説明

海水交換促進型消波堤

【課題】耐波設計や現地施工をより簡略化させることにより開発から製造に至るまでの労力をより低減させるとともに、沖側から岸側へ向けて平均流を引き起こさせることに特化することが可能な海水交換促進型消波堤を提供する。
【解決手段】沖側のカーテン壁2の吃水が岸側の不透過堤体3の底面よりも浅くなるようにして、カーテン壁2並びに不透過堤体3を互いに間隔を空けて配置し、カーテン壁2と不透過堤体3との間に遊水室10を形成し、不透過堤体3の底面と海底部との間に海水透過用の下部通水路6が形成されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長周期波が到来する海域における海水交換促進型消波堤に関し、特に重力式不透過堤の水底付近の一部に港内に通じるように通水路を設け、その沖側前面に遊水室を構築するようにカーテン壁を設けた構造体であり、低反射、低透過構造で波動運動により一方向流を形成する海水交換促進型防波堤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に港湾は、厳しい波浪環境下にある場合が多く、外郭施設の整備より、船舶の接岸や荷役業務に対して十分に安全なように港湾波浪の静穏化が求められる。しかし、湾内静穏度を求めるあまり、港内外の海水交流が抑止され、港湾域が閉鎖性海域になりがちであり、湾内に海水が入らず、港内の海水が汚れがちで、水質悪化が問題となっている。
【0003】
その対策として、従来より透過性防波堤の適用や海水交換促進型防波堤の開発も進められてきている。この海水交換促進型防波堤としては、1)堤体の一部に透水孔を設け、潮流や波浪流等の流れの疎通性を向上させるもの、2)越流工や弁などを設けて通水孔内の流向を制御するもの、3)別途に潜堤を設けるもの、等が知られている。
【0004】
前記の何れもできるだけ防波、消波機能を維持しながら、通水あるいは海水交換機能を持たせるような工夫がなされているが、波の遮蔽効果や反射波低減効果が充分でないものや、構造が複雑すぎる例などもみられる。特に、従来の構造体では、波動運動の卓越する水面付近に通水工を設けたものがほとんどで、潮位により海水交換機能が変動する等の欠点がある。
【0005】
例えば図16(a)に示す例では、海底に捨石工124を介して構築した基礎125に山形形状の消波用隆起部126を構築し、その側方にコンクリートの消波堤127を構築し、消波堤127の下部には前後方向に貫通して通水口128が形成されている。したがって、湾外(図16(a)の左側)から押し寄せる波は、消波用隆起部126を乗り越えることで第1段階の消波が行われ、次に消波堤127によって反射して湾外側に押し返されることで第2段階の消波がなされ、さらに、一部の海水は消波堤127の下部の通水口128を通って湾内側に出入して、港内外の海水交流が行われるように構成されている。
【0006】
図16(b)に示す例では、海底に捨石工124を介して構築した基礎125にコンクリートの消波堤127を構築し、消波堤127の上部には前後方向に貫通して通水口129が形成されている。したがって、湾外(図16(b)の左側)から押し寄せる波は、消波堤127によって反射して湾外側に押し返されることで消波がなされ、さらに、一部の海水は消波堤127の上部の通水口129を通って湾内側に出入して、港内外の海水交流が行われるように構成されている。
【0007】
図16(a)、(b)に示す海水交換型消波堤は、構造が簡単である反面、消波作用および港内外の海水交流の作用が不十分な構造であった。
【0008】
前記の既存技術を改良するものとして、本出願人に係る反射波低減構造物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この先行技術は、沖側が傾斜型の前面カーテン壁と、岸側が傾斜型の後面カーテン壁とを間隔をおいて配置するようにした異吃水式二重カーテン壁を備えた反射波低減構造物において、沖側の前面カーテン壁の吃水を岸側の後面カーテン壁の吃水よりも浅くすることにより、反射波を効果的に低減することを意図したものである。
【0009】
