説明

海水淡水化システム

【課題】調整槽がなくても高圧ROポンプへ安定して海水を供給することが可能であり、かつ、システムの小型化及び水質劣化の抑制を図ることが可能な海水淡水化システムを提供する。
【解決手段】制御部115は、流量計13で計測された流量Q1を流量Q2+Q3に追従させるように、膜ろ過ポンプ12の回転数を制御する。また、制御部115は、流量計111で計測された流量Q2を目標値X1に追従させるように、高圧ROポンプ15の回転数を制御する。また、制御部115は、圧力計19で計測された圧力P2が下限値Pmin1から上限値Pmaxの範囲内で維持されるように、排水弁114の弁開度を制御する。また、制御部115は、圧力計17で計測された圧力P1が下限値Pmin2を超えるように、調整弁16の弁開度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、逆浸透膜を用いて、海水の淡水化を行う海水淡水化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
海水淡水化の方法としては、海水を蒸留して真水を得る蒸発法と呼ばれる方法と、逆浸透膜(以下、RO膜と称する)を用いて海水を高圧で濾過する膜法(以下、RO膜法と略記する)とが実用化されている。RO膜法では、高圧ROポンプにより昇圧された海水をRO膜に通すことにより、海水の脱塩を行う。RO膜法は、一般的に蒸発法と比較して淡水化コストが安い。そのため、現在では蒸発法に代わって普及が進みつつある(例えば、特許文献1参照)。
ところで、RO膜法による海水淡水化システムでは、海水をRO膜に通して脱塩する前に、取水した海水中の懸濁物質を除去するために前処理を行う。近年、この前処理には、精密ろ過膜(MF膜)及び限外ろ過膜(UF膜)等が用いられる(例えば、特許文献2及び3参照)。また、RO膜法による海水淡水化システムでは、前処理後の海水を調整槽で一旦保持する。調整槽は、RO膜への送水要求量が増加した場合、及び、前処理量が減少した場合等にも高圧ROポンプに対して前処理済みの海水を安定して供給するために設置されている。そして、高圧ROポンプは、調整槽からの海水を昇圧してRO膜へ送水する。しかしながら、この方法では、前処理した海水を一旦調整槽で保持しなければならず、調整槽内で微生物や塵などの懸濁物質が混入し、水質が劣化するおそれがあるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−206460号公報
【特許文献2】特開2009−172462号公報
【特許文献3】特開2008−100219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のように、従来の海水淡水化システムでは、調整槽を設置しなければならず、システムの大型化の要因となっていた。また、海水を調整槽で保持している間に、その水質が劣化するおそれがあった。
【0005】
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、調整槽がなくても高圧ROポンプへ安定して海水を供給することが可能であり、かつ、システムの小型化及び水質劣化の抑制を図ることが可能な海水淡水化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る海水淡水化システムは、取水槽に蓄積された海水を第1の制御信号に従った流量で出力する膜ろ過ポンプと、前記膜ろ過ポンプからの海水の流量Q1を計測する第1の流量計と、前記膜ろ過ポンプからの海水をろ過するろ過膜と、前記ろ過膜でろ過されたろ過水を第2の制御信号に従った流量で出力する高圧ポンプと、前記高圧ポンプからのろ過水の圧力P1を計測する第1の圧力計と、前記高圧ポンプからのろ過水を脱塩し淡水とする逆浸透膜と、前記逆浸透膜からの淡水の流量Q2を計測する第2の流量計と、前記逆浸透膜における脱塩により排出された高濃度塩水の流量Q3を計測する第3の流量計と、前記高濃度塩水を排水する排水弁であって、第3の制御信号に従って弁開度を変化させる排水弁と、前記流量Q1を流量Q2+Q3に追従させるように、前記膜ろ過ポンプに対して前記第1の制御信号を与える第1の流量制御と、前記流量Q2を予め設定された目標値に追従させるように、前記高圧ポンプに対して前記第2の制御信号を与える第2の流量制御と、前記圧力P1を予め設定された圧力範囲内に収めるように、前記排水弁に対して前記第3の制御信号を与える第3の流量制御を行う制御部とを具備する。
