ、20 AIS送受信機、21 船舶ロケーション管理装置、22 損傷船舶探知装置、23 海底ケーブル損傷探知装置、24 DB、25 海底ケーブル、26 光ファイバーケーブル、27 外被、28 光ファイバーケーブル、29 銅線、50 海底ケーブル損傷船舶探知システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底ケーブルの損傷を引き起こした船舶を特定する海底ケーブル損傷船舶探知システムであって、
前記海底ケーブルの系統図情報、及び各海底ケーブルに係る方位情報を記録したケーブル系統図データベースと、
前記海底ケーブルが損傷したことを検知して損傷発生時刻を記憶すると共に、該海底ケーブルの損傷位置までの距離を測定する海底ケーブル損傷探知装置と、
前記船舶の少なくとも船名、航行時刻、及び位置からなる船舶運航に係る情報を超短波帯の無線電波により送受信するAIS送受信機と、
該AIS送受信機により受信した前記船舶運航に係る情報を管理する船舶ロケーション管理装置と、
該船舶ロケーション管理装置により管理されている前記船舶運航に係る情報と、前記海底ケーブル損傷探知装置により検知された前記損傷発生時刻及び前記損傷位置までの距離情報に基づいて得られた方位情報とが一致する船舶を特定する損傷船舶検知装置と、
を備えたことを特徴とする海底ケーブル損傷船舶探知システム。
【請求項2】
前記海底ケーブルの表面に沿わせて設けた光ファイバーケーブルを備え、前記海底ケーブル損傷探知装置は、前記光ファイバーケーブルの損傷をOTDR測定器により測定することにより、前記海底ケーブルの損傷位置までの距離を測定することを特徴とする請求項1に記載の海底ケーブル損傷船舶探知システム。
【請求項3】
前記海底ケーブル中に光ファイバーケーブルを含む場合、前記海底ケーブル損傷探知装置は、該光ファイバーケーブルを伝播する信号レベルを検知することにより、前記海底ケーブルが損傷したか否かを判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の海底ケーブル損傷船舶探知システム。
【請求項4】
前記ケーブル系統図データベースは、複数の前記ケーブル系統図を記憶し、各ケーブル系統図の所定の距離ごとに方位情報を設定してテーブルデータとして記憶することを特徴とする請求項1に記載の海底ケーブル損傷船舶探知システム。
【請求項5】
前記損傷船舶検知装置は、該損傷船舶検知装置により特定した船舶に対して、海底ケーブル損傷事故が発生したことを警告すると共に、投錨の有無を前記船舶ロケーション管理装置を介して問い合わせることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の海底ケーブル損傷船舶探知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−141668(P2011−141668A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1280(P2010−1280)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】