しかしながら、当該特許文献1の開示技術では、防波施設としての本来の機能である来襲波の遮断及び反射波の低減等を極力維持した上で、海水交換をより有効に行える構造とすることが困難である。
【0010】
このため、近年において特許文献2に示すような海水交換促進型消波堤が提案されている。この特許文献2に示す開示技術では、図17に示すように、沖側の前面カーテン壁102の吃水が岸側の後面カーテン壁103よりも浅くなるようにして、両カーテン壁102、103を間隔をあけて配置し、後面カーテン壁103の下端吃水部103aと海底部105との間に海水透過部106のための下部通水開口部106aを形成してなる。そして、当該技術では、下部通水開口部106aの上端に略一致する位置で、かつ、前後両カーテン壁102、103の間に没水平版108を配設している。この特許文献2の開示技術では、遊水室のピストンモード波浪共振を利用して、強い渦流を発生させ、渦流と水平版との干渉作用により、岸側から沖側に向けて平均流を引き起こす、いわゆる港内水排出型の海水交換防波堤である。
【0011】
しかしながら、この特許文献2の開示技術では、水平版が付加的に必要になるため、耐波設計や現地施工が複雑化しやすいという問題点があった。また、この特許文献2の開示技術では、あくまで岸側から沖側に向けて平均流を引き起こす、いわゆる港内水排出型である。このため、当該開示技術では、逆に沖側から岸側へ向けて平均流を引き起こすことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−154518号公報
【特許文献2】特開2004−270433号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】合田良実・鈴木康正・岸良安治・菊池治「不規則波実験における入・反射波の分離推定法」港湾技研資料,No.248,pp.3-24,(1976).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、耐波設計や現地施工をより簡略化させることにより開発から製造に至るまでの労力をより低減させるとともに、沖側から岸側へ向けて平均流を引き起こさせることに特化することが可能な海水交換促進型消波堤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1記載の海水交換促進型消波堤は、上述した課題を解決するために、沖側の前面カーテン壁の吃水が岸側の不透過堤体の底面よりも浅くなるようにして、上記前面カーテン壁並びに上記不透過堤体を互いに間隔を空けて配置し、上記カーテン壁と上記不透過堤体との間に遊水室を形成し、上記不透過堤体の底面と海底部との間に海水透過用の下部通水路が形成されてなることを特徴とする。
【0016】
請求項2記載の海水交換促進型消波堤は、上述した課題を解決するために、沖側の前面カーテン壁の吃水が、海底部から立設された岸側の不透過堤体に形成された貫通孔よりも浅くなるようにして、上記前面カーテン壁並びに上記不透過堤体を互いに間隔を空けて配置し、上記カーテン壁と上記不透過堤体との間に遊水室を形成してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上述した構成からなる本発明によれば、従来技術の如き水平版が不透過堤体の遊水室側において設けられていない構成としている。これにより、上述した渦に基づいて岸側へ向かう流れを形成する上で、当該水平版が障壁となることがなくなり、岸側への安定した平均流を引き起こさせることが可能となる。また、遊水室内における水位の上昇下降に伴っても岸側への流れを生じさせることができるが、かかるケースにおいても水平版が無いことから、これが障壁になることを防止することが可能となる。
【0018】
これに加えて、本発明では、不透過堤体について単なる板状で構成したものではなく、あくまで沖側の垂下壁から岸側の垂下壁に至るまである程度の厚みを持たせている。これにより、岸側の垂下壁の下端において渦が発生するのを防止することができ、また仮に当該垂下壁の下端において何らかの渦が発生した場合においても、これが上述した時計回りの渦や、反時計回りの渦との間で干渉してしまうのを防止することが可能となる。