【0007】
上記構成による海水淡水化システムでは、第1、第2及び第3の流量計と、第1の圧力計とによる計測結果に基づいて、膜ろ過ポンプ、高圧ポンプ及び排水弁を制御するようにしている。これにより、システム内で要求される海水を安定して供給することが可能となる。つまり、海水淡水化システムは、従来のシステムにおける調整槽が無いにも関らず、前処理済みの海水を安定して供給することが可能となる。また、調整槽が無いため、微生物及び塵等の懸濁物質の混入を防ぐことが可能である。さらに、調整槽が不要であるため、調整槽からの海水から懸濁物質を除去する保安フィルタ及び海水を保安フィルタへ送水するための送水ポンプが不要となる。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、調整槽がなくても高圧ROポンプへ安定して海水を供給することが可能であり、かつ、システムの小型化及び水質劣化の抑制を図ることが可能な海水淡水化システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る海水淡水化システムの機能構成を示すブロック図である。
【図2】図1の制御部による制御を示す図である。
【図3】図1の膜ろ過ポンプから高圧ROポンプまでの構成例を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係わる海水淡水化システムの機能構成を示すブロック図である。
【図5】図4の制御部による制御を示す図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係わる海水淡水化システムの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明に係る海水淡水化システムの実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る海水淡水化システム10の機能構成を示すブロック図である。図1における海水淡水化システム10では、取水槽11に海水を取水する。
【0012】
膜ろ過ポンプ12は、取水槽11の海水を、流量計13を介してMF膜14へ送水する。このとき、膜ろ過ポンプ12から送水される海水の流量は、後述する制御部115からの制御信号1により制御される。流量計13は、MF膜14へ送水される海水の流量Q1を計測し、その計測結果を制御部115へ通知する。MF膜14は、膜ろ過ポンプ12からの海水をろ過し、海水中の懸濁物質を除去する。なお、本実施形態では、MF膜を使用しているが、UF膜であっても同様に実施可能である。
【0013】
MF膜14からの海水は、2つに分配され、一方が高圧ROポンプ15へ供給され、他方が調整弁16及び圧力計17を介して動力回収装置18へ供給される。調整弁16の弁開度は、制御部115からの制御信号2により制御される。圧力計17は、調整弁16からの海水の圧力P1を計測し、その計測結果を制御部115へ通知する。
【0014】
高圧ROポンプ15は、MF膜14からの海水を昇圧し、圧力計19を介してRO膜110へ送水する。RO膜110へ送水される海水の流量は、制御部115からの制御信号3により制御される。圧力計19は、高圧ROポンプ15からの海水の圧力P2を計測し、その計測結果を制御部115へ通知する。
【0015】
RO膜110は、供給された海水をろ過して脱塩する。この脱塩により取得された淡水は、流量計111を介して後段へ出力される。また、淡水取得時にRO膜110から排出された高濃度塩水は、流量計112を介して動力回収装置18へ出力される。流量計111は、RO膜110からの淡水の流量Q2を計測し、その計測結果を制御部115へ通知する。また、流量計112は、RO膜110からの高濃度塩水の流量Q3を計測し、その計測結果を制御部115へ出力する。
