説明

海水の淡水化システム及びその方法

【課題】システム全体として熱効率を高めて消費エネルギを抑えることができる海水の淡水化システムを提供する。
【解決手段】海水が流通する海水供給流路7と、海水供給流路7の終端に配設された蒸発器4と、蒸発器4によって発生した海水の蒸気又は蒸留水が流通する蒸留水還り流路13と、蒸気を圧縮するための圧縮機5と、蒸発器4によって発生した海水の濃縮水が流通する濃縮水還り流路14と、海水供給流路7、蒸留水還り流路13、濃縮水還り流路14に配設され、海水と蒸留水及び濃縮水とで熱交換を行うための熱交換ユニット15とを備え、蒸発器4で海水と圧縮機5にて圧縮された前記蒸気とを熱交換する海水の淡水化システムSにおいて、蒸気又は蒸留水又は濃縮水又は蒸発器内の海水のうち一又は複数を加熱し、且つ圧縮機5に用いられる発電効率よりも高い熱効率を有する加熱器25〜28をさらに備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水を淡水化するための淡水化システム及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海水を淡水化する方法としては、多段フラッシュ法やRO膜法等が用いられていている。多段フラッシュ法は、加熱された海水を減圧された蒸発器で沸騰蒸発させ、その発生蒸気を凝縮して淡水を生産する海水の淡水化方法である。この多段フラッシュ法は、海水の品質を問わず使用でき、大量の淡水を作成できるが、熱効率が悪く、そのために多量のエネルギを必要とする。RO膜法は、半透膜を通して海水から淡水を得るものである。このRO膜法は、半透膜が海水中の微生物や析出物で目詰まりしないように入念に前処理をする必要があり、その整備にコストがかかり、さらには製造した淡水の塩濃度が高いこと等の難点がある。
【0003】
一方で、蒸発器での蒸気を圧縮させる蒸気圧縮法による海水の淡水化方法が実用化されている。一般的な蒸気圧縮法は例えば特許文献1に記載されている。すなわち、蒸気を圧縮して断熱温度上昇させ、この温度をもって熱交換に用いるための温度差を得るものである。高圧となった蒸気は沸点が上がるため、高圧蒸気の凝縮点が低圧海水の沸点より高くなり、熱交換ができる。この蒸気圧縮法は上述した多段フラッシュ法と同様、蒸発法に属するが、多段フラッシュ法に比して半分程度のエネルギで運転が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−188514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した蒸気圧縮法で海水を淡水化する方法は、一般的にシステム全体としての熱効率が悪いため、そのシェアが5%程度である。そのため、システム全体として熱交換率を高めて運転効率を向上させる技術が望まれている。
【0006】
運転効率を高めるためには、濃縮率(蒸発率)を高めればよいが、濃縮率を高めて運転すると、熱交換に用いる伝熱面を広くする必要があるため、スケールが発生しやすくなる。したがって、低濃縮率で消費エネルギを抑える技術が特に望まれている。
【0007】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、低濃縮率であっても、システム全体として熱効率を高めて消費エネルギを抑えることができる海水の淡水化システム及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明では、海水が流通する海水供給流路と、該海水供給流路の終端に配設された蒸発器と、該蒸発器によって発生した前記海水の蒸気又は蒸留水が流通する蒸留水還り流路と、該蒸留水還り流路に配設され、前記蒸気を圧縮するための圧縮機と、前記蒸発器によって発生した前記海水の濃縮水が流通する濃縮水還り流路と、前記海水供給流路、前記蒸留水還り流路、前記濃縮水還り流路に配設され、前記海水と前記蒸留水及び前記濃縮水とで熱交換を行うための熱交換ユニットとを備え、前記蒸発器で前記海水と前記圧縮機にて圧縮された前記蒸気とを熱交換する海水の淡水化システムにおいて、前記蒸気又は前記蒸留水又は前記濃縮水又は前記蒸発器内の海水のうち一又は複数を加熱し、且つ前記圧縮機に用いられる発電効率よりも高い熱効率を有する加熱器をさらに備えたことを特徴とする海水の淡水化システムを提供する。
【0009】