【0019】
更に、本発明では、沖側のカーテン壁の吃水が、岸側の不透過堤体よりも浅くなるように調整されている。このため、岸側へ流入する透過波を抑え込むことが可能となる。ここでいう透過波とは、カーテン壁から不透過堤体における垂下壁に至るまでにおいて、下部通水路を介して伝達する波動運動のエネルギーの量である。この透過波の運動エネルギーは、水面から水深方向にほぼ1/2波長の範囲にわたり有意な大きさを有する。そして、この波動エネルギーが長周期(長波長)になるにつれて、沖側から岸側へ透過する波エネルギーは増加する。仮に、この不透過堤体3の代替として、板状の壁体で構成した場合には、透過波は非常に大きくなってしまい、防波堤としての機能を果たせなくなる。
【0020】
これに対して本発明では、下部通水路の長さを、透過波の波長と比較して長く設定することにより、透過波の低減効果をより発揮させることが可能となる。
【0021】
また、本発明では、耐波設計や現地施工をより簡略化させることにより開発から製造に至るまでの労力をより低減させるとともに、沖側から岸側へ向けて平均流を引き起こさせることに特化することが可能な海水交換促進型消波堤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用した海水交換促進型消波堤を示す図である。
【図2】押し波時における海水交換促進型消波堤の作用について説明するための図である。
【図3】引き波時における海水交換促進型消波堤の作用について説明するための図である。
【図4】沖側から岸側にかけて貫通孔を形成させた不透過堤体の例を示す図である。
【図5】(a)は、従来型の港内水排出式の海水交換防波堤を示す図であり、(b)は、本発明例を示す図である。
【図6】港内水排水式の堤体と海水導入式の堤体において海水交換量Q*の結果をL/B(波長堤体幅比)による変化で示した図である。
【図7】透過率のマウンドの有無並びに設置水深の差異に対する影響について説明するための図である。
【図8】海水交換量Qに及ぼすマウンドの有無などの影響を検討した結果を示す図である。
【図9】Lm/Bwと反射率Crとの関係について示す図である。
【図10】Lm/Bwと透過率Ctとの関係について説明するための図である。
【図11】Lm/Bwに対する海水交換量Q*の関係について説明するための図である。
【図12】Lm/Bwに対する反射率Cr及び透過率Ctの関係を示す図である。
【図13】図12のケースの場合における海水交換量Q*を示す図である。
【図14】反射率Cr及び透過率Ctを、周期を表すパラメータとしてL/md(波長・背後重量物幅比)による変化で示した図である。
【図15】カーテン壁の有無に対する海水交換量Q*の関係について説明するための図である。
【図16】従来の海水交換促進型消波堤を示す図である。
【図17】従来の海水交換促進型消波堤を示す他の図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1(a)は、本発明を適用した海水交換促進型消波堤1を示している。この海水交換促進型消波堤1は、下部透過型で、かつ異吃水2重カーテン式構造であり、沖側のカーテン壁2の吃水が、岸側の不透過堤体3よりも浅くなるように調整されている。即ち、カーテン壁2下端に位置する吃水下端部2aが不透過堤体3の底面3aよりも静水面4に近い位置になるように設けられている。また、これらカーテン壁2と不透過堤体3は、互いに間隔をあけて平行に配置されてなる。カーテン壁2と不透過堤体3の間には遊水室10が形成されている。ちなみに、この遊水室10内における静水面4は、外部に対して開放されていることが前提となる。また海底部5は、捨石を小高く盛り上げることにより形成した捨石マウンド7を含むものであってもよい。なお、吃水下端部2aと、海底部5との間には開口11が形成される。
【0025】
このような異吃水2重カーテン壁で構成されている海水交換促進型消波堤1において、不透過堤体3の吃水下端部3aと海底部5との間には、下部通水路6が形成されている。
【0026】