【0016】
動力回収装置18は、高濃度塩水に含まれる圧力エネルギーを利用してMF膜14からの海水を昇圧し、ブースターポンプ113へ出力する。動力回収装置18は、圧力エネルギーを回収した後の高濃度塩水を、排水弁114を介して排水する。排水弁114の弁開度は、制御部115からの制御信号4により制御される。
【0017】
ブースターポンプ113は、動力回収装置18からの海水を、高圧ROポンプ15からの海水と同程度の圧力まで昇圧する。そして、ブースターポンプ113は、昇圧後の海水を、高圧ROポンプ15からの海水に合流させてRO膜110へ送水する。
【0018】
制御部115は、膜ろ過ポンプ12による海水の供給量を制御する流量制御1と、高圧ROポンプ15による海水の供給量を制御する流量制御2と、排水弁114による高濃度塩水の排出量を制御する流量制御3と、動力回収装置18へ供給される海水の圧力を制御する圧力制御1とを行う。制御部115は、これらの制御をPID制御等を用いて実現する。
【0019】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る海水淡水化システム10の制御部115による制御を示す図である。
【0020】
制御部115は、流量計13からの流量Q1、流量計111からの流量Q2及び流量計112からの流量Q3を参照して流量制御1を行う。すなわち、制御部115は、RO膜110への送水量(Q2+Q3)を目標値とする。そして、制御部115は、送水量(Q2+Q3)に流量Q1を追従させるように、モータ回転数を調整させる旨の制御信号1を膜ろ過ポンプ12に対して出力する。これにより、RO膜110による脱塩処理に必要な流量を安定供給することが可能となる。
【0021】
また、制御部115には、流量Q2の所望の目標値X1が入力される。制御部115は、この目標値X1と、流量計111からの流量Q2とを参照して流量制御2を行う。すなわち、制御部115は、流量Q2を目標値X1に追従させるように、モータ回転数を調整させる旨の制御信号3を高圧ROポンプ15に対して出力する。これにより、所望の量の淡水を得ることが可能となる。
【0022】
また、制御部115には、圧力P2の上限値Pmax及び下限値Pmin1が入力される。ここで、上限値Pmax及び下限値Pmin1は、RO膜110を正常に動作させるのに適した圧力値である。制御部115は、上限値Pmax、下限値Pmin1、及び、圧力計19からの圧力P2を参照して、流量制御3を行う。すなわち、制御部115は、RO膜110の入口圧力P2を上限値Pmax及び下限値Pmin1の範囲内に収めるように、弁開度を調整させる旨の制御信号4を排水弁114に対して出力する。これにより、RO膜110の入力圧力P2を上下限値以内に保持することが可能となる。
【0023】
また、制御部115には、例えば圧力P1の下限値Pmin2が入力される。ここで、下限値Pmin2は、動力回収装置18で海水を昇圧する際に必要な圧力値である。制御部115は、この下限値Pmin2と、圧力計17からの圧力P1とを参照して、圧力制御1を行う。すなわち、制御部115は、圧力P1が予め設定した下限値Pmin2を下回らないように、弁開度を調整させる旨の制御信号2を調整弁16に対して出力する。例えば、制御信号2に従って調整弁16が開いた場合には、配管抵抗が軽減し、動力回収装置18への入力圧力P1が上昇することとなる。これにより、動力回収装置18の入力圧力P1を下限値以上に保持することが可能となる。
【0024】
次に、上記構成において流量制御2及び流量制御3を詳細に説明する。
【0025】
流量制御2では、RO膜110の入口圧力P2の計測値を考慮していないため、目標値X1の値によっては、入口圧力P2が上限値Pmax及び下限値Pmin1を外れる可能性がある。そこで、流量制御3は、入口圧力P2が上限値Pmax及び下限値Pmin1を外れた場合に作用する。
【0026】
