説明

海水淡水化装置

【課題】太陽光により海水を効果的に加熱して、大量の蒸気を得ることができる海水淡水化装置を提供する。
【解決手段】太陽光Lにより加熱容器2内の合成油Hを加熱し、加熱された合成油Hを加熱部14まで循環し、加熱部14により蒸気発生部16内の海水Aを加熱するため、海水Aを効果的に加熱することができ、大量の蒸気Bを得ることができる。また、合成油Hを循環する加熱部14は地上に設置されているため、蒸気発生部16及びコンデンサ19も低い位置で済み、海水Aの引き回しが容易になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽エネルギーを利用した海水淡水化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海水を淡水化する方法として蒸発法が知られている。従来は、蒸発用の熱源として、重油を燃焼させたボイラーを用いていたが、燃料コストが高いことと、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を大量に排出するため、近年では太陽エネルギーを利用した海水淡水化装置の提案がされている。
【0003】
この種の海水淡水化装置としては、透明な蒸発タンクの内部に海水を貯留し、海水の上部には中空部を形成し、その中空部内に保持した芯棒に太陽光を集光させる構造になっている。太陽光はミラーで反射して芯棒に当て、太陽光により加熱された芯棒が中空部の空気を温めることにより、海水表面からの蒸発が促進される構造になっている。海水表面からの水蒸気は冷却されて淡水となり、貯水タンクに溜められる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−86907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の技術にあっては、太陽光により芯棒を加熱し、加熱した芯棒により空気を温め、その温めた空気を介して、海水表面からの蒸発を促進させる構造のため、得られる蒸気量が十分でない。
【0006】
本発明は、このような従来の技術に着目してなされたものであり、太陽光により海水を効果的に加熱して、大量の蒸気を得ることができる海水淡水化装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、所定の高さに設置されて加熱液体を保持した加熱容器と、加熱容器の周辺の地上に設置されて太陽光を加熱容器の少なくとも底面に向けて反射させる複数のヘリオスタットと、地上に近い位置で加熱容器からの加熱液体が循環される加熱部と、加熱部の熱より海水を加熱して蒸気を発生させる蒸気発生部と、冷却液体が循環されて前記蒸気発生部からの蒸気を凝縮させるコンデンサと、コンデンサで凝縮された淡水を溜める淡水タンクと、から成ることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、加熱液体が耐熱性に優れた合成油であることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、冷却液体が海から循環された海水であることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、冷却液体が冷水循環機から循環された冷水であることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、コンデンサを通過した海水を蒸気発生部に注入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、太陽光により加熱容器内の加熱液体を加熱し、加熱された加熱液体を加熱部まで循環し、加熱部により海水を加熱するため、空気を介して加熱する場合に比べて、海水を効果的に加熱することができ、大量の蒸気を得ることができる。大量の蒸気が発生すれば、それを冷却させて大量の淡水を得ることができる。また、加熱液体を循環する加熱部は任意の位置に設定可能なため、海水を加熱するのに便利な位置に加熱部を設定することで、海水の引き回しが容易になる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、加熱液体が耐熱性に優れた合成油であるため、加熱部への循環が円滑である。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、海から循環された冷たい海水を冷却液体として利用するため、蒸気を凝縮させためのエネルギーが少なくて済む。
【0015】