好ましくは、前記加熱器は、前記蒸留水還り流路であって前記圧縮機と前記蒸発器との間若しくは前記蒸発器と前記熱交換ユニットとの間、又は前記濃縮水還り流路であって前記蒸発器と前記熱交換ユニットとの間、又は前記蒸発器内のいずれか又は複数に配設されている。
さらに好ましくは、前記加熱器は、蒸気加熱器又は加熱炉又はヒートポンプである。
また、本発明では、前記蒸発器での前記海水の濃縮率を60%以下で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の海水の淡水化システムを用いた海水の淡水化方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、圧縮機とは別に加熱器を設けることにより、システム全体としての消費熱エネルギを低減させることができる。特に、60%以下の濃縮率で運転する場合において、加熱器を用いることによりその効果が顕著に現れていることを発明者等は確認している。これは、圧縮機は発電効率分の消費電力を無駄に使用しているからであり、この発電効率の影響を受けない加熱器(例えば蒸気加熱器)を用いることによりその無駄がなくなり、結果として熱効率が高まって消費熱エネルギを抑えることができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る海水淡水化システムの装置構成を示した概略図である。
【図2】加熱器ありとなしの場合の濃縮率と消費エネルギの関係を示したグラフである。
【図3】濃縮率と加熱量との関係を示したグラフである。
【図4】本発明に係る海水淡水化システムの詳細を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明が適用される淡水化システムについて説明する。
図1に示すように、このシステムSは、蒸発器4、圧縮機5及び熱交換ユニット15を備えている。海水は、海水供給経路7の海水供給端6から蒸発器4へと導かれる。このとき、海水は海水供給流路7にある熱交換ユニット15を通る。そして海水は蒸発器4で蒸発される。蒸発された海水は蒸気(蒸気状の蒸留水)と濃縮水に分離される。蒸気は蒸留水戻り流路13を通り、圧縮機5によって圧縮された後に蒸発器4での海水の蒸発のための熱源として用いられる。このときの熱交換により、蒸気は凝縮して液状の蒸留水となる。この後、蒸留水は蒸留水還り流路13にある熱交換ユニット15を通って蒸留水回収端18から回収される。一方で濃縮水は蒸発器4から延びる濃縮水還り流路14を通り、熱交換ユニット15を通って濃縮水回収端19から回収される。
【0013】
ここで、上述した圧縮機5で蒸気を圧縮するのは、蒸発器4での熱交換の際に必要な熱を得るために温度を上昇させるためである。本発明のシステムSでは、温度上昇の手段として圧縮機5の他に加熱器25〜28のいずれか又はこれらの組み合わせが配設されている。設置箇所としては、蒸気又は蒸留水又は濃縮水又は蒸発器内の海水のうち一又は複数を加熱できる場所である。例えば、図1に示すように、蒸気を加熱するのであれば蒸留水還り流路13における蒸発器4と圧縮機5との間にある加熱器25である。蒸留水を加熱するのであれば蒸留水還り流路13における蒸発器4と熱交換ユニット15との間にある加熱器26である。濃縮水を加熱するのであれば濃縮水還り流路14における蒸発器4と熱交換ユニット15との間にある加熱器27である。蒸発器4内の海水を加熱するのであれば蒸発器4内にある加熱器28である。このような加熱器25〜28は、一又は複数箇所に設けられる。このように加熱器25〜28の少なくともいずれかを設置することにより、圧縮機5による消費電力を抑えることができる。すなわち、加熱器25〜28による加熱量を考慮して、圧縮機5による消費電力は決定される。
【0014】
加熱器25〜28は、圧縮機5に用いられる発電効率よりも高い熱効率を有している。加熱器25〜28の具体例としては、蒸気加熱器又は加熱炉又はヒートポンプである。特に蒸気加熱器が好ましい。なお、加熱器には、電気ヒータ等の電熱器は除かれる。電熱器を用いることは、圧縮機5を用いることと同様、発電効率分だけ無駄な電力を用いることになるからである。参考までに、システムS全体での消費エネルギを算出する式を記載する。
消費エネルギ[kJ/kg]=(加熱器の消費熱エネルギ+消費電力÷0.4)÷生産水量
【0015】
なお、式中の0.4は発電効率を40%と想定して加味したものであり、その分を割り戻して本来の消費エネルギを求めている。また、生産水量は海水から回収する蒸留水の量であり、濃縮率と供給海水量とを乗算した値である。
【0016】