例えば、制御部115に目標値X1>流量Q2の目標値X1が入力されたとする。制御部115は、制御信号3を高圧ROポンプ15へ出力することで、高圧ROポンプ15の回転数を上げ、流量Q2を目標値X1に追随させて増加させる。ここで、仮に入口圧力P2が上限値Pmaxを外れた場合、制御部115は、制御信号4を排水弁114へ出力することで排水弁114を絞り、高濃度塩水の流量Q3を減少させる。流量Q3の減少により、流量Q2がその分増加するように作用し、流量Q2が目標値X1を超える。制御部115は、流量Q2が目標値X1を超えると、制御信号3を高圧ROポンプ15へ出力し、高圧ROポンプ15の回転数を下げる。すると、入口圧力P2が低下し、その値が上限値Pmax及び下限値Pmin1の範囲内に収まることとなる。
【0027】
逆に、制御部115に目標値X1<流量Q2の目標値X1が入力されたとする。制御部115は、制御信号3を高圧ROポンプ15へ出力することで、高圧ROポンプ15の回転数を下げ、流量Q2を目標値X1に追随させて減少させる。ここで、仮に入口圧力P2が下限値Pmin1を外れた場合、制御部115は、制御信号4を排水弁114へ出力することで排水弁114を開き、高濃度塩水の排出量Q3を増加させる。流量Q3の増加により、流量Q2がその分減少するように作用し、流量Q2が目標値X1を下回る。制御部115は、流量Q2が目標値X1を下回ると、制御信号3を高圧ROポンプ15へ出力し、高圧ROポンプ15の回転数を上げる。すると、入口圧力P2が上昇し、その値が上限値Pmax及び下限値Pmin1の範囲内に収まることとなる。
【0028】
以上のように、上記第1の実施形態では、流量計13,111,112及び圧力計17,19での計測結果に基づいて、膜ろ過ポンプ12、高圧ROポンプ15、調整弁16及び排水弁114を制御するようにしている。これにより、海水淡水化システム10は、システム内で要求される海水を安定して供給することが可能となる。つまり、海水淡水化システムは、従来のシステムにおける調整槽が無いにも関らず、前処理済みの海水を安定して供給することが可能となる。また、調整槽が無いため、微生物及び塵等の懸濁物質の混入を防ぐことが可能である。さらに、調整槽が不要であるため、調整槽からの海水から懸濁物質を除去する保安フィルタ及び海水を保安フィルタへ送水するための送水ポンプが不要となる。
【0029】
したがって、本発明に係る海水淡水化システムによれば、調整槽がなくても高圧ROポンプへ安定して海水を供給することができる。また、前処理後の水質の劣化を抑えることができる。また、設置コスト、設置スペース、運用管理及びメンテナンスの効率が向上することとなる。
【0030】
なお、上記第1の実施形態では、海水を送水する送水配管の口径については何の記載もしていないが、システム内の送水配管の口径に差異を持たせることも可能である。図3は、本発明の第1の実施形態に係る海水淡水化システム10における膜ろ過ポンプ12から高圧ROポンプ15までの構成例を示す図である。
【0031】
図3において、海水淡水化システム10は、複数のMF膜が並列に接続されてなるMF膜ユニット116を具備する。そして、膜ろ過ポンプ12からMF膜ユニット116への送水配管と、MF膜ユニット116から高圧ROポンプ15への送水配管とは、通常よりも口径の太い管となっている。これらの送水配管は、ヘッダ管として作用する。
【0032】
このため、MF膜ユニット116におけるMF膜を洗浄するためにいずれかのMF膜を意図的に止めた場合であっても、主配管での急激な圧力変動を防ぐことが可能となる。また、何らかの異常等により、枝管の圧力が急変した場合においても、主配管での急激な圧力変動を防ぐことが可能となる。また、MF膜の停止時又は起動時における圧力変化に対して配慮する必要が少なくなるため、メンテナンスを容易に行うことが可能となる。
【0033】
[第2の実施形態]
図4は、本発明の第2の実施形態に係わる海水淡水化システム20の機能構成を示すブロック図である。図4において図1と共通する部分には同じ符号を付して示し、ここでは異なる部分についてのみ説明する。図4における海水淡水化システム20は、遮断弁117〜119及び監視部120をさらに具備する。
【0034】
遮断弁117は、MF膜14の排水経路に設置される。遮断弁117は、後述する制御部121からの指示信号1に従って、弁の開閉を行う。
【0035】