不透過堤体3は、岸側に面してなり、略鉛直下向きに垂下されてなる垂下壁3bは、カーテン壁2との間で略平行となるようにされている。この垂下壁3bにおいては、従来の特許文献2に開示されている水平版の如き構成は特に設けられていないことを前提としている。即ち、静水面4の下部において垂下された、遊水室10に面する垂下壁3bは、特段の構成が設けられることなくそのまま吃水下端部3aへとつながる構成となっている。換言すれば、カーテン壁2の吃水下端部3aから下部通水路6に至るまでの直線間には何ら障壁となるものが無いことが前提となる。
【0027】
また不透過堤体3は、岸側に面する垂下壁3cが形成されてなる。そして、この沖側の垂下壁3bから岸側の垂下壁3cに至るまである程度の厚みを持たせている。この厚みを持たせてなる。このため、下部通水路6はある程度の長さを持つものとして構成される。
【0028】
次に、上述した構成からなる海水交換促進型消波堤1の機能について説明をする。
【0029】
上述した構成からなる海水交換促進型消波堤1を、それぞれ沖側にカーテン壁2が、岸側に不透過堤体3が位置するようにして配設する。その結果、沖側からの波が最初にカーテン壁2に衝突することになり、図2に示すように、押し波時のモードが生まれ、後述する図3に示すように引き波時のモードが生まれる。押し波時ではカーテン壁2の沖側の面に波が遡上する。このとき、遊水室10内の水位はすぐには追随せず、作用波の周期Tの1/4程度の時間遅れの後に上昇を始めます。この遅れの時間は、作用波の周期に依存しており、遊水室10内の水塊のピストンモードの共振度合に依存する。
【0030】
図2(a)に示す押し波時では、遊水室10から吃水下端部2aの下部を通って沖側に水塊が流出する。その結果、遊水室10の水位が低下する。このとき、同時に不透過堤体3の下部に設けた下部通水路6においても、遊水室10内の水塊が岸側に向かって流出する。
【0031】
次に図2(b)に示すように、カーテン壁2の沖側の水位が更に上昇する。同時に、遊水室10内の水位が更に低下する。この遊水室10内の水位の低下に伴って、不透過堤体3の下部に設けられた下部通水路6を介して岸側に水塊が流出する。このとき、遊水室10内において、特に吃水下端部2aより下側の開口11において、時計回り渦が発生することになる。更にカーテン壁2の沖側の水位が最高位置に達すると、遊水室10内における水位は最低位置に到達することになる。そして、不透過堤体3の下部に設けられた下部通水路6を通って岸側へ水塊が流出していくことになる。そして、この吃水下端部2aにおいて発生した時計回り渦の大きさはピークに至る。
【0032】
次に、図3(a)に示すように、カーテン壁2の沖側の水位が低下しはじめる。このとき、遊水室10内の水位が上昇し始める。そして、カーテン壁2の吃水下端部2aの下側に位置する開口11では、沖側から岸側へ水塊が流入する。この流入に伴って、上述した時計回りの渦は、遊水室10の内側へと引き寄せられることになる。同時に、カーテン壁2の下端から流れが分離して、反時計回りの渦が新たに遊水室10内において形成されることになる。また、不透過堤体3の下部通水路6には、この反時計回りの渦に基づいて岸側へむかう流れが生成されることになる。
【0033】
次に図3(b)に示すように、カーテン壁2の沖側の水位が更に低下する。その結果、遊水室10内の水位が増加してほぼ最高水位に達することになる。この段階では、上述の時計回りの渦が消失することになるが、上述の反時計回りの渦は更に発達することになる。下部通水路6では、この発達した反時計回りの渦に基づいて、岸側へ向かう流れが着実に形成されることになる。
【0034】
次に図3(c)に示すように、カーテン壁2の沖側の水位が再度上昇し始める。同時に遊水室10内の水位が低下し始める。このとき、遊水室10内における反時計回りの渦はまだ残存しており、不透過堤体3の下部通水路6では、かかる反時計回りの渦によって岸側へ向かう流れが残存することになる。この図3(c)の状態の後に再び図2(a)の状態に戻り、これらが繰り返し実行されることになる。
【0035】