請求項4記載の発明によれば、冷水循環機から循環された冷水を冷却液体として利用するため、蒸気を効果的に凝縮させることができ、海水を冷却液体として利用する場合に比べて、同じ蒸気量でも、より大量の淡水を得ることができる。
【0016】
請求項5記載の発明によれば、コンデンサを通過した海水を蒸気発生部に注入するため、注入される海水の温度が蒸気との熱交換によりある程度高くなっており、海水淡水化装置全体の熱効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る海水淡水化装置を示す概略図。
【図2】海水淡水化装置を示す平面図。
【図3】ヘリオスタットを示す斜視図。
【図4】本発明の第2実施形態に係る海水淡水化装置を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
図1〜図3は、本発明の第1実施形態を示す図である。この実施形態に係る海水淡水化装置の中心には、所定高さ(約10m)を有する4本のタワー1が立設されている。そのタワー1の上部には、金属製の加熱容器2が設置されている。
【0019】
加熱容器2は基本的に角型中空構造で、底面3は内側へ凸の湾曲面になっている。尚、底面3は平面でも、外側に凸の湾曲面でも良い。底面3には耐熱性の黒色塗装が施されている。
【0020】
加熱容器2の周囲の地上には、太陽Sを追尾しながら、太陽光Lを常に加熱容器2の底面3に向けて反射するヘリオスタット4が複数設置されている。ヘリオスタット4は、図2に示すように、加熱容器2の南側を除き、加熱容器2を中心にした放射状に複数設置されている。
【0021】
個々のヘリオスタット4は、図3に示すように、ベース部5に立設された支柱6の頂部に反射ミラー7を備えた構造になっている。反射ミラー7は多数の小ミラーから構成され、全体として凹面形状になっている。従って、ほぼ平行光である太陽光Lは反射ミラー7で反射されることにより、ターゲット(底面3)に向けて集光する太陽光Lとなる。反射ミラー7は支柱6の頂部に対して高度方向及び方位方向で回転自在になっている。反射ミラー7は、太陽Sを追尾して、太陽光Lの移動角度の概ね1/2ずつ回転して、常に太陽光Lを同じ方向へ反射し続ける。このような反射ミラー7の制御は、光センサーによるフィードバック方式で行っても良いし、コンピュータ制御方式で行っても良い。
【0022】
加熱容器2の内部には加熱媒体としての合成油Hが保持されている。合成油Hは約400度程度まで粘性が変化しない耐熱性を有する液体の媒体である。この加熱容器2内の合成油Hは、出側と入側の2本の循環パイプ40、41を介し、一方に設けられたポンプ42により、地上に設置された加熱部14へ循環される。加熱部14は角形扁平容器形状で、ある程度の広さを有している。
【0023】
加熱部14の上には、隣接した状態で、蒸発面積を確保するために、加熱部14と同じ広さを有する蒸気発生部16が形成されている。蒸気発生部16は基本的に密閉された箱形状で、内部には海水Aが保持されている。蒸気発生部16には、注入管8と、排水管9があり、どちらにもバルブ10、11が設けられている。排水管9側のバルブ11は常時閉で、海水Aがバルブ11に達したときにバルブ11の高さまで海水Aを強制排出するようになっている。
【0024】
排水側のバルブ11の上部には塩分センサー12が設けられている。この塩分センサー12は海水Aの表面に浮かべる「浮き方式」で、海水Aの塩分濃度により、海水Aの表面における位置が浮力により変化するため、浮かんでいる位置が高い場合には、浮力大(塩分濃度大)と判断して、注入側のバルブ10に信号を出力して注入管8から海水Aを強制的に加熱容器2内に注入する。
【0025】
蒸気発生部16の内部の海水Aの上部には空間部13が形成されている。この空間部13は海水Aの水分が蒸発した蒸気Bが溜まる空間である。
【0026】
この空間部13内に蛇行管形状のコンデンサ19が、ほぼ空間部13の広さの範囲内にわたって縦横に形成されている。コンデンサ19の下側には、蒸気Bの導入口43を残した状態で、淡水Cを貯留する受け皿状の淡水タンク15が形成されている。淡水タンク15の底面は傾斜しており、その低い位置に開閉自在な取水口44が形成されている。
【0027】
空間部13の導入口43とは反対側の壁部には、排気管17が形成されている。排気管17の先端にはファン18が設けられ、空間部13内のエアーを外部へ排出するようになっている。
【0028】
そして、コンデンサ19の一端には導入管20が接続され、他端には排出管21が接続されている。導入管20の先端は海22の中に設置され、ポンプ23により、フィルター24を介して海水Aを前記コンデンサ19内に導入することができる。排出管21も先端が海22側に突出しており、コンデンサ19を通過した海水Aを海22へ戻すことができる。