遮断弁118は、MF膜14から高圧ROポンプ15への送水配管のうち、調整弁16への分岐点の前段に設置される。遮断弁118は、制御部121からの指示信号2に従って、弁の開閉を行う。
【0036】
遮断弁119は、MF膜14から高圧ROポンプ15への送水配管から海水を排出する排水経路であって、遮断弁118と上述の分岐点との間に設置された排水経路に配置される。遮断弁119は、制御部121からの指示信号3に従って、弁の開閉を行う。
【0037】
監視部120は、MF膜14以前の前段構成機器Aにおける異常の発生を監視する。ここで、前段構成機器Aとは、例えば膜ろ過ポンプ12及びMF膜14等のことを指す。また、監視部120は、高圧ROポンプ15以降の後段構成機器Bにおける異常の発生を監視する。ここで、後段構成機器Bとは、例えば高圧ROポンプ15、動力回収装置18、RO膜110及びブースターポンプ113等のことを指す。そして、監視部120は、これらの監視結果を制御部121へ通知する。
【0038】
制御部121は、監視部120からの監視結果に基づいて、遮断弁117〜119の開閉制御を行う。図5は、本発明の第2の実施形態に係る海水淡水化システム20の制御部121による制御を示す図である。
【0039】
制御部121は、前段構成機器A及び後段構成機器Bに異常が発生していない場合、つまりシステムの正常時には、遮断弁117を閉じる旨の指示信号1、遮断弁118を開ける旨の指示信号2及び遮断弁119を閉じる旨の指示信号3をそれぞれ出力する。これにより、MF膜14からの海水は、高圧ROポンプ15及び調整弁16のみに出力される。
【0040】
また、制御部121は、前段構成機器Aが正常であり、かつ、後段構成機器Bに異常が発生した場合には、遮断弁117を開ける旨の指示信号1、遮断弁118を閉じる旨の指示信号2及び遮断弁119を閉じる旨の指示信号3をそれぞれ出力する。後段構成機器Bに異常が発生し、高圧ROポンプ15が停止した場合には、MF膜14からの送水が行き場を失い、管内が高圧となる。これにより、配管及び装置が破損する可能性がある。このとき、後段構成機器Bに異常が発生してから膜ろ過ポンプ12を停止させるまでの間、遮断弁117を開き、遮断弁118,119を閉じることで、MF膜14からの海水を一時的にドレインへ逃がすようにする。これにより、配管及び装置の破損を防ぐことが可能となる。
【0041】
また、制御部121は、前段構成機器Aに異常が発生し、かつ、後段構成機器Bが正常である場合には、遮断弁117を閉じる旨の指示信号1、遮断弁118を閉じる旨の指示信号2及び遮断弁119を開ける旨の指示信号3をそれぞれ出力する。前段構成機器Aに異常が発生した場合には、前段構成機器Aに異常が発生してから高圧ROポンプ15を停止させるまでの間に、高圧ROポンプ15へ十分な海水が送られなくなり、一時的に配管や装置が負圧になる。これにより、配管及び装置が破損する可能性がある。このとき、前段構成機器Aに異常が発生してから高圧ROポンプ15を停止させるまでの間、遮断弁119を開き、遮断弁117,118を閉じることで、配管内を大気開放状態とする。そして、システムのユーザは、配管に残る水を高圧ROポンプ15が吸引するまでの間に高圧ROポンプ15を停止する。これにより、配管及び装置の破損を防ぐことが可能となる。
【0042】
なお、制御部121は、上述した第1の実施形態における制御部115の機能をさらに備える。
【0043】
以上のように、上記第2の実施形態では、流量計13,111,112及び圧力計17,19での計測結果に基づいて、膜ろ過ポンプ12、高圧ROポンプ15、調整弁16及び排水弁114を制御することで、システム内で要求される海水を安定して供給することが可能となる。つまり、海水淡水化システムは、従来のシステムにおける調整槽が無いにも関らず、前処理済みの海水を安定して供給することが可能となる。また、調整槽が無いため、微生物及び塵等の懸濁物質の混入を防ぐことが可能である。さらに、調整槽が不要であるため、調整槽からの海水から懸濁物質を除去する保安フィルタ及び海水を保安フィルタへ送水するための送水ポンプが不要となる。
【0044】