このような加熱器を用いた場合と、用いない場合の消費エネルギを比較すると、図2に示すように、Bで示す加熱器ありの方がAで示す加熱器なしよりも消費エネルギが低いことがわかる。これはすなわち、加熱器ありの方がシステムS全体として熱効率が高まり、消費エネルギが少なくなっていることを示している。特にその効果は濃縮率60%以下の場合に現れ、濃縮率が低ければ低いほど顕著となる。
【0017】
また、その場合に必要な加熱量は、図3に示すように、濃縮率が60%以下であり低くなればなるほど要する加熱量も多くなる。加熱器によっても加熱量、すなわち消費すべき熱エネルギは必要ではあるが、圧縮機5を用いて昇温させるよりはエネルギが少なくてすむ。圧縮機5を用いることは、上述したように発電効率分無駄な運転をしているが、蒸気加熱器等の加熱器を用いればそのような無駄な運転はないからである。海水を淡水化する場合、濃縮率は予め定められるパラメータである。したがって、濃縮率が定まれば、図3を参照してそれに応じた加熱器による加熱量を定めることができる。
【0018】
上記と重複する部分もあるが、本発明が適用されるシステムSについての詳細を以下に説明する。なお、図4では各流路における海水、蒸留水、濃縮水の温度及び圧力を記載している。
【0019】
図4に示すように、システムSは、第1の熱交換器1〜3及び蒸発器4を備えている。蒸発器4は海水供給端6と海水供給流路7を介して接続されている。システムSは、海水供給端6から供給される海水を淡水にするためのものである。海水供給流路7には、第1〜3の熱交換器1、2、3が配設されている。具体的には、海水供給流路7には分離器8が設けられていて、ここで流路7は第1の流路11及び第2の流路12に分岐される。第1の流路11には上述した第1の熱交換器1が配設され、第2の流路12には上述した第2の熱交換器2及び第3の熱交換器3がそれぞれ第2の流路12の上流側から順番に配設されている。そして、第1及び第2の流路11、12は混合器9にて再び一つの流路となり、蒸発器4に接続される。
【0020】
蒸発器4は、供給された海水を蒸発させるものである。蒸発器4は気液分離器10に接続されている。蒸発器4で生じた蒸気及び濃縮水は、気液分離器10にてそれぞれ分離され、蒸気(蒸気状の蒸留水)は蒸留水還り流路13に、濃縮水は濃縮水還り流路14に導かれる。蒸留水還り流路13には上述した圧縮機5が配設され、この圧縮機5で蒸気は圧縮される。圧縮機5の下流には、上述した蒸発器4、第3の熱交換器3、第1の熱交換器1がそれぞれ順番に配設されている。すなわち、蒸留水は蒸発器4、第3の熱交換器3、第1の熱交換器1の順番でそれぞれ海水と熱交換される。なお、蒸発器4で熱交換されるまでは、蒸留水は蒸気の状態で流通している。蒸留水還り流路13における第1の熱交換器1のさらに下流には、熱交換器16が配設されていて、この熱交換器16にて蒸留水はさらに冷却水によって冷却される。蒸留水還り流路13は蒸留水回収端18を出口としている。蒸留水は十分に冷却されてから蒸留水回収端18より回収される。
【0021】
一方、濃縮水還り流路14には上述した第2の熱交換器2が配設されている。すなわち、濃縮水は第2の熱交換器2で海水と熱交換される。濃縮水還り流路14における第2の熱交換器2のさらに下流には、熱交換器17が配設されていて、この熱交換器17にて濃縮水はさらに冷却水によって冷却される。濃縮水還り流路14は濃縮水回収端19を出口としている。濃縮水は十分に冷却されてから濃縮水回収端19より回収される。
【0022】
さらに、このシステムSには制御装置20が備わっている。この制御装置20は、システム全体としての熱効率を高め、海水の淡水化に要するための無駄なエネルギが極力使用されないようにするためのものである。そのために、制御装置20は、蒸発器4、圧縮機5、熱交換ユニット15に接続されている。制御装置20には、分離器8での海水の分離率を調整するための分離率調整部21が備わっている。また、圧縮機5による蒸気の圧縮率を定めるための圧縮率演算部22も備わっている。また、各熱交換器での熱交換温度差を状況に応じて変更するための温度差調整部23も備わっている。また、蒸発器4内での蒸発による海水の沸点上昇を認識するための沸点上昇認識部24も備わっている。
【0023】