このようにして、押し波時と引き波時とが繰り返し実行されることになり、その間において、遊水室10内の水面の高さが周期的に変動することになる。即ち、遊水室10内においてピストンモード波動モードが生じ、押し波時と引き波時との間で水位変動による有意な位相差が生じることになる。またこれに加えて、時計回りの渦、反時計回りの渦が順次形成されることになり、これらが沖側から岸側へ向けて平均流を引き起こす上で寄与させることが可能となる。
【0036】
特に本発明を適用した海水交換促進型消波堤1は、従来技術の如き水平版が不透過堤体3の遊水室10側において設けられていない構成としている。これにより、上述した渦に基づいて岸側へ向かう流れを形成する上で、当該水平版が障壁となることがなくなり、岸側への安定した平均流を引き起こさせることが可能となる。また、遊水室10内における水位の上昇下降に伴っても岸側への流れを生じさせることができるが、かかるケースにおいても水平版が無いことから、これが障壁になることを防止することが可能となる。
【0037】
これに加えて、本発明を適用した海水交換促進型消波堤1は、不透過堤体3について単なる板状で構成したものではなく、あくまで沖側の垂下壁3bから岸側の垂下壁3cに至るまである程度の厚みを持たせている。これにより、岸側の垂下壁3cの下端において渦が発生するのを防止することができ、また仮に当該垂下壁3cの下端において何らかの渦が発生した場合においても、これが上述した時計回りの渦や、反時計回りの渦との間で干渉してしまうのを防止することが可能となる。即ち、垂下壁3bから垂下壁3cに至るまである程度の厚みを持たせていることにより、岸側へ向けた平均流を生じやすくすることが可能となる。
【0038】
更に、本発明を適用した海水交換促進型消波堤1は、沖側のカーテン壁2の吃水が、岸側の不透過堤体3よりも浅くなるように調整されている。このため、岸側へ流入する透過波を抑え込むことが可能となる。ここでいう透過波とは、カーテン壁2から不透過堤体3における垂下壁3cに至るまでにおいて、上記下部通水路6を介して伝達する波動運動のエネルギーの量である。この透過波の運動エネルギーは、水面から水深方向にほぼ1/2波長の範囲にわたり有意な大きさを有する。そして、この波動エネルギーが長周期(長波長)になるにつれて、沖側から岸側へ透過する波エネルギーは増加する。仮に、この不透過堤体3の代替として、板状の壁体で構成した場合には、透過波は非常に大きくなってしまい、防波堤としての機能を果たせなくなる。
【0039】
これに対して本発明では、下部通水路6の長さを、透過波の波長と比較して長く設定することにより、透過波の低減効果をより発揮させることが可能となる。
【0040】
本発明を適用した海水交換促進型消波堤1は、上述した実施の形態に限定されるものではない。図4は、この海水交換促進型消波堤1の他の実施形態を示している。この形態において上述した図1と同一の構成要素・部材に関しては、同一の符号を付すことにより、以下での説明を省略する。この形態では不透過堤体3を海底部5から間隔を開けて配設するのではなく、あくまで海底部5上に直接立設されてなる。そして、この不透過堤体3は、沖側から岸側にかけて貫通孔25が形成され、この貫通孔25を介して水塊が流出可能な構成とされている。カーテン壁2下端に位置する吃水下端部2aが貫通孔25の開口25aよりも静水面4に近い位置になるように設けられている。この貫通孔25は、下部通水路6と同様の役割を果たす。また、この図4に示す形態においても上述した図1の形態と同様の効果を奏することは勿論である。
【実施例1】
【0041】
以下、本発明を適用した海水交換促進型消波堤1の実施例について詳細に説明をする。海水交換促進型消波堤1の効果を確認するために、以下に説明する実験を行った。
【0042】
この実験では、長さ30m、幅1m、高さ1.25mの2次元水槽を用いた。この水槽の一端にはピストン型造波装置が、他端には再反射を防ぐために砕石およびヘチマロンよりなる消波工を設置してある。水路内には1/30勾配の不透過な斜面を設け、この背後には斜面に接続するように水平床を設置してある。後述する海水交換促進型消波堤1の模型堤体は、図5に示すようにこの水平床上に設置した。
【0043】