また、上記第2の実施形態では、前段構成機器A及び後段構成機器Bにおける異常の発生情況に応じて、遮断弁117〜119の開閉を制御するようにしている。これにより、異常が発生した場合において、配管及び装置の破損を防ぐことが可能となる。
【0045】
したがって、本発明に係る海水淡水化システムによれば、調整槽がなくても高圧ROポンプへ安定して海水を供給することができ、かつ、システムの小型化及び水質劣化の抑制を図ることができる。さらに、システム内の構成機器に異常が発生した場合であっても、配管及び装置を保護することができる。
【0046】
[第3の実施形態]
図6は、本発明の第3の実施形態に係わる海水淡水化システム30の機能構成を示すブロック図である。図6における海水淡水化システム30では、取水槽11に海水を取水する。
【0047】
膜ろ過ポンプ12は、取水槽11の海水をMF膜14へ送水する。MF膜14は、膜ろ過ポンプ12からの海水をろ過し、海水中の懸濁物質を除去する。なお、本実施形態では、MF膜を使用しているが、UF膜であっても同様に実施可能である。
【0048】
MF膜14からの海水は、2つに分配され、一方が高圧ROポンプ15へ供給され、他方が調整弁16を介して動力回収装置18へ供給される。高圧ROポンプ15は、MF膜14からの海水を昇圧し、RO膜110へ送水する。
【0049】
RO膜110は、供給された海水をろ過して脱塩する。この脱塩により取得された淡水は、後段へ出力される。また、淡水取得時にRO膜110から排出された高濃度塩水は、動力回収装置18へ出力される。
【0050】
動力回収装置18は、高濃度塩水に含まれる圧力エネルギーを利用し、MF膜14からの海水を昇圧し、ブースターポンプ113へ出力する。また、動力回収装置18は、圧力エネルギーを回収した後の高濃度塩水を、排水弁114を介して排水する。ブースターポンプ113は、動力回収装置18からの海水を、高圧ROポンプ15からの海水と同程度の圧力まで昇圧する。そして、ブースターポンプ113は、昇圧した海水を、高圧ROポンプ15からの海水に合流させてRO膜110へ送水する。
【0051】
また、海水淡水化システム30は、遮断弁117〜119をさらに具備する。
【0052】
遮断弁117は、MF膜14の排水経路に設置される。遮断弁117は、後述する制御部122からの指示信号1に従って、弁の開閉を行う。
【0053】
遮断弁118は、MF膜14から高圧ROポンプ15への送水配管のうち、調整弁16への分岐点の前段に設置される。遮断弁118は、制御部122からの指示信号2に従って、弁の開閉を行う。
【0054】
遮断弁119は、MF膜14から高圧ROポンプ15への送水配管から海水を排出する排水経路であって、遮断弁118と上述の分岐点との間に設置された排水経路に配置される。遮断弁119は、制御部122からの指示信号3に従って、弁の開閉を行う。
【0055】
監視部120は、MF膜14以前の前段構成機器Aにおける異常の発生を監視する。ここで、前段構成機器Aとは、例えば膜ろ過ポンプ12及びMF膜14等のことを指す。また、監視部120は、高圧ROポンプ15以降の後段構成機器Bにおける異常の発生を監視する。ここで、後段構成機器Bとは、例えば高圧ROポンプ15、動力回収装置18、RO膜110及びブースターポンプ113等のことを指す。そして、監視部120は、これらの監視結果を制御部122へ通知する。
【0056】
制御部122は、監視部120からの監視結果に基づいて、遮断弁117〜119の開閉制御を行う。制御部122による遮断弁117〜119の開閉制御は、図5に示す第2の実施形態における制御部121による開閉制御と同様である。
【0057】
制御部122は、前段構成機器A及び後段構成機器Bに異常が発生していない場合、つまりシステムの正常時には、遮断弁117を閉じる旨の指示信号1、遮断弁118を開ける旨の指示信号2及び遮断弁119を閉じる旨の指示信号3をそれぞれ出力する。これにより、MF膜14からの濾過水は、高圧ROポンプ15及び調整弁16のみに出力される。
【0058】