上述したシステムSを用いて海水を淡水化させる場合、まず、海水供給端6から海水(例えば20℃)を供給する。ここで、分離率に応じて海水は分離率調整部21によって調整された分離器8で分離される。この分離率は、蒸発器4での海水の濃縮率(蒸発率)に応じて定められるものであり、作業者が予め決定する。濃縮率としては、上述したように、60%以下が最も適している。濃縮率が60%であれば、分離器8での第1の流路11と第2の流路12への分離率は、40:60となる。なお、図4では濃縮率50%での温度や圧力を表示している。分離器8によってそれぞれ第1の流路11と第2の流路12に流通するように分離された海水は、熱交換ユニット15にて温度が上昇される。具体的には、第1の流路11内の海水は、第1の熱交換器1内を通って後述する蒸留水と熱交換される。熱交換後、海水は飽和温度(101℃)まで上昇される。
【0024】
第2の流路12内の海水は、まず第2の熱交換器2内を通って濃縮水と熱交換される。そして、第3の熱交換器3内を通って蒸留水と熱交換される。第2及び第3の熱交換器2、3での熱交換後、海水は飽和温度(101℃)まで上昇される。第1の流路11及び第2の流路12は混合器9で一つにまとめられる。すなわち、第1及び第2の流路11、12を流通してきた海水は、それぞれ同一の飽和温度の状態で混合される。そして、飽和温度のまま蒸発器4内に導かれ、後述する蒸気(蒸気状の蒸留水)と熱交換されて蒸発される。
【0025】
蒸発器4で生じた濃縮水は、気液分離器10にて濃縮水のみが流通する濃縮水還り流路14に導かれる。このとき、蒸発器4での蒸発により濃縮水は沸点上昇を起こしている。濃縮率が50%のときは飽和温度101℃の海水が濃縮水となって102℃になっている。濃縮水はこの状態で第2の熱交換器2で海水と熱交換される。具体的には、濃縮水の入口温度と海水の出口温度が予め定めた熱交換温度差となるように熱交換される。すなわち、102℃で濃縮水が入ってくるので、海水は97℃となる。このようにして、濃縮率50%で得られた濃縮水の顕熱は第2の熱交換器2で回収される(例えば濃縮水は25.4℃となる)。そのため、上述した分離器8での分離率は50%になっている。濃縮水はさらに熱交換器17で冷却され、濃縮水回収端19から回収される。
ここで、濃縮水を加熱するのであれば濃縮水還り流路14における第2の熱交換器2と気液分離器10との間に加熱器27を設ける。
【0026】
蒸発器4で生じた蒸気(蒸気状態の蒸留水)は、気液分離器10にて蒸気のみが流通する蒸留水還り流路13に導かれる。ここで蒸気は圧縮率演算部22の結果に基づいて動作する圧縮機5により圧縮され、温度上昇される。
【0027】
なおこのとき、加熱器25〜28を用いるのであればその加熱量が考慮される。また、蒸気を加熱するのであれば蒸留水還り流路13における圧縮機5の手前に加熱器25を設ける。
【0028】
蒸気は、蒸発潜熱を有している。圧縮機5で圧縮した蒸気が蒸発器4にて海水の蒸発に用いられる。すなわち、飽和温度で蒸発器4に供給された海水は、蒸気の潜熱を用いて熱交換されて蒸発されるため、潜熱はここで回収される。
【0029】
ここで、蒸発されるべき海水を加熱するのであれば蒸発器4内に加熱器28を設ける。
【0030】
蒸発器4を通過後、蒸気は凝縮されて蒸留水となる。上述した圧縮機5での圧縮率は、蒸発器4にて熱交換した後の蒸留水の飽和温度を基準にして定められる。この蒸留水の飽和温度は、蒸発器4を通過した後の海水の飽和温度(海水濃縮(蒸発)後の飽和温度)に対して予め定めた熱交換温度差だけ高く設定される。蒸留水の飽和温度がこの高く設定された温度となるように、蒸気は圧縮機5にて圧縮される。例えば、濃縮率50%の場合、飽和温度101℃で蒸発器4に流入した海水は、蒸気の潜熱を用いて蒸発されて蒸気となるが、このとき濃縮により沸点上昇が起こり、飽和温度は102℃となる。予め設定された熱交換温度差が5℃であれば、海水蒸発のために用いられた蒸気は熱交換後107℃になって凝縮されるように設定される。飽和温度が107℃に相当する蒸留水となるような圧力は飽和蒸気圧表を用いて求められる。例えば、飽和温度が107℃の蒸留水を得るためには、圧縮機5で蒸気を28kPaGまで圧縮すればよい。なお、沸点上昇の幅は濃縮率によって異なるため、この沸点上昇後の飽和温度の値は、上述した沸点上昇認識部24に予め入力するか、あるいはセンサ等によって計測した結果を入力してもよい。
【0031】