また平均流の発生により模型堤体の前後において水位差が生じないようにするため,消波工側および水平床の沖側の端部同士で回流できる水路構造としてある。具体的には,図中に示すように水槽幅0.5mの位置に,隔壁を設置して主水路と回流用水路を設け,平面的な循環流れを阻害しないように工夫した。
【0044】
図5(a)は、従来型の港内水排出式の海水交換防波堤50を示す。この従来型の海水交換防波堤50は、本発明でいうところのカーテン壁51、不透過堤体52を備え、さらにこの不透過堤体52には、遊水室55側において水平版53が突設されている。以下、この従来型の海水交換防波堤50の構成を比較例という。これに対して、図5(b)は、本発明を適用した海水交換防波堤1であり、水平版53に相当する構成は、特段配設されていない。以下、この図5(b)の構成を本発明例という。
【0045】
実験では表1に示す計9種類の諸元の堤体を用いた。これらは,大別すると従来型の海水交換防波堤50の構成(比較例)、本発明にかかる海水交換防波堤1の構成(本発明例)、同形式の堤体で捨石マウンド7のない構造(本発明例)、海水交換防波堤1から前面垂下版を取り除いた構造(本発明例)に分類される。本発明例に示す堤体では2種類の異なる設置水深hに対して,垂下版の吃水深d1を3種類に変化させ、hおよびd1の影響が重点的に検討できるようにしてある。このとき通水部高さtdは、従来方式のみ9cmとして残りは全て5cmに固定した。また,遊水室幅Bwは、全ての実験において25cmと固定した。想定した模型縮尺は全て1/20である。
【0046】
実験条件として、作用波は規則波のみとして、その周期Tは、0.8〜2.2秒の範囲内で13種類、入射波高は約10cmとした。採用した周期条件を波長・堤体幅比L/Bで示すと、これらは2.4〜7.1の範囲にある。
【0047】
計測方法として、本実験では6台の容量式波高計を設置した。具体的には、沖側における入射波の測定用に1台、入・反射波分離用に2台、模型堤体の背後の透過波測定用に1台、堤体真横の別の水路での入射波測定用に1台、遊水室内の波高測定に1台の計6台を使用した。
【0048】
ここで反射率は、合田ら(非特許文献1参照。)による入・反射波の分離推定法を用いて求めた。また通水部の流速は、鉛直断面内の2方向の流速が同時に測定可能な電磁流速計1台を用いて計測した。その設置状況は、図5に示す通りである。そして通水部を介しての輸送流量は,電磁流速計による時間平均流速に通水路高さを乗じて近似的に求めた。なお平均流速は、10波程度を目安にしてその時間平均値で代表させた。
【0049】
先ず、水平版53の有無の影響について検討した結果について説明をする。図6は港内水排水式の堤体と海水導入式の堤体において海水交換量Q*の結果をL/B(波長堤体幅比)による変化で示す。このとき海水交換量は、波一周期当りの輸送流量(単位幅当り)を、進行波による半周期間の移動水塊量HL/2πで除した無次元量Q*で示す。水平版のある比較例では長周期側で沖向き方向に有効な海水交換が行なわれているのに対して、水平版の無い本発明例では短周期側において岸向き方向に有効な海水交換がなされていることが分かる。これにより、水平板53有無により平均流の発生方向が逆転することが確認できる。水平版53があるとき、平均流が沖側へ向かうのは、遊水室55からのジェット流が水平版53下部の水塊をせん断作用により沖側へ輸送するためである。一方、水平版53を除去すると、上述したメカニズムに示すように、押し波時においてカーテン壁2の下端からの剥離流れおよび渦流が不透過堤体3の下部に設けた下部通水路6に直接的に作用する影響が強く現れるようになる、その結果、一周期間にわたる平均流としては岸側へ向かうようになることとなる。
【0050】
次に、捨石マウンド7の設置による影響について検討した結果について説明をする。ここでは、マウンド7を設置していない場合(CASE01)、マウンド7を設けた場合で,マウンド7上に本発明例の堤体および吃水条件を保持して、鉛直方向に平行移動した場合(CASE06)、マウンド7を設けた場合で,マウンド7上に本発明例の堤体および吃水条件を保持しつつ水深はCASE01と同様とした場合(CASE03)について検討を行った。なお、これら3種類の堤体において、通水部高さと垂下版の下の開口長の比td/bdを0.385に固定してある。