また、制御部122は、前段構成機器Aが正常であり、かつ、後段構成機器Bに異常が発生した場合には、遮断弁117を開ける旨の指示信号1、遮断弁118を閉じる旨の指示信号2及び遮断弁119を閉じる旨の指示信号3をそれぞれ出力する。後段構成機器Bに異常が発生し、高圧ROポンプ15が停止した場合には、MF膜14からの送水が行き場を失い、管内が高圧となる。これにより、配管及び装置が破損する可能性がある。このとき、後段構成機器Bに異常が発生してから膜ろ過ポンプ12を停止させるまでの間、遮断弁117を開き、遮断弁118,119を閉じることで、MF膜14からの濾過水を一時的にドレインへ逃がすようにする。これにより、配管及び装置の破損を防ぐことが可能となる。
【0059】
また、制御部122は、前段構成機器Aに異常が発生し、かつ、後段構成機器Bが正常である場合には、遮断弁117を閉じる旨の指示信号1、遮断弁118を閉じる旨の指示信号2及び遮断弁119を開ける旨の指示信号3をそれぞれ出力する。前段構成機器Aに異常が発生した場合には、前段構成機器Aに異常が発生してから高圧ROポンプ15を停止させるまでの間に、高圧ROポンプ15へ十分な海水が送られなくなり、一時的に配管や装置が負圧になる。これにより、配管及び装置が破損する可能性がある。このとき、前段構成機器Aに異常が発生してから高圧ROポンプ15を停止させるまでの間、遮断弁119を開き、遮断弁117,118を閉じることで、配管内を大気開放状態とする。そして、システムのユーザは、配管に残る水を高圧ROポンプ15が吸引するまでの間に高圧ROポンプ15を停止する。これにより、配管及び装置の破損を防ぐことが可能となる。
【0060】
以上のように、上記第3の実施形態では、前段構成機器A及び後段構成機器Bにおける異常の発生情況に応じて、遮断弁117〜119の開閉を制御するようにしている。これにより、異常が発生した場合において、配管及び装置の破損を防ぐことが可能となる。
【0061】
しがたって、本発明に係る海水淡水化システムによれば、システム内の構成機器に異常が発生した場合であっても、配管及び装置を保護することができる。
【0062】
[その他の実施形態]
なお、この発明は上記各実施形態に限定されるものではない。例えば上記各実施形態では、海水淡水化システム10〜30が、動力回収装置18を具備する例について説明したが、これに限定される訳ではない。例えば、海水淡水化システム10〜30は、動力回収装置18を具備していない場合であっても、同様に実施可能である。
【0063】
さらに、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10,20,30…海水淡水化システム
11…取水槽
12…膜ろ過ポンプ
13,111,112…流量計
14…MF膜
15…高圧ROポンプ
16…調整弁
17,19…圧力計
18…動力回収装置
110…RO膜
113…ブースターポンプ
114…排水弁
115,121,122…制御部
116…MF膜ユニット
117,118,119…遮断弁
120…監視部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取水槽に蓄積された海水を第1の制御信号に従った流量で出力する膜ろ過ポンプと、
前記膜ろ過ポンプからの海水の流量Q1を計測する第1の流量計と、
前記膜ろ過ポンプからの海水をろ過するろ過膜と、
前記ろ過膜でろ過されたろ過水を第2の制御信号に従った流量で出力する高圧ポンプと、
前記高圧ポンプからのろ過水の圧力P1を計測する第1の圧力計と、
前記高圧ポンプからのろ過水を脱塩し淡水とする逆浸透膜と、
前記逆浸透膜からの淡水の流量Q2を計測する第2の流量計と、
前記逆浸透膜における脱塩により排出された高濃度塩水の流量Q3を計測する第3の流量計と、
前記高濃度塩水を排水する排水弁であって、第3の制御信号に従って弁開度を変化させる排水弁と、
前記流量Q1を流量Q2+Q3に追従させるように、前記膜ろ過ポンプに対して前記第1の制御信号を与える第1の流量制御と、前記流量Q2を予め設定された目標値に追従させるように、前記高圧ポンプに対して前記第2の制御信号を与える第2の流量制御と、前記圧力P1を予め設定された圧力範囲内に収めるように、前記排水弁に対して前記第3の制御信号を与える第3の流量制御を行う制御部と
を具備することを特徴とする海水淡水化システム。