蒸発器4を通過した蒸留水は、わずかに蒸気が包含された状態である。この蒸気が有する潜熱は第3の熱交換器3にて回収される。具体的には、第2の熱交換器2で温度上昇された海水をさらに飽和温度まで高めるために用いられる。ここでは海水の顕熱と蒸留水が有する蒸気の潜熱とが熱交換される。これにより、第2の熱交換器2で97℃まで上昇した海水の温度は、飽和温度である101℃までさらに上昇される。したがって、上述したように、第1の流路11又は第2の流路12を経て混合器9にて混合された海水はともに飽和温度の101℃であるため、蒸発器4内での海水の温度低下を防止でき、蒸発に関するエネルギのロスを防止することができる。なお、システムS全体としてみると第3の熱交換器3による熱回収は少量であるため、ここでの海水の温度上昇は蒸留水の潜熱を用いずに他の加熱手段を用いてもよい。
【0032】
第3の熱交換器3を通過した蒸留水は、第1の熱交換器1で海水と熱交換される。具体的には、蒸留水の入口温度が107℃である場合に、海水の出口温度は101℃となる。上述では、熱交換温度差を5℃としたが、このような値にすると、海水の出口温度が102℃となってしまい、海水が飽和温度よりも高くなってしまうので蒸発してしまう。したがって、海水の出口温度が飽和温度となることを限度として、予め定めた熱交換温度差以上の最小値を新たな熱交換温度差として定める。この例では新たな熱交換温度差は6℃になり、海水は飽和温度の101℃まで上昇される。なお、この判断は上述した温度差調整部23にて行われる。このようにして、濃縮率50%で得られた蒸留水の顕熱は、第1の熱交換器1で回収される(例えば蒸留水は28℃となる)。そのため、上述した分離器8での分離率は50%になっている。上流水はさらに熱交換器16で冷却され、濃縮水回収端18から回収される。
【0033】
ここで、蒸留水を加熱するのであれば蒸留水還り流路13における第1の熱交換器2と第3の熱交換器3との間に加熱器26を設ける。
【0034】
まとめると、第1〜第3の熱交換器1〜3及び蒸発器4における熱交換温度差は、蒸留水又は濃縮水が有する顕熱の入口温度と海水の出口温度が予め定めた一定の値となるように制御され、このうち海水の出口温度が飽和温度を超える熱交換器においては予め定めた熱交換温度差以上の最小値を新たな熱交換温度差とする。また、蒸発器4に流入する海水の温度は、一定の飽和温度とする。
【符号の説明】
【0035】
4 蒸発器
5 圧縮機
7 海水供給流路
13 蒸留水還り流路
14 濃縮水還り流路
15 熱交換ユニット
25 加熱器
26 加熱器
27 加熱器
28 加熱器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水が流通する海水供給流路と、
該海水供給流路の終端に配設された蒸発器と、
該蒸発器によって発生した前記海水の蒸気又は蒸留水が流通する蒸留水還り流路と、
該蒸留水還り流路に配設され、前記蒸気を圧縮するための圧縮機と、
前記蒸発器によって発生した前記海水の濃縮水が流通する濃縮水還り流路と、
前記海水供給流路、前記蒸留水還り流路、前記濃縮水還り流路に配設され、前記海水と前記蒸留水及び前記濃縮水とで熱交換を行うための熱交換ユニットと
を備え、
前記蒸発器で前記海水と前記圧縮機にて圧縮された前記蒸気とを熱交換する海水の淡水化システムにおいて、
前記蒸気又は前記蒸留水又は前記濃縮水又は前記蒸発器内の海水のうち一又は複数を加熱し、且つ前記圧縮機に用いられる発電効率よりも高い熱効率を有する加熱器をさらに備えたことを特徴とする海水の淡水化システム。
【請求項2】
前記加熱器は、前記蒸留水還り流路であって前記圧縮機と前記蒸発器との間若しくは前記蒸発器と前記熱交換ユニットとの間、又は前記濃縮水還り流路であって前記蒸発器と前記熱交換ユニットとの間、又は前記蒸発器内のいずれか又は複数に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の海水の淡水化システム。
【請求項3】
前記加熱器は、蒸気加熱器又は加熱炉又はヒートポンプであることを特徴とする請求項1又は2に記載の海水の淡水化システム。
【請求項4】
前記蒸発器での前記海水の濃縮率を60%以下で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の海水の淡水化システムを用いた海水の淡水化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−236176(P2012−236176A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108092(P2011−108092)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】