【0051】
図6,7は、これら堤体の反射率Cr及び透過率Ctをそれぞれ縦軸に示すものであり、横軸は、周期を表すパラメータとしてLo/Bw(沖波波長・遊水室幅比)による変化で表す。図中には、減衰波理論に基づく算定結果についても併せ示す。理論算定では,等価線形抵抗係数fcが必要になるが、従来の成果を参照してfc=0.2としている。
【0052】
図6に示すCrに着目すると,マウンド上の水深hmとマウンドのないときの設置水深hを同一にすると、両者間で比較的良い対応が見られることが分かる。この傾向は、算定結果でも認められ、カーテン壁2の吃水深d1が遊水室内の波浪共振の生起に強く関与していることによるものと考えられる。一方、マウンド7を設けたCASE06の場合のように、設置水深を一致させた場合では、反射率の極小値は短周期側に移行して全体的に反射率が低くなることが示されている。
【0053】
次に透過率は、図7に示すように、マウンド7の有無や設置水深の差異にそれほど有意に影響を受けず、比較的低い状況にあることが分かる。これは透過波の大小が,背後の矩形堤の波向き方向への長さや通水部高さにより大きく左右されることによるものと考えられる。
【0054】
図8は、海水交換量Qに及ぼすマウンドの有無などの影響を検討した結果を示す。いずれのケースにおいても岸向き方向へ平均流が発生することや交換量が最大になるのは、マウンド7の無い場合(CASE01)であり、次に大きいのはマウンド7上の水深を一致させた場合(CASE06)となっている。
【0055】
マウンド7を設けることにより、海水交換量が減少するのは、流況の観測結果によると、押し波時に通水部に流入する流速がマウンド7前面の斜面の存在やマウンド7上の砕石の影響により低下することが確認されている。但し、海水交換量Qは、進行波による半周期間の移動水塊量HL/2πで無次元化して0.2〜0.3程度と依然として有意な量といえる。
【0056】
次に、カーテン壁2の吃水深d1の影響について検討した結果を説明する。マウンド7があり設置水深が深い場合(h=57.2cm)を対象にして、前面垂下版の吃水深を各種に変化させてその影響を検討してみる。このときマウンド8上の水深hmは42cmに固定してある。また、サンプルとしては、CASE06〜CASE08を使用する。
【0057】
図9〜11に、それぞれ反射率、透過率、海水交換量について示す.図中では,周期に関する無次元量として、マウンド7上の水深hmに対応する波長Lmと遊水室幅Bwの比を横軸にとっている。
【0058】
図9に示す反射率Crに着目した場合、吃水深d1が深くなるにつれてCrが極小となるLm/Bwの値が順次に増加して長周期側に移行することが分かる。これは、吃水深に伴い振動水塊量が増加して,遊水室内のピストンモード波浪共振点が長周期側に移行するためである。算定結果でもほぼ同様の傾向が見られる。
【0059】
一方、透過率Ctは、図10に示すようにカーテン壁2の吃水深d1による差異が殆ど認められず、その絶対値は後方の不透過堤体3の長さとその下部に設けた通水路の高さに強く依存しているものと考えられる。図11は、海水交換量の比較を示すが、カーテン壁2の吃水深d1が浅くなると多少ながら減少する傾向が認められる。これは吃水深d1が浅くなると版下端部からの剥離流れや渦流が後方の矩形堤の下部に設けた通水路に直接的に影響する割合が減少することによるものと推測される。また、これらの傾向から、無次元海水交換量が極大になる周期条件は、反射率が極小を示す条件にほぼ対応することが示されており、海水交換量はピストンモード波浪共振と密接な関係を有することが分かる。
【0060】
図12は、前出の図9、10と比較して、水位を15cm(現地量で3m)低くした、いわゆる低潮位のときの反射率Cr及び透過率Ctについて示したものである。d1/hmは、図中に示すとおりである。周期を表すパラメータは、マウンド上の水深に対応する波長Lmと遊水室幅Bwの比Lm/Bwを用いている。Cr, Ctと比較した場合、水位の低下に伴ってカーテン壁2の吃水深d1が浅くなるため、反射率Crの極小値はさらにLm/Bwの小さな短周期側に移行することが認められる。一方、透過率Ctは、水位の低下に伴って多少ながら増加する傾向にあるが、それほど有意な増加量ではない。