【請求項2】
前記ろ過膜からのろ過水であって、前記高圧ポンプの前段で分岐されたろ過水を、前記高濃度塩水の動力を用いて、高圧化して出力する動力回収装置と、
前記ろ過膜から前記動力回収装置へ供給されるろ過水の圧力を調整する調整弁であって、第4の制御信号に従って弁開度を変化させる調整弁と、
前記動力回収装置へのろ過水の圧力P2を計測する第2の圧力計と
をさらに具備し、
前記制御部は、前記圧力P2が予め設定された下限圧力を超えるように、前記調整弁に対して前記第4の制御信号を与える圧力制御をさらに行うことを特徴とする請求項1記載の海水淡水化システム。
【請求項3】
前記ろ過膜からろ過水を排出する第1の排水経路に設置され、第1の指示信号に従って弁を開閉する第1の遮断弁と、
前記ろ過水を前記高圧ポンプへ送水する送水配管に設置され、第2の指示信号に従って弁を開閉する第2の遮断弁と、
前記送水配管からろ過水を排出する第2の排水経路であって、前記第2の遮断弁の後段に配置された第2の排水経路に設置され、第3の指示信号に従って弁を開閉する第3の遮断弁と、
前記ろ過膜以前の前段機器における異常の発生と、前記高圧ポンプ以降の後段機器における異常の発生を監視する監視部と
をさらに具備し、
前記制御部は、システムが正常である場合、前記第2の遮断弁を開くように前記第2の指示信号を出力し、前記第1及び第3の遮断弁を閉じるように前記第1及び第3の指示信号を出力する第1の開閉制御と、前記前段機器が正常であり、かつ、前記後段機器に異常が発生した場合、前記第1の遮断弁を開くように前記第1の指示信号を出力し、前記第2及び第3の遮断弁を閉じるように前記第2及び第3の指示信号を出力する第2の開閉制御と、前記前段機器に異常が発生し、かつ、前記後段機器が正常である場合、前記第3の遮断弁を開くように前記第3の指示信号を出力し、前記第1及び第2の遮断弁を閉じるように前記第1及び第2の指示信号を出力する第3の開閉制御とをさらに行うことを特徴とする請求項1記載の海水淡水化システム。
【請求項4】
前記ろ過膜からろ過水を排出する第1の排水経路に設置され、第1の指示信号に従って弁を開閉する第1の遮断弁と、
前記ろ過水を前記高圧ポンプへ送水する送水配管のうち、前記分岐の前段に設置され、第2の指示信号に従って弁を開閉する第2の遮断弁と、
前記送水配管からろ過水を排出する第2の排水経路であって、前記第2の遮断弁と前記分岐との間に配置された第2の排水経路に設置され、第3の指示信号に従って弁を開閉する第3の遮断弁と、
前記ろ過膜以前の前段機器における異常の発生と、前記高圧ポンプ以降の後段機器における異常の発生を監視する監視部と
をさらに具備し、
前記制御部は、システムが正常である場合、前記第2の遮断弁を開くように前記第2の指示信号を出力し、前記第1及び第3の遮断弁を閉じるように前記第1及び第3の指示信号を出力する第1の開閉制御と、前記前段機器が正常であり、かつ、前記後段機器に異常が発生した場合、前記第1の遮断弁を開くように前記第1の指示信号を出力し、前記第2及び第3の遮断弁を閉じるように前記第2及び第3の指示信号を出力する第2の開閉制御と、前記前段機器に異常が発生し、かつ、前記後段機器が正常である場合、前記第3の遮断弁を開くように前記第3の指示信号を出力し、前記第1及び第2の遮断弁を閉じるように前記第1及び第2の指示信号を出力する第3の開閉制御とをさらに行うことを特徴とする請求項2記載の海水淡水化システム。
【請求項5】
前記膜ろ過ポンプから前記ろ過膜までの送水配管、及び、前記ろ過膜から前記高圧ポンプまでの送水配管は、通常の送水配管よりも口径が大きいことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の海水淡水化システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−189253(P2011−189253A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56376(P2010−56376)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】