【0029】
排出管21の途中には合流管25が設けられ、前記蒸気発生部16の排水管9が接続され、蒸気発生部16から強制排出された塩分濃度の高い海水aを、コンデンサ19を通過した海水Aと共に海22へ戻すことができる。
【0030】
更に、蒸気発生部16へ海水Aを注入する注入管8の反対側の端部は、排出管21の合流管25よりも手前位置に接続されている。従って、蒸気発生部16に注入される海水Aはコンデンサ19を通過したものである。
【0031】
尚、加熱部14や蒸気発生部16等は、図1及び図2では、加熱容器2の南側の近い位置に設置されているように図示されているが、実際には、ヘリオスタット4への太陽光Lの入光を邪魔しないように、ある程度、南側の離れた位置に設置されている。従って、循環パイプ40、41も、図示の状態よりは長く形成されている。
【0032】
次に、この実施形態の作用を説明する。
【0033】
導入管20からコンデンサ19内に海水Aを導入して循環させる。コンデンサ19を通過した海水Aは排出管21から連続的に海22に戻され、コンデンサ19内は常に冷たい海水Aで満された状態となる。
【0034】
コンデンサ19を通過して、排出管21内を流れる海水Aの一部を注入管8を介して蒸気発生部16内に導入する。最初は、海水Aを排出側のバルブ11の位置まで導入する。
【0035】
次いで、加熱容器2と加熱部14には両者間を循環した状態で合成油Hが保持されているため、ヘリオスタット4にて太陽光Lを加熱容器2の底面3に向けて集光する。ヘリオスタット4からの太陽光Lは、底面3に均等に当たるように分散される。底面3の一部が部分的に高温になるよりも、底面3の全体が高温になった方が熱効率が良いためである。底面3が湾曲しているため、底面3と太陽光Lとの角度が大きくなり、底面3にて太陽光Lが確実に吸収される。また、底面3に黒色塗装を施していることも、太陽光Lの吸収を良くしている。このように、太陽光Lは加熱容器2の底面3において効率良く熱に変換される。
【0036】
底面3が高温になるため、底面3に接している合成油Hも加熱され、加熱容器2内及び加熱部14内の全ての合成油Hが高温になる。合成油Hは高温(400度程度)になっても粘性が変化しないため、加熱容器2から加熱部14への循環が円滑である。
【0037】
合成油Hが高温になると、加熱部14に接している蒸気発生部16内の海水Aが底面から加熱されることになる。加熱部14の温度が高い場合には、海水Aが沸騰して、海水Aの表面だけでなく、海水Aの全体から蒸気Bが発生する。蒸気発生部16の底面を加熱するため、対流により海水A全体に熱が伝わりやすく、大量の蒸気Bを発生させることができる。
【0038】
また、蒸気発生部16の空間部13が排気管17のファン18により吸引されているため、空間部13の気圧が大気圧よりも若干低くなっている。そのため、蒸気発生部16内の海水Aの水分が蒸発しやすい状態になっている。
【0039】
発生した蒸気Bは導入口43からコンデンサ19側に導かれる。前述のように、導入口43の反対側から排気管17のファン18により吸引されているため、導入口43からコンデンサ19側へ向けての蒸気Bの移動は促進される。
【0040】
蒸気Bはコンデンサ19に接することにより、そこで熱交換されて凝縮され、淡水(蒸留水)Cとなる。コンデンサ19との接触により凝縮された淡水Cは、そのまま淡水タンク15内に落下して貯留される。
【0041】
蒸気発生部16内の海水Aは水分を蒸発させることにより、塩分濃度が上昇するが、予め設定された濃度より濃くなった場合には、塩分センサー12が検知して、注入管8のバルブ10を開き、排出管21からコンデンサ19を通過しただけの新鮮な海水Aを蒸気発生部16内に注入する。蒸気発生部16に注入される海水Aは、コンデンサ19内で蒸気Bと熱交換することにより比較的温かくなっているため、蒸気発生部16内に導入された後も少ない熱エネルギーで蒸発させることができ、熱効率が良い。
【0042】
蒸気発生部16内への新鮮な海水Aの導入は、蒸気発生部16内の海水Aの塩分濃度が所定濃度に達するまで行われる。その過程で、排出側のバルブ11の高さよりもオーバーフローする高濃度の海水aはバルブ11により排水管9から強制排出される。強制排出された高濃度の海水aは、排水管9から合流管25を介して排出管21に合流し、コンデンサ19を通過した海水Aと一緒に海22に戻される。
【0043】