【0061】
図13は、かかる場合の海水交換量を示すものであって、前出の図11の結果の低潮位版に相当する。この図に見られるように、水位が低下してカーテン壁2の吃水深d1が浅くなると、海水交換量はかなり低下することが分かる。また、最も浅い吃水深d1の条件では、岸側にも沖側にも水塊は輸送されない状況に到ることが分かる。これは上述したようにカーテン壁2の吃水深d1が浅くなると、引き波時に発生する渦の強度が増し、押し波時のそれと同程度のものとなり、一周期間の平均輸送流量が無くなるものによる。
【0062】
次に、不透過堤体3の波浪制御効果および海水交換量について検討を行った。このとき、マウンド7有りで、設置水深hは57.2cmの条件とした。カーテン壁2の有無に対する影響を調査した。
【0063】
図14は、このときの反射率Cr及び透過率Ctを、周期を表すパラメータとしてL/md(波長・背後重量物幅比)による変化で示す。図中には比較のため、カーテン壁2を設けた堤体(同じ設置水深で垂下版吃水深d1=33cm)の結果についても併せて示す。矩形堤のCrは、カーテン壁2有りの場合と比較して極度に増加することが分かる。これは、カーテン壁2が無いために不透過直立堤に近い構造となり、遊水室による波エネルギーの逸散現象が現れないことによる。一方、Ctに着目した場合、両堤体構造で殆ど差異が見られず、透過波が主に不透過堤体3の長さや下部通水路の高さに左右されることによるものと考えられる。
【0064】
図15は、海水交換量に関する比較を同様に示す。カーテン壁2を除去した場合に海水交換はほとんど行なわれず、カーテン壁2の下端から発生する渦が平均流の生成に大きく貢献していることが理解できる。
【符号の説明】
【0065】
1 海水交換促進型消波堤
2 カーテン壁
3 不透過堤体
4 静水面
5 海底部
6 下部通水路
7 捨石マウンド
10 遊水室
11 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沖側の前面カーテン壁の吃水が岸側の不透過堤体の底面よりも浅くなるようにして、上記前面カーテン壁並びに上記不透過堤体を互いに間隔を空けて配置し、
上記カーテン壁と上記不透過堤体との間に遊水室を形成し、
上記不透過堤体の底面と海底部との間に海水透過用の下部通水路が形成されてなること
を特徴とする海水交換促進型消波堤。
【請求項2】
沖側の前面カーテン壁の吃水が、海底部から立設された岸側の不透過堤体に形成された貫通孔よりも浅くなるようにして、上記前面カーテン壁並びに上記不透過堤体を互いに間隔を空けて配置し、
上記カーテン壁と上記不透過堤体との間に遊水室を形成してなること
を特徴とする海水交換促進型消波堤。
【請求項3】
上記不透過堤体は、上記遊水室に面する垂下壁が、特段の構成が設けられることなくそのまま吃水下端部へとつながる構成とされていること
を特徴とする請求項1又は2記載の海水交換促進型消波堤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−122314(P2011−122314A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279113(P2009−279113)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (発行所) 社団法人土木学会 (刊行物名)海洋開発論文集 Vol.25(2009)第753ページ〜第758ページ (発行日) 平成21年6月22日 (発行所) 社団法人土木学会 (刊行物名)海岸工学論文集 第56巻(2)第791ページ〜第795ページ (発行日) 平成21年10月30日
【出願人】(504221200)財団法人災害科学研究所 (3)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】