以上説明したように、この実施形態によれば、太陽光Lにより加熱容器2内の合成油Hを加熱し、加熱された合成油Hを加熱部14まで循環し、加熱部14により蒸気発生部16内の海水Aを加熱するため、海水Aを効果的に加熱することができ、大量の蒸気Bを得ることができる。大量の蒸気Bが発生すれば、それを冷却させて大量の淡水Cを得ることができる。また、合成油Hを循環する加熱部14は地上に設置されているため、蒸気発生部16及びコンデンサ19も低い位置で済み、海水Aの引き回しが容易になる。
【0044】
また、蒸気Bを発生させるための熱エネルギーは太陽光Lから得て、蒸気Bを凝縮するための冷却エネルギーは、海22からの海水Aから得るため、ほとんど自然エネルギーで賄うことができる。化石燃料に起因したエネルギーの使用は、ポンプ23、42やファン18等で使用する電力など、ほんの僅かで済む。
【0045】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態を示す図である。本実施形態は、前記第1実施形態と同様の構成要素を備えている。よって、それら同様の構成要素については共通の符号を付すとともに、重複する説明を省略する。
【0046】
この実施形態では、蒸気発生部16の注入管26には、海22からの海水Aが直接注入できるようになっている。また、排水管27からの高濃度の海水aも直接海22に戻せるようになっている。
【0047】
コンデンサ28の導入管29と排出管30は、地上に設置された冷水循環機31に接続されている。冷水循環機31は、内部に冷凍機を備え、冷水Dを循環することができる。従って、コンデンサ28の内部は常に冷水Dが循環された状態となっている。冷水Dは冷却された淡水でもよいし、不凍液のような液体でも良い。
【0048】
冷水循環機31で使用する電力は、別途設置された太陽電池パネル32により供給される。太陽電池パネル32は複数設置され、太陽光Lを受光することにより、冷水循環機31に必要は電力を発生することができる。
【0049】
この実施形態によれば、冷水循環機31から循環された冷水Dを冷却液体として利用するため、蒸気Bを効果的に凝縮させることができる。すなわち、海水Aを冷却液体として利用する場合に比べて、同じ蒸気量でも、より大量の淡水Cを得ることができる。また、その冷水循環機31用の電力を太陽電池パネル32により供給すれば、自然エネルギーだけで淡水Cを製造することができる。
【0050】
以上の各実施形態では、蛇行管状のコンデンサ19に蒸気Bを接触させる構造を例いしたが、コンデンサ19の形状はこれに限定されず、蒸気Bの方を管に通し、その周囲にジャケット状のコンデンサを形成しても良い。
【符号の説明】
【0051】
2 加熱容器
3 底面
4 ヘリオスタット
13 空間部
14 加熱部
15 淡水タンク
16 蒸気発生部
19、28 コンデンサ
31 冷水循環機
32 太陽電池パネル
A 海水
a 濃縮された海水
B 蒸気
C 淡水
D 冷水
H 合成油(加熱液体)
L 太陽光
S 太陽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上から所定の高さに設置されて加熱液体を保持した加熱容器と、
加熱容器の周辺の地上に設置されて太陽光を加熱容器の少なくとも底面に向けて反射させる複数のヘリオスタットと、
地上に近い位置で加熱容器からの加熱液体が循環される加熱部と、
加熱部の熱より海水を加熱して蒸気を発生させる蒸気発生部と、
冷却液体が循環されて前記蒸気発生部からの蒸気を凝縮させるコンデンサと、
コンデンサで凝縮された淡水を溜める淡水タンクと、から成ることを特徴とする海水淡水化装置。
【請求項2】
加熱液体が耐熱性に優れた合成油であることを特徴とする請求項1記載の海水淡水化装置。
【請求項3】
冷却液体が海から循環された海水であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の海水淡水化装置。
【請求項4】
冷却液体が冷水循環機から循環された冷水であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の海水淡水化装置。
【請求項5】
コンデンサを通過した海水を蒸気発生部に注入することを特徴とする請求項3記載の海水淡水化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−269212(P2010−269212A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120781(P2009−120781)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(390013033)三鷹光器株式会社 (114)
【Fターム(